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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1197 ガス封じ込め作戦

「ガス状の何かか……うむ、おそらくだがそれは『神の屁』だな、いや、きっと間違いない」


「食事中に何言ってんのよあんたっ!? 殺されたいわけっ?」


「いやそれが事実なのだしその……すいませんっした……しかし神の屁か……だとするとそれは我が神の放った屁……じゃなくて監視であるということは考えにくいな」


「どういうことでしょうか? どうしてその、監視者が何というかアレな存在であった場合に、死神という神の遣いではないと考えるんですか?」


「いや、我が神は魔界の女神であって、結構可愛い系のほら、そういう感じの神であるから、絶対に屁をこくことなどないし、もちろん『大』もしないのだ」


「なるほど、それは一理あるわね……」


「何言ってんだお前等?」



 美女であろうが美少女であろうが、屁ぐらいはこくものだという俺の認識は誤りなのであろうか、まぁ、この世界においてはそうなのかも知れないし、皆の誇張にすぎないのかも知れない。


 で、そのどうしようもない仮説を根拠として、俺達があの書状を取り出す度に監視の視線を向けてくる何者かが、このエリアのボスである死神の遣いではないということが確定してしまいそうな状況だ。


 果たして本当にそれで良いのか、地味に疑問なのだが……そういう流れである以上はそうであるとの仮説に基づいて行動するしかなさそうである。


 念のため、俺だけでも別の可能性を頭の片隅に留めてくべきではあろうが、とにかく皆の考え通り、『死神ではない誰か』が監視を放っているということで話を進めることとなった。


 ということでこれからどうするのか、どのようにしてそのガス状の何かである『神の屁』とやらを捕獲すべきなのかについてだが、これについてはさらなる検討が必要になりそうだ……



「……う~ん、ガス状の何かってことは……袋とかに入れたらどうかしらね? 口を閉じて逃げ出せないように」


「それをする前にぶわっとどこかへ飛んで逃げてしまいそうですよ、特に今は冬ですし、ビュービュー吹いている風に乗られたらもう一発でアウトです」


「そうですわね、こちらから姿が見えていない以上どうしようもないというか……感覚とかでその居場所をキャッチすることもちょっと出来そうにないですし……臭い……とかはどうですの?」


「イヤよそんなの、ねぇカレンちゃん、臭っさいオナラなんか嗅ぎたくないもんねっ」


「わうっ、さすがにちょっと『嗅いでどこに居るか探す』ってのはイヤです、だってオナラが鼻に入っているってことですよね? 誰か知らない人の」


「確かに、それはちょっとさすがにアレよね……他の方法を考えましょ」



 いつもは嗅覚を頼りに色々と活躍するカレンと、メインは音だが鼻の方もかなり利くマーサのコンビは今回提案された作戦を拒否した。


 良く考えれば当たり前のことなのであるが、どう考えても『誰かの屁を積極的に嗅ぎにいく』などということをしたいはずがないし、させられるのは究極の苦痛だ。


 それゆえ他の作戦を、ということになったのだが、袋作戦が上手くいきそうもないことを考えると、現時点ではなかなか妙案が出ないであろうといったところ。


 こうなればもう、比較的大掛かりな仕掛けで敵を追い詰める他ないのであるが、そのためには町の魔界人間も巻き込んだ、かなりの被害を伴う大作戦になってしまうことは明らか。


 例えばセラの風魔法で空気の壁を複数枚作り、それを隙間なく圧縮して行く方法で範囲を狭め、実質的にそのガス状の何かを狭い空間に閉じ込めてしまうという方法。


 これをすれば、その圧縮する範囲にたまたま滞在していただけの魔界人間が、それこそ『ギュッと』なって大変なことになるのは間違いない。


 口から臓物が飛び出し、目玉も飛び出して阿鼻叫喚の地獄となった町のどこかで、ようやく捕まえることが出来るのは敵そのものではなく敵が放った単なる監視者。


 コレでは少しコストパフォーマンスがアレな気もするのだが、逆に考えればもし、この作戦で魔界人間及び町に対する被害を軽減することが出来るのであれば、ということにもなる。


 というわけでその先は、このセラの風魔法を用いた作戦を決行することを前提に、その場所のチョイスなど、安全かつ確実にやっていける方法を考えるための会議となった。


 食事は片付けも終え、鬱陶しいゴミ守護堕天使にはとっとと帰って貰い、あとは俺達だけ、もちろん話し合いに興味があるメンバーだけで続きをする……



「どこか広い場所、広くて誰も居ないような場所があればベストですよね? 例えば公園とか、あとお金持ちの邸宅とか」


「……金持ちの邸宅か……ちなみにミラ、その金持ちのいけ好かないゴミ野朗は『そこに居る人間』にカウントするのか?」


「もちろんしませんよそんなの、こんな感じの魔界エリアで富を独占している人なんて、どうせ悪い人に決まっていますから、死のうが潰れようが消滅しようが構いません」


「となると、むしろ一般の魔界人間が使用しているような公園よりも、金持ちの邸宅、その広い屋敷と庭を作戦の実施場所とするのが妥当か……というかそれしかなさそうな感じだと私は思うぞ、どうだ?」


「じゃあ、もう面倒臭せぇしそれでいこうぜ、もし失敗してもそういう輩の命と財産が失われるだけのことだからな、この魔界エリアにとってむしろプラスに作用するかも知れないし、やっておくべきであろうよ」


「あと、監視者を呼び出す、というか出現させるためにはあの書状の提示をする相手が必要ですのよ、となるとやはり悪い奴が1人は必要ですわ」


「それもそうよね、そしたら早速『やる場所』の選定に入りましょ、この町のマップは……なかなか広いみたいね、郊外の方にしか大きいお屋敷がないわ」


「なかなかダルいなそこまで行くの……と、ここにほら、ちょっとデカい屋敷見たいなのがあるじゃねぇか、誰の家かは知らんがそこそこの中心街だぞ」


「ホントね……ちょっと行ってみないと、本当にお屋敷かどうかもわからないし、明日の朝ぐらいに下見をして、それでそうだってなったら乗り込みましょ」


『うぇ~いっ!』



 町の中心部近くにドーンッとある巨大な邸宅のようなもの、マップで確認しただけであるから本当にそれがそうなのかはわからないが、少なくとも庭と、巨大な建物の図がそのマップには掲載されていた。


 ちなみにこれは庁舎の中にあったものであって、かなり詳細かつ公式なマップであるようで、特にこの記載内容が疑わしいとかそういったことはない。


 少なくともこの場所へ行けば、そのマップ通りの土地と建物が存在しているはずだ。

 それを実際に見学して見極めて、作戦実行の場所とするのか、それとも面倒ではあるが郊外へ移動するかの選択をすることとしよう。


 で、翌朝早くに宿泊している庁舎を出た俺達は、マップに従ってその邸宅らしきものがある場所を……探すまでもなくすぐに発見することが出来た。


 高い塀に囲まれた巨大なそれはまさに豪邸、いやもう城であると考えた方が良さそうな規模の何かで、もちろん今回の作戦を実行するのには最適な形状と広さを有している。


 で、都市の中心部にこんな広大な敷地を擁しているのは何の個人か団体かと、ひとまず入口を探して壁沿いに歩いて行く……



「何なんでしょうね? 土着の反社会勢力の親玉の方が住んでいるとか、そういう感じにも見えますが」


「もうどうだって良いです、早く中に入らないと寒くて凍えてしまいますよっ、あぁ、私もリリィちゃんとお留守番が良かった……」


「ワガママを言うなルビア、もうちょっとの辛抱だから我慢して……ほら、入口みたいなのが見えてきたぞ」


「何か看板みたいなのが掲げられていますね、えっと……『超魔界慈善団体総合本部』だそうです」


「意味がわからんが、まぁ、もしかすると俺達の世界にも良く居る綺麗な言葉だけ並べて中身はドロドロ、みたいな連中のアジトなのかも知れないな」


「というか、その可能性が極めて高いですねこれは」



 どう考えても『反社』であるとしか思えないのであるが、表面上は『慈善団体』を装っているという可能性、それを可能性の域に留まらず、確信させるような状態にあるのがこの巨大な邸宅だ。


 通常、そのような地合いに満ち溢れた事業を真面目に執り行っている団体やその代表者が、このような明らかに大金持ちのものと思われるような邸宅を所有しているとは考えにくい。


 本当にそういう感じの人達であれば、自分は小さな小さな借家に住まい、寄付を得るだけでなく自己が得た利益も慈善活動に注ぎ込んで……というような感じでなくてはならないのだ。


 で、その表面上は社会性に満ち溢れた謎の団体の、トップの邸宅なのかそれとも団体で所有しているものなのか、とにかく広い敷地の1カ所だけにある門の前に立ち、ノックをして応答を待った……



『……は~い、どなたでしょうか? 全財産の寄付ですか? それとも味方してくれているお役人の方?』


「どっちでもないでーっす、敵です敵!」


「あっ、こらマーサ余計なことをっ」


『……じゃあ帰れやボケ共が、お前等みたいな金も持って来ない連中は慈善活動の邪魔なんだよ、少なくとも全財産を持って出直して来やがれ畜生共!』


「じゃあ押し入るか、マーサ、もうやって良いぞ」


「そうこなくっちゃ、どりゃぁぁぁっ!」


『ギョェェェェッ!』



 わざわざこちらが敵であることを宣言してまでも、扉を蹴破って突入するという行動を取りたかったらしいマーサ。


 おそらく魔界において、特に隣のエリアで発生していた大蟯虫クリーチャーのせいで好きな生野菜も食べられず、ストレスが溜まっていたのであろう。


 で、応答してくれた『慈善団体のメンバーの方』については扉と共に粉々になってしまったのだが、奥の方にはまだ、それと同じ構成員らしき……明らかなヤ○ザが何匹も居るではないか……



「オラァァァッ! 何だテメェらはぁぁぁっ?」

「ここどこだかわかってんのかオラァァァッ!」


「えっと、慈善団体なんじゃ? 違います?」


「……おうよっ、そういえばそうだったぜ、とにかく今は『お話聞こうか?』って言って集めてきたその辺の低身分の貧乏なガキを、人身売買オークション会場に運ぶ仕事で忙しいんだよっ! どっか行かねぇと殺すぞオラッ!」


「とんでもない連中だったわね……あ、その奥に居る人……何か唇が長いように見えるけど、その人暇そうじゃないの? ちょっとお話聞いてよね私達の」


「馬鹿がっ! ストローマウスクリーチャーのオジキは今忙しいんだよっ、ちゃんとやってる感出して補助金名目で集めた公の金をチューチューする作業でなっ!」


「闇の人身売買だけじゃなくて税金チューチューまでしてんのかこいつ等……まぁ良いや、そういうことであれば一旦帰ろうぜ」


「あら、ご主人様、やっつけないんですかこの人達?」


「あぁ、忙しいみたいだからな、後日またお伺い致しますということで、今日のところは失礼させて頂きますです、はい」


「おうっ、ここの情報を漏らすんじゃねぇぞ、てか漏らしたところで役人共は全部俺達の味方だがなっ、キックバックもそこそこだし」


「あー、はいはいわかったわかった、じゃあ私達帰るから、またねっ」



 馬鹿共の犯罪自慢を聞く必要もなく、またこれから人身売買オークションに出品され、おそらくは奴隷であったり臓器売買の素体になったりというガキだか何だかについても、俺達には関係ないことなので止める必要もない。


 いや、むしろそうやってこの場所から連れ出されてしまった方が、そのガキ共にとっても良いことなのかも知れないな。


 なぜならば現時点をもって俺達の作戦はここで実施されることが確定し、今この場は退散するのではなく、準備のために一時帰還するだけであるからだ。


 セラの風魔法の分厚い壁を、いつでも発動することが出来るようにこの巨大な邸宅なのか施設なのかの壁一面に張り巡らせる作業がまずは必要だし、上空もキッチリとカバーしておかなくてはならない。


 それを全部、もちろん一寸の狂いもないようにセットするのには相当の時間と集中力を要することであろうから、今はまだ、この場で何かを仕掛けて良いタイミングではないと、それだけのことなのである……



「さてと、ここをグルッと周って仕掛けを作っておく必要があるわね、ちょっとホントに大掛かりなシステムだわ」


「大丈夫でしょうか? その仕掛けを作るところ、その監視者に見られたりとかは……」


「可能性がないとは言えないが、奴は出現する際にとんでもない殺気を放っているからな、それが感じられない時点でセーフだと考えておいて良いだろうよ、知らんけど」


「そうなんですかね、まぁ、じゃあひとまず準備ということで……私達は何をしていれば良いんでしょうか?」


「そうね、とりあえずさっきのヤ○ザが出て来てトラブルにならないように見張っておいて、もし絡んできそうなら個別に、サックリと始末して目立たない場所に捨てておいて欲しいの」


「わかりました、じゃあえ~っと、ひとまずここで見ておきますね」


「居る意味ねぇだろ俺達もう……」



 基本的に作戦の準備をするのはセラであって、それ以外にはユリナやサリナなどが魔力を融通してやるなどのサポートをするのみ。


 あと、周囲の警戒に関しては残雪DX、つまり昨日の行動において唯一敵がガス状の何かであるということを見抜いていた、自称魔界最強の武器にさせてしまえば良いのだ。


 ということでやることがなくなった俺達は、一応周囲を警戒しているような素振りを見せつつ、適当にその辺の露店でそこそこに美味そうな、だが上級市民だの何だのに目を付けられて嫌がらせを受けているわけではない屋台などで、本当に適当なものを購入するなどして暇を潰す。


 しばらくすると塀に沿って邸宅の周りをグルッと回るように歩いていたセラが反対側から戻って来たため、これでほぼほぼ準備の方は完了ということになる。


 あとは上空から迫ってきて、ガス状の何かが絶対に逃げ出せないようにするための空気の壁を……と、それはもうあっという間に完了してしまったようだな……



「はい、これで完成よ、あとはガスの何かが中へ入っているときに、そこでギュッと圧縮して封じ込めるみたいな?」


「……ねぇ、今思ったんだけどさ、それって私達もその中に居るときにギュッとされちゃうわけ?」


「まぁ、それはしょうがないんじゃないかしら……耳はペタッとしておいた方が良いかも知れないけど特にマーサちゃん」


「そうする、キーンッてなりそうだものキーンッて……」



 マーサと、それからカレンについては少し辛い思いをするミッションなのかも知れない。

 物凄い高気圧に晒されつつ、しかもいつその『神の屁』を嗅いでしまうとも限らない状況であるからだ。


 まぁ、この2人を可能な限り守る感じで戦いを進めても、絶対に逃げられないという目標だけ達成していさえすれば、あとはもうどうとでもなるのではなかろうかというのが現在の考えである。


 それで、準備が完全に終わったということであるから、もう一度あの偽慈善団体のヤ○ザ連中の所へ乗り込んで、今度はこちらの権限をキッチリ示すと共に、それと同時に出現するのであろうガス状の監視者をとっ捕まえるのだ……



「よっしゃ、それじゃもう一度行くぞ、お~いっ、さっきも来た者だが~っ、今度はお前等を始末しに来たぞ~っ」


「何だテメェ等? また来やがってからに、今度はもう許してやるようなことはないからな、覚悟しやがれっ」


「というか、さっき門の扉を蹴破っておいて許して貰えたことに今更ビックリなんだけど……で、親玉はどうしたの? まだ税金チューチューで忙しいのかしら?」


「ふんっ、もうオジキは税金のチューチューと、それから吸い取った額を収入として計上する作業を終えたぜ、つまり今度はテメェ等の命をチューチューする番ってことだっ! オジキッ!」


『チュゥゥゥッ! 何でも吸い取るストロークリーチャーのこの俺様に逆らって、チューチューされずに済んだ奴は今まで1人も居ねぇんだぜっ! チュゥゥゥゥゥゥッ!』


「気持ちの悪いクリーチャーね、ミラちゃん、アレ出してちょうだい」


「あ、はいこれですね、ジャーンッ、このエリアの守護堕天使とかいうおかしな方の書状ですっ!」


『……そっ……そそそそっ……それはぁぁぁっ! チュゥゥゥゥッ!』



 もはや戦う必要など微塵もない、面倒な手続も一切必要ない、ただ単に見せるだけ、たったそれだけのことで、このエリアに存在する全ての雑魚キャラが俺達の前に平伏すという、そんな最強の紙切れがここにあるのだ。


 今回も例に漏れず、お前をチューチューしてやるぞと、非常にエッチな目線を主にジェシカの胸辺りに送っていた偽慈善団体ヤ○ザのオジキが、地面にその口……吻を突き刺すようなかたちで土下座している。


 そしてもちろんその瞬間に、俺達に向かって浴びせられるとんでもなく強い殺気が込められた目線。

 今回は後ろからではなく前からだ、一体どこに……居た、どうやらこの邸宅の中に居た敵キャラに憑依したらしいな。


 一瞬だけ、本当にチラッとだけそちらに目を遣ると、かなり怪しい感じで、しかし表情の方は凄まじい怒りを浮かべた般若のような感じで、その1匹のおっさんが柱の影からこちらを見ているのが確認出来た。


 そして次の瞬間にはもう、残雪DXを構えたエリナがピンポイントの一撃を放って、そのおっさんの肉体をぶち抜いたのであった……



「出ましたっ! きっとアレがガス状の何かですっ!」


『間違いありませんね、昨日私が見たものと同じですから』


「よしっ! じゃあ作戦開始だっ!」



 目の前で平伏している雑魚共を蹴散らし、目障りなゴミがなくなったところで魔法を発動させるセラ。

 徐々に気圧が高まってきたような、そんな気がしたと思えば、それは明らかに激しいものとなっていった……

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