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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1196 監視員の行動

「ということで班をふたつに分ける、俺とセラとミラの『見られちゃうチーム』と、カレン、マーサ、精霊様の『逆に見ちゃうチーム』だ、そんな感じで良いな?」


「至極適当かつダサすぎるチーム名ねぇ……」


「あの、ちょっとさっきから6人で動いているような感じになっているんですが……何気に私が同行しているということに気付いていませんかもしかして?」


「……居たのかエリナ、呼んでねぇけど居たのか普通に?」


「とっても暇だったのと、それからその……」


『私が行こうって言ったんですよ、というか今回、どう考えても私の出番なんじゃないですか? この魔界最強にして史上最高、唯一無二の宝ともいえる残雪DXのっ!』


「あのな残雪DX、今回はどちらかというと隠密行動の類なんだよ、だから武器として所持されているだけとはいえ、お前のようなやかましい奴がだな、聞いてる?」


『……ノールックで敵を撃破させてあげることが出来ます』


「……何だ? もう一度言ってみてくれ」


『ですから、私の力があれば、装備者がノールックでターゲットを撃破する、それをさせてあげることが出来るんです』


「マジで?」



 いつの間にやら俺達のチームと行動を共にしていたらしいエリナと残雪DX、そういえば居たような居なかったようなという感じであるのだが、その片割れである残雪DXからの提案。


 というかなぜそれを早く言わなかったのであろうかと、そう問い詰めたくなるようなスキルを有しているようなのであるが、果たしてどの程度の効果があるものであって、その効果が俺達の期待通りのものなのかという点についても少しアレだ。


 ひとまずチーム分けのうち、『逆に見ちゃうチーム』の方にエリナと残雪DXを配置するのが妥当であろうから、そちらと行動を共にしつつ、あわよくばターゲットを狙撃して……まぁ、殺してしまっては意味がないような気がしなくもないのだが。


 とにかく、俺達はあの操られていると思しきおっさん共を、その操られている状態のまま殺さずに捕獲しなくてはならないところである。


 少しでもモタついているとその『何か』はスッと消失してしまうわけだし、解放されたおっさんの方も、そのまま消されるというかたちでこの世を去ってしまうのだ。


 そうなる前に、まぁもちろん魔界人間のおっさん如きが1匹この世を去るぐらいはどうということではないのだが、その手前の段階、つまり『何か』が憑依している段階で捕まえないことには、話しが先に進まないということなのである……



「それで、俺とセラとミラは……もうひと騒ぎ起こしつつ、この『守護堕天使の書状』を用いて魔界人間共に優位的な立場をアピールして、そしてそれを利用して不当に利益でも得ようか」


「そうですね、さっきはあの、何というか、財布がベチョベチョになって触ることさえ出来なかったので、今度はそれに気を付けなくてはですね」


「そうだ魔界の金とはいえ金は金だ、もったいないから硬貨ひとつたりとも逃したらいけないんだよなホントは」


「勇者様もミラも、ちょっとお金から離れて物事を考えなさいよ……」



 カレン、マーサ、精霊様にエリナと残雪DXを加えた『逆に見ちゃうチーム』と分離し、そのメンバーの視線を感じつつ再び町へ出る俺達3人。


 次は何をやらかしてくれようか、もちろん痛め付けてやるのは善良な魔界の人間ではなく、その善良でかつ低級なそれを蹂躙し、偉そうに振舞っている高級な連中だ。


 そういった者はもちろんそこかしこに見受けられ、道のど真ん中を、肩で風を切るように歩きながら、道端で商売をしているその辺の奴の屋台を破壊したり、当たり前のように暴行を加えたりとやりたい方題。


 客入りの良い店に関しては、客の行列とはまた別に、みかじめ料を要求するものと思しき高級そうな連中の列が出来ている。


 この時点でもうムチャクチャなのであるが、この魔界の都市においてはそれが日常の光景で、弱者は働けど働けど、単に搾取される量が増えるだけの地獄を味わっているのだ。


 で、その中でもひときわ目立っているのが、何やら徒党を組んで旗を掲げ、乱暴狼藉を繰り返しながら進む謎の集団である。


 それが遠くに見えただけで、道端で商売をしている魔界人間が恐れ戦き、一部の現時点で上級連中に絡まれていない商売人などは、そそくさと店終いをして退散し始めているではないか。


 あの連中は一体何なのだと、すれ違いざまに襟首を掴んでとっ捕まえたおっさんに聞いてみる。

 最初は俺達が自分より低級だと感じたのか、横柄な態度を取っていたのだが、一発殴ると大人しくなり、事情の説明をし始めた。


 どうやらあの連中は有名な愚連隊であって、この町ではなく近くの、もっともっと巨大な都市からやって来た、この小さな……と言っても百万都市なのだが、そこにおいては想像も出来ないような上級の連中であるとのこと。


 もちろんのこと、その連中が元々居た都市においては、おそらく弾き出されて居場所を失うのであろう程度には低級であるらしいその連中。


 つまり自分達の町で虐げられていて、そして追い出された恨みを、この小さな町の低級連中を使って八つ当たり的に晴らしてしまおうという魂胆なのであろう。


 それだけでもガチのクズなのだが……どうやらこの連中、本当にやってはいけないことだと、そう俺が勝手に思っていることを平気でやってのけるようなゴミらしい。


 歩く、というか進軍しながら、その通過ポイントで恐怖のあまり固まっていた、そこそこ可愛らしい感じの低級魔界人間の女性キャラに対して……おっぱいを鷲掴みにしやがったではないか。


 実に羨ましい、ではなくけしからんことであるし、その低級魔界人間女性のおっぱいもけしからんサイズであった……と、それはどうでも良いのだが、この行動は明らかにアウトだ。


 完全に俺が勝手に作った『慈愛に満ち溢れる勇者様とそれに従う者のガイドライン』に違反しているため、即時処刑の対象となるのだから……



「あの野朗共……セラ、ミラ、次のターゲットはあの愚連隊みたいな連中だ」


「反社会勢力のお手本のような連中ですね、ですが魔界ではこれが社会の構図で……どうでも良いですが、お金は持っていそうなので早く襲いましょう」


「そうだな、あれだけ他人を襲って蹂躙して、金銭を強奪しているんだからな、きっと相当に持っているだろうよあいつ等」


「またお金の話してる……」



 セラは呆れがちなのだが、この魔界において俺達はイチから全てを築き上げなくてはならないわけだし、そのために最も重要であると考えられるのがマネーだ。


 そのマネーが、向こうから旗を掲げてやって来ているのであるから、マネーについての話をさせて頂くというのが基本である。


 頭の悪いセラはそのことを理解することが出来ないため、俺もミラもあえて説明するようなことはしないのであるが、ともかく向かってくる連中、あれはもう敵の愚連隊ではなく単なるマネーだ。


 そのマネーがようやくピンポイント攻撃の届く範囲までやって来たため、まずは適当にあまり目立たない場所へ誘導すべく、セラとミラを前に出しつつ、穏便に話し掛けてこちらに注目させる……



「おいそこのお前、お前だよお前、偉そうに道の真ん中歩きやがって、しかも他人に迷惑なんぞ掛けてんじゃねぇぞいい大人がっ」


「ひとまずジャンプしてみて下さい、早くっ、早くして下さいっ、あなたのようなゴミに構っている時間がもったいないんです」


「……あぁん? おいおかしなのが居んぞ、しかも良い女匹、それから……チンパンジー?」


「そのネタはもう飽きたんだよ、つまんねぇし、で、ちょっと面貸せやお前等、ボッコボコにしてやるからよっ!」


「おいおいっ、テメェ俺達と俺達の兄者の上級度合いを知ってそんなこと言ってんのか? テメェなんぞ一撃であの世送りだぜ、なんたって兄者の身分ならこの町のゴミ共ぐらい、その場で処刑しても構わな……」


「貴様、ベラベラと他人のことについて語ってんじゃねぇ、死刑だ」


「すっ、すっ……すみまさろべろぽっ!」


「……で、そこの絡んできた奴等、許して欲しかったらこの汚ったねぇ死体を片付け……いや、生で食ってみやがれ、どうだ?」


「お前が喰えば良いじゃん? 栄養あるんじゃねぇかもしかして?」


「……ほう、どうやらよっぽど死にてぇらしいようだな、こっちのチームはかなり上級な連中だけで10人以上、さっきブチ殺したコレもさ、この町の市長とかと同等の身分なんだぜ、市長……は何か知らんがさっき広場に吊るされているのを見たな……とにかく面を貸すのは貴様等だ、こっち来いっ!」



 なんと、向こうからイベント会場(路地裏)に招待してくれるらしい愚連隊のトップ。

 というか先程殺された奴ではなくて、このどうにもインテリ臭い、参謀のような顔をした奴がトップであったとは、世の中わからないものである。


 とまぁ、それはさておき、愚連隊の連中に囲まれるようにして移動を始めた俺とセラとミラの3人は、ひとまず『逆に見ちゃうチーム』に合図などを送りつつ、その指定の場所までご案内頂くこととなった……



 ※※※



「おい止まれっ、ここが貴様等の墓場だ、路地裏の陰鬱な雰囲気がとても良いだろう? 気に入ってくれると本当に嬉しいぜ」


「ゲェ~ッヘッヘッヘ、兄者、この女共は生かしておいた方が良いですぜ、大貴族様とか堕天使(最下級)様とかに高く売れそうだ」


「貴様ぁぁぁっ! 畏れ多くも堕天使(最下級)様にこんなクソみてぇな場所で言及するとはぁぁぁっ! 不敬の極みっ! 即刻死ねぇぇぇぃっ!」


「ギョェェェッ!」


「えぇっ、堕天使(最下級)って、そんなのを敬ってどうすんだよお前等……」


「カァァァッ! 貴様もかぁぁぁっ! 我等魔界人間など堕天使(最下級)様方の足元にも及ばない、虫けらのような存在であるというのにっ、どうしてそれがわからんのだっ! 死ねぇぇぇぇっ……えっ?」


「あ、はい、これがこのエリアの守護堕天使から貰った書状です」


「はっ? えっ?」


「まぁ、あんな奴俺達にとってみれば雑魚でカスでハゲみたいなもんなんだがよ、それでもここじゃ偉いんだろあの馬鹿? それからの書状で、俺達は好き放題しても良いってことで……意味わかる?」


「はぁ……あぇぇぇぇっ!? なぁぁぁっ! ひょんげぇぇぇっ!」


「頭がおかしくなってしまったみたいね、まぁ元からなのかも知れないけど」



 やはりここでもあのアホな守護堕天使の書状は効果絶大であった、見てすぐにその内容を理解したらしく、愚連隊の連中はそれぞれ取り乱し、多くはそのまま発狂してしまった。


 まぁ、魔界人間の中では上位20%に入る程度なのであろうこの愚連隊リーダーも、堕天使の中で一番雑魚である『最下級』について言及することさえおこがましい程度の身分であるのだからそれも仕方がないことだ。


 その堕天使(最下級)など軽く足蹴にして歩く通常の堕天使を、さらに足蹴にして前に進む上級堕天使の中で、エリアを任されるほどの最上級の者からの書状など、この連中は目にしただけでどうにかなってしまうらしい。


 もちろん余りにも身分が低い者ともなると、その内容を理解したところで『どのぐらい凄いのか』ということがわかりかねるため、全力土下座をする程度にすぎないケースが多いのであろうが、ここまでの身分の者であれば発狂するのも通常の反応であるということだ。


 で、こんな連中に構っている暇ではなく、もちろんミラが書状を出した瞬間から感じ取ることが出来るようになった、その『視線』の方に意識を集中しなくてはならない。


 今回は俺達が見られ、そしてその見ている姿を、別働隊のメンバーがまた見ているという構図であるため、こちらで何かしなくてはならないとかそういうことではないのであるが……



「……撃ちましたっ!」


「エリナかっ? 残雪DXが勝手にやったのか?」


「たぶん後者です、後者ですが……ヒットしたみたいですね、こんな連中のことは後で良いので、ひとまずそちらを見ておきましょう」



 出現した監視者、それを俺達が感じ取った直後、轟音と共に後ろから上がる強力な魔力のバースト。

 その威力に見合わないほどに、かなりのピンポイント攻撃であることから、間違いなく残雪DXの仕業である。


 そして俺達が振り返ったその場所には……やはり知らないおっさんが、まだ生きてはいるものの腹に大穴を空け、のた打ち回っている現場があった。


 監視者であったのは間違いなくこの魔界人間のおっさんなのであるが、今はもう、とっくの昔にその『何か』が抜け落ちた後で、おっさんはなぜ自分がこのような目に遭ったのかもわからないままに死を迎えようとしている。


 だが、エリナなのか残雪DXなのか、どちらが主導したのかわからないその攻撃によってではなく、おっさんは足から先にスッと、消えるようにしてこの世界から居なくなってしまった。


 攻撃が失敗して、それで『何か』を取り逃したのか、それとも何か意図があってこのようなことをしたのか、それに関してはすぐに、今こちらに向かっているようすの攻撃者から事情を聞くしかあるまい……



「お~いっ、こっちだこっち、どうして撃ったんだあんなにすぐに?」


「えぇ、何だか急に『撃つ!』みたいなことを言い出して、その瞬間にはもう発射されていましたね、勝ってに私の魔力を使って」


「なるほど、おいどういうことだ残雪DX、事と次第によってはアレだぞ、強制的に人間の姿にならせて、縛り上げたうえでそのケツを鞭でビシバシとシバいていくぞ、あんっ?」


『イヤですねぇ、そんなことされたらまた無駄に発射してしまうだけで……それよりもですね、見えたんですよこの私、魔界最強の武器である残雪DXにはっ』


「何が見えたってんだ? 自分がお仕置きされてヒーヒー言わされる未来か?」


『そんなんじゃなくて、ほら、敵というか何というか、今しがた殺した魔界人間の体から、何かガスのようなものがもわぁ~っと抜けていくのが……間違いなくアレが監視者の正体ですね、えぇ』


「ガスみたいなのがもわぁ~っと? どんな感じなんだよそれ? てかおっさんの口の臭いとかが可視化されただけの何かじゃないのかそれ?」


 どうしてそんなモノが可視化されてしまうんですか気持ち悪い、とにかく、アレはクリーチャー…/・ではないのかも知れませんが、とにかくそういった類の何かでした』


「そういえばあの神界クリーチャー召喚のときも、そういうのが召喚されて勝手に霧散していったわよね? それの魔界バージョンかしら?」


「ガスクリーチャー……の類ってことだな、よしっ、そういう感じの何かであるという路線で引き続き調査を続けようか」


『うぇ~いっ』



 残雪DXだけが『見た』と主張しているそのおっさんからもわぁ~っと抜けていったガスのような何か。

 それが本当に『監視者』の正体であったとしたら、むしろそれを捕らえるというのはかなり困難なことではないかとも思われる。


 だがどうにかしないと、そしてその何かが本当に何であるのかということを確定させないと、もちろん俺達の冒険は、魔界侵攻作戦はここでストップしてしまうこととなるのだ。


 難しいなどとは言っていられない、とにかくどうにかして、どんな方法でも良いからそのガスのような監視者を、拘束するなり何なりして『事情を聞く』ということをしなければならないのである。


 で、このままではどうしようもないということで、ひとまず目の前で発狂したりガタガタと震えて絶望したりなど、やかましくて仕方ない愚連隊の方々をサクッと綺麗に始末し、その全財産を徴収することをもって罰に代えた。


 そこそこ儲かってしまったようではあるのだが、未だ魔界の通貨になれないためどの程度の金銭を獲得したのかはわからない。


 まぁ、そんなことはもうどうでも良い、とにかく今は残雪DXが掴んだ敵の、監視者の行動について考えるべきところなのだが……考えるよりも聞いた方が早そうだな。


 庁舎に帰ってあのクソゴミ守護堕天使をもう一度呼び出し、そういった感じの何かについての情報を共有して貰うのが、それの正体を掴むために今最もするべきことだ。


 当然のことながら、俺が何を言ったところで鬱陶しく反発してくるにすぎないため、仲間達と対話させる方法を取らざるを得ないのではあるが……



「…… うむ、そういうことで一旦戻ろうか、あの馬鹿堕天使の話を聞いて、それで対策を考えた方がベターなんだ実際」


「あとお腹空きました、何か買ってから帰った方がベタベタです」


「カレンちゃん、ベタベタじゃないのよベタベタじゃ……まぁ、じゃあちょっと何か買って帰って、適当に抓みながら作戦会議でもすることにしましょ、あの守護堕天使も交えてだけど」


「アイツと食卓を囲みたくねぇな俺は……」



 あんなムカつく野朗と共に食事をするなど、激キモのセクハラ先生と机をくっつけて給食を食べなくてはならないような地獄と同じ。


 これはもはや拷問に等しいのであるが、それでも仲間達がそうしたい、そうするべきだというのであれば俺もそれに従わざるを得ない。


 まぁ、なるべく『居ないフリ』に徹し、会議のときなどに使用するステルスモードで終始黙々と食事を摂ることとしょよう。


 さもないとストレスが暴発を起こし、あのいけ好かないクソ野朗を惨殺して、食事会を台無しにしたうえで、このエリアにおける最大の情報源を喪失してしまうことになりかねないのだ。


 嫌々な気持ちで仲間達と共に庁舎へと戻り、呼び出したクソ守護堕天使がこれまた嫌々な感じでやって来るのを眺めつつ、ミラが良い感じに盛り付けてくれた出来合いの品に手を付け始める。


 さて、ここから本題に入るのだが……やはり馬鹿守護堕天使の方も、この『監視している何か』についてはあまり触れたくないようで……と、こちらの説明に少し反応したな、何か知っているることがあるらしい……

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