1193 町での出来事
『おいっ! 止まれそこの集団! お前等だよお前等! 明らかに通行手形とか持ってないだろうに? どこから来やがったんだこの……へへーっ! まさか堕天使様が、しかも上級の……守護堕天使様ぁぁぁっ!』
「そうだ、俺がこのエリアの守護堕天使様だ……しかしそれに気付かずに横柄な態度を取ろうとするとは……おいそっちの衛兵、ちょっとコイツ殺せ」
「へへーっ! ではそうさせて頂きますっ、うおりゃぁぁぁっ!」
『ギョェェェッ! そんなっ、こんないきなり殺されるなんて思わなかっ……かはっ……』
「ふむ、殺し方がイマイチというかアレだな、スマートだったとは思えん感じだな……ということでお前も死ね」
「ヒョゲェェェッ! すいませんっしたーっ! うげろぽっ……」
最初に絡んできた魔界人間……とは思えない、どちらかというとクリーチャー寄りの門番を別の門番に殺させ、そのやり方が気に喰わなかったからとそいつまでも殺してしまうゴミ堕天使。
いつもいつもこういうことを繰り返しているのであろうが、魔界人間やその他の下等生物による反乱だとか何だとかは起こらないものなのであろうか。
まぁ、堕天使、たとえそれが最下級のカスであったとしても、黒い翼のあるそれと魔界人間等とでは実力に圧倒的な開きがあるのもまた事実。
おそらくこの大都市の魔界人間及びその他クリーチャーの類が束になって攻撃を仕掛けてきたとしても、このエリア守護だというゴミ堕天使には敵わないし、全てが消し去られるまで5秒と掛からないであろう。
もちろんそれは俺達にも言えることで、この町を滅ぼすことなど指一本、いや場合によっては息を吹き掛けるだけでもどうにかなりそうな、そんな次元の差がこの魔界にもあるのだ……
「そんで、この町のどこに私達は滞在したら良いわけ? あまり目立つような場所に居ると死神? に見咎められるわよ間違いなく、そしたら厄介なことになるわ」
「安心しろ、我が神はこのような小規模都市になど興味がないはず、せいぜい地方巡業とかで気に掛けている感を出すぐらいのアレで、この町の名を聞いてもピンとこないような認知レベルだろうからな」
「この都市が小規模都市とは……ちなみに守護堕天使殿、このエリア最大の都市は魔界人間の人口だけで……」
「さぁな? 2,000万ぐらいなんじゃねぇのか? それが複数あって、だからこんな100万そこらの町なんてもう集落みたいなもんでな」
「隣のエリアとは比べ物にならない程の発展ぶりのようですね……ここを王国の領土に加えることが出来ればもしかして……」
隣でどこかの王女が税収ガッポガッポを夢見ているようだが、そもそも『住んでいる世界が違う(物理)』であるため、その夢が実現するようなことはまずないであろうとだけ言っておく。
とにかくあの堕天使さんが居て、今は亡き毒剣の神が支配していた隣のエリアとは一線を画す、まぁもちろんこれ以外にも大きいエリアはこの魔界にいくつも存在しているのであろうが、とにかく巨大で人口が多い、そんな感じの場所であるということがわかった。
しかし何というか、同じ魔界のエリア同士でもここまでの差があるということは、もちろんそこを統治している神にも差があるということだ。
となると、俺達が苦労して倒した毒剣の神よりも、このエリアを支配しているあの死神の方が、遥かに有能で素晴らしい神であるということが言えるであろう。
というか、死神の奴はアレなのか? ホネスケルトンとかいう今回の件の元凶に当たる神の配下なのかどうなのか、そこが実に気になるところだ。
それについては俺が聞いてもどうしようもないため、大都市の広い通りを歩きながら、さりげなくセラに聞いて貰うこととしよう……
「はいはいっ、ちょっと質問良いかしら? ここの神様、てか死神様なのよね? それってホネスケルトンとかいう神とはどういう関係なのかしら?」
「ほう、そこでホネスケルトン神の名が出てくるとは……さすがは神にも劣らぬ圧倒的強者ということか、この両親共にチンパンジーなんじゃないかと思えるようなゴミ野朗とはえらく違うな……と、残念だが我が神はホネスケルトン神とはあまり深い関わりを持っていないな」
「そうなのね、でも残念でも何でもないわ、そっちの方が色々とやり易いものここのエリアでの行動が」
「ふむ、そちらの込み入った事情については良く知らんが、残念だといったのはアレだ、実は俺はホネスケルトン神の大ファンでな、あのカリスマ力、顔面とかド気持ち悪りぃのに大衆を動かすあの力に憧れていて、著書も全て読んだし、もちろん部屋には肖像画とフィギアを飾っていて、今度は抱き枕も買おうか迷っているほどだ」
「気持ち悪いからやめなさいそういうのは……とにかく、まぁそういうことなのね……このままだとそのホネスケルトンにも刃を向けることに……っと、この建物がこの町の庁舎なのかしら?」
「そうだ、今日からはしばらくここを拠点にして、我が神を蹴落として新たな神をこのエリアに……今何か重大なことを言いかけていたような気がするのだが?」
「気のせいじゃないかしら? それよりもほら、またこっちの身分? に気付いていない魔界人間の兵士みたいなのが武器を構えているわよ」
「ふむ、気のせいであったか……おい貴様等この下等生物共、ちょっと退くか死ぬかどっちかしやがれ」
「いやだからお前等は……守護堕天使様ぁぁぁっ!?」
「そうだ、あとお前やかましいから今すぐ死ね」
「かっ、畏まりましたぁぁぁっ! ギョェェェッ!」
「堕天使から命令されると当たり前のように死ぬのねこの魔界人間ってのは……」
なかなかに気持ち悪く、そして闇深くもあったゴミ野朗の守護堕天使であったが、やはりどこか抜けているため、自分のこの行動が何を意味しているのかなどにはまだ気付かないらしい。
で、門番をしていた兵士全員に自決を強要したうえで、その辺を歩いていた一般の魔界人間……今はもうこのゴミ野朗にビビリ倒して土下座しているのだが、それに死体の片付けを命じ、自分は扉を開けさせて庁舎の中へ入る。
ここまでの流れを見ていると、同じ堕天使でも俺達が最初に捕虜にした堕天使さん、あと堕天使ちゃんは下等生物に対して優しい方であったのだと、そうも思ってしまうところだ。
あの2人も魔界人間の命や尊厳に対しては特に何も感じていなかった様子ではあったが、ここまで積極的にそれを蹂躙してしまうようなことはなかったように思える。
で、そんな感じで庁舎の中に入った俺達だが……やはり大都市のそれは違う、巨大な謎のオブジェが置いてあったり、内装もかなり豪華で煌びやかで……眩しくなってしまうほどであった。
「おい受付……うむ、外の連中と違ってお前は俺が何なのかわかっているようだな、とにかく一番大きい部屋を開けろ、市長? じゃあそいつは死刑だ、お前も一緒に処分されたくなかったら早くしろ」
「へへーっ、直ちにそうさせて頂きますっ! それと……後ろの魔界の者でさえないゴミの群れは如何致しますでしょうか?」
「あぁこいつ等か、何だか知らんが超強い集団と魔界の武器と、それからその連中のペットのサルだ、こいつ等の滞在場所としても高級な部屋をひとつ用意しろ、食事も最高級のものと、それからこのサル野朗には干草でもやっておいてくれ、ベッド兼食糧としてな、わかったか?」
「畏まりましたっ! ではまずご案内を、それから市長を……もう適当に処分しておきますあんなのっ!」
大変に気に食わないワード等がそこかしこに散りばめられていたゴミ堕天使と受付のお姉さんの会話であったが、余計なトラブルはごめんなのでここは黙っておいてやることとしよう。
しかしこのゴミ野朗、調子に乗っていることもさることながら、きめぇ分際で俺様に対する態度を改めないのがいかんな。
このままイライラが募っていったら、いつか『うっかり』でコイツを消し飛ばしてしまうことがあるかも知れないし、もしそうなってしまった場合には俺達の作戦が大幅に狂い、それこそ仲間に迷惑を掛けてサル扱いされてしまいかねない。
ということでここは本当に、グッと耐え忍ぶべきところなのであるが……さすがにアレなので後でストレスを発散するなどしておくこととしよう。
まず部屋で荷物を置いたら仲間、というかルビア辺りをいじめてこれまでの鬱憤を晴らし、その後は……そうだな、まだ時間的にも早いので、この巨大な都市の一部だけでも散策しておくべきか。
当然そこでは俺達に対して何やらしてくる連中が居るはずだし、そいつ等をブチ殺すことによって、今後のイライラの暴発を押さえ込んでしまうのだ。
案内係に案内されて高級な部屋に入り、そこで一旦座って……どうして俺の分だけベッドがないというのだ? まぁ良い、床に敷かれた大量の干草にはリリィでも寝かせておくこととしよう……
※※※
「クソがっ、俺がだまっておいてやれば調子に乗りやがってっ! このっ! 成敗してくれるわっ!」
「ひぎぃぃぃっ! ひゃぁぁぁっ! あうぅぅぅっ!」
「……勇者様、あの守護堕天使がムカつくのはわかるけど、ルビアちゃんに八つ当たりするのは超ダサいわよホントに」
「そうか、じゃあセラに交代だな、そこで尻を出して四つん這いになれ」
「しょうがないご主人様ですわね……それで、この後の時間はどうするつもりなんですの? まだ時間が早いわけですし、サリナも買い物に行きたいとのことですわよ」
「おっとそうだったぜ、暗くなる前に色々と済ませておかないとな、だが魔界の金なんか持ち合わせていないし……先に強盗でもするか?」
「どうして主殿はそう悪い方ばかりに進もうとするのだ……」
結局金についてはあのゴミ堕天使から『借りる』ということで決着し、これで無事に買い物が出来そうだ。
なお、借りたものは基本的に返さなくてはならないのだが、そうなる頃にはあのゴミがもう存在していない、つまり返す対象が居なくなっていることから、実質今回の金は貰ってしまって良いということになる。
その返さなくて良い借金には元々買い物に行きたがっていたサリナに行かせることとし、適当にそこそこの大金をせしめてくるようにと告げて送り出す。
しばらくして戻って来たサリナの手には、バッグひとつ分ぐらいのコインのようなものが入った袋が……かなり血塗れのようだが、一体どこからどのような感じで調達したものを渡されたというのか……
「じゃあ、私とサリナと、エリナにジェシカ、4人チームでお買い物をして来ますの」
「それじゃ、私とミラと勇者様と……カレンちゃんも来る?」
「そうします、最近は外の屋台のものを食べられなかったので、ここでガッツリいって、あとリリィちゃんへのお土産……は要らないですか?」
「パ……ス……」
「めっちゃスローだから食事は要らないだろうこの状態なら、燃費が違うんだよ燃費が」
「そういうことなら残りのメンバーで留守番をしておくわ、どうせルビアちゃんとかマリエルちゃんとかは外に出ないだろうし」
「ふふふっ、良くわかりましたね精霊様、ちょっとさすがに寒波がアレなので、今回はここで暖かくしておきます」
「いってらっしゃ~いっ、お野菜も買って来てね~っ」
ルビアは既に仮眠する態勢に入っているため放っておいて、他の仲間はそれぞれ欲しいものを紙に書いてユリナに渡していた。
俺達は俺達で買い物をすれば良いのだが、念のためユリナチームにも頼んでおくこととしよう。
こちらのチームはむしろ、この町の調査に主眼をおいて行動しなくてはならないからだ。
で、早速出発しようとしたところ、まず庁舎の階段にて、いきなり粋がったような魔界人間に絡まれてしまったのだが……ひとまずスルーして先を急ぐこととしよう。
絡んできたおっさん魔界人間をスッと回避して、そのまま何事もなかったかのように階段を降りて行くと、おっさんはブチギレしたのか、デカい声を上げながら追いかけて来たではないか……
「オラテメェオラァァァッ! このオラァァァッ! ってんじゃねぇぞこのボケェェェッ!」
「……何か勇者様にしか通じなさそうな呪文を唱えているんですが……ちょっと対応してあげて下さい、あまりにも不憫なんでこのままだと」
「知るかよそんなもん……と言いたいところだがこのままだとちょっと厄介だな、おい何だおっさん! 言いたいことがあるならまずはそこに平伏して『申し上げますっ!』とか宣言してからにしろや、忙しいんだよ俺達は」
「んだとオラァァァッ! どっから迷い込んだか知らねぇがなぁっ! この魔界じゃお前等みたいな下界のゴミが最低変なんじゃゴラァァァッ!」
「あっそう、言いたいことはそれだけか? じゃあ金と命を置いて立ち去れ、この世からなっ」
「はっ? ぎょべぇぇぇっ!」
「お財布ゲットですっ……身分証しか入っていませんが……」
「ゴミかよこの野朗、で、身分の方は……長ったらしい称号だな、え~っと……『大魔界死神区極底辺的存在魔界人間内最底辺身分底辺豚野郎』ってどんだけ底辺の存在だったんだコイツは?」
きっと日頃からこのエリアで虐げられていたのであろう、そしてこの魔界において、そしてこのエリアにおいて初めて自分よりランクが下になる存在を認めたのであろう。
だがそれが運の尽きというか、生まれてこの方運が良かったことなどなかったのかも知れないが、その『自分より底辺のゴミ』によってまさか殺されてしまうとは。
今頃はきっと地獄で後悔していることであろうとも思ったが、どうせ三途の川の渡し賃も持ち合わせていないような雑魚であるから、そこまで辿り着かずにどこかを彷徨っているに違いない。
しかし、このエリアにおいてはこのような感じで最底辺の中でまた上と下が分かれているということであって、しかもそれが厳格で厳密、少しでも上下のブレを許さないようなものなのであろうということもわかる。
そして当然のことながら、その掟を破った者についてはそれなりの制裁、ということになるのだが、俺達はそれを逆手に取って逆にアレしてやろうということだ。
適当にその辺のウザそうな奴を挑発する……などということまではしなくて良いのかも知れないが、とにかくまぁ、町を歩いていれば『それなりのこと』が起こるのはもう明らかである……
「さてと、とんだ邪魔が入ったけどサッサと行こうぜ、カレンも腹減っただろう?」
「わうっ、もちろんですっ、それで、ちょっと向こうの方から凄く良い匂いが流れて来ているんですが……そっちへ行きましょう」
「そうね、じゃあカレンちゃんの鼻に従って行動するようにしましょ、それよりも……寄生虫の類は大丈夫なのよねこのエリアだと?」
「それは問題ないだろうよ、隣のエリアとはとんでもねぇ差があるわけだし、この発展しまくった大都市でそんなことがあれば、保健所とかがすっ飛んで来てそこの店主を始末して、付近一帯を立入禁止にして火炎放射で消毒、みたいなことをするに違いないからな」
「それはちょっとやりすぎのような気もするんですが……と、カレンちゃんが言っていた『良い匂い』ってのはもしかしてあの屋台なんじゃないでしょうか?」
「間違いないですっ、早く行きましょう!」
ミラが目視にて発見したそれらしき屋台、炭火焼で何かの肉を焼いているようで、それを見た瞬間から不思議と俺にもその匂いが感じ取れるようになった。
なかなか繁盛しているようで、通常であれば行列が出来そうなところなのであるが、この町においては身分の高い方が優先らしい。
よってかなり前から並んでいると思しき、疲弊し切った低身分風の連中には……おそらく閉店まで待っても順番が回ってくるようなことはないであろうな……
「へいらっしゃいらっしゃい! 魔界最高と謳われる何かの串焼き肉だよ~っ!」
「おい店主、上級市民様であるこの我に串焼き肉100本、串焼き肉チーズMAX50本、それから串焼き肉スパイス&ハーブを……200本だ、急いで焼け」
「ヘイ畏まりました上級市民様! はいはいっ、これで今日の営業は終了だっ、今の大口注文でもうネタ切れだかんなっ!」
「……!? あの、私の分の串焼き肉は……ないんですか?」
「はぁっ? 何なんだコイツ……って良く見たら下界の人族の、しかも獣人じゃねぇかお前? どこから紛れ込んで来たんだよ? てかお前なんぞに売ってやる肉はねぇ、自分の髪の毛でも食ってろボケが」
「……ご主人様、この人にいじめられました」
「そうかそうか、じゃあ殺すか、もう殺してしまおうかこんな悪い魔界人間なんて……っと、ミラはどうしたんだ?」
「いいえ、さっきサリナちゃんからお金を受け取ったときにですね、もうひとつほら、この汚ったない紙切れを貰ったんですよ、守護堕天使の方からだそうです」
「あの馬鹿の? どれどれどんな内容で……なるほど、『この書状を持つこの連中は何してもOK、むしろ逆らった奴はEND』だそうだが……どうする魔界人間さん? 特にそこの店主と、それから無意味に大量注文したそこの上級市民だっけ? さぁどうするってんだっ! えぇコラッ?」
『ひっ、ひぃぃぃっ! その書状は確かに守護堕天使様のぉぉぉっ! おっ、お許しをぉぉぉっ!』
「さてどうしようかな? 俺様はお前達をどうしようが構わないしその権利はほらっ! ここに全部書かれている通りだっ、平伏すが良いこの愚民共がっ!」
『へへーっ! 畏れ入りましたぁぁぁっ!』
「勇者様、あんだけ嫌っていた相手の権威でそれをするのは非常にダサいわよ……」
ダサかろうが何であろうが一向に構わない、もっと紆余曲折あったうえでこちらの権利が確定し、雑魚の魔界人間共は俺の前に平伏すと、そういうことを想像していたのだ。
それがまさかのストレート、こんな簡単に権限を獲得した以上、可能な限り暴れまわらなくてはならないということ……もちろん死神の目に留まるようなことはせずにであるが……




