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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1192 次のエリアの町

「くっそぉぉぉっ! どうしてただボス部屋の掃除と入れ替えをしに来ただけだというのにっ、どうしてこの俺がこんな奴等と遭遇しなくてはならんのだっ! どうしてだぁぁぁっ!」


「やかましいわね、てかボスが始末されたってわかってんならさ、その始末した強者がまだその辺をウロウロしているかも知れないってことぐらいわかるんじゃないの?」


「……しっ、しまったぁぁぁっ! 確かにそうじゃないかっ、ボスを倒しておいてすぐにどっか行くわけねぇだろっ! くそぉぉぉっ! こんなことなら部下の馬鹿共にやらせれば良かったぜっ、ちょっとでも『やってる感』出そうと思ったのが運の尽きかっ、くっそぉぉぉっ!」


「残念ですがそういうことになりますね、ですが……精霊様、この方はこれからどのように扱いますか?」


「そうねぇ……うん、私達が侵略者で、魔界の現体制を滅ぼしてホネスケルトンとかいう神も惨殺して……ってとこまで目指しているのを知って、なおかつ協力したいっていうんならアレよね」


「……!? いやいやいやいや、アレとはっ? 何? もしかしてこの場で戦闘になって、そんでもって凄い勢いで蹂躙されてどうのこうの……みたいな結末以外にあるってのか? おいどうなんだおいっ!」


「ないとは言わないぜ、もちろんお前の態度次第だがなっ!」


「うるせぇよ、今は貴様と話をしているんじゃない、ちょっと黙っておけ」


「・・・・・・・・・・」



 会話に参加することさえ許さないと、そうも取れる発言をしてくるのは敵の堕天使……もちろん俺にとってはかなりの雑魚なのだが、どういうわけかその『力の差』を認識していないらしい。


 精霊様や他の仲間達との圧倒的な格差については理解し、下手なことをすれば一撃で殺されるということも把握して行動しているらしいのに、どうしてこう……まぁ、この世界においては良くあることなのだが。


 で、完全に攻撃の意思を失った敵の堕天使は、この状況から助かる可能性があるのならばと、所属組織である魔界も、そこの神々も裏切るという決断をアッサリと下してしまう。


 だがもちろんコイツは知らない、俺達がこうやって敵を取り込み、用済みになったら始末してまた次の敵を……という具合で『正義に基づいたやっても良い裏切り』を繰り返してきたということを。


 コイツも今は、これからしばらくの間は重宝されるのだが、次第に獲得出来る情報が少なくなってきたとしたら、それでこちらも掌をひっくり返してしまうこととなる。


 比較的賢さが高いキャラのようであるから、途中でそのことに気づくのかも知れないが、それはそれで面白いし、そこから逆転したり、上手く逃げ出そうとして失敗し、絶望するのを眺めてやるというのも悪くはないな。


 もっとも、賢さが高いというだけで抜けまくっているコイツの性格では、もうパーティーメンバーに入れて貰ったぐらいのフレンドリーさで付き纏い、最後に消される際も、何が起こったのかわからないという態度を取り続けないかとも思うが……それもまた面白そうではある……



「それでですね、早速なんですが堕天使の方、隣のエリアに移動するためのルートとかを教えて頂きたいんです、どうでしょう?」


「あ、待って頂こうか俺は俺の仕事をしなくちゃならないんだ、ボス部屋の復活をな」


「そんなもんしなくたって良いだろうよ、だいいち、それがあると俺達が元々いたエリアとそっちとの行き来が面倒なままだ、むしろその倉庫にあるボスキャラ、全部組み立ててそっちのエリアに突撃させて、民間人でも虐殺させたらどうかな?」


「何を言っているんだこの馬鹿は? 馬鹿なのか貴様? 馬鹿なんだよな貴様は……あのな、普通に考えてここで『ボス部屋がバグッた』となれば我が神はどう思う? 俺がどうにかなったって、それを疑うよな? わかるその知能で?」


「そうなんですわよご主人様、ここで隠密性を維持するには、なるべく自然な感じで状況を保存しておかないとなりませんの」


「てことだ、貴様のようなカスには理解し得ないことかも知れないが、知能が低いサルはもう二度と口を開くな、馬鹿が風に乗って移ったらどうしてくれるっ!」


「……やっぱ殺しても良いかコイツ?」



 まぁまぁと制止する仲間達に宥められ、ひとまずこのカス堕天使をブチ殺すのだけは勘弁してやったのだが、そろそろコイツに対するイライラはピークに達しているところでもある。


 で、結局俺が提案してやった最強の戦術を放棄し、あの面倒なボスキャラをこれまで通り復活させるという、明らかに面倒臭いことをしている堕天使野朗。


 せめてあの2体が俺達のことだけ、それに殺られたという記憶だけをキープさせたらどうかとも『進言』したのだが、余計なことをするとどうのこうのと、また拒否されてしまったのであった。


 これでは俺達に続く大軍勢の、エリアを跨いだ移動に支障が出てしまうではないか。

 移動するたびにいちいち、個別にボスと戦って勝利する必要があるなど、至極面倒臭いことである。


 まぁ、もちろん今のところは大軍勢など用意されていないし、その結成の目途も立っていないのだが、それでも魔界侵攻という特大ミッションにおいては、そういうロマン溢れる何とやらを夢見ても構わないところであろう。


 それで、今は小さな馬鹿体育教師クリーチャーと、それから魔導機械に小さな脳味噌を入れた脳味噌野朗のセットが、まだまだこれから成長する感じでボス部屋に置かれている。


 これがしばらくするとあの鬱陶しくて汚らしい2体に戻り、俺達に敗北したことなども忘れ、次に来たときにはまた偉そうに説教を垂れてきたりするなどと考えると、エリアを跨ぐのが憂鬱で仕方なくならないであろうか……



「よっし、これでセット完了だから、俺が保身のために裏切っているということを、俺のエリアの部下とか我が神なんかが気付くことはないだろうよ、つまり攻め放題ってことさ」


「……ちなみにちょっと良いか? ひとつ質問があるんだが」


「却下だ、どうせろくでもない話だろうし、俺はお前のような雑魚の質問に答えようとも思わない、だいいちどうして女だけのパーティーにお前のような冴えないゴミが含まれているのだ? 異物混入事件として通報すべき事案だぞ、わかったらとっとと浄化されろこの汚物がっ!」


「ということだ、俺の話を聞く気はさらさらないようだからな、誰か代わりにその、アレだ、『我が神』ってのについて質問してやってくれ」


「しょうがないわねぇ、え~っと、その『我が神』ってのはどんな神様なのかしら? 女神? それともおっさん?」


「我が神は女神である、だがちょっとアイツ馬鹿だし、そろそろ異動願いでも出そうかななんて思っていたところでな、今回の件はむしろまたとないチャンスであった、我が神め、俺がいきなり敵として出現したらどれほどまでに慌てふためくことであろうか……」


「で、ちなみにその神様? 強いんですか?」


「うむ、まぁ魔界の神である以上超強いな、この俺もどうして我が神に今の行動がバレないようにしたいかというと、ちょっと何というかアレだ、遠く離れていても命を刈り取ってくるというか何というか……」


「わかった、遠隔操作ってやつね! やっぱり市場のパチンカスの人達が言っていたのは本当だったんだわっ!」


「遠隔……というか術式というか、もっと凄まじいアレなんだが……こう、いきなり異空間から鎌がザクッと、みたいな」


「何それ怖くないちょっと? そんなの死神よ死神!」


「というかリアルな死神で……」


「えっ?」



 死神、といえば魔界の神の中で最初に遭遇した、確か貧乏神と一緒に俺達の世界に顕現していたような気がしなくもない奴だ。


 あのとき何をしていたのか、敵対していたのかそれとも味方であったのか、それさえも忘れてしまったのであるが、出会ったことだけは確かだと記憶している。


 そういえば貧乏神の能力が地味に恐怖なもので、当たり前のように株式相場を操縦してターゲットを極貧に追い込むなどといった、ガチ犯罪紛いの能力であったはずだ。


 で、そのときに遭遇した2柱のうち『じゃない方』が死神なのであって、当時はまだ俺達の力も弱く、圧倒的に下に見られていたはずだが……果たして今回はどうなるのであろうか。


 で、次なるエリアのボス? というか統治者というか、それが女性キャラであるということがこれで判明したため、ひとまずそれに基づいた作戦の立案をしていかなくてはならないところであるということにもなった。


 まず敵対するのは確実、だが最後が脅しに屈しさせて降伏させるのか、それともリアルで痛い目に遭わせて逆らうことを諦めさせるのかという感じに分かれてくる。


 もちろん結末は前者であることが望ましいのだが、そうであるケースばかりではなく、むしろそういう価値のあるキャラとも一戦を交えなくてはならない場合が多いのがこの世界のダメなところなのだ……



「……まぁ、これで敵の情報はおおよそ判明したわけね、強さに関しては……その敵よりも遥かに弱いこの堕天使にはわからない、というか想像したりとか出来ないでしょうけど、一応どうなのか聞いておくわ?」


「どうなのかと言われてもな……そうだな、俺など我が神が本気を出せば一瞬で塵になる、そのぐらいに強いということだ」


「そんなのわかってんだよこのハゲ! てかさ、その程度のことこの勇者様でも楽勝なわけ、わかる?」


「だから何を喋っているのだこの雑魚がっ! 貴様は黙っておけと何度も言っておろうがっ! それともアレか? 他人の言葉を理解することも出来ないのかその脳味噌ではっ?」


「おいお前、どうして俺にだけそんな態度なのかはわからんがな、そろそろどちらの方が上なのかということをわからせてやらねぇと……え? ダメなのか、どうしてだルビア?」


「話の腰を折るのは禁止ですから、もうちょっとだけ我慢しましょうねご主人様」


「へっへぇぇぇいっ! 怒られてやんのぉぉぉっ! これだから馬鹿は馬鹿なんだよっ! 勇者? だからどうしたってんだ、そんなもんちっとも知らねぇぞこのバーカッ!」


「あなたも、調子に乗っていると、あとやかましいと私が殺しますよ? どうしますか?」


「す、すみません気を付けます……」


「ヒャハァァァッ! お前っ、回復魔法使いに脅されてビビッてんじゃねぇかぁぁぁっ! マジでだせぇよお前っ! その背中の翼返納してイモムシに戻れやこのヘタレがぁぁぁっ!」


「んだとゴラァァァッ! 貴様表出ろ表ぇぇぇっ!」


『どちらも程度が低すぎて付き合い切れない……』



 大馬鹿堕天使クソ野郎のせいで皆に呆れられてしまったのだが、とにかくこれからどうするのかということと、そのクソ雑魚には絶対に看破することが出来ない、死神の強さをどう推し量るのかということについても考えなくてはならない。


 だがともかくだ、今は先へ進み、この森を抜けて次のエリアへ、そしてそのエリアの中でも町があるような場所へ移動することを優先しよう。


 どうせこのクソ堕天使は俺が何を言っても聞かないどころか、むしろ激アツ意見であったとしても、俺がそう主張しているというだけで頭ごなしに否定して来そうなところであるから、その指示は他の仲間によって出させることとしよう。


 仲間キャラを使って間接的に、親の仇のように憎んでいるこの俺様から命令を承っていることに気付いた時の、このクソ堕天使の絶望の表情も早く見てみたいところではあるが……



「それでですね、この森を抜けた先、最も近くの町或いは村は安全なんですか? 悪魔専用の尻尾ケア用品を買いたいんですが……さっき変な魔界兵器にしゃぶられてしまったので……」


「安全……というのには少しアレなのかも知れないのだが、まぁ魔の者であれば魔界の存在ではなくともそこまで差別されることはないであろう、それ以外、例えば下界で人族なっどと呼ばれている下等生物に関してはどうかわからんがな」


「残念ながら半分はその『下等生物』なのよこのパーティー、あ、この異世界サル……じゃなくて真のパーティーリーダーも含めるとプラス1よね」


「精霊様、あとでそのことに関して詳しく話をしよう、そのケツを鞭でシバきながらな」



 などとろくでもない話はどうでも良いとして、とにかくこの森を抜けた先にある隣のエリアの町においては、魔界人間だけの中でも身分差や強い差別が横行しているような、そんな暗黒の都市であるとのことだ。


 もちろんその町を避けたにしても、もうエリア全体がそのような感じで荒んでしまっているため、どこへ行こうと同じであるらしい。


 まぁ、身分がどうのこうのとか、それから魔界の者ではないからどうのこうのとか言われたとしても、俺達にはそのどうのこうの言ってくる連中にはないモノがある、そう、力だ。


 これまでしてきたのと同様に、何かを言ってくる奴が居れば殺す、態度が悪ければ殺す、気持ち悪かったら殺す、最悪俺達に従っていても気分次第で殺す、もちろん利用してきた奴でも最後は殺すなど、実力行使に出てしまえばそれで最強なのである。


 あとはそれをどれだけ騒ぎにならないように、エリアを管轄している死神に察知されないように行っていくのかということだ。


 あのボス部屋までノータッチのままエリアを跨ごうとしているというのに、そこで目立つような行動をしてしまえば本末転倒。


 それゆえ余計なことはせずに、例えば大通りで罵倒されるなどした場合には、いつものようにその場で血祭に上げるのではなく、後からコッソリと、しかし極めて残虐な方法でブチ殺すような、そんな作戦を釣るべきところ。


 もっとも、魔界の神であり、そのエリアの統治者まで上り詰めている死神が、魔界人間などという虫けらに等しいゴミの社会をいちいち監視したり、気に掛けているとも思えない。


 それゆえ、特に目立つような行動になってしまいさえしなければ、まぁ路地裏でムカつく奴を蹴散らしたり、夜道で襲撃をして財産をゲットしたりなどということであれば、やってしまったとしてもそこまで影響はないであろう。


 ということですぐにその町へ移動をと、精霊様の口からクソ堕天使に告げさせて、それに案内をさせることとなった……



 ※※※



「それで、ここからはどこをどういう風に進めば次のエリアになるっていうのかしら?」


「あぁ、それならもうすぐそこだ、ほら、森の木々が不自然な感じにアーチを作っているだろう? あのアーチのラストまで行けば、ようこそ俺が守護をしている……けどこれから裏切って大変なことになるエリアへってとこだ……見ていやがれ馬鹿な我が神め、この俺を散々扱き使った報いを受けさせてやる……」


「それ、扱き使われていたり不当な扱いを受けているんじゃなくて、普通にあんたが低能なだけなんじゃないかと思うの……違うかしら?」



 断じてそのようなことはないと声高に主張するクソ堕天使ではあるが、今までの感じからするとそれには信憑性というものがまるで感じられない。


 確かかつてほんの少しだけ絡んだことのあるこのエリアの神、即ち死神は、そこそこ有能そうなキャラ設定であった気がしたのだから、精霊様の説の方がより説得力があるものだと、そう考えて差し支えないところだ。


 で、指定された通りに木々のアーチの間を抜けると……どうもコインパーキングとか高速道路のアレとか、そのような感じの大変簡素なバーが設置されていて……クソ堕天使が近付くとそれがシュッと開いたではないか……



「さぁ早くっ、ここを通過するにはボスキャラが所持していた、ティーチャーの方が握り締めている確率50%、そして股間のアレの所にしまい込んでいる確率が50%のキーアイテムを使わなくてはならないところ、俺の権限で普通に通過することが出来るんだ、もちろんその感じだとゲットしてないよな?」


「そんなとこ弄ってゲットするわけないじゃないのそんなのっ! で、それなしであんた以外が通るには……あ、くっついて『ひとつ』みたいな感じで行くのね……」


「その通り、俺が通過したところをこう、上手くバレないように、魔導センサーでも不正してるのがわからないようにくっつくんだ、スリップストリームに入ると速くて良いぞっ」


「マジでくだらねぇ作戦だな……」



 ありがちな、そして普通にバレがちな不正の方法を自信満々でチョイスし、そのまま推してくるゴミ堕天使。

 こんな奴がエリアの守護を任されているとは、やはりあの死神もそこそこ無能な奴なのかも知れないな。


 などと考えているうちに俺だけ置いて行かれそうになったため、慌てて最後尾のルビアに抱き付くようにして、あたかも巨大な荷物のようにしてゲートを通過する。


 これで遂に隣のエリアに、魔界侵攻の第二段階に移行することが出来たということであって、俺達の冒険はまだまだこれからだっ! と言ってしまいたくなる状況となった、実際に言ってしまえばそこで物語が終わりになるのではあるが。


 まぁ、それ以前にまだ前のエリアでやり残したこと、あの気色悪い寄生虫の完全な殲滅というミッションも残っているのであって、このエリア跨ぎはまだ暫定的なものにすぎない。


 それでも『先へ進んだ』と思えるのは、エリアを跨いで初めて見た光景がそう思わせるようなものであったためだ。


 森から出てすぐにある街道沿いには農業用地が広がっており、そこでは多くの魔界人間が働いている……いや、身分が低い奴が低賃金で無理矢理に働かされているのか。


 そしてその先、街道が続いた最終地点には、明らかに前のエリア最大の町よりも大きい、それこそ大都市ではないかと、そう感じさせるような巨大な町が聳え立っていた。


 とにかくまっすぐ進んでその町に入ってみよう、もちろん入り口には門番などが居てどうのこうのということになると思うが、このゴミ堕天使がいればどうということはないのであろうから……

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