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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1188 第二のエリアへ

「え~っと、そもそもどうやって装備したら良いんですか? このまま抱えてあげるのもちょっとヘンな感じだと思うんですが……」


「装備、というか持たなくても全然大丈夫ですっ、では突撃!」


「GUNの癖に敵に突っ込むんですか……しかも強いっ!」



 包まれていた高級な布地をバッと取って投げ捨て、再び全裸の状態になったうえで敵のクリーチャーワーム軍団のど真ん中に飛び込んで行く残雪DX。


 傍から見れば単なる露出狂の変質者であって、しかもあのウネウネテラテラと気持ちの悪いバケモノの群れの中に、武器も持たずに飛び込んで行くなど自殺行為でしかない。


 まぁ、そういっても本人が元々武器であるのだから、その指摘は当たらないというか、全裸であることについても特に問題などないはずである。


 しかし見た感じの印象が非常に悪いというか……まぁ、そんなことを考えている間に、全てのクリーチャーワームをエネルギーの込められた拳で殴り殺し、完全に消滅させてしまったのは凄いのだが……



「……ちなみに今、私の魔力を使って戦っていましたね、どうやったのかは知りませんが、こう、何というか……間接的に吸い取られているような感じでした」


「なるほど、エリナちゃんの力を使ってね……ということはさ、これからは残雪DXちゃんを前に出させれば、エリナちゃんが危ない所に突っ込まなくても良くなるってことじゃないかしら?」


「そうなると非常にあり難いんですが……ちょっと力を使われすぎです、燃費、とんでもなく悪いですよあの子……」


「まぁ、それはそれで問題だよな、とはいえ神界クリーチャー召喚でわけがわからんことになったエリナ以外にはアレを装備することが出来ないわけだし……しばらく我慢してくれ」


「あぁ、はい……魔力切れで倒れるまでは頑張りたいと思います……」



 クリーチャーワームが居なくなり、ボッコボコになったその戦闘エリアで偉そうにしている残雪DXと、その残雪DXに力を吸い取られ、一気に疲れ切った表情になってしまっているエリナ。


 そもそも最初から充填してある魔力でどうにかしろよとツッコミを入れたいところであるが、それを言ったところでどうせ聞き入れるようなタマでもない。


 ひとまず通常のGUN形態よりもこちらの方が遥かに強く、そしてもちろんクリーチャーワームの討伐も早いということがわかったため、エリナの体、というか魔力が大丈夫な限りは、しばらくこのまま戦わせてみることとしよう。


 ということで再出発し、原野を走り続けることおよそ3分、本日2度目のクリーチャーワーム戦では……最後の最後にガンメタのレア雑魚が出現したではないか。


 それを見て再び突っ込んで行った残雪DXは、見事に一撃でガンメタクリーチャーワームを消し去り、そしてドロップした『ガンメタル』を手に取って……普通に喰らいやがった……しかもボリボリと噛み砕いて、美味そうな表情でそれを飲み込んでしまったのだが……



「おいおい、お前そんなことして大丈夫なのか? 後で腹を壊したとか言っても知らんぞマジで」


「へ? 大丈夫ですよ、これからはこんな感じで、随時ガンメタルを摂取していきますから、それよりも後ろ……そっちの方が大丈夫ですか?」


「……あっ、エリナが真っ白になって倒れていますの、完全に魔力切れですわねこれは」


「ホントに真っ白……というか血の気が失せたって感じだな、大丈夫かエリナ? 立てそうか?」


「はれ~っ、ちょっと連戦はキツかったです~っ、もうちょっと休ませて下さい~っ」


「情けないですわね、これじゃあ今までガンガン進んできて短縮した分の時間が水の泡ですことよ」


「そんなこと言っても……やっぱ無理……」


「ダメだこりゃ、とりあえずちょっと座って休憩しようぜ」


「お腹も空きました、何か食べましょう」


「カレン殿はさっき食べただろうに、ほら、リリィ殿を見習って少し控え……寒くて固まっているだけなのか……」



 他にも空腹を訴える仲間が居たし、エリナよりも前にほぼほぼ凍ってしまったリリィをどうにかしてやらなければならない。


 こういうときに変温動物のドラゴンは困るのだが、まぁ、そこは温かくて柔らかいマーサを使えば、しばらくの間動けるだけの温度は回復するであろう。


 で、結局持って来た昼食をかなり早めに食べてしまい、隣のエリアまで行って帰って来るには、この後さらにペースを上げなくてはならなくなってしまった。


 だが今の感じだと再びエリナが真っ白になって倒れ付すのは時間の問題であって、やはり残雪DXにはそれなりの形態で戦って貰った方が良いのかも知れないな。


 というかそもそも、昨夜のパワーアップ儀式を終えて以降、残雪DXの『パワーアップしたGUNの姿』というのを見ていないではないか。


 もしかしたら、いや高い確率でその形状も変化していることであろうし、今のうちに少しばかり確認しておく必要があるのではないかと思う……



「残雪DX、今ちょっと良いか? 一旦GUNの形状に戻って欲しいんだが」


「あらあら、やはりこのような下等生物の姿ではなく、立派で美しい武器形態の方がお好みでしたか? やっぱそっちの方が興奮しちゃいますか?」


「うむ、どちらかというと今の姿の方が興奮してろぽっ! セラ、いきなり杖で殴るんじゃねぇよっ!」


「勇者様が馬鹿なことばかり言っているからでしょ、それで、私もちょっと今の残雪DXちゃんの『本当の姿』ってのを見てみたいところだわ」


「そうですかそうですか、ではここからモードを変えて……ちょっと3分ぐらい掛かりますから待っていて下さい」


「いちいち時間が掛かるのよねこの子……」



 何だかわからないが集中し始めた残雪DX、周辺には魔力の渦が出来て……その使われている魔力の供給源となっているエリナが、真っ白どころかミイラのようにカサカサになり始めているのは見なかったこととしよう。


 これはまた回復までにしばらく時間が掛かってしまうなと、そう感じつつも残雪DXを見守ると、最後はあっさり、ポンッと煙を噴いてGUNの形態に戻ったではないか。


 これまでのものとさほど変わらない感じなのだが、最初はなかったはずのスコープのようなものが付いていたり、銃身が少し長くなっているような気がしなくもない。


 それから、どうやら内部に溝が出来ていて、憧れのアームストロング砲のような感じになって……と、あまりジロジロと中を見るなと怒られてしまった。


 人間形態の時には素っ裸でその辺をウロウロしていたというのに、どうしてGUNの状態ではこの程度のことが恥ずかしいというのであろうか。


 だがまぁ、GUNにしてみれば発射口、つまりは口の中、或いは本当に最悪なことであるが、ケツ穴をガン見されているのと変わらない感覚なのかも知れないと思うと、その気持ちがわからないでもないといったところ。


 ひとまずこれで『狙い力』というか何というか、その部分につきパワーアップを果たしているのではないかと思うのだが……となると次にパワーアップした際に変化するのは、威力や連射力などになるのであろうか……



「はいっ、一旦こっちの姿に戻ります、どういうわけか話がし易いんで」


「それで、形状が変化した以外には何かあるの? 新しいモードが追加されたとかそういうのは?」


「そうですね、例えば強烈な一撃ごとにあったリロード時間が5%と短縮されたとか、あとほら、装備者の魔力を直接吸って強力な攻撃を出せるようになったのも新たな追加ですね」


「ちょっと待て、その機能は解除出来るんだよな普通に?」


「もちろんです、私に不可能はちょっとしかありませんから、任意でONOFFが可能ですよ……あ、もちろん『下等生物スタイル』で戦っているときにはちょっと無理かもですが」


「下等生物スタイルってのは人間形態のことか……で、それを解除出来るならすぐにしてやってくれ、エリナがもう持たない……あれ、おいサリナ、エリナは?」


「さっき灰になってサラサラと崩れ出したので、ひとまずこのゴミ袋にまとめておきました、魔力を吸われ続けているうちは回復しないでしょうねきっと」


「ということだ、すぐにそのモードをやめてかわいそうな悪魔が元に戻れるようにしてやってくれ……てかサリナ、弁当のゴミとエリナの灰を一緒にしてくれるな」


「そうするとゴミ袋がなくて……」



 従姉妹に対して酷い扱いをしているサリナであったが、まぁ、エリナの灰が風に乗って飛ばされてしまい、回復までにとんでもない時間を要することになってしまうのを回避したという点では評価しておこう。


 で、残雪DXがエリナの魔力を吸収し続けるモードを解除すると同時に、ゴミ袋の中で何かがキラキラと光出したのが確認出来た。


 そのままエリナの復活を待っていても良いのであるが、先を急ぐためにもここはそのまま出発してしまおう。

 もしこの先で敵に遭遇した場合には、リリィが召喚した土竜野朗を使ってどうにかしてしまえば良い。


 問題は先程のようなガンメタクリーチャーワーム、つまり土竜野郎が勝てない敵が出現した場合なのだが……まぁ、アレの出現確率は極めて低いわけだし、その心配はしなくても良いであろうな。


 ということで再出発し、何度かクリーチャーワームの群れに遭遇していたところに、ようやく完全復活を遂げたエリナが、皆で引き摺っていたゴミ袋を突き破って外に出て来た。


 頭には弁当の空容器が乗っかり、ソースのようなものがベチョッと顔に付いてしまっているのだが、とにかく魔力の方も、まだMAXとは言わないまでもそこそこ回復したらしい。


 そのエリナにもう魔力を吸い取られる心配はないということを伝えて再び残雪DXを装備させ、そこからしばらく進んで、ようやく魔界のエリアとエリアを繋いでいるという森の前まで辿り着いたのであった……



 ※※※



「ここがそうだったよな? で、この森を抜ければ隣のエリアに到達すると……マップとかないのかここの?」


「あ、そういうのは貰っていないわね、堕天使さんを連れて来るべきだったかしら?」


『えっと、それならば私が森と、その先のマップを用意しましょうか? ただし表示とかはまだ出来ませんが』


「……どういうこと?」


『魔導インストールするんですよ……あ、今完了しました、私の中には今、広大なこの魔界のごく一部が表示されていて……あら、この森に生息している敵の情報も出ましたね、レアなのも含めて倒せない奴等じゃないですどれも』


「便利な奴だな、じゃあ早速どっちに行くべきなのかナビしてくれよ」


『え~っと、ちょっと待って下さいね、良く考えたら私、マップの読み方とかイマイチわからなくて……地図記号とかも知らないですし……』


「やっぱ使えねぇなコイツ……」



 マップを用意したは良いものの、それを使いこなすことが出来ずに四苦八苦している残雪DX。

 どうにかして印刷など出来たら良いのだが、このような世界に、しかもこんな場所にプリンターなどは存在しない。


 仕方ないのでそのまま、どうにかこうにか『こっちだ』と示す方向へ向かって行くのだが……こういうときほど人間の姿の方がやり取りし易いというのに、未だに武器の形態のままであるのを指摘するべきか否か。


 まぁ、どうせ言ってやったところで指摘を受けたことにムカつくなどして反発するであろうし、そもそも装備して貰うことによって自分で歩かなくて、または飛ばなくて済むため、それで楽をしているように思えなくもないな。


 どのみちすぐに雑魚クリーチャーとの戦闘になることだし、しばらくはこのままで……などと思っていたら早速敵らしき気配がどこからともなく接近して来たではないか。


 上か下か、或いは左右か背後か、とにかく前でないということだけは確かなのだが、肝心の敵の気配が上手く感じ取れないような状態。


 もしかすると音などが森の木々で反響してしまっているのか、いや、そうであればこれまでにも同じような状況になっているべきところだ。


 であれば、やはり敵自体がそういうタイプ、相手に気配を察知され辛いタイプのものなのであろうかと……カレンもマーサもイマイチ感じ切れていないらしいし、これはかなり警戒が必要だな……



「ねぇちょっと良いエリナちゃん? あそこに攻撃してみて」


「あそこというと……こんな感じですかっ?」


『ギョェェェッ!』


「やっぱり、何か居るような気がしていたのよね、見えはしなかったけど」


「てか死んだようなのにまだ姿が見えないぞ、おい残雪DX、今の何だかわかるか?」


『きっと森のクリーチャーだと思いますよ、てかそんなこともわからないんですか? 馬鹿なんですか? 下等生物なんですか?』


「それはわかってんだって、そのクリーチャーの中のどれだよって話、わかる? わからんか所詮『物』でしかないお前には? んっ?」


『また調子に乗って、え~っと、今のは……姿が見えなくて気配も上手く感じ取れないという特徴からすると、この森に住むという限界陰キャぼっちクリーチャーですね。魔界人間のような形をしていて、居るのか居ないのかわからないほどに存在感が薄くて、物凄い陰キャであったためクラスで浮いてしまった魔界人間の成れの果てである可能性が非常に高いという情報があります。ちなみに攻撃は知らない間に背後に回って、いきなりブチギレしたかのように暴れて襲ってくるという非常に危険なものです……わかりました?』


「良くわからんがやべぇ奴だってのはわかった、この期に及んで死体が見えないどころかどこにそれがあったのかもわからなくなってきている辺りもな」


「困ったわね、あんなのが無数に存在していたら先へ進めないわよ、特に音で気配を感じ取れないってのはこのパーティーにとって凄いマイナスよね……このままだと森を抜けるまでに相当な時間……というか何週間もキャンプとかして進まないとかも……」


「えっと、それは非常に困ります、年が明ける前に一旦王都に戻らないと、今年の福袋はかなり気合を入れて抽選に臨まないとならないと、かねてより思っていたところでして」


「ミラ、福袋は魔界でも売っているはずよ、そっちを買いなさいそっちを」


「イヤよお姉ちゃん、あの魔界の町じゃ変な寄生虫がビッシリ付いたものばかりなのよっ」


「あ、そうだったわね、福袋は元の世界で買わないとダメみたいね……」



 急に福袋の話を始めたセラとミラであったが、ひとまず話を戻して……どういうわけか福袋の話題で持ち切りとなり、今しがた脅威を感じた敵のことを皆忘れてしまったようだ。


 この『すぐに忘れられてしまう』というのもぼっち陰キャクリーチャーの特徴、というか脅威となるポイントなのであろうが、今はすぐにそのことを思い出してやらないとダメである。


 この森に居る限り、絶対にまた同じクリーチャーが襲撃を仕掛けてくるのであって、それに足止めばかりされていては福袋どころではないのだから。


 それに食糧があまりないため、もし時間を要するということが確定すればその調達に関しても考えなくてはならないのだが、この状況をどうしてくれようか。


 ひとまず最も福袋のことを語っているミラを止める、それ以外に方法はなさそうな感じだな……



「おいミラ! このっ! ちょっと福袋やめいっ! それっ!」


「いでっ、ひゃっ、きゃんっ……どうしてお尻叩くんですか? そういうのはお姉ちゃんにすれば良いのに」


「そうよ勇者様、ほら、こっちも引っ叩きなさい……あいたっ」


「冗談はさておきだ、今はちょっと福袋の話をやめろ、ぼっち陰キャクリーチャーについて真剣に考えないとならないタイミングだぞ今は」


「あ、そうでしたそうでした、それで、どんな対策をしますかね?」


「そうだな、まずはさっきマーサが見つける前に、どうしてあのクリーチャーが攻撃を仕掛けてこなかったのかについて考えるべきじゃないかな?」


『……あ、ちょっと良いですか? ぼっち陰キャクリーチャーについてなんですが、どうやら相手が陽キャっぽい、しかも男女混成のグループだと攻撃を仕掛けてこないと、そういう情報がありますね』


「それを先に言いなさいよっ! このっ」


『いてっ、どうしてこの集団は暴力ばかり振るうんでしょうかいつも……』



 残雪DXの口……まぁ口とは言い難いのだが、とにかくそこから語られた新たな情報は、俺達にとって非常に都合の良いものであった。


 奴が『陽キャっぽい集団』であれば攻撃を仕掛けてこず、遠くから恨めしそうに見つめるだけであるということ、そして俺達がどう考えてもその『陽キャっぽい』に該当するということだ。


 特にマリエルなどは一国の王女様であり、人気もあって性格も明るい、もちろん頭は悪いのだが、これはもう陽キャオブ陽キャと言って良い存在である。


 そして他の仲間達も容姿端麗であって、それこそ最高のランクに位置する存在ばかりであるから、これはもうその陰キャのクリーチャーなどガン無視して先へ進んで良いということではないか。


 これがわかってしまったため、俺達は安心して、敵の気配を感じてもそこまで注意を向けることなく先へ進むことが出来た。


 途中、靴紐を結び直していて仲間と離れた俺が、ついにその姿を現した陰キャの襲撃を受けてしまうという場面はあったのだが……もしかして俺だけは『陽キャではない』と判断されてしまったのか……


 とにかく、そんなこんなで森を進み、やがて陰キャも成りを潜めたところで、ようやく新たなタイプの敵が登場する気配を見せた。


 今度は遠くからでも聞こえるような爆音と、とんでもなくうぇ~いな感じの泣き声である。

 これは先程まで頻繁に出現……はしていないのだが、接近してきていた敵と真逆のものだ。


 きっと陽キャクリーチャーとかそういうタイプのもので……間違いない、とんでもない数で徒党を組んで、ヘラヘラと笑いながらこちらを指差している、魔界人間のような見た目の集団が接近して来た……

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