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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1187 形態

「……おいっ、起きろ残雪DX、お前マジでどうなってやがんだ? 普通に考えて人間としか思えないような形状になっているじゃねぇか、おいっ、聞いてんのかこのタコがっ!」


「……何ですかぁ~? まだ夜中だと思うんですが……というかどうして私は意識が途切れて……誰か勝手にスイッチとか弄りませんでした? ガチャガチャやってOFFったりしてませんでした?」


「いやお前ON/OFFがあったのかよ、だったらずっとOFFにしとけばちょっとは静かに……とかじゃなくてだな、お前、その格好は相当にやべぇぞ、どうしてそうなったんだ?」


「格好? 何を言っているんですかこんな夜中に、アレですか、人間類なる下等生物が良くやるという寝惚けてどうのこうのとか、とても脳が真っ当に働いているとは思えないエラーの類ですか? だとしたら凄くカスですよ、生きている価値などなく、当然ながらこの私に話し掛ける権利など……」


「ちょっと黙れこのボケ、で、お前は自分その人間類なる下等生物に程近い姿になっているということ、それについての認識はないのか? だとしたら凄くカスだぞ、生きている価値などなく、当然ながらこの俺様に話し掛けることなど……」


「ちょっと勇者様、それともう1人誰か、うるさいですよこんな夜中に、変な夢でも見ていたんですか……てかもう1人は誰なんですか? あ、変な夢を見ていたのは私のようですね、ではもう一度おやすみなさい」


『・・・・・・・・・・』



 どうやら残雪DXがこのような状態に変化してしまっているということに気付いたのは俺だけではないようで、もちろんそれについて肯定したりはしないのだが、ひとまず一瞬だけ起きてきたミラにも、この目の前の武器が人間に見えていたということだ。


 もちろん本人……ではなく本武器がそのことを認識していないのだし、それがかなり問題であるということは言うまでもないのだが……果たしてどのようにしてこの残雪DXに、自分が人間化してしまっているということを知らせてやろうか。


 まず目で見て実感、というのはこの暗い中ではあまり現実的な方法ではないな、俺には見えていても、人間化したばかりの残雪DXが、本来の人間様と同程度の視力を有しているとは限らないためだ。


 それ以外には口で伝えるか、或いは……揉んで触って実感させていくしかないのであろう。

 さすがに感触がおかしければ、自分でもそれを触って確かめようとするはずなのだ。


 そしてまず、咄嗟に自分の手を、人間の形態になった手で自分の柔らかくなったボディーを確かめようとした際に、それで自分が人間チックな存在に変貌していることを認識するはず。


 あとは明るくなった後に鏡、或いは美しい水面に映り込む美しい自分を見てそれを確信してくれればそれで良い。

 認識した後にどうなるのかという問題はあるのだが、ひとまずそれで色々と解決に向かうことであろうから……



「お前、ちょっとこっち来い、ほらこっちだ」


「何を言っているんでしょうか? 私はGUNなんですから、移動したければ持って頂かないと、それに今はパワーアップの最中で、変な動かし方をすると時間が……と、それはもう終わっているようですね、となると……」


「それがもう終わったからすげぇ見た目に変化が出てんだ、もう自分で歩くことが出来るはずだし、そもそもほら、これがおっぱいだっ!」


「ひぃぃぃっ! 何か凄いアレな感覚が……は? えっ? 私、もしかしてこの姿……パワーアップじゃなくて下等な人間類に、あの私を造ってその後ワゴンセールの木箱にブチ込みやがったクソジジィと同じような姿になっているということですかっ? 困りますよそんなの、これでも私は魔界最強で伝説で、他を寄せ付けない美しさと聡明さを兼ね備えた者なんですから、まさか人間類なんてっ」


「いや、だからその人間類の魔界人間に造られたモノなんだろうがお前は、しかも使うのも人間の類なわけだし、自分で言っていて色々とおかしいとか思わないのか実際?」


「あの~っ、さっきから何をしているんですかご主人様は? 誰ですかその美少女は? 誘拐して来ちゃったとかですか?」


「あ、起きたのかルビア、てか誰がこんな奴誘拐して来るってんだよ、良いか? コイツはここに居た、じゃなくてあったんだ元々、つまりどういうことかわかるか?」


「えっと……やっぱりご主人様、誘拐は良くないと思いますよ」


「じゃねぇっつってんだろぉがっ! 尻出せ尻! お前はもうお仕置きだっ!」


「ひぃぃぃっ! もっとお願いしますっ、もっとお願いしますっ……って、皆起きて来ちゃいましたよ……」


「……しょうがねぇな、明かりを点けて状況を説明してやろう、俺が犯罪者扱いされる前にな」



 理解力が足りなさすぎるルビアにお尻ペンペンの罰を与えていたところ、その音のせいで他の仲間のほとんどが起きて来てしまった。


 若干名寝たままのメンバーも居るのだが、とにかく起き上がった者については、全員がこちら、というか台座の上の謎美少女を見ている。


 ルビアのように俺がコイツを誘拐して来たと思う者は少ないはずだが、それでも一定の説明をしておかないとならないのだけは確かだ。


 コレが、この美少女がつい先程までGUNであった、物の分際で調子に乗りまくり、迷惑を掛けまくっていたあの残雪DXであるなどとは、誰も思わないであろうから。


 と、まずは台座から降りて、ついでに何か羽織るように指示しなくてはならないな……まぁ、今はまだまともに手足を動かすことが出来ないようだが……



「よいしょっ……むっ、歩くというのはかなり難しいうえに、飛ぶのと比べ非効率的なようですね、ゴミのような下等生物がいつもせっせとしているだけのことはあります」


「……ねぇ勇者様、やっぱりその子のその喋り方とか、あとムカつく感じとか……もしかして残雪DX……ちゃん?」


「そうなんだよ、どう考えてもおかしいんだが、このガンメタ髪の美少女が残雪DX……残雪DXちゃんなんだ、ビックリだよもう」


「それよりも早く明かりを点けてみましょう、勇者様、やらないならそれ貸して下さい」


「ん? あぁ、じゃあちょっと灯してやってくれ、コイツ、素っ裸だけど良いよな?」


「きっと服なんか着ないんじゃないかしら? 恥ずかしいとかそういう概念はなさそうだし、そのままで良いわよ」



 未だに眠そうなミラが明かりを点けると、素っ裸の美少女型残雪DX、その全体像が露わになった。

 ガンメタ髪はともかく、肌はスベスベでとても無骨な武器であったなどと思わせないほど。


 また一応立ってはいるが、生まれたての子鹿のようにプルプルと、とてもまだ『起立』が出来るような状態ではなく……だがまぁ、最初よりはマシなようだ。


 このまま放っておいても特に危険はないし、もしコケたとしても壊れてしまうことはないであろうから、支えてやるようなことはせず、逆にその手を引っ張って皆の前に連れ出す。


 最初は驚いていた仲間達も、それが明らかに残雪DXであると認識し始めたらしく、触ってみたり突いてみたり、コンコンと頭を叩いてみたりと色々試している。


 ちなみに、肝心要の使用者、エリナは未だ布団の中で寝息を立てたまま、この騒動に気付くことなく夢の中に滞在しているのであった。


 まぁ起こすのもアレだし、このまま朝まで待ってから『紹介』してやることとしよう。

 なお、途中で起きてきたマーサは、その鉄臭いのか何なのか、臭いからコレが残雪DXであると看破していたから侮れない。


 で、適当にベタベタと触った後、抱えて台座の上に戻してやったのだが、ようやくまともに歩けるようになった残雪DXは、ひとまずこの部屋から徒歩で出てみたいなどと言い出した。


 先程まで歩くこと自体を底辺の存在がする何かのような感じでディスッていたというのに、自分がそれを出来るようになった途端にこれだ。


 しかも素っ裸のままであるため、外に出たら出たでまたトラブルに巻き込まれかねないではないか。

 ベースが武器とはいえ、この状態での戦闘力はまだ魔界人間……はおろか、それよりも相当に程度が低い、俺達の世界の人族レベルの残雪DX。


 普通に露出狂の痴女だと思われて逮捕されるか、或いは公権力とはまた違う何かに発見され、そのまま襲われたり、それこそ誘拐されたりといったようなことになりかねない。


 ということで外出は明日の朝にしろと、そう言って聞かせてみるのだが……そんな指示に従うような『物』ではなかったな、ひとまず縛り上げておくこととしよう……



「ひぃぃぃっ! ちょっと! 何でこんなスタイルにっ、持ち運びのための何かとかならまだ良いですけどっ、こんなっ、このっ、梱包されているみたいな……」


「相変わらずやかましい奴だな、ルビア、もっとギッチギチに縛っておけ、ついでに天井から吊るしてやるんだ」


「わかりました、それっ!」


「ひょげぇぇぇっ!」



 人間の姿になって初めてされた暴行が、まさかのエビ反りスタイルで縛られて天井から吊るされるという謎プレイであった残雪DX。


 これはこれで『飾っている』感があって非常に良いのだが、あまりにもうるさくて困るため、結局降ろして木箱に封入し、緩衝材を大量に詰め込んで消音しておいた。


 それでもなおガタガタと騒いでいたようだが、次第に体力を失っていったようで、朝方にはピクリとも動かなくなってしまったようだ。


 完全に朝日が昇った頃に木箱の蓋を開けてみると、緩衝材の中で普通に居眠りをしている残雪DXの姿があった、あったのだが……魔力が切れてしまっているため目を覚まさない、これは俺以外の誰かが対応する他ないな……



「ちょっと誰か……あ、起きたかエリナ、せっかくだから残雪DXに魔力を注入してやってくれ」


「あ、ふぁ~い……と、その残雪DXさんが台座にありませんが……それと、どうして美少女なんか誘拐して来たんですか勇者さんは? しかも眠らせてまで何をしているので?」


「だからっ! あそうかっ、お前昨晩ずっと寝てたから知らんのか、コレが残雪DXなんだよ残念ながらっ、意味わかんねぇけど人間スタイルになったんだ」


「いや意味わかんないじゃないですか⁉」


「意味わかんねぇっつってんだろ、とにかく、昨日ちょっと暴れすぎて魔力切れらしいんだ、どうにかしてやってくれ」


「どうにかって、この状態からどうやって魔力を充填したら良いのかなんてわかりませんよ……」


「……鼻から突っ込んでみたらどうかしら? あそれっ」


『精霊様⁉』


「ひぎぃぃぃっ! 何か……魔力がツーンと辛い……って何してんですか一体?」


「いや俺は知らんが、精霊様が勝手にやったことであってな……でもお前、魔力を充填してやるっていうのか注入してやるっていうのか、とにかくどうやったら良いのかわかんねぇんだよマジで」


「それならそうと先に行って下さい、いくら何でもこの高級な私に、変な所から魔力を流し込むなんてそんな、ほら、人間類と同じように口があるでしょう、何かに魔力をトッピングして頂ければ、そこから自分で回収しますから、馬鹿なことしないで下さい馬鹿なことをっ」


「……ちょっとムカつくわね、エリナちゃん、ちょっとその子押さえて、お尻から魔力を注入してみるわ、破裂するぐらいにね」


「へ? あ、ちょっとっ、そのっ、そんなっ、ひゃぁぁぁっ! それだけはやめて下さいぃぃぃっ! 発射、発射されちゃうぅぅぅっ!」


「何が発射されるってんだよ? てか良いじゃねぇか、魔力がガンガン充填されてんぞ、ついでにこのケツをパチンッと」


「ひゃんっ、は、発射!」


「なっ⁉ ぬわぁぁぁっ!」



 精霊様にカンチョーされながら魔力の充填を受けていた残雪DX、人間状態ではあるが、それでも魔力はどんどん溜まっていく。


 で、ついでに俺のこれまでの鬱憤を晴らすため、その辺に落ちていたお仕置き用の鞭でビシッとその尻を引っ叩いてやったところ、いきなり『発射』されてしまったではないか。


 発射といってもエネルギー波が、その前に突き出された両掌から『発射』されたのみであって、エネルギーは注入している精霊様の魔力が転化したもの。


 もちろん仮設庁舎の窓を軽くブチ抜き、というっか壁もかなりの範囲で破壊したエネルギー波は……昨日やってしまったのと同様、凄まじい勢いで地面を抉りつつどこかへ飛んで行ってしまった。


 そして今回が前回と異なるのは、その攻撃が『発射』された場所のすぐ近くから、魔界人間の暮らす町が続いていたということである。


 ズバァァァッという表現でしか言い表すことが出来ない程度に破壊された町に、隣の部屋の窓から飛び出した堕天使さんが舞っているのが見えた。


 そして今回も俺達は一切関係がない、やったのは残雪DXであるということで……まぁ、そうであるということをゴリ押ししておくべきところか……



「ちょっとっ! また町を破壊してしまってどうするつもりなんですか? 支配するんじゃなかったんですかこの町を? 100匹は死にましたよ今ので魔界人間がっ! 汚いし片付けるのが面倒だし、あと町を直す労働力も減ってしまうんですよっ!」


「いやだからコイツだってば、コイツを引っ叩いたらいきなり発射しやがってだな」


「そんなっ、私はGUNなんですよっ、あんな場所を叩かれたら衝撃で発射してしまうのは当然ですっ」


「なるほど、じゃあ今度は敵に向けた状態で引っ叩いてやれば良いんだな? どうせ服とかも着ないんだろうし、そのまま無様に四つん這いになって、せいぜい『発射』でもすることだな」


「ぐぬぬぬっ、戦闘時はGUNの形状に戻るので大丈夫ですっ」


「そうかそうか、じゃあその際にはぜひぜひ静かにしておいてもらって……」


「あの、そのガンメタの少女は……もしかして残雪DXなのですか? どうしてそのような姿になってしまったというのですか? それではまるで下等な人間ではないですか? せめて翼をですね」


「ちょっ、堕天使さんお前も捕虜の癖にうるさい、今のコイツみたいに素っ裸にされて、公衆の面前でお仕置きされたくなければ、とっとと町の復旧作業でも始めるんだな」


「はっ、はいぃぃぃっ!」



 これでひとまず関係者全員、いや疫病をレジストする魔界の女神にはまだ伝えていないのであるが、それはもう神である以上物事を察しているはずだから良いとして、全員に残雪DXの見た目が大きく変化したことについての情報が回った。


 あとはこの人間のようなスタイルのまま、しかも無駄に素っ裸のままどう行動させるのかについてなのだが……ひとまず外に連れ出す際には布で包むなどの措置を施そう。


 ちょうど良いのはこれまで残雪DXを鎮座させてあった台座の、紫に輝くテカテカした布。

 エッチなパンツのようなその生地であれば、きっと満足して包まれて、そのまま大人しくしてくれるに違いない。


 あとは……このままの状態で少し冒険、というか戦闘をしてみて、どのような感じでGUNの形態に戻ったりするのか、またこのままでは戦闘面でどんな不都合が生じるのかなど、色々と確かめていきたいところだ……



「よしっ、このままちょっと戦いに出てみようぜ、目標は……どうする?」


「せっかくここまでやってきたんだし、遂にこのエリア? から出てみるってのはどうかしら?」


「なるほど、北側の森を抜けて隣のエリアを攻めるのか……うむ、すぐに帰って来ることとして、ちょっとだけ侵入してみるってのもアリだな」


「もちろん、本格的な侵攻は大蟯虫クリーチャーの件がホントに完全に片付いてからということで……いつになるかはわからないけど……」


「そうなるともうずっとこのエリアに懸かり切りになるような気がしてならんな、魔界制圧の道は遠いぜ」


「……あの、さっきの発射で費やしてしまった分の魔力を……あとGUN形態のときに必要な鉛玉もそろそろ……」


「おう、それはエリナ、またケツから注入してやってくれ、ただし完了時にパチンッとやらないよう気を付けてな」


「ひぃぃぃっ! だからどうしてそんなやり方なんですかっ?」



 すっかり『人間らしい動き』が出来るようになってしまった残雪DXであるが、これが本当にGUNの姿に戻るというのであろうか。


 まぁ、もし戻らなくなってしまったとしても、この状態で『発射』して敵を攻撃することが可能であるとわかったのだからそれで良しとしておこう。


 そしてこの状態での実験として、このまま別のエリアに移動してみるわけだが、出発前にまず肝心の残雪DXを、高級な紫のテカテカ布で包んで……抵抗はしないようだ。


 どことなく顔だけ出したミイラ……にしては色合いと艶感が高級であるが、とにかくそんな感じで『お包み』された残雪DXを運び出し、先程の攻撃で多大なる被害を被り、泣き叫ぶ魔界人間共を適当に掻き分けて先へ進む。


 瓦礫の山で途方に暮れている暇があったら大蟯虫クリーチャーの検査でもすれば良いものを、こんな感じだから魔界人間は無能として、堕天使他から適当な扱いを受けるのだと、そう言ってやりたいところであったが今は良い。


 くだらない連中の相手をしている暇に、少しでも魔界への侵攻を先に進めた方が俺達にとって良いためだ。

 それゆえ町から出て、街道も無視して原野を突っ切り、隣のエリアへ移動するための最短ルートを……



「っと、やっぱりお出ましだなクリーチャーワーム共め、エリナ、残雪DX、早速パワーアップ分を実験するチャンスだぞ、リリィは土竜クリーチャーなんぞしまっておけ、他の皆は下がって」


『うぇ~いっ』



 こうして人間のような姿に成った残雪DXの初陣が始まった、ここではGUNの形態に戻らず、そのまま戦いを始めるようだ。


 この姿は可愛くて良いのだが、もし威力の方がちょっとアレな感じになっているということであれば、せめて戦闘時だけでも元の携帯に戻って頂くこととしよう、まずは少し様子見である……

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