1185 休憩所の敵
「……そのトッピング、ちょっと中とか見せて貰えませんかね? 粉のようなもの……みたいですけど、ちょっと口に入れて良いものなのかどうかわからなくて」
「・・・・・・・・・・」
「あら、答えないってことはアウトなシロモノってことなんじゃないですかね? ご禁制の品ですか? それとも……もっと危ないものなんでしょうか?」
「……こちら商品になります、どうぞ」
「だから、ちょっとそのブッカケした粉みたいなの、それの正体がわからないと食べられないんですよ、ホントに何なんですかそれ? ねぇ?」
「……こちら商品になります、どうぞ」
「……どうやら確定のようですね、勇者さん、この人『ガワ』は人間だけど、『中身』はちょっと別の何かですよ、まぁ、生きてはいるみたいですが」
「そうなのか……うむ、どう思うカレン? マーサも、音とかでは判断出来ないのに中身は大蟯虫クリーチャーってことがあると、そういう考えも出来るのか?」
「わうっ、もしかしたら中身は魔界人間さんのままで、ホントにただどこかから操られているとか……どこかは知らないですけど……」
「遠隔操作よっ、絶対に遠隔だわ、この間王都の野菜市場でパチンカスってジョブの人がそうやって騒いでいたもの、魔界にもその遠隔てのがあるに違いないわよ」
「マーサちゃん、パチンカスはジョブじゃなくて、きっと無職ですその人達……」
適当なことを言っているように思えるのだが、エリナがこの屋台の店主を大蟯虫クリーチャーの類だと主張していて、そして音に敏感な2人がそうではないと、中身さえも置き換えられていないと判断している状況は変わらない。
で、そうなるともうこのハゲを捌いてみるしかないということになるのだが、やはりこのハゲのテカテカしたヘッドの部分がアンテナの役割を果たし、マーサが言うようにどこかから遠隔操作されているのであろうか。
だとしたらこんな世界においてはハイテクが過ぎるし、そもそもそれが出来てしまうのであればもう俺達に勝ち目などない。
大蟯虫クリーチャーは町の人間全てをそのようにして操り、それぞれが奴等の卵を口から摂取、或いは直接ケツにブチ込むように促せば良いのだから。
まぁ、ひとまずはそうでないことを祈りつつ、このハゲを捌いて調べていくことになるのだが……どこをどうやって解体していけば、大蟯虫クリーチャーによって操作されているという証拠が得られるのであろうか……
「え~っと、どうすんだよこれマジで? おいエリナ、普通にぶっ飛ばしてもグチャグチャの肉塊になるだけだぞ、残雪DXなんか向けても……そうか非殺傷モードを使用するのか」
「そうです、これであれば一撃で殺すことなく、この『素体』を動かないように、もう二度と使えないようにしてしまうことが出来て……色々と飛び散るので離れていた方が良いですよっ」
「おうそうだな、ちょっ、皆下がってくれ、ついでに後ろのエロそうなモブ共も殺しておけ」
『うぇ~いっ』
エリナだけが屋台の前に、そして俺を含めたその他のメンバーは後ろで、先程からの騒ぎに何だ何だと詰め掛けているモブキャラを適当に殺戮し、それが逃げて行ったため空いた場所に陣取る。
そんな状況にあっても、屋台の店主であるハゲはまるで動こうとしない、どころか普通に串焼き肉を焼き続けているのだから不気味だ。
これはもう通常の魔界人間などではないなと、そう思わせるようなムーブなのだが……果たしてこのどこに大蟯虫クリーチャーが潜んでいる、或いは遠隔操作のためのシステムを組み込んでいるのであろうか。
残雪DXを非殺傷モードにしたうえでハゲに向けるエリナ、一応人に向けてはいけません的な注意書きもあるに違いないが、このハゲはもう人でも何でもないと仮定しているため、その注意書きは当たらない。
で、慎重に狙いを絞ったうえで、可能な限り頭部を避けて……股間を狙っているらしいエリナ。
そんな所をデストロイされそうになれば、通常の人間であった場合には直ちにガードの姿勢を取るところだ。
まぁ、そもそもわけのわからない兵器を向けられている時点で逃げないのがもうアレなのだが……と、そのまま串焼き肉を焼き続けたハゲは、遂に股間に攻撃を受けて後ろへ吹っ飛んだ……
「……さてと、どうですか? そのトッピングの粉について話してくれる気になりましたか? それとももう一発お見舞いして差し上げましょうか?」
「……こちら商品になります、どうぞ」
「どうやらそれしか喋れないようですね、大蟯虫クリーチャーなので人間の言葉を知らないんでしょうか?」
「……大蟯虫クリーチャー……大蟯虫クリーチャーではない、いらっしゃいませ……こちら商品になります、どうぞ」
「もう完全に崩壊してんじゃねぇかコイツ、おいっ、もうバレバレなんだから正体を表せ、さもねぇとこの『素体』ごと焼き払うぞ」
「……プッ!」
「うわっ⁉ 何か痰みてぇなの飛ばして……掛からなくて良かったぜ、マジで汚ったねぇ野郎だな、死ねよボケ」
「待って下さいっ、その今この人が吐いたのっ……やっぱりそうですっ、勇者さん、素手でガシッと捕まえて下さいっ!」
「は? え? 無茶言うなよ汚らしい……っと、コイツ、クソみてぇに小さい大蟯虫クリーチャーなのかっ?」
『ふっふっふ、バレちゃあしょうがねぇ、この俺様が体内に侵入して、この魔界人間の脳幹で行動を支配しているのをどうやって知ったのか疑問だが、どうやらこれまでのようだな』
「いや知らなかったし遠隔だの何だのって騒いでいたんだがよ……で、お前何なわけ? ステルス大蟯虫クリーチャーとかそういうのでもないよな?」
『俺様か? 俺様は……おっと、時間がきてしまったようだ、俺様は魔界人間に寄生していない状態ではあまり長く生きられなくてな、最後に中身をブチ撒けて……ブッチュゥゥゥッ!』
「げぇっ、破裂しやがったぞ、気持ちの悪いバケモノだなホントに……」
本当に小さな大蟯虫クリーチャーであったのだが、それが体内に侵入、どころか直接脳に移動してそこで魔界人間を操っていたのだということがわかった。
これではカレンでもマーサでも人間かどうかの判別のしようがないし、むしろどうしてエリナがこれを看破したのかがわからない。
で、その大蟯虫クリーチャー……というかもう蟯虫でもないような気がしてならないのだが、それが『素体』にしていた屋台のハゲの方は……ズタズタながらにまだ息があるようだ。
すぐに残雪DXの回復モードで撃って治療しようと、そうエリナに指示しようとした矢先、珍しくルビアが自分から動いておっさんに回復魔法を使った。
一応、ルビアも自分のポジションが脅かされることを危惧しているのであろうが、この間の神界クリーチャーといい残雪DXといい、さすがにルビアの代わりにメンバー入り……などと言うことはあり得ない。
そんなルビアによる回復を受けて傷ひとつない姿に戻った屋台のハゲであるが、ムクッと起き上がった後、キョロキョロと辺りを見渡して不思議そうな顔をしている。
どうして自分がこんな場所で倒れているのか、ここ最近で何が起こったのかは思い出せないらしく、ただただ困惑するハゲではあるが、念のためコイツから事情を聞いてみることとしよう……
「おいおっさん、お前だよそこのハゲ、気が付いたなら早く立ち上がれ、さもないと殺すぞ」
「……き、君は一体何なんだね? 言っておくが俺はヤ○ザの構成員で、シノギとしてこの屋台をやっていてだね、君如きが本気になったところで、俺のバックには組が付いているんだからね? わかるかな?」
「ゴチャゴチャうっせぇんだよこのハゲッ! お前さ、これまで一体何やってたのかわかってんの? 串焼き肉にブッカケしてたこの粉は何? シャブじゃねぇよな普通に?」
「粉? 粉ならいつも粗悪品を高品質なものであると偽装してその辺の馬鹿共に売り付けてはいるが……屋台の串焼き肉なんぞにそんな上等なもんをブッカケしたことは……ホントだっ! 俺の屋台にこんなもんは……」
「マジでどうしようもねぇハゲだな、ちょっと精霊様、その粉鑑定しておいてくれ、サンプルもちょっと頼む……で、おいハゲ、お前は大蟯虫クリーチャーのちっさいのに操られていたんだが、それでもやったことはやったことだ、よって死刑に処す」
「は? 何言ってんの君は? どんな権限があって……しかも何か結構人死んでねぇかこの辺り? ちょっと、マジで何なんだよ君達はっ?」
「だからうるせぇって、喋んじゃねぇよこの死人が、おいっ、そっちの隅っこでガタガタ震えている奴等、お前等がこのハゲを殺れ」
「……へ、へいっ」
騒ぎの中、明らかな危険を感じて近くの馬車の後ろなどに隠れていた連中、どうせもうこの場所で大蟯虫クリーチャーの卵を植え付けられているのだから、このまま逃がしてしまうわけにはいかない、つまり殺すべき対象だ。
だがその前に、あまり手を触れたくもないし、また俺達の高級な一撃を喰らわせてやる価値もないハゲを、徹底的に痛め付けて殺すのには十分な力を有しているはず。
なお、この休憩所から逃げ出そうとしていた連中もそこそこ居たらしいのだが、最初に精霊様が張っておいたトラップのような結界に引っ掛かったらしく、悉く全身を切り刻まれたうえで、動けなくなったところを生きたまま焼かれるという非業の死を遂げたらしい。
で、バックにヤ○ザが居るからどうのこうのと喚き散らしているハゲに手を出せずにいるその生き残りのモブ共に対して、そいつのせいでお前等も終わりであるということを伝える。
普通に旅をしてあの町へ、あと数日あれば辿り着いたのであろうこの連中も、その数日を待たずして大蟯虫クリーチャーになってしまう、それを理解させるのにはかなり苦労したが、それでも先程のアレを見たことで、俺の話を信じる者はそこそこに多かった。
また、ハゲが串焼き肉にブッカケしていたパウダーが、実は乾燥した大蟯虫クリーチャーの幼体や卵のようなものであるということが、水のレンズを使ってそれを鑑定した精霊様によって明らかにされる。
もちろんその拡大した映像はモブ連中にも公開され、明らかに普通でない何かが、カラッカラの状態でそこにあるということが確認出来る内容だ。
で、そのまるでちりめんに入っていたバケモノのような姿を見てしまったモブ連中は、ようやくその怒りの矛先を屋台のハゲに向ける。
ボッコボコのけちょんけちょんにされながらも、やはりヤ○ザがどうのこうのと叫ぶハゲ。
その開いた口には誰かの足が突っ込まれ、顎が外れて二度と『ヤ○ザ』という言葉を発することが出来なくなったようだ。
というか、コイツは自分で何かをどうにかしようと思ったことがないのか、そんなことさえも出来ない馬鹿なのかと思ってしまうが、まぁシャブ売りのヤ○ザなどその程度の知能しか有していないということか……
「さてと、アイツが死んだら燃やせば良いだけだよな……で、他にも屋台があるみたいだが……」
「この状況で誰も逃げずにせっせと料理をしているってことは、もう全部それってことで確定よね?」
「だろうな、奴等逃げるってことを知らないみたいだし、エリナ、どうやって始末するんだ?」
「そうですね、そしたら……あ、1匹だけ立ち去ろうとしているのが居るみたいなんで、まずはそれから……っと、邪魔しないで下さい、あなた方は後でちゃんと殺しますから」
「おいっ、そいつを守ってんじゃないのか他の大蟯虫クリーチャーは? 逃がすんじゃねぇ……というかアレか、精霊様の結界があんのかそこには……あ、引っ掛かりやがった」
タイミングを見計らい、無数にあった屋台の店主のうち1人、いや1匹がこの休憩所から立ち去ろうと、スススッとその場を離れたのであった。
そしてそれを追ったエリナに対して、他の屋台の店主らが前に立ちはだかって妨害を仕掛ける。
明らかにその逃げだした奴を追わせないように、自分を犠牲にしてでもガードする構えであった。
だがそんなことで逃げられてしまうような失態をこの俺様……ではなく精霊様がやらかすはずもなく、しばらく歩いた先で結界にぶつかるその店主。
切り刻まれ、それでもさらに這い蹲って逃げんとするところ、追い打ちをかけるようにして上から炎の塊が降り注ぐ。
燃え尽きるまで注視しておこう、先程のハゲのように、また中に入っている大蟯虫クリーチャーを吐き出すことがあるかも知れない……
「……んっ、燃えちゃいました、結局何も出てこなかったですよ」
「ホントだな、もしかして諦めて燃え尽きたってのか中の大蟯虫クリーチャーも?」
「いいえ、それなら他のほら、この鬱陶しい連中が助けに行ったりとかしないですかね? さっきまであんなに守ろうとしていたのに、今ここでガン無視するのはどうかと思いますから」
「それもそうだと言わざるを得ないな……ちょっと、確認して来るから待ってくれ」
「あ、そこ結界が発動……」
「あっ、ギョェェェェッ!」
切り刻まれて焼かれてしまった俺が復活するまでにはしばらく時間を要したのだが、その後、今度は結界に引っ掛からないよう気を付けてその焼け焦げたカスの所へと向かう。
既に火は消え、完全に燃え尽きて死亡した屋台のおっさんが……その燃えカスの中心で何かが動いているではないか。
しかもどうやらその場で動いているのではなく、徐々に地面に潜ろうとしているようなのだが……もしかしてコレは中に入っていた大蟯虫クリーチャーではあるまいか……
「おいテメェコラ逃げんなっ! 皆、ここにちっさい大蟯虫クリーチャーが居んぞっ!」
『クッ、まさか見つかるとはっ、子分共! この馬鹿そうな人間を殺して俺様を守れっ!』
「……コイツ、もしかしたら大蟯虫クリーチャーのキングか何かなんじゃないのか? なぁ、ほらこのゴミみたいなの」
「あら~っ、ホントに小さいですね……でも勇者様、コレってもしかしてガンメタってやつなんじゃないですか?」
『ゲッ、どうして俺様がガンメタリック大蟯虫クリーチャー様だと知っているんだ? どこからその情報が漏れたっ?』
「いえ知りませんけど……とにかく踏み潰したらどうですかね?」
「だな、ということで死ねっ」
『ちょっと待ってっ、俺様はまだ死ぬわけには……ギョエェェェッ!』
足で踏むだけでプチッといってしまったガンメタの大蟯虫クリーチャーであったが、その直後に到着した一般の連中はピタッと動きを止めると、再び自分の屋台の方へと戻って行ってしまった。
どうやらボスキャラが死亡してもそこまででしかないということだな、命令は聞くが、死んでしまえばもうそれで終わり、その程度の関係性でしかないようだ。
で、俺は今ガンメタの大蟯虫クリーチャーを討伐したということであって、こうなればおそらく……出たではないか、ドロップアイテムとして『ガンメタル』が。
しかも何が凄いかといえば、本当に小さな大蟯虫クリーチャーであったにも拘らず、ドロップしたガンメタルがその質量を遥かに超える、前のひとつよりも大きい感じのモノであったこと。
汚くはなさそうなので手に取り、それをエリナ、というか残雪DXに見せてやると……どうやらこれで最初のパワーアップに必要なガンメタルは揃ったらしい。
だがそのパワーアップをするための場所は、さすがにこんな屋外ではイヤだと主張してきたため、仕方なく町へ戻った後ということにしてやった。
武器の分際でなかなかにワガママな残雪DXであって、きっとこう言い出してしまった以上絶対に聞かないであろうというところからの判断だ。
そんなものどこでも良いであろうにというような話はコイツには通じないし、通じさせようとしても無駄なこと。
仕方なくこちらが折れるしかないのだが……まぁ、その分パワーアップの内容に期待させて頂くこととしよう。
で、パワーアップ前の残雪DXはそのままエリナに装備され続け、屋台に戻って行った大蟯虫クリーチャー共を一掃したのだが、直後にひとつ気付いたことがあるらしい。
魔界人間の体内から出て来て、すぐに死んで破裂した小さなそれが、どうやらその中身を意図的に泉の方に飛ばしているというのだが……
『これ、間違いなく最後に一発やってやろうって魂胆ですよ、ほら、水中に小さい何かが蠢いているような気がします』
「……うむ、目視は出来ないが、きっとアレだろうな、水から直接とか、あとは魚なんかを経由してみたいな」
「それと、この水があの町に辿り着くのよねいずれ……今の状態のみずが流れ着いたときにはもう完全にアウトだと思うわ、どうにかしないと」
「どうにかって言ってもな……うむ、じゃあこの休憩所ごと消し去ることとしようか」
「そうね、あの馬みたいな謎生物だけは逃がしてあげて、それから……ハゲをリンチしている連中はどうやって消すわけ?」
「そうだな、お~いっ、お前等ちょっと来い、ブチ殺してやるからよ」
「ひぃぃぃっ! やっぱ俺達も殺すつもりだっ!」
「もうダメだ、逃げられっこねぇよあんなやべぇ奴等から」
「チクショーッ! どうしてこの俺がこんな目にっ!」
「もう帰って寝たい、児童○ルノ見ながら布団入りたい……」
何やら犯罪的なことを言っている奴も見受けられるが、ハゲをボコった後のこの連中は全てを悟り、諦めた様子だ。
まぁ、どうせ逃げられなどしないというのは正解であって、この連中はもう、俺達に殺されて死ぬ以外の選択肢を持ち合わせていないのである。
そして俺達がこいつ等にしてやるべきことは、最初のムカつく態度やその後に掛けられた迷惑に応じて、可能な限り悲惨な死に際にしてやることぐらいだ。
生き残りを全て1カ所に固まらせ、その周囲には精霊様の水で作った壁を張り……そのまま外から加熱して一気に蒸気を出してやる。
蒸されるモブキャラ共、そしてその中に潜んでいる大蟯虫クリーチャーもこれでお終いだ、あとはこの休憩所を特大の攻撃で消し去るのみ……




