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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1181 実戦形式

「はいはい、皆さんその魔導タグみたいなのは装備しましたでしょうか? 足首に付けるんですよ足首にっ、それ以外だと直ちに爆発させますよ直ちにっ」


『やっべぇ、膝に付けちまった、でも膝も足首みたいなもんだよな?』

『てか取れねぇ、どうなってんだコレ? 呪われた装備なのか?』

『一体こんなモノ付けさせて何させようってんだ俺達に?』

『さぁな、だがこのミッションをやり遂げれば助命だってよ』

『確かに、大堕天使様がそういうならそれで間違いねぇだろうな、助かったぜ全く』


「はいはい、静かにして下さ~い、喋ってると殺しますよ~っ、で、話し聞いて下さ~い」


『・・・・・・・・・・』


「……はいはい、今皆さんが静かになるまで5秒掛かりました、次はありませんが、来世はもう少し真っ当な存在に生まれ変わると良いですね……それで、これから皆さんには『生ターゲット』として、この町中を逃げ回って貰います、良いですか?」


『・・・・・・・・・・』


「返事ぐらいしなさいよね全く……あ、ちなみにもうあと10秒後にスタートよ、この魔界の武器を装備した悪魔に気を付けて下さい、制限時間はそうねぇ、24時間にしておきましょうか、それまで逃げ切ったら皆さんの勝ち、死んだら負けです、はいスタート!」


『……!? おいっ、説明が足りないぞっ!』

『そうだそうだ、だいたい何なんだお前らはっ?』

『大堕天使様が俺達を助命してくれたんじゃないのか? 優秀だから』

『もっとしっかり説明しろよなこのウスラ馬鹿共がっ!』


「……面倒臭いわねぇ、エリナちゃん、1匹始末してちょうだい」


「あ、はいわかりました、でも先に魔力を充填しておかないと……ちょっと待ってて下さいね」



 監視のため、そして万が一の時には肉体を損傷させ、この町から逃げ出すことが出来ないようにしておいたPOLICE的な組織の構成員、そのうちの無能判定を受けて死刑を宣告されたクズ共。


 これから確実にブチ殺されるというのに、それを知らずにやいのやいのとやかましいのだが……まぁ、エリナが残雪DXをぶっ放したところで状況は一変することであろう。


 魔力を充填し、鉛玉が込められていることを確認したうえで安全装置を解除するエリナ、グッと持ち上げられたGUNであり魔界武器である残雪DXが、その射線上に1匹の魔界人間、今回の処刑兼実験のターゲットを捕捉する。


 何か武器のようなものを向けられていることに気付いたのであろうその最初のターゲットは、ビクッとなってハナクソを穿る手を止め、エリナの方を見た。


 だがその視線がエリナに移ったのとほぼ同時に、残雪DXから放たれた、魔力の篭った鉛玉が、それに逆行するかたちでターゲットを目指す。


 パンッという音がしたかどうかぐらいの感じではあるが、少なくともその馬鹿の顔面を捉えた鉛玉は、その場で強力であって、それでいて範囲の狭い爆発を起こしたのであった。


 攻撃を受けて吹き飛ぶ、どころか一瞬にして『赤い霧』になってしまった最初のターゲット。

 周囲に居た他の連中は、その霧をモロに浴びて真っ赤になってしまったのだが……何が起こったのかさえわからずにその場に立ち尽くしたままだ。


 5秒、いや10秒程度経過したであろうか、ようやくその集団の中から、いきなり発狂したかのような叫び声を上げ、走り出す者が現れる。


 その発狂じみた行動は次第に伝播していき、最後には赤い霧を喰らって喰らって良い感じに塗装されていた馬鹿共も、事の重大さに気付いて逃げ出し……無様に滑って転んでいた……



「ふむ、ようやく始まったみたいですね、しかしあれだけピンポイントで狙えるとなると、群集の中に紛れ込んでいる敵もあっという間に始末することが出来るかと……あ、財布を落として行った方が居るようなので回収しておきますね、中身だけ」


「そうだな……で、エリナは10秒、いやそれじゃ早すぎるか、1分程度待ったら作戦行動を開始してくれ、奴等が逃げるのを徒歩で追跡して、順番に惨たらしく殺していくんだ、それでひとまずこの残雪DXがどの程度使えるのかを見極めよう」


『あの、失礼ですがちょっと良いですか? 私からの提案なのですが……いえ、もしかしてこの私、魔界最強の武器である私を過小評価しているのではないかと思ってですね』


「いや、武器として認めてやっているだけでもむしろ過大評価なぐらいだろ、喋るし、鬱陶しいし、まぁ攻撃力があるのは認めるがな」


『ふっふっふ、私が単に攻撃するだけの単調な兵器だといつ言いました? まず、徒歩で敵を追跡するなんて持ってのほかですっ!』


「えっと、どういうことかしら? 攻撃だけじゃないの? 防御も出来るとか?」


『いえ防御はちょっと……それは防具に任せておいて、実は私、飛べるんですよ、ほらっ!』


「……あのさ、自分だけ飛べても装備しているエリナちゃんが飛べないんだから意味なくないかしら?」


『……でもまぁ、飛んでいる分軽くなりますし、何か凄く良くないですか? あっ、あと非殺傷モードとか省エネモードとか、それから属性魔法モードとか色々とありますよっ、凄くないですか私? さすがは魔界最強の武器ですねっ!』


「良くわからない機能が多そうね、もっとシンプルなのを欲しているのよこっちは」


『・・・・・・・・・・』



 ターゲットが散り散りに逃げて良い感じになるまでの間にあったそのような会話、確かに残雪DXが空を飛んだとしても、エリナが飛べないのだから……そうだ、得意の魔獣召喚でどうにかならないであろうか。


 エリナはいつも大移動の際、魔界から召喚する上級魔族固有の魔獣として、ハデハデで主張の強い鳳凰を繰り出し、それに乗って飛んでいるではないか。


 もちろんその鳳凰が魔界の生物ということで、ここでも呼び出すことが出来るのではないかといったところだ。


 確認のためエリナ本人に聞いてみると、少し考えた後におそらくは可能であると言う返答。

 ならばそれを使って……と言ってみたところ、やるのは実験の後半にしようと主張するのはユリナとサリナ。


 まずは地上戦の感覚を確かめてから、改めて上空から地を這う敵を蹂躙する作戦の実験を、というのがその理由だそうだが、なるほど確かにその方が実験に相応しいムーブだな。


 ということで最初の半分程度を始末するまでは、残雪DXが飛ぶのと飛ばないのとに拘らず、エリナは徒歩で移動しながらターゲットを狩っていくこととなった。


 なお、そこでは飛行以外の機能も試してみるべきということになり、特に『非殺傷モード』なる、相手を捕縛するためのモードが気になるところだ。


 魔界においても俺達の世界においても、敵は単に殺戮してしまえば良いというものではないためだ。

 捕縛して、民衆の前に引き摺り出して、そこで拷問したうえ惨たらしく処刑するということが必要な奴もかなり多いのである。


 特にこの後、というかこれまでも散々お世話になってきた『反勇者派』の連中や、それからこの魔界に関してはその上層部のうち、それが死亡することによって現在の魔界の体制が大きく揺らぐような神については、やはり『その場で俺達が退治し、処刑した』という事実が必要になることであろう。


 つまりはこちらの勝利を決定付けるために、無知な民衆にそのことをハッキリと伝えるために、単に首だの死体だのを持って来て晒すのではなく、インパクトのあるムーブを取らないとならないということなのだ……



「……そろそろ良いでしょうか? もうスタートして……そうですね、近くに隠れてガタガタ震えている方が結構居るみたいなんで、そこからいきましょうか」


「だな、じゃあ俺達はどうしようか? ここで見ていても状況がわからないことが多いだろうからな、おい駄天使さん、この町全体を見渡せる塔のようなものはないのか?」


「それでしたらそこです、ほら、物見櫓があるじゃないですか、風強いのでちょっと寒いのと、さすがにパンツが見えそうなので私は遠慮しておきますが」


「今まで散々飛び回ってパンモロしておいてそれはないだろうよ、ほら行くぞっ!」


「あててててっ、わかりましたっ、行きますから翼を引っ張らないで下さいっ、ひぃぃぃっ!」



 今更になってパンツがどうのこうのと言い出した堕天使さんを引っ張り、それとルビアがちゃんとパンツを吐いているかどうかを確認したうえで物見櫓へと移動する。


 もちろん俺は最後に登ることとして、下から登っている仲間達のパンツをチェックする作業をこなさなくてはならないため、なかなか忙しくなりそうだ。


 ちなみに俺の前に登らせるのは……せっかくなのでルビアにしよう、下から尻を突き回してお仕置きしてやるのが良いであろう……



「はい、じゃあ次は私で、最後にご主人様ですね」


「おうよ、ほら早く行けこの雌豚がっ!」


「ひゃいんっ、もっとお尻ぶって下さいっ! ひゃぁぁぁっ!」


「フンッ、この程度でそんな声を上げているようじゃ先が思いやられるな、ほらっ、聖棒でカンチョーしてくれるわっ!」


「ひぃぃぃっ! 落ちるっ、さすがに落ちちゃいますってばっ! 危ないですっ! あっ、でももっとお願いします……」


「おうおう、これか? これが良いのか? んっ?」


「ちょっと! 遊んでないで早く来なさいっ!」


『……すみませんでした』



 物見櫓の上から怒られ、仕方なく遊ぶのをやめて梯子を登って行くと、堕天使さんの言うように風が強く、本当に冷え込む場所であった。


 すぐに皆で固まって、カレンやマーサなどの比較的ホットな仲間を抱え込むようにして……いや、リリィが動かなくなってしまったためそちらに譲ろう。


 で、実験を開始したエリナを、その高い場所から探していくと……なるほど、本当にすぐ近くに隠れている奴から始末して行くようだな。


 このまま目を離さないよう、キッチリと事態の推移を見守り、残雪DXの性能評価をしてやらなくては……



 ※※※



「ひぃぃぃっ! みっ、見つかったぁぁぁっ! 勘弁してくれぇぇぇっ!」


「逃げても無駄ですっ、大人しくゴミ箱に隠れたまま死ねば片付けが楽だったものをっ、ということで撃ちますっ!」


『はいドーンッと、なかなか精度が上がってきましたね、もっとも、この私を使用している限り、的を外すなどということはそうそうありませんが』


「あ、そうなんですね、じゃあ次からは狙わずに明後日の方角を撃ってみます」


『いえ、そこまでくるとさすがにちょっと……と、あの物見櫓に登っているお仲間から合図が飛んでいますよ、えっと……そろそろ非殺傷モードを試してみてくれとのことですが、チェンジしますか?』


「あそうか、近くで見えているうちに確かめておきたいようですね、じゃあお願いします、え~っと……ここをガチャガチャしてシフトするんですかね?」


『あうっ! 変なところを触らないで下さいっ! 武器とはいえデリケートな部分はあるんですから、で、モードなら言ってくれれば勝手に変えますので、余計な操作はしないで頂きたいですっ』


「ど、どうもすみませんでした……」



 エリナに対して強気に出る残雪DX、もちろん誰に対してでもえらそうな態度を取るのだが、比較的流され易いキャラに対してはそれがより一層強いようだ。


 こうして自分の優位を確立し、武器として使用されているのではなく、武器としての自分を使用させてやっているという立場に立つつもりらしい。


 で、そんな残雪DXは『非殺傷モード』、つまりターゲットを捕縛するための機能を解放して、エリナには引き続き、特に変わらない行動で敵を撃つようにと命じた。


 はいはいと素直にいうことを聞くエリナは、そのまま神界クリーチャーガチャでの召喚の件で、凄まじく向上しているらしい洞察力を頼りに、物陰などに隠れてガタガタと震えている次のターゲットを見つけ出す。


 路地裏に不自然に立てかけられた看板を退かすと、その後ろからはションベンだのウ○コだのを漏らしまくり、それが垂れた地面へ必死に頭を擦り付けて命乞いをしている、なんとも無様なターゲットであった。


 俺であればこの状態からさらに痛め付け、絶望を味わわせ、目立つような行動を取って衆目に晒した後に、極めて残虐で絶命までに時間を要する方法で処刑するような相手だ。


 だが今回は残雪DXの実験であって、その実験をしているのが心優しい? 悪魔のエリナであって、さらには『非殺傷モード』の効果を確かめるためのものなので、そのようなことをしてしまうわけにはいかない。


 目の当たりにしたあまりの汚らしさに、エリナは少し後退りをしつつも残雪DXをそのターゲットに向ける。

 そして発射された、今回もしっかりと魔力が込められている鉛玉は……普通に頭部を直撃したようだ。


 当たり前のように炸裂するその鉛玉、通常の攻撃とどこが違うのやらと思ったのだが……なんと、ターゲットが赤い霧になってしまうようなことはなく、単に破片でズタボロにされただけのようである。


 漏らしていたションベンとウ○コに加え、傷口から流れ出した赤い汁が地面に垂れてそれらとブレンドされ、とても口に出しては言えないような凄惨な光景が……いや、これは放っておいたら普通に死ぬのではなかろうか、エリナもきっとそう思っているはずだ……



「あの、その……死んでしまいませんかこのターゲットの方?」


『このままだと死ぬでしょうね、ですがご安心下さい、私には何と回復モードなるものもありまして、ちょっと消費は激しいですがまぁ、それを使えば助かったも同然ですよホントにっ』


「そうなんですね、じゃあ次はそれでこの方を撃って……それっ!」


「ひぃぃぃっ! 今度こそ死……あれ? 治っているのか、血も全然出てないし、漏らしたク○もケツの穴から再吸収されて……助かったぞぉぉぉっ!」


「……あのこれ、最初に攻撃した意味が全くないし、そもそもやりすぎじゃないですかね? 普通だったら逃げられていますよここで」


『そこはまぁ、普通に追いかけて行ってとっ捕まえるのが武器使用者の仕事なんじゃないでしょうか? ちなみに捕縛モードでネットがボンッと出るとか、そういうダサい機能は兼ね備えていませんので』


「えぇ……肝心なところが抜けているんですね残雪DXさんは……」



 攻撃も回復も本当に強力で使い勝手が良いものであるということがわかってきた残雪DX。

 だが今一歩のところで何かが足りないし、その強力な攻撃も回復も、組み合わせて使うには少し……といった印象である。


 で、今回はターゲットがその場に留まっていたため、エリナはもう一度『非殺傷モード』を用いてそれをズタボロにし、その辺に居た魔界人間にそいつがそこに居ることを伝えた。


 POLICE的な組織の一員として、民間人に対して相当な態度を取っていたらしいそのターゲットは、ワラワラと集まって来た連中に取り囲まれ、そのまま殴る蹴るの暴行を受ける。


 最後は生きたまま着火されたらしく、暴れながらモクモクと煙を上げて絶命してしまったのだが、まぁこの程度の雑魚にはそのような最後を与えてやれば十分であろう。


 本来のターゲットである魔界のトップクラス、ホネスケルトンをはじめとした神々については、数万人、いや数百万人を動員した場所でリンチして、その無様な最後を世に知らしめなくてはならない。


 そしてその後も次々とターゲットを始末したり、人の多い場所では殺さずに行動を止めて、周りの連中にその処分を任せたりしていったエリナ。


 頃合を見計らって魔獣である鳳凰を呼び出し、その背中に乗って空へと飛び立った。

 直後から高いポジションを利用して、これまで以上のペースでターゲットを射殺していく……



「……うん、これで全部みたいですね、1時間も掛からずに全部殺すことが出来ましたよ」


『でしょう? これでようやく私の力が認められたというか、魔界最強の称号を実際にその手にしたというか……あ、でも私、実はまだまだこんなもんじゃないんですよねこれが』


「というと? まだ何か機能を有しているんですか? だとしたらそれも実験しておかないと、何もしないでおいて勇者さんにバレでもしたら……きっとお尻ペンペンの刑に……」


『あ、ちなみに今のところはまだその力は発揮することが出来ないんですよ、私もまだまだ武器として発展するわけですから、もちろんそのためには色々と必要なものがありますけど』


「あら、そうなんですね、じゃあ一旦戻って、今回の件についての詳細な報告とそれから武器としての発展? ですか? それについてもキッチリ話しておくこととしましょう、皆さんはもう下に降りているみたいですし……」



 鳳凰を操作してこちらへ戻って来るエリナと、そのエリナに装備されたままの残雪DX。

 今回の実験はまずまずの結果といったところであろうが、その報告から、これ以上のパワーアップが望めるということも良くわかったのであった。


 このパワーアップに関してはこの後詳細を、ということで一旦仮設庁舎へ戻り、扱いがどうのとやたらにうるさい残雪DXをそれなりの台座に鎮座させ、話を聞くこととする……



「……えっと、じゃあお前はこれ以上の機能を解放? いやインストールするために、何かパーツのようなものを欲しているということだな?」


『パーツというかまぁ、素材って感じですね、ガンメタルって知って……なんとっ、もうガンメタルを所持しているというのですかっ』


「うむ、まぁ持っているには持っているが……これのことだろう?」


『そうです、それだとちょっと少ないですけど、まぁ必要なのは必要ですから』


「ほう、つまりもっとコレを持って来いと、そういうことか……」



 まるでRPGの重要アイテムを先取りしていた際に、NPCが発する台詞のようなものを吐いた残雪DXであった。


 ガンメタルをさらに沢山ゲットすれば、また新たな機能が……まぁ、これ以上強くなるというのであれば、次以降の実戦と並行して集めていくのも悪くはないか……

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