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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1180 試験準備

「うぃ~っ、俺達が居ない間は何もなかったか~っ? 何かあったなら教えてくれ~っ」


「呑気ですねホントに、こちらは大蟯虫クリーチャーの再拡大を抑え込むためにそれはもう必死で、疫病をレジストする女神様まで関与して検査だの被寄生者の処理などをしていたというのに」


「は? 堕天使さんお前文句なんぞ言える立場だったかな? そうじゃないよなきっと、わかるよな? こっちだって頑張ってんだよ、なぁ?」


「ひぃぃぃっ! すみませんでしたぁぁぁっ……で、どうして1人増えているんでしょうか今回は? そちらの悪魔、非戦闘員ではなかったのですか?」


「戦闘員にクラスチェンジしたのよ、たぶん今回だけになると思うけど……しかも悪魔なのに神界クリーチャーとして……」


「もう色々と意味不明で、かつちょっとかわいそうになってきたんですが、気のせいでしょうか?」



 きっと堕天使さんの気のせいだと、そうであろうとエリナに賛同を求めてみたのだが、微妙な顔をするのみでハッキリとした答えは出さないらしい。


 まぁ、沈黙をもって肯定していると言えばそれまでではあるのだが、その表情からして本人の意思ではないということは、堕天使さんからでも窺い知ることが出来たことであろう。


 で、そんなエリナについて疫病をレジストする魔界の女神にも紹介を済ませた後、いよいよメインイベント、『残雪DXを装備させてみる会』を開催する運びとなった。


 あの堕天使さんによる初使用後、残雪DXはさらに自身の力というか威力の高さというか、それを鼻にかけて偉そうにしているらしく、今はこの仮設庁舎の地下、唯一残った冷暗所に保管されているとのこと。


 堕天使さんによる案内を得てその場所を訪れると……いきなりドアに『魔界最強武器 残雪DX様 控室』との貼り紙、まるで高級な芸能人のような扱いである。


 ドアを開けると、室内からは何だかフローラルな香りが溢れ出し、そこら中に飾られた花束だの花輪だの、芸能人どころか景気の良かったころのパチンコ店の新装開店のような雰囲気だ。


 で、そんな部屋の中央に、まるで大変希少な昔の宝剣でも飾り立てるかのように、台の上にテカテカした、無駄にエッチな下着の材質に近い紫の布のようなものを敷かれた状態で……鎮座していやがるではないか。


 俺達が入室したことをわかっているはずなのに、挨拶どころか反応さえもしないとは、ここまで図に乗っていると思うと、どれだけ強力な武器であっても粗雑に扱ってやりたいところだな……



「おい残雪DX、お前の使用者たり得る奴を連れて来たぞ、おいっ」


『……あら、もしかしてそこの下等な悪魔がそうなのでしょうか? だとしたらもう書類審査で却下ですね、私、これでも魔界最強の武器職人である変なジジィが鍛造して、そしてそのあまりの強力さを恐れ、木箱の底に封印されていたような究極の兵器ですから』


「ワゴンセール用の箱に放り込まれて、しかも売れねぇから下の方に埋まっていただけだろうが、とにかくお前、ちょっと借りるぞっ」


『やっ、ちょっ、あまりベタベタと触れないで下さいっ、指紋が付いたらどうするんですかあと手垢とかっ』


「あの、何なんですかこの武器……喋っているようにしか思えないんですが、気のせいとかじゃないですよね?」


「そりゃ武器だって喋るさ、エリナが作っていたあの何だっけ、暗黒博士だっけか? きめぇ人形、アレだって良く喋っていたじゃねぇか、きめぇけど」


「まぁ、ああいうのは魔法生物とかそういう類ですから喋ってもおかしくはないんですが、これってもう普通に武器ですよね? それが喋るのはちょっと……」


「うむ、この世界における喋って良いものなのかどうかの判定基準がわからんが、とにかく喋ってしまうものはしょうがない、ムカつくのはムカつくが我慢してやってくれ、ということでほいパス!」


『あっ、投げ飛ばすなんてそんなっ! ひゃぁぁぁっ!』


「おっと……結構ずっしりきますね、さすがは魔界の兵器といったところでしょうか」


「ちなみに持ってみた感じはどうだ? うまく使いこなせそうな感じとかするか?」


「そうですね、こう構えて……先に魔力を充填しておくんですね、それからここの安全装置をアレして、トリガーがアレで鉛玉を敵に向かって……というところまではわかります」


「それだけわかれば上等だ、ちょっと外に出て実験してみようか」


『あのですね、まだ武器そのものである私の同意を得ていないというか……聞いてます?』


「もう誰も聞いてないわよあんたの話は、解体バラされたくなかったら大人しくしていなさい」


『・・・・・・・・・・』



 脅して黙らせた残雪DXをエリナに持たせたまま、一旦仮設庁舎の外へ出て実験をしてみることとした。

 まぁ、もちろんここは町中なのだが、魔界人間の中には敵が、大蟯虫クリーチャーが紛れ込んでいるのだ。


 それを見つけ出すことさえ出来れば、そしてその周囲に与えてしまう被害が許容範囲内であれば、直ちに残雪DXの実験を兼ねた町の浄化作業を開始することとしよう。


 というわけでその辺をウロついて、主に水が流れている辺りを中心に、道行く住人の魔界人間共に目をやって……あまりにも睨みすぎていたため通報されたらしい、POLICEのような連中がやって来てしまったではないか。


 叫びながら、『変質者はこっちです!』と叫ぶ魔界人間と、その後ろから続く武装した何かの役人。

 どうやら大蟯虫クリーチャー排除における治安維持を目的として、堕天使さんが新たに創設した警察組織のようだ。


 だが当然表にはあまり出てこない俺達のことを認識しているわけではなく、単なる変質者であって、どこか魔界人間とはズレている存在と認め、武器を振りかざしてこちらに迫って来る。


 せっかくなのでコイツを実験台にしてしまおう、近くに居たエリナを呼んで、『その残雪DXで敵を撃て』と命じてみた……



「え~っと、わかりました、何だか憲兵さんみたいなのも来てますけど……いきますよっ、それっ!」


『あうっ! また発射されちゃった……』


「変なこと言ってねぇで黙っとけこの無機物がっ! で、エリナ、そっちじゃなくてほら、隣でへたり込んでいるPOLICE的なのを早く殺さねぇか」


「はい? この人は普通のほら、何でしたっけ? 魔界人間? の方ですよ……で、こっちのが敵ですね、ほら、この燃えカス、明らかに人間じゃない何かが混じっているような気がしませんか?」


「いやもう半ば灰になっているからわからんが……もしかしてコイツ、大蟯虫クリーチャーだったってことか?」


「それに気付いていない中で命令したんですか……」



 なんと、通報されてやって来たPOLICE的な何かではなく、通報者の方を攻撃してしまったエリナ。

 GUNである残雪DXから発射された、強大な魔力を帯びた鉛玉は、一撃でその通報者を白くてボロボロの、落ちた煙草の灰のような状態にしてしまった。


 相変わらず周囲への被害が少なく、というか今回は扱いも上手かったため皆無なのだが、とにかくピンポイントで敵を攻撃することが可能で……まぁ、通報者が大蟯虫クリーチャーであったのには驚いたが。


 で、その灰になってしまった通報者、もとい大蟯虫クリーチャーであったらしい何かの隣で、どういう状況なのかということを考えることも出来ずにへたり込んでいるPOLICE的な魔界人間。


 若干、どころかフルでションベンを漏らしているようだが、ウ○コまで出ていないらしいのは立派なのか、それとも今朝ちゃんとしてきたから出ないのかといったところ。


 ちなみにエリナが『コイツは大蟯虫クリーチャーではなく通常の魔界人間である』と判断していることについては、カレンとマーサによる確認も取れている。


 しかも大蟯虫クリーチャーに寄生され、ボディーを乗っ取られていたとした場合には、ションベンを漏らすこともないであろうというところからも、コイツがまだセーフな者であることを窺い知ることが出来るのだ。


 しかし、大蟯虫クリーチャーに寄生されてはいなかったとはいえ、一旦俺に向けた刃を取消しすることなど出来はしない。

 つまりコイツは勇者の敵であり、討伐しても処刑しても、何をしてやっても構わないような存在になったということである……



「よしっ、最初の一撃はまずまずだったわね、じゃあエリナちゃん、次は的を使ってピンポイント射撃の連中よ、コイツと……1匹じゃ物足りないわねちょっと」


「あ、それなら精霊様、実に良い考えがあるぞ、連帯責任っていうな」


「このPOLICE的な魔界人間が私達、というかご主人様が変質者であることを看破してしまったんですもの、、その責任はこの方の所属する組織全体で取って貰わないとなりませんことよ」


「え~っと、じゃあつまり……襲撃して皆殺しにするってことでしょうか?」


「うむ、コイツの組織の事務所にカチコミを仕掛けて、どんな感じで殺れるか確かめようぜ、あ、堕天使さんには言わなくても……もう後ろに来ていたのか……」


「……ちなみに言わなくてもわかると思いますが、そういうのは困りますホントに、もうちょっと穏便な方法をですね、わかりますか?」


「わからんしわかるつもりもねぇが……堕天使さんがこんなこと言っているけど、どうするよマジで?」


「気にしなくて良いんじゃないかしらね? というかこの子、そろそろ調子乗っているとみなしてシメないとかも」


「ひぃぃぃっ! やっぱ何でもありませんでしたっ! ですがっ、ですがせめて有能なキャラだけは勘弁して頂けると幸いでして……」


「元来そのつもりだ、魔界人間にも有能キャラが居るのは確認済みだし、女性キャラは処刑しないという勇者パーティーの基本原則もあるから、それに従って行動することになる」


「あ、それならまぁ、そこそこ普通なのが死んでしまうと、極めて無能なのを体よく処分することが出来るということで……行って来いですかね、ではご案内します」



 結局実験台として選ばれたのは、俺に刃を向けた悪逆の徒であるこの町の新しいPOLICE的な魔界人間の組織……のうち、有能でも可愛い女性キャラでもないような連中。


 もっとも、この魔界においても、というかこの異世界全体の理として、有能であるキャラは大半が女性キャラであって、それ以外のモブは野郎でおっさんで臭くてキモくてしかもハゲで、それでいて無能なのだ。


 つまりパッと見で選別しても、上手いこと有能キャラをより分けることが可能だということだし、何よりもここでションベンを漏らして放心状態になっている1匹は、見た目からしてゴミのような無能であるということがわかる。


 ひとまず堕天使さんの案内でそちらへ移動しよう、何も知らず、新しい治安維持組織のメンバーに選ばれて調子に乗っている馬鹿共を、これから実験体として地獄に叩き落とすのだ……



 ※※※



「……着きました、ここの明らかに下賤な建物が、私が新しく作っておいた対大蟯虫クリーチャー用の、その寄生されているか否かの検査とか、あと寄生されていそうな魔界人間をアレさせるための組織の詰所です」


「ほぅ、ちなみに全部で何匹居るんだ?」


「下賤であっても有能なのが30匹前後、あとのカスは100匹以上居るような気がしますね、下等な人間種が魚の餌用に養殖しているGだとかコオロギだとかと一緒で、それの数をキッチリ数えたことはありませんが」


「Gとかコオロギとかと同じ扱いなのか人間ってのは……まぁ良いや、ちなみに全数ここに集合させられるか?」


「えぇ、すぐにやります、というかその集合時の動きでどれがどうなのかわかるとは思いますが……」



 などと言いながら、堕天使さんは建物の入り口にあったベルのようなものを打ち鳴らし、それでPOLICE的な魔界人間の組織構成員全員を搔き集めた。


 真っ先にやって来たのはやはり有能そうな女性キャラで、これらの魔界人間はむしろ、俺達が魔界を支配した、制圧し切った後の官吏として使えそうな勢いの者だ。


 で、それらがビッと整列した後にやって来たのが……新しいはずの制服はもうヨレヨレで、袖で鼻水を拭いたり、逆にウ○コした後ケツを拭いていなかったりなどの無能そうな連中。


 整列だと言われているのにまっすぐに並ばず、ガタガタと波打つようにして行列を作っているではないか。

 しかも静かにせず、何が起こったのかと口々に……どうしてこのような奴等を採用したのかが謎である。


 で、そんなアホそうな連中が全部で終わった後に、さらにアホそうな馬鹿共が数匹、建物の中から飛び出して来たのが確認出来た。


 もちろんこのうちの大半は『無能すぎてどうしようもない奴』であって、俺達が何も言わなくとも普通に処分対象のゴミである。


 だがそのうちのごく一部……今回は1匹、ではなく1人だけのようだが、右に挙げた者と同程度の能力しか持っておらず、しかしながら『単にドジなだけで可愛らしい』と評価される女性キャラが存在しているのだ。


 これは俺達の仲間で言うとルビアが該当し、まぁ魔法の力、回復の力は凄まじいのだが、それ以外の全てがアレすぎる女性キャラに適用される称号であって、これはむしろ有能キャラの分類となることが決まっている。


 で、それを組織の連中が逃げ出したり、暴れ出したりしないように監視しているミラとジェシカに目配せで伝え、彼女に関しては処刑の際にピックアップして救助するようにとしておく。


 ということで前の方の有能キャラと、それから最後の1人だけを助命対象として……やはり全てが女性キャラであったか、この異世界の『当たり前』から乖離することのない、非常に良い結果が得られたな……



「それで勇者様、これからどうするの? エリナちゃんに何をして貰って、この人達はどうしちゃうって言うの?」


「そうだな、じゃあまず堕天使さん、馬車で引き摺って来たコレ……と、もうズタズタなんだが、前の方に並んだ奴はコレが何だか気付いて怯えているようだ、早く後ろの奴にも『事例として紹介』してやるとともに、連帯責任で同じような目に遭わせることを宣告してやれ」


「わかりました……えっと、聞けっ! 下賤なるゴミ共よっ! こうして貴様達の前でこの私が直々に声を発しなくてはならないこと、非常に迷惑だと感じ、そして怒りに震えているっ! 誰のせい? このズタボロになった、ちょっともう触りたくないようなボロ雑巾! 貴様達の仲間のせいだっ!」


『へへーっ! 大変に申し訳ございませんでしたっ! 以後気を付けますっ!』


「ふざけるなっ! 以後などないんだ貴様達……のうちこっからここまで……あ、その子は良いらしいです、ここから……その子除いて一番後ろまでですね……の貴様達にはもう未来などないっ! このボロ雑巾の罪をそのまま適用しっ! 直ちに死刑に処すことをここに宣告するっ!」


『やっ、やべぇっ、堕天使様、しかも大堕天使様がお怒りだぁぁぁっ!』

『逃げろっ、逃げねぇとやべぇっ……って何か変な奴等が見張っていやがるっ!』

『ご当地闇堕ち勇者パーティーの生き残りもだっ! どうなってんだ一体⁉』

『ギョェェェェッ! 捕まったぁぁぁっ!』

『死にたくねぇっ、せめて俺だけでも助けてっ!』



 堕天使さんの言葉と同時に、一斉に、雲の子を散らすように逃げ出す馬鹿魔界人間共であったが、それらはあっという間に捕まり、元の場所へと戻された。


 ちなみに死刑を免れた有能キャラの女性達は、上位者である堕天使さんの許可がない以上、その場で動かず事の次第を見守っていたようだ。


 で、その有能者と一番後ろの助命対象者の中間にならんだ大半の部分がそこから抜けると、ようやく『本来の業務に戻れ』との指令を受けて、生き残った者が建物の中へと戻って行く。


 アホキャラの子はこの期に及んで状況を把握することが出来ていなかったようだが、周りと一緒に行動しようと試みて成功し、一緒になって通常業務へと戻って行ったのであった。


 さて、手許に残ったのはギャアギャアとやかましい、もう命を失ったも同然、いや失うことが確定したクソのようなゴミ共の魔界人間である。


 しかもどうやらこのPOLICE的な組織に任命されて以来、他の住人に対して横柄な態度を取っていたらしく、それを咎められて捕まったとご認識した一般のモブから、石やカラーボールなどを投げ付けられているのが確認出来た。


 やはりこういう奴等は殺してしまって構わないし、そうするのが正義であるということか。

 直ちに刑場をセットしたい……とも思ったのだが、ここは残雪DXの性能テストの場だ。


 動かない的を狙って撃っても、武器の専門家ではない、もちろんGUNなど誰も専門に扱ったことがないわけだから、その性能を評価することなど出来ないのだ。


 ならばもっと実戦に近い形式で、主にこの町の中で大蟯虫クリーチャーに寄生され、逃走した魔界人間と戦うのを想定した動きをしていこう。


 そしてそれが上手くいくようであれば、今度は実際の大蟯虫クリーチャー、さらに町の外、街道外で発生するワームクリーチャーとの実戦を……といったところか……



「……よしっ、こいつ等に認識タグを付けて解放しよう、もちろん実験の失敗も考慮して、一定時間以上経ったら爆発するタグをな」


「あら、首輪爆弾でも使うんですか? それなら私が作って……」


「いや、首とかだと即死してしまうからな、もっとこう、わけのわからない所が爆発して、意識を保ちつつ行動不能になるように仕向けよう」


「で、そうなったらもうこの町の一般魔界人間にでも惨殺させると……なかなかに趣味が悪いわねあんた」


「だろう? だがこれは最高の趣味だと思うぜ、ということで早速実行だっ」


『うぇ~いっ』



 こうして捕まえた連中を用いた、残雪DXの市街地実戦訓練を性能評価も含めて始めることとなった。

 どのような評価が下るかはわからないが、少なくともピンポイントで敵を狙える、その点においては最高評価であろう……

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