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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1179 連れ立って魔界へ

「いてててっ、何なんですかいきなり? さっきは爆発に巻き込まれるし、お風呂に入れと言ったから入っていたらいきなり転移させたりして……てか何なんですかこの無骨な首輪はっ?」


「……エリナちゃんね、エリナちゃんが落ちて来たわよ、どういうことかしら?」


「わからんが、素っ裸で首輪だけ装備して、あたかもさっきまで風呂に入っていたような……また何かに巻き込まれたかわいそうな悪魔ってだけなのか?」


「……いいえ、これはそういうことではありません、召喚されたのがその……エリナさんであったというだけのようです」


「ちょっと待て、そんなんキャラのダブりも良いとこじゃないか? エリナはもう『持っている』んだから、何か他のレアキャラに交換してくれよな、同じ堕落した悪魔2体とかかなりキツいぞ」


「そうじゃなくてですね、その、エリナさんが増えたというわけではなくて、そこでお湯に浸かっていたのをそのままここに転移させただけというか……どういうことなのかはわかりませんが」


「じゃあ丸損じゃねぇかっ! 金の玉返せやオラァァァッ!」



 突如降って沸いた素っ裸のエリナ、しかも先程帰宅して、紆余曲折あって風呂に入っていたところを、神々の力で『神界クリーチャー』として召喚されてしまったとのことだ。


 というかそもそも、このガチャは『神界の』クリーチャーを召喚するべきものであって、いくら何でもこの世界の、しかもどちらかというと『魔』寄りのエリナがそれに応答するとはとても思えないのである。


 これは何かのエラーか、それとも本当に神界の方で、まぁ『神界クリーチャーガチャ管理センター』とかそういうのがどうせあるに違いないが、そこでチョイスして召喚したというのであろうか。


 いずれにせよ、既に持っているキャラであるエリナが、ふたつに増えるわけでもなくそのまま1回の抽選として、しかも最大期待値である金の玉の抽選結果として出現したというのはあり得ない。


 これは自己の所有物を改めて取得したようなものであって、何の意味もない転移減少に過ぎないことになってしまうのだ。


 それゆえ最も手近にある神界の存在の女神に対して抗議し、再抽選を行うよう恫喝を交えた要請をしていくのだが……どうにも首を立てには振らない。


 それどころか、俺が首を絞めているせいでまともに喋ることが出来ない女神は、必死になって召喚位置に座り込んだままのエリナの方を指差しているのだが……どうやら何か主張したいことがあるらしいな……



「……何だよ、言いたいことがあるなら言ってみろ、ただしどうでも良い内容だったらもう一度その首をキュッとするからな」


「ケホッ、ケホッ……ふぅっ……本当に乱暴極まりない異世界人ですねあなたは、それで、この抽選というか召喚は全く無駄ではなかったということです、エリナさんを良くご覧になって下さいなと」


「はぁ? エリナなら素っ裸で首をまでされた極めて情けない格好で……ホントだっ! 全ステータスが5,000倍になっていやがるっ!」


「でしょう? 召喚によって改めて付与された神界の力が、元々そこまで低くはなかったエリナさんの力を凄まじいことにしているのです」


「……てことはアレね、私がエリナちゃんを召喚したってことだから……来なさいっ! あんたは今日から私のペットよっ!」


「きゃいんっ、引っ張らないで下さい精霊様、ちょっ、苦しいですってば! 助けてユリナ、サリナ!」


「そう言われても困りますの、精霊様、エリナを可愛がってあげて下さいですわ」


「ひぃぃぃっ! 見捨てないでぇぇぇっ!」



 強くはなったものの、もちろん精霊様の強大すぎる力には及ばず、首輪に付いている鎖を引っ張られて引き摺られるエリナ。


 他の神界クリーチャーは召喚者の言うことをキッチリ聞いていたというのに、なんと生意気な奴なのだと怒る精霊様に、どうか勘弁してくれと懇願することしか出来ていない。


 しかしこのままエリナを『神界クリーチャー』として扱ってしまって良いものなのであろうか、一応はユリナとサリナの従姉妹であるわけだし……まぁ、エリナだから良いとしておこう。


 で、その俺達勇者パーティーを除けば圧倒的なな力を持つこととなったエリナは、特に神界に送って保管しておくというようなことはせず、これまで通り普通に暮らさせることとした。


 もちろん屋敷を守護し、そしてこちらで何か用がある際には、いつもやっていることではあるがいきなり呼び出して活用するという、そんなムーブをさせるのだ。


 それから、その強化された力を用いて、ミラが召喚したあの生意気なケンタウロスの代わりに残雪DXを装備させてみるのもわすれてはならない。


 上手くすれば最強の使用者であって、こちらの戦力がグッと上がることになるかも知れないし、そもそももともと高かった賢さが5,000倍とは……いや、それは大丈夫なのか精神的に……



「なぁ、エリナは元々賢さが高かったうえに、それが5,000倍にもなっているんだろう? この状態で頭がパンクしたりとかそういうことにはならないのか?」


「大丈夫ですわよ、いくら賢さが高まろうとも、自分で処理出来ないよいうな思考はしないですから、例えばご主人様とか他の皆の賢さが……皆、今賢さのステータスはどのぐらいですの?」


「賢さか、俺はマイナス53だな」

「わうっ、私はマイナス177です」

「私はえっと……マイナス85ね」


「どうして賢さがマイナス査定になっているんですの……ともかく、そのステータスが変動したとしても、特に何かが変わるわけではなくて、ただ算数の問題がちょっと出来るようになったり逆に出来なくなったり……程度のことですのよ」


「そうなのか……まぁ、良くわかんねぇや」


「それはその賢さだからですわよきっと……」



 とにかくエリナはこれで、このままで大丈夫であるということの確認が取れたのであった。

 パッと見も問題などは生じていないようだし、首輪が外れないことだけがデメリットであると考えて良さそうである。


 というか、出来ることならば俺も賢さを5,000倍にしたいところであるが、そのためにはまず魚を食べてDHAなどを補給……してどうにかなるようなものではないということは、マイナス査定の賢さでも良くわかっていることだ。


 なお、マイナスの賢さが『何倍』ということになってしまった場合、そのマイナスの符号が取れることはなく、もしかするととんでもない馬鹿になってしまうのではないかということも考えられる。


 まぁ、そうなってしまえばもう、そのことについて損をしているということさえ認識することが叶わず、当たり前のように『ステータス倍増』を喜んでいる自分の姿が目に浮かぶ。


 まぁ、そうなることは今後の大勇者様生活においてそうそうないであろうが、もしなってしまいそうなことがあれば、ある程度の賢さを有している仲間達に止めて貰うことをしなくてはならないであろう……



「さてと、じゃあこれで召喚作業も終わりってことね、あとは雑魚キャラのガチャを適当にっやって、それでまた魔界へ戻りましょ」


「だな、ひとまず今回はエリナも一緒に……となると屋敷を守るキャラが居なくなるな……」


「筋肉団とかに任せたらどうかしら? 連中なら強いし真面目にやると思うわよ」


「いや、しかしああいうのを上げると足の臭いとかが床に染み込みそうなんだよな、何か他の……ちょうど良い女神が居るじゃねぇか、おいっ」


「どうしました? 私はそろそろ神界へ戻って、録画してある異世界の観劇をですね」


「お前、ちょっとここ守っとけしばらく、この世界を統治しているとか豪語してんだからそのぐらい余裕だろう?」


「私、この屋敷ではなく世界の神なので、そういう依怙贔屓と思われてしまいそうなことはちょっと……」


「じゃあ頼んだわよ、もし私達が居ない間に何かあったら損害賠償を請求するから、お尻の毛まで毟り取るわよ」


「えぇ……」



 屋敷の守りを女神に押し付け、絶対に神界へ帰ってフラフラしているようなことがないように、もちろん途中で様子を見に来るかも知れないと脅してその場に留まらせる。


 俺達が魔界で苦労して侵略行為を続けているというのに、そのバックアップをするはずの女神が何もしてないというわけにはいかないし、この無能馬鹿で出来ることはこのぐらいだ。


 むしろ、この俺達の不在に乗じて何かをやらかそうとする敵の類は多くなってくるであろうから、『女神が保護している場所』ということを喧伝することによって、屋敷への襲撃を抑止するという狙いもある。


 もっとも、ホンモノのやべぇ奴等は女神だろうが何だろうが関係なく、ごく当たり前のように、もっともらしいワードと暴力に訴えることを否定するプラカードを上げながら、あまりにも暴力的な攻撃をこの不在の屋敷に加えてくるはず。


 そういった連中を、その連中が自称している『庶民や弱者の味方で偉い人達』ではなく、『女神に刃を向ける愚か者共』というレッテルの張られた何かにしてしまうことも、この屋敷の守護任務によって成し遂げることが出来るのだ。


 で、そんな女神と屋敷と、それから屋敷で家事をこなしている非戦闘員のアイリスを置いて、俺達は再び魔界へ旅立つ。


 前回の旅立ちと違うのはそこそこの神界クリーチャーと、そしてその中でも最強の、そもそも神界は関係ないしクリーチャーでもないエリナを伴っているということだ……



 ※※※



「ほぉ~っ、ここが魔界ですか……どうしてボッタクリのお店の部屋からこんな無骨な砦に繋がっているのかはわかりませんが、とりあえず初魔界ですよ」


「ほらっ、勝手に歩かないでちょうだい、観光しに来たんじゃなくて、その悪魔として一度は行ってみたかった憧れの魔界を攻め落として、神々をブチ殺したり奴隷化したりするのが私達の任務なのよ」


「最低じゃないですかそれ……あいてっ! 何でもありませんっ、ひぃぃぃっ! 引っ張らないで下さいってばぁぁぁっ!」



 初めての魔界に観光気分で遊び出しそうになっていたエリナであったが、まるで修学旅行のために初めてなんちゃらパークだのランドだのを訪問した学生のようなノリであった。


 こんな奴が不死の悪魔で上級魔族で年齢はうん百歳で、しかも最強の神界クリーチャーとして、なぜかクリーチャーでさえないというのに召喚されたなど、まるで考えられないことだ。


 もっとも、この後で例の町に行って残雪DXを使えるかどうかが、このエリナの運命を左右するわけであって、もう本当にそれ次第なのである。


 もし装備することが出来ない、或いは残雪DXの方から拒否られたなどということになれば、一転して元の生活に、いつもダラダラと『お留守番』をさせられているエリナの生活に戻るのだから。


 なお、その場合には改めて残雪DX使用者の選定を行うのだが、もうほぼほぼミラが出したケンタウロス、それで間違いないであろうというところまではきている。


 それと、リリィが召喚したモグラ……一応土竜と表現しておこう、その強さの方も確かめておかなくてはならないのだが、こちらもミミズの天敵という存在であるがゆえに、そこまで心配しなくてはならないものではなさそうだ。


 ということで砦を出る……その前に、また堕天使(最下級)を勝手に召喚して良いように使っていた堕天使ちゃんに拳骨を連続で喰らわせ、それを終えてから例の町に向けて出発した……



「それで、これからどこへ行くんですか? 魔界人間? 堕天使とかとは違う何かが居るんですか? どんな方々なんですか?」


「うっせぇな、ちょっと静かにしておけ、ほら、もう町が見えてきたぞ、ついでに言うと魔界人間だけじゃなくて、その魔界人間に寄生したうえでボディーを乗っ取って調子に乗っている大蟯虫クリーチャーってのも居るからな」


「何なんですかそのヤバそうなのは……」


「まぁ、一応こっちで駆逐寸前には追い込んであるんだがな、しかし寄生虫という性質上根絶は難しいんだよこれが、放っておくと再拡大しかねないし」


「ちなみにそれ、どうやって通常の魔界人間? と見分けるんですか?」


「カレンとマーサが音で判別する、見た目は普通の魔界人間なわけだけど、実際には中身を溶かして再構成した何からしいからな、動く際の音が通常とは違うらしい、知らんけど」


「なるほど……あ、でもほら、そこを歩いている人間? 人族みたいなの、アレって人間じゃないですよね? その大蟯虫クリーチャーなんじゃないですか?」


「……何言ってんだお前?」



 突如馬車の窓から顔を出して、遠くを歩いている一般の魔界人間が大蟯虫クリーチャーなのではないかと指摘するエリナ。


 いきなりそんなことを言うのは大変な失礼に該当するような気もするのだが、どうせ奴等は下等な存在、どうでも良いし、ムカつく態度を取ったら殺してしまえば良いため、その指摘に従って確認しに行く。


 その大蟯虫クリーチャーかも知れないマンが居るのはちょうど進行方向であったため、そのまま馬車で接近して、全員で窓から顔を出して様子を見る。


 もちろん馬車の振動やその他の音があるため、カレンにもマーサにも、未だにそれが通常の魔界人間なのか、それとも大蟯虫クリーチャーに寄生され、乗っ取られた後のものなのかということは判断出来ないらしい。


 だが近付くにつれてエリナは確信を強めつつあるようで、途中で擦れ違った他の魔界人間と比較して、『やはりアレが人外のバケモノであるようだ』という主張を強めている。


 で、そんな感じでそのターゲットの真後ろまで来たところで……マーサが反応を示したではないか……



「……ねぇアレ、あの人ホントに人間じゃなくてバケモノよ、しかも普通のじゃなくてちょっと小さい奴、町の中に入って破裂して、それで撒き散らすつもりなんじゃないかしら?」


「となると……まだ生きている魔界人間ではあるが、中身には大蟯虫クリーチャーがギッシリで、武器職人のジジィみたいに操られているってことか」


「そういうことだと思う……でも良くわかったわねあんなの、普通に音を聞いていただけじゃ見逃しちゃうかも」


「わうっ、私はまだ……あ、確かにそうみたいです、ホントにわかりにくいですよあの人、言われないと気付かなかったです」


「う~む、ちなみにエリナ、お前はなんでわかったんだ、アレが大蟯虫クリーチャーに寄生されて操られて、この後町で破裂して中身をブチ撒けながら死亡する野郎だってことを」


「いえ、そこまで詳しくわかっていたわけではないですけど、とにかく他とちょっと違うかな……ぐらいに、何とも説明し難いんですが……」


「もしかしたら高まった賢さが影響しているかも知れないわね、それが何か敵の正体を看破するような特殊な能力を持たせているとか……そんな感じなんじゃない? 知らないけど」


「おいおい、ホントに大丈夫なのかよそれ、いつか脳とかに凄い負荷が掛かってオーバーヒートして……みたいなことにならないと良いなっ」


「何か凄く他人事な気がしますけど……と、それであの人、ホントにこのまま町の中に入って、直後にダッシュして行ける限り水場の近くまで……みたいなことを考えているのがわかります、どうするんですか?」


「そりゃもうブチ殺し確定だがな、しかしそこまでわかってしまうとはまた……」



 これは本当に賢さが高いだけのせいなのか、それともエリナはまた別の力を獲得してしまったのか、そしてそれがもしかすると賢さのせいなのか。


 色々とわからないのだが、とにかくこれで大蟯虫クリーチャーに寄生されて乗っ取られた人間や、寄生されてはいるものの、ステルス大蟯虫クリーチャーのように死亡してはいなくて、単に操られている者までも判別することが出来るようになりそうだ。


 もちろんさらに実験を重ね、その精度がどの程度のものなのかということを吟味していかなくてはならないのだが、それはまた後にしよう。


 今は目の前、どうやらこちらが意図的に接近しているということに気付いたらしい大蟯虫クリーチャー、ではなくステルス大蟯虫クリーチャーに寄生されたらしい魔界人間。


 それは振り向くと同時に状況を察知したらしく、慌てて逃げ出すような素振りを見せたのだが、直後にはもう間に合わないということを悟った様子。


 直ちに破裂して、可能な限りその周囲に大蟯虫クリーチャーを撒き散らさんとしているのだが、当然こちらもそうはさせない、させたくないところ。


 エリナに覆い被さるようにしてその上から顔を出したユリナが速攻で放った火魔法、それの直撃を喰らったその一見普通の魔界人間に見えるおっさんは、小さな悲鳴を上げながら炎上し、すぐに燃え尽きる。


 周囲を歩く魔界人間にしてみれば、同胞がいきなり、無残にも殺されたということになるのだが……これに関してはもう慣れっこになてちるようだ。


 ふと目をやって、また大蟯虫クリーチャーにやられた誰かが処分されたのだと、そのような話を付近の奴としながら、それぞれの行動へと戻って行く魔界人間共。


 だがこれは慣れているというよりも、むしろ大蟯虫クリーチャーに対する気持ちが緩んでいる、油断してしまっているということにならなくもない。


 ゆえに、もう少し締め付けを厳しくして、逆らう者は疫病をレジストする魔界の女神の名の下に処刑するなど、苛烈な施策で統制を強めていく必要がありそうだ。


 で、その魔界の女神と、それから堕天使さん……は会ったことがあるのか、とにかくこちらの新たな戦力であって、残雪DXを使用する可能性があるエリナについて紹介してやらなくては。


 もちろん、魔界の女神にとっては俺達の世界の上級魔族如き、下等な存在なのであろうが……そういえばエリナはいつも絡んでいる悪魔フェチの神の一番のお気に入りだな。


 その辺りも踏まえて、今後の話をよりスムーズに進めることが出来るよう、まずは顔合わせをしていくのだ……

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