1177 ゴミだらけ
「それで勇者よ、あなたはこの神界クリーチャーガチャを引くために必要な『素材』をゲットして来たというのですか? かなり貴重なものでないとダメなんですが普通は……」
「もちろんだとも、ほれ、コイツがあればレアガチャ、どころかそのレアガチャの11連ぐらい可能だろう?」
「なるほど神の『肉』ですか……そちらの素材は?」
「こっちは元神らしい、石像にされて封印されていたところを助けてやったというのに、俺達がちょっと目を離した隙に調子に乗りやがったからよ、ブチ殺して素材にしてやったんだ、それとこっちは『GUNMETAL』とかいうので、何なのかは知らんが使えそうだから持って来た、これでほぼ以上だ」
「あとはゴミみたいなアイテムばかりね、棒人間クリーチャーならそれでも増やせそうだけど」
「なるほど、ではその本命の『素材』ですね、ちょっと見せて頂いて……というか腐ってませんこれ?」
「それは生まれつきだと思う、マジで神なのか疑いたくなるような寄生虫感溢れる存在だったからな……」
呼び出した女神に、魔界でゲットして来た素材等を全部開示して、特に本命である『疫病の大流行をプロデュースする魔界の神の肉』についての判定を依頼する。
もちろんそこそこに高級な『素材』であることは確かで、腐っているかどうかに拘らず『レアガチャ11連』はさせて頂きたいところなのだが、果たしてどうであろうか。
念のために完全防備で、どこからともなく取り出した手袋を二重にしてまでその検分に臨んだ女神であったが、しばらくすると小さく頷いたように見えた。
それはこの素材が使えるもの、俺達が目的としているものに合致する高級なものであることを意味しているのは明らかで、その直後、女神は何らかの力を用いてその『素材』をスッと回収してしまう。
なかなかにヤバそうなそれがその場から姿を消すと同時に、その代わりとして準備されたのが……なぜか商店街の福引のようなガラガラであった。
これだと11連するためには個別に11回抽選を受けて、その都度一喜一憂しなくてはならないようでかなりダルいのだが……まぁ、仕方がないとしておこう……
「え~っと、ではこの抽選のガラガラを1回だけ、本当に1周だけ回して下さい、それで終わりです」
「おいちょっと待てコラ、何で1回だけなんだよ? 11連だって言ったよな俺?」
「大丈夫です、1回だけ抽選を受ければそれで11個の『玉』が出てきますから」
「おかしな抽選機ねぇ、で、その当選確率の公開とかそういうのはないわけ? さもないと訴えるわよ」
「えっと、確率表は……こちらになります、今の素材のレベルですと……そうですね、11連中1回はレアキャラが出現する程度のものでした、良かったですねその1回があって」
「それ、他は雑魚ばかりってことなんじゃないのかと思うんだが……まぁ良い、その1回に全てを賭けるぞ、やれリリィ!」
「はいはいっ! ガラガラガラガラ~ッ……出ましたっ! 何かちっさい玉いきなり11個出ましたっ!」
「どうやって出てきたんだよ今ので……で、これどうすんの? やけにカラフルみたいだけど……お、金色のもあんのか」
「これですね、これをその……あぁ、このお屋敷の壁で良いと思います、投げ付けると爆発して、その衝撃で神界クリーチャーが出現するんです、パァァァンッて」
「かんしゃく玉かよ……」
あまりにもショボい、苦労して素材を集めて来て、それで受けられたのがこのアッサリとした抽選と、そして出てきたのが駄菓子屋で買えるかんしゃく玉のようなオモチャじみた何か。
実際にはもっとこう、凄まじい演出を伴いながらキラキラと光り、聖なるオーラに包まれた何かが天上から降下してくるというようなのを期待したのだが……まぁ、この世界はもうこの程度のものなのであろう。
で、早速そのかんしゃく玉のような抽選結果を壁に投げ付けて、そこから神界クリーチャーを取り出す作業に入るのだが、ここは少し慎重にいきたいところだ。
まずはなるべくショボそうなものからやっていき、明らかに強いキャラが出そうな赤だの黒だの、あとひとつだけある金の玉、略して金……まぁ略す必要はないのだが、とにかくそれは最後の方に取っておくこととしよう。
ということでまずは一番期待値が低いと思われる、しかも11個のうち5個を占めている白い玉から、誰かに軽く放って貰いたいところなのだが……その役目に立候補しているのがヤバそうな連中ばかりなのが気掛かりである……
「えっとだな、マーサ、それにカレンもそうだな、お前等は絶対にやめとけ、爆発してどうのこうのってのがヤバそうだ」
「どうしてよ? 私だってクリーチャーとか召喚したいのよっ」
「だから、かんしゃく玉の音でビックリして何するかわからんだろお前は、カレンもわかるな?」
「はーい、ということで第一球、投げますっ! それぇぇぇっ!」
「聞いてねぇのかよっ! っと音うるさっ!」
「あうっ、きゅぅぅぅっ……」
最初に放り投げる予定であった白い球、それをキープしていたカレンが勝手に、しかも壁の至近距離から全力投球してしまったではないか。
凄まじい爆発音、これはとても駄菓子屋のかんしゃく玉レベルではない、なんちゃらグレネード、のような名称が付されていてもおかしくはないほどの破裂音と煙とそして衝撃。
当然投げた本人であるカレンはその場で音にやられてひっくり返ってしまった、もちろん自分もやりたいと主張していたマーサも、驚いて耳を塞いだと同時に、手に持っていた白い球を元の場所へと戻す。
カレンは罰として庭木にでも吊るしておこう、で、それはともかく肝心の神界クリーチャーの方なのだが……どういうわけか姿が見えないではないか。
煙が晴れたその場所にあったのは、無残にも崩れ去った屋敷の塀の残骸と、それからまさか入っているとは思わなかった鉄筋が……いや、さすがに鉄筋など使用してはいなかったはず。
屋敷の塀はいつもいつもルビアやジェシカが馬車をぶつけたり、誰かが遊んでいて破壊したり、それに襲撃者などが意図的に粉砕して中へ入って来たりするものだ。
それを普段から筋肉団辺りが直してくれているとはいえ、またすぐに破壊されたり、場合によっては跡形もなく消し飛んでしまうようなものを、そんな豪華な構造にはしないであろう……ということは……
「……なぁ女神、そこに転がっている鉄の棒のようなものなんだが……もしかするともしかするか?」
「もしかしなくてもそうです、召喚された雑魚クリーチャー、といっても棒人間が『コモン』なのに対して『アンコモン』ぐらいなんですが、とにかく鉄棒人間クリーチャーですね」
「で、どううして動かないんだこのクリーチャーは? というかもうひしゃげて捩じ切れてそれどころじゃない様子なんだが……不良品だったなら返品すんぞ」
「いえ、予想外の力で塀に叩き付けられた衝撃で……その、終わりました、役目を終えて神界に帰っていきました、魂だけが……」
「そうだったのか……ミラ、すまんがそこでカレンの顔に落書きしておいてくれ」
「わかりました、頬っぺたに『超馬鹿』って書いておきます」
「うむ、その状態のまま後で買い物に行かせよう、で、次は白い玉とはいえ無駄には出来んな、棒人間クリーチャーだってそこそこ使えているわけだし、それにワンランク上のものってことになると戦力にさえなりそうだからな」
「では勇者様、私と、それからサリナちゃん、ジェシカちゃんで白いのを3個投げます、残り1個は勇者様が」
「え? 何言ってんっだマリエルは? 俺は金の奴をだな……そうか、精霊様が投げるのか、そうかそうか」
「当たり前よ、リリィちゃんと交渉して、赤と黒は任せるから金を私にってことにしたの、あとの2種類は好きにしなさい、どうせ青と黄色なんだしろくなもんじゃないわきっと」
とはいえ一番ランクが低いことが確実な『白い玉』でもこれである、それ以上と思しきもの、特に上位の金、黒、赤は文句なしだが、ふたつある青と、それから黄色もかなり期待が持てるのではないかと、そんな気がしてならないのだ。
で、今度は失敗することのないように、まずマリエルがお手本を見せるようなかたちでゆったりと、アンダースローで塀に向かって白い玉を投げ付ける。
バンッという音とそこから生じる大量の煙、相変わらずの破壊力だが、今度は……この程度でも兵がボロボロにされてしまうのか。
瓦礫と化してしまった塀はすぐに直して貰えば良いのだが、この感じで中身の神界クリーチャーは大丈夫なのかと、そう思ってしまう。
徐々に煙が晴れてきたため、注意深くその玉が破裂した場所を見ていくのだが……どういうわけかまたしてもそれらしき存在がない。
そして今度は鉄筋のような残骸が落ちているというわけでもなく、ただただ崩れた塀の残骸がそこにあるというだけ。
これはもしかして『完全ハズレ』でも引いてしまったということか? だとしたら素材を返せと、そう主張したいところなのだが……
「……女神、今度は一体何が起こったんだ? 何も召喚されないじゃないか」
「いえ、一度は召喚されたんですよ一度は、ほら、あの煙に混じって出てきていた、気体タイプの『ガス人間クリーチャー』です」
「で、そいつはどこへ行ってしまったんだ?」
「ガスですから、そして今日は風がそこそこ強いですから……あっという間に霧散してしまいましたね、ここまで希釈されてしまうともう使用することは叶いません」
「つっ、使えねぇぇぇっ! てか金返せオラァァァッ!」
「待ちなさい勇者よっ! まだ白い玉のふたつ目ですからっ、全然期待出来ますからこの後っ!」
「……まぁ、それもそうだな、じゃあ次、サリナやってみろ」
「え、えぇ……それっ……ひゃっ……凄い音ですね、頭がキーンッてなりますよ」
「やはり、この聖なる大音響は悪魔にとって有害なモノであったのですね、悔い改めなさい悪しき者よっ」
「うるせぇ黙っとけ馬鹿がっ、女神の分際でウチのサリナをディスッてんじゃねぇよこのボケッ」
「いたたたたっ! やめなさい勇者よっ、ほら、今度はちゃんと形を保った神界クリーチャーが召喚されたようですから、そちらを気に掛けて下さいっ、ね?」
「ん? ホントだ、相も変わらず塀はアレなことになっているみたいだが……にしても小さいな、何だコイツは?」
ようやくまともに出現した神界クリーチャーであったが、未だ晴れ切らない煙の中に鎮座しているのは、それを召喚した張本人であるサリナよりも小さい何かであった。
一瞬、召喚者のサイズが出てくる神界クリーチャーのサイズにも影響してしまうのではないかと考えてしまったのだが、どうやらそうでもないらしい。
ここで召喚された何かは、元々このサイズのものであって、そして煙が晴れたところで見えたその全貌は……普通に座り込んでいる小さいおっさんではないか。
しかも完全に酒を飲んでいる状態、白いオヤジシャツにバーコードのような髪型、靴下も履いていないし、そもそも着ているオヤジシャツにハンガーの跡が……そして臭い……
「何なんでしょうかこれは? 凄く部屋干し臭いですし、お酒飲んでるし……姉様、それかご主人様、コレは要らないので引き取って欲しくて……」
「自分で処理しなさいですの、というかマジで何なんですこと? この……おじさんは?」
「こちらはれっきとした『アンコモン』の『ダメ人間クリーチャー』ですね、肩身が狭い思いをして縮こまっていたらこのサイズになってしまったという設定なのですが、特技の『絡み酒』がなかなか強力でして、どんな相手でも1ターン休みに持ち込むことが出来るというそこそこの有能キャラで……え? そんなこと聞いてないですか、そうですか……」
「というか、どうしてこの世界のこういうキャラってこんな臭そうなおっさんばかりなのかしら? もうちょっと年齢層とかにバリエーションを持たせたりとかないの?」
「知らんが、団塊の世代なんじゃねぇのか? マジで知らんが」
ようやく形になったかと思えば、酒臭くて部屋干し臭い休日、或いは定年退職後のおっさんが召喚されてしまった。
女神の言う強力な特技、『絡み酒』の他にも、『飛び込み営業』や『自爆営業』、そして『ビジネス土下座検定2級』などのスキルや、『窓際』などの称号も有しているため、どうかんがえても普通の、少し私生活がダメなだけのおっさんにしか思えないのだが。
しかもそれがスッと立ち上がり、召喚者であるサリナが移動する度にその後ろを付いて歩こうとしているのだから笑えない。
余裕で通報案件であるし、もし次にこういうのが出てきたらと思うと、もうこの白い玉を投げて神界クリーチャーを出そうなどと思えなくなってしまう。
だが、女神曰くこの『ダメ人間クリーチャー』はそこそこ出現率が低いキャラとのことで、今回サリナは運が悪かっただけ……いや、こんなのに付き纏われるなど不運どころか絶望なのだが、まぁそんなに何度もあることではないらしい……
「ということだ主殿、残りふたつのこの白い玉、同時に投げて何かを召喚することとしよう」
「わかった、やべぇのが出ないと良いんだが、凄くビビッてんぞ今……てか趣旨変わってねぇかこのイベント?」
「うむ、期待を込めてどうのこうのであったが、既に罰ゲームと化しているからな、ではせーのでいくぞ、せーのぉっ!」
「うぉぉぉっ! もうどうにでもなれやぁぁぁっ!」
ジェシカの言う通り、最初の期待はどこかへ吹き飛び、もはやデメリットを生じさせるような何かが召喚されないことだけを祈っている状態となった。
ここまでの一連の流れがそうさせたというのは事実なのだが、やはりサリナが召喚した、いやうっかり召喚してしまった『ダメ人間クリーチャー』のインパクトが大きい。
未だにキモいおっさんに付き纏われているサリナをあまり見ないようにしつつ、俺達は目の前の塀を破壊しながら炸裂したふたつの白い玉、その行く末を眺める。
モクモクと上がった煙はすぐには晴れず、そしてその煙の中に居るのであろう何かは、俺達には損z内を感じさせないような神界の者。
徐々に見通しが良くなってくると同時に、その中にはふたつの影が存在しているということがわかって……どちらも通常の人間サイズ、と思いきや片方は蹲っているためもう少しデカいらしい。
とにかく先程の『ダメ人間クリーチャー』ではないということだけが、サイズ的にわかったためひとまずセーフとしておこう。
あとはこれらがどの程度鬱陶しくてすぐにゴミ箱へでも送達したいゴミ野郎共なのかというところが不安なのだが……まず、見えた限りではどちらもおっさんキャラである……
「……どっちがどっちの奴なんだこれ?」
「おそらくデカい方が主殿が呼んだクリーチャーだな、位置的に……まぁ、どちらも大差なさそうな感じではあるが……」
「……あっ、勇者よ、それはあなたが呼び出したクリーチャーのようですね」
「そうらしいが、何だこのデカいおっさんは……コイツも酒飲んでんのかよっ、蹲ってカップ酒の空き瓶舐めてんぞ必死にっ!」
「それ、一応『レア』のクリーチャーなのですよ、『ダメ人間クリーチャーウルトラジャンボ』です、なんと通常のダメ人間の5倍という」
「いやこんなもん5倍強かろうが……何だ?」
「いえ、5倍強いのではなく5倍鬱陶しくて5倍気持ち悪いのですよ」
「えっ? ちょっとニコニコしながら近付いてきて、はっ、マジか近い近いっ! パーソナルスペースとかどうなってんだこのおっさんはっ? 生乾きの臭いやべぇぇぇっ! なぁぁぁっ!」
「ほら、なんと異世界勇者を圧倒するほどの実力の持ち主なのでした」
「女神……お前後で覚えておけよ……ガクッ……」
おっさんに接近された際に生じた精神的ダメージ、および臭いによる物理的ダメージによって、俺は完全に戦意を喪失して倒れてしまった。
あとはジェシカの方なのだが、それはもう、地面に横たわった状態で適当に見させて頂くこととしよう、もう俺には起き上がる力もないし、そしてダメ人間のおっさんが異様に近くて部屋干し臭いのだ……
「それで女神様、私に与えられたらしいこの……おっさんは何者なのでしょうか?」
「えっと、それは単なる変質者です、本来召喚されるべきであったクリーチャーの近くに居て、巻き込まれて召喚されてしまったということなのでしょうね」
「まさかの巻き込まれ召喚とは……このおっさんが主人公キャラであるようには思えないが……あ、すると女神様、あの白い玉から出た神界クリーチャーは何処へ?」
「少し見え辛いですがそこにほら、透明なクリーチャーが居るのが見えますか? そろそろ完全に煙が晴れると思うので……そこです」
「あ、えっと……あぁ、確かに棒人間クリーチャーのような……形はそうであると存じますが、どうしてスケルトンなので?」
「これは『ガラス棒人間クリーチャー』です、手足の棒部分がガラス棒になっていて、それを鼻とかに突っ込んで診察してくる医療タイプの神界クリーチャーです、ほら早速あなたを狙っていますよ」
「ちょっ、ひぃぃぃっ! そういうプレイは好きではないのですがっ!」
ガラス棒を組み合わせて棒人間にしたような神界クリーチャーに襲われるジェシカ、結局最後まで白い玉はゴミばかりであったということだ。
それでもまぁ、あとは青がふたつに黄色がひとつ、さらに赤、黒、そして金と、期待度の高い玉が続くゆえ、それに期待すれば良い。
早速青ふたつを両手に構えたセラと、黄色を持って『金目のモノが出ますように』などと祈りを捧げているミラ。
この2人がどのような結果を出すのかによって、この後の高品質な玉がどの程度『使える』クリーチャーを捻り出すのかが決まってくる、そんな予感がしてならない……




