1175 討伐して後
「……っと、大蟯虫クリーチャーが1匹飛んで来たな、まだ完全には消滅していなくて、どこかに潜んでいたような奴も居たってことだな」
「まぁ、1匹や2匹来たところでどうにもならないわね、またさっきみたいにでっかくなるんだろうし、それよりも……残った部分が問題よね……」
「あぁ、あのミミズみたいな下半分を下手に刺激してみろ、きっと内容物がドピュッと出てブッカケされて、凄くキモいうえに最悪病気になる」
「とはいえ主殿、もう周囲には気を付けるべき何かがない状態だぞ、私達だけ注意しておけば大丈夫なのでは?」
「注意してどうにかなるような性質のものだと良いんだがな、そうはいかないだろうよあのビジュアルじゃさ……」
どれだけ強力な攻撃をしても、どれだけ狙い済ました何かであったとしても、攻撃のたびに必ず残ってしまう敵の下半分、ミミズのような部分。
もはや自分のせい、疫病の大流行をプロデュースするために存在しているはずの自らのせいで、この地がかなりクリーンになってしまっている魔界の神の下半分が厄介なのだ。
この時点ではもう、町の外から飛来してその失った部分の補填とされるような大蟯虫クリーチャーはかなりまばらで、最初の頃の凄まじい勢いでの、しまも目に見えないような小さな病原体をふんだんに使った不思議な再生とはかなり異なっている。
一番最初は確かに不思議であった、何の力も感じない、何も見えないというのに、徐々に敵の神の肉体が再生していくのだから。
まさかそれが空気中、それから水中に存在している病原体を使ってそうなっているとは思わず、調査にはかなり苦労したのだが……わかってしまえばこのように、空気清浄機としてかなり有能であったのだ……
「……あ、また大蟯虫クリーチャーってのが飛んで来たわよ、ベチョッとこの変なミミズにくっついて……ちょっとだけ元に戻ったわね」
「ではここで聖なる水をブッカケしてみましょう、それっ」
『ギョォォォォォォッ! ギョォォォォォォォォッ!』
「凄く苦しそうですね、でも色々と飛び散るのはあまり良いことではないですから、この辺りにしておこうと思います」
「ご苦労ルビア、さてと……どうすんだよマジでコレは? 最初から一貫して問題だぞコレのsyりに関して」
「そうねぇ、ホントにそうねぇ……と、勇者様、また堕天使さんが何か言って……言いながらどこかへ行っちゃったわね……」
「アイツ、敵前逃亡は鞭打ちだぞっ、どこ行きやがって……仮説庁舎に降りたみたいだな、マジで何か作戦があるのかも知れないぞ」
「そうね、少なくとも勇者様よりは賢いはずだし、堕天使さんの作戦に期待しましょ」
「おうセラ、少なくとも俺よりは何だって?」
「ひぎぃぃぃっ! 今日はお仕置きされすぎていててててっ!」
余計なところでいちいち調子に乗った発言をしてきたセラを始末しつつ、ひとまず仮設庁舎の方へと向かって行った堕天使さんん帰還を待つ。
敵の神は徐々に回復しているようだが、もうその上半分が『人間のような形状』へと復帰するのかどうか、それさえもかなり怪しい感じであるため、特に気にすることはない。
で、しばらくそのままにしていると、監視していた仮設庁舎の方からサッと舞い上がった堕天使さんであったが……手に何か持っているではないか。
あのフォルム、あの感触、あの光の反射具合は……間違いない、打点資産が仮設庁舎から持ち出したのは、そもそも俺達が求めていたものであって、未だ実戦投入されていない状況の残雪DXだ。
残雪DXは武器職人のD造じいさんの遺作であって、俺達には装備することが出来ないものであって、しかしながら一応は捕虜とかそういう扱いである堕天使さん、そしてこれからどうこうしてやるつもりの魔界の女神には使わせるべきでないと判断したもの。
そしてその使用者として、俺達は魔界の者の力と同じようなそれを持っているはずの神界の存在、そのなかでも神界クリーチャーを選択したのであった。
だがいつも倒しているような堕天使(最下級)のような雑魚kキャラを討伐して得られる『肉』の『素材』では、それ相応の雑魚、コモンキャラばかりしか出ないような神界クリーチャーガチャしか引くことが出来ない。
それを、今対峙しているこの魔界の神のような、少しばかり、いやかなり高位の存在そ『素材』とすることによって、ワンランク上の、レアキャラばかりが出現する神界クリーチャーガチャの抽選を受けられる。
……と、かなりの遠回りではあるが、そのレア神界クリーチャーを駆使して、それに残雪DXを装備させて、俺達は魔界でのバケモノ共との戦いを切り抜けようと考えているのだ。
しかしここにきて、何を思ったのか堕天使さんが勝手に残雪DXを持ち出してしまったということ。
これは規定違反? とは言わないまでもアレだ、重大インシデントと認定して良いところである。
まぁ、堕天使さんと、おそらくこれに関して指示を出したのであろう疫病をレジストする魔界の女神については、後で拷問じみた事情聴取をすることとしておこう。
で、本当にどうするつもりなのだ堕天使さんは……といったところであるが、これはもう、残雪DXを使用して敵を撃破しようとしているに他ならない状況だ……
『ちょっとちょっと、伝説の武器であるこの私をどうしようっていうんですか? 高いですよ使用料、なんてったって伝説なんですからね伝説』
「あの、少し静かにして頂けると……えっと、これはかつて使用したGUNに近い……というか同じ構造のようですね、わかります、わかりますが……凄まじい魔力が充填されていますねあなた……」
『それはもう最大容量が桁違いの私ですから、で、そこの狙いを定めるための装置を使って……そうです、ターゲットはあの変なので良いですか? 出来ればさいしょはあの創造主のジジィの死体でも消し飛ばしたかったんですが、あの変なのが最初とは』
「おいっ、お前気付いてねぇのか、アレ、下半分だけになったとはいえ神だぞ、魔界の神、そこそこの価値を有している相手であることは異世界勇者様たるこの俺様が保証しよう」
『いえ、別にそんな保証されても困るというか……あぁ、でも神ですかそうですか、わかりました、ではやっちゃって下さい、記念すべきこの残雪DXの初体験、やっちゃって下さいそこの堕天使の方!』
「え、えぇ……何気にノリノリじゃないですか……」
やる気を出したおかしな喋る武器と、そしてそれを完璧に装備し、操作することが出来る堕天使さん。
というか一応この女は『GUN経験者』であったか、使用方法も最初からわかっているようだし、コレは問題なさそうだ。
特に俺達に対して服従の意思を表明したわけではない敵方の捕虜と、同じく敵方の自称伝説の武器。
危険な組み合わせではあるものの、この状況であの『消えない下半分』を吹き飛ばすことが可能そうな組み合わせであるのもまた事実。
ここはこいつ等に任せてしまって、それ以外の処理についてはこの後考えることとしよう……堕天使さんが狙いを絞ったようだ。
そしてウネウネと動きつつ、時折飛来する各種病原体を用いて徐々に回復していく敵の神に対して、残雪DXの照準が向けられたのである。
その引き金にかかった指が小さく動く、これで中の魔力が暴走を起こし、最初から充填されているのであろう鉛玉にそれっが移転して……筒状になった先端から一気に飛び出した。
反動はごく小さいようで、堕天使さんのおっぱいがブルンッと揺れたのみで以降は発射側に何もない。
だがそちらを見るべきではなく、これは攻撃を受ける側がどうなるのかを……発射された弾丸は一気に敵の神を目指したようだ……
『グッ……ギョェェェッ! こっ、これは何だぁぁぁっ!?』
「バーカバーカッ! 貴様のような汚いのはこの疫病をレジストする女神……の配下である堕天使の、魔界伝説武器残雪DXを用いた攻撃によって滅びよこのバ-カッ!」
『ぬぉぉぉぉっ! よりにもよって一番イヤな奴に状況を解説されながらっ! 我の肉体が消滅してぇぇぇっ!』
「凄いわね、めっちゃ効いてるじゃないの、下半分のミミズみたいなのがどんどん消滅して……完全に消えちゃったわ……」
「……とんでもねぇ威力だが、これ、周囲に対する被害とかそういうのもなくピンポイントで敵だけ狙えるみたいだな、すげぇぞっ!」
魔界の女神の状況説明に乗った堕天使さんおよび残雪DXによる攻撃は、見事に敵の神の下半分にヒットし、そこで炸裂するような現象を発した。
真っ黒で邪悪そうな力の発露がその場で起こり、そのまままるで発泡スチロールでも熱したかのように、ドロドロととける感じで消え去っていく魔界の神の下半分。
その状態でもまだ言葉を発してはいたのだが、それも一瞬のことであって、やがてしつこかったそのミミズのような部分は完全に消滅した。
闇の力の爆発が収束すると、その場に残ったのは……予想通り、『素材』として使用することが出来そうな『疫病の大流行をプロデュースする魔界の神の肉』などという長ったらしい名前のアイテム。
そしてその他諸々のアイテムにも期待したのだが、病原体だけを撒き散らし、特に武器など用いることなく戦っていた敵の神からは、それ以外に何も得ることが出来なかったようだ。
とはいえまぁ、これで一旦討伐は完了であって、いちいち長かった戦いもこれで終わりということが確定した……
※※※
「……よしっ、じゃあ堕天使さんはその武器をそこに置け」
「あ、はいわかりました……と、手から離れないのですが?」
『困りますっ、こんなに活躍したこの私、伝説で貴重な武器であるこの私を地べたに置くなど困りますっ! せめてフワフワの何か用意して頂いてっ!』
「鬱陶しい奴だな、確かに力は示したかも知れんが、まだまだ伝説を自称するには弱いんだよ、お前如き地べたで十分だ、堕天使さん、問答無用で置いてやれ」
「あ、はいわかりましたっ」
『……地べた冷たいですねリアルに』
「そりゃ冬だかんな、そこでしばらく砲身でも冷やしておけ」
『・・・・・・・・・・』
伝説の武器感を少しばかり醸し出し、それを俺達に見せつけることに成功した残雪DXであるが、その扱いをここで変えてしまうとどうせ調子に乗ってしまう。
声だけは可愛らしい女性のものなのだが、そのビジュアルは完全にGUNであって武器である。
まぁ、兵器の類は『女性名詞』であるというのも言えることなのだが、それでもこの無骨なビジュアルの者に対して敬意を払うことはあまり出来ない。
もっとも、この残雪DXが超進化して人間の形を取ることが出来るようになればまた話は変わってくるのだが、そうではない現状においては、この程度の扱いで十分なのである。
それで、命令に従って武器を置いた堕天使さんであって、その活躍によって鬱陶しくて気持ちの悪い敵の神を始末することが出来たのだが、その行動に関しては問題点が多い。
捕虜の分際で武器を手に取った、しかも極めて強力な魔界の伝説武器……を自称する何かを用いて、強力な攻撃を放ってしまったのである。
大人しくしている堕天使さんをその場に跪かせ、ルビアに対して縛り上げてしまうよう命じた。
それでさえも受け入れている様子なのだが……微妙に震えている辺り、やはり何をされるのかという恐怖は感じているのであろう。
とにかくその堕天使さんと、ユルユルと降りて来た疫病をレジストする魔界の女神を拘束したいところであったが、魔界の女神についてはまだこちらに降参してきたわけではない。
もしかしたらここで追加の戦闘をこなすことになるのかも知れない、そのような面倒臭いイベントが起こるのかも知れないと危惧したのだが……どうやらそうではないようだ……
「えっと、あの、ちょっと良いか? 我は偉大なる魔界の女神であって、疫病をレジストするために新たに発生した存在であるのだが……今しばらく、どうか完全に大蟯虫クリーチャーを駆逐するまでは協力して欲しい、そう願っている」
「……そうなのか、ちょっと微妙な提案だな、こっちも作戦会議をして構わないか?」
「なぜだ? 貴様がそのパーティーのリーダーであって、パーティーの行動の決定権は貴様にあるのだと思っていたのだが、どうしてこの場で判断をしないのだ?」
「あのね、馬鹿なのよコイツ、異世界ではFラン? だっけか? そう呼ばれていたクズで、この世界に来てもパッとしない不人気勇者でカスでクズで低能で、口を開けば不適切発言、自分で物事を考える知能など有していない極端な底辺の代表格みたいな人間……コレを人間と言うのは下等な人間という存在に失礼ね、とにかく、その程度の低知能勇者だから、他の仲間に意見を求めないと何も出来ないわけ」
「・・・・・・・・・・」
「なるほど、カスでクズで低能であって、しかもそんなリアルゴミ野朗なのに調子に乗っているなとは思っていたが、まさかそこまでとは、いやはや、下界の精霊であると小馬鹿にしていたのを許して欲しい、そんな神輿にもならないようなダメな奴をパーティーリーダーとしてここまでやってきた精霊の力に感服したぞ」
「・・・・・・・・・・」
「……ちょっ、そろそろやめてあげて、勇者様が首吊るためのロープとか練炭とか、やたらに通販のカタログで見始めたから」
「そのぐらいじゃ死なないわよこの図々しいのは、ほら、ショック受けてないでしっかりしなさい、で、この堕天使さんと魔界の女神をどう処理するわけ?」
「……あ、えっと、そうだな……まぁ、俺様が思うにこの魔界の女神の罪はまだ軽い、魔界に誕生してしまったというだけだかんな、だからちょっと協力してやって、大蟯虫クリーチャーとかを殲滅した後はこのエリアを収める何かにしてやっても構わんぞ、俺様の名代としてな」
「……一瞬で復調したようだな、この間に何があったというのだ一体?」
「きっとディスられまくったショックでフラフラして、それで3歩歩いたから忘れたのよ、その程度の知能しか有していないのこの異世界人は」
「存在全てが酷すぎるではないか……」
というように紆余曲折はあったものの、とりあえず『実行犯』である堕天使さんは一応の拘束と、罰としてお尻ペンペンの刑ということで決着した。
ついでに疫病をレジストする魔界の女神については、この後もこちらが大蟯虫クリーチャーの殲滅に協力するということへの見返りとして、完全に魔界の体制側、もちろん強者であるホネスケルトンなども裏切ることを約束させておく。
これで神が2柱目、俺達の味方となったわけではあるが……まぁ、片方のアレ、いつも絡んでいたクソのような低能神に関しては、およそ0.5とカウントしても良いであろう。
ということで1.5柱の神を味方に付けた俺達は、一旦町の仮設庁舎へと戻り、この後の行動に関して詳しく話し合うこととした……
※※※
「ひぃぃぃっ! 痛いっ! お尻痛いっ! 許して下さいぃぃぃっ!」
「フハハハハッ! 参ったか堕天使さんめっ! この俺様の強さと恐さがどの程度か思い知ったか! んっ?」
「ひぇぇっ、もうやめて下さい、あなた様が最強の勇者様だということは認めますからっ」
「よろしい、ではこれで刑を終了する……と、そこの闇堕ちご当地勇者パーティーのお前等、お前等も逆らえばこういうことになるということをゆめゆめ忘れるでないっ!」
『はっ、はいぃぃぃっ!』
やはり圧倒的な力で他者を抑え込み、一方的に優位な立場であることを宣言するのは気分が良い。
願わくばこの世界、もちろん魔界だとか神界だとかに拘らず、全ての存在をこの方式で制圧してやりたいところである。
とはいえ、そんなことをするためにはまだまだ活躍が必要で、現状ではこの魔界において、単体の神を蹂躙したり従えたりするにすぎない。
もう少し精進せねば、俺様が勇者様として、感知し得る全ての存在に対して優位的な立場を獲得するまでの間は……と、ここでセラの仕切りによって作戦会議が始まったようだ……
「え~っと、さっき倒した魔界の神様? にしてはキモかったけど、それの『素材』を持って、私達はまず元の世界に帰らなくちゃならないのよね?」
「そうですの、そこで神界の女神に頼んで、残雪DXを装備することが出来るような神界クリーチャーをゲットするためのレアガチャを……みたいな感じですわね」
「それで、同時にこの町……というかもう崩壊寸前の廃墟みたいになっているんだけど、そこに巣食っている大蟯虫クリーチャーも完全にどうにかしないとということね」
「そうです、大蟯虫クリーチャーは先程の戦いでかなり減ったように思えますが、それでも『残っていさえすれば』確実にまた勢力を……みたいに思います」
「サリナちゃんの言う通りね、ああいうのはしつこいから、ちょっとでも残ればまた大増殖して、検査しても検査しても沸いてくるようになるわよ」
真面目な作戦会議らしいが、もう俺の中では将来のビジョンが構築され尽くしているため問題はない。
ひとまずは元の世界でガチャを引いて、それで可愛い女の子型のクリーチャーを引き当てて、それに残雪DXを装備させて……などという具合だ。
もちろん全てが上手くいくとは思えないが、ある程度キッチリ事が運んで、最低でも神界クリーチャーガチャで出現するのが美女または美少女キャラで……というところまで合致していればそれで良いのである。
あとは仲間達がその持ち前の戦闘力と馬鹿さ加減でどうにかこうにか、事態を切り抜けてくれるものだと俺は期待しているのだ。
もちろん、この異世界勇者様たる俺様もそこそこに張り切りを見せて、この後に降りかかってくるであろう魔界イベントを少しずつ、丁寧にクリアしていく所存であって、きっと最終的に上手く行くのであろうということまでは想像出来ている……




