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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1174 最後に残った

「クッ……殺せ……早く殺してくれ……このような姿になってしまってはもう何も……何も出来ないではないか、もっと疫病を大流行させたかったのに、そして対となるあの疫病をレジストする女神を殺したかったのに……」


「何諦めてんのよあんた? もうちょっと頑張りなさい、ほら、そんな感じでも出来ていることはあるじゃないの、頭なんか引き摺っていたって良いの、頑張って戦って、勝利をその手に掴むための努力をなさいっ」


「ぐぬぬぬっ、我を馬鹿にしている分際でそのようなことを……下界の精霊め、覚えておけよこのゴミがっ! 死ねっ! 我より先に貴様が死ねっ!」


「え、ちょっと待って、私何も悪いこと言ってないのに凄くキレられたんだけど、死ねとか言われたんだけど、どうしたら良いのかしらね?」


「さぁな? だが他者に対してそういうようなことを吐く野郎は大嫌いなんだよ俺は、心が汚いらしいから聖なる水でも飲んで浄化されろよ、オラッ」


「ぐぎっ、ギョェェェェッ! 聖なる水が目にぃぃぃっ!」


「ギャハハハッ! 今ちょっと浮いてたぞ頭、その調子でいけば引き摺らなくて済むんじゃねぇのか? もう1回聖なる水いっとく?」


「やめろぉぉぉっ! もうっ、もう殺してくれぇぇぇっ!」



 何度も何度も上半分の喪失と再生を繰り返した結果、かなり頻繁に奇形を生じるようになってきてしまっている敵の神……今も色々なパーツがわけのわからない所から生えたおかしな姿だ。


 それが当初有していた夢も希望も何もかもを諦め、早く殺せと懇願してくるのだから面白い。

 徹底的に甚振って、絶望に絶望を重ねたうえで、その再生能力を『環境美化』のための使い切ってから殺してやることとしよう。


 もちろんこの神が有している再生機能は任意に調整することが出来るものではなく、身体の破壊が起こればすぐに、確実に起こるものであるということも確実である。


 でなければ、ここまで追い詰められた状態で、早く殺せと懇願するような状態で、ダメージを受ければすぐに、しかもかなり失敗しながらも再生してくるということはあり得ないのだから。


 そしてその強制的な身体の再生においては、周囲にある大蟯虫クリーチャーやその他の病原体を掻き集めて、溶かしたうえで自分のものにしているということもまた一貫して変わることがない。


 もしかするとそれらのものが一切なくなった状態においては、その辺の物質などを吸収し始めるのではないかと危惧していたのだが、そでについてもどうやら大丈夫であるらしいということが、これまでの繰り返しの中で判明しつつある……



「はい、じゃあ次の一撃をお見舞いしましょ、死にたきゃこれで死になさいっ!」


「ギャァァァッ! また上半身がぁぁぁっ!」


「そこそこ吹っ飛び易くなってきたわね、下半分は相変わらずだけど、上の方はもう再生した瞬間からボロボロみたい」


「みたいだな、じゃあ引き続き……っと危ねぇっ! 遂に大蟯虫クリーチャーが丸ごと飛んで来やがったぞ、きっと寄生されてしまった魔界人間の口からにゅるんっと出たんだろうな……」



 やられてすぐさま再生を始めた疫病の大流行をプロデュースする魔界の神、その失った部分を填補するための素材として、かなり少なくなった菌やウイルス、その他大蟯虫クリーチャーの卵などの代わりが飛んで来た。


 それはもう大蟯虫クリーチャーそのもので、先程見たようなミニマムなものでも、成長途中の幼虫タイプでもなく、れっきとした成体であった。


 もちろん人語を解しているため何やら悲鳴を上げていたのだが、最後の最後で神に吸収されることを知ると、無駄死にではないと悟ったような顔をしていたのが印象的だ。


 で、その大蟯虫クリーチャーがグチャッと敵の神の傷口へ突っ込み、そのままドロドロに溶かされて肉体の一部となったことによって、失った上半分、人間サイズの上半身のような部分はあっという間にその質量を回復したのであった。


 これからは何度も大蟯虫クリーチャーそのものが飛んで来ることになるはずだし、消滅から再生の過程もかなり短くなりそうな気がするな。


 そしてそんな無茶をして再生していることからも、これまで以上に奇形の発生確率が上がって……まぁ、既に100%近い確率でどこかしらおかしな状態となって復活しているのだが。


 それがまた今回も、一度は人間の上半身のような形状になりそうであったところ、生えかかった腕とは別に前面から無数の腕が生えて、まるでムカデのような状態となった敵の神。


 なかなか生えてこなかった首はというと、どうやら元々頭があるべき位置ではなく、腹部の中央からニョキニョキと、それこそミミズのような下半分を縮小したようなものが生えたのに次いで、その先端から姿を現す。


 しかも口の位置がおかしい、目より上にあってなかなか気持ち悪いうえに、それが縦にパックリと開いて頭を分割するような形状になって……もはやまともな姿ではないな。


 こんなもの、その辺の魔界クリーチャーよりもよほどクリーチャーじみていて、力こそ衰えてはいないのだが、それでも『神』を自称するには相応しくない見てくれである。


 そんなもはや神にあらずといった形状の何かが、色々とおかしなボディーのせいで発生しているのであろう猛烈な痛みに耐えつつ、どうにかその頭の口を開いた……



『き……貴様等ぁぁぁっ! どうしてこんなにも酷いことが出来るのだっ? もはやわれに勝ち目はないっ! 何が目的なのか知らんがとっとと殺せっ! 頭おかしいだろこんなことするとかっ!』


「あら、変な奴が奇声を発しているわね、で、結局何を言っていて何を主張したいのかしら?」


「さぁな、豚の鳴き真似でもしてんじゃねぇのか? さて、次の攻撃をどうぞっ!」


『ひょげぇぇぇっ!』



 何かを言っていたようだが気にしない、このまま再生のたびに大蟯虫クリーチャーをかき集めてくれるというのであれば、その能力を利用するべきであることは明白なのだから。


 で、今回も叫び声を上げながら飛んで来た大蟯虫クリーチャー共だが……どういうわけか少し数が多いような気がするな。


 見えているだけ、ぶつからないように回避してやり過ごしただけで100匹以上、もちろん通常のものも、ステルス大蟯虫クリーチャーとやらも、その他見たこともないような新種も含まれている……



「……何だか大蟯虫クリーチャーのパレードみたいになっているわね……しかもほとんどが町の外から飛んで来ているみたい」


「それと、堕天使さんが上空で何かジェスチャーをしていますよ、パンツモロ見えですが」


「ホントだ、俺に向かって何か……ちょっとこっちへ来て下さいだと? 飛べねぇんだよ俺は、そこんとこ配慮しろっと……これで伝わったかな?」


「飛べないとかどれだけの下等生物なのですか、魔界人間並みのクズですよそれ……ってジェスチャーが返ってきているわね」


「ふざけやがって、おいっ、とにかく降りて来いっ!」



 最後はジェスチャーなどではなく、直接大声で怒鳴って堕天使さんに俺の所まで来て、何か用があるならそれを伝えるよう促す。


 なおその間も敵の神は大蟯虫クリーチャーの成体を掻き集め続けて……そろそろペースが鈍化してきたようではあるが、それでもその質量の方がおかしい。


 これまでは人間サイズの上半分に、それに見合ったサイズの下半分が繋がっていたのだが、今の見た目はかなり変わってきてしまっているのだ。


 もちろん破壊されていない下半分に関してはそのまま、サイズも特に膨張したり何だりということはなくほんとうにそのままの姿である。


 だが大量の大蟯虫クリーチャーをそこら中から掻き集め、それを溶かして自分に融合させたかたちとなった上半分は、もう肥大化というか何というか、とにかくブックブクとなり、元の姿など想像も出来ないほどに……まぁ、色が真っ白なのは一緒か。


 と、ここで呼ぶのを諦めた堕天使さんが自ら降りて来たようだ、敵の神はその異常な状態で動くことさえ出来ずにいるようだし、そもそもまだ時折大蟯虫クリーチャーが飛来してそこに融合されている。


 よってこちらはもう放っておいて、まずは堕天使さんの相手をしてやることとしよう。

 特に俺が空を飛ぶことが出来ないことに関してディスるような発言、いやジェスチャーをしたことについてはしっかりとわからせてやる必要がある……



「ふぅっ、やれやれ、一応地上は危険なので、可能であれば上に来て頂きたいところだったのですが……飛べないのであれば仕方がありませんね」


「そう、俺は空を飛ぶことが出来ない、出来ないがな、そうやって飛べない何かをディスる堕天使さんの尻を抓り上げることは出来るんだっ!」


「ひぃぃぃっ! 痛いっ! 痛いのでやめて下さいっ! イヤァァァッ!」


「そうよ勇者様、そもそも勇者様が飛べないのが悪くいんだからてててっ! 頬っぺたじゃなくてお尻を抓って欲しかったのに……はいどうぞ、ひぎぃぃぃっ! 反対側もお願いしますぅぅぅっ!」


「で、馬鹿共の尻を抓っている暇じゃないんだ、セラは戦闘に戻れ、堕天使さんは何か用があるならサッサと伝えろ」


「いえ、それがですね、上空から見ていてわかったのですが、どうも大蟯虫クリーチャーの卵や大蟯虫クリーチャーそのもの、その他病原体はほとんどが向こうから飛んで来ています、町の中から沸きあがったものを除いてですが」


「向こうから? そういえば確かあっちは……町の上流に位置する大蟯虫クリーチャーの発生源がありそうな方角か……」


「そうですね、しかもあの寄生されていた乗合馬車や武器職人の旅団がやって来た方からというkと似もなりますから、そこを浄化すればあの神様はもう回復が出来なくなると思いますよ、そしたらこの膠着した状況を打破することが……え? わざとやっているんですかコレ?」


「あったりまえだ馬鹿! この馬鹿! 俺達はな、コイツが再生時にそこら中の病原体を掻き集めていることを利用して、この町のみならずエリア全体を浄化しようと考えてんだ、わかるかこの馬鹿!」


「ひぃぃぃっ! 何かすみませぇぇぇんっ! あ、でもほら、向こうから飛んで来ている大蟯虫クリーチャーもかなり少なくなって……それから再生している神様、妙にデカいですね」


「……ホントだ、さっきよりもさらにデカくなってんぞ、大丈夫なのかアレ?」


「ちょっとヤバいかも知れないわ、でももう終わるみたいだし、ひとまず話を聞いて、その如何に拘らずもう一度ブチのめしましょ」


「それなら話を聞く必要はもうないと思うのですが……いえ、何でもございません、続けてどうぞ」



 堕天使さんから話を聞いて、どうやら飛来する大蟯虫クリーチャーはこれの発生源、つまり目の前で無様な姿になっている神が、このエリアを陥れるために用意した場所からのものであろうということがわかった。


 この町の上流に『発生源』となる場所を用意して、そこから流れに乗せて大蟯虫クリーチャーを……というのがこの敵の神の狙いであったに違いないが、それを今、全く別の方法で使用している状況下にある。


 そして本当はもう殺して欲しいところであるのに、その用意した『発生源』と自らの能力のせいで、どうにもこうにも死に切ることが出来ず、延々と無様を晒す結果となってしまっているのは実に滑稽なことだ。


 まぁ、その無様もそろそろ終わり、堕天使さんが指摘した大蟯虫クリーチャーの発生源についても、やはりそこにストックされていた分の卵と、その近辺の何かの生物、おそらく近隣の魔界人間であろうが、それに寄生して体を乗っ取っていた成体を使い切りつつあるのだから……



「……おいこの野朗、調子はどうだ? やけにブクブクと太ったような気がしなくもないが、生活習慣病か何かにでも罹患したのか?」


『くっ……ぺぽっ……もう……殺してくれ……』


「そうかそうか、そんなに死にたいのか、だがそのボディーを吹っ飛ばすのは俺達の役目じゃないな、おい駄天使さん、上に居る疫病をレジストする魔界の女神をここへ呼べ」


「え? あ、はい……でも女神様の安全は確保して欲しいので、それだけは切にお願いを……大丈夫ですか?」


「わかっている、ほれサッサとしないとお前とあの魔界の女神、並べて吊るして鞭でシバキ回すことになるぞっ」


「ひぃぃぃっ! わかりましたぁぁぁっ!」


『え……疫病を……レジストする……見つけたっ! そこにおったかぁぁぁっ! 死ねぇぇぇぇぃっ!』


「おいおい、何か急に動き出しやがったぞコイツ、セラ、ちょっと上の奴等をガードしてやれ、ユリナはあの伸ばそうとしている……腕のつもりなんだと思うが、それだけ撃破しておいてくれ」


『うぇ~いっ』



 宿敵であり、コイツのターゲットそのものであり、わざわざこの町へやって来た唯一の理由である魔界の女神、それを見せてしまうのはあまり芳しいとは言えない行為であったか。


 ブクブクの肉人間のような上体を無理矢理に起こし、発見したその宿敵に対してどうにか攻撃を加えようと試みている敵の神。


 もちろん攻撃そのものはセラが張った高圧な空気のバリアに弾き返され、そしてその攻撃を放った腕はあっという間に灰になった。


 そのまま振り絞っていた力までもを失い、ドシンッと地面に横たわる敵の神と、それによって舞い上がる呪いのような何か。


 周囲の建物はまるで長い年月を一瞬で過ごしたかのように崩れ去り、その中で事態の推移を見守っていた、逃げ出すことをしなかった馬鹿な魔界人間は、まるで恐ろしい病に冒され、それを長時間放置されたかのような状態で死亡しているのが確認された。


 巨大化した分、というか奇形である以上動きはかなり遅いが、例えばコレが何かのキッカケで大爆発を起こしたとしよう。


 それはもうこの町全体の終わりを意味し、せっかく掻き集めて消去された病原体と同じようなもの、いや今度は大蟯虫クリーチャーどころの騒ぎではない謎の菌やウイルスが、新たに生成されて撒き散らされるに違いない。


 それはさすがにヤバい、最後は意識があるうちに魔界の女神、この敵の神の宿敵に蹂躙させて屈辱を与えようと思ったのだが、その作戦は少し修正する必要がありそうだ。


 ひとまず地上までやって来たその魔界の女神と堕天使さんを後ろに下げ、魔界の女神には敵が死亡する際に、後ろから暴言のみ吐き掛けて侮辱するようにと命令しておく……



「あのな下賎で矮小なる下界の存在よ、貴様はこの魔界の女神である我にさせるのがそのような陰湿なことだと、それをわかったうえでそう発現したのか? ん?」


「うるせぇぞ、カンチョーされたくなかったら言う通りにしろ、そうすれば俺様が魔界を支配した後の扱いもそこそこにしてやるからよ」


「この感じだと全く期待することが出来ないのだが……まぁわかった、いじめられるのは恐いから素直に従うこととしよう」


「あんた、本当にそれで良いの神として?」



 イマイチ使えなさそうな感じを醸し出しつつ、実際にまるで使えない奴だということがわかっている魔界の女神。


 kれまでにコイツがやったことと言えば、大蟯虫クリーチャー検査フィルムを沢山生成して、寄生されてしまった魔界人間のケツを爆破処理したぐらいのものだ。


 だが最後の最後には一応、敵の神に屈辱を与えるという重要な役回りを完遂して頂きたいため、安全を確保してやりつつ作戦に参加させる。


 その間、ブックブクに膨れ上がった状態の敵は先程ユリナに消滅させられた腕のような部分を、途切れ途切れに飛来した大蟯虫クリーチャーを吸収することによってどうにか……元々以上のサイズに膨れ上がらせていた。


 もちろんその腕を持ち上げることは出来なし、パワー的に可能ではあるものの持ち上げれば崩れそうな状態となっている。


 だが敵の神はこちらの仲間として後ろに隠されている魔界の女神に対する怒りを捨て去ることが出来ず、まるで発狂したかのようにそれに対する攻撃を仕掛けようとしていて……まさかの肉片を飛ばす攻撃までしてくるとは……



「っと、危ないわねぇ、こんなの喰らったらたちまちに腐り切ってしまうわよ、全部撃ち落すから良いけど、そろそろコイツも潮時みたいね……サッサと殺しちゃいましょ」


「だが精霊様、破裂して町中に病原体を撒き散らして……ということになる可能性が極めて高いぞ、どうするというのだ一体?」


「そうねぇ……もう周辺一体を消し飛ばすしかないわ、どうせこの周りの魔界人間なんて、もうとっくに『病死』させられているわけだし、実質的に被害はゼロよ」


「それにもし魔界人間の雑魚如きが死んでも、それを被害と呼ぶか呼ばないかは微妙なところだかんな、よしっ、念のためセラとユリナの同時攻撃で仕留めようか、まずはあの膨れた上半分を炎の竜巻で消し去ってやれ」


『うぇ~いっ!』


「で、お前はそこからで良いから敵をディスりまくれ、良いな?」


「あ、あぁ、えっと……バーカ! バーカバーカッ! 死ねこのバーカッ!」


『許さぬ……許さぬぞ疫病をレジストする女神……しかしこの攻撃が……ぬっ、ぬわぁぁぁっ!』



 セラが呼び出した竜巻と、それからユリナが作り出したそこそこ大きめの炎が合体し、途轍もない高温の、もちろん消毒性能もバッチリである炎の渦が敵の神を襲う。


 あっという間に蒸発してしまう上半分と、そして一瞬はその飛び散った肉の一部によって腐り果ててしまいそうな反応を見せたものの、そのまま極大な熱で蒸発を始めてしまう周囲の建物群。


 バァァァッという凄まじい音と熱、そしてその熱のせいで発生した爆風が辺りを包み込み、おそらく戦闘の音が届いていたのであろうエリアの魔界人間は、もう黒焦げか、或いは蒸発してしまったことであろう。


 そして炎の渦がやんだその場所に残ったのは……やはり頑強というか何というか、こちらの攻撃を受け付けない敵の神の下半分、ミミズのようなパーツのみであった……

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