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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1173 限界

「見て下さいっ! そのお酒みたいな臭いが強烈なのが掛かって、敵がウネウネ苦しそうに……あ、もう止まりましたけどやっぱ効いてました今のっ!」


「みたいだな、この噴霧器に入ってんのは……そこそこの純度を誇るアルコールか……割って飲んでも美味くはなさそうだな」


「えぇ、私も1回試してみましたが、普通に消毒味だったのでこういう使い方をしています」


「飲んだのかよルビアお前こんなもん……まぁ良い、これごと敵に投げ付けてやろうぜ、へいリリィ、パスッ!」


「うぇ~いっ! それぇぇぇっ! っと……ヒットしました、すっごく揺れてますよあの敵、しかも治っていくのもちょっとダメになったみたいですね」



 まるでイカの刺身に醤油を掛けたときのような、そんな反応が敵の神の再生途上にある下半分から得られるのが面白いのだが、この状況で食べ物の想像をするのはやめておこう。


 とにかくルビアが大量に持っていた、そして他の仲間達もそこそこ所持している除菌グッズ等。

 そんなモノを持ち合わせていないのは野郎の俺だけであるようだが、とにかくこれが敵に対して効果抜群であるということがわかった。


 確かにボディーを菌だのウイルスだの、その他病原体だので補完している以上、それに対抗し得る市販の商品に効果があるのは当然のことであろう。


 そしてもちろんそのようなアイテム、この冬の時期であればどんな異世界のどんな町にも、もちろん魔界の町においても販売されているに違いない。


 後で堕天使さんと疫病をレジストする魔界の女神に命じて、この町中からそういったものを搔き集めて来て貰えば、この敵を『浄化』しつつ、付近一帯も同じようにしてしまうことが可能であるのだ……



「どうしますかご主人様、まだこういう系のアイテムは沢山ありますが……一気にバーッと使っちゃいますか? それとも温存するんですか?」


「温存……ってわけじゃねぇが、今はもう投げるのを中止しておくんだ、もう一度完全に復活させて、そこでまた吹っ飛ばしてまた酷い目に遭わせて……みたいな方が敵も絶望するし、こっちも見ていて気分が良いぞ」


「そうねぇ、どうせ殺すにしても、ああいう敵は肉体的な苦痛に対して鈍感だから、もっとこう、精神的に追い詰めて発狂寸前まで追いやって、最後は絶望の中で死んでいく、みたいな末路を辿らせないと気が済まないわね、主に気持ち悪いビジュアルのまま私の前に出現した罪を清算させるために」


「ということだ、精霊様もその気なわけだし、ここは完全に回復するまで待つこととしよう……っと、今どこかから大蟯虫クリーチャーそのものが飛んで来たような気がするんだが? めっちゃ小さいやつ」


「えぇ、私も見えましたよ、まだまだホントに小さいので、これから大きくなって魔界人間を……みたいな感じのモノでしたが、それがあの魔界の神様の再生している部分に吸い込まれていきましたね」


「てことは……やっぱり『材料』が枯渇し始めて、そこそこの大きさのものもどこかから引っ張ってきて使わないとならないとか、そういう感じになってきたんだろうな」


「そうかも知れませんね、でも今はまだその辺の水の中とかに居る病原体ばかりです、これが人間に寄生していたり、そもそも人間を乗っ取ったりしているようなものまで飛んで来るようになれば……」


「こっちの勝ちが近いってことだろうな、よしっ、そうなるまで徹底的に叩き続けんぞっ!」


『うぇ~いっ』



 こんな時期のためそこら中にうじゃうじゃ居るはずとはいえ、いくら何でも人間サイズの上半身を形作るため、それをキープするために何度も搔き集めていては、空気中などのウイルスだとか菌だとか、そういったものは少なくなってくるはず。


 そしてそれが枯渇し始めると、今度は水中に漂っていたり何だりの大蟯虫クリーチャーの卵を使ったのであろうが……どうやらそれも不足し始めたらしい。


 よって使ってきたのがもう既に卵から孵化してしまった大蟯虫クリーチャーそのもの、とはいっても未だ魔界人間に寄生したわけではない、フリーの状態でそこら中を移動している幼体のようなものなのであろう。


 或いは既に寄生されている誰か、完全に大蟯虫クリーチャーに則られた魔界人間の中で、卵から孵ったうえで締め出されたものである可能性もないとは言えない。


 とにかくフリーとなった状態のそれは大蟯虫クリーチャーの勢力拡大においてなくてはならない重要なものに違いないのだが……それよりもさらに、この神がそのボディーを維持することの方が重要であるため、それに使われることとなった、そういうわけなのか……いや、意味は分からんが……



「主殿、また敵が復帰するぞ、もう完全に修正を終えて、後は復調したことを確かめるだけのようで……と、そこで引っ掛かったらしいな」


「どうしたんだ? もしかして再生に失敗したってのか……あ、ちょっとひん曲がってんな、背骨がアレな感じで戻ったのか? おい、大丈夫かクリーチャー野郎?」


「あかけこっ……き……貴様等のせいで背骨のどこかが溶けてしまって……それでめっちゃ斜めってしまって……視界が歪む……」


「あ~っ、神経もやられてんなコレ、どうする? このまま放っておいたらそれはそれで面白そうだが」


「ダメよ勇者様、さっき這いずり回っていたときみたいな効果、人々をヤバそうな病気にさせたりそこら中腐らせたりみたいな能力は残ったままなんだから、ちゃんと完全に殺さないとよこんなの」


「まぁ、言われてみればそうだな……でもセラ、今度こそ下半分を狙えるんじゃないのか? あの感じだと上手くガード出来ないかもだぞ」


「えぇ、そっちに関してもやってみるわ、地面スレスレ、というかもう抉るような感じの変化球で一撃入れてあげるの」


「変化球って、そういうのあるのか魔法攻撃にも……」



 まるで筋張った固い肉でも焼き始めたときのような、それともスルメを炙ったときのような、とにかく敵の神はその再生した上半身が異様な感じに曲がりくねってしまっている。


 こういった類の下等生物であれば、それはもう単に『最初から奇形であった』ということだけで済ませてしまうようなところなのだが、生憎コイツは神なのでそうではない。


 俺達にやられて再生するその過程において、無理な力……というか聖なる消毒の力なのだが、それによるダメージを受けたことが、今回のこの奇形めいた形に再生してしまったことの原因であることはもう疑いの余地がない。


 これからも何度か同じことをやってやるつもりであるため、この現象は定期的に発生するのであろうということ、そして回数を重ねるごとに、この神の再生能力が衰え、奇形を発症する確率も高まっていくのではないかということが言える。


 まぁ、本当にそうなるのか、そして何度も何度も破壊と再生を繰り替えした後に、この神の肉体そのものがどのようなことになってしまうのか、それは実際にやってみないことにはわからない。


 で、今はそのことよりももうひとつ、最初から気になっていた『下半身防御固すぎ問題』についての解を見出していくこととしよう。


 全員で攻撃を加えてやるのはこれまで通りのことだが、今回はさらに、セラが単体で地面を抉るような変化球、といっても玉ではなく強力な風の刃をサーブしてくれようというのだ……



「……さてと、今度こそいくわよ、狙うはあのミミズみたいな部分で……モヤモヤみたいなのも出せていないみたいだし……今がチャンスよっ! 全員攻撃!」


『うぇ~いっ!』


「あげぽっ、あっ、ちょっとまっ……ひょんげぇぇぇっ!」


「ヒットしたわよっ! これでやっと下半分が……全部残っているじゃないの……」


「私も下半分を狙って、今度はヒットしたんですが……逆に上も吹っ飛ばないような感じになってしまいましたわ、どういうことなんですの一体?」


「……ちょっと思うんだが……たぶんだけどさ、後ろの街並みの被害状況から見るに、おそらくコイツ、クリーチャーワームみたいに攻撃をツルンッと受け流したんだと思うぞ」


「なるほど、それで後ろの町が……反対側までなくなっちゃっているわね、魔界人間の人、何人死んじゃったのかしら……」



 こんどこそ下半分、ミミズのような形をした部分にヒットした仲間達の攻撃、どうやら全員がピンポイントで下を狙い、上半身の人間部分に何かをヒットさせた者は居なかったようだ。


 で、そうなってくると攻撃が集中した下半分はそれなりのダメージを……とも思ったのだが、どうやらモヤモヤだか蚊柱だか、そういったものの助けを借りずとも、疫病の大流行をプロデュースする神のその部分はかなり頑強であるらしい。


 いや、決して衝撃に強いとか焼かれてもセーフとかそういうわけではないのであろうな。

 俺達が苦戦した敵のように、いやそれよりももっと効果がある肌ツヤで、こちらの物理、魔法及び衝撃波による攻撃を受け流しているのだ。


 そして受け流された攻撃に関してはもちろん、後方にある魔界人間の町をそのまま直撃し、町の反対側の城壁が崩れているのが見えるほどに、そして多くがその場に、または吹っ飛ばされた先に倒れて死亡しているのが見える。


 まぁ、この程度の使者に関しては戦闘のレベルからして仕方ないものであって、死んでしまったというのはそいつがそれまでの存在であり、ただ死体を晒すためだけに生まれてきたモブキャラであったということ。


 もちろんのこと、俺にとって非常に都合良く出来たこの世界、いや神界や魔界を含むこの世界群においては、死亡したのはどうなっても構わないようなハゲとかデブとか、わけのわからないキモいおっさんだけなので、人的被害については特に気にしなくて良いレベルなのはわかっている。


 ということなのでもう、それに関してはどうでも良いのだが……問題は初めてこちらの攻撃を耐え抜き、無傷とまではいかないものの上半身を喪失したりしなかった敵の神の様子の方だ。


 こちらの一斉攻撃が、それぞれの仲間の全力のうち100分の1も発揮していない状態のものであって、極めて強力であるとはいえ、ほぼほぼお遊び程度のものであるということ。


 それをこの魔界の神は知らない、登場したばかりであって俺達と絡んだことはこれまでになかったわけだし、ついでに言うと上司のホネスケルトンから貰った情報については、馬鹿すぎるゆえに忘却してしまっているのだから質が悪い。


 で、そんな状態で攻撃を耐え抜いた、こちらがうっかりダメージを無効化する部分を狙ってしまったのだから大変なことだ。


 やってやったと調子に乗り出し、凄まじく気持ちの悪い笑顔でこちらを挑発してくるのだが……本気で消し去ってやりたいと思う、もちろん中身の飛び散りを気にすればそのようなことは出来ないのだが……



「全く何なのよアイツは? 下半分は守らなくてもセーフなら、どうして今まであんなに必死になってガードしていたってわけ? 無駄じゃないの普通にっ!」


「何か理由があるんでしょうね、例えば最強なのに念のためガードして、本当に本当に大事で大事で仕方のない何かを守ろうとしていたとか、そんな感じのように思えますよ」


「そういうことなのかしらね……で、それがそうなってこうなった結果がコレとか……めっちゃ指差して笑ってんだけど、どうする勇者様?」


「どうするって、最終的にはブチ殺すんだが……まぁ、鬱陶しいからもう1発、今度は上半分に喰らわせてやれ」


「はいはいっ、それっ!」


「ギャーハッハッハ! 戦いの中で強化された我にはもうそのような攻撃など無効といってろびおぽっ!」


「うるさい雑魚ねぇ、そのまま再生せずに腐ってなさいよホントに」



 もうこれ以降は俺達の攻撃を喰らうことがない、それは自分が何度も攻撃を受けて強くなったためであると、そう錯覚していた敵の神。


 もちろんそのようなことはなく、挑発した先であるセラの杖から無造作に放たれた適当な風魔法、それがザクッとヒットして、再生したばかりの今の上半身はその役目を終えたのであった……



 ※※※



「それっ! これで何回目かしらっ?」


「ギャァァァッ! もう70回以上やられたぁぁぁっ!」


「数えてんのかよアイツやられた回数を……何だか悲しい奴だな……」



 それからというもの、再生した敵の上半分、人間の形がした部分を攻撃によって消滅させ、そして適当に聖なる水の類で追撃を喰らわせた後に、あえて再生が終了するまで待機するという行動を繰り返した俺達。


 既に攻撃には参加していない、飽きてしまって遊んでいる仲間達も多いのだが、俺を含めた一部に関しては、やられるごとだんだんと卑屈になっていく敵の様子が面白いため、ストレス発散も兼ねて攻撃を続けていた。


 もちろん、その攻撃を繰り返していることについては、もっと真っ当な他の理由も存在している。

 そう、この魔界の神は疫病の大流行をプロデュースする神なのだが、その力を逆手に取って、空気清浄機の代わりにしてしまっているのだ。


 ダメージを受けた部分を再生すると、その度にどこからともなく菌やウイルス、その他の病原体を引っ張ってくるため、その効果によってこの周囲が、そしておそらくこのまま続ければエリア全体が正常化されるという仕組みである。


 これは決してハイテクなどではないが、それでも効果のほどは折り紙付きであって、誰もそれを否定しようなどとはしないであろう。


 現に目に見えないような菌やウイルス、大蟯虫クリーチャーの卵などは周囲のものを完全に使い果たしてしまったようで、もはや目に見える何かが……と、魚に付いている寄生虫のような奴も飛んで来ているな。



「あっ、凄いですよご主人様、結構大きいあのウネウネのクリーチャーが飛んで来て、あそこに吸収されました」


「あぁ見た見た、もうあんなのまで引っ張ってこないとならないなんてな……で、あそこに貼り付くと溶かされて吸収されんのか、そういう仕組みになってんだな……」


「それとご主人様、上を見て下さい、ほら、魔界の女神様と堕天使さんですね、そろそろ安全かな? ぐらいの感じで様子を見に来ていますよ」


「ホントだな、しかもあんな低空まで降りて来て、パンツ丸見えだぞあいつ等……まぁ、魔界らしく2人共黒のようだがな」


「それより勇者様、その角度で見上げていると……ほらっ」


「げぇぇぇっ⁉ 集まって来て途中で落下した大蟯虫クリーチャーが顔面にっ!」


『どうも、自分大蟯虫クリーチャーミニマムっす、新種っすからよろしく、では早速口に……マスクだとぉぉぉっ⁉』


「きめぇんだよお前、死ねっ! 他人様の顔面にへばり付きやがってっ!」


『あぁぁぁっ! 投げられたらまた吸い込まれるぅぅぅっ……ぶちゅっ』



 とんだアクシデントであったのだが、とにかくもう『喋る能力を有している』といようなレベルの奴まで『招集』されて敵の神の構成要素にされている状態。


 このままいけば本当に、最低でもこの町近辺からは大蟯虫クリーチャーを排除することが出来てしまうかも知れないな。


 などと淡い期待を抱きつつ、ついでにせっかく上空に来ている堕天使さんに対し、消毒や除菌に使うような民生用アイテムを町中から搔き集めて来てくれと依頼しておく。


 賢さが高い堕天使さんは、それが敵の神に対してそこそこの効果を有している者であるということはすぐに理解したらしく、ふたつ返事でどこかへ飛び去って行った。


 こちらはもう一度敵の神の再生を待って……と、そろそろのはずなのだがなかなか終了しないようだな……しかも少し、どころかかなりおかしいような気がしなくもないのだが……



「ねぇ勇者様、なんか変じゃない今回の再生?」


「だな、これまでにも奇形じみた形になったことはあったが……頭の部分から何かこう、ミミズというか大蟯虫クリーチャーの下半身部分というか……」


「小さい大蟯虫クリーチャーよね、その下の部分から生えてきて、さらにその生えてきた大蟯虫クリーチャーの首の部分からまた小さい大蟯虫クリーチャーが……みたいなのを無限に繰り返しているわ」


「っと、その反応も止まったみたいだぞ、どうやら先端は普通の顔……まぁ普通とは言わんが、とにかく連鎖を繰り返してあんなに細くなった首の先端から、さっきまでと同じサイズの首が生えてくるみたいだ、どうなてtんだよ一体?」



 元々かなりキモいビジュアルであったが、ここで再生に大きく失敗し、とんでもない姿になってしまった敵の神。


 首から生えたひと回り小さな大蟯虫クリーチャー、その首からまたひと回り小さな大蟯虫クリーチャーが……というのを複数回繰り返したのである。


 そして最後の最後、かなり小さくなってしまった、おそらく先程俺の顔面にベチョっと落ちて来た大蟯虫クリーチャーミニマムだか何だかという新種と同等かそれ以下の部分から、通常通りの首が……かなり悔し気な表情で生えてきたではないか。


 最初の頃は再生時にその首をゴキゴキして復調を確認していた敵の神なのだが……どうやらその行為も今の状態になってしまったことに影響していそうだな。


 無駄に骨ゴキをしていたせいでその部分が劣化し、再生時に真っ当な形を取ることが出来なくなって、このような無様な姿になってしまったのであろう。


 この状態では首を持ち上げることも出来ず、顔面をズルズルと地面に引き摺りながら、どうにかこちらを向こうとしている敵の神。


 面白いのでこのままにしておきたいところではあるが、まぁ、放っておいて自然に死ぬような状況ではないため、しばらく小馬鹿にしたり甚振ったりした後に、もう一度上半身を消し飛ばしてやることとしよう。


 その際にはこれよりももっと悲惨な、とても正常とは思えないような姿になるのかも知れないが……まぁ、それはそれで面白そうであるから、このままいけるところまでいかせてみるのが良のではないかと考える……

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