1172 ようやく見えた
「う~ん、やっぱりダーッと集まってますね、それがガーッとあの千切れた部分にグチャグチャッといって、それでモコモコッみたいな感じで元に戻ってます」
「無駄に擬音が増えたわねリリィちゃんの説明には……でもまぁ、敵の回復の秘訣がガン見えしているのは良いことでもあるわ、ついでで申し訳ないんだけど、どうして下を攻撃したのに上が喰らっているのか、それも見極めてくれないかしら?」
「えっ? 下は凄くガードされてますから、さっきの攻撃もギリギリで上、というか人間さんみたいな部分で受けてましたよ? こうバリアを張ってガーッて」
「あらそうなの? 私にも見えなかったんだけど」
「私もぜんっぜん見えなかったわよ、絶対に下のキモい部分にヒットしたと思ったのに、何か上がアレしちゃって」
「下を守ってたのも上からガーッとバリアしたのもそのバーッと集まってる何かでした、それが治るときみたいに集まるんじゃなくて出て行くみたいな?」
「う~む、やっぱりイマイチな説明だな……まぁ良いや、このまま続けよう、敵には一切ダメージが入っていないようではあるがな……」
これで何度目であったか、敵である疫病の大流行をプロデュースする魔界の神の上半身、白い人間のような姿をした部分が吹き飛び、下半身のミミズ系の何かの部分は無事という良くわからない状態が今目の前にある。
セラの提案でわざわざ下を重点的に狙い、全員で一斉に攻撃を喰らわせてやったというのに、精霊様にも、それから素早さが高い分見切りも得意であるマーサにも見えない何かの技で、その攻撃を全て上半分で受けてしまったのだ。
だがやはりというか何というか、リリィにだけはそのガーッだのバーッだのと表現される何かが見えていたとのことで、隣の精霊様に向かって必死でそのことを伝えようとしている。
もしかするとこの現象、もちろん再生の秘訣も含めてだが、動きが速すぎたりその元となっているものの存在が特殊すぎて何だかわからないということではないのかも知れない。
つまり、極めて視力の高いリリィにしか目視出来ないような、本当に小さな何かによって事が成されている可能性があるのだ。
そしてそのごく小さな何かが、信じられない次元の高速移動をしているため、それこそその視認性はもうゼロに近く、唯一見えているリリィにあっても、上手く説明が困難なほどの確認しか出来ていないのではないか……
「……あら、また元通りになっちゃっいましたね、ダメージを受けたり力が落ちたりとかって感じは一切しないですし、どうしましょうご主人様? もうこのまま続けても面倒なだけじゃないですか?」
「ルビア、面倒だがしばらくは続けないとならないんだ、ちょっと我慢しろ……それかこの状況を打破する妙案があるとかか?」
「そうですねぇ……う~ん、えっと、まずあの千切れた状態で攻撃するのはあまり良くないんですよね?」
「あぁ、下のミミズ部分が丈夫すぎた場合、中の汁とか臓物とかがあの断面からドピュッと飛び出してこっちへ飛んで来ることになりかねないからな、あんな野郎の汁なんぞブッカケされた日にはもう……みたいな感じだ、わかるかこの状況?」
「えぇ、あ、それならもっとこう、潰さなくても良い方法で……例えばこの聖なる水とか、精霊様由来の成分から抽出したやつの残りですけど」
「その聖水を……そうか、断面にブッカケしてやるってのか、それはアリかも知れないぞ」
これまでは敵の汁がブッカケされることを恐れるばかりで、こちらからあの上がブッチして喪失した下半身に何かを仕掛けるということはしてこなかった。
だが逆にこちらがブッカケを、しかも聖なる水という、この魔界の、しかもあのどちらかというと汚物寄りの神に対してやってのけた場合、どれほどの効果が出るのか。
これは少し期待が持てそうだから、次の一撃を喰らわせた後にすぐ行動に移すこととしよう。
まぁ、もちろんまた下半分を吹き飛ばすことを目的とした攻撃はやってみるのだが、これはその後のことだ。
で、何度も何度も同じモーションで、復活後に首をゴキゴキさせて復調を確認している敵の神。
そしてどうやら今回は攻撃をしてくるようだ、何か良くわからないが、ひとまず上半身の両手を突き上げたのである……
「おい、何かやってくるようだが……エネルギーもオーラも感じないな、単に腕を突き上げただけなのかアイツ?」
「そんなことはないと思うけど……どうしたのリリィちゃん?」
「あの、その、治るときにガーッと集まって来るのが上に……ほらっ、今なら誰でも見えるような気がしますっ!」
「何なんだ一体……ん~っ? ダメだな……おいこの野郎、何やってやがんだこのボケ! それぐらい教えやがれハゲがっ!」
「そのぐらい教えて欲しいと……だが、そのぐらいのことも看破することが出来ない低能共に教えたところで、3歩歩けばまた忘れてしまうのであろう、だから無駄だし教えてやらんっ!」
「クッ、私よりも馬鹿の癖に生意気な奴ねっ、こうなったら……あっ、でもちょっと見えたかも」
「おうマーサ、何が見えたってんだ? てかどこだ、どこに何が見えたんだ?」
「うっすらだけどほら、アイツの上……蚊柱みたいなのが集って来ているように思うんだけど、そうじゃないかしら?」
「蚊柱みたいな……うむ、イマイチわからんな……」
「そんなことありませんよ勇者様、私には見える、というか徐々に濃くなってきていますっ! アレは何なんでしょう一体?」
「・・・・・・・・・・」
続々と『見える』発言をし出した仲間達であったが、どうやら俺にだけは最後まで見えていないようで、それが何なのか、どのようなものなのかということを自ら確認することが出来ない。
ちなみに唯一俺にだけ見えていないということは、きっと霊的な何かではなく、シンプルに視力の問題で見えたり見えなかったりする微妙なモノなのであろう。
そして仲間達の情報によると、マーサが言うように蚊柱のような何かであったり、セラやユリナ辺りが主張する靄のようなものであったりと、とにかくそんな感じの何かだ。
もちろんその何かが『魔力の塊』だとか、『その他エネルギー体』などであるということは考えにくい。
そうであれば仲間達の誰かが、主にサリナ辺りがそれの正体を見極めているはずだし、他にも感じ取ることが出来る仲間は多かったはず。
となるとこの敵である魔界の神の、突き上げた腕のさらに上に集合しているものは……何かの物質であるということか、いやそれ以外には考えられないか……
「フハハハッ、蚊柱だの何だの言っているうちはこれの正体などわかるまいっ! ホントは疫病をレジストする女神の奴に最初の一撃を喰らわせ、ヒーヒー言わせてやりたかったのだがなっ! 貴様等に記念すべき一発目をくれてやろうぞっ! ハァァァッ! 大蟯虫神アタァァァック!」
「え? ちょっと何かめっちゃ気合入ってんだけどアイツ……どうなってんの? いまどんな感じになってんの?」
「どうなってるって、早く逃げて下さい勇者様! 靄みたいなのがそっちに襲い掛かって……飲み込まれますよ勇者様だけっ! それはさすがにヤバそうですっ!」
「マジかっ! 全力で逃げねぇとだっ!」
いつもは俺に攻撃が行った際、黙って喰らわせておいて後で小馬鹿にしてくるミラであるのだが、今回はかなり焦った様子で回避を勧告してきた。
それが何なのか、靄なのか蚊柱なのか、それとももっともっとヤバい何かであるのかはわからないのだが、本能的に危険なものであると、それを察知したのであろう。
また、これはふざけて喰らって良い、誰かが喰らうのを黙って見ていて良いものではないということも同時にわかったのであろうが、そこまで焦ったミラをみるのは久しぶりだ。
そしてその焦りに反応した俺は、どうにかその自分にだけ見えていない何かを回避……いや、そのタイミングでようやく何かが見えた。
本当に小さな何かが集合していた、というかマーサが言う蚊柱の状態でそこにあり、そして俺を包み込もうと試みていたのだが、その小さな何か自体、どうもさらに小さな何かが大集結したようなもの、そんな感じの何かであったのだ。
おそらくリリィはこれを、ここまで大集結して肉眼に捉えられるようになる前の、ごくごく小さな状態で視認することが出来ていて、それを上手く説明することが出来ずにいたのであろう。
当然ながら、自分でキッチリ確認した俺にも想像が付かないものではあるのだが……この攻撃で使われているコレと、そして攻撃を受けた際の再生で使われているそれと、もしかしたら、いやもしかしなくても同じものであるように思えているのは俺だけではないはず。
で、全員がその攻撃の回避に成功したところで、靄のような蚊柱のようなそれは一斉に敵の神の所へ戻って行ったのだという。
どうやら次の攻撃でも再利用することが可能なタイプの何かであるようだな、そしてこちらのカウンター攻撃が、今度は地を這うような勢いで敵のそのミミズのような下半身に襲い掛かった……
「グッ、またっ、ふぬぬぬぬぬっ……あんぎゃぁぁぁっ!」
「まーた上が飛んで行っちゃいました、でも今度は見えましたよ、あのモヤモヤみたいなのを使ってガードしてた、というか攻撃の向きを逸らせてました」
「なるほどな……で、そのモヤモヤに関しては今……さすがにカレンにも見えないか、リリィ、どうなったかわかるか?」
「消えちゃいましたよ、攻撃で潰されるっていうか、もうあの雑魚の人が喰らったときみたいに消滅、みたいな?」
「なるほど、じゃあもう奴のガードは薄いってことだっ、やれルビア!」
「あっ、はいっ! それそれっ! 聖なる水を撒き散らします攻撃! あそれそれっ!」
「……掛け声は要らないからもうちょっとスピーディーにやりなさい」
「あ、はーい……」
至極いい加減な動きで辺りに聖なる水を撒き散らすルビア、それはもちろん敵の神の上半分がブッチされた、まだまだ再生途上のものにもブッカケされて……何か反応があるようだ。
徐々に修正されていたその切断面が、聖なる水をブッカケされたことによって溶けた……というかグズグズと崩れ落ちたではないか。
これはつまり聖なる水の効果で再生が止まったということ、そしてその再生のためにどこかから搔き集められていた何かが、聖なる水への耐性を有していないということを物語る事象だ。
聖なる水のストックには限りがあるため、この方法で無限に敵の再生を阻害するというようなことは出来ないのであるが、それでもこの一撃だけでかなりの脅威を与えたことであろう。
どうやら敵の再生に使われている何かと打ち消し合っていて、決して反応し続けるということではないから、いつかはこの再生の阻害も停止して……そろそろ鈍くなってきたようだな。
だが小瓶ひとつの聖なる水で、これほどまでに長い時間やられ放題になってしまうということは、敵にとってかなりのデメリットであるし、何よりも再生の阻害効果が出ている間中、残っている下半身は苦しむような動きを見せていたのである……
「……っと、また元に戻り始めましたよ、まだ聖なる水はありますが……どうしますか?」
「いや、そこまでしなくても良いのと、あと最初にこの攻撃を喰らったことについて感想など述べる機会を与えてやろうぜ、それから……精霊様、そういう系の水はちょっとぐらい出せるだろう? 効果は弱いかもだけどさ」
「そうね、今のそれを100倍に希釈したぐらいのなら今すぐにでも出せるけど……あまり効果があるとは思わないわよ?」
「ハッタリでも良いさそんなもん、とにかく今の聖なる水が、精霊様由来のものであるということ、その木になればこちらで大量生産して、敵を聖なる水の風呂にディップしてやることも出来るってことだけ伝われば良いさ」
「わうっ! また元に戻りましたよっ、しかもちょっと顔つきが変わって……凄く怒っているみたいですっ!」
「怒っている……あぁ我は怒っているのだっ! 貴様等よくもそんなとんでもねぇモノをブッカケしてくれたなこの我にっ! 汚ったねぇんだよそういう聖なる水ってのは! 危うく我を構成する菌だのウイルスだの、大蟯虫クリーチャーの卵だのがダメになってしまうところであったぞ、というかちょっと無駄にしちゃったから弁償しろボケ!」
「誰がそんなもん弁償するかってんだこの馬鹿がっ! 死ね! FUCK! 薄汚い大蟯虫クリーチャーの親玉目がっ!」
「……ちょっと待って、今の話ってさ、もしかしてこの神が何で出来ているのかってことと、それからさっきリリィちゃんにだけ見えていた状態の何かって……それのことなんじゃないかしら?」
「そういうことですわね、敵の再生能力の正体、それが今あの神がキレつつ言った菌だの大蟯虫クリーチャーの卵だの……あとは何と言いましたっけか?」
「……ウイルスだと、そう言っていたな……しかしなるほど、となると聖なる水が効いたわけだし、あと肉眼で捉えられないような何かがアレしていたってのもアレだな……」
「ご主人様、ウイルスって何ですか?」
「ん? あぁ何というかアレだ、その……まぁ、すげぇ小さい駄王みたいなものだと思っておけば良い、俺も良く知らんからな」
「それって強くないような気が……」
「小さいと強いんだよ、ほら、しかもそれがうじゃうじゃ居て、吸い込むと勝手に体の中で大増殖して……って考えると強いしあときめぇだろ?」
「ひぃぃぃっ! そんなの考えたくもないですっ!」
ひとまずウイルスを駄王(増殖type)に例えてカレンを始めとしたその辺の仲間達に教えてやったのだが、自分の説明が合っているのかどうなのか、それは全くわからない。
だがそういったものが集合して、目の前でキレちらかしていて実にやかましい魔界の神のボディーを構成しているということがわかった以上、これからの戦いが非常にやり易くなった。
そして、コイツが毒剣の神と、同じホネスケルトンとかいう神の配下にありながら嫌い、今回の大蟯虫クリーチャー事件を仕掛けたのであろうということも、この毒剣の神との類似性からそこそこ読めるこことなったように思える。
で、聖なる水だの何だのを使えばどうにかこうにか……といったところなのだが、その前にコイツに聞いておきたいことがあるのだが……果たして答えてくれるであろうか……
「おいお前この野郎、あのさ、お前この付近の菌とかウイルスとか、あと大蟯虫クリーチャーの卵とかまで搔き集めて再生してんだよな?」
「はぁっ? 何話し掛けてんだ貴様下等生物の分際で……だがまぁ、それはそういうことだ、だから我にいくらダメージを与えようと周囲にそういうのがある限り無駄ということっ! そしてそんなもの、この冬の季節であればそこら中に飛び散っているのだっ! ハーッハッハッハッハ!」
「なるほどな……わかった、そういうことならそれで良い、お前はこのままブチ殺してやるから逃げるんじゃねぇぞ」
「フンッ、我も早く貴様等を殺して、疫病をレジストする女神を殺しに行かなくてはならないのだからな、毒剣の神も死んでいるということは、そうすればこのエリアはもう我のものなのだっ!」
調子付く敵の神、だがこちらに浮かんだ作戦のため、このまま良い感じに戦っていて欲しいところである。
特にこちらの攻撃を受ける姿勢はこれまで通り、おそらく重要な器官があると思しき下半分を守るような、そんな感じで受けて欲しい。
そしてこちらの攻撃で上半身喪失、そこから周囲の空気中やその他水などからも搔き集めているのであろう菌やウイルス、大蟯虫クリーチャーの卵その他ありとあらゆる病原体を搔き集める仕草をしてくれれば……コイツを空気清浄機代わりにこの町を浄化することが可能だ。
というよりも、人間とほぼ同じだけのサイズを維持するための病原体を搔き集めるには、それこそ町全体どころではない、もっと広範囲に『募集を掛ける』ということをしなくてはならないはず。
であれば、もうこの行動を続けることによって、もしかするとこのエリア、どころか魔界自体がかなりクリーンな状態になるのではないかと……まぁ、さすがにそれは考えすぎか……
「では再度参るっ! 我が大蟯虫奥義を今度こそ喰らえぇぇぇぃっ!」
「逃げて逃げてっ! またさっきの技ですっ! しかも今度はちょっと大きい卵? みたいなのも入ってますっ!」
「おうおう、そりゃやべぇ……てかコイツ、早速だけど素材が枯渇しつつあるんじゃねぇのか? 収集可能範囲の病原体がもう少ないとか……」
「その可能性はあるわね、とにかく攻撃を続けましょ、そうすればコイツはそのうち再生出来なくなるし、あんたが考えているように町もクリーンになるわけよ、それっ、これでも喰らいなさいっ!」
「しまっ、これは聖なる水……じゃねぇけど水圧がヤバギョエェェェッ!」
「やっぱり下半身を守りやがるな、何か秘密があるんだろうが……ルビア、もう一度聖なる水を、瓶ひとつ分だけな」
「あ、はーい、今回はちょっと近付いて……ダイレクトお酌! あっ、ブッカケしたらビクンビクンして喰らってますよ」
「良いからあまり近付くな、汚ったねぇぞそれ、菌とかウイルスとか、その他諸々の病原体の集まったものだからな」
「あっ、ひぃぃぃっ! 汚い汚いっ!」
ルビアは馬鹿であるが大切な仲間であるため、あまりにもその気持ち悪いバケモノの、しかも半分千切れた断面に菌だの何だのを搔き集めている状態のところに近付かせたくはない。
汚いと叫んで戻ったルビアは一旦後ろへ下げ、アルコールだのその他の魔法薬だの、とにかく汚いものを除去するためのアイテムを使いまくってやった……まぁ、もちろん女神から借りパクした箱舟があるので、観戦の心配などはないのだが。
で、そのアイテムを噴霧したりブッカケしたりしているところで……どうやら再生中の敵の方へtdねしまったようだ、しかもかなり効いていやがる……




