1170 這いずって来た
「……ということでだ、次は結構強い神か何かとのバトルになるぞ、心して掛かれっ!」
「やった、私、ちょっと頑張っちゃいますっ! 魔界の神様ってどれも結構強いですから、やっつけて経験値を沢山ゲットしますっ!」
「うむ、ぜひともボコボコにしてやってくれ、どうせろくでもねぇ野郎が呼ばれて来るんだからな、で、堕天使さん、騙して殺しても構わない魔界の神については選定が進んだのか?」
「それがですね、もうこのエリアが敵の侵略をうけたこと、この地を統べていた毒剣の神が滅されたことなどがかなり伝わっているようでして、その……」
「いやそんなもん、新たに出現した疫病をレジストする女神の権限で呼び出せよ、そうすれば何も疑われることなく、アイツがこのエリアを取り戻してどうのこうのだからサポートをしに……みたいな感じで来させることが出来るだろうに、違うか?」
「それもなかなか難しいようで、こちらが明らかに乗り気ではないのが向こうにも伝わってしまっているのかも知れなくてですね、相当に疑われていますよ……だいいち、全部が全部罠でフェイクだと思われる可能性の方が高くないですかこれ?」
「う~む、言われてみればそうであるような気がしないとも限らないんだが……まぁ、その辺りも含めてどうにかするのがお前等の仕事だ」
「そうよ、SOSを出すなり何なりして、とにかくこのエリアをどうにか……みたいな感じでも良いから上手くやりなさい」
「……は、はぁ、じゃあどうにかしてみます」
無理矢理やらされていることである以上、イマイチやる気がないのは仕方ないのだが、それでもこちらの作戦が上手く運ぶようにして頂かないと困ってしまう。
というか、どうせ呼び出して殺害するのはあまり人気のない、それこそブチ殺してしまっても構わないし誰も残念に思わないような雑魚神ということだから、そこまでやる気を失うほどのことでもなかろう。
むしろ俺達によって邪魔で穀潰しでウ○コ野郎など、存在しているというだけで他社者を不快にさせるような、おそらくは臭そうなおっさんキャラである何かを始末することが出来るというのに、それに協力的な態度を示さないのはどうかと思う。
この作戦が上手くいけば、疫病をレジストする女神にしろ堕天使さんにしろ、上手くやった報酬……というほどのものは与えないのだが、それなりに待遇を改善してやる用意はあるし、逆にこちらが大蟯虫クリーチャーとの戦いに強い協力をしてやるつもりでもあるというのにだ。
で、どうにかすると言って戻って行った堕天使さんは、今度は謎の肖像画のようなものをいくつか持ってまたこちらの部屋にやって来た。
どうやら神々の絵が描かれたもののようだが、もしかするとこの中から『ターゲット』を選別しろということではあるまいな……
「おい堕天使さん、そんな肖像画だけ見せられても何だかわからんぞ、戦わせたいならまずはそいつらのステータスとかをだな……」
「大丈夫です、実はこの肖像画はトレーディングカードになっていまして、神々のステータスが下にキッチリ表示されているのです……ちなみにこの神々のカードはもう出現率が高くてダブりまくっているんで、そのまま持っていて頂いて構いません」
「なるほどトレーディングカードと……そしてクズカードなのか……おい見ろ、いつも絡んでいるあの魔界の神が居るぞ、あの野郎、雑魚の分際でトレーディングカード化されているなんて生意気な」
「ちなみにそのカードは一番出易いクラスのものですね、ろくに使えないし、かなり不人気なカードですが……なるほど、あの浪人のような神様はそれでしたか……」
「かわいそうな奴だなアイツは、で、この中にさ、俺達の宿敵であるホネスケルトンとかいう神の子分は居るのか?」
「ホネスケルトン神の子分の神様ですか、となると……このお方やこのお方、それから……そのぐらいですかね?」
「結構居るもんなんだな、しかも気持ちの悪い顔面の輩ばっかりかよ……で、どれが強いの?」
「そうですね、このお方は二日酔いを司る神で、目を見ただけで吐き気と頭痛と胃のもたれと……あとこのお方は悪質飛び込み営業を司る神でして、どこに居ても、どんなプライベートの時間にあっても、突然空間を割って入って来て営業を……みたいな感じですが、どうでしょう?」
「いやそういう強さはやめてくれ、てかどうしてそんなろくでもねぇもんを司る神しか居ないんだよ?」
「そう言われましても、ここは実際魔界でして、基本的にあまり良くないものをモチーフにした神々がメインでして、こちらの疫病をレジストする女神様が特殊なだけです、危機的な状況において偶然発生したというか何というかで」
「なるほど、となると他の肖像画の奴等もそこそこにムカつく感じの奴等ばっかりで……どうしようもねぇなこれは……」
出来ることなら戦いたくない、そう思わせるような能力、モチーフの神々ばかりなのが魔界の特徴であるということ、そして魔界を攻略するうえでは、そういった連中との戦いも避けて通ることは出来ないことなどがわかった。
しかし今はそのときではなく、そもそもこのエリアでの活動と隣のエリアへ移動することにつき邪魔だてしてくるワームクリーチャーや、この町に蔓延る大蟯虫クリーチャーなど、そういった連中に対抗するべく用意された残雪DXのことを考えるべきなのだ。
そしてさらにそれを操作するための神界クリーチャーが必要なわけであって……非常に遠い回り道をしているような気がするのは俺だけか。
まぁ、いずれにせよ神界クリーチャーレアガチャの素材をゲットするには神々のうちそこそこその『肉』に価値があるものを、あの石像の元神のような雑魚ではなく、もう少しマシなモノを討伐し、解体してやる必要があるというだけだ。
よってあまりにも強くて鬱陶しい能力を有しているような神々はターゲットとしてチョイスすべきではなく、もう少しだけ弱そうな奴を選抜するべきなのである……
「う~ん、どいつもこいつも気色悪いわね……この中から安全で確実なターゲットを選ぶのは至難の業よ」
「そうですね、むしろホネスケルトンの子分じゃないからといって向こうに外したの、そっちの方が倒し易そうなのが多いですね……あとお金持ってそうなのもそっちの方が……」
「仕方ありません、それでもこの後の作戦の侵攻まで考えた場合には、せめて主敵の配下を……と、こんなのはどうでしょうか? 少し……どころか異様に気持ち悪いですが、どことなく大蟯虫クリーチャーに似ているような気がしなくもありませんよ」
「というかマリエル殿、それ、大蟯虫クリーチャーそのもののような気がするのだが……堕天使さん殿、これは?」
「堕天使さん殿って何者ですか……それで、このお方は確かにホネスケルトン神の配下キャラで……あそうだっ、良く考えたらこのお方、『疫病の大流行をプロデュースする神』でしたっ、今隣室に居られる女神様と対を成すお方ですよっ」
「それって、もしその神と神が出会ってしまったらどうなるわけ?」
「もちろん大喧嘩ですよ、それはもう大地は揺れ海は裂け、というか海ないですけどこのエリア、まぁ川ぐらいは裂けて普通に断水とかすると思います」
「水止まるのかよ鬱陶しい……あ、いや、それはそれでなかなか良いことなんじゃないのかこの町にとっては? だってどこかの水源から大蟯虫クリーチャーの卵とかが流れてきている可能性とかがあるんだろう?」
「あ、そういえばそうでした、というかステルス大蟯虫クリーチャーの件を考えれば、もうそれは間違いなきことなんじゃないかという次元ですね実際」
ステルス大蟯虫クリーチャーに制圧されていた武器職人の旅団や、その前に到着した馬車の乗客らなど、町の外からやって来たというのに、既に寄生された状態であった奴は多い。
そしてそのことは、大蟯虫クリーチャーがこの町の中だけで拡散しているというわけではなく、、もっと別の場所から、町の中へ向かって流入している可能性が高いことを示唆している。
そして大蟯虫クリーチャーが町へ入る際には、もちろんどこかで魔界人間に寄生して、それと共に侵入するという方法もあるのだが、それ以外にもひとつやり口が存在しているではないか。
それは水に拡散し、上流域にある水源からそのままの状態で町の中へ流れ込むという方法であって、この方が安全確実に侵入を遂げることが可能だ。
なぜならば俺達がこのように騒がなかった場合には、誰も町の井戸やその他の水源を危険なものだと疑っていたり、もしかしたらそこから病気がやってくるのではないかということ、そんな考えを持ったことなどなかったはずであるから……
「それで、その疫病の大流行をプロデュースする神ってのなんだが……もしかしてコイツさ、今回の大蟯虫クリーチャー騒ぎの首謀者とかじゃないのか?」
「確かにそう思えるわよね、見た目とかめっちゃ似てるし」
「そういう陰湿なこととかしそうですもんね、もしかしたら毒剣の神とホネスケルトンとかいうのの配下同士で仲が悪くて……みたいな?」
「可能性はあると存じます、だってこのビジュアルですし、大蟯虫クリーチャーと何も関係がないとは思えないんですよね実際」
「ねぇ、とにかくコイツ呼んでみてよ、あのさ、疫病をレジストする女神様? からの果たし状とかみたいな感じでさ、そしたらやる気満々で来るんじゃないかしらここまで?」
「えっと、そうですね、疫病をレジストする女神様に聞いてみないとわかりませんが……あの、もし争いになった場合に、もちろん女神様だけに戦わせるということはないですよね?」
「うむ、というかメインで戦うのは俺達だから安心しろ、どう考えてもこの気持ち悪いのを殺すべきだし、そもそも諸々の事態の元凶なのかも知れないからなこの気持ち悪いのは」
「わかりあMした、それだけ聞ければ十分です、すぐに相談して来ますね」
ということで俺達が選抜したのは『疫病の大流行をプロデュースする神』なる、いかにも魔界の悪神といった感じの輩である。
疫病をレジストする女神にとっては宿敵同士であって、そして何よりも、コイツは同じホネスケルトンの配下であった毒剣の神を陥れるため、その支配下にあったこのエリアに大蟯虫クリーチャーを撒き散らしたのではないかとの疑念が生じているのだ。
そんな奴であるから、新たにこのエリアを統括するのではないかという勢いで、しかもその性質上大蟯虫クリーチャーとも、魔界史上初めてまともに戦えている疫病をレジストする女神の挑発には乗りそうな感じ。
適当に果たし状などを送り、その中で極限までディスッてやることによって、おそらくは顔を真っ赤にした状態でノコノコとやって来ることであろう。
そしてそのまま俺と仲間達に囲まれ、ボコボコに延され、最終的には命乞いでもしながら無様に殺られて『肉』に、俺達が神界クリーチャーガチャを引くために必要な『素材』となるのだ。
で、もう一度やって来た堕天使さんが、疫病をレジストする女神の了承を得て果たし状、というかもう脅迫文のようなものを送付したという報告を受けたため、俺達はた戦う準備などして待つこととした……
※※※
「しっかし暇ねぇ、その何だっけ?疫病の大流行をプロデュースする神だったかしら? いつになったら攻めて来るというの?」
「おいおいセラ、まだ堕天使さんが果たし状を送ってから2時間程度だぞ、このエリアの後任が決まるまで何百年とか言っているスローな魔界のことだ、どうせそんなにすぐには動かないさ」
「でもカレンちゃんとかやる気満々よ、さっきから素振りみたいなことしてるし……」
「あいつはいつもあんな感じだろうよ、まぁ、そのうち……と、何か飛んで来るみたいだな、カレン、ちょっとそこでキャッチしてくれ、おそらく矢文だ」
「わかりましたっ! シュシュシュッ! シュッ……あ、ホントに矢の先にお手紙が付いてます……」
俺達が暇を持て余しながらターゲット、つまり疫病の大流行をプロデュースする神の到来を待っていると、滞在している仮設庁舎目掛けてかなり遠くから矢文が放たれたらしい。
間違いなく町の外から、もちろん見えないほど遠くからこの部屋をピンポイントで狙ってくるとは、この矢文を放ったのはそこそこの弓の使い手なのであろう。
とも思ったのだが、それに気付いてやって来た堕天使さん曰く、この程度のこと、魔界人間の兵士であれば余程のことがない限り出来てしまうとのことで、改めて俺達の世界の人族との差を思い知らされる。
で、肝心の『文』の方なのだが……まるで印字でもしたかのような綺麗な字で、しかも俺達にも読めるような記述方法で色々と書かれているではないか……
「え~っと何だって? うむ、『諸君、この矢文を放ったのは我、ホネスケルトン神の直属の部下として魔界に存在しているとある神である。我は疫病の大流行をプロデュースする神から事の詳細を聞き、どうせこの魔界へ攻め寄せた異世界勇者の仕業であろうと思い、ここにとりあえずの文書を贈ることとした。間違いなく、この件は諸君ら、そのエリアの神である毒剣を、さらにはあの三倍体をも討伐したという恐怖の勇者パーティーの所業なのであろう? もしそうなら同封の返信用封筒にそうである旨を記載した文書を封入して矢文で……』みたいなことが書いてあんな」
「矢文でって、そんなのどこに打ち返したら良いのかさえもわかんないじゃないの、もう放っておきましょ」
「だな、ちなみにアレだ『もうすぐ諸君らの元に疫病の大流行をプロデュースする神が到着し、襲い掛かることであろう、心し待つが良い』とも書かれている、つまり奴はそろそろ来るってことだ」
「あとご主人様、『この文書は自動的に大炎上して大爆発します』とも……」
「え、どこに? あホントだ……ってギョェェェェッ! 炎上して爆発したぁぁぁっ!」
「何をやってんのよ勇者様は……とにかくさ、その何だっけ、長ったらしい名前した魔界の神、たぶんこの矢が飛んで来た方向から来るんじゃないかと思うから、そっちに出て待つことと……あら、土煙が見えているわねもう……」
「マジだ、ヘビみたいなのが這いずってこっちに向かっていやがる……とにかく外へ出て迎え撃つぞ、作戦を考えつつな」
「そうねぇ……あ、そうだわっ、とにかく町の外へ出て迎え撃つわよっ」
『うぇ~いっ』
精霊様には何か良いアイデアが出てきたようで、俺達だけではなく、挑発をした疫病をレジストする女神と堕天使さんを前に出すようなかたちで、逆に俺達は目立たない位置でその土煙の主を迎え撃つぞと言い出す。
これはもし敵が馬鹿で、普通に『疫病をレジストする女神が戦いを挑んできた事案』だと思っている場合には、このまま突っ込んで来てまっすぐにその女神の所へ向かうのではないかとの予想に基づいたもの。
そして疫病をレジストする女神に突っ込んだところを、目立たない場所で目立たないようにしていた俺達が奇襲し、まずは先制の打撃を与えるというのが今回の作戦である。
もちろん敵とてそんな馬鹿ではなく、あの矢文を射ってきたどこかの神と同じように、これが侵略者たる俺達によって行われた誘い出し作戦であるということぐらいわかっているはず。
現に突っ込んで来る土煙は、前に立たせた疫病をレジストする女神を確認することが出来る距離にあるにも拘らず、その勢いを止めずに、まるで立たせているそれがボーリングのピンであるかのようにまっすぐ……
「オラァァァッ! 疫病の大流行をプロデュースする神様のお通りだぁぁぁっ! 無関係の奴は退きやがれぇぇぇっ! 俺を挑発した疫病をレジストする女神はどこじゃボケェェェッ!」
「あの、そんなこと言いながらスルーして行ってしまったんだが、その……疫病をレジストする女神である我はどうしたら……」
「しまった、アイツ馬鹿だぞ普通にっ!」
「追って! 町へ入る前にどうにかして止めないとよっ!」
とは言うもののもう遅い、疫病の大流行をプロデュースする神は完全にその宿敵である相手をスルーし、そのまま町へ向かってしまった。
そして何よりも、その神が下半身のヘビ、いやミミズのような部分で這いずった部分の地面は、当たり前のように草が枯れて異様な臭気を放っている。
これはもう土まで腐ってしまってはいないか、腐っているというよりも何かに冒されて病気になっているようなのだが……コレを町の中でやられたらひとたまりもないな。
そう考えつつ全力でバックし、城門を潜って……あの野郎が通過しただけの城門であるが、そこを守っていた魔界人間の兵士が悲惨なことになっているではないか。
既に皮膚が真っ黒になる謎の病変に冒され、どういうわけか肌の露出した部分はウジ虫に喰われている。
こんなモノ、およそ数日放置した死体でしか見られないような光景なのだが……兵士はまだ生きて悶絶しているのだから笑えない。
さらに町の中から聞こえてくる悲鳴によって、これと同じようなことがそこら中で起こっているということを示唆しているのだが……ふむ、そこらをグルっと回って、どうやらこちらへ戻って来るようだな。
きっと馬鹿すぎるゆえ、適当に走り回って疫病をレジストする女神を探していたのであろうが、そのターゲットであり、自分を挑発した存在が、まさか最初にスルーした『単に邪魔な場所に立っているだけの女』であたっとは思うまい。
だがまぁ、その疫病をレジストする女神の所へ辿り着く前に、城門付近で俺達がお出迎えするのだから、奴はもう一度その姿を見ることなどないかも知れないな。
むしろそうなって頂かないと、こんな野郎がそこら中を走り回り、方々に疫病だの何だのを撒き散らすのは非常に迷惑なことだ……




