1169 使えない
「……で残雪DXだっけか? マジで何なのお前? いやさ、武器職人のジジィが造ったGUNだってことは俺にもわかるよ、だけど『物』の分際で普通に喋ってんのとか妙に納得がいかないんだが……」
『失礼な、この私、残雪DXを物だなんて、私はれっきとした魂をもつ武器であって、そこのほら、汚ったねぇ死体になってるじいさんが丹精込めて製造した魔界最強のGUNなんですよ、わかってますそこんとこ?』
「わかりたくねぇよそんなもん……」
何も成し遂げることなく、ステルス大蟯虫クリーチャーによって無様に死亡させられた武器職人のD造じいさんであったが、その代わりとして現れたのがこの謎の武器。
女性の声で喋っているのだが、口ぶり的にかなり適当な奴であることは疑いようがなく、また明らかにGUNではあるのだが、本当に使えるシロモノなのかがわからない。
とはいえまぁ、こいつが目的物に近い存在であって、喋るということはもう流れ的に伝説の武器であるということがほぼほぼ確定しているといって良いようなものだし、何よりも登場タイミングがそれなりであることからも、話を聞いておいて損のないものだということは確か。
ひとまずそのGUN、残雪DXを抱え上げているマーサから受け取り……というか『残雪』はわかる、GUNなのだからそういう名前だ、そして『D』もわかる、D造じいさんの作であるためだ。
だが『X』だけは解せない、それがどこからきたのか、単にそれっぽい語感にするためにわざわざ付した記号なのではないかと、そう疑ってしまうような意味のなさである……
「ふ~ん、一応GUNとしての体裁は保っているんだな、ちゃんと魔力が籠った鉛玉を発射することが出来そうだし、造りの方も重厚でしっかりしているぞ」
『ちょっと、そんなにまじまじと見ないで下さい恥ずかしい、私は武器でありながら魂を有しているんですから、それをもう前から後ろから、下からなんかも覗き込んでっ』
「そうよ勇者様、変態行為はやめてあげなさい、初対面なんだからさ」
「どうして俺が怒られなくちゃならんのだ……とまぁ、ひとまず町の中へ戻ろうぜ、ステルス大蟯虫クリーチャーも殲滅したことだし、ここで立ち話をしている理由は特にないだろうよ」
「そうですか、では私は疫病をレジストする女神様と一緒に帰還していますので、何かあった際にはまた呼んで下さい、どうせ別室で大蟯虫クリーチャー対策の仕事をしていますからすぐに駆け付けますよ」
「わかった、じゃあ俺達もこのまま……馬車と、それから武器職人旅団が遺して逝った荷物はどうするんだ?」
「それは後で下賤なる魔界人間共にでも回収させましょう、基本的に空も飛べない役立たずの無能ばかりですから、そういったものを引っ張って移動させるぐらいしか能がないのですあの連中は」
酷い言い草であるし、どうやら空を飛べないのが無能の証のような考え方をしているのが気に喰わないのだが、とにかくこの辺りの処理は全て堕天使さんに任せ、俺達は仮設庁舎の自室へと戻る。
そこへ持ち込んだ残雪DXをまずは金銀をふんだんに使ったそれなりの台座に鎮座させてご機嫌を取り、話を利く体制に入ったのだが……
まずは何から話していけば良いのであろうか、適当に自分語りでもさせるか、いや、それだと延々に話が終わらないパターンになるな。
コイツは良くわからない存在ではあるものの、基本的に『伝説』だの何だのを自称している奴はヤバい。
こんなものはトチ狂った馬鹿であるに違いないのだ、伝説の異世界勇者様たるこの俺様がそう判断したのだから間違いはない。
……と、何だか自分でそう考えていてその考えがムカついてきたのだが、それはまぁ気のせいということで……うむ、ひとまずはもっと賢さの高い連中に質問権を与えてどうにかさせることとしよう。
ミラ辺りは重要事項ではなく、この残雪DXがどれだけの価値を有しているのかということにしか興味がないようであるから、これは外して精霊様辺りから聞かせていくべきか……
「えっと、じゃあ精霊様から、残雪DXさんに質問を……もちろん冒険に関係あることで頼むぞ」
「そうねぇ、まずはさ、あんたクリーチャーワームとか、その他の魔界クリーチャーよね、そういうのって倒すことが出来るわけ? 出来ないって言うならこの場で廃棄処分するんだけど、どうなのかしらその辺り?」
『もちろんっ、そのぐらいのことは出来るに決まっていますよ、で、クリーチャーって何なんですかね? 私、戦ったこととかないんで知らないんですよね普通に、汚くないですかそれ?』
「……おい、コイツもうダメなんじゃねぇのか?」
「タオル掛け用のハンガーとして洗面所で使ってあげた方が役に立つかも知れないわね、で、クリーチャーも知らずに今までどうやって武器として過ごしてきたのよ?」
『そりゃまぁ、あの木箱の中で、しかも新しい失敗作とかが出来ると、それが上からドサドサ乗せられてきて下の方に……で、私はあんな奥深くに埋まっていたというわけですね、伝説の武器なのに失礼しちゃうわあのジジィ』
「貴殿、それは自分も失敗作であるということではないかと……マーサ殿、残雪DX殿が入っていた木箱には何か表示がなかったか?」
「そうねぇ、『激安ワゴンセール!』って書いてあったような気がするわよ、あと『ノークレームノーリターンでお願いします』ってのも小さく書いてあった」
『そんなっ! それはあの汚いジジィの陰謀でっ、私はリターンされるような雑魚武器じゃないですって、チェンジとかもされたことないですし、そもそも使ったこと……なくて、新品なんですよこれが……』
「つまりアレね、自称は伝説の武器だけど、ホントは失敗作でワゴンセールで、ノークレームノーリターンのノータリンだったってことね?」
『酷い……』
「酷いのはお前の知能だボケがっ!」
『いでっ! 武器だって痛いんですからっ、たとえ伝説とはいえ痛いときは痛いんですからっ! もっと丁重に扱ってくれないと修理代金が嵩みますよホントにっ』
話せば話すほどに『コイツはもうダメだ』と思わせてくれる残雪DXであるが、まさかここまでのゴミ武器であったなどとは誰が思うか。
もちろんあのワゴンセールの木箱の中には他の武器も大量に入っていて、それ以外にも武器の木箱があって、その中で喋って自らの存在をアピールしてきたのはこの残雪DXだけだ。
とはいえ製造主である(故)武器職人のD造じいさんが自ら、コイツを『失敗作である』と位置付けていたのだから、それはそれでまた間違いなどではない。
結果としてこの残雪DXは、『単に喋るだけの珍しいゴミ武器』という位置づけになると思うのだが……本人、いや本武器がそれを認めることは絶対に無いであろうな……
「まぁとにかくだ、この残雪DXを使ってみないことにはわからんだろう、本当にゴミ武器なのか、それともホントは仰る通り伝説の武器なのかってことがな」
『あの、出来ればで良いんですが敬称を、せめて残雪DXさんと呼ぶことをお勧めしますよ、伝説の武器に対する不敬は神への不敬と思って頂いて結構ですから』
「……でだ、この残雪DXの使い方についてなんだが……わかりそうな人は挙手! はいカレンさんどうぞ……いや、銃口を覗き込んではいけません、他は?」
「わかるわけないわよね普通に……あ、でもアレよね、島国の英雄が使っていた『ハジキ』とか、西方新大陸の敵が使っていたのと同じ筒だとすれば、ここに魔力をこうやって……」
『あうぅぅぅっ! 魔力がっ、魔力が入ってくるぅぅぅっ! こんなの初めてぇぇぇっ!』
「気持ちの悪い奴だな、魔力を充填されているときぐらい大人しく出来ないのか?」
「というか、ここまでやかましいと戦場で使う前に敵に見つかりそうよね、せっかく遠距離武器っぽいのに、もうこれだけで台無しじゃないの、やっぱりスクラップね」
「まぁまぁ、どうせ敵はアレだ、クリーチャーとか堕天使(最下級)とか、そういう低知能な奴ばっかりなんだし、ちょっとぐらいやかましくても何とかなるだろうよ、セラ、引き続き魔力の充填をしてやってくれ」
『はうぅぅぅぅんっ! 魔力がぁぁぁっ!』
「・・・・・・・・・・」
魔力を充填される感覚を初体験し、おかしな声を出しながら興奮している残雪DX。
それだけのことでどうしてそうなるのかということを聞きたいが、今はきっと何を語りかけても無駄であろう。
というか、これが人間であったとしたら果たしてどのような見た目になっていたことか、それを想像してしまうのだが、あまりにもアレなのでそういうのはやめておくべきだ。
とにかくセラの魔力がそこそこの分量充填された残雪DXは……ふむ、通常の武器等であれば、これほどまでの魔力に晒されて無事であるはずがない。
どころがこのポンコツGUNにおいては、かなりの魔力を溢れ出させてしまってはいるものの、その状態でどこかが破損したり、粉々に砕け散ってしまったりということはない様子。
もしかしてコイツ、思っていたよりも凄い奴なのであって、武器職人のD造じいさんはコイツのことをその能力で『失敗作』と判断したわけではないのかも知れない。
普通にやかましく、そもそも武器の分際で当たり前のように喋って偉そうにしていることが、この残雪DXの不良品たる所以なのかと、そう考えてしまうような光景だ……
『はぁっ、はぁっ……うぐっ、まだおかしな感覚が……あ、でもこれは凄いですね、何やら未知の力が溢れ出して止まらないです、最初から魔界最強の武器だったのに、これでもうどこの世界においても最強で美しい武器ということになったんじゃないでしょうか私? 違います? んっ?』
「また調子に乗りやがって、それで、魔力弾の方はどうやって発射するんだ? 普通に指で引き金を引けば良いのか?」
『チッチッチ、甘いですぜえっと、何なのかしらこの人……甘いですぜ大将!』
「お前が何なんだよその感じは、もうちょっとキャラには一貫性を持たせてだな……へいお待ちっ、て言おうとしただろお前今、どっちが大将なんだよもう普通に戻れや」
『……大将、まだやってる?』
「だから大将じゃねぇっつってんだろぉがっ!」
『ふぎゃんっ! いてててっ……あ、それでこの状態からの発射、というか攻撃の方法でしたか? それなら取説読みました? 読んでませんよねその感じじゃ? そういうのダメですからね普通に』
「そんなもんなかったわよ、だから口で……どこが口なのかわからないけど、とにかくそっちで積極的に使用方法を説明しなさい」
「そうよっ、さもないと誤った使い方をして事故等の危険を生じさせるわよ、そんで正真正銘欠陥商品としてスクラップに……」
『あーっ! はいはいはいはいっ、わかりました、はいわかりました説明しますよっ!』
「よろしい、じゃあサッサとしやがれ」
せっかくワゴンセールの木箱の中からピックアップして貰ったというのに、ここでスクラップにされるのだけはどうしても避けたいらしい残雪DX。
こちらの脅しとしてはその内容を継続的にやっていき、そのうちに本当はスクラップされないことを察して舐め腐ってきたら、どこかあまり重要でないパーツを破壊するなどして更なる脅迫状態に陥れよう。
で、そんな残雪DXの説明によると、どうやら使用、というか今込めてある魔力を鉛玉に乗せて発射するためには、魔力だけでなく魔界特有の凄い力のようなものも必要になってくるとのこと。
そしてもちろん俺達はそんな力を有していないし、これからも入手することが出来る可能性は皆無に等しいと考えて良いであろう。
となると、現状でこの残雪DXを使用することが可能なのは……堕天使さんと疫病をレジストする女神だけということになるのか……いくら何でも敵の捕虜だの新たな敵の神だのに、こんな危険そうなモノを持たせるわけにはいかないな……
「……う~む、困ったな、これじゃあせっかくのGUNがまるで使えないじゃねぇか、どうするよ?」
「勇者様、それだったら私達が使ったりせずに、何か別の者に使わせれば良いんですよ、例えば……」
「例えば何だ?」
「神界クリーチャー、なんかどうでしょう? 魔界の力ではないと思いますが、神界にも同じような力が存在していて、それがあればこの武器を使うことが出来るんじゃないかと……そう思います」
「私もミラちゃんの意見に賛成ですの、どうせ魔界も神界もたいした差があるわけじゃないですし、ここはひとつ神界クリーチャーのそこそこにレアなのを召喚して、それに残雪DXを持たせてみるべきですわよ」
「なるほど、じゃあつまり、この後はまた神界クリーチャーのガチャを引くための素材集めを……みたいな動きに戻らないとならないのか……」
自分達では使うことも、また誰かに使わせることも困難である残雪DX、早くその効果を試したい、というか本当に使えるのか銅貨を見極めたいところではあるが、どうやらそういうわけにもいかないらしい。
そもそも神界クリーチャーガチャを引くにしても、いつもの堕天使(最下級)などを『素材』として抽選を受けられるのは、棒人間クリーチャー程度の雑魚しか出てこない雑魚キャラ専用のもの。
しっかりとしたレアで強い、そしてカッコイイ神界クリーチャーが出現するガチャを引くためには、それなりの敵を討伐して『素材』にしなくてはならないのだ。
だが当然堕天使さんや堕天使ちゃん、それに一応は可愛らしい見た目をしている疫病をレジストする魔界の女神などを生贄にしてしまうことは出来ない。
そして町の外で死んだ武器職人とその旅団も、さらにはそれに寄生していたステルス大蟯虫クリーチャーなども、もちろんのこと通常の大蟯虫クリーチャーや魔界人間なども、おそらくレアガチャを引くには完全に不足しているような肉なのであろう。
あとは既にゲットしてあるものの中から……いや、イマイチな素材しかなかったのであったな、確か石にされていた元魔界の神を肉にしてあったのだが、それもたいしたものではなかったはずだ。
となると……ここは疫病をレジストする魔界の女神、その他堕天使さんの力なども借りてみることとしよう、それが得策である……
「ルビア、ちょっと堕天使さんと、それから神気取りのアホな馬鹿を呼んで来てくれ」
「あ、は~いっ、わかりました~っ」
先程からGUNの方にはあまり興味がなく、暇そうにしていたルビアを使って堕天使さんと疫病をレジストする魔界の女神を呼び出しておく。
堕天使さんはそこそこの身分でしかないものだとは思うが、魔界の女神の方はこれでも神であって、この魔界においてそれなりの権力を有しているに違いない。
呼ばれてやって来た堕天使さんと……魔界の女神の方は自らやって来たりはしないようだな、生意気にも威張り腐って、代理人である堕天使さんを通して話をせよとのことらしい、後でシバき倒しておこう。
で、堕天使さんには事情を話してやって、これから俺達が魔界の(まともな)神か、それと同等の存在を何匹か撃滅し、神界クリーチャーガチャを引くための素材をゲットしたいと伝える……
「……そんなことを仰いましても……それって魔界の神様を騙してここに呼び出して、敵に襲わせるという最悪な行為ですし、困りますよさすがに」
「良いじゃないのちょっとぐらい、どうせ魔界は私達が恐怖で支配するのよそのうち、今ちょっとぐらい騙されて死んだりしても、それは本当に必要だった最小限の犠牲であって、そのお陰で多くの魔界の神々が、最後は比較的ライトな方法でブチ殺して貰えるかも知れないと、そう思いなさい」
「何ですかそれもう最悪の事態じゃないですか、どんだけ巨悪なんですかあなた方?」
「魔界の存在なんぞにそんなこと言われたくはねぇな、さて、じゃあ誰か堕天使さんを押さえてくれ、その黒光りする高級そうな翼から、羽根を毟って素材にしてくれるわ、もちろん全部なっ!」
「ひぃぃぃっ! わかりましたっ、ちょっと疫病をレジストする女神様と相談してみますのでっ、そういう乱暴なことはやめて下さいっ!」
「おう、もし断るようなら堕天使さんの羽根と、それからあの魔界の女神のケツの毛まで全部毟ってやるから」
「あと大蟯虫クリーチャーだとかステルス大蟯虫クリーチャーだとか、そういうのを意図的に、可能な限りそこら中にばら撒くわよ、覚悟しておきなさいっ!」
「ホントにとんでもない方々ですねっ! とにかく話をしてきますので少々お待ちをっ!」
「おう、良い報告以外は一切要らんからな、わかったらとっとと行けっ」
堕天使さんを脅迫するのはこれで何度目か、だがそのことは魔界攻略において、俺達の覇道の中で必要となってくるものであり、そして悪に対してそうしているのだから逆に正義である。
などと自身の言動を正当化していると、今度は堕天使さんだけでなく魔界の女神も一緒に、かなりおっかなびっくりの表情でやって来た。
「……ということだ、お前等、魔界の神を1匹、あ、薄汚い野朗の堕天使でも良いぞ、とにかく殺しても良くて、ちょっと素材としての価値がありそうなのを騙してここへ連れて来い、ブチ殺してやるからよ」
「そんなっ、我は若輩とはいえ魔界の女神、侵略者がするそのようなことに協力するなど……」
「じゃあ、お前大蟯虫クリーチャー塗れにしてやろうか? それとこの町、いやこのエリア全体もなっ!」
「ひぃぃぃっ! わ、わかった、やるから、やるからあり得ないことをしないでくれっ!」
「よろしい、じゃあサッサとしろ、俺様が機嫌を損ねないうちになっ」
『へへーっ!』
こうして次なる作戦が始動した、もちろん狙うは1匹でそれなりの素材となり、神界クリーチャーのレアガチャが引けるような偉大なる存在だ……




