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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1165 町の外で

「ご主人様ーっ、武器職人さんどこナビで、前の町を出てこっちに向かっているてっところが光りましたっ! これは武器職人の人がこっちに来るってことですっ!」


「うむ、最後のは言われんでもわかるが……カレン、お前もしかしてずっとあの武器職人ナビの前に居たのか?」


「だって、他にやることないんですもん、屋台のものも食べちゃダメだし、強い敵とかも出現しないし」


「まぁ、そりゃそうだよな、せっかく知らない町に来ているのに、危ないから水も食べ物も基本的にダメで、食事といったら持ち込み品の缶詰とかか、あと調達した肉なんかをウェルダンどころか黒焦げレベルにまで焼いたものばかりだもんな」


「あと強い敵が全然居ない方も困ります、たまに変な人とかに絡まれますけど、弱くて……」


「もう少し我慢するんだな、そうすれば武器職人がやって来て、そいつを脅迫するなどして色々と作成させるんだ、そうすればあの苦戦したクリーチャーワームなんかと戦えるようになる」


「それまで凄く暇ですね……」



 今だ大蟯虫クリーチャーの脅威が去ったわけではない、というか普通に危険極まりない状況にあるこの魔界の町。

 武器職人の来訪がいつになるのかということがわかったは良いが、だからといって存分に観光を楽しむようなことは叶わないのだ。


 外へ出ればどこに大蟯虫クリーチャー化した人間が居て、それが卵を飛ばしてきたり、或いは直接乗り移ってこようなどとしてくるかもわからない。


 もちろん俺達に対してそのようなことをすれば、寄生に成功する前にこの世を去ることになるのは明白なのだが、『種単位』の繁栄を志し、個々の犠牲については何も考えようとしないあのバケモノ共である。


 何をしてくるのか、どんなメチャクチャな作戦で攻撃を仕掛けてくるのかまるで見当が付かないのだ。

 全体主義の悲しいモンスター共は、何かこちらが想像もしないような作戦で、予想外のダメージを与えてきかねない存在なのである。


 で、そのような感じの大蟯虫クリーチャーを警戒するあまり、俺達はあまり外出もせず、確実に安全であると確認して、さらにその辺の魔界人間に毒見までさせたものしか口にしないという徹底ぶり。


 こんなことをしていればそのうちストレスで頭が破裂してしまうのだが……今しがたカレンが確認して来た通り、目的の武器職人はもう、この町を目指して前の町を発っているのだ。


 つまりあと数日の辛抱で、物語に大きな進展があるのは確実ということであって、それまで絶対に気を抜かず、また町の運営、というか防疫の方も緩ませることを許さない、これまで通り、いやこれまで以上に気を入れて徹底すべきところ。


 武器職人が町へやってきた際に、中へ入ることなく『ここは危険だから』という理由で立ち去られては困るし、もっと困るのはその武器職人そのものが、何も知らずに水を飲んで大蟯虫クリーチャーに……というような展開だ。


 もちろんそうなってしまえば、そしてその後の修正も効かないような状況となれば、もう全ての計画を考え直す必要があるし、俺達の魔界侵攻計画にも大幅な遅れが出ることであろう。


 それゆえ、武器職人の到来までに可能な限り町を清浄化し、到着した本人がいきなり寄生されるリスクを極限まで下げていくのが今の俺達がやるべきこと……というか従えた魔界の存在にやらせるべきこと。


 まぁ、大蟯虫クリーチャーを駆逐し尽くさない限りはこの町がお終いであり、俺達が離れて気が緩んだ途端に、また寄生されまくって大変なことになるのは目に見えているのだが、今はそれ屁の対策を考えている時間ではない。


 どうにかして武器職人を『キープ』することを考え、それが済んでからこの町に関することの詳細を話し合っていくべきであって……と、ここで堕天使さんが俺達の『オフィス』へやって来た、そのまま床に寝転がりつつ話を聞くこととしよう……



「……あの、お休みのところ申し訳ありませんが……少しよろしいでしょうか?」


「お休みではない執務中だ、そこを勘違いしないで欲しいな」


「いえでも寝転がって……あ、はい何でもございません、それでですね……えっと、西側のそこそこな貧乏人共が住んでいる地区なんですが……その……」


「魔界人間の貧乏人共が住んでいる地区がどうしたって? もしかして大蟯虫クリーチャーが大量発生しているのか?」


「その可能性があります、なぜかその地区では前回の検査で爆発した者が居なかったんですが、それがちょっとおかしいというか、もしかしたら示し合わせて検査をスルーしていたんじゃないかという疑いが……」


「面倒な連中ね、直ちに滅ぼしなさい、そういうことをしたらどうなるのか、見せしめとして有効活用するのよ」


「は、はぁ……しかしどうしてそのようなことになったのか、それについての説明はどうしましょう? 真面目にやっていたはずなのに滅ぼされたとかならないでしょうか?」


「そうですわね、ちょっとした疑い、しかも根拠のないものだけで滅ぼすとなると、もしかしたら口には出さないまでも離反的な考えを持つ者が出てくるかも知れませんことよ」


「じゃあそいつも殺せば良くね? 逆らった者は排除、逆らう可能性がある者も排除、俺様が逆らいそうだと感じた奴ももちろん排除ってことでな」


「どこの独裁者ですか? そんなことをしていたら武器職人が来る前に暴動とかで町が滅びますよ、それは全部終わった後、もうこの町など要らない状況になってからして下さい」


「あの、出来れば要らなくなった際には魔界の権力に返還して頂けると、疫病をレジストする女神様も初仕事を成功で終えられてお喜びに……あ、いえいえ何でもございません、どうぞお話を続けて下さい」



 堕天使さんが口を挟もうなどともしていたのだが、それよりも何よりも、この状況においてはいつも俺が志している『一般的な統治』が通用しないであろうという、そんな指摘が相次いでいることが気掛かりだ。


 通常、こういう中身の人間はどうでも良いが場所として重要なものを支配する場合に、恐怖でその中での住民の活動を統制し、逆らう者は見せしめとして残虐処刑するべきである。


 そうすれば俺様が大勇者様という尊い存在であって、それに逆らったり、反抗的な内在的意思を有していてうっかりそれが表面化してしまった場合など、どのような目に遭うのかが視覚的にわかり易く、そのどうでも良い連中の行動指針を作り易いのだから。


 しかし現状でそれをすると、どのような場合においても一定数居るはずのゴミ共が、当たり前のように反抗しつつ大蟯虫クリーチャーを撒き散らしてしまうことになるというのが問題となっているということ。


 単に暴れたり逆らったりした奴を制圧し、グッチョグチョのケッチョンケッチョンにしてやるのは良いのだが、まさかの『その行為自体に大蟯虫クリーチャーの拡大リスクが伴う』のだ。


 そしてもしそのような事態に陥れば、せっかくここまで抑え込んでいる状況が、また振り出しどころかさらに進行した状態へと駒を進めてしまう。


 よって、現在のように魔界の女神や堕天使の権力に基づき、さらに魔界人間の間での同調圧力によって行動している状態、このバランスの取れた、大蟯虫クリーチャーを追い詰めることが出来ている状態を崩すわけにはいかない。


 しかし、そうなると俺達が得意としている恐怖による支配、わけのわからない、どう考えても自分より下に見えるのだが、その実逆らえば殺されるというヤバい状況を作出することが叶わないではないか……



「……で、それじゃどうするってんだ? 既に反抗的な態度? というか不正に生存しようとしている連中が出始めているわけだろう?」


「そうよね、検査を回避するためのテクが他にも広がったりしたら最悪よ、ホントにあの大蟯虫クリーチャー検査フィルムが、未使用のままどこかにゴッソリと捨てられて……みたいなことになりかねないわ」


「う~ん、そうれなんですが……やはりどうにかしてちゃんとやって頂く以外になくて……堕天使さんの権限を使って、『特別な事象によりここだけ再検査』という流れを作ったらどうですの? それで監視しておけばまたやらかすようなことは出来ないでしょうし」


「そうか、あくまでも穏便に、無理矢理制圧したり滅ぼしたりということがないようにするのか」


「それでも無言の圧力というか何というか、任意だけど明らかに強制みたいな感じを出して……どうでしょうか堕天使さん? やってくれますかね?」


「わかりました、では私と、念のため疫病をレジストする女神様でその地区へ伺いましょう……下賤なる闇堕ち勇者パーティーの生き残りよ、そこへ案内しなさい」


『へへーっ! 畏まりましたでございますですっ!」



 ということで部屋から出て行った堕天使さん、そのまま暇を潰すなどしていると、使用人の黒魔術師と闇の神官が指摘していた場所らしきエリアから、汚らしい爆発の音が聞こえてきた。


 おそらくそのエリアにおいて相当な人数が大蟯虫クリーチャーに寄生されていたのであろう、そしてそれに気付いた何者かが、ケツの爆発を避けるために検査自体を回避しようと提案していたということか。


 しかし、そうであるというのならば、そこでは明らかに寄生されてしまうような行動を取った者が多かったとしか考えられない。


 生水もダメ、食べ物もウェルダン固定など、かなりのストレスを与える規制が掛けられた状態で、特に危機意識の足りない連中によって、その禁を破るような行動が出始めているのかも知れないと、つまり人々の限界が近いのかも知れないと、そんな考えが頭をよぎる。


 とにかく武器職人がこの町へやって来て、それを俺達が発見、そして確保するまではどうにかなって欲しいところだ……



 ※※※



「やれやれ、ようやくその、先程指摘されていた場所に関しては『処理』が完了したのですが……これ、この状況って他にもありそうな気が……」


「ありそうすぎるだろう、魔界の女神たるこの我の目から見ても、ああいう下賤で下劣な下等生物はまたやらかすように思える、いや確実にやるな、どうにもならないのだああいう馬鹿共は」


「おい、偉そうにしているところ申し訳ないがな、それを信仰の力でどうにかしてしまうのが神だの女神だのの務めなんじゃないのか? まぁ、ウチの世界の馬鹿にも言ってやりたいことだがなそれは」


「そう言われても仕方ないであろう、我は女神としてはまだまだ若輩であって、まぁもちろん貴様のようなゴミ以下のウ○コよりは数億倍マシだが、微妙に上手くいかないこともあるのだ」


「んだとオラァァァッ! 表出ろボケェェェッ!」


「はいはい、そこで喧嘩していても仕方ないでしょ、とにかく魔界の女神さん、私達は武器職人がこの町へ来たときに、無事にそれをキープ出来れば良いわけ、わかる?」


「そうそう、その武器職人とかってのが大蟯虫クリーチャーにやられることがないようにして、ついでに危ないから寄るの止めようとか、そういう感じにならなければ良いから」


「う、うむ、善処するが……結果がどうなっても我の責任ではないということだけは宣言しておくっ!」



 逃げ腰な感じである魔界の女神、疫病をレジストする女神様なのだが、その効果は未だに一度も発揮しておらず、単に町の魔界人間のうち、大蟯虫クリーチャーに寄生された者を『処分』しているのみだ。


 そしてそんな何もしていないに等しい、単に権限を振りかざしているだけの存在が、表面上だけとはいえこの町の全てを動かしているのはそこそこに問題である。


 この程度ならバレないであろう、ヤバそうだからちょっと真面目にやるルートから逸れてしまおう、そう考える者が、先程爆発を起こしまくっていた例のエリア以外でも頻出しているに違いない。


 そしてそいつ等はもう大蟯虫クリーチャーのキャリアであると考えてしまって差し支えない。

 間違いなくいい加減なことをして寄生され、それをいい加減な行動の継続によって周囲に広めていくこととなるのだ……



「失礼致します、あの、よろしいでしょうか? 堕天使様はこちらとのことでしたので……」


「何だテメェ……って、魔界人間の女役人か、上がって良いぞ、それから堕天使さんも好きに使って良い」


「いえあんたのようなゴミに許可を取っているのでは……」


「良いわよ、そいつの許可で大丈夫、魔界にも通じる身分の大精霊様であるこの私がOKを追認するわ」


「ははっ! ありがとうございますっ!」


「……マジでムカつくんだが?」


「それで、私に何用なのでしょうか? 下賤で矮小なる魔界人間如きが私との会話を希望するということは、それなりにアレな話ということなのですよね?」


「えぇ、かなりアレな感じかと思われます、実はそちらにいらしゃる異世界? だとか下界から来た鬱陶しいチンパンジー野郎が希望している武器職人様に関しての情報です」


『武器職人だってぇぇぇっ?』



 唐突にやって来た魔界人間の女役人、最初に庁舎を焼き払った際、生きる価値がある者として非難を許した者の1人である。


 それが伝えに来たのは、どうせどこかでまた大蟯虫クリーチャーの検査を不正に逃れたり、そもそも発症して大蟯虫クリーチャー化した人間が出現したとか、その程度のくだらない話だと思ったのだが……そうではなかったらしい。


 なんと、いきなり『武器職人』についての話が始まったのであるが、それについては俺やその仲間達に情報を提供するべく話しているのではなく、単に堕天使さんに対して報告しているだけのようだ。


 ゆえに、完全に無視されてしまっている状態であって、途中で質問等を投げ掛けても反応はして貰えないであろう状況。


 だが重要な情報であることだけは確かなので、ここは食い下がるようにしてそれを聞き、わからない部分については堕天使さんが代わりに聞いてくれることを祈るしかない……



「それで、各エリアの町を回り、クリーチャーやその他侵略者に対して有効な武器を作成し、それにこの異界からの侵略者の方々が目を付けている状況にある武器職人について、何がどうしたというのでしょうか?」


「はいっ、実は前の町を出てここへ向かっていたはずの武器職人なのですが、それが途中のチェックポイントを予定通りに通過していないようなのでして……何かあったのではないかと……っと、あ……スミマセン失礼致します……あはいもしもし……えぇ、はい、あ、通過しました? 7時間遅れ……そうですかありがとうございます、はい……はい、失礼致します……今しがた通過したとのことです」


「7時間遅れですか……通常そのようなことはあるのですか?」


「そうですね、文献に残っている限りでは……えっと、確か1万年程度前にどこかで一度、あまりにもしつこく武器を造れと言ってきたサル野郎をフルボッコにしていて30分ほど遅れたとか……それ以外は常に時間通りの行動を心掛けているようです、はい」


「そうでしたか、それは何かがあったのかも知れませんね、しかしかなり遅れてとはいえ通過したのであれば、この町へ来た際に事情を聞けば良いでしょう、ですから……そうですね、この町を通過することのないようにと、使者を派遣してそう伝えるようにして下さい」


「へへーっ! 畏まりましたでございますっ!」



 命令を受けて直ちに出て行く魔界人間の女役人、というか、最初からこのようにして『必ずこの町へ立ち寄るように』という命令を、堕天使さんか疫病をレジストする女神からさせておけば良かったのではなかろうか。


 そしてその際には大蟯虫クリーチャーおよび大蟯虫クリーチャー化した人間に注意するよう伝えておけば、そこそこ安全かつ確実に武器職人をゲットすることが出来たのでは? などとも考えてしまう。


 まぁ、ここまでそのままできてしまったのは仕方ないので、女役人が放った使者がしっかりと情報を伝え、武器職人がこの町へ、武器職人のままやって来ることに期待する他ない。


 そしてその情報伝達および命令が到達していさえすれば、あとはもう、強制だろうが説得したうえでだろうが、とにかく武器職人に俺達への絶対服従を約束させ、逆らったら殺す、もちろん本人だけでなく一族郎党皆殺しにしてしまうということをわからせてやるだけの簡単なお仕事だ……



「さてと、これでひと安心みたいなところがあるわね、ちょっと遅れているとはいえちゃんとこっちに向かっているのであれば、ここでこのままゆっくり待っていましょ」


「だな、そろそろ使者として派遣された奴が武器職人に話をして、それから戻ってくる頃で……あ、ちょうど帰還したみたいなんなんだが……どうしたカレン?」


「あの人、何かおかしいです、馬の乗り方も変だし動きも変ですよ」


「そうなのか……まぁ、生まれつきおかしな奴なんじゃないのか? あまり気にすることじゃ……あるかも知れんなこの状況においては……マーサ、すまんがちょっと来てくれっ」


「はいは~いっ、どしたのそんな窓になんか集っちゃって……あら、あの寄生された人を見ていたってことなのね」


「……ということなんだな、うむ、そういうことなんだ……おい堕天使さんっ、使者が大蟯虫クリーチャーにやられてんぞっ! 武器職人宛に送った奴がなっ!」


「えっ? はっ? えぇぇぇっ⁉ 町の外でそうなってしまったということですかそれっ?」



 このまま上手くことが運ぶのではないかと予想していた矢先、戻って来た使者が大蟯虫クリーチャーしているという謎の現象によって、そうはいかないかも知れないという事態となった。


 もちろん大蟯虫クリーチャーに寄生されてから発症するまでの間にはかなり時間が必要で、どう考えてもあの使者が最初から寄生されていたということはない。


 であるとすれば答えは……そう、町を出た先で寄生されたのだ、しかも直接ヤドカリのように移されるようなかたちで……

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