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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1164 今どこ

「はいはい落ち着いてっ、落ち着きなさいこの下賤の者共よっ! そんなんだから貴様等は雑魚なのですっ! いつまで経ってもモブキャラのまま、このままだと名前も与えられないままに死んでいくことになりますよっ! わかっていますかっ?」


『ウォォォッ! 堕天使様万歳! 魔界の女神様万歳!』

『最高っす堕天使様! 我々モブキャラ共は一生堕天使様と、それから魔界の女神様に付いて行く所存ですっ!』

『ドラゴンがっ、下界のドラゴンがやって来て我々をっ!』


「だったら落ち着いてっ、動かないで下さい! その場から動かずに指示を待って下さいぃぃぃっ!」


『うぇ~いっ! ヒャッハーッ!』

『どうかお助けをぉぉぉっ!』

『あぁぁぁぁっ! ケツ爆発したくねぇぇぇっ!』


「……全然わかってねぇ奴等ばっかりみてぇだな、てか集まっているだけで皆考えていること、恐怖していることがバラバラじゃねぇか」



 魔界の侵攻開始エリアにおける最大の町だというここ、そしてその中心部が今俺達の居る場所なのだが、殺到する魔界人間とやらのパニックぶりはもう、収拾が付くとは思えない状態である。


 危険な大蟯虫クリーチャーの出現と、それに対抗すべく打った数々の悪手、これらの結果として現れたのが、現在の致命的な状況というか何というか。


 まぁ、汚染された町の魔界人間が1ヵ所に集中してくれているという『メリット』を有した状況だと思えばそうなのだが、それにしてもこのままでは色々と問題が出るであろう。


 特に、先程確認したような大蟯虫クリーチャーの『移動』、まるでヤドカリの如く、素体となっている魔界人間を捨て、別の健康体へと宿主を切り替えるような動きだ。


 もっとも、ヤドカリと違って実に厄介なのが大蟯虫クリーチャーは元々コントロールしていた方、つまり捨て去った方の素体にも、自分の一部なのか何なのかを残し、それが新たな大蟯虫クリーチャーとして活動を始めるということ。


 そんな感じで増殖されてしまえば、たとえこの場で『町の井戸水を使うな、既存の食糧も破棄しろ』と命令が下され、集まった愚鈍な魔界人間共がキッチリそれに従ったとしても、大蟯虫クリーチャーの蔓延はそのまま続いてしまうに違いない……



「……騒がしいです、こんなにも集まれば違う音を立てている人が見つかるかと思ったんですけど……ダメですね」


「しょうがないわね、どれが普通の魔界人間とかってのでどれがそうじゃないのか、動きを見た感じだけじゃわかんないし、ここで判別するのは諦めた方が良いかも」


「それよりも勇者様、ここに集まった愚かな群衆の方々、コレをまたどこかへ散らしてしまわないようにするのが今すべきことだと思いますよ、何か策を練らなくては」


「マリエルの言う通りだな、しかしどのようにして……大じゃんけん大会でもするか? 誰かが前に出て、そいつに勝った奴だけが生きてて良い奴ということで」


「それ、逐一敗者を殺戮していたら皆逃げ出してしまいますわよ、もっと別の方法を考えて下さいですの」


「う~む、大じゃんけん大会以外で群集を釘付けにする激アツイベントか……難しいな」


「激アツイベントじゃなくても良いとは思うんですが……」



 せっかく終結しているこの町の魔界人間共、もちろん堕天使さんや疫病をレジストするという魔界の女神、その他庁舎を焼き払った際に生き延びた、いや生き延びさせた魔界人間の連中は、それらを落ち着かせることに必死である。


 その連中を俺達は、特に混乱したままでも構わないから、とにかくそのままこの場所に留まっていて欲しいと、その必要性を感じているのであった。


 このまま丸ごと焼いてしまうにしても、どうにかして大蟯虫クリーチャー化してしまった奴と、それに準ずる奴だけ抽出し、適切に『処置』するにしても、まずは全員がそのチェックを受けることが必要なのだ。


 もちろん先程までの『検査』によって、一部の被寄生者はもうケツが爆発してこの世を去ったのであるが、まだまだ配布された『大蟯虫クリーチャー検査フィルム』を使用していない奴は多そうである。


 それどころか、この混乱に乗じてフィルムを破棄し、万が一にも自分のケツが爆発するのを防ごうというズルい考えをお持ちの魔界人間も居るに違いない。


 現状、そういった自分勝手で生きる価値のない奴を判別するのは困難であるが……いや、魔界の女神の力をもってすれば、まだ検査をしていない奴、即ちフィルムを使用した形跡のない奴を炙り出すことが可能なのではないか……



「落ち着いてっ! 静かになさいこの下賎の者共がっ! もうっ、どうして魔界の女神たるこの我の声が届かないのよっ!」


「申し訳ありません疫病をレジストする女神様、ですがこの連中は魔界人間にございまして、すげぇ低能でクズの集まりにつき、このように秩序を失ったような行動を取るのであって……」


「それで魔界の女神たる我が恥ずかしい思いをしてまで召喚した『大蟯虫クリーチャー検査フィルム』を使いもせずに……本当にムカつくっ!」


「おいおい、キレてんじゃねぇよ魔界の女神、お前、あのフィルムを使用していないままにここに集まっている奴がムカつくんだったらさ、そういう奴を見つけ出すことをすれば良いんじゃないのか?」


「……はっ、確かにそうだ、確かにそうだが……異世界チンパンジーにそんなことを指摘されるという屈辱……クッ、覚えておけこのハゲ!」


「ハゲじゃねぇし、で、どうするんだ? ここで、この多くの魔界人間が集まっていて、情報の伝達が素早いであろうこの場所で、『未検査』の奴を晒し者にして、非国民的な扱いをしてその他大勢に糾弾させるべきだとは思わないか?」


「疫病をレジストする女神様、きっとそうするべきです、検査をしていないのは悪いことであって、そういう存在はコミュニティーから排除されるという恐怖を植え付けて、そのことを圧力に変えてこちらのさせたいことを強要しましょうっ」


「それとあんた達、この後は相互に監視させることによって、いつ周りに同調しない行動を取っていることが通報されて、その正で吊るし上げにされるかも知れないという恐怖もキッチリ与えておくべきよ、良いわね?」


「ぐぬぬぬっ、下界の精霊にまで忠告を……だがそれをすべきであろう状況なのは確かだ、まずは……未検査の者のケツが赤く光る術式を……少し時間を要するな、その間にこのことを広く伝えるべしっ」


「畏まりました、聞けっ! 愚鈍なる魔界人間共よっ! これから疫病をレジストし、必ずやこの町を、このエリアを大蟯虫クリーチャーからお救い下さる魔界の女神様が、命じられたにも拘らず、どさくさに紛れて『大蟯虫クリーチャー検査フィルム』を使用していない者を個別に公表なされるっ! 尻が赤く光った者は卑怯者だっ!」


『何だってぇぇぇっ? アレをやっていない奴が居るのかっ?』

『クソッ、俺の隣の奴はケツが爆発して死んだってのに』

『そんな奴は卑劣だっ、周りの迷惑を考えないゴミ野朗だっ!』



 良い感じに『検査していないイコール悪』という流れが出来上がりそうであるから、このまま誰も余計なことを言わず、言った者は異端者として批判され、殺されるような空気感を醸成したい。


 検査して大蟯虫クリーチャーに寄生されていることが確認されればその場で死ぬわけだから、その者にとってその行為がメリットを有するわけではないのだが、それでも周囲の圧というのはかなり効果があるものだ。


 これがこの場でいきなり、一斉にケツが爆発するやも知れぬ謎の検査をしろと言っていたら、おそらくはいくら神や堕天使の言葉とはいえ、反対する勢力が力を持ったことであろう。


 だが最初に検査をしてしまった、それによって危険な思いをした、まるでロシアンルーレットでもするかのような恐怖に襲われた連中が、現状でそれを逃れている奴を許そうはずもない。


 自分はやらされたのに他はやっていないのは不公平だ、他の奴も同じ目に遭えば良い、運悪くケツが爆発して死んでしまえば良い、そう思ってしまうのが、魔界にしろどこの世界にしろ、矮小な愚民の性なのである。


 と、ここで魔界の女神による術式が完成し、あとは発動を待つのみとなったようだ……既に危険を察知して逃げ出そうとしている奴が居るようだが、周囲の、おそらく検査済みであろう奴がそれを察知し、取り押さえているらしい。


 そこかしこでそのようなことが起こり、一部では早々に発見された『未検査者』を、取り囲んでボッコボコにしているような集団も見受けられる。


 そしてここで魔界の女神によって作成された術式が発動……そこかしこで人々のケツが赤く光り始めたのだが……やはり偏りというものがあるようだな……



『おい見ろっ! 向こうの方でめっちゃ光ってんぞっ!』

『本当だっ! どうしてあそこの奴等……あっ! 金持ちの連中かっ!』

『おーいっ! 上級国民共は検査を回避していたようだぞーっ!』

『俺達は真面目に、死ぬかも知れないやべぇ行為をしたというのにっ!』

『どうしてお前等だけはやってないんだよこの卑怯者共がぁぁぁっ!』


「あ~あ、やっぱりこうなりましたか、愚かな民衆は言われれば真面目に従ったりしますけど、上の方の連中はこうなんですよね魔界では」


「堕天使さん、それ、どこでも一緒だと思うぞ普通に……しかし良いターゲットが出来たな、普段からああいう卑劣な金持ち連中を疎ましく思っていた奴は多いだろうし」


「なかなか使えそうですね、今糾弾されているあの魔界お金持ち? ですか? これまでに起こったこと全部をあの連中のせいにしましょう、堕天使さん、そうして下さい」


「えぇ、疫病をレジストする女神様、今回の大蟯虫クリーチャー発生の件、それから庁舎が燃え落ちたり何だりといったこと、全てこの町の中では金持ちとして通っていた下賎の民の仕業であるということで……いかがでしょうか?」


「あ、えっと、それじゃあえっと……どうしようかしら? え~っと、そうだっ! 下賎の者共よっ、このエリアに大蟯虫クリーチャーを持ち込んだのはそいつ等だっ! そいつ等は下賎の民の中でも更に下々の者が寄生されて苦しみ、そして死ぬこと、または検査で爆死するのを見て、自分達はコレよりもマシだと思いたかっただけなのであるっ! だと思うよたぶん……」


『ウォォォッ! とんでもねぇ連中だっ!』

『この売国奴がぁぁぁっ!』

『処刑だっ、処刑を執り行うんだっ!』



 完全に煽動され、大蟯虫クリーチャー検査を不当に逃れていた者がかなり多かった金持ち連中をターゲットとしてひと纏まりになった群集。


 当然それらの中にもケツが赤く光った奴が居たのだが、そいつ等に関してはかなりまばらで、その場で取り囲まれてボコボコにされ、物言わぬ肉塊となったケースが大半であったようだ。


 そしてこれ以後、大蟯虫クリーチャーの拡大防止に関しては、この町の魔界人間共の同調圧力によって、かなり統制の取れた町全体での対策が行われていくことであろう。


 自分達だけどうにかなろうとしていた金持ち連中が物理的に吊るし上げられ、さらに追い討ちを掛けるような堕天使さんのスピーチによって、これからごく短期間で、この町に発生した大蟯虫クリーチャーを駆逐していくことが宣言され、群集は多いに盛り上がったのであった……



 ※※※



「おいっ、アイツは定期的な大蟯虫クリーチャー検査をスルーしたらしいぞっ!」

「何だってっ? じゃあもう未検査者と同じじゃないかっ、売国奴だっ!」


「ひぃぃぃっ! ちょっと待ってくれっ、昨日の一斉検査はちょっと体調が悪くて行けなかっただけで、次の機会には……」


「マジかっ!? お~いっ、コイツは隊長が悪いらしいぞ~っ! きっと大蟯虫クリーチャーに寄生されているに違いないっ!」


「あ、えっ? だから体調不良は昨日だけで、今日はもう……それに水にも気を付けているし、食べ物はしっかり加熱して……」


「黙れっ! 貴様はもう大蟯虫クリーチャーだっ! チェストォォォッ!」


「ギョェェェッ!」



 などというやり取りが町全体で、もうそこかしこで行われ始めたのは、俺達がこの町に到着し、最初に大蟯虫クリーチャーの脅威を伝えた日から1週間後のこと。


 町の住人である魔界人間共には、3日毎の『大蟯虫クリーチャー検査』を義務付け、そして陽性だと判断され、ケツが爆発して死亡した者の財産を没収している。


 なお、没収した財産はその一部を次の『検査』に係る費用、といっても特に何か必要になることはなくボランティアに無償でやらせているのだが、とにかくそれに充てるということが町全体の取り決めとなった。


 もちろん余った分は全て俺達、侵略者である異世界勇者パーティーの取り分となり、それを知って反対するような奴に関しては、すぐに暗殺者を、こちらの味方として取り込んだ闇堕ちご当地勇者パーティーの生き残り2人を送り込んで消している。


 さらに、町中に怪しい奴、つまり大蟯虫クリーチャーではないかと思われるムーブの奴が居ないかということも、その2人に監視させているのだが……ちょうど戻って来たようだな……



「失礼します、ミラクル大勇者様、午前中の監視活動についてのご報告です」


「うむ、聞いておこう」


「はい、では私闇の神官が確認した分から……まずですね、今回の一斉検査から逃げたことが確認されている者153名のうち102名が、民衆のリンチによって殺害されていることを確認しました」


「私黒魔術師が確認したところによると、残りの51名はそのことがバレておらず、または周囲に匿われるなどしてのうのうと暮らしているようです、いかが致しましょう?」


「そいつ等の消費税だけさりげなく3倍にしろ、もちろん殺された奴の財産は全て没収……じゃなくて、今は非常事態で必要だから収用しろ」


「しかし、それでは生き残った連中が厳しい罰を受けたようには見えなくて……」


「それで良いんだよ、あくまでも大蟯虫クリーチャー検査は『任意』なんだからな、受けていないからといって派手に何かされるわけじゃないが……まぁ、そういう目には遭うんだなというあたりで良いんじゃないか?」


「御意、早速着手しますっ!」



 最初の一斉検査では、町の中で大蟯虫クリーチャーのホットスポットのような場所を割り出し、そこを徹底的に焼却することで被害の拡大を阻止。


 そして昨日、第二回目の検査においては、基本的に清浄になったはずの町中で、無駄に不潔で不精な生活をしているせいで大蟯虫クリーチャーの卵を口にしてしまったような奴を炙り出した。


 3日後の検査ではそこで取り逃したわずかな『高リスク者』をさらに抽出し、それを始末していくことで、安全かつクリーンな、大蟯虫クリーチャーの居ない町にしていこうというのが現在の狙いである。


 と、もちろんその大クリーンタウンキャンペーンを先導しているのは魔界の女神及び堕天使さん、そして俺の協力者であり、元々はご当地勇者パーティーのメンバーであったこの2人。


 俺と仲間達は逆にその協力者として、表舞台には立たず、それゆえ抑圧されている魔界人間共からの恨みも一切買うことなく、ただただこの町が俺達のモノになる、それが出来るほどクリーンになる瞬間を待つのみなのだ……



「それで勇者様、この調子でいけば大蟯虫クリーチャーについては大丈夫なのかも知れないけど、武器職人についてはどうするつもりなわけ?」


「あ、やべぇな、そいつのことをすっかり忘れていたぜ、ちょっと、誰か堕天使さんを呼んでくれ」


「あ、はーいっ、私が行って来まーっす」



 トトトッと走り出して行ったリリィ、ちなみに俺達は町の住人が再建した簡易な庁舎の最も広い部屋で、そこの支配者として滞在しているのだが、魔界の連中についてはワングレード下がった部屋を使わせている。


 で、その出て行ったリリィによって引き摺られて来た堕天使さんは、何事かと驚きつつも、どうせたいしたことではないのであろうと、呆れたような表情も見せつつあった。


 部屋の中に引きずり込まれた堕天使さんに対して、本来の目的である武器職人が今どこに居るのか、あとどのぐらいでこの町へ来るのかについて確かめよと命じると……なんとアッサリ承諾したではないか。


 きっと『そんなことは簡単ではない』と困ってしまうのだと考えていたところなのだが、はてさてそれを確認する方法がどこにあるのかといったところ。


 とりあえず自分に付いて来るべしという堕天使さん、その後を追って滞在場所である仮庁舎を出ると……町の中央を走るメインストリート、もちろん庁舎の前まで繋がっていたものなのだが、そこに案内される……



「おいどこ行くんだよ? そんな所で本当に武器職人の居場所が……って、何だこのポールみたいなのに看板みたいな……」


「これですか? これは馬車停ですけど、で、この中に武器職人が……あ、ほら、『前の町まで来ています』のところにランプが付いているんで、この後の移動は……3日間ですね、そのぐらいの時間を掛けてこの町までやって来ます」


「……そういうのがあるなら予め教えやがれっ! 堕天使さんには罰として大蟯虫クリーチャー検査だっ!」


「はうぅぅぅっ! そ、それはカンチョーで……ガクッ」


「フンッ、これからは気を付けることだな、しかし……この状況で武器職人が来て本当に大丈夫なのか? 取り逃したりしないと良いんだが……」



 突然ではあるが、もうすぐこの『俺達の』町へ目的の武器職人がやって来るということが発覚してしまい、少し焦った俺であった。


 かなり抑圧することが出来てはいるものの、未だに駆逐し切ったわけではない大蟯虫クリーチャー。

 その脅威の最中で果たして目的を達することが出来るのか、武器職人固有の、ワームクリーチャーを一掃することか可能な武器を獲得することが出来るのであろうか、実に不安なところだ……

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