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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1163 大混乱の中で

「おい何だテメェ等は? ここが魔界の町だと知っていて、俺様達がお役人様方だと知っていてそのような態度を取っているのか?」

「フンッ、だとしたらわからせてやらなくちゃならねぇな、魔界人間のお役人様がどれだけ恐くて、テメェ等のような下界のクズ共がどれだけ雑魚なのかってことをよっ!」


「ねぇ、こいつ等調子に乗りすぎじゃないかしら? すぐに全部殺しちゃう? それとも見せ付けて言うこと聞かせる?」


「後者だ、まずは……アイツ、ほら明らかにわかるだろう、あの奥の顔面が気持ち悪い奴だ、アレを悲惨な目にあわせて俺達の恐ろしさを思い知らせてやる」


「ふ~ん、何か汚らしそうだし、あんたに任せるわ、アレはちょっと触りたくない」


「わかった、マーサはそこで見ているんだ、ルビアは……言うまでもないな……っと、向こうからきてくれるのかな?」


「ヒャッハーッ! 魔界人間の、しかもお役人様である俺達に逆らう下界の奴は死ねぇぇぇっ! えっ? ふべぽちっ!」



 狙いを定めた際に目が合ったゆえか、向こうから飛び出して襲い掛かってきたキモい木っ端役人の魔界人間。

 支給されている装備らしい、安っぽい剣で斬りかかってきたのだが、その弱さはもう俺にとってその辺を飛ぶハエ以下であった。


 掌を前に差し出し、軽く力を込めてやると、木っ端役人はまるで風の煽りを受けた羽虫のように吹っ飛び、スラム街の下民共が造ったらしい粗末な建物に突っ込んでダメージを受ける。


 だがさすがにこの程度では気絶してしまわないようだ、ここで意識を失っておけば、むしろ打ち所が悪くて死んでしまっておきさえすれば、これ以上の苦痛を味わうことなく呈上することが出来たというのに……



「いでぇぇぇっ! マジでいでぇよぉぉぉっ! おいテメェ、何しやがったんだこのお役人様にっ? 不敬罪だぞ不敬罪……って、どうして近付いて来るんだ? あっち行けっ、もう今日は勘弁してやるからあっちへ行けこの下界のクズがっ!」


「そういうわけにはいかねぇんだってば、お前みたいなのが生きている限り、この俺様のイライラは収まらねぇからな、オラッ!」


「グギィィィィッ! てっ、手の指がっ、指がぁぁぁっ! どうしてこんな酷いことが出来るんだっ? おかしいだろうテメェ、俺様が何か悪いことでもしたってのかぁぁぁっ!」


「いや色々とあるだろ、顔がキモいとか、明らかなモブキャラの分際で調子に乗っているとか、あと息も臭そうな感じだな、死んで良いぞお前マジで、フンッ!」


「ぶっちゅぅぅぅっ!」


「……あぁっ、木っ端役人Aがあんな目に……コイツはやべぇ奴だぞっ、逃げろっ、逃げて堕天使様とか、或いはこの変なフィルムを配布した女神様にっ……ひぃぃぃっ! こっち見たぁぁぁっ!」



 一番鬱陶しい顔面を有していた1匹を惨殺してやると、残った木っ端役人風魔界人間の群れは大半が怯え、ションベンを漏らしながら散り散りになって逃走して行った。


 だがそんな中にあっても、もう腰が抜けてしまって立ち上がることも出来ず、ウ○コをブリブリと漏らしてその場に留まっているのが数匹。


 ここからはこいつ等を使用しておこう……まぁ汚いのだが、このスラムの連中もそこそこに汚いし、ウ○コのようなものなので変わりはない。


 で、色々とあったことによって一時中断していた『大蟯虫クリーチャー検査』が再開すると、もうすぐに爆発し始めるスラム街の魔界人間。


 もしかするとここは先程の場所よりも大蟯虫クリーチャーの蔓延が進んでいるのかも知れないな。

 焼き払うことは確定にしても、その前に潜伏期間中の奴が逃げ出さないような対策をしなくてはならない。


 それに関しては残っている木っ端役人共をスラムの両端に立たせて見張っているのだが、イマイチ役に立ちそうもないため、念のためマーサに警戒するように……と、もう何かの気配を察知したようである……



「……ねぇ、ちょいちょい爆発してるのは普通の魔界人間? の音なんだけどさ、そうじゃないのが結構居るのよねこの近くに」


「そうじゃないのって……もしかして大蟯虫クリーチャーそのもの、もう発症済みの奴ってことなのか?」


「うんそう、ほら、あそこで建物の壁登って逃げようとしているのとか、向こうで無駄に地面掘っちゃってどうしたいのかわかんないのとかがそうよ」


「あら~、基本的に逃げる気満々の人達みたいですね、検査で大蟯虫クリーチャーだってわかれば爆発してしまいますし、この隙にコッソリ逃げようということなんでしょうけど……普通に無駄ですよね……」


「あぁ、発症した奴はもう大蟯虫クリーチャーなわけだからな、検査のフィルムを見ただけで何が起こっているのかを察知して逃げ出したんだと思うが、さすがに逃げ方が稚拙すぎるな」


「もしかしてご主人様、あの大蟯虫クリーチャーの人達、前の物体さんみたいにだんだん進化して……みたいなことになりませんかね?」


「うむ、その危険性も孕んでいるな、どんどん次世代を出して、その全世代で経験したことをそのまま吸収して、なんてことになったらそこそこに厄介だぞ、早いうちに潰し切らないと」


「……まぁ、とにかくあの逃げようとしているのはやっつけた方が良いわね……触りたくないから壁ごとドーンッと」


「ギャァァァッ! 落っこちたぁぁぁっ!」



 高い建物の壁伝いに逃げようとしていたスラムの魔界人間……に対して寄生し、姿形はそのままで中身だけごっそり入れ替わっていた大蟯虫クリーチャー。


 素体となっていたその魔界人間が高所から落下し、地面に叩き付けられた衝撃で口から出て来るものの、すぐに引っ込んでそのボロボロになってしまった『宿』の操作を再開する。


 もはやゾンビのような風貌なのだが、それでも人間ではなく、中の大蟯虫クリーチャーが操作している以上、どんな形状であっても動くことは可能。


 とはいえ素体が弱く、しかもボロボロである場合においては、その動きは極端に遅く、もはや中身が出て来て自分で動いた方がマシなのではないかとも思うのだが……そうではないのか。


 もしかしたら中身が出た状態で活動を続けると干からびてしまったり何だりと、何か不都合が生じるのかも知れないな。


 などと考えつつ、そのままボロボロの状態で再度逃走を開始しようとしている大蟯虫クリーチャーを眺めて……どうやら今度は普通に、スラムの出口を見張らせている木っ端役人の方へと向かうつもりらしい。


 木っ端役人はもちろん先程この素体の中から大蟯虫クリーチャーがはみ出していたこと、そして人間としては明らかに死亡しているにも拘らず、そのまま這い蹲って自分の方にやって来るそれを見て、更なる恐怖を感じてしまったようだ。


 最初から、俺が1匹の木っ端役人を見せしめにしたときからウ○コを漏らしてはいたのだが、さらに漏らしまくり、もう横に積み上がったウ○コと木っ端役人の元々ボディーと、どちらが本体なのかわからないような状態にまで陥っている。


 このような状態であるから、木っ端役人は迫り来る大蟯虫クリーチャーを止めることなど出来ず、そのままスルーされてしまいそうな勢いだ。


 ……いや、そういう感じの動きではないなコレは……大蟯虫クリーチャーの奴、どういうわけかそのまま這って木っ端役人の方を目指して……まさかそういうことなのか?



「ひっ、ひぃぃぃっ! こっちへ来るんじゃないっ、ウ○コ投げるぞぉぉぉっ!」


「へっへっへ、そんなもん俺様達の大好物だぜ、だけどこの素体じゃもうウ○コも喰えないからよ……お前のボディーを貰い受けるぞっ!」


「へっ? あっ、何か出て来て……あっ、あぁぁぁぁぁっ! おげろぽろぺぽっ……ぷっ……」


「きも~いっ、何か口から出て来てあっちのおっさんの口に入ったんだけど、ねぇ、今の見た?」


「見たくはなかったが見てしまったぞ……で、木っ端役人が苦しんでいるってことは、現在あの中身が急速に溶かされて作り変えられてんだろうな」


「……大人しくなりましたね、木っ端役人さんもそうですが、もうひとつの方は完全に動かないですね」


「素体にされた人間の方は最初から死んでいるわけだからな、大蟯虫クリーチャーが抜けたら、その中に新しい卵でも残っていない限りはそのまま死体に戻るんだろうよ、で、新しい宿主の方は……」


「クリーチャーになったってわけね、ホントにキモいじゃないのこいつ等」


「フハハハッ! 遠くから言いたい放題言いやがってっ、だがこの素体、ウ○コは出尽くしていてもったいないが、その分なかなか速く走れそうだっ、ということでさらばっ!」


「あっ、逃げやがったぞ、ちょっと待て死ねっ」


「……へっ、もう追い付かれて……えっ? 俺もう終わりなの……ぶちゅぽっ!」



 なんと素体を乗り替わって逃げ出そうとした大蟯虫クリーチャー、まるでヤドカリのような動きであったのだが、あのように害のない生物ではないのが厄介なところだ。


 しかしこれで大蟯虫クリーチャーが卵で拡散する方法ではなく、宿主を渡り歩いてその行動範囲を広げるという可能性が浮上してしまったな。


 単に乗り移って新しい素体を支配下に置くというだけならまだマシだが、元々の方、つまり捨てた素体がまだ現役で使えて、そしてその中にまた新たな大蟯虫クリーチャーが……という場合には非常に危険である。


 そしてその仮説を裏付けるが如く、先程捨てられたばかりのボロボロの素体が、何やらビクビクと動き出して……少し検査をしてみることとしよう……



「え^っと、おいそこの魔界スラムハゲ、死にたくなかったらちょっと来い」


「はっ? ななななっ、何でしょうか? わしはもうケツが爆発したりしなくて、そもそもこのスラムでも最底辺だからその、井戸水も使わせて貰えてなくて」


「そのお陰でセーフだったんだな、で、ちょっとさ、そこのほら、死体になったのがあるだろう? それのケツをお前が検査してみろ」


「そんなっ! もしそいつのケツが爆発して、それに巻き込まれでもしたらわしは……」


「死ぬだろうな、てか死ねよお前臭っせぇから、ほら、爆発しないワンチャンに賭けるのと、今この場で惨殺されるの、どっちが良い?」


「ひぃぃぃっ! わっ、わかりましたやりますっ、えっと、フィルムを剥がしてこの死体のケツに……あっ、赤く光って……ギャァァァッ!」


「チッ、やっぱり死体にも卵が残っていたってことだな、あのまま放っておいたらまた動き出していたところだろうよ」


「本当に気持ちの悪いクリーチャーですね、というかコレの拡散を止めるのはもう無理なんじゃ……そんな気がしますよ私は」


「ぶっちゃけ私も、もう諦めたらどうかしらこんな町? 武器職人……だっけ? ちょっと事情を話して別の場所へ連れて行ったら良いじゃない」


「かもなぁ……だがまぁ、もうちょっとだけ頑張ってみるか、もしかしたらあの疫病をレジストする魔界の女神が何かやってくれるかも知れないからな」


「あまり期待出来そうにないですけどねあの神様……」


「ルビアみたいなのにそんなこと言われるなんて、夢にも思ってねぇだろうなアイツ……」



 ほんの少し調査をしただけで、かなり絶望的な状況であって、大蟯虫クリーチャーがこの町に拡散し尽くすことを防ぐのは難しいと、そうわかってしまうような結果が出た。


 この町にはまだこういったスラムがあって、今もそこら中で爆発が起こっているようなのだが、そこから逃げ出している『既に大蟯虫クリーチャー化した魔界人間』はいくらでも居そうだ。


 その魔界人間が、まぁそのままスラム街の住人風の格好をしていたら警戒されるであろうが、先程のように他の魔界人間に乗り移って、それがまた他の場所で大蟯虫クリーチャーを広めて……などということになるのはもう時間の問題であろう。


 また、今しがた討伐した大蟯虫クリーチャーやその寄生されて潜伏期間にあった者の爆発した死体などから、そこら中に卵が拡散してしまっているということについてもまた蓋然性が高い事象だ。


 目に見えない何かが宙に舞い、水に流れ、町全体を覆い尽くさんとしているのだが、そのことに気付いている町の住人は、おそらく『陽性者』として誰かのケツが爆発したのを近くで見た者、それに限定されていることであろう。


 そんなものは大半がそこら中にあるスラム街の本当は存在していてはならない魔界人間なのだから、もしそこでそのようなことになっているというのを、町の一般の住人が知ったとしても……もしかすると『自分には関係のないこと』としてしまうかも知れないな。



「マーサ、すまないがやっぱりユリナか、それかリリィでも良いな、どっちか呼んで来てくれ、ダッシュで、ここはサッサと灰にしておかないとヤバそうだ」


「わかった、すぐに行って来るからちょっと待ってて」


「うむ頼んだ、ルビア、俺達はここの連中が絶対にどこへも行かないように監視することと……それからもう検査もヤメだ、爆発ばっかりされても敵わないからな」


「えっと、じゃあどうします? このままだとどんどんと、ほらまた爆発した」


「大丈夫だ、えっと……スラム街のみなさぁぁぁんっ! ちょっと聞いて下さぁぁぁいっ! 皆さんはこれから『焼却処分』されますのでっ! どうかもう動かずにっ! こちらの係員が『焼き殺し易い』ように1ヵ所に固まってくださぁぁぁいっ!」


『おいっ、何言ってんだあの変な奴?』

『冗談じゃねぇ、せっかく俺達は助かったんだからな』

『あぁ、神の命令とはいえケツが爆発するかも知れない、そんな恐怖を耐え抜いたんだ』

『だから市民権を寄越せっ!』

『そうだっ、焼き払ってねぇでここに住ませやがれっ!』

『むしろお前が死ねぇぇぇっ!』


「……生意気な野郎共だな、ルビア、どうにかしてやれ」


「どうにかと言いましても……あ、リリィちゃんが飛んで来ましたよ、マーサちゃんが乗ってます」


「珍しい組み合わせだが……大馬鹿同士だからやべぇぞ、俺達まで丸焦げにされかねないっ!」


「ちょっ、早く退避しましょうっ」



 俺とルビアが非難の的にされているところへ、風を切る凄まじい音とともに登場したのはドラゴンの姿を取ったリリィであった。


 まさかとは思うがその姿で町の上空を突っ切って……来たのであろうことはもう疑いの余地がない、なぜならば2人の到着とほぼ同時に、町のそこかしこでパニックの悲鳴が上がり始めたからである。


 うっかりするとケツが爆発する謎の検査に大蟯虫クリーチャーの恐怖、さらには巨大で強大なドラゴンが飛来して、そしてスラム街の路地に対して容赦なく炎のブレスを吐き掛けて……もはやカオスだな。


 当然町から離脱しようとする奴も出てきたであろうし、きっとこれから更なるパニックを巻き起こすのは間違いない。


 どうにかこうにか一番ヤバそうな感じであったスラム街は焼き尽くされ、生意気にも俺様に刃向かってきた馬鹿共は無様に焼け死んだのだが……この大パニックで人間の大幅な移動が生じ、それに乗じて大蟯虫クリーチャーが勢力を広めんとするのは明らか。


 まぁ、もうこうなってしまったものは仕方ないのだが……とにかく上空の2人に対して現状のリカバーを命じておくこととしよう……



「お~いっ、聞こえるか~っ?」


「はいはいっ、リリィちゃん、下から何か言っているみたいだからちょっと低く飛んでちょうだい……あ、うん、そんなもんそんなもん……それで何なの~っ?」


「お前等はそのまま町の外周へ出てくれ~っ、城壁はグルっと町を囲んでいるだろうからっ、それに沿って火でも噴いてやるんだっ、とにかく町から逃れようとする不届き者を牽制して欲しいっ」


「わかったわ~っ! だってリリィちゃん、このまま行きましょ」


『うぇ~いっ』


「頼むからムチャクチャすんなよ~っ!」



 疫病をレジストするという魔界の女神の登場より先、かなり事態のカオス度が上昇してしまった気がするのは俺だけか。


 とにかくこの町に来てからまだ半日程度であるというのに、それまでは平静を保っていたところ、既にスラム街ふたつと中央の庁舎を焼き尽くしてしまっているのだ。


 そして人々は『ケツが爆発しかねない恐怖の検査』を強要され、その一部は本当にケツから爆死。

 さらに町の中からドラゴンが出現して、それが火を噴いて町を焼いているのだからひとたまりもない。


 リリィ達が町の外周、城壁がグルっと囲んでいる場所まで到着した頃には、もうかなりの人数がそこへ殺到していたらしく、いくつかある門に関しては大混雑かつ大パニックであったとのこと。


 そこへドラゴンが飛来し、外側から円を描くようにして全ての城壁付近を焼き払い、『絶対に誰もこの町から出さない』という意思の表明をしたため、今度は町の中心に向かって魔界人間達が殺到して来る。


 一旦ルビアを連れて仲間が待機している庁舎の焼け跡、つまり人々が目指している町の中心部に移動した俺は……そこに押し寄せる魔界人間の波を確認した。


 この中には確実に大蟯虫クリーチャーか、或いはそれが潜伏している奴が相当数隠れている。

 それを1人1人チェックするのは大変だから……とまぁ、ひとまずここは魔界の女神の力で群衆を鎮めるべきか。


 既にメガホンのようなものを持って上空に舞っていた堕天使さんが大きな声で群衆に忠告し、一定数はそれで落ち着いて停止したようだ。


 もちろんそんなモノは関係ないとばかりに動き続けている奴も居るのだが、それについては個別に、ピンポイントでブチ殺されつつあるので特に問題ない。


 この後はここに集まったこの町のほとんどの住人についてどうしていくべきなのかということを考えなくてはならないのだが……まぁ、もし全部につき焼き殺すにしても、その前に助命対象を選抜しなくてはならないな。


 だがまぁ、色々とやるべきことがあるとはいえ、この場所に多くが集合してくれたのはあり難いことだ。

 これなら町自体を破壊することなく、この魔界人間共だけ処分していくということが可能になるのだから……

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