1157 連発
「……で、どうして単独で帰還してんだよ? 魔界GUN職人の奴はどこに居て、いつ俺達のところへ来て協力してくれるってんだ? わかってんのかオラ!」
「ちょっ、ちょっと待って欲しい、これには事情があって……武器職人は見つかったには見つかったけど、このエリアへ来るのはまだ2週間先で、でも2週間とか一瞬みたいなものだし……」
「2週間って、お前アレだぞっ、その辺の羽虫とか2週間経ったらもう生命活動を終えてんだぞっ! そのぐらいの期間なんだぞ2週間ってのはっ! 何万年も何十万年も堕天使やってるお前等の感覚で語るんじゃねぇっ!」
「これはお仕置きが必要ね、今すぐおならプープーの呪いを発動させるしかないわ、覚悟しなさいっ」
「ひぃぃぃっ! ちょっと待って! それだけはやめてちゃんと見つけてきたんだからっ! それにこのエリアで武器を必要としているから急いでって、それとなく伝えて来たんだからっ!」
「まぁ、それなら許してやっても良いんじゃない? 精霊様の判断にもよるけど、少なくとも勇者様よりは有能よね」
「おいセラ、聞き捨てならんことをお前は……」
武器職人を連れずに帰って来た堕天使ちゃんであったが、仲間達はその報告を受けて、今回に関しては屁がプープーの呪いを発動させずに許してやるべきだとしていた。
俺がこういう状況になった際には問答無用で『処分』してくる癖に、どうして敵であって悪の存在である堕天使ちゃんに対してはこうも甘いというのだ。
まぁ、それについては俺も他人のことを言えた義理ではないか、汚いハゲのおっさんであれば、うっかり肩がぶつかっただけでも死刑だし、美少女であれば無差別快楽大量殺人鬼であっても実景判決を受けないのが俺様による大勇者様裁判であるのだから。
で、そんなこんなで許された堕天使ちゃんは再び囚われ、堕天使さんと魔王と一緒に、適当に作った座敷牢の中へと放り込まれる。
その状態でその3人も含めて話し合いを始めたのだが……やはり武器職人がやって来るという2週間後までの間、実にやることがない状態で待機しなくてはならないではないか。
この間に魔界の情報を掻き集めるという作戦もアリといえばアリなのだが、そのためにはまず安全かつスムーズな移動が必要になるのであって、そのためにはクリーチャーワームを簡単に殺戮する必要がある。
よって結局は武器職人の存在が必要となるのであって、その協力を得て『GUN』を作成し、メンバー全員に普及させない限りは身動きが取れない……
「どうするの勇者様? これ、本当に何も出来ない状態になったわよ2週間だけだけど」
「どうするもこうするも、暇になった以上は暇潰しをするしかねぇよな、何かいいアイデアがあるならそれでいこう」
「新しいお肉の食べ方を研究しましょう」
「旅行に、どこか旅行に行きたいです」
「女神でも騙して便利アイテムを奪って、それで戦うことも考えましょ」
「……かなり適当な案しかねぇな……ちなみに堕天使さん、このエリアにはもっとこう、魔界の住人が多く住んでいるような場所はないのか? 例えば町とかなんだが」
「それならあるにはありますよ、軍事拠点であるここからは少し離れていますし、そこへ行くまでには街道が整備されていないような場所もありますから、その……」
「クリーチャーワームの襲撃を受ける可能性が高いスポットがあるってことだな?」
「そうなります、もちろん確実に襲ってくるわけではありませんし、そこさえ抜けて町へ入れば確実に安全ですね、中は完全に石畳で奴等が飛び出すのを嫌う感じですから」
「それに、私が聞いた話だと今回武器職人が来るのはこのエリア最大の町よ、そこで一般の防衛施設なんかを整備するために来るとか何とか」
「となるとアレか、その町へ行くのはほぼ確定したようなものってことか……」
「そこからわざわざ呼び出してここへ来させるってのも面倒だし、こっちからそこへ行って襲撃するのがベストかもしれませんわね、というかそうしないと確実に逃げられますわよ」
「うむ、そうだな、少し危険な面もあるかも知れないが、もちろんクリーチャーワームに囲まれたからといって脱出することが叶わないわけじゃないからな、苦労してでもそっちへ移動した方が良さそうだ」
「ではご案内しますので、この場所は完全に明け渡して魔界の管理下に……あ、ダメですよねそういうの、知ってます」
あわよくばこの場所を取り戻そうとしてくる堕天使さんを適当に脅し、俺達の拠点のキープと、それから移動に係るガイドをさせることとする。
ここから当該魔界の町まではそこまでの距離があるというわけではなく、その大半が街道沿いに進んで行けば良いということであるため、この拠点から続く街道と町へ至るための街道を接続する区間だけ、あのクリーチャーワームに気を付けて進めば良いということらしい。
それであればその区間だけ、どうにかして空を飛び、奴等を刺激しないようにするだけの簡単なお仕事でだな。
もちろんずっと空を飛び続けるのがベストなのだが、目立ってしまううえにそのための乗り物などがない。
魔界へ来たばかりの俺達にとって、この地における冒険はほぼほぼ初期状態であって、新たな冒険をスタートしたばかりの新米勇者パーティーと変わらないのである。
アドバンテージとしてはデタラメに強いことと、それからこれまでの冒険で培ったノウハウがあること。
そしてビハインドとしては、総合的な知能が絶望的に低いことなどが挙げられるのだが……アドバンテージの方が大きいと考えて良さそうな感じだな。
で、とにかくそんな感じの俺達は、魔界のこのエリアにおける最大の町、俺達の感覚で言う王都のような場所へ移動することとしたのだが……良く考えてみればここの防衛はどうすれば良いのであろうか……
「なぁセラ、あとユリナとか精霊様も、この場所にトラップとか何とか、とにかく敵が侵入しようと試みた際にアレしてしまうような仕掛けを大量に設けられないか?」
「可能には可能ですわね、でも地道に解除されて入られたらそれまでですわよ、あと普通に見破られて回避されるとか、魔界の神様とか上級堕天使が関与していればそのようなことが可能かも知れませんの」
「そうか、となると……やっぱりそれに加えて神界クリーチャーを設置しておくべきかな、棒人間の奴でも良いからさ」
「そうね、あのクラスでも2万体ぐらいせっちしておけば、その辺の敵は攻撃するのを躊躇するはずよ、早速召喚させる……のには時間を要するわね、どうしようかしら……」
神界クリーチャーが大量にあればそれで事足りるのだが、それを大量生産するのにはかなりの時間が必要であって、しかも面倒臭いというデメリットもある。
女神をこちらに連れ込んで、勝手に作業させておくというのはさすがにアレだし、奴のことであるから、どうせやらかして大変なことになるのは目に見えているような状態だ。
そうなると神界クリーチャーにはあまり期待することが出来ないということで……であれば、その素材である堕天使(最下級)などをそのまま配置し、それでカムフラージュしてしまえば良いのではなかろうか……
「おい駄天使ちゃん、お前ここに残って、大量召喚した堕天使(最下級)を従えてこの拠点を守れ、もちろん『魔界の社が支配している拠点である』的な感じを醸し出したままな」
「というと……あ、侵略者なんてもうとっくに排除したみたいな感じでやっていけば良いということなんだ、それなら簡単だけど……そのままホントに取り戻したりとか……」
「そうしたら屁がプープーの呪いを発動させて、その状態でカンチョー1万回の刑に処すからな、そんなの喰らったらもう生きていけないだろう恥ずかしすぎて」
「ひぃぃぃっ! 余計なことを考えるのはやめましたぁぁぁっ!」
「よろしい、ではこの場所は頼んだ、キッチリやれば俺達が魔界を落とした後、健康で文化的な最低限度の奴隷生活ぐらいは保障してやろうじゃないか」
「それはなかなかに酷すぎる扱いで……いえ、何でもありません……」
これで作戦も決まり、安心して最初の魔界拠点である砦をキープしておくことが可能となった。
あとはその町とやらへ移動し、そこで何やらしながら武器職人がそこへやって来るのを待つのだ。
そしてやって来た武器職人を、最初は普通に大声で恫喝するなどの説得によって俺達への協力を依頼し、もしそれでダメなら実力行使に出る構えである。
武器職人というぐらいだからそこそこに偏屈な野朗、というかジジィであったか、とにかく変な奴なのであろうが、俺達の実力の前には屈する他ないはず。
このように考えて準備を済ませ、堕天使ちゃんにはキッチリやるよう、さらに念押しで伝えたうえで、俺達は拠点を出て街道を進んだのであった……
※※※
「……なるほど、ここで拠点から続いていた街道が終わってしまうのか……えらく中途半端なんだな魔界ってのは」
「いえ、昔はここにもそこそこ大きな村があったのですが、毒剣神の上司であるホネスケルトン神が別エリアで人員を補充したいと言い出して、村ごと転居させられました」
「すげぇ独裁体制だな、てかもしかして建物とかその他の施設とかも丸ごと……」
「えぇ、地面後と刳り貫いて有無を言わさず……みたいな感じでしたね、遠くから眺めていましたが」
「なんてことをしやがるんだ、というのと物凄い力だという感想が入り乱れているよ今は、とにかく別の街道ってのに移動しよう、この元村があった場所を越えた先なんだろう?」
「そうなります、え~っと、こちら側に進めばOKですね」
「どうするコレ? 絶対にあの変な気持ち悪いのが出現する感じよ」
「良く聞くと下でゴゴゴゴッて言ってます、結構沢山……」
村があったという場所は丸ごと抉り取られ、元々はそこがクレーターのようになっていたのであろうが、長い年月を経て普通の地面に、通常通りの草原へと変化していた。
そしてそのまともに踏み固められていない柔らかい土の場所には、あのクリーチャーワームが相当な数存在しているようで、カレンは既にその蠢く音を感知しているようだ。
このまま進めばあっという間に取り囲まれ、またしても苦労してそこから抜け出す作業をしなくてはならないし、場合によってはそれを複数回繰り返す必要が出てくる。
そうなる前に何か対策を考えて、というか少なくともこのエリアだけは飛行して回避するべきなのだが……リリィや精霊様に運ばせるにしてもなかなか大変そうだ。
村があった場所はかなり広大な空き地であって、一度に3人を運搬して、体の小さいメンバーだけ4人で運搬したとしても3往復。
かなり面倒臭いことになるのだが……まぁ仕方ない、ここは空を飛べる2人にご褒美でもあげて……と、そんなことを考えていたら隣でセラが浮遊し出したではないか……
「ほら、早く行くわよ勇者様、空は飛べないかもだけど、一度や二度着地したぐらいじゃ奴等も出て来ないはずだし」
「うむ、では少し(装備が)重たい私と、それから隙間を見てカレン殿の2人はリリィ殿に乗せて貰うこととしよう」
「私はミラを運んで、ユリナちゃんとサリナちゃんはどうするわけ?」
「火魔法で地面を爆発させて一気に飛びますの、サリナは……精霊様はルビアちゃんを運ぶようなので私が抱えて行きますわ」
「じゃ、私は一気にジャンプして行くわね、でも向きがわからなくて迷子になっちゃうから、誰か先に行ったのに付いて行くわ」
「おいっ、ちょっとお前等、俺とマリエルがまだ移動手段を……」
「勇者様、私は槍をこう、こんな感じで使って一気に飛びますので大丈夫です、必殺! 王女大旋回!」
「……どうなってんだよお前それ揚力とか」
という感じで普通に飛んで行ってしまう仲間達、もちろん堕天使さんは飛ぶことが出来るため、結果として俺だけが元の場所に取り残されてしまったかたちだ。
仕方ないのでクリーチャーワームの群れに遭遇しないことを祈りつつ、聖棒を使って棒高跳びのように……一番最初の着地でホットスポット踏み抜いてしまったようで、突如出現した数百体に囲まれる。
どうやらこのエリアはクリーチャーワームがかなり密集して存在している場所のようで、その土の感じなどがこいつ等の好むものなのであろう。
すかさず棒高跳びを繰り返してその場を離脱するのだが、次の着地点でもまたクリーチャーワームの群れ。
マーサは全く何事もなくジャンプを繰り返しているというのに、どこまで不公平なのだこの移動ゲームは……
「あっ、またやべぇっ! ギョェェェェッ!」
「あ~あ、もっと静かに着地しないからよ……っと、到着ねっ」
「速かったですねマーサちゃん、それに比べてあのダメな異世界人は……どこかへ行ってしまいました、どうしたんでしょう?」
「さっき見たときにはうっかり飲み込まれていたわ、そのまま食べられて地面の中に引き込まれていたみたい」
「となると……この地面がモコモコしているのは……」
「……プハッ! やれやれ、地中を掘り進んでようやく辿り着いたぜ、5回喰われたけどな、おいミラ、引き抜いてくれ地面から」
「勇者様、あんなものに飲み込まれた後の手をこちらに差し出さないで下さい、臭そうです」
「そうよ、ちゃんとお風呂に入るまでは近寄らないでよねっ」
「お前等なかなかに酷いな、俺様が苦労してここまで辿り着いたというのに……」
地上でも地中でもクリーチャーワームの群れに襲われ、何度も喰われてベッタベタになった俺に対して、仲間達の態度は非常に冷たいというか何というか。
結局クソ寒いというのに精霊様の清浄すぎる水をブッカケされまくり、ほぼほぼ凍え死にながらも綺麗な状態になると、また仲間達は平気で近寄って来るようになった。
俺は野郎なので服なども溶かされていないし、喰われた際にもどこかがボロボロになっていて、それによって肌が露出したりなどしないというのがしきたりであって、今回もそのような感じで何ともない。
で、特に異常がないということを入念に確認した後に、仲間達が見ている方を俺も見てみると……そのまままっすぐに、地平線らしき境界の向こう側まで続いている長い街道。
これを辿って行けばやがて目的の場所、魔界のこのエリアにおいて最も大きい町というのに到着することが出来るということだ。
早速駆け出し、サッサと目的地へ到着しようと移動し始めたところ……謎のクリーチャーが出現して戦闘になってしまったではないか……
『ギョォォォォッ! ギョォォォォッ!』
「……おい、何だこの変なバケモノは?クリーチャーワームの頭の部分に紫色した人間の上半身が付いて地面を這っているじゃないか」
「ミミズ人間ですっ! ミミズ人間! 気持ち悪いミミズ人間にはこの形が良くないから要らない石ですっ!」
『ギョェェェェッ! ギョェェェェッ!』
「効いているみたいですね……ちなみにコレ、クリーチャーワームの進化系でして、攻撃力は数百倍にアップしているんですが、地面から出たのとそれから上の人間部分ですね、その弱点が露出したことによってちょっと弱くなっている始末です」
「完全に創った奴の設定ミスだろそれ……あっ、リリィの投石だけで死んだぞ」
「クリーチャーワームもこのぐらい簡単だったら良いのにね、さて、先へ進み……っと、ちょっと歩いたらまたエンカウントしたじゃないの、今度は何よ?」
「このバケモノはクリーチャーワームの進化系の進化系です、もうほぼ紫の人間ですね、股間が弱点です」
「どんどん弱くなっているじゃないの、弱点晒しちゃって……あっ、溶解液は吐くのねっ」
クリーチャーワームのどこがどうなって人間型になるのか、まぁ、モンスターだのクリーチャーだのを育成すると、最後はそうなるのが通常なのかも知れないが、逆に弱くなってしまっているようではまるで意味がない。
で、その人間型、というか普通に紫のハゲのおっさんについても、股間にぶら下がった明らかな弱点に対して飛んだセラの魔法攻撃、風の刃によって滅せられる。
先ほど討伐した半分人間のクリーチャーと、それからほぼほぼ人間化した今のクリーチャー、そのどちらからもドロップアイテムらしきものが……どうやら『素材』として使えそうなものもあるようだな。
それ以外、例えば『クリーチャーワームの胃内容物』や『クリーチャーワームおじさんの位牌』などは捨ててしまって構わないのであろうが、とにかく神界クリーチャーガチャの素材として使えそうな『肉』の部分のみはゲットしておくこととしよう。
ふたつの肉系アイテムを、汚れないように、変なドリップなどが垂れないように気を付けつつバッグにしまってしばらく歩くと……また敵にエンカウントしてしまったではないか……
「……おい堕天使さん、今度は紫のおっさんが空飛んでんぞ、またクリーチャーワームの進化系か?」
「これは違いますよ、堕天使(最下級)が使用期限を過ぎて腐って、それでもなお動き続けてこのような感じになってしまったという悲しいモンスターです」
「ちゃんと処分しねぇからそうなんだよ、ほら、毒の霧吐いてんじゃねぇか気持ち悪りぃな」
「そんなこと私に言われましても……」
猛攻撃を仕掛けてくる堕天使(最下級)の成れの果てはやはり弱く、こちらが指をパチンッと鳴らす程度の動きを見せたところ、その衝撃波で消えてなくなってしまったのであった。
しかしこのような雑魚とはいえ、少し歩く度に敵とエンカウントしているようでは先が思いやられる。
もちろん目的地はまだ見えていないし、かなりの距離を移動する必要があるのは明らかなのだ。
などと考えながらさらに一歩踏み出すと……今度は進化したクリーチャーワームがまるで龍のように空を飛んでいるのと遭遇してしまう。
これでは埒が明かないな、もう少しスムーズに進むことが出来るようにしなくてはならならないようだ……




