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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1156 派遣とその後

「じゃあ堕天使ちゃんの方が行ってくれるということで良いんだな? もちろん監視……というのは無理だが、どうにか戻らせるように何か策を……どうする精霊様? 何かいいアイデアがないか?」


「普通に逃げたら酷い目に遭うような仕掛けをすれば良いんじゃないかしら? 例えば3日以内に戻らないと5秒に1回蚊に刺される体質になるとか、戻らなかったらどんな服を着ても全て溶けて素っ裸になるような呪いとか、そんなので良いと思うの」


「いやそれが難しいと思うんだが? まぁ、精霊様ならば何とかなるか、それなら……何が良いかな?」


「はいはいっ、3日以内に戻らなかったらおならがプープーになって止まらないようにしたら良いと思いますっ」


「うむ、じゃあリリィの案を採用、精霊様、早速そんな感じの呪いを堕天使ちゃんに掛けてやってくれ」


「そんなっ! もし不可抗力で戻ることが出来なかったらどうするんですかそんなの? プープーのままずっと過ごせって言うんですか私に?」


「その通りよ、だから余裕を持って、確実に間に合うようにここへ戻りなさい、ちなみに術式の解除は5秒ぐらいで終わるからギリギリでも大丈夫よ、ほら、もう大丈夫だから行きなさい」


「は、はぁ……じゃあ行って来ますが……見つかるとは限らないということだけお伝えしておきたいです」


「ダメだな、もし発見さえ出来ずに戻って来たらアレだぞ、一生解呪されない術式で3回生まれ変わっても屁がプープーの存在にしてやるからな、覚悟しておけよっ」


「ひっ、ひぃぃぃっ!」



 屁がプープーになるのはさすがにイヤなようで、堕天使ちゃんは大慌てで砦を出て、どうやら北の方角へ向かって飛んで行ったらしい。


 魔界中を飛び回っている武器職人がそんなに簡単に発見出来るとは思えないのであるが、それでも全く捜索さえせずに待っているというのは無意味だから、一応の『派遣』はしておいて正解のはず。


 そしてもし堕天使ちゃんがビクトリーを引き起こし、無事に職人とやらを発見して来たのだとすれば、それはそれで冒険が、この魔界侵攻のミッションが大きく前進することになるのだから最高だ。


 もしかすると神界クリーチャーを召喚するためのガチャなど引くことなく、つまり『召喚素材集め』などすることなく、俺達の力だけでこのエリアの防衛も、そして別のエリアへの侵攻も成ってしまうかも知れないな。


 と、そこまで期待するのはさすがにいきすぎかとも思うのだが、とにかくいずれ武器職人を発見し、脅迫でも何でもして俺達が、特にあのクリーチャーワームと戦うための兵器などを作成させることとしよう……



「さてと、じゃあこっちはこっちで色々と調べてみることにするか、堕天使さん、魔王も、他にその職人とか職人が作る武器とかについて詳しく知らないのか? ちょっとでも知っていることがあるのなら教えて欲しいぞ」


「そうねぇ、私が見た文献の中では、どうもその武器は『GUN』なんじゃないかって感じの記述だったわね、挿絵とかはなかったけど」


「そうなのか……堕天使さん、クリーチャーワームをブチ殺した際に用いたその職人の武器なんだが、どんな感じのモノだったか覚えているか?」


「えっと、かなり昔のことなので曖昧なんですが……比較的コンパクトなもので、しかもふたつで1セットみたいな感じの武器でしたね、魔力を通した弾丸を発射するみたいな……」


「っと、まさしく『GUN』のようだな、もう間違いないぞその感じであれば」


「ちょっと勇者様、何よ『GUN』って? 魔導ガトリングガンみたいなものなの? そうなると結構大きいような気がするけど」


「それはもうかなり進化した『GUN』で、おそらく俺や魔王が最初に居た世界から誰かが設計図なんかを持ち込んだものだ、俺達が今言及している『GUN』はもっと原始的なものでな」


「きっと変なハットを被ったおっさんが荒野のバーの前で決闘する際に使うような『GUN』なのね、で、もちろん勝った方は馬に乗って立ち去ると」


「あぁ、腰のホルダーから素早く取り出すことが良いとされているアレだろうな」


「……どうしてその職人の武器について、私も忘れかけていたようなことを知っているというのですか……まさか2人共魔界職人の家系で?」


「んなわけねぇだろ、きっと俺達の世界か、それ以外でも似たような世界から魔界へ持ち込まれた何かだろうよその『GUN』は、もちろん強いからじゃなくてカッコイイ感じだからなんだろうがな……」



 どうせ飾りのような、特にその形状でなくても同じことが出来るようなものなのであろう今回の武器、というかおそらく『GUN』の類。


 とはいえ特殊な力が付与されていて、それによってあのチマチマとしか倒すことが出来なかったクリーチャーワームを、一撃で数十体、数百体と始末することが可能になるのであれば何でも良い。


 その魔界の武器職人の力があればそれを作成して貰える、またはそうなる可能性が極めて高いというのであれば、どうにかして捜し出すのが基本なのだ。


 しかしもし堕天使ちゃんがその武器職人の発見に失敗し、屁がプープーの状態で帰還するようなことになれば、今ある情報に基づいて俺達でどうにかする他ない。


 その際には特別なアイテムや素材、その他完成のための特殊な術式が必要となることであろう。

 こういったものをゼロから発見しなくてはならない手間はあるが、まぁ、今聞いた感じであればどうにかならないこともなさそうな感じだ。


 まぁ、もちろん堕天使ちゃんが既定のミッションを完遂し、その職人とやらを引き摺ってでも連れ帰ってくれるのがベストなのだが、そう上手くいかなかったときのことを今のうちに考えて実行に移しておこう……



「よっしゃ、じゃあさ、俺達の方で『GUN創り』を先に始めてしまおうぜ、もしかしたら上手くいくのかも知れないし、ダメでもそれは元々だろうし、むしろ途中まで上手くいくようであれば職人が来たときにチョイチョイッと直させれば良いんだからな」


「そうねぇ、どうせここで待っていても暇なだけだし、対クリーチャー兵器の研究をしたり、それで狩ったクリーチャーとか変なモブ堕天使とか、そういうのを素材に変えてこっちのクリーチャーをもっと呼び出すみたいなことをしても良いかも、やってみましょ」


「それで主殿、やるにしても何からやるというのだ? もっと具体的に指示を」


「指示とかねぇよ、もう全員のノリとセンスだよ、『GUN』についても特にどういった形か言及することなく……ってのはさすがにダメか、セラ、ちょっと良いか?」


「絵を描けば良いのね、『GUN』と、それを使っているおっさん戦士の」


「そうだ、おっさん戦士はアレだ、西方新大陸で見たような連中で構わん、あの連中が良く使っていた筒のようなものをもっとこう、短い感じにして同じのを両手に……みたいなノリで大丈夫だから」



 ということでセラに描かせた『GUNMAN』の絵、俺が想像した通り、ピッタリそれに仕上がっているのがごく不思議なことなのだが、それは今考えていても仕方のないことだ。


 変なハットを被って馬を引き連れ、バーの前で決闘している様子を描いたそれの主人公的なおっさんは、赤いマフラーをして『GUN』を使用し、早撃ちに敗北した相手をハチの巣にして殺害した瞬間を見事に、躍動的に表現している。


 もちろん荒野に吹きすさぶ乾いた風に乗り、コロコロと転がる完走した草の塊のようなものも表現されており、まるでセラが実際に西部劇の舞台へ行って、その場で、しかも決闘の様子を眺めながら描いたような秀逸な絵。


 それを見た仲間達は『GUN』が一体何であるのか、どのような使い方をするのかについて理解したらしく、早速両手にそれを装備し、魔力を込めて引き金を引くイメトレを始めている。


 で、その実用性の高い武器である『GUN』を製造するためには……まずその仕組みを知らなくてはならないのだが、俺が知っている『GUN』は『魔導』ではないうえに、そもそもそれについての知識がまるでない。


 どのようにして引き金を引いているのか、それによってどの部分がどのように駆動し、どうして撃鉄まで動くことになるのか、その辺りも全くわからないズブの素人がこの俺様なのだ。


 また、当然のことながらこの世界においてはそのような工業力が存在せず、全て『魔導』でそれらを再現しなくてはならないからまた面倒である。


 もしかしたら何かの知識があるのではないかと思われた魔王も、勉強ばかりしていたいけ好かないクソガキの状態からこの世界へ転移したらしいため、そのような物騒なモノについての知識はあまりなく、魔導についても自分がイマイチ使えない以上、たいしたことは知らないのだという。


 全く本当に使えない奴だということで魔王に拳骨を喰らわせつつ、俺はどうにかしてこの魔界で、しかも今手許にある素材で『GUN』を再現することが出来ないものかと、そのようなことを考え出したのであった……



「う~む、まずは部品になるものをどこから調達するのかってことだよな……」


「魔力を込めてどうこうするわけですし、相当に堅固な素材でなくてはなりませんわよ、特にフレームとか、しっかりしないと暴発しますわ」


「だよな、試作第一号でいきなり自爆とか笑っても笑い切れねぇもんな、すげぇ馬鹿だと思われるだろあのクリーチャーワームから」


「それほどまでの知能があるとは思えませんが……まぁ、傍から見れば馬鹿ですね、ノリノリでやって来て謎の新兵器を使って、勝手に自爆してENDとか」


「だろう? そうならないためにもちょっとこう、アレだ、すげぇ素材をだな……ということなんだ堕天使さん」


「えっ? 今の話の流れで私に振るんですか? 私、そっちの味方ではないと思うのですが……いえ、もう敵対はしませんので聖なる棒を振りかざすのはやめて下さい……」



 この魔界に関して、そしてその中にある素材やアイテム等について、最もというか唯一知識を有しているのが現状この堕天使さんだけなのだ。


 固有のエリアの事務次官ではなく、いくつかのエリアを股に掛けていたらしい堕天使ちゃんの方が詳しいのかも知れないが、それが戻って来るのはもう職人が発見されたときである。


 それゆえ今頼るべきは堕天使さんの方なのであって、少なくとも俺達が創り出そうとしている『GUNのようなもの』に相応しい素材についてぐらいは教えて欲しいところであって、教えないのであれば引っ叩く所存だ。


 侵略者である俺達を利するようなものについて教えて良いのかどうかと、情報を出し渋る堕天使さん。

 だが精霊様が鞭を取り出して、さらに俺が押さえ付けて尻を丸出しにしようとしたところで遂に諦める。


 最初から教えていれば怖い思いをしなくて済んだものをと、そのように諭して今後の情報を引き出し易くすると同時に、早速必要となりそうな物資についての質問を始めた……



「えっと、私が以前使用したことがあるその職人の対クリーチャー武器なのですが……おそらくオリハルコン級の最強物質が使用されていたはずです、これは魔界特有のものではありませんから、せめてどこか別の世界で調達して欲しいところで……」


「ダメだな、俺達の世界でオリハルコンなんて……聞いたことはあったか? それでもちょっと名前が出たかどうかぐらいのものだ、魔界だとそれがゴロゴロしているんだろう普通に?」


「そんなっ、一応希少な金属ですよオリハルコンは、グレート超合金と同程度、相場によってはもっと上になるかも知れません、そしてこのエリアでは産出しない可能性が高いですよ」


「じゃあ、どこかのエリアで取って来い、もちろん戻らなかったら屁がプープーになる呪いを……」


「そんなっ、私の権限で勝手にレアメタルを採掘するなどもっての外で……普通に逮捕されて事情を聞き出されて、あなた方がこの地に攻め入っていることへの対処が早くなるだけかと存じます」


「あ、それはさすがにダルいわね、もっと別の策を考えないと、例えば隠密行動とか、あとは変装して誰だかわからないようにするとか」


「どうしても私が行かなくてはならないのでしょうか……」



 現状、この魔界で自由な移動をすることが可能なのは堕天使さんだけであるから、俺達が代わりにそのオリハルコン鉱石を探しに行くようなことは出来ない。


 まぁ、ワンチャンこのエリアで産出することがあれば、今までは知られていなかっただけで、実はオリハルコン鉱脈が隠されているというような都合の良いケースであれば話しは別だが。


 で、さすがにここで堕天使さんの動きによって色々と問題を起こされる、というか問題を起こすような動きを俺達の要請でさせるのは芳しいとは言えない。


 よって『GUN』のメイン素材となるであろうオリハルコン鉱石については一旦諦めて……その仕組みの解明などから先に始めていくべきところか。


 それさえわかってしまえば、あとは帰還した堕天使ちゃんをすぐに再派遣するなどして素材集めをさせれば良いのだ。

 もちろん拒否権などないし、拒否することのデメリットは多分に設けるので、俺達の意に沿わない行動を取ることはまずないであろうし……



「よしっ、じゃあオリハルコンだの何だのに関してはいったん終了だ」


「ここからは『GUN』の特性とその構造などについて話し合うのだな、武器として使用するに当たりどの程度の才能が必要なのかも知っておきたいところだ」


「まぁ、創ってしまえば誰にだって使えるさ、少なくともこの勇者パーティーのメンバーであればな、で、やっぱり問題はその構造なんだが……」


「魔力を込めて弾丸を発射するだけの単純構造なのよね? それなら簡単なことじゃないの?」


「だと良いんだが、ここは魔界だしその魔界のトクベツな職人がアレしてアレするようなシロモノだぜ、早々上手くいくもんなのかな実際のところ?」


「う~ん、もしかすると私達が知らないような凄い力が……なんて考えてもしょうがないじゃない、まずは簡素なものから実験してみるわよ、最初は木製とかでも良いわ」



 こうして始まった『GUN』の試作、3日以内に堕天使ちゃんが戻って来るはずなので、それよりも前におおまかな形には仕上げてしまいたいところである。


 もちろんこれには仲間達全員の、普段の話し合いなどではまるで役に立たないメンバーの知恵もフルに絞って、可能な限りその最善の形を探求していくこととなるであろう。


 いつもは何も考えていないカレンも、武器のこととなるとそこそこやる気を出しているようだし、この程度の段階であればすぐに完了となるのであろうと……最初はそうも思っていたところであった……



「よっしゃ、とりあえず木製だけど形にはなったようだな、ちょっと外で実験してみよう」


「じゃあ勇者様が記念すべき第一発目ということで、やっちゃって良いわよ」


「おぉそうかそうか、てかもう外なんか出るの面倒だしな、こうやって窓を開けて空に向かって……発射……あれ?」


「ご主人様、そういうのは筒の中を覗き込んだら……」


「覗き込んだら……中が良く見えるな、さっきセラとユリナがパンッパンに込めた魔力が詰まって暴走を起こして……ギョェェェッ!」


「ご主人様、どっか飛んで行っちゃいましたね」


「きっとこうなると思ったわ、ちょっと欲張りすぎだもの威力とか……さて、勇者様はそのうち帰って来るから、今のうちに作り直しておきましょ」


「きっと抜本的な変更が必要だろうな、主殿が帰って来る頃には全く違うものになっていそうな気がするぞ……」



 ファーストテストの事故によって5km程度吹き飛ばされ、地面から出現したクリーチャーワームにウザ絡みされながらもどうにか帰還した俺。


 そこで見た実験用の木製GUNは、明らかに俺が知っているものとは違う、というかもう全く別の武器になってしまっていた。


 安全のために何かを発射する機能を喪失させ、専らグリップの部分で打撃を加えるというその新兵器は、むしろ棍棒でも装備した方がマシなのではないかという次元のダメさである。


 直ちに現行案を却下し、もう一度それなりの形状を保つように作り直しをしたのだが……今度は10km前後吹き飛ばされるという大事故を起こしてしまったではないか。


 もちろん帰還の際にはクリーチャーワームに囲まれ、チマチマとそれを討伐して道を開きながら前へ進んだのだが、その際、俺抜きでもう一度行われていた実験で、ようやくまっすぐ飛んだ弾丸の直撃を喰らい、さらに10km程度後退して……もう帰るのを諦めようかと思うほどの屈辱だ……



「あっ、ようやく帰って来たわねあの馬鹿、もう一度吹っ飛ばしたら怒るかしら?」


「マーサちゃん、あまり調子に乗っていると寝ている間に尻尾を黄色とかに染められるわよ、そろそろ帰らせてあげた方が良いとおもうの」


「そうかしらね、ま、じゃあ今回だけは勘弁してあげるわ、それで、この試作機だけど……あまり強そうじゃないわね、ロケットパンチを飛ばすとか、普通に魔法ですることじゃないものね」


「というか、この『GUN』という武器、そもそも前に刺青だらけの英雄が使っていた『ハジキ』とどう違うんですの?」


「雰囲気とか、二丁で使うところとかじゃないの?」


「もうほぼ一緒ですのよそれ……」



 何やらクリティカルなことに気付いてしまったユリナであるが、他の仲間達が馬鹿すぎるのでそのことについては真であると認められなかったようだ。


 とにかく俺達による『GUN作り』は完全に失敗し、結局無駄な時間を浪費してしまったにすぎなかった。

 無駄にした時間分はどこかで取り戻せば良いのだが、やはりこの武器について、どのようにすれば上手く獲得出来るのかがわからない。


 で、そうこうしている間に3日が経過し、屁がプープーになることを恐れた堕天使ちゃんが帰還した……しかも1人でだ……

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