1155 専用兵器
「う~む、コレとコレとコレと……おいルビア、コレなんかどうだ? 皆食べると思うかこの巨大なカボチャ?」
「カボチャも美味しい季節ですからね、まぁ、余ってもマーサちゃんが食べるんじゃないですか? それよりもほら、ストックの来客用お菓子がこんなに」
「自分で来客用だって言ってんだろそれ、来客用だから持って行っちゃダメなんだよ普通に来客用だから、わかる? 来客用来客用来客用!」
「でもご主人様、お客さんにお菓子とか全然出さないですよね? というかお茶も出さないじゃないですか普段は」
「それは茶も出す必要がないほどの雑魚キャラばかりだから必然的にそうなるんだ、もしかしたら今後すんげぇ奴が客として来てだな、それで茶菓子が必要になるようなことも……」
「なさそうですね、全部持って行きましょう」
「・・・・・・・・・・」
倉庫にあった『来客用』の菓子、もちろん長持ちする水分の少ないものばかりなのだが、まぁ、客に出さないまま湿気てしまうよりは魔界へ持って行った方が良いのかも知れないな。
また、それ以外にもこの屋敷では使わないような食材や、保存食であってなお賞味期限がヤバそうなアイテムなど、使えるなら使った方が良いものはいくらでもあり、それは発見した今持ち出しておくべきところだ。
で、他に何があるのかと倉庫内を漁り始めるルビアに対し、早く帰らないときっと俺のせいにされてブチ殺されてしまうからと促すが、なかなか未練があってどうしようもないようである。
というか、既に荷物の量が尋常でなくなってきていることから、もしこのまま出発するにしても馬車をチャーターし、それに全てを積み込んで転移ゲートがあるボッタクリバーの前で降ろして……という作業をしなくてはならないではないか。
しかもそこから店内にあるゲートの部屋まで、人力で全てを運ばなくてはならない、しかもそれに際してルビアが積極的に動くはずがないということが言える。
となると、もしかすると魔界に戻るのがかなり遅くなってしまうのではなかろうか、いや、遅くなるに決まっているではないか。
そして間違いなく精霊様辺りに遅いとキレられ、なぜかその原因を作ったルビアではなく俺がブチ殺されて物言わぬ肉塊になり果てるのだ。
きっと言い訳、というか正当な主張など一切通用しないであろうし、そんな主張を口に出してする前にミンチにされてしまうのは確実。
ここはどうにかしてルビアを早く動かして……いや、そもそも実行部隊は俺1人だけであって、ルビアについては『お目付け役』などというわけのわからない役職であったはず。
その役職に就いている者がこのていたらくとはどういうことだ? 確実に実行部隊である俺の邪魔をしているだけであって、正直何か役に立ったのかといわれればNOである。
もうこれはアレだ、なかったものとして作戦を進めるのが得策な状況だ、となると倉庫内で色々とやっているルビアに関しては……
「おいルビア、いい加減にしないとアレだぞ、わかってんのか? あんっ?」
「ん? 何でしょうか? いい加減にしないと……あっ、お仕置きですかね? そういうことであれば早く言って下さいよ、早速お仕置きしますか?」
「……うむ、じゃあお仕置きとしてもう置いて行くから、気が済んだら自分の足で移動して、自分で転移ゲートを用いて魔界へ、あの砦に戻って来ることだ、じゃあな」
「あっ! ちょっと待って下さいよご主人様、そんな冷たいこと言ってないでもうちょっとアイテムとか食糧とか、あとお菓子とか探しましょ、というかむしろ今から商店街へ行って買い出しとか……っと、お金ないんでしたねご主人様、ちょっとお母さんに借りて来ますから、そこで待っていて下さいね」
「おいコラァァァッ! だから早く魔界へ戻らないと俺が殺されんのっ、わかってんのかこの状況について……わかっていないようだな、もう置いて行くっ!」
「イヤァァァッ! 置いて行かないでっ、捨てないで下さいぃぃぃっ! イヤァァァッ!」
「……あの、何かやかましいですね凄く……ちなみに勇者さん、魔王様がちょっと来て欲しいって、せっかく居るなら伝えたいことがあるって仰ってますけど、どうします?」
「魔王の奴まで俺の帰還を邪魔しようというのか……だがまぁ、ここでルビアを引き摺っているのも一緒だし、ちゃんとした用事があって帰りが遅くなったってんなら多少は殺され方がマシなものになるかも知れないからな……わかった、じゃあ魔王の所へ行こう、ルビアはそこで遊んでおけ」
「遊んでなんかいません、物資の補給ですっ」
あくまでも仕事だと言い張るルビアについてはガン無視して、俺は俺のことを呼んでいる、そしてこちらについては明らかに仕事めいた内容なのであろう魔王を閉じ込めている場所へと向かう。
もしくだらない内容であったとしたら、今回の遅れを全て魔王のせいにしてしまうこととしようとも思うのだが……魔王にかまけていて本来の目的を忘れてしまいそうなのが危険だ。
俺とルビアが代表して元の世界へと戻って来た理由、それは捕虜にしてある堕天使さんと堕天使ちゃんの2名を魔界へ連れ帰り、主にあのエリアの事務次官を務めていた堕天使さんから話を聞くこと。
もちろんそこで得るべき情報はあのクリーチャーワームに関することであって、元々毒剣の神の部下としてあの地で色々とやっていたのであれば、必ずあの危険極まりないバケモノに対処する術を持っているはずであり、それは一般的な魔界の住人にはないものに違いない。
で、そんな『対処方法』を俺達のモノにして、あの魔界のエリアにおける本当の安全確保と自由でスムーズで、戦闘など特に起こらないような移動を確保したいのである。
もちろん完璧な作戦など見えてこないし、堕天使さんもアレには苦労させられていたのかも知れないから、そこまで絶大な期待を有しているわけではないのだが、まぁ現状よりマシなことになるのは確実視して良いであろう。
そんなこんなで本来の目的を思い出しながら、俺は魔王と話をするべく、奴の独房に……と、そこはさすがに狭いため、2階の大部屋に移動させてやった……
「……で、話ってのは何なんだ? どんな耳寄り情報を獲得したんだ? ちなみに当然のことながら俺達の『魔界侵攻』に資する情報だよな? そうじゃなかったら今ちょっとミッションに遅れが生じていることにつき全面的にお前の責任にするからな、わかってんのかオラッ」
「はいはいわかっているわよ、てかどうして話を聞く方がそんな無駄に長くて内容のない台詞を吐くわけ……」
「うるせぇな、またあの棒人間クリーチャーに尻を引っ叩かせんぞ、それがイヤならとっとと具体的かつ簡潔に話せや」
「それは困るから具体的かつ簡潔に話すわね、えっと、魔界のクリーチャー? それに対抗すべき武器のスタンダードなものがあるということがわかったの、『物体』関連の本を暇潰しに読んでいたら、同じ作者の本でそれを偶然見つけてね」
「魔界のクリーチャ―に対抗すべきスタンダードな武器? 何だそりゃ?」
「そんなの私だって知らないわよ、でもあんた達が魔界に侵攻しているってのは知っていたから、後でとやかく言われないように今のうちに伝えておいたってわけ、どう? 役に立ったのかしらね?」
「その話だけじゃ役に立ったりなんかしねぇな、というか混乱するような情報を撒き散らして俺達を惑わせた罪に問われる可能性が極めて高い、もっと詳しく話さないとダメだな」
「もっと詳しくって言われても……う~ん、あ、そういえばこのスタンダードな武器、どうやら飛び道具で、しかも魔界の『職人』の手作りのものらしいわよ」
「魔界の職人の手作りとは……つまりその対クリーチャー兵器をゲットするためには、まずその職人を捜し出したうえでどうせガンコオヤジのところを説得して、素材を伝説のもので世界にひとつしかない何かまで全て集めた上で、そのガンコオヤジに預けたうえで作成完了になる冒険上のフラグを立ててから取りに行って、ちゃんと装備してようやく使えるようになるってことなんだな?」
「まぁ、どこまでそういうノリになるのかはわからないけど、少なくともメインになる鉱石? とかは苦労してボスキャラも倒して、ようやく手に入るようなシロモノよね」
「だろうな……とはいえ可能性は可能性だ、それについて堕天使さんとか堕天使ちゃんとかも色々と知っていることがあるってこともないとは言えないからな、魔王、お前もちょっと魔界へ来い、砦の中だけなら安全だかんな」
「良いわよ、ちょどこの狭苦しいところに閉じ込められているのに飽き飽きしていたところなの、私をフリーダムな場所へ連れて……」
「逃げ出してその辺をフラフラしていたら安全じゃねぇけどね、てか俺達が苦戦しているクリーチャーワームの群れに出会って即終了だ」
「・・・・・・・・・・」
ということで荷物の中に魔王を追加、副魔王も連れて行くべきか迷ったのだが、どうせあのクリーチャー相手では戦力にならないため、今回は同伴を見送らせることとした。
で、まだ地下の倉庫に籠っているルビアを待つ間、王都北門の兵士から馬車をチャーターしに行き、それに連れて行くべき堕天使さん、堕天使ちゃん、魔王の3人を乗せておく。
ついでに搬入可能な分の物資について、早めに積み込んでおくべきで……馬車があと3台ぐらいは必要そうだな、ルビアの奴、もうそろそろいい加減に……と思ったらちょうど満足げな顔で出て来たのであった……
※※※
「よいしょっと、これで全部です、ゲートの向こう側がどうなっているのかは知りませんけど」
「きっと室内がパンッパンになってんだろうな、随時運び出してはいたみたいだけど、そもそも物資を保管しておくだけの場所がまだ用意されていないからな」
「まぁ、そのうちどうにかなりますって、それで、肝心のメインさん3人はこのまま連れて行きますか?」
「そうだな、オラ、とっとと向こう側へ行け、転移したら精霊様辺りが待っているから、その指示に従って行動しろ、さもないと棒人間クリーチャーをけしかけるからな」
「はいはい、わかったから大丈夫よ」
魔王、堕天使さん、堕天使ちゃんの順番で魔界側へ転移させ、それに俺とルビアも続く。
転移先では怒り心頭の精霊様が、どうしてこのように遅くなったのかとキレながら出迎えてくれた。
俺は必死で理由を説明し、ほぼほぼ魔王とルビアのせいにしようと試みたのだが、結局精霊様の怒りは俺に向かい、その場で無様な肉塊となり果て、しかも踏み付けられるという屈辱を味わったのである。
グッチャグチャにされた俺は徐々に元の形を形成し始めていたところ、そんなモノを踏みたくないと判断したルビアによって回復され、完全に大勇者様として復帰。
精霊様に仕返しをしようとしたところで他の仲間達がやって来て、どうして魔王まで連れて来たのかという質問に対する返答に追われ、仇討ちはならなかった。
で、連れて来た3人も含む全員で『会議室』へ移動し、ついでに罰として閉じ込めてあったセラも解放してそこへ連れて行く。
早速会議を始めようということになったのだが……まずはルビアが持ち込んだ大量の物資をどうにか捌かなくてはならないな。
会議は会議でやって、そちらは会議に参加しないお馬鹿達にやって貰うのが得策であろうか。
どうせ物資の方に興味がある仲間も多いことだし、メンバーを分けてそれぞれを並行して行うこととしよう……
「よしっ、じゃあカレン、リリィ、マーサ、あとマリエルとそれからこんなに持って来た張本人のルビア、お前等はちょっとこっちの片付けをしておけ」
『うぇ~いっ』
「俺達は俺達で作戦会議だ、堕天使さんと堕天使ちゃんから話を聞いて、ついでに役立つかどうかまだ未知数の魔王による耳寄り情報を聞く時間も設けよう」
『うぇ~いっ』
ということで会議、といっても椅子などなく、持って来た物資の中から菓子やドリンクなどを適当に持ち出して、畳のようなものを敷いた場所に座り込んで行う簡易なものだが、それが始まった。
まず、俺達の方から状況を知らないのであろう3人に対して、クリーチャーワームに襲われたこと、そしてあんなバケモノを1匹ずつ倒していて、しかも囲まれてしまうからキリがないという現状について説明する。
堕天使さんはやはりあのクリーチャーワームについて知っているようで、なるほどそれは困りましたねなどと理解を示しているのだが、堕天使ちゃんはあまりそれについて知らない様子。
そして魔王は自分が調べて発見した『対クリーチャー兵器』について早く話したいだけのようで、こちらの話を聞いている感じはあまりない。
まぁ、それについてはそのうちにということで、まずは堕天使さんから、これまであのバケモノについてどのような対処を行っていたのかについて聞くこととした……
「……う~ん、どうと言いましてもね、あのクリーチャーワーム、もちろん地中から出現してくるものですから、その……私達や神など、空を飛ぶことが可能な者にとってはあまり影響がないというか……どうでしょう?」
「そりゃそうだろうがな、だからといってアレだ、ほら、魔界の一般住人みたいなのが居ただろう? そいつらを守るにはどうしていたんだよ?」
「別にあの程度の存在を守るようなことはしませんし、もしクリーチャーワームに襲われているところを発見したとしても、空を飛べる私達は上空から指を差して嘲笑ってやることぐらいしか出来なくて……」
「最低だなお前等普通に、じゃあ奴等、あの魔界の住人な、それから肥育している変な魔獣、あれらはもう何の対策もなく喰われ放題だったってことか?」
「もちろんそうです、あの存在の代わりなどいくらでも居ますし、定期的に餌食とかになって新しいのに取り替えた方が、無駄に力を着けたりすることがなくて扱い易かったですね」
「・・・・・・・・・・」
最も良い対処方法を提供してくれるものだと、そこそこには期待していた堕天使さん。
その返答がこの程度の内容になるとは思いもしなかった、いきなり出鼻を挫かれた感じである。
で、もちろん堕天使ちゃんに関しても、そんなものは空を飛ぶことが出来ない下等生物が全面的に悪いのだ、などという意見を寄越してきたため、少しムカつくということで拳骨を喰らわせておいた。
これでは何の解決にもならないな、2人の知識も見解も、俺達にとってはまるで役に立たないものであるし、それが出来るのであれば最初から苦労しないものだ。
しかし2人共、いや堕天使さんの方だけかも知れないが、あのクリーチャーワームを討伐したことなど一切ないというわけではないように思えるのだが……
「あのさ、もちろん堕天使さんはさ、あのクリーチャーワームを討伐した経験ぐらいあるわけだよね? どうなのそこんとこ?」
「えぇ、かなり昔のことですが一度だけあります、上空から一撃で500匹のクリーチャーワームを始末しましたね、専用に開発された、職人による手作りの武器を使ってです」
「ほう、それってのは……おい魔王、お前が言っていた兵器のことなんじゃないのか?」
「そんな気がするわね、確か魔界の職人がどうのこうので、一撃でクリーチャーを大量殺処分可能なもので、魔力を使って、というか魔力を乗せた物理攻撃で敵の防御を打ち破るどうのこうのよ」
「クソみてぇに曖昧だな、よくもまぁそんなんで大々的に披露する気になったもんだ」
「仕方ないじゃないの、ロマンがある武器なんてそんなもんなんだから、わかったらとっとと素材でも集めに行きなさい」
「生意気な魔王めっ、こうしてくれるわっ」
「いててててっ、ちょっ、やめなさい髪の毛を引っ張るのはっ!」
「とにかく、堕天使さんが使ったことがある武器が魔王が知っている武器で、しかもそれを使えばあんなクリーチャーワームぐらい一撃ということですね? だとしたらすぐにその職人とやらを探すのが得策かと思いますが、どうでしょうか?」
「だな、間違いなくそいつを発見して、もう二度と俺達に口答え出来ないようにしてから作らせるんだよその武器を……で、そいつはどこに居るんだ?」
「あっ、もしかしてその武器職人って……私、知っているかも」
『……ほう、まさかの堕天使ちゃんが』
何かを知っているようなことを言い出した堕天使ちゃん、これで連れて来た3人がそれぞれ役に立ったような感じなのだが、まだその武器だか兵器を獲得したわけではないため喜ぶのは早い。
とにかく追加の情報を3人から引き出し、それがどのような武器なのか、そしてどの程度の効果を有しているのか、それを作る職人はどこに居て何をしてくれるのかということを把握しなくてはならないのだ。
さらに話を進め、その職人とやらはジジィであって、魔界の各エリアを回っては、そこで新たな兵器を提供するタイプの者であるということがわかった。
もちろんこのエリアにもいつか回ってくるはずなのだが、それがいつなのかはわからない。
そして探りを入れることなど、侵略者である今の俺達にはわかろうはずもなく……これはかなり難しいか……
「なぁ、堕天使さんか堕天使ちゃん、ちょっとだけ解放してやるからさ、その職人とやらがどこに居るのか、ってか見つけて連れて来てくれないか? そうすれば俺達は動かずして目的を達成することが出来るからな」
「そう言われましても……まぁ、場所を把握することぐらいならどうにかなるかもですが、その際私達はどこかのエリアで引き留められて、ここに戻ることは叶わないかも知れませんよ、それでも良いんですか?」
「まぁ、そこはどうにか対策するさ、やってくれるってことで良いよな?」
半ば強引ではあるが、とにかく堕天使のどちらかに依頼して、その正体不明の職人の居場所を探るのが唯一の可能性である。
そしてそうである以上、やるべきことには早めに着手し、とっととクリーチャー用の武器を確保しなくてはならない……




