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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1148 新たな発見

「わかった、わかったから……わかりましたっ、堕天使(最下級)についてならいくらでも話すから、もうこれ以上は、ね、ちょっと……ひぎぃぃぃっ!」


「だいぶ理解してきたようね、自分の置かれている状況を……さて、じゃあその堕天使(最下級)をどうやってあんなに大量に投入することが出来たのか、その秘密を暴露しなさい」


「えぇ、その、アレは別に何のことはなくクリーチャーとして発生させれば良くて、雑魚なので特に生贄とか要らないし、空気から無限に作り放題で……たぶんこの砦にも発生装置があるはず、地下の、さっき連れて行かれた拷問部屋のすぐ近く!」


「あの部屋の近くか、じゃあ可能性のある場所を案内しろ、もし見つからなかったらここへ戻ってもう一度『質問』を始めるから覚悟しておけよ」


「へへーっ! 頑張ってちゃんと見つけますですっ!」



 可愛らしい堕天使ちゃんをあまり痛め付けるのは良くないとして、適当なところで拷問めいた行為を切上げて、ここからは情報などの獲得を目指した行動に移行する。


 まずはあの鬱陶しい、空を覆い尽くすほどに発生していた堕天使(最下級)についてだ。

 まるでイナゴのような連中であったが、やはりクリーチャーのような存在で、簡単に創り出すことが出来るものであったか。


 ということでその発生装置とやらを確認すべく、俺達は堕天使ちゃんの案内に従い、砦の地下にある拷問部屋の付近へと再度移動した。


 やはり地下空間の中では絶大のインパクトを持っている拷問部屋であるから、ここにそれ以外のものが存在しないと言われれば、はいそうですかと信じてしまうような雰囲気の場所。


 このどこかに堕天使(最下級)の発生装置があるのではないかと言う堕天使ちゃんであるが……確かに他の部屋はいくらでもあるし、そもそもその拷問部屋以外のへ屋の方が禍々しい空気が渦巻いていたりする様子。


 並んだ扉を順番に開けていくと、それぞれの部屋には拷問部屋を軽く超えるような闇の機器や器具が並んでいる。

 もちろんハズレの部屋もあるのだが、それにしてもヤバそうなルームがいくつもあるではないか……



「見て下さいご主人様、この部屋には拷問部屋で使う多種多様な鞭が保管されていますよ……でもあまり使われていないようですね、もう埃を被ってボロボロです、後で手入れして使えるようにしましょう」


「ひぃぃぃっ! こんなので打たれたら堕天使の私は死なないけど死ぬほど痛くて……」


「大丈夫だ、実験はこのルビアと、それから仲間のドM連中の尻と背中でやるから、堕天使ちゃんは安心して情報だけ提供していれば良いぞ、情報さえ提供していればだがな」


「えっと、じゃああげられる情報がなくなったら……やっぱりひぃぃぃっ!」


「どうでも良いから早くその堕天使(最下級)発生装置のある部屋を言い当てなさい、さもないと現状で使える私の鞭が唸るわよ」


「わかった! わかりましたっ! すぐに探すからちょっと待って!」



 その後、いくつかの禍々しいオーラが漏れ出す扉を開き、中を確認していくと、ようやく『あった!』という堕天使ちゃんの声が聞こえる。


 すぐに行ってその扉の中にある部屋を確認すると……何やらハンドルの付いた装置のようなものが2台並んでいるだけの簡素な場所。


 どうして2台もあるのかということについて疑問を感じているらしい堕天使ちゃんではあるが、それはこの砦が戦略上重要であったとか、そういうことが……そうではないらしいな。


 とにかく発見に至った2台の装置の前に全員で集まり、どうやって使用するのか、どのような感じで堕天使(最下級)が出現するのかなどを調べることとした……



「え~っと、どこのボタンを押せば起動するんだ?」


「というかコレ、魔法の力で動いているわけ? それとも魔界固有の闇の力とかそういうのかしら?」


「いえ、普通に起動とか何とかはなくて、普通にこのハンドルをグルグル回すだけで、空気中の成分を取り込んで凝縮して、それを堕天使(最下級)に変換するという、ごく一般的で原始的なシステムなの」


「どこが原始的なんだそれの……まぁ、ハンドルを回す手動タイプってとこか? とにかく仕組みについては原始的どころか未来の何かだぞ、空気中から生物を取り出すなんてな」


「しかもそこそこの知能を持っていましたよねあの堕天使(最下級)というクリーチャーは……少なくとも勇者様よりも賢かったはずです」


「ミラ、お前はさっきの鞭の部屋でお泊りさせるぞ、もちろんビシバシ喰らわせながらなっ」


「ふふんっ、望むところです、望むところですが……やっぱちょっと待って下さいっ、イヤァァァッ、お姉ちゃん助けてっ」


「自業自得ね、ちょっと我慢しなさい」


「そんなぁ~っ、いててててっ」



 調子に乗ったミラの耳を引っ張り、先程の鞭がおいてあった部屋に放り込んで扉を硬く閉ざしておく。

 そこで鞭の手入れでもしておけと告げて、俺は元の部屋へと戻ったのだが……そこにはもう1体の堕天使(最下級)が存在していた。


 武器は持たされていないものの、俺とミラを除く仲間達に包囲されてボコられる堕天使(最下級)、あっという間にブチ殺され、無様な死体を床に転がしたようだ。


 で、間髪入れずにまたハンドルを回したのは精霊様、5回転程度でまたその装置の出口、まるで挽肉機の挽肉が出てくる部分のような形状をした場所から、ヌルヌルッと、まさかの服を着た状態で堕天使(最下級)が精製されたではないか。


 そしてまたあっという間にブチ殺された堕天使(最下級)、弱いうえに武器も所持していないというのはそういうことなのだ。


 俺達勇者パーティーにとってはもうこんな奴等、いくら居ようとも敵にはならないわけだし、もちろん殺害することについても特に問題など生じるはずもなく、本当に一瞬の出来事である……



「さてさて、今度は2匹同時にいくわよっ、1匹は殺して、それでその死に様を見せ付けられてビビッたもう1匹から話を聞くの、もちろん最終的にはどっちも『肉』にしてしまうわけだけど」


「おいおい精霊様、ここでやると床が汚れるぞ、ほら、こんな血溜まりになって……装置ごと外へ運搬出来ないのか?」


「う~ん、床に打ち込まれているのよね完全に……あそうだ、堕天使(最下級)を召喚して、それに作業させたらどうかしら?」


「そんなもん、俺達の言うことを聞くとは思えないんだが……そうか、堕天使ちゃんに命令させれば良いのか、おいっ、堕天使(最下級)はお前の言うことを聞くんだよな普通に?」


「そりゃまぁ姿を見ればどちらが上位者なのか判断する程度の知能は備わっているわけだし、私の命令なら何でも……」


「あら~、ご主人様より賢いですねやっぱり、こんな簡単に創れるのに」


「ルビア、ちょっと来い」


「あ~れ~っ、私もお仕置き部屋送りでした~っ」



 ということでルビアもミラを放り込んだ鞭だらけの部屋へと投入する、扉を開けたところで、まだ3本目の鞭を綺麗にしていたミラには刑務作業がなっていない、などとわけのわからなお喝を入れ、そこへルビアを追加するかたちでまた扉を閉めてやった。


 そして先程と全く同じ感じで装置のある部屋へと戻ると、今度は仲間達が扉の外に並んだ状態で、部屋の中には堕天使ちゃんと、それから銃数匹の堕天使(最下級)という状態。


 どうやら精製した堕天使(最下級)に対して、これから執り行われる作業について説明しているらしい堕天使ちゃんなのだが、それを聞いている方は気が気ではない様子。


 なぜならば説明をしている堕天使ちゃんは縛られて後ろでジェシカが鎖の先を持っている状態であって、しかもその他意味のわからない連中が、自分達の方へ睨みを利かせているのだから。


 これでビビらない、何もしないというのであればもはや意思など持ち合わせていないというもの。

 知能があるこの堕天使(最下級)共にとっては、通常の人間や堕天使が感じるのと同程度の恐怖を与えられている光景なのであろう。


 で、そんなビビり倒している堕天使(最下級)共ではあるが、堕天使ちゃんの説明についてはそこそこ理解したようで、すぐに2台の装置を外へと運搬する業務に従事し始める。


 もちろん運搬だけではなく、それを使用する際に、というか保管においても雨などが降ると困るため、上に建屋のようなものを簡単に設置する作業が科せられるのだが、それについても説明にはあったようだ。


 また、そこで堕天使(最下級)を精製してお終いというわけではなく、それをブチ殺して、俺達が神界クリーチャーを精製するための『素材』としての『肉』を獲得しなくてはならないのであるから、その作業をするための小屋も出来れば用意しておきたいところ。


 堕天使ちゃんにそのことを追加で命じると同時に、3時間程度で作業が終わらなかった場合には、堕天使(最下級)の残虐な方法による処刑のみならず、堕天使ちゃんの方も大変なことになるであろうと予言して脅しておく。


 これで必死になって作業を進めるはずだ、もちろん3時間で終わるにはかなり作業員、つまり堕天使(最下級)の頭数が少ないため、きっと軽く5時間程度は見ておいた方が良いのであろう。


 そのぐらいの時間になるまで、こちらはこちらでやるべきことをやっておきたいのだが……まずはこの砦を、俺達の使用にマッチした感じに仕上げていく作業を始めるべきか。


 そしてそれが終わる頃には堕天使(最下級)精製装置の移設も完了し、あとは元の世界とコンタクトを取って、この場所と俺達の屋敷とを繋ぐ転移ゲートを確保するところまでいけば今回のミッションは完遂と言って良い状況だ。


 で、早速作業に取り掛かっている堕天使ちゃん達を眺めつつ、俺達、もちろん鞭部屋に閉じ込めた2人を除いたメンバーで、こちらの作業に取り掛かったのであった……



 ※※※



「お~いっ、こっちの家具はどうするんだ? この執務室みたいな場所は皆で使うにはちょっと狭いぞ」


「向こうの会議室的な場所を使おう、土足厳禁にして、何かを敷いて地べたで生活することが可能なように改装を加えるんだ、それでどうだ主殿?」


「うむ、この執務室的な場所は応接間にでも使おう、それから作戦司令室とか……で、この後用意されるはずの転移ゲートに関してはどうするんだ?」


「それは地下の方が良いと思いますわよ、もし敵に攻められたときに、転移ゲートが真っ先に見つかるような場所にあったら……その先はわかりますわね」


「それと同じ理由で、私達以外が不正にそれを使おうとした場合に何かこう、トラップみたいなのでミンチになる仕組みを作っておいた方が無難ね、普段は発動させておいて、私達が使用するときだけトクベツに解除するの」


「なぁ精霊様、それ、危なくね? 事故の未来しか見えねぇんだが実際……」


「まぁ、多少のリスクはつきものよね、必ずあんたが最初に転移するようにすれば最低限の犠牲で大事故を防ぐことが可能になるわ」


「俺が犠牲になるのかよ……まぁ、ある程度威力を絞って、俺達であればどうということはない程度にしておけば大丈夫か……で、作業の方に戻ろう」



 無骨な砦の模様替えをしている俺達であったが、まともに作業しているのは俺とジェシカと精霊様ぐらいのものだ。


 カレンとリリィは何やら紙で作った飾りを壁に貼り、まるでお誕生日パーティーでも開催するかのような状態にしてしまっているし、ユリナとサリナは完全にサボッて茶を啜っている。


 セラとマーサ、マリエルはカレンとリリィがおかしなことをしているのを見て笑っているし、本当に役に立たない連中ばかりで辟易してしまうのが勇者パーティーの現状だ。


 で、そんな少数精鋭で作業を進め、どうにかこうにか最も広い会議室を、和室のような見た目に改装したのであるが、やはり雰囲気の方はイマイチなままとなってしまった。


 そもそも石造りで、窓も矢を放てる程度にしか用意されていないこの建物では、開放的な雰囲気の和室などには到底ならないようである。


 だが俺が目指しているその侘び寂びだの何だのにはあまり興味のない仲間達にとっては、床に寝転がることさえ出来ればどうでも良いというのが感想らしい。


 どういうわけか精霊様が持っていた畳のような何かをその部屋に敷き詰めると、仲間達は一斉にゴロゴロと転がってその感触を確かめたのであった。


 俺は小さな窓から外の様子を眺める、ちょうどこの場所から、堕天使ちゃん達が移設作業をしている堕天使(最下級)発生装置の新しい設置場所が見える。


 もう装置の運び込みは完了間近といったところだが、この後それを地面に固定して、さらに建屋を造って、さらにさらに作業用の小屋まで作成しなくてはならないのだから、到底約束通り、あと1時間程度で終了することは出来ないであろう。


 ということで堕天使ちゃんにもお仕置きをしなくてはならないのだが……そういえばミラとルビアの存在をすっかり忘れていたではないか。


 そろそろあの2人も作業を終えている頃であろうし、迎えに行ってやる必要がありそうな感じだな……



「ちょっと、ミラとルビアを解放してやって来る、皆はそこでダラダラしていてくれ。どうせ外の作業にはまだ時間を要するだろうからな」


「あ、それなら私も行くわよ、地下の方はまだ探検というかマッピングがまだまだだもの」


「わかった、じゃあついでに地下エリアのマッピングをして……まぁそんなもんか今のところは」



 セラが立候補したため、2人で部屋を出てまた地下へと戻るのだが、その道中ではまだまだ改装が必要な箇所が浮き彫りになっていた。


 まずあの薄汚い毒剣野朗の巨大肖像画を撤去して、大勇者様御近影にでも差し替えておかなくては。

 それと廊下の装飾品も趣味が悪いものばかりであるため、撤去して元の世界へと持ち帰り、大変貴重なものとして売却してしまおう。


 そしてそこで得た資金は俺達が浪費し、追加の金銭を国に要求してまたこの砦の改築を進めるのだ。

 また、ゆくゆくは魔界に一般人を連れ込んで、高額なツアーなどを開催して……など、金の匂いはそこかしこから漂っている。


 だがまずはやるべきことをやってからでないとということで、そのまま何もせずに地下へと移動した俺とセラは、鞭が大量に保管してあった部屋の扉を開けると……もうすっかり綺麗になったいくつもの鞭が壁に並んでいる光景に出くわした。


 ついでに室内の方も綺麗に清掃してあるようだ、邪魔な鞭さえ撤去すれば、この部屋に住んでも良いぐらいの美しさなのだが、まぁそういうわけにもいかないのであろう……



「……凄いわね、これ全部2人で綺麗にしたわけ?」


「それはまぁ、ルビアちゃんが張り切ってしまって……むしろ私は壁とかの掃除をしていたぐらいです」


「ご主人様、頑張ったご褒美とさっき調子に乗った分のお仕置き、同時に鞭でお願いします、さぁ、早くっ!」


「仕方ない奴だな、じゃあこのそこそこ痛そうな革の鞭で……おらぁぁぁぁっ!」


「ひぎぃぃぃっ! きっ、きっ、きっくぅぅぅっ!」


「ほら、遊んでいないで早くここを出ましょう、上の改装をしていたみたいですけど、どんな感じになりましたか?」


「その前にミラ、お前もお仕置きだぁぁぁっ!」


「ひぎぃぃぃっ! ひぇぇぇっ……あっ、暴れた拍子に壁が崩れて、せっかく綺麗にしたのに……と、何か出てきたようにしか見えないんですが……」


「何だこれは? 何かの像が壁に埋め込まれて……マジでわけがわからんな」



 ミラがぶつかると同時に、どういうわけか頑丈なはずの壁が一部、明らかにそこだけ脆かったかのようにボロッと崩れ落ちた。


 そしてそこから出てきたのは、どう考えても故意に埋め込まれた像のようなもので、大きさは50cm程度のものなのだが……明らかに人間の形を模しているものだ。


 これが何なのか、どうしてこんな場所に埋め込まれていたのかについてを考える前に、まずその放っているオーラが極端に邪悪なものであるということに意識を向けなくてはならない。


 どう考えても手で触れて良いモノではないという雰囲気をビンビンに感じることから、特に移動したりせずに、まずは精霊様に見せてその指示を仰ぐというのが適切なのであろう。


 軽いノリで触ろうとするルビアを制止しつつ、ひとまずその場を離れて2階の、皆がゴロゴロしている部屋へと戻った……



「ちょっと精霊様、というか他の皆も聞いてくれ、何か知らんが地下でヤバそうなブツを発見してしまったんだ、しかも壁に埋め込まれていてな」


「何? 大判小判がザックザクとかそういう系じゃなくて……邪悪なものなのね、良いわ、ちょっと見に行くから案内しなさい」


「それと、堕天使ちゃんにも来て貰うわよ、もしかしたら何かわかることが増えるかも知れないから、ちょうど中間報告のために戻っているところだし」


「え? ちょっと私そんなの知らなくて、えっ? えっ?」



 堕天使ちゃんでも知らないというその発見された邪悪な像のようなもの、もしかしたら捕虜第一号として捕まえてある堕天使『さん』の方であれば何か知っている可能性はある。


 だがこのためにいちいち帰還して、堕天使さんから事情を聞くのは面倒極まりないことであるから、この場で軽く調査をしておくのが得策であると考えた。


 すぐに地下室へと移動し、先程ミラが崩してしまった壁の前に……立ったのだが、確かに壁が崩れているというのに、問題の像のようなものが見当たらないではないか。



「……何もないじゃないの、壁が崩れているだけよ」


『……逃げたぁぁぁっ!』



 発見はしたものの、その場から逃げるようにして消えてしまった謎の像、もちろん禍々しいオーラを放っていたため、そのままにしておくべきではないということがわかる。


 ひとまず捜索をして、どこへ行ったのかなどを入念に確認しなくてはならないであろう。

 時間的にまだ遠くへは行っていないはずだし、すぐに探し当てて適切な対処をするのだ……

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