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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1147 第二号

「なるほど、ここから魔界へ突入することが可能なのですね、私は参りませんが、次はもう少し詳しい状況についてレポートして頂ければと思います」


「え? お前ここまで付いて来ておいて魔界へは行かないわけ? もうちょっと自分の力で頑張るとかそういうこともしろよ、そんなんだからいつまで経ってもダメなんだよお前は」


「勇者よ、あなたに言われる筋合いはありませんよ、ということでお気を付けてどうぞ」


「……まぁ良いか、じゃあ今回はアレだったな、こっちもクリーチャーを召喚するための『肉』……じゃなかった、『素材』を集めてくるのが主たる目的ということで良いんだったよな?」


「それと勇者様、魔界に置ける拠点として使う砦のどこかに、こちらの世界と繋がる転移ゲート的なモノも用意したいと思いませんか?」


「あぁ、じゃあ可能であればそこまでやるとして、その前にまずは向こうからあの魔界の神とか、それかこっちの世界と通信を入れるための魔導システムを構築しないとだな、そこまでやって初めて転移ゲート云々の話に移行出来るってもんだ」



 第二回目の魔界侵攻に赴く俺達を、わざわざ魔王城の裏側にある転移ゲートまで見送りに来た女神であったが、本当に見送りというだけで、何か役に立つことをしようという気持ちは一切ないらしい。


 まぁ、入場券も買わなくて良い簡素な場所での『見送り』であるのだが、そのうちここを魔界直通の駅のような構造にして、そのプラットフォームとして使用することが可能な、もちろん売店や立ち食い蕎麦などの店舗も設置した……と、そこまでやるのはまだ先のことだ。


 それが必要になるのは、王都の軍勢が頻繁に魔界へ移動するようになってから、つまり俺達の攻略が進み、人族の側による大々的な侵攻が始まった後のことである。


 今はただ、少しでも魔界のあのエリアを俺達のものとし、その安全も確保していくというのが先決事項であって、その先のことを考える余裕はまだないという感じであるから……


 で、ゲートを潜るとまた魔界の草原地帯へと辿り着く、今回は周囲に魔界生物らしき影が蠢いているということもなく、また道中も堕天使(最下級)の襲撃を受けることなく例の砦へと辿り着く。


 俺達が破壊してしまった扉などはそのままに、誰も守る者が居なくなった寂しいその場所で、未だに振動する矢だけが散らばり、ビィィィンッと鬱陶しい音を立てている。


 中もあの後誰かが、逃げ出して行った堕天使が戻って来たような様子はなく、何者の気配も見受けられないような状況であった……



「……それで、まずは何から手を付けたら良いのかしら? あの雑魚敵の集団はもう居なくなっているみたいだけど」


「まずはその缶詰のクリーチャーをここで開けてみない? もしかしたら魔界だと力が制限されたりとか、空気に耐えられずに溶けて死んだりとかするかも知れないわよ」


「あ、そうだな、というかむしろ缶詰野朗が溶けて苦しんで死ぬのは理想だ、そんなんだったら来る度に缶詰を開けて非業の死を遂げさせてやる」


「その代わり、こっちで神界クリーチャーを用意するって作戦は破綻してしまいますけど……と、リリィちゃん、持って来た缶詰を出してちょうだい」


「はいはいっ! こちらになります……でも何かキモいから誰か開けてみて下さい」


「まぁ、さすがにキモいよな直接手を触れるのは……」



 リリィが持って来たのだが、結局俺がオープンすることとなってしまった例の缶詰。

 もう二度と奴に会うことはないと思っていたのに、どうしてこのようなことになってしまったのだというう感想だ。


 その鬱陶しい野郎が中に封入された缶詰、しかも缶切りナシでオープンすることが可能な最新タイプのものをカパッと開けると……中からはいつも通りのあの野郎が、出汁に漬かった状態で封入されていた。


 今回はノックしていなかったため『入ってまーす』の返答を確認せず、生きているものだと考えて開けたのではあるが……どうやら普通に生きていたらしい、缶詰だけあって鮮度はバッチリだ……



『久しぶりじゃないっすか先輩、1,000年もの間どこへ行っていたんすか先輩? 相変わらず頭悪そうな顔してるっすね先輩』


「うるせぇよハゲ、だれがお前の先輩だ、あと1,000年も経過してねぇっての……ところでお前、この場所でも普通に活動することが可能なのか? 溶けて死んだりとか無様なことにはならないのか?」


『何言ってんすか先輩、遂に頭おかしくなったんすか? あ、いや元からか、知能が低すぎて現実の認識がおかしくなってしまったんすね先輩は、いっぺん死んでやり直した方が無難だと思うっすよ先輩の場合』


「ちょっと、排水溝に出汁を溢しておこう、干乾びて死ぬまでの間に必要な情報は獲得出来るだろうからな」


『あっ、ちょっ、ギョェェェッ! 乾くっ、乾くぅぅぅっ!』


「ケッ、ざまぁ見やがれこのゴミ缶詰野朗が、無様に死に晒せや」


「本当にしょうがない連中ね、同じレベルだから争いになるんでしょうけど……で、神界クリーチャーは魔界でも大丈夫、普通に使うことが出来るってのがわかったわね、他に知っておくべきことはあるかしら?」



 特に考えもせず缶詰野朗を開封し、その生存に必要な出汁まで溢してしまったのであるが、ここからこの馬鹿が干乾びて死に至る前に、必要なことを全て聞きつくさなくてはならないというミッションがある。


 もちろんそのぐらいのことは想定していたのだが、肝心な『何を聞くべきか』ということを一切考えて居なかったのがミスであった。


 既に苦しみ始めている缶詰野朗に対し、まず質問として投げ掛けるのは……ひとまず自分以外の神界クリーチャーについて知っていることはないのかということだ。


 で、それについては悶絶しながら首を横に振る缶詰野朗、何も知らないとは本当に使えない奴だ、罰としてキッチンペーパーで残り僅かな水分を拭き取ってやろうか。


 いやそんなことをすればこれで缶詰をひとつ無駄にしたことになってしまうではないか、他に聞きたいことといえば何があるか……と、そういえばこの野朗、数多の世界の情報に精通していたような気がしなくもないな。


 だとすると魔界についても何か知っていることがあるのかも知れないな、そしてもし知っているのだとしたら、これから魔界について俺達独自で調べたその後よりも、今それについて聞いておく方が情報の効用としては高いはずだ……



「おいこの野朗、死ぬ前にちょっと答えやがれ、ここがどこだかわかるか? どこの世界かって意味だぞっ」


『ぜぇっ、ぜぇっ……こ、ここは魔界っすねきっと、空気感とかそうだし……でも割と田舎の方の草原地帯じゃないっすか? ぜぇっ、ぜぇっ……』


「ほう、それを一瞬で感じ取ったのか……じゃあさ、この世界から俺達の世界とか、あと神界とかに接続する方法とか、何か知らないのか?」


『そ……それは神の、神界の神の力によってしか……魔界の神でも良いかも知れないっす……少なくとも先輩程度の矮小な力じゃ……無理……っす』


「じゃあその神に、まぁどの神でも良いし、最悪ウチの使えないアレでも良い、コンタクトを取る方法を教えろ」


『・・・・・・・・・・』


「死にやがったか、本当に軟弱で薄汚い野朗だな、ミラ、ゴミ箱はどこだ?」


「やめて下さい勇者様、この地域でのゴミの日がわかりませんから、そんなモノを入れておいて最悪腐ったりなんかしたら困ります、外に捨てるか埋めるかして下さい」


「チッ、死に腐ってからも面倒ばかり掛けるクズだなコイツは……じゃあちょっと行って来る」



 死亡した缶詰野朗を処理するため、これから拠点として使う予定の砦の敷地内ではなく、そこから少し離れた場所を埋める場所として選択する。


 缶詰野朗は人間ではないのでアレだが、今後人間と同程度と思しき敵を始末した際には、この場所を『墓場』として使用することとしよう。


 で、適当に穴を掘ってその中に缶詰ごと野朗の死体を放り込み、受け取っていた燃料と火種で『消毒』した後に土を掛けていると……何やら気配のようなものを感じ取った。


 遠くの空から急速接近するいくつかの力、おそらくはこの魔界の存在、というか堕天使の群れなのであろう。

 きっとこの場所が陥落していることを察知し、様子を見に来たか敵を排除しに来たかといったところだ。


 もちろんその数はたいしたことがないし、そこまで大きなパワーの持ち主も感じ取ることが出来ないのだが……ひとつ、おそらくここで捕らえた堕天使さんと同程度の者がいるようだな。


 きっと同クラスの者を群れのリーダーとして送り込んで来たのであろうが、その程度では俺達と戦うことなど不可能である。


 気配を察知して仲間達が飛び出して来た頃には、その敵の群れを辛うじて視認することが出来る位置に捉えていた……数は10程度か、奪還作戦というよりは偵察といった感じだな……



「お~いっ、向こうだ、敵集団さんのお出ましだぞ~っ」


「あらあら、たいしたことがない連中のようね、誰かここから一撃を……っていうよりはもうちょっと監視しておいた方が良いかも知れないわね、このまますぐ近くまでやって来そうだもの」


「うむ、ちょっと陰に隠れて待とうか、それと捕まえられそうな奴は捕まえて、捕虜第二号にしてやるんだ」



 おそらく群れの中で最も強い力を持つリーダー的な奴は、あの堕天使さんと同じく女性キャラなのであろう、そんな気がしてならないのだ。


 つまりここで無闇に攻撃して傷付けてしまうよりも、安全に捕らえてこちらの慈悲深さを伝え、情報源としてそこそこ大切にしてやる方が良いのである。


 で、接近して来たおよそ10の堕天使の群れの中には、やはり女性キャラ……今度は美人というより可愛い系の姿が見受けられた。


 サイズ的にはカレンやサリナよりも少し大きいぐらいで、まるで子どものような容姿なのだが、きっと年齢的には万とか十万とか、その規模の数字を叩き出してくることであろう。


 そんな女性キャラを筆頭にした堕天使集団が、俺達がここに来ていることには気付きさえせずに、破壊された砦の正門前に着地した……もう少し様子を見よう、そして最終的に女性キャラは捕縛し、残りは全部『素材』にでもしてしまうのだ……



 ※※※



「……隊長、ここは無人のようです、やはり報告にあった通り全員が散り散りになって逃げ出したとしか思えません」


「そうなんだ、じゃあ堕天使(最下級)とか、クリーチャーとかは全部死んじゃったのかな? しかも敵は帰っちゃったのかな?」


「そこは判断致しかねますが、おそらくは逃げ出した普通の堕天使以外、使い捨てのゴミ共は全滅したものかと」


「情けないっ! そんな敵なんてすぐにやっつけちゃえば良かったのにっ! てかホントにどこ行ったのよそいつ等はっ?」


「わっ、わかりませんっ!」


「わかんないじゃなくて捜しなさいっ! もしかしたらまだ近くに居るかも知れないわよっ!」


『へへーっ!』



 高圧的な態度で部下に臨む可愛いお子様系堕天使隊長、生意気なクソガキといった雰囲気だが、部下の雑魚共では到底太刀打ち出来ない力を有しているためそれも致し方ないか。


 だがその部下は萎縮してしまっているのかそれとも無能なのか、とにかくまとまって破壊された扉付近を調べるのみで、砦の中に散って情報収集をしようというつもりが一切ないようなムーブを見せる。


 このままだと俺達は永遠に発見されることがなさそうだな、たとえ中でパーティーを開催していても、この連中にそれが見つかることはないのではないかというレベルのダメッぷりだ。


 となればここはもう、こちらから出張って姿を現し、部下共を皆殺しにしたうえで隊長を脅迫し、降参させるのが最も早いのであろうか。


 いや、うち1体が少しばかり動いた、気になったのは先程俺が埋めた缶詰野朗、その中途半端に土を掛けられた場所であるようだ……



「隊長! この俺が何か発見しました! 地面に……ウ○コして埋めた奴が居るんじゃないかと思いますっ!」


「汚いっ! 汚い言葉を使う部下なんか要らないっ! 死んでっ!」


「あっ、すみま……ギョェェェッ!」


「フンッ、そんなモノが埋まっている所なんか見なくて良いのっ、もっとキッチリ手懸かりを探しなさい、さもないとコイツみたいにするからねっ!」


『ぎょっ、御意ぃぃぃっ!』



 たったのひと言『ウ○コ』と発現しただけでブチ殺され、消滅してしまった部下の一般堕天使。

 別に死んで貰う分には問題がないのだが、可能であればこちらが使用する『素材』となり得る部分ぐらい残して欲しかったところだ。


 で、この感じだとこの可愛い系堕天使さんはムチャクチャをして、連れて来た『素材』を全部ダメにしてしまう可能性が極めて高い。


 やはりこちらから出て行くべきだと思ったところで、同じように考えた仲間達が溜め息を付きながら、ゾロゾロと表へ出て行く……俺もそれに続くこととしよう……



「……!? 何者だっ? 隊長! 何か変な奴等が出て来ました……魔界の者ではないようですっ!」


「ちょっと誰あんた達? ここがどういう場所なのかわかっているの?」


「隊長! おそらくこいつ等、神界の回し者でスパイか何かをしている雑魚キャラなんじゃないかと、そう思いますっ!」


「スパイなのねっ! 覚悟しなさいこのスカポンタン!」


「……なぁ、勝手に決め付けられたみたいなんだが……どうする?」


「どうするもこうするも、とにかくそこの決め付け野朗、死になさいあんた」


「えっ、俺がどうか……ひょげぇぇぇっ!」


「あっ! 使い捨て部下7号がっ! よくもやってくれたわねっ! いきなさい使い捨て部下3号と、それから5号……はさっき殺しちゃったんだった、もう誰でも良いからこいつ等を殺しなさい!」


「御意……からのギョェェェッ!」

「3号、さんごぉぉぉっ! こうなったら俺がギョェェェッ!」


「弱いんだよお前等、あ、『肉』の方は俺達が神界クリーチャーを召喚する際の素材にするから、お片付けしなくて良いからな」


「クッ、何なのこいつ等? 残り! 全員で突撃してっ!」


『御意……からの以下略……』



 あっという間に、もちろんこちらが名乗りもしないうちに全滅してしまった敵の群れ、もはや残ったのは隊長ただ1人のみとなった。


 で、もちろんその隊長は、これまでの流れで自分の敵う相手ではない、何か強大な力の持ち主と対峙していること、そしてその俺達が、この砦を陥落させた者共であることを察するだけの能力を有しているようだ。


 ジリジリと後退りして、あわよくば逃げ出そうとする隊長であったが、もう既にカレンとリリィが背後に回っていることは招致しているらしい。


 前からは武器を構えた残りの前衛と、後ろからは魔法攻撃の準備、もちろん飛んで逃げることも想定済みであるため、精霊様が空中で待機して逃げ場をなくさせている……



「……ということだ堕天使さん、いや堕天使ちゃんと言った方が良いかな? 今両手を挙げて降参すれば、そこまで痛い目に遭わずに済むと思うぞ、どうだ?」


「クッ、誰があんた達みたいな野蛮で危険そうな奴等に降参なんて……というか、ここの隊長をしていた堕天使はどうしたのよ? まさかさっき言っていた『素材』ってのに……」


「さすがにそこまではしないし、もうとっくに降参して幸せに暮らしているわよ、他の雑魚は全部逃げちゃったみたいだけどね」


「幸せに? そんなはずないじゃないっ! どうせ拷問とかされて情報を吐かされるに決まっているから、私は逃げっ……逃げられない感じか……」


「そういうことだ、で、どうする? このままボコられて捕まるか、安全に降参して捕まるか、選択肢はふたつしかないんだぞ」


「うぅっ……仕方ないから降参してあげる、でもあんたに対して降参するわけじゃないんだからねっ!」


「何言ってんのかしらこの子は……まぁ良いわ、ルビアちゃん、ちょっとこの堕天使を縛り上げなさい」


「あ、はーい」


「ちょっ、乱暴はやめっ、やめなさいっ、ひぃぃぃっ」



 結局降参して捕虜第二号になってしまった堕天使ちゃんであるが、反抗的な態度は縛り上げられた後も変わらないらしい。


 このままだと少なくともお尻ペンペンの刑には処さなくてはならないのだが……まぁ、それは精霊様にでも任せておくこととしよう。


 で、そんな堕天使ちゃんを引き摺って鶏での中へ入った俺達は、捕虜第一号である堕天使さんを脅したのと同じ拷問部屋に移動し、まずは脅迫を加えてみる。


 ……と、堕天使ちゃんはなかなか強情なようだな、かなり痛そうな『器具』を見せ付けても、一向に俺達の支配を受け入れようとはしない。


 もちろんそのまま精霊様によるお仕置きに移行するのだが、尻を500回叩かれてもなお、最初から一貫して変わらない態度で臨んでくるのであった……



「ちょっとあんた、いい加減にしないと本当に痛いわよ、わかっているのかしら?」


「わかっているも何も、もう十分痛いんだけどっ、私をこんな目に遭わせてどうするつもりなの?」


「情報が欲しいんです、何かこの地について……例えばあの堕天使(最下級)の召喚方法とか、知りませんかね?」


「それぐらいなら教えてあげなくもないわ、ただし頭を下げてお願いを……ひっ、いったぁぁぁっ!」


「それぐらいならさっさと白状しなさい、お尻がさらに半分に割れても知らないわよ」


「ひぃぃぃっ、ひぃぃぃぃぃっ!」



 メンタルは強いようだがそろそろ限界を迎えそうな堕天使ちゃん、このまま『質問』を続けて、答えないようであればさらに苛烈な拷問を加えるという方向性で構わないであろう。


 もちろんこの魔界についてどこまでの情報を持っているのか、そしてその得られた情報を用いて何が出来るのかについては未知数ではあるが、とにかくやれるだけのことはやって、最終的には俺達の世界へ連れて帰ってしまうこととしよう……

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