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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1145 連れ帰って

「オラァァァッ! 中に居んのはわかってんじゃボケェェェッ! 出て来いこのタコがぁぁぁっ! オイッ! オラ聞いてんのかぁぁぁっ! 金返せボケェェェッ!」


「勇者様、お金は貸していないと思いますよ、あと呼んでも出て来たりしないと思います、普通に突入して捕まえるなり殺すなりしましょう」


「……だな、確かにその方が早そうだ、じゃあ失礼しまーっす! オラァァァッ!」


『おいっ、何かめっちゃ適当な感じで入って来たぞっ!』

『侵入者だっ! 俺達は逃げるから下位の者から対応に掛かれっ!』

『やべぇぞっ、外の連中みたいに狂わされちまうっ!』



 そこそこに分厚かった城砦の扉、だがこれまでの魔界や神界関連施設のように、蹴っても殴ってもビクともしないというようなタイプの構造物ではなく、一撃で粉々にして開扉することに成功した。


 その衝撃で舞い上がった土埃などなどによって、中の様子は目視知ることが出来ないのだが、通常の、強くもなければ弱くもないレベルの堕天使が、そこらをウロウロしているのを確認した……のだが、そいつ等は下がっていくようだ。


 どうせ雑魚なのですぐに殺してしまっても良いのだが、そんなに焦って事を進めるほどのことでもない。

 感覚だけで攻撃すると、本来は破壊してはならない何かを傷付けたり、その他大惨事を巻き起こしたりといったことになりかねないためだ。


 そのまま入口付近を制圧する感じで待機し、中の様子が見え始めると同時に動いて……と思ったのだが、その前に敵さんの方から攻撃を仕掛けてきたようである。


 闇雲に撃ったと思しき例の振動矢、特に意味もなく、そこにあったからそれを使ったのであろうということは容易に想像出来るのだが、射手が未熟であるのか、ヘロヘロの矢は地面にさえ突き刺さらないことも多い。


 反撃はする必要もないな、そして敵は全て堕天使ゆえ、上空から攻撃してきているということもあってか、先に土埃が晴れた高い場所から順に、その姿が見え始めて……と、殲滅したはずの堕天使(最下級)共ではないか。


 まだそんなに残っていたのかという印象と同時に、最初にブチ殺した連中の言葉である『全戦力』だの何だのというのはどういう意味であったのかと、その辺りが疑問である。


 とはいえまぁ、敵として存在している以上、見逃してやるというわけにもいかないし、そもそもこういう奴等を殺すのは楽しいので、誠に残念ながらこの場で死んで頂くこととなった。


 既に攻撃を始めたセラとユリナによって、見えていてかつその後ろに何か構造物があるとか、そういう場所に居ない敵から次々と、それこそ蚊に殺虫剤でも振り撒くようにして撃墜されている。


 俺もうっかり近くに寄って来ていた1匹を、聖棒を前に突き出した際に発生する衝撃波で貫いて、いや半ば消滅させて殺し、一定の活躍を見せてやっている感を出した。



「死になさいっ……ヒットしたわ、これで最後みたいね攻撃してくる輩は」


「あぁ、念のため最初の攻撃みたいな爆発する矢とか、その他諸々危険なものがないかどうかだけ確認して中へ進もうぜ」


「そうですわね、その前に……よいしょっ、やっぱり全部堕天使(最下級)ですわよ、こんなに温存していたなんて、あの最初に繰り出された連中はこの戦力について本当に知らなかったのかが疑問ですわね」


「うむ、というかこいつ等……ちょっと『新品』みたいな感じを出していないか? ほら、こんな雑魚キャラの分際で装備も新しいし」


「……本当ね、となるともしかして……今しがた発生したばかりの堕天使(最下級)ってことなのかしら?」


「その可能性を考慮に入れた方が良いな、もしかしたらこのクラスの敵については無限に、しかも短時間で大量生産することが可能なのかも知れない」


「だとしらた本当に厄介なことね……」


「とにかく中へ進むわよ、ここの親玉さえどうにかすれば、それについての情報も一緒にゲット出来るはずだもの」


「だな、よし行こうか」


『うぇ~いっ』



 堕天使(最下級)についてはまだ、これが何であるのかについても良くわからないまま大量虐殺している状況だ。

 もしかしたら先程のクリーチャーのようなものであって、本来的な生物でさえないのかも知れないな。


 まぁ、もし本当にそうであったとしても、殺す際に命乞いをしてみたり、ダメージを受けて恐怖し、苦しんでいるのは確実であるため、殺害する楽しみがなくなってしまうというわけではないのだが。


 とにかく全部が死んでいることを確認しつつ、周囲を見渡して何があるのかも同時にチェックしていく。

 先程打ち破ったのは城壁のようなもので、この先にある頑丈そうな扉が本来の建物への入口なのか。


 いや、扉は頑丈そうであるのだが、どうやらつい今までこの場に居て、そして逃げて行った連中がしっかり閉めていなかったようで、何やら半開きの状態である。


 特に罠があるというわけでもなさそうだし、そのまま扉を通って中へ入る……と同時にお出迎えしてくれたのは、どうにも見覚えがある顔の巨大な肖像画であった。



「これは……何だっけ? 見たことあるのはわかるんだが、気持ちの悪い野朗の顔は忘れてしまったな」


「そうね、つい最近出会ったばかりのような気がしなくもないんだけど、誰だったかしら?」


「主殿、セラ殿、本当に忘れているのだとしたらもう少し記憶力をアップした方が良いと思うぞ、クスリを使ってでもな」


「別に良いよそこまでしなくても……で、誰だったかコイツ?」


『それは私がお答えしましょう、私達の主神について、その偉大さについて……そして問いましょう、あなた方は何で、どこからこの魔界に侵入したというのですか?』


「誰だっ? 怪しい奴め、姿を見せろっ!」


「いやどっちが怪しい奴なんですかこの状況で、ほら、ここですよここっ」


「貴様何奴!? って結構可愛い堕天使さんじゃねぇか、神の側近とかなのか? どうだ、もう降参して俺の所へ来ないか? ん?」


「ちょっと、どういう生物なのですかこの人族でも魔族でもないっ、クッ、凄いパワーを、こんな馬鹿そうな顔面をしている癖にっ、離しなさいっ! 離せっ、この変態!」



 俺達が肖像画に着目している最中に、奥の暗がりから姿を現した上級感溢れる女性の堕天使。

 比較的巨乳で、その重さをもってしても飛ぶことが可能なのであろう比較的大きな翼、そしてその翼と同じ黒髪に、カラコンでも仕込んだかのような黒い瞳。


 これはなかなか美しいと、そう見惚れてしまいそうな容姿ではあるのだが、ひとまず敵であるということには変わりないため、抱きつくような感じで取り押さえて身動きを封じてやった。


 何やらキレている堕天使の女性であるが、そこまでのパワーは有していないようで、俺を振り解いて逃げるようなことは出来そうもない。


 とりあえずおっぱいを揉んでおこう、そうすればさらに抵抗は弱まり、そのうちに逆らう気力もなくなってくるであろうから……




「イヤァァァッ! やめろこの変態がっ! なんということをするのだっ!」


「フハハハーッ! 良いではないかぁぁぁっ! 良いではないかぁぁぁっ!」


「もうっ、やめなさい勇者様、さすがにかわいそうになってきたわよ、いくら敵でもそこまではちょっとやりすぎだわ」


「チッ、しょうがねぇな、ほら、離してやるからそこへ座れ……言っておくが逃げようとしても無駄だぞ」


「クッ、卑劣な奴め、いつか必ず私達の主神が貴様を成敗することであろう、毒と、それから剣を用いてなっ!」


「……さっきも変な透明の奴に言ったんだけどさ、それ、俺達が殺したぞもう」


「馬鹿なっ!? 本当にそんなっ、この肖像画のお方だぞっ!」


「いやもう顔なんぞ忘れたが……あ、それで見覚えがあったのかこの絵には……とにかくお前等の親玉はもう始末した、だいたい何なんだよあの汚ったねぇ技を使う神は? ほぼウ○コだったじゃねぇかアイツ」


「主神を侮辱するなっ! 認めない、絶対に認めないぞっ! 貴様のような者が主神をっ! というか周りの方々、この腐った男が言っている戯言は……真実、だというのでしょうか……」


「そうね、この肖像画の神ならもう始末したわよ、精霊であるこの私が言うのだから間違いないわ、この肥溜め野朗、本当に汚い奴で困ってしまったけど」


「そ……そんなっ……私達の神が……きゅぅぅぅっ……」


「あ、気絶しちゃったじゃないかほら、どうすんだよこれもう……」



 おそらくあんな汚らしい神でも神は神ということであったに違いない、その配下の者には『強い』というだけで敬愛され、そしてこの地を統べていたと。


 そんな神を俺達が始末してしまったという事実、それを知った美しい女性の堕天使さんは、そのまま気を失って倒れ付してしまった。


 統治者を失った配下がこうなるのは仕方のないことなのかも知れないが、さすがにあんな野朗が志望したぐらいでこの過剰反応は……とまぁ、ひとまずはどこかには込んでやることとしよう……



 ※※※



「……うぅっ……ここは……どこなんでしょうか?」


「おっと、気が付いたか、ここはお前の砦の地下の、拷問部屋みたいな場所だぜ、さすがは魔界だけあってなかなか素晴らしいグッズが揃ってんじゃねぇか、これとかなっ!」


「ヒィィィッ! そんなっ、一度も使ったことがない全身をトゲトゲの付いたローラーに巻き込まれる拷問器具なんてぇぇぇっ! やめなさいこの変態! やめっ、やめて……やめて下さいませっ!」


「よろしい、最初からそういう態度で臨めば怖い目に遭わずに済んだのかもな、で、そんなお前に聞きたいことがあるんだが……もちろん答えてくれるよな?」


「え、えぇ、それはもう何なりとお申し付け下さいませ……この砦のことも魔界のことも、あと倒れたという神のことも……」



 失神したのをそのまま拘束した堕天使さん、やはりこの砦のトップであったようで、持ち物を探っていた際に発見した身分証からそれが明らかになった。


 で、他の一般的な堕天使は全て逃げ出してしまったようなので、それは後で追ってどうにかするとして、まずは壁に貼ってあった館内のマップに従い、地下の拷問部屋にその堕天使さんを運び込んだ俺達。


 どうやら拷問されるのには慣れていない、というかこの拷問部屋自体あまり使った形跡がない、単なるお飾りのようなのだが、とにかくそこにあった『器具』で脅したところ、堕天使さんはアッという間に重々な態度となった。


 まぁ、もちろん魔界にとって、特にこの付近のエリアに関するクリティカルな情報にこちらが触れた際には、少しばかり回答を渋ったりもするのであろう。


 だがその際にはせっかく無数に置いてある鞭で打つなどして、恐怖と痛みを与えることによってその喉元で引っ掛かった情報を、こちらから見える場所に引き出してやれば良いのだ……



「で、早速聞きたいんだがな、この魔界から俺達の世界、つまり下界なのか? とにかくそこに戻るためのゲートはどこなんだ? ちょっとホームシックになってしまったから一時帰宅したいんだよ俺達は」


「ゲートですか? 転移のための……もしかしてそれを通ってここへやって来たのではないというのですかあなた方は?」


「いえそうなんだけどね、一方通行だったのよ、あんたが主神とか言っているあの汚い神が私達の世界に来たゲートは」


「そうそう、それを通って来たから帰れなくなっちゃったのよね私達、どうなのそこのとこ?」


「……あの、ちょっと何を言っているのかわからないんですが……ゲートが一方通行? 向こうの世界から魔界へ移動することしか出来ないということは……私達の神はどうやってそちらの世界に移動したというのでしょうか?」


『……あっ!』


「……なるほど、そこまで考えずに一方通行だと書いてあって、不思議な力でこちら側からの移動をブロックされている、という状況からその表示が真であると考えたのですね」


「そのようだな、つまり俺達は嵌められたってことか? だとしたら一体誰に?」


「わかんないけど、やるとしたらあの毒剣のおかしな神様なんじゃないの? 私、ちょっとあの入り口の所の肖像画にパンチして来るわね、ちょっとムカついちゃったもの」


「あぁっ! そういうのはおやめ下さいっ! もし神が滅びてしまったというのであれば、あの肖像画は私達に残された唯一の御御影なのです! だから破壊したりとか変な落書きとかはどうかっ! 情報はもう何でも吐きますからっ!」



 これまでの考えが色々とおかしかったということ、そしてその錯誤に陥った原因は、どこかの誰かに嵌められた可能性が極めて高いということがわかった。


 そしてもうひとつ、あの実際にはどうでも良い毒剣の神の肖像画が、案外ここの連中の心の拠り所になっていて、それを人質代わりにして脅迫することが可能であるということもわかってしまったようだ。


 なお、巨大な肖像画には既に、この堕天使さんが気絶している間に髭を書き込み、額には定番の文字を書き込み、ついでに股間の部分に穴を空けるなどの悪戯をしてあるのだが、そのことについてはしばらく黙っておいた方が良さそうである。


 まぁ、もちろんこの砦は俺達の魔界侵攻のための最初の拠点となる可能性が極めて高く、そしてそうなった際にはあのような薄気味悪い肖像画など、直ちに撤去して焼却処分することになるのだが……



「そんで、どうしてあの場所が一方通行になっていたのかはさておき、それを解除することがお前には出来るのか?」


「え~っと、その、やってみないとわからないというか……あの、もし私達の神が全力ガチで一方通行になってしまうような術式を使ったというのであれば、私にはどうすることも出来ないでしょう、所詮は堕天使ですから……ですが、ですがそれ以外であれば上級である私にも何かお手伝い出来ることがあるかも知れません」


「そうか、じゃあ……どうするセラ?」


「この堕天使をあの場所へ連れて行きましょ、とにかく今回の冒険はここまででセーブして、一度王都に戻って色々とやるべきこととか、準備すべきことをしたりしなくちゃ」


「他に意見は……ないようだな、わかった、じゃあお前、せっかくだからウチの、俺達の世界の拷問部屋も体験させてやるよ、もしその一方通行術式の解除が出来ればの話だがな」


「ひぃぃぃっ、お許しを、どうかお許しをぉぉぉっ」



 ということで堕天使さんは拷問器具から降ろしたうえで縛り上げ、もちろん力をどうこうしてしまう都合の良い素材で出来た何とやらで抵抗出来ないようにして、そのままそこから拉致してやった……



 ※※※



「……ここだ、このゲートから俺達はやって来たんだが……確かに一方通行だろう?」


「えぇ、書いてあるのは読めますが、どう考えてもコレ、私達の神の字ではありませんね、きっと他の者の悪戯か謀略です」


「悪戯と謀略でかなりの違いだと思うのですが……まぁ、とにかくいけそうですか? それ次第で私達が元の世界に戻れるかどうかが決まってくるのですが……」


「大丈夫……だと思います、保証は出来ませんし、失敗してもその、後ろで鞭を構えて立っている精霊には何もさせないで頂きたいのですが?」



 最初に魔界へ転移して来た場所、もちろんゲートは存在しているのだが、どういうわけか周りに見えていた蠢く影のようなものは見当たらなくなっていた。


 きっとあの後空を覆い尽くした堕天使(最下級)の動きを見て、何か事件があったことを察した非戦闘員は避難しているのであろう、それについては特に殺す必要もうないしスルーすべきだ。


 で、堕天使さんを一旦開放し、精霊様が後ろからプレッシャーを掛けてゲートの術式を解くように促すと……闇の力でそれをしようとする、そして術式の方も闇の力で抵抗しているようだな……



「……グッ、なかなかの強者が用意した術式のようです、神の力ではないようですが」


「あっそう、でも失敗したら鞭が飛ぶことぐらいわかっているわよね? それとも早々に打ち据えて欲しいのかしら?」


「ひぃぃぃっ! 頑張りますっ、どうにかしますからそれだけはっ……っと、解除のキッカケが、楔が入った感じがしましたっ」


「おっ、何だかレジストしている術式の方がガタガタ言い出してんな、その調子で頑張ってくれたまえ」



 このゲートを一方通行にしてしまった何者かによる術式、それが堕天使さんの攻撃を受けて破損し、まるで歪んでしまった車輪のように暴れ狂っている。


 そして徐々にガタガタとヒビが入り始め、最終的にはパリンッと、強化ガラスにトドメを刺したときのような崩壊の仕方をしたのであった。


 これでこのゲートは一方通行ではなくなり、俺達の世界とこの魔界を行き来することが出来るものとなったのである。

 だが場所は魔王城の裏、そして魔界での拠点にすべき砦からも少し距離があるといった状況。


 これはまた別の場所を転移ゲートとして設けなくては、いちいち行き来するたびにそこそこの時間を浪費してしまうことになってしまう。


 だがまぁ、とにかく今は元の世界に、そして王都に戻って報告とさらなる侵攻の準備を、そしてこの堕天使さんからも情報を引き出すなどするのが専決事項だ。


 念のため手を入れてみるなどして安全を確認し、そのゲートで確かに元の世界へ戻ることが出来るということを体感した後、一斉にそれを潜って魔界を脱出する……



「さてと、とりあえず屋敷へ帰ろうか、おい駄天使さん、ちゃんと歩けコラ」


「ひぃぃぃっ、どうか酷いことだけはしないで……」


「それはあんたの態度と吐く情報次第よ、わかるわね?」


「はっ、はいぃぃぃっ!」



 ものわかりの良いタイプらしい堕天使さん、それを連れて王都へと戻った俺達は、早速屋敷の地下にある様々な拷問器具を……見学させた後、普通にいつも使っている2階の大部屋へと戻った。


 おそらくそこまでする必要はないであろう、というかむしろそれを見せただけで失神寸前だ。

 普通に話を聞けば答えてくれそうな感じであるし、もしダメなら軽く脅して、知っていることを全て白状させよう……

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