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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1139 開始のゴング

「勇者様、今日も変なDMが来ているそうよ、ほら、さっきミラが見つけて持って来たの」


「ほう、キャンペーンが強化されてんな、このチラシ持って来たら飲み放題無料って、普通に考えて経営上ヤバすぎな案件だろ」


「もう形振り構っていられないのね、準備してすぐに私達が来ると思っていたら、全然来ないし副魔王とか送られてくるしで」


「まぁ、敵が焦っているのは良いことだよな、もちろん時間制限とかがあるとは思えないし、粘る態勢に入られたらこっちとしても厄介ではあるがな」


「う~ん、そしたらもう放っておいたら良いんじゃないかしら? 全然知らないフリして、諦めて帰るか向こうから来るか、どっちかしかないような状態にするべきと思うわ……それで、今回はどう対処する、ってかどうちょっかいを掛けてみるわけ?」


「そうだなぁ……ちょっと皆で考えようか……」



 昨日、つまり副魔王を偵察役として送り込んだ日なのだが、その翌日の昼にも何やらDMのようなものが屋敷のポストに放り込まれていた。


 奴が直接持って来たというわけではなく、何かの社会的システムを使って配達人が持って来るように仕組んだタイプのアレのようだ。


 で、内容としては昨日のものとほとんど変わらず、一見すると単にしつこいだけの、資源の無駄にしかならないようなゴミ広告なのだが、良く見ればキャンペーンの中身がかなりパワーアップしているではないか。


 だがそもそも、昨日副魔王がリアルに体験してきた、肥溜めの畔に位置するトンデモメニューのカフェ、しかも夕方開店などというズレた営業時間の店に、だれがわざわざ足を運ぶというのだ。


 これは『敵が経営しているから』ということ以前の問題であって、まず根本的にあってはならない要素がこのカフェにはいくつもあるのだが……もちろん敵自身はそれに気付いているはず。


 それでも俺達を誘い出そうと、そんな場所へやって来させようと躍起なのは、やはり昨日副魔王が語った敵の場所的制約の厳しさ、それによるものなのであろう。


 本来であればこの間殺害してやった『三倍体』の方が遥かに強いのだという今回の敵であるが、その『フィールド次第で発揮する強さ』というのが脅威となることは知っているのだが、まさかそこまで限定的な力であったとは。


 そんなことを考えている間にパーティーメンバー全員が集合したため、ここで今回受け取ったDMに対するこちらの反応についての意見交換会を始めることとする……



「はーいっ、じゃあ何か意見がある人はどうぞーっ」


「はいはいっ! はいはいはいはいっ!」


「リリィちゃんどうぞ」


「その敵の神様? の本拠地に、ここから攻撃したら面白そうじゃないですか? 魔法とかでドーンッて」


「なるほどね、そうすれば痺れを切らして出て来るようなこともあるかも知れないけど……どうかしらね?」


「う~む、ちょっと危ないといえば危ないが、ほんの少し、本当に小突くぐらいならやってみても良いんじゃないか? もちろん爆発とかの可能性もあるし、ユリナの魔法とかあとリリィの攻撃とか、そういうのはNGだがな」


「じゃあセラ殿の風魔法を上手く使って、周囲への被害を最低限に抑える感じの小攻撃をお届けするとか、そういう感じになるのか?」


「お届けする……それはブチ込むということになりますよね? むしろそれよりも、敵と同じ方法で『お届け』したらどうでしょうか?」


「というと? マリエル殿の考えを伺おうではないか」


「えぇ、敵はほら、この『料金後納』とか書かれたDMを送り付けてきたんですよね? しかも連日、鬱陶しいことこのうえないです、ですからこちらも同じ感じで、毎日そういう系の、攻撃になるようなものを『送付』する感じでどうでしょうかと」


「なるほど爆破小包的なやつか……まぁ、爆破するにしてもあの頑強な建物の中であれば特に問題はないだろうし、まさかお届け物を玄関先でオープンするようなことはしないだろうし……ちょっとその方向でいってみるか?」


「そうですわね、そういう感じであれば、三倍体との戦いで余って返却せずにガメておいた魔石が役に立ちますわよ」


「ユリナ、お前アレ返さずに持ってたのか……」



 どうやら方向性については決まってきたようで、これをやってやれば敵もそこそこにムカつくし、それでいてこの世界を滅ぼし尽くしてしまうような、破滅的な大激怒には至らないであろうというちょっとした悪戯。


 俺達から何か荷物が届き、何なのであろうかと開封した瞬間に大爆発、店内は物が落下したり破損したりと大変なことになり、とても営業が続けられる状態ではなくなってしまうはず。


 もっとも、あのような店に来る客はまだゼロのはずであって、最初の客がフェイクの副魔王であった以上、まだファーストカスタマーさえ迎えていない状態でのその破壊。


 それを受けた奴の憤りはいかほどのものか、きっと俺達に対して抗議をしたいと考えるに違いない。

 そしてその抗議のためにやって来たところを、どこか意味不明な場所へ転移させて『こちらのフィールド』でフルボッコにするのだ。


 もちろんそれ以外にも罠は仕掛ける、例えば最初は『開けると爆発する封書』を送り付けるのだが、きっと何度か同じものを受け取ると開封さえせずに捨てるようになってくるはず。


 その中にひとつだけ、『ホンモノの訴状』でも紛れ込ませておいて、それの送達に気付かないうちに裁判でもして、奴がこの世界で活動するためにキープしている様々な権利を差し押さえてしまうのもアリだと考えている……



「……ということだ、爆破小包にしろ何にしろ、どう考えても公共の機関から届いたような感じに偽ってくれ、出来れば『税金が未納です』とかそういう文言も添えてな」


「赤い封筒で送ると良いですね、私とお姉ちゃんの実家にはいつもそういうのが来ていて、お父さんがガン無視していましたから」


「あまりにも不憫なんだよなセラとミラの実家は……まぁそれは良いとして、とにかくほら、あんま分厚くするよりもこうだな、何となく紙が入っているような感じで」


「魔石を砕いて整形し直したものに魔法を込めますの、ついでに鉛玉が飛び散るようにしておくと面白いですわね」


「風魔法もちょっと入れておきましょ、爆発で鉛玉が飛び散ると同時に、風の刃もそこら中に拡散して被害を拡大……」



 爆破小包を作成するのはなかなか面白かったのだが、あまりやりすぎてしまうと大惨事を巻き起こしかねない、そこそこに危険な作業であった。


 で、完成品は一般的な封筒のようなものに、俺達の屋敷から見て農場の、肥料精製エリア付近で生じたそのトラップの発動が視認出来る程度のものとしておく。


 もちろん外で、しかもあの肥料の素材となる物質が大量に置かれている場所でそれが発動したら大惨事どころではなく、農場どころか王都内の居住区にまで壊滅的な被害をもたらすことであろう。


 だが奴がそれをキッチリ室内に持ち帰り、そこで開封しようと試みたのであれば話は異なる。

 確実にあの頑強な建物内のみに爆発が留まり、そしてその分内部はとんでもないことになってしまうのだ。


 作戦が上手くいくことを祈りつつ、そして今日中に、夕方までにはそれが到達するように、あえて王都の郵便物配達人を呼び出した俺達は、速達どころか全速力でそれを届けよと命じておく。


 最初は渋った配達人であったが、その中身が町を滅ぼしかねない危険物であること、対面で相手に渡すのではなく、少し臭いのを我慢してポストに詰め込んでおけば良いことなどを伝えると、渋々といった感じでOKしてくれた。


 もちろん俺達は勇者パーティーであり、公共事業に準ずる行為としてこれを行っているため、国の施策である配達事業に対して金を払ったりはしない。


 そしてもし今回の作戦が失敗して、王都に多大なる被害が出ることになってしまったとしても、それは『配達人がミスをしたから』ということになるため、俺達が責任を追及されることは一切ないのだ。


 というような感じで作戦の要である爆発物を任せた俺達は、奴がそれを受け取って開封するであろう夕方を待ちつつ、そろそろその奴がこの屋敷へ接近して来ていないかということを確認する作業に移った……



「……どうだった精霊様? うえからは何か怪しい奴が見えたりしたか?」


「というか、怪しい動きをしている奴が多すぎるのよねこの町は……基本的に裏路地でハァハァしているのは違うと思うし、兵士の格好をしたのは逆に変質者っぽい動きの奴を捜していてそれよりも変質者的になってしまっているってことだと思うし……」


「なるほど、しょうもないムーブの奴ばかりでどうしようもないってか、よしじゃあ皆殺しにしようぜ」


「勇者様、それをすると王都の人口が半減してしまいます、そういう変質者の動きも経済的にはアレですから、ここは目を瞑ってやって下さい」


「そうか、じゃあ引き続き監視だな……っと、あそこにも1匹おかしな奴が居るぞ、めっちゃこっち見ていやがるじゃねぇかあの野朗」


「本当ね、でもそれっぽいオーラはないわ、さすがに普通の覗き魔とかで……いえ、何かちょっとほら、この間筋肉団の人達が用意していたモンタージュ肖像画に近い顔をしているような……」


「というかアレがそうなんじゃないかしら? すぐに捕まえに行くわっ!」


「待て精霊様……もう消えているぞ……」


「いつの間に……そんな超高速で動くようなら力を見せるはずなのに……これはどこに紛れ込んでいたとしても、目視以外では発見することが出来ないタイプかも知れないわね」


「あぁ、その分王国軍とかその他俺達の変わりに動いていてくれるキャラ達が活躍出来るってもんだがな……」



 遂に目撃した敵の姿、若干目が合ったような気がしなくもないが、おっさんの視線を感じて同好という趣味はないため、その感覚はその場ではあまり感じ取れなかった。


 しかしやはりというか何というか、なかなか釣られない、しかもちょっかいを出してくる俺達が気になって仕方ないというのか、予想通り接近して姿を見せてきた今回の敵。


 もう少し、もう少しだけ接近させることが出来れば、そうすれば俺達の屋敷の敷地内に入り込むこととなるため、女神がセットした転移のための術式の効果範囲内にも入るというのに。


 まぁ、今回は残念であったが、今日の分の『悪戯』はまだこれから発動するのだ、それを受けた敵がもう1歩だけ距離を詰めるように、或いは我慢の限界に達して攻め込んでくるようにと祈りを捧げておこう……



 ※※※



「……勇者様、そろそろあのカフェの開店時刻……よりは少し早いわね、でも準備とかのために奴が帰還しているんじゃないかしらね?」


「おっと、確かにそろそろそのぐらいの時間だな、皆で花火でも眺める感じでベランダに集まって、東の空をガン見しておこうぜ、お~いっ! 集合だぞ~っ!」


『うぇ~いっ!』



 全員で集合し、その辺の店から宅配された夕食を前にしつつ、しばらく東の空を、農場がある辺りを重点的に眺めた俺達勇者パーティー。


 食材として骨付きのまま購入した巨大な肉が良い感じに焼き上がった頃、そして夕暮れが辺りを包み込む頃であった、遂にその東の空に動きがあった。


 近くであればドンッ! と聞こえたであろうか、そのような感じの煙が、ちょうど狙っていた座標辺りから勢い良く出現したのだ。


 それから10秒以上経って到達する衝撃波、周囲の家々からも何事かと人々が出て来ているのだが、おそらく爆発した現場の近くでは何があったのかと驚いて飛び出すような爆発音が鳴り響いていたことであろう。


 高く上がる煙、その上部には舞い上がったと思しき建物の破片が、視力の高いメンバーにのみ見えているというのだが……どうやら建物の窓など、圧力が掛かった際に最も脆弱な一部が破損したようだな……



「……あっ、見て下さいアレ、めっちゃ飛んでますっ!」


「どうしたんだリリィ? 何が飛んでいるってんだ?」


「え? さっきそこで見た人ですよ、凄い顔して、しかも剣構えたままこっちに来ます」


「……食べ終わるまで待ってくれないかなせめて……おい女神、準備は良いんだろうな? 敵が突っ込んで来るみたいだが、この屋敷に入ったらすぐにバトルフィールドへ転移させて、この食べかけの夕食も保温しておけよ」


「あの、保温まではちょっと……いえ頑張ります、神の息吹とかそういう都合の良い術で頑張ります、それよりも……」


『貴様等ぁぁぁっ! よくもやってくれよったなぁぁぁっ! このクソ共がぁぁぁっ!』


「来やがったか、しかもめっちゃキレてんじゃねぇかあの馬鹿」


「敷地内に入りますっ、3……2……1……今!」


『えっ? はぁぁぁっ!?』



 せっかくオープンしたばかりのカフェを爆破され、怒り狂った状態で俺達の屋敷へとすっ飛んできた敵。

 それが屋敷の敷地内へ到達すると同時に、女神が予め仕掛けていた転移の術式が発動し、俺達は……どこか知らない場所へと飛ばされてしまった。


 それについて敵は混乱している様子だが、そもそも見たことさえない場所へ飛ばされた俺達もかなり混乱している状態。


 とはいえそんな状況下にあることを敵に悟られるわけにはいかないため、まずは平静を装って隊列を組んで……カレンが夕食の肉をコッソリ持ち込んでいたり、ルビアが武器を忘れてしまったりしているようだが気にしないでおくべきか。


 冷静になって辺りを見渡す、王都は見えず、またそれ以外に建物も……農器具小屋のようなものがひとつ見えているが、普段は使われていないような感じのボロッとしてものだ。


 周囲には人の気配も感じられないし、ここであれば全力で戦ったとしても、人的被害が出ることはないか、出たとしてもごく僅かであろうということが言える。


 そして敵の方はどういう反応を見せているかというと、焦りつつも周囲を見渡し、自分に有利な戦いが出来るようなスポットを探しているらしい。


 だが元々想定していたような、毒素を無限に獲得することが可能なエリアなのでは当然なく、のどかな牧草地帯が広がっているにすぎないこの場所。


 すぐに何かがありそうな農器具小屋らしき場所へ駆け寄った敵であったが、その周囲には毒の沼地や、その他毒になりそうなものは……まぁ、近くにある小さな肥溜めぐらいのものだ……



「ぐぬぬぬぬっ、何なのだこの場所は? 我が店は? 我の用意したあの勇者を殺す場所はどこへ行ってしまったというのだ?」


「お生憎様ね、あんたが得意としているフィールドからは随分と離れた場所みたいよここは、せいぜいこのクリーンな状態で頑張るのね、毒使いさん」


「ふざけるんじゃないっ! どこなんだここはっ?」


「知らねぇよそんなもん、とにかく死ねやコラ」


「貴様等! 我を、神である我を殺すためにこのようなフィールドを用意して……許さぬぞっ!」


「いえいえ、私達の方があなたを許しませんから、あなた、カレンちゃんの腕を掴んだんですって? 痴漢ですよそんなもの、生きている価値も見出せませんし、神だからといってそのようなことをする方には天罰が必要なのではないかと、私はそう思うのですが……違いますか?」


「違うも何も我は神なのだっ! 魔界の! 特にそこのウサギ魔族と悪魔2匹! 貴様等は我を敬うべき存在であって……」


「え? 超キモいんですけどこの変なの、ねぇ精霊様、早く殺ってよこんなの、話し掛けられているというだけでお耳が腐りそうだわ」


「……だって、相当に嫌われているわねあんた、ウサギ魔族のマーサちゃんから……それと、悪魔のユリナちゃんとサリナちゃんもキモがっているわよ、どうなの? 死ぬの?」


「貴様等、本当に我の恐ろしさを知らぬようであるな……良いであろう、それを知らしめてやろうではないかっ、フンッ!」



 どこからともなく剣を取り出す敵、魔界の神である以上、それなりのモノを使用しているとは思ったのだが、その取り出された剣については特に何の変哲もない、鉄で出来た安物といった印象である。


 しかしその纏ったオーラに関しては、物理的な衝撃によってその剣が破断したりしないという効果を付与するのに十分なものであって、おそらくこの場で最も攻撃力がある精霊様とリリィ、そしてマーサが、同時にその剣を狙って一撃を加えたとしても特に成果は得られないことであろう。


 そんな強力無比な敵ではあるのだが、今の俺達の力をもってすれば、その本体、つまり敵の剣技を掻い潜った先にあるボディーについては、問題なくダメージを与えることが可能であるということが同時にわかる……



「……ミラ、ジェシカ、敵は何をしてくるのかわからんからな、可能な限り最初の攻撃を受け止めてくれよな」


「わかりました、ジェシカちゃん、あまりにも重い攻撃であった場合には……」


「わかっている、ジャブ的な攻撃はミラ殿が止めてくれ、私は本命の攻撃をどうにか受けるよう努める……そんな感じだ主殿、良いな?」


「あぁ、じゃあ頼んだぞ、カレンとマーサは隙を突いて攻撃を、マリエル、俺達は万が一に備えて後衛を守ることに徹するぞ」


「そうですね、相手はあの三倍体より弱いのではないかと、そういうことですが……やはり魔界の神であることに変わりはありませんから……」


「貴様等、ゴチャゴチャ言うのはそこまでだ、三倍体を倒したのかどうか走らないが、それでこの我を倒すことが出来るとは思わないことだなっ、ハァァァッ! キェェェェッ!」



 いよいよ始まった新たな敵との戦い、まだ相手の名前すらも聞いていないのであるが、だからといって油断するわけにもいかないし、確実にこの場で仕留めてやらなくてはならない相手だ。


 もちろん、このの場所は俺達に有利なフィールドであって、敵からしたら不利な場所である。

 お得意の剣技を用いて攻撃してくるようだが、毒が使えないというデメリットを受けて苦しむが良い……

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