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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1137 迫る神

「そう、その肥溜めがでーんっとある場所の横……というかむしろ『肥溜めポンド』の畔にオシャレな感じの古民家カフェが建っているんだよ、狂気だろう?」


「おう勇者殿、それは最低だな、もちろんそんなカフェで食事をしたり、喫茶と洒落込んだりという客は居なくて……」


「夕方から開店なんだよ、しかも日付が変わるまで、ちっとも『カフェ』じゃないんだそこは」


「もう意味がわからんな、ちなみに中の様子はどうなっているんだ? 一応、破壊はしないまでも確認はしたのであろう?」


「いや、開きもしないし壊れもしない頑丈な扉と壁で守られていたんだ、ちなみに爆発の危険性を考慮して放火するのは諦めた」


「なんとっ、今から俺も行って中を確認してみたいと思ったのだが、そういうことであえれば無駄なようだな」


「うむ、そもそもこの時間だと居酒屋……じゃなくてカフェとして営業を始めているはずだ、今行けば確実に奴と鉢合わせして酷い目に遭うだろうよ」



 ひと通りの報告を受け、まだ見ぬ敵が本当にこの次の敵であるということを、単なる変質者の類で、俺達が最強の勇者パーティー様だと知らなかった情報弱者の変態ではないということを確信するに至った。


 まぁ、そもそもあんな場所であんな感じの店舗を構えている時点で、それがこの世界の人間、特に人族のセンスを持ち合わせていないということはわかってしまうことだ。


 で、これからどうしていくべきなのかについてなのだが、やはり捜索の方は俺たち以外の組織に任せ、こちらはこちらで『迎え撃つ』姿勢を取りつつ待機しているしかないのではといったところ。


 そうでなければ、こちらから動き回ってしまえば、いつかどこかで敵のフィールドに入り込んでしまうような気がするし、それはもう思う壺という言葉が良く似合う愚策である。


 というような内容を代表して本日の成果を報告に来た兵士とゴンザレスに伝え、勇者パーティーは一旦引き籠ることについて了解を得た……



「では俺達はこれで帰還することとしよう、何かあったらまた報告に来るゆえ、もしその場で敵が出現しても良いぐらいの態勢で待っていてくれ」


「わかった、じゃあ頼んだ……と、それでこっちはどうする? 食料の備蓄なんかは別に問題ないと思うんだが、それ以外の点についてだ」


「はいはいっ! あまりにも暇です、この間までずっと地下の変な所に居たのに、今度は家に居なくちゃならないなんてっ!」


「そう言われてもな……屋敷をテーマパーク化するわけにもいかないし……」


「出来るとしてもせいぜいこのテラスから滑り台を付けて温泉に……ぐらいよね、それの何が面白いのかはわからないけど」


「最初の3回ぐらいは面白そうな案だな、それ以後は知らんけど、他はどうだ? 何かこう、暇潰しとか可能な作戦が……ないよな」


『・・・・・・・・・・』



 あまりにもやることがないという状況に追い込まれてしまった俺達、もちろん毎日誰かがここへ報告に来るのであろうが、引き籠ってしまっている以上実際に外の様子を確認することは出来ない。


 良く言われる引き籠りなどという人種は、一体何が面白くてこのようなことをしているのかと思ってしまうのだが、本人らにとっても決して面白いと思えるようなことではないのであろう。


 しかしいくらそのような状態とはいえ、こちらは1人ではなくそこそこの大所帯であるということ、そして屋敷もそこそこ広く、訪問者も普通に受け付けているということを意識して動いていくことが可能だ。


 ということで敵が痺れを切らして向こうから攻めて来るまでの間、出来る限りこの状況をエンジョイするための作戦を考えることとしよう……



「う~ん、毎日ホームパーティーとかはどうですか? もちろん誰かに食材を持参させて、庭でバーベキューをし続けるとかそういうのです」


「なるほど、食材持参ってのがキモになりそうだな、燃料代だけになるし、それならコスパは最強だぞ」


「むしろ燃料も持って来させたらどうかしら? 食材だけの人にはもう生肉を口に突っ込んでやるぐらいの勢いで」


「精霊様、生肉がもったいないです……」


「そうかしら、じゃあ食材しか持って来なかったのは草むしりでもさせておいて、それさえも持って来なかった図々しい奴は、腕でも斬り落としてその辺で焚火して焼いてあげましょ、もちろん屋敷の外でやらせることになるけど」


「まぁ、じゃあそんなところだな、マリエル、早速王宮に依頼して募集文書をバラ撒かせるんだ」


「わかりました、ではすぐにこの伝書鳩で……こんな感じですかね……」



 やるべきことは決まってしまった場合には、もう間髪入れずに実行に移すというのが俺達の普段のスタイルなのだ。


 超高速で飛ぶ伝書鳩は王宮へと到達し、しばらくしてチラシのようなもの、もちろん『sample』と書かれたものなのだが、それを持って戻って来た。


 なかなか良い感じのチラシではないか、食材とそれに対して十分に火が通せるだけの燃料を持参のうえ、勇者ハウスまで集合せよという内容のもの。


 当然のことながら、高級な食材を持ち込んだ者が優先されるということと、あまりにも不潔だとかそういう奴はその場で排除されるということも明記されている。


 そしてこんなチラシを撒いてしまう以上、敵であるその毒使いの目にもすぐに触れてしまうことであろう。

 そうなれば俺達がこの場に引き籠ること、そしてわざわざ敵のフィールドまで出張っていくつもりがないことなどは容易にわかってしまうはず。


 もしかするとそれを見た敵はすぐに、もちろん招待客に紛れ込むようなかたちでやって来るのかも知れないな。


 しかしその場合というのはかなりの好都合なパターンであるといえよう、俺達のホームで、周囲の破壊に対して十分な対策をしたうえで戦うことが出来るのだから……



「よしっ、じゃあ女神を呼んでくれ、もしイベントに敵が来て暴れても良いように、戦闘が始まる雰囲気が醸し出されたらすぐにどこかへ転移する感じの仕掛けを構築させるんだ」


「なかなか難しいことを言うな主殿は……女神様にあっても、そのようなことが可能なのか……まぁ、そこは都合良くどうにかなるパターンか……」


「きっとな、とにかく女神……と、バーベキューか何かのオーラを感じ取って自分から来ていたのか、ちょっとこっち来い、話がある」


「勇者よ、何やら楽し気なイベントのオーラを察知したのですが……え? ちょっと、私にだけ何か面倒なことをしろというのですか?」


「当たり前だ、それとアレだぞ、食材と燃料を持参していない奴は参加拒否でブチ殺し確定だからな、一旦神界に戻って出直した方が身のためだと思うぞ」


「ひぃぃぃっ! すっ、すぐに戻って……」


「戻るのは仕事をした後だ、ちょっと、俺達と、もし万が一敵が出現したらその敵、そのどちらもがもっとこう、アレだ、意味わからん場所へ転移するための仕掛けを構築しろ、わかったな?」


「難しいことを言いますね……意味がわからない所というのは……大規模な戦闘においても人的被害が想定されない地域ということですね、わかりました」


「おう、わかったらサッサとやれ、10秒以内だ」



 女神はやはりその都合が良い仕掛けをどうにかすることが出来てしまうようで、すぐに作業に取り掛かり、本当に10秒以内で全てを完成させていた。


 その後、神界の食材と凄い燃料をゲットしに行くべく一度戻って行ったのだが……その間に客らしき人物が乗っていると考えることにつき妥当な高級馬車が屋敷の前に到着していたようだ。


 降りて来たのはまず高級そうな兵士、コイツは参加者ではなさそうだが、それに続いて駄王と、それからババァ総務大臣と……マリエルの弟のインテリノ王子、合計3人であった、高級な連中である。


 しかもそこそこ良い食材と燃料を持って来たようだ、これはもう女神など待っている暇ではないな、早速イベントの方を開始することとしよう。


 すぐにアイリスと、それからミラも手伝って食材の方をどうにかし、せっかくなので火の番は普段働きもしないニート悪魔のエリナにやらせ、俺はゲストの所で真面目な、普段の仕事の話を始める……



「それで、明日以降も兵士を動員して敵の捜索をしてくれるんだろうな? 俺達はご覧の通りここから動けないわけだから、今回の一戦は王国軍が有能なのか無能なのかに懸かってきているんだぞ」


「勇者よ、その前にまず敵がどういう存在なのかということをキッチリ教えぬか、情報としてはまだ毒と剣技の使い手であるということと、それからこの世界の存在ではないということぐらいしか得ていないのじゃが……」


「うむ、まぁ俺達も似たようなものなんだよ、敵は魔界の存在だし、こっちから色々と調べに行くわけにもいかないからな……もっとも、今回の敵を始末した後はもうこっちから……みたいな予定ではいるけどな」


「ふむ、それで、今回のその毒使いの剣士か、わけのわからん存在じゃが、勝算はあるのかの?」


「わからん、だが少なくとも毒が使えないエリアで戦えば、気を付けるのは剣技ぐらいってことなんだよ、もちろん自分で毒を、全くのゼロから生成することが可能ってなら話は別だが」


「そうでない可能性が現状では高い……ということなのじゃな?」


「そんなところだ、だが敵が本拠地にしている場所の『毒』を片付けるわけにもいかない状況だからな、これ以上は食事時に話する内容ではないが……」



 直接会って話をするのは少し久しぶりな気がしなくもない王国の中枢連中だが、情報などの提供は常にしているため、現況について何もわかっていないということではないらしい。


 今回も純粋に食事を楽しみに来たとか、俺達をねぎらうために来たとか、そういうわけではないのであろう。

 ここでさらに情報を共有して、王国軍も独自に動いて活躍してやろうというのが本心であるに違いない。


 だが当然のことながら軍の一兵卒が今回の敵と戦ったところで意味はない、どころか無駄に鬱陶しいと思われれば悲惨な事態を招く結果となってしまうのは確実。


 余計なことはしてくれるなと、とにかく軍は情報だけ、敵の消息についてだけ調べてくれればそれで良いという話をしておこう……



「……それで勇者よ、おぬし等はいつまでここに引き籠っているつもりなんじゃ? キリの良いところで待つのは諦めて打って出るとか、そういうことは一切考えておらぬのか?」


「そうだな、敵があまりにもアレな奴で、こっちが出て来ないのなら毎秒都市をひとつ滅ぼしていく……みたいな鬼畜ムーブを予告してきたら話は別だが、基本的にはここで待つ姿勢でいようと思ってはいるところだ」


「ふむ、となるとここで敵を迎え撃つのがほぼ確定で……それはかなりヤバいのではあるまいか? 王都がどうにかなってしまうぞい」


「それについても対策済みだ、戦闘に関しては俺達に任せておいてくれれば良い、軍の方はやはり情報の取得と共有あとは……」


「無差別の毒物テロにも気を付けなさい、ホントに何をしてくる敵かわからないような状態だし、まぁ、といっても気を付けようがないんだとは思うけど、もし何かあったら人員の避難をって感じね」


「なるほどな、無差別のテロを、しかも毒物でとなると厄介じゃの、誰かが死ぬ直前、いや大量の死者を出してからようやく何が起こっているのかに気付いて……ということにならぬようにせねば……」



 ひとまずはそんな感じの話をしておき、そこで新たな客が続々とやって来たため、話の方はもう切り上げて食事にすることとした。


 近所の連中と、それから俺達勇者パーティーではなく、来賓として勝手にやって来た国の中枢に取り入ろうと企む貴族、その他大勢が様々なものを持ち込んで宴に参加している。


 その日のうちに敵がやって来たりはしなかったのだが、念のため警戒だけは怠らないでおいたところ、そこそこに疲労したまま朝を迎えてしまったのであった……



 ※※※



「あらおはよう勇者様、今日もだらしない顔しているわね」


「何だセラか、今日も断崖絶壁のようなおっぱぶちゅぼへっ!」


「しばらくそこで死んでいなさいっ! というか、しばらくどころか今日もどこへも行けないのよね……」


「そんなこと言ってもな、敵が来るまではここで待っていないと……っと、ほら、兵士がやって来たぞ、何か報告があるみたいだからそれでも聞いて時間を潰そう」


「もう兵士の報告を聞くのが唯一の娯楽みたいになっているわね……」



 庭で食材および燃料持ち込みバーベキューをした日の翌日、秋晴れの超快晴だというのにどこへ行くことも許されない俺達は、屋敷の中からボーっと外の様子を眺めていた。


 王国軍の兵士が1人、こちらに向かって手を振りながらやって来るのだが、適当に手を振り返しつつ待つと……どうやら少しばかり急いでいるようだな、何かあったに違いないが、面白いことではなさそうだな……



「すみませんお忙しいところっ! 緊急の報告があって参りましたっ!」


「ホントだよ全く、こっちはガチで忙しいんだ、報告ならサッサと済ませるように」


「ハッ! それで早速本題なのですが、勇者パーティーが追跡している敵らしき人物、臭っせぇアジトを出て、どういうわけか無臭の状態で王都の商店街へと紛れ込みましたっ! しかも高い場所に上ってこっち見てるとかそういう系のムーブもしておりましたっ! 報告終わりっ!」


「そうか、こっち見てんじゃねぇって言っておけ、あと余裕があったらそっちから攻撃を仕掛けてくるように、それ以外では戦闘をしないと伝えて欲しい」


「畏まりましたっ! 現在複数名で奴の動きを監視しておりますゆえっ、すぐに戻って……あれ?」


「どうしたんだ? ウ○コしたいというのなら便所は貸さないぞ、その辺でして来い」


「いえ、その監視をしているはずの兵がどういうわけかこちらに……飛んで来ているのですが……」


「アレか、どうやら投げ飛ばされてしまったらしいな、ほら、地面に叩き付けられてグチャッとなったぞ、ちょっと調べて来るんだ、敵からのメッセージとかが隠れているのかも知れないからな」


「え、えぇっ……すぐに行って参りますっ!」



 屋敷から少し離れた場所、その路上に、まるで鳥がうっかり落としてしまったイモムシのように叩き付けられ、汚い血溜まりを形成したのは明らかに王国軍兵士の格好をした人間……つい先程まで人間であった何かだ。


 きっと見張られていることにムカついた敵が投げて寄越したのであろうが、屋敷にぶつけてくるようなことはせず、手前に落とす辺りが何となく気に掛かるところ。


 通常であればその兵士1人を投げることによって、普通にこの屋敷を全壊させることぐらいは可能であるはずなのだが……それをしないことに何か理由があるというのか。


 ひとまずやって来ていた兵士にその死体を探らせると、何やらメモのようなものが背中に突き刺さった金属の棒に結び付けられているとのこと。


 早速それを持って来るように言い……と、そんなモノを手渡されても困るな、血みどろで清潔とは思えないそのメモは、俺達が受け取るのではなく兵士に読ませることとした。


 すぐにこちらへ駆け寄り、汚物をもって建物には入るなという命令通り、庭から大声でその内容を報告し出す兵士……なかなかデカい声で近所迷惑だな……



「え~っ! 我は神である、魔界の、恐ろしき力をもって人族などという矮小な存在を蹂躙すべき神である、貴様等はこの世界の勇者パーティーであり、かの三倍体を屠った者共であるから、ぜひ我の『古民家カフェ』に招待したく、ここに文書をもって通知することとした、昨日はおかしな時間に来訪してくれたようだが、次は夕方以降に参られよ……だそうです」


「……死ねって言っといてくれ、貴様のような汚物など、相手にする勇者パーティー様ではないわと、中指立ててな」


「それをしたら我々が殺されるのでは……いえ、今この場でぶっ飛ばされるよりはマシです、はい」


「じゃあ早く行きなさい、こんな所で油を売っていると、税金で雇われている兵士がサボって油売ってるって言いふらすわよっ」


「へっ、へへーっ!」



 通報にビビッてダッシュで屋敷を出ていく兵士、しばらくするとそのままの姿で戻って来て……もちろん飛んで来たため地面に叩き付けられ、そのままグチャッと潰れてしまったのではあるが。


 と、そんなかわいそうな兵士がこの世を去った瞬間を遠くから見ていたのはゴンザレス。

 どうやら別件で何か言いに来たらしいが、地面に広がるふたつの血溜まりを見て、何かが起こっていることだけは察したらしい。


 そのまま新しい方の血溜まりへと近付いたゴンザレス……やはり背中にメモというか手紙というか、文書の類が添付されていたようだ。


 それを拾い上げ、無駄に食べようとしていたためヤギのような真似はするなと忠告し、そのままこちらへ持って来て貰うようにお願いした……



「おう勇者殿、何だか知らんが既に2人の兵が戦死を遂げているではないか、これは敵の仕業か?」


「そうなんだ、マジで鬱陶しい奴なんだよ今回の敵は、それで、鬱陶しいついでにその手紙みたいなの、内容を読んで聞かせてくれないか?」


「おうっ、ふむ、神である我の誘いを断るとは思いもしなかった、この世界の勇者パーティーは恐ろしく多忙であると、そう捉えて良いのか? しかし我は諦めぬ、明日以降、毎日DMをポストに投函するなどして、必ず貴様等が我が店へと足を運ぶよう努めようではないか……だそうだが、これは相当にウザい奴のようだな」


「あぁ、徐々に迫ってきていやがる、だがこれで良いような気もするぞ……」



 ウザい文書を発行しつつ、先程よりも迫ってきている様子の敵、もちろんまだ姿は見ていない。

 だがこのままいけば、そのうちに屋敷の前にでも張り付くようになり、そして最終的にはデッドラインを割って侵入してくるはずだ……

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