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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1136 オシャレじゃない

「お~いっ、誰かこの近くにある古民家カフェ? だか何だかを知らないか~っ? 最近オープンしたらしいんだが~っ! お~いっ!」


「普通に誰も知らないみたいですね、というかこの近くにそんなものがあるようには思えませんし、やっぱり少し離れた場所とかじゃないんでしょうか?」


「そうかな、やっぱり周りに他のものが何もなかったから、ひとまず一番目立つ『東の農場』とか言っちゃったりしたってことか? 知らんけど」


「でもそうなるとですよ、この近くなのは確かってことになりますの、とにかく周囲を探してみますわよ」


「だな、ちょっと離れているけど農場の近くと言えなくもないような、新しい建物の古民家カフェを探すんだ、どうせ特徴的な見た目だろうから近付いてみればすぐにわかるだろうからな」



 町中でカレンの腕を掴んだという変質者、それが経営していて、そこに誘いたかったのだという『古民家カフェ』を探すべく、俺達はパーティー全員でカチコミの態勢を整えて東の農場へと向かった。


 ここは王都の食糧危機に対応すべく新設された東西ふたつの農場のうちの片方で、基本的に野菜類が栽培されているのだが、今は芋類が主体のようで、カロリーベースの食糧自給率が上がりそうで良い感じである。


 で、その農場自体ではなく、おそらく魔界から送られて来た刺客なのであろうその変質者の経営する、古民家カフェの建物を探し当てなくてはならないのだが……これがなかなかに見つからない。


 普通に目立つものだと思っていたのだが、どうやらそうではないらしく、むしろ農場で働かされている従業員らの宿舎が邪魔で見通しが利かない場所も多いのだ。


 その辺で出会った連中に聞いてみても、特にそのような店舗がオープンしたという話しは聞いていないという答えばかりだし、そもそも本当にそんなものがあるのかが怪しくなってきたのだが……



「……ダメだ、何の情報も手懸かりもないし、もしかしたら古民家カフェの存在自体がガセだったのかも知れないな」


「う~ん、カレンちゃんを誘い出して無力化するためのウソってことよね、それなら焼き肉屋さんとかの方が釣れると思うんだけど」


「わうっ、今日は焼き肉屋さんに行くんですかっ? どこですか焼き肉屋さんはっ? 早く行きましょう!」


「はいはい後でね、ほらこんな感じ、そのときにそういう系統のお店を出していたらイチコロだったと思うのよ、もちろんリリィちゃんも同じように」


「なるほどな……となると古民家カフェってのはガチの可能性が高くて、俺達が発見出来ていないだけってことか……う~む困ったな……っと、あそこに集まっている連中は何だ?」



 どうしたものかと困り果てていると、農場の隅に固まっていた作業員の集団、およそ20名程度である。

 魔王軍の中から降伏することを許され、そして王都に入ることまで許された連中だが、その中でも特に戦闘タイプの魔族ばかりであることがわかるその集団。


 ガヤガヤと話をしてはいるのだが、まだ日が高いというのにこんな所で何をしているのだと、誰もそれらに問いかけようとしないのが気になる。


 だがどうやらサボっているわけではなく、どこかへ移動するために集まっている、というか募られて応募してきた連中のようだ。


 王都の役人らしい、ひ弱そうな人族のおっさんがどこからともなくやって来ると、こっちだと呼んでそれと合流している……



「なぁマーサ、あいつ等どこへ行くつもりなんだ? 役人に許可……じゃなくて向こうからお願いしている感じだな、ちょっとトクベツでスペシャルな作業でもあるのか?」


「う~ん、ちょっと大変な作業場があるんじゃないかしら? でもそんな急斜面とかそういう所に何か作ったような覚えはないし……直接聞いた方が早いわよ絶対」


「そうだな、せっかく役人も居るわけだし、ここで話し掛けたからといってトラブルを起こすような真似はしないだろうからな、お~いっ」



 こちらの呼びかけに気付いた様子のその集団、監視というか何というか、とにかく移動に付き添うらしい人族の役人は特に口を出さないが、魔族の集団は俺達が勇者パーティーであるということを認識したらしい。


 だがここで喧嘩腰になったり、戦闘を仕掛けてくるようなことはせず、むしろ少しでも多くの時間を無駄に費やすための、サボるためのチャンスとして捉えているようだ。


 すぐにニコニコでこちらの呼びかけに応じたのは、そこそこ強そうな感じの、しかも無駄にエッチな格好をした魔族の女戦士といった感じの者で……振り返ってみるとおっぱいが凄い……



「何だねあんた達、勇者パーティーだろう? こんな所で何をしているのさ?」

「言っておくけど私達、あんた等に討伐されるようなことはしていないからね」

「この人族の役人も違うっすよ、カツアゲとかしてたんじゃないっすからマジで」


「いやいや、農場を出てどこかに移動するつもりだったようだからな、一応どこに行くのかということと、もし恒常的に移動してんならこの付近について詳しいのかなと思ってさ」


「あぁ、結構しょっちゅう移動しているからね、この周りにはそこそこ詳しいはず……で、今日はこれからちょっとハードな作業に行くってわけさ、アタイ等選ばれし戦士達がね」


「ハードな作業……というと何なのかしら? やっぱり力仕事なの? そんなのそっちのヒョロガリ役人にでもやらせておけばいいのに」


「そうじゃないんだ、これからアタイ等が行くのははアレだよ、ほら、こういう畑とかには欠かせない、生ゴミとかあんなモノやこんなモノをアレして……まぁ、肥料のためのアレがある場所だよ」

「肥溜めだけどな、めっちゃでっかいんだ、そこで作業すれば特別報酬としてちっさい、でもキンキンに冷えた酒が貰えるんだぜ」

「馬鹿! 淑女が肥溜めなんて言葉使うもんじゃないよっ!」

「どこが淑女だしマジでウケるわ姉さん」


「……もしかしてその肥溜めってさ、近くに変な建物とか出来てたりしない?」


「……あっ、そういえば最近意味わかんない所にカフェが出来ていたわね、普通にイッチバン臭っせぇ肥溜めが庭の池みたいになっててよ、確実にやべぇ奴がやってるっしょアレは」

「しかもちょっと禍々しいオーラも感じたっすよ、アレ、間違いなく魔の者が関与した施設っしょ」


「そこだっ! ちょっと俺達も付いて行って良いか? 今日だけだが、もしかしたらそのカフェを経営しているやべぇ奴、俺達の仲間に手を出そうとした犯罪者かも知れないんだ……と、そっちの木っ端役人は来なくて良いぞ、死ぬか帰るかどっちかにしろ」


「そそそそっ、そう言われましても、私には監視業務というものがあって……」


「じゃあクビだ、明日から来なくて良い、もし来たら物理で首が逝くからな、もちろん犯罪者に対する処刑としてな」


「ひぃぃぃっ! お助けぇぇぇっ!」



 色々と邪魔になりそうなヒョロヒョロの人族である木っ端役人をどこかへやり、俺達は魔族達と一緒にその肥溜めのすぐ横に造られたというカフェへ行ってみることとした。


 もちろん臭いに敏感な仲間は少し嫌そうな感じを見せたのだが、そこでの作業用の完全防備、もちろんガスマスクのようなものもセットになった装備を渡され、渋々付いて来る感じである。


 しかしマーサがその場所についてあまり詳しくないのも頷けるな、かなり激クサであるようだし、周りの農場関係者も臭いに敏感な者をそこへは近付かせないようにしていたに違いない。


 で、そこでの重要な作業、もちろんこの世界においては機械的なものなど存在しないため、全て手作業で、誰かが気合を入れてやらなくてはならないのだが、ちょっとした追加報酬のためにそれを買って出たのがこの連中ということだ。


 道中話をしながら、そこには何があってだとか、すぐそこには店があるが買い食いが禁止されているうえに、そもそも金を持っていないなどの愚痴も聞かされる。


 何か差し入れてやるにしても、他にも農場で働いている元魔王軍の連中はかなりの数が居るわけだし、それ以外の一般的な囚人なども連れて来られているわけだから、それら全部に平等に……ということになってしまうと大事だ。


 それゆえそういった類の話は聞き流しつつ、目的地についての話に話題をすり替えたりしていたのだが……近付くにつれてその話は不要になってきた。


 もう明らかに肥料の大集積場が近くにあるとか、そういった感じの臭いが風に乗って流れてきたのだ。

 特に防御を施していない、そこまでしなくても良いと思っていた俺はもう鼻が曲がりそうである。


 そしてその激臭の中でどうにか目を開けると……かなり先にポツンと建っている小さな建物がひとつ。

 懐かしささえ感じさせるが、それで真新しいと思しきその建物は……確かに隣の肥溜めが庭池のようだ。


 生垣……ではなく生ゴミが引っ掛かった柵で囲まれたその異様な建物には、『古民家カフェ 魔界』という看板が掛かって……露骨すぎる魔界アピールだなコレは……



「どうだい? アレがさっきアタイ等が言っていた変なカフェだよ、どう考えてもやべぇだろあの場所は?」


「あぁ、とんでもない奴が経営しているのは確実なんだが……今は特段オーラも何も感じないな、もしかすると留守なのか?」


「見て下さい勇者様、『準備中』の札が出ていますよ、営業は……夕方から深夜日付が変わるまでだそうです」


「カフェじゃなくて居酒屋だろそれはっ! どうなってんだ? いや中でカレンの腕を掴んだ変質者が仕込みを……している様子もないな、完全に留守のようだ」



 良い感じになった肥料を農場へ持って行くという作業員の連中と別れ、俺達は案内されたそのトンデモなカフェの様子を見に行くこととした。


 当然俺以外の仲間は完全防備であって、むしろ俺だけハイヒールで登山に来た舐めプの女子大生のようになっているのだが、装備が余っていないためもうどうしようもない。


 今はとにかく早めにこの場所でのひと通りの捜索を終え、屋敷へ戻ってすぐにこの激臭を洗い流すべきところだ。

 準備中だか何だか知らないが、とにかく中の様子を確認してしまおう、もちろん建物ごと破壊してしまうのもアリとして……



「オラァァァッ! 臭っせぇんだよこのボケがぁぁぁっ! 死ねぇぇぇっ! ってんじゃねぇゴラァァァッ! ボケェェェッ……クッ、足が痛ってぇぜ……」


「……全然壊れないわね扉……もしかしてあの地下施設と同じぐらい頑丈なんじゃない?」


「マジかよFUCKだなっ! ちょっ、精霊様やってくれ」


「無理よ、きっと私の力でも破壊することは叶わないわ、それよりも……はいサリナちゃん」


「えぇ、ピッキングして普通に開けた方が早いと思います、せっかくマイナスドライバーも持って来ましたから」


「おうっ、ちょっとぐらい犯罪チックでも良いからとっとと頼む、もう臭くて敵わねぇってんだよこんな場所」


「任せて下さい、ここをこうしてチョイチョイッと……開きませんね、凄く特殊な魔法? じゃなくて神の力で封印されているようで……」


「クソッ、犯罪行為でもダメとか舐めてんじゃねぇぞ、とりあえずアレだ、もう耐えられないから出直そうぜ、ここはひとまず」


「じゃあ最後に放火してから帰りますの、いかに頑丈な造りとはいえ、火を掛けられたらもうお終いなはずですことよ」


「馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ、こんなにガスだらけの場所で火なんか使ってみろ、大爆発とかそれどころじゃねぇ、汚ったねぇ肥溜め大爆発なんだぞ」


「それは危険極まりないですの……じゃあ今回はこのまま諦めるということで、明日の夕方とかに出直したらどうです?」


「うむ、そんなもんだな、とにかく臭っせぇから早く帰ろうぜっ」



 完全防備の仲間達にはわからないらしいのだが、生身でこの巨大肥溜めの隣に立たされるのはひとたまりもない。

 というかこの肥溜めから毒を抽出して、それを俺達との戦いに利用しようとしているのだな今回の敵は。


 もしその毒があまりにも不潔なもの由来であるということがわかっているとしたら、というかもうわかってしまったのだが、普通に毒攻撃を喰らうよりも数万倍イヤなことである。


 となると、やはり俺達がここへ来てしまうのは間違いなのではないか? ここであれば敵は無尽蔵にその毒とやらを調達することが出来るはずだし、むしろ俺達がこうやってここへ調査しに来ているのは敵の思うところであって……奴が戻る前に撤退した方が良さそうだな。


 こんな場所で偶然バッタリ出会ってしまって、そのままバトルに突入するようなことがあれば、それこそ避けんとしていた『敵のフィールドでの戦い』というものになってしまうではないか。


 そう考えてそそくさと退散した俺達は、そのまま屋敷へ戻って他の連中、王都内を調べている兵士や筋肉団からの報告を待つこととした……



 ※※※



「ふぅっ、やっと臭っせぇのが落ちたような気がするぜ、対激臭防御装備ナシであんな所へ行くのは二度とごめんだ」


「というか、あんな場所にカフェをオープンしても誰も来ませんよね普通、どうやって儲けようとしているんでしょうかあそこで?」


「ルビア、きっとだが奴、というかカレンとリリィ以外はまだ姿を見てもいないんだが、とにかく敵の神はここで儲けようという気なんか一切ないだろうよ、地上に居て、それで拠点に出来ていればもう何でも良いんだ」


「なるほど……逆に儲ける気がないあたり、魔界の神様があの場所でカフェをしている証拠だと……」


「まぁそんなところだ、さて、そろそろ風呂から上がらないと、夕方になったら報告の連中が来るに違いないからな、それに対応出来るようにしておかないとだ」


「あ、はーいっ」



 屋敷ではひとまず風呂に入って激臭をどうにかし、それが染み付いてしまっていないことを確認した後にようやく建物の中へ入る。


 もう二度と行かないとは誓ったものの、だからといって敵がこちらへ来てくれるとも限らないし、あの感じでは『来てくれた場合』であっても何か悲惨なことになりそうな予感しかしない。


 きっと毒を抽出する過程で汚物に触れまくり、とんでもない臭いを放っているのであろう今回の敵。

 いや、カレンとリリィが出会った際に臭かったようなことを言っていなかったので、もしかするとそこまでではないのであろうか。


 と、ここでゴンザレスがズカズカと勝手に屋敷の中へ入って来たではないか、ルビアには以降自分で髪の毛を拭くように言ってタオルを手渡し、俺はそのデカいおっさんの方を迎え入れる……



「おう勇者殿、こんなに早く帰っているとは珍しいではないか」


「あぁ、ちょっと臭すぎる場所に行ってしまってな、活動の限界がアレでリタイアしてきたんだよ、で、そっちの成果は?」


「おうっ! 似顔絵の人物……というか神なのか、それに関しての目撃情報が2,000件程度集まったな、主にこの近くの商店街での目撃が多いようだ」


「わうっ、私が腕を掴まれたのもその近くです」


「ふむ、となるとやっぱり昼間はその付近を中心に活動して……いや、一体そこで何をしているんだ? 俺達勇者パーティーを狙っているのなら、もっとこう、近くで動いていた方が良いような気がするんだが……」


「なぜだろうな、俺達にも皆目見当が付かないことだよ」



 特にこちらを見張ったり、襲撃を仕掛けてくるという感じではないものの、それでいて近くを徘徊し、さらにこちらのメンバーに対して声を掛けたり、腕を掴んで引っ張ったりという変態行為をしてくるのが気掛かりだ。


 で、ゴンザレスに遅れてやって来た国の兵士にあっても、やはり今日1日の捜索等を経て、怪しい変質者の目撃情報を多数獲得していたのだが……こちらはさらに追加の情報を有していた。


 なんと、その変質者が偶然にも『帰宅』するところを目撃した王都民が居たらしいのだ。

 もちろんたまたま見かけたとかではなく、明らかに怪しいので隙を見て憲兵に通報しようと考えて追跡していたとのこと。


 その際には『あまりにも臭いエリア』に突入してしまったため、通報を諦めて引き返すこととしたらしいその王都民は、遠巻きに何か不気味な力の波動を、その変質者が帰って行った方向から感じたと、そう言っていたという情報だ……



「その目撃したのは昨日の話らしいのですが、どうやら王都の東エリア……この辺り、大農場付近ですね、その中にある明らかに肥料の製造エリアだと思しき場所に入って行って、さらにそこで波動……というよりも実際に黒い光を見たとの話しでした」


「……それは間違いないわね、黒い波動と光、もちろんその辺のモブ人族にも感じ取ることが出来るようなもの、つまり神が神々しいものだと感じるのと真逆の感覚よね、それがあるってことは……神、魔界の神ということで確定してしまって良いと思う」


「うむ、じゃあその神であり敵確定の奴は昼間は町でフラフラ、そんでもって夜になると古民家カフェ? に引き篭もって何かしていると」


「おう勇者殿、一般人でさえ黒い、邪悪なる波動を感じてしまうということは、相当なことをその場所でやっているということになるぞ、一体何を?」


「毒らしい、毒の抽出をしているんだきっと、畑とかで使う肥料……というよりもその前段階の生ゴミとか汚物とかからな」


「毒を……それであればその場所を浄化、いやそうすると肥料が手に入らなくなるのか……実に難しいことだな」


「あぁ、俺達が手を出せない『毒抽出エリア』ということでその場所を選んだのかも知れないな奴は、厄介な野朗だぜ全く……」



 そこで奴が何をして、どういうタイプの毒を抽出しているというのか、また町での、商店街での一見無意味とも取れる行動は何を意味しているのか。


 その辺りをこれから調べていく必要があるのだが……ひとまず俺達があの場所へ近付くのは良くない。

 誰かに調査を任せて、俺達は俺達で敵の得意フィールドに足を踏み入れないよう努めなくては……

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