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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1135 毒使いで剣士で

「はいはいおかえりなさい、お風呂沸いてますから入ってどうぞ~っ」


「いえ温泉だからずっと沸いてますのよ、というかエリナはどうしてそんなにツルツルスベスベなんですの? まさか私達が苦労している間ずっと……」


「はいはいはいはい、余計な詮索はしないっ、それよりも勇者さん、お留守の間あの魔界の神様が何だか毎日のように色々聞いてきたりしていましたよ」


「そうか、で、魔界の方で何か動きがあったのか? 新しく敵が送られて来るかもとか、そういう情報は?」


「わかりませんね、後半ちょっとしつこかったし元々ウザいのでちょっと無視したりしてましたから……と、噂をすればその神様からです」


「そうか、適当に来てちょっと待つように言ってくれ、もちろん茶なんか出さなくても良い、水も要らんぞ」


「あ、はーいっ」



 ちょうど良いタイミングと言えばそうなのだが、帰って来たばかりの俺達にあの鬱陶しい馬鹿の相手をするというのはそこそこ辛いことである。


 よって少し時間を空け、それこそ庭の温泉に入ってから対応しようということで、着替えを準備していると……明らかに感じられる禍々しいオーラ、呼ばれて顕現するのだけは早いようだ。


 で、そんな魔界の神を無視して庭の温泉にゆっくりと浸かり、出て来たところでイライラしながら待っているその神の目の前でコーヒー牛乳を飲み干すパフォーマンスをしておく。


 そんなものはどうでも良いから早く席に着けと促してくる魔界の神……どうやら俺達に何か伝えたいことがあるようだな。


 どうせたいしたことではないとも思うのだが、敵関連の情報を集めることが可能なのはコイツだけであるから、ご機嫌を損ねないように話を聞いてやらなくてはならない……



「……うむ、ようやく静かになったか、この我がせっかく新たな情報を仕入れて来てやったというのに、こんなにも待たせるとは不敬の極みで……と、話が逸れると良くない、とりあえずだが、『三倍体』についてはもう倒して、それゆえ戻って来たということで良いのだな? まぁそれ以外考えられんのだが」


「もちろんだ、俺様の勇気とパワーとテクニックで一撃必殺だったぜあんな野朗、ま、ゴミみたいなもんだな、お前と一緒で」


「ぐぬぬぬっ、少し強くなったからといって調子に乗りやがって、いつか痛い目を見るのが……それはもうすぐのことかも知れんな」


「何だ? 何かやべぇ奴でも送られてくるのか? もしかして次の敵は相当に強力な奴なのか?」


「あぁ、きっとアイツが来るに違いねぇと、ちょっと魔界の方で送っておいた密偵から情報が入った、この世界の、しかもこの人族の町の観光パンフレットを見てニヤニヤしていたらしいからな、もう間違いなくそいつが来るだろうと言ったところだ」


「そんな奴が本当に強いのかよ……三倍体と比較してどうなんだ?」


「うむ、おそらくではあるが、フリーで戦えばパワー、勇気、テクニックのどれを取っても三倍体の方がうえであるように思える」


「じゃあたいしたことないじゃん、雑魚じゃんそんな奴、うちひとつにおいて三倍体の方が上とかならわかるが、全部下回ってんだろ?」


「てかさっきからその三要素どれだけ重視しているわけあんた達……」


「いやいや、それは戦闘の場所をランダムで選んだ場合の評価だ、奴は特定の場所、特定のシチュエーションにあっては、おそらくホネスケルトン神よりも強いのではないかと、そう目されているような強者なんだ」


「特定のシチュエーション……」



 何だか知らないがとにかくその敵が強いということを主張したいらしい魔界の神、しかし説明がザックリしすぎていてまるで伝わってこないというような状況だ。


 むしろ特定のシチュエーションでのみ強いというのであれば、それさえ回避してしまえばもうこちらのものではないのかと、そうも思ってしまうようなところなのだが。


 で、これだけではまるでわからないということで、その神についての具体的な説明を聞くこととした俺達。

 魔界の神は偉そうにふんぞり返って、俺達にそれについての情報を教示し始めたのであった。


 まず、その神はもちろん魔界の神であって、そのタイプは『毒』であるということ、つまり毒を操って攻撃してくるということだが、実はそれだけではないらしい。


 毒を使いつつ、なんと剣技にも秀でているというのだ、毒と剣技、なかなかその両方を使いこなすようなタイプの戦士は居ないように思えるのだが、そいつに関してはとにかくそうらしいということ。


 また、その神が強い特定のシチュエーションというのは、毒を容易に用いることが可能であるシチュエーションということで、これでそいつのおおよその戦闘スタイルは見えてきた感じだ。


 きっと毒の沼地だとか瘴気渦巻く魔族領域だとか、そういう場所においては周囲の毒素をコントロールし、無限に攻撃してくるタイプなのであろう。


 で、もちろん俺達がそういう場所に近付かなければ、その敵の神が強力な毒攻撃を繰り出すことは出来ないわけであって、もしどこかから毒を運搬してきたとしても、その分量についてはたかが知れている。


 普通の場所において可能な限り毒を供給すべく、パイプラインのようなものを設置してきたりということも考えられるのだが、それはそれで破壊工作など、敵の戦力を削ぎ落すための手段がこちらにもあるので問題にはならない……



「……ってことでアレだな、その毒を使う魔界の神? しかも剣士だったか? 特に警戒する必要はないってことだな」


「しかし主殿、もしかしたら敵の毒抽出能力は極めて高いのかも知れないからな、念のため王都内を清潔に保つよう、人々に清掃ボランティアへの従事を呼び掛けよう」


「なるほどな、そうすれば完全に敵の動きを封じることが、まぁもちろん王都内においてのみだが、とにかく何も出来ないようにしてしまえるってことだな……そんな感じで戦えばどうだ?」


「どうもこうも、おそらくその程度では通用しないし、あの神は自分が有利になるよう、そういう系の場所に誘い込む方向で動いてくるはずだぞ、とにかく町の清掃など特に意味を成さないはずだ」


「そうなのか、ふーん……まぁ、そしたら『誘われても変な所には行かない』ということだけ徹底しておけばそれで良いんじゃないか?」


「その程度の単純な作戦でどうにかなるような相手ではないのだが……イマイチ伝わっていないようだな、やはり強くなろうが何だろうが馬鹿は馬鹿ということか、一歩たりとも成長していないゴミクズだなマジで」


「メチャクチャ言ってくれるなこの雑魚キャラは……」



 これで俺達が想像している以外の強さをその敵が発揮したとしたら、それはどう考えてもこの魔界の神の説明不足によるものだ。


 つまり本当に馬鹿なのはどちらだと、そういう話になってくるのだが……まぁ、これについても実際に戦ってみる以外にもうこれ以上の情報は集めようがないか。


 三倍体の奴を倒したばかりにつき、まだその敵の神はこの世界に顕現していないのであろうが、そのうちにやって来て攻撃を仕掛けてくる、或いは俺達に対して挑発を重ね、自分のフィールドに誘い込むようなことをしてくるのであろう。


 そうなったらもうすぐに戦いの準備をして、速攻で始末してまた次の敵を待つか……いや、そろそろこちら側から魔界に乗り込んでも良いような頃合ではないか。


 敵地へ赴くに際しては危険が伴うことが確実なのだが、それでも今の俺達の強さだ、行ってすぐに敗北してどうこう、などということはないであろう。


 もしこちらから攻めるとしたら、今回のその毒を使うという神が、魔界からこの世界へやってくるために用いたゲートを利用させて頂くことになる可能性が高そうか。


 それとも今目の前に居る協力者として引き込んだ雑魚神が、普段から使っているルートを拝借することになるのか……基本的にそのどちらかとなりそうな予感がする。



「よしっ、じゃあとにかく敵の誘いには乗らない、敵かどうかわからなくても知らない人にホイホイ付いて行かない、菓子を貰ってもだぞ、皆良いな? わかったな?」


「そう言われましてもご主人様、もし飴玉を貰ってしまったらさすがに……」


「ルビア、話を聞いていたのか? そもそも敵は毒の使い手なんだぞ、あの三倍体みたいに人間の姿で、口に入れただけで腹を壊すような飴玉を提供してくるかも知れないんだぞ」


「そう考えるとちょっとだけ恐ろしいですね……わかりました、しばらくの間は知らない人からお菓子を貰ったりしないようにしますね」


「しばらくの間じゃなくてずっとそうしてくれ……他に質問がある者は居るか?」


「はいっ!」


「あ、じゃあカレンさん、発言をどうぞ」


「知らない人から声を掛けられるんじゃなくて、いきなり攻撃を仕掛けられたらどうしますか?」


「それは……うむ、敵は能力を隠している可能性が高いからな、その場でパッと見で判断して、もしも自力で行けそうだと思ったとしてもだ、必ず『逃げる』を選択して一旦その場を離れるんだ、仲間とチームで戦わないと危険かも知れないからな」


「はーいっ、わかりましたーっ」


「ということで全員くれぐれも注意するように、また怪しい奴等を見かけた場合には俺か精霊様、或いはこの腐った神か、あとこの世界の女神辺りもどうせ暇なので誰かに報告するように、以上!」


『うぇ~いっ!』



 ということでやるべきことも、またやるべきでない禁忌とすべきことも基本的に決したため、あとは新たな敵の襲来を待ちつつ、屋敷でダラダラ過ごすこととした……



 ※※※



 それから数日後のことであった、武器屋へメンテナンス用品を買いに行ったカレンが、そしてそれに同行していたリリィが、帰り道で知らないおっさんに声を掛けられ、カレンに至っては腕も掴まれたとの報告を受ける……



「何か超キモい人で、カレンちゃんの腕をガッとやって、ちょっと待ってお嬢さんって」

「とにかく気持ち悪かったです、最近はそういうことなかったんでビックリしちゃいました」


「だろうな、まさか今更になってカレンのことを知らずに攫おうとするなんて、王都に来たばかりの変質者か、或いは……魔界から送られた敵かだな」


「それで、そいつは強そうだったの? それとも普通の人族と一緒ぐらいだった?」


「たぶん普通の、その辺に居る商人とかの人と変わらなかったです、普通にモヒカンの雑魚より弱い人だけど、言われていたんでやっつけずに逃げて来ました」


「ふ~ん……まぁその感じからすると十中八九魔界から送られてきた敵が、ピンポイントで2人を狙ったって感じね」


「そうなのか精霊様? 何を根拠にそんなこと……普通に知らなくて可愛いからみたいな、ごく一般的などこにでも居る犯罪者の可能性もあるだろうに」


「いえ、さすがに犯罪者でも、そしてカレンちゃんがこの小ささでも、通常の非戦闘員と同じ人族だったら単独でそのようなことはしないはずよ、相手が狼獣人じゃ分が悪いもの」


「なるほど、確かに専門の人攫いでもないとそう上手くはいかないだろうな……」



 カレンと、そしてリリィも一緒に居たというのに、当たり前のように体に触れるような行為をしてきたということは、それが何たいていの変態ではないか、或いは変態以外の何かであるということ。


 で、そもそも王都内で暗躍する、俺達が狩って回っているにも拘らずまだ活動を続けているような気合の入った変態は、もちろんカレンの顔もリリィの顔も、そしてその強さについてもご存じのはず。


 それを知らずに王都内で変態行為をしてきて、しかもその強さがその辺のモブの非戦闘員と同程度であるなど、言われてみれば考えられないとしか言いようがないものだ。


 となると、やはり精霊様の推測通りその変態が次の敵で、魔界からひっそりと送られて来た刺客であるということか。

 もちろん確定ではないのだが、現時点ではそうであると考えるのが妥当といったところである……



「それで、2人共最初は普通に話し掛けられたんですよね? 何を言われたんですか? パンツ見せてとかですか?」


「いえ、王都の東の農場の近くに、新しく建物から造って、綺麗な『古民家カフェ』をオープンしたから、今からすぐに来てくれとか言われました」


「建物から新しい古民家カフェとは一体……」


「それでっ、カレンちゃんがキモいから行きませんって言ったら腕とか掴まれちゃって、ダッシュで逃げて来ました」


「なるほどな、王都の東の農場近くか……マーサ、お前その辺りの担当だろう? 近くにカフェなんかあったか? というかもしそいつが敵だったとしたら、毒を使うようなことが可能となるエリアとかは?」


「う~ん、カフェなんか知らないわよ私、それと毒かぁ~……肥料にしようとして色々なものを棄てているアレはあったわよねさすがに、そのぐらいかしら?」


「何とも言えないわね、肥料とかの成分から毒を抽出することが出来るのかも知れないし、その肥料にしようとしているゴミとか汚物とかが直接操られて毒を出すのかもだし」


「まぁ、とにかくその辺りにカレンとリリィを呼び出して、特にリリィだろうな、もし俺達について深く調べているってんなら、まずは一番毒を喰らい易いリリィから無力化していくつもりだったんだろうよ」


「それと、カレン殿も毒の臭いで鼻を……ぐらいのつもりはあったのかも知れないな、逃げて来て正解であったと思うぞ」



 おそらくその場で戦うという選択肢をチョイスした場合、2人共あっという間に毒だの激臭だのの餌食となっていたことであろうし、敵もその準備をしてあったに違いない。


 これはしばらくの間は周囲の警戒を怠らず、もちろん単独や数人単位で外に出ない方が良いであろうな。

 最低でも6人程度で、人気のある場所のみにしか行かないというような対策も必要だ。


 三倍体が最後、形振り構わず俺達を倒しに来たことからも、次の敵はどうにかして俺達を無力化しようと、その力の源泉など調べるのではなくもう倒してしまおうとしている可能性もないとは言えないためだ。


 そして最初から倒してしまうつもりだというのであれば、いちいち全員を迎え撃つことなく、各個自分のフィールドに引き込んで撃破していくのが最も効率が良いと考えるはず。


 数人でもそれに嵌ってしまえばもう、俺達勇者パーティーは瓦解してそのまま良い感じにやられ尽くしてしまうであろう。

 それはさすがに避けたいし、俺達がどうにかなってしまえばもうこの世界は魔界のものであるから、それについても絶対的な回避が必要だ。


 ひとまずは協力者を募るなどして、俺達が直接動かなくても敵の動向を探れるようにしておかなくては。

 6人と6人で2チームに分かれてもそこまで情報は集まらないであろうし、もし可能であれば全員でまとまって動きたいところなのだ……



「勇者様、ひとまず王宮にヘルプの要請をしておきますね、兵士を使って怪しい奴を捜したり、向こうが近付きにくいように警戒して貰いましょう」


「そうだな、じゃあそっちはマリエルに頼んで、俺の方は……」


「おう勇者殿、今俺のことを呼ぼうとしていたんじゃないか?」


「うむ、さすがはゴンザレスだ、呼ばれる前に……と、説明しなくてももうわかっている感じか?」


「おうっ、とにかくこちらでチームを編成して、先程想像で似顔絵を描いておいたその変態とやらを捜索させよう、この顔で間違いないかな?」


「わおっ、全然特徴とか言ってないのにそっくりですっ!」


「ハッハッハ、そうだろうそうだろう、だいたいこういう感じの男なんだろうなと思ったのだよ」


「それはさすがに凄すぎなんじゃないのか……考えられない能力だぞ……」



 特徴も聞いていない、そもそも事件があったということも伝えられていないにも拘らず、極めて写実的なモンタージュを作成してから俺達の所へ来たらしいゴンザレス。


 そもそも事件発生から俺達が報告を受けて……まだ1時間も経過していないはずなのに、モンタージュの画像は既に手書きで300枚も量産され、筋肉団の隊員に配布されている。


 などと異常な能力を持つ人間……ではない何かに感動してしまったのだが、俺達も出来る限りのことをしておくこととしよう。


 まずは屋敷に残るメンバー、非戦闘員達の安全を確保したうえで、その変質者が言っていたという『王都東の農場近くの新しい古民家カフェ』へ行ってみるべきところだ。



「うむ、じゃあ全員絶対に逸れたりしないようにな、特にルビア、後ろで何か気になってもフラフラどっか行くんじゃないぞ、良いな?」


「わかりました~、というかそれはこの間『ゲーム』で練習したやつかも知れないですね」


「なるほど、こういった事態も見越して神々はゲームを……この世界の女神とはえらい差があるな能力とかそういうのに、今度機会があったら交換して貰った方が良いかも知れないぞ、どこかの世界の有能な神とな」


「あんな女神じゃ熨斗付けて送っても受け取り拒否されるわよきっと、叩いてストレス発散するぐらいしか用途がないもの」


「まぁ、それもそうだな……と、そんな奴の話はどうでも良い、とにかく全員でえ~っと、王都の東農場か、とにかくそこへ行ってみるぞ」


『うぇ~いっ!』



 ということで最初は馬車に乗り、最近出来たばかりであって、食糧危機に瀕している王都を、せめて野菜や穀物だけでもどうにかするための農場へと向かった。


 かなりの大規模で、降参して王都内に逃げ込むことを許された魔王軍の連中が耕す畑と、それからもう収穫を終えてしまったらしい田んぼ。


 そのどこを見渡しても特に目立ったものはなく、建物といえば作業員達の宿舎ぐらいのものにしか思えないのだが……本当にこの近くに『新しい古民家のカフェ』などというものがあるというのか。


 しかももしあるとしたら毒がどうのこうのの場所になくてはならないのだが、果たして……

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