1126 関与
「……やられたわね、完全にやられたし、武装役人はもう全員殺られたってことね、そこそこ悲惨な結末を迎えてしまったじゃないの」
「あのすみません、出撃した皆さんはいつになったら戻って来るのでしょうか……夜中には作戦終了だと聞いていたのですが?」
「作戦なんか10分で終わってたぞ、で、もう誰も帰って来ないだろうな、普通に全員死に晒しやがったんだ、雑魚共めが、あんな連中に負けるほどに弱かったんだ!」
「そんなっ!? 確か敵のアジトにはモヒカンの雑魚ぐらいしか居ないから、そんな連中に負けるはずがないって隊長様が言って……」
「野朗、フラグまでバッチリ建立していやがったのか、そりゃ死ぬわな、モヒカンの雑魚ばかりだから余裕とか、完全に負けて死亡フラグだぞ」
「というかそもそも、モヒカンとかスキンヘッドの雑魚以外にも色々と居たんじゃないか思うわ、奴等なんか単に死体を片付けるための雑用よ、間違いなく他に何か……それが何かはわからないけど」
「何を言っているんですかあなた方はっ! 隊長様も他の方々も生きているに決まっていますっ! 殺されたのを見た? それきっとドッキリですよ! 盛大なフリとして、今どこかでネタバラシの準備をしているんですっ! ちょっと僕、行ってふざけるのはやめるよう忠告してきますっ!」
「待ちなさい少年よ、ふざけているのはあなたです、もうこの作戦は終わりました、そして彼等の存在も消えたのです、それを認めてもうちょっと何かアレな感じで考えなさいっ」
焦る武装役人団の見習い少年、やはり仲間達が全て戦死してしまったということ、もうこの武装役人団は終わり、この町は悪に支配されてしまうであろうということを、すぐには認識することが出来ないらしい。
いや、頭ではわかっていても認めたくないだけであろうな、こういう奴には何を言っても無駄だから、どこへなりとも行って好きに死んでくれと思うのだが、女神は下女の分際でそれを認めようとしない。
走り出そうとする少年の前にかなり鬱陶しい感じで飛び出し、制止して、さらに落ち着くようにも促しているではないか、本当に無駄なことだ。
というかこんな戦えもしない奴が1人居たところで、別に俺達の戦闘力がグッと向上するわけではないというのに……まぁ、ここからは手伝いぐらいさせてやることとするか。
掃除に洗濯その他雑用、これまでもそういうことをしてきたのであろう少年は、これから別に尊敬しているわけでも、そうなりたいわけでもない俺達に対して、同様の奉仕をすることとなるのだ。
もちろん、俺達がゲームクリアとなってこの世界から消えるときには、もうどこへなりとも行ってしまえという感じなのではあるが……
「とにかく、この状況を作り出したのはきっとあの異世界人ね、間違いないわ」
「となるとやはり直接攻めて奴を殺す以外に方法はないか……まぁ、そうなるよな話の流れ的に……」
「あなた方! どうしてそんなに余裕なのですか? 武装役人団が1人残らず殺されてしまったと言ったのはあなた方ですよね? それでその余裕、やはりガセネタか、或いはあなた方が敵の一味であって、それをやらかした側に加担しているとしか思えませんっ!」
「んなわけねぇだろカスが、俺達だってそこそこ困ってんだよ、あの馬鹿な連中が作戦に失敗して、こっちの目論見がボロッボロに崩れ去ったんだからな、もし万が一生きている隊員が居たらシバき回しているぐらいにはキレている……だがな、今やるべきことが何なのか、状況を打開するためにはどうすべきなのか、それを考えているってことがわからんのか? 俺様は天才だが、敵の中にもそこそこ頭の回る奴が居るようでな、それに対抗する方法をこの場でクソみてぇに捻り出して……」
「話が長いし汚いっ! だいたい何なんだあなたは? 今の身分は仮のもので、元々はクソザコの大貧民じゃないかっ! そんな低い身分で、しかも頭悪そうな顔して何が出来るってんだ? 出来ないだろう? 大貧民なんて自分でケツを拭くことも知らないんだ、便所行った後手を洗わないんだっ、そんな奴に何がわかる、何が出来るっ!」
「チッ、鬱陶しいガキだな、精霊様、ちょっと殺しておいてくれ」
「雑用に使うんじゃなかったのかしら? まぁ、でももう走ってどこかへ行ってしまったし、殺す価値もないから放っておきましょあんなの」
「おっと逃げ足が速い、しかしそうだな、もしかしたら俺達とあの知らない異世界界勇者の戦闘に巻き込まれて死ぬかもだし、放っておいても余計なことは出来ないだろうよ、それよりも……マジでどうするこれから?」
「ひとまずこの建物はもう無人です、あの少年もどこかへ行ってしまったので、色々と貰ってしまうこととしましょう」
「そうね、中へ入って普通に飲み食いしましょ、あと供養のためにも故人の財布とか貴重品はキッチリ回収してあげないとよ」
ということで誰も居なくなった武装役員の詰所へと入った俺達、がらんとした雰囲気の会議室では、つい昨日までガヤガヤと作戦会議が行われていたとは思えないような静けさである。
それもこれもあの馬鹿共が悉く敗死してしまったのがいけないのだ、もう少し頑張って、敵を俺達が見える場所まで誘い出してくれれば、1人でも逃がして状況を伝える役目にしてくれれば、現状が色々と変わっていたかも知れないというのに。
まぁ、終わったことと終わった連中のことを考えていても仕方がない、ここからは前に進むべく、まずは敵がどうやって武装役人のチームを全て殲滅したのかということについて考えていくこととしよう……
「ところで疑問なのですが、あの戦いの場においてですね、武装役人の方々と、それから敵のチンピラの者でしょうか? それ以外の力の発露を感じましたか?」
「あ、そういえば何にも感じなかったわね、あの死んでいった連中と、雑魚キャラぐらいしか居なかった……というかそういう感じだったからそのまま止めもせずに見送ったのよね?」
「う~む、となるとやはり力を隠すことが出来る何かが……そんなことが出来るのは異世界人ぐらいのものだな、やっぱり奴の、あの知らない異世界勇者の仕業か」
「あの者、今夜また何か動くでしょうか? 犯罪組織には深く関与しているみたいですし、もう一度あのお寿司の店と、それから第一アジトでしたっけ? そこを探ってみるべきかと、いかがでしょう?」
「まぁ、それしかないわよね、手懸かりってものがまるでないんだから、最悪あっちのアジトの方に直接突入して、何があったのかをこの目で見て確かめるしかないわ、もちろん、あの異世界人に悟られないようにね」
「それから味方だと思っていた寿司屋の出前のおっさんだ、次に目が合ったときにはヒントじゃなくて攻撃を提供してくれるだろうからな、寿司屋はもう限界だ、そんな所で目立ってあの知らない異世界勇者に何か気取られでもしたら面倒だからな」
敵の異世界勇者にこちらの動きがバレないように、アジトに居る敵がどのようにして武装役人を始末したのかを探る、それが今やるべきことであるのはわかった。
だがそれであれば寿司屋から近い、もちろんあの異世界勇者からも近くある第一アジトを襲撃する必要はないのではないかと、そういう話にもなる。
つまり離れた場所の、本当に雑魚しか居ないようなアジトを襲撃して、そこで何があったのかを探っていくというのが得策だということだ。
もちろんのこと、その雑魚アジトにも武装役人のチームを壊滅させるだけの力があったということで、どうせどのアジトにおいても同じ仕掛けなのであろうと、そう考えて作戦を進めるべきであろうという結論に達した。
「よしっ、じゃあ今から適当に見繕った敵のアジトを襲撃してしまうか?」
「いえそれは違うわ、きっと敵だって今は緩んでいるはず、逆に夜になればこっちの、昨日滅ぼした武装役人の仲間が復讐に来ると思って警戒していると思うわ」
「というと、緩んでいてチャンスの今よりも、敵が防御をガチガチにして待ち構えている夜の方が襲撃に適していると?」
「そゆこと、だってどうせ潰しちゃうんだし、向こうの本気がどの程度なのかを見ながらの方が良いと思うのよね」
「それに勇者よ、このタイミングで仕掛けてしまえば、おそらく敵もあの武装役人の方々以外に何か居るものだと気付いてしまいます、やはり夜の、彼等にもし生き残りが居た場合に復讐というかヤケクソで仕掛けるであろう時間帯を狙いましょう」
「そういうことか……じゃあしょうがない、もう今日は帰って昼寝でもしようか、ここで待機していると逆に敵が乗り込んでくる可能性もあるからな」
『うぇ~いっ』
ということで武装役人の詰所を出た俺達、中にあった保存食などはおおかた回収したが、持ち切れない分は後で取りに行こうということに決める。
家に戻ってそれの中から適当にチョイスしたものを食べ、適当にダラダラと過ごしつつ、いつの間にか眠りに就いていたのであった……
※※※
「……うむ、もうさすがに良い時間だ、そろそろ敵のアジトを襲撃してみようかと思う、どうだ精霊様?」
「そうね、もうすぐ犯罪者とかが活発になる時間だし、行ってみても良いかも知れないわ、ほら女神、行くわよっ! あでっ……」
「あいてっ! 何をするのですか精霊よ、その行いは自分にも返ってくるのですよ、直ちに、ダイレクトに」
「いててて……そうだったわ、迂闊にコレを叩いちゃダメだったのね、不便な世界よねここはホントに……」
「精霊よ、神に対してコレとは何事ですか? 勇者よ、もう少しこの者に反省を促すべきだと私は思いますが?」
「いやお前もだけどな、てかそんなことしている暇じゃないんだ、ほら、サッサと行くぞ敵のアジトに」
出かける直前になってグダグダし始める女神と精霊様を無理矢理に引き出し、適当に選定した敵のアジト、もちろん第一のアジトである寿司屋の近くからはかなり外した場所だが、そこへと向かう。
道中では人々がヒソヒソと話をしているのが難度も目撃されたのだが、どう考えてもそれは昨日の事件に関することを話しているのだ。
このまちでトップを張っていた、そしてほぼ単独で町の平和を守っていたあの武装役人団が、一夜にして壊滅どころか全ての人員を喪失してしまったのであるから、その人々に与える衝撃は計り知れない。
もっとも、見習いのクソガキが1匹だけ、生き延びてどこかを彷徨っている可能性はあるのだが、それはまぁ物の数にも含まれないということで、実質的に武装役人団は消滅したということである。
で、そうなるともうこの町は誰も守護者が居ない、悪人の悪人による悪人のための何とやらが堂々と罷り通るような地獄の世紀末を迎えることとなるのだ。
人々のそれに対する不安はかなり大きく、夕方だというのに早々に戸締りをしている店、居酒屋なのに営業時間を日没までとしている店、そもそも『引越しのため閉店します』という張り紙を、入口の木戸に貼っている店などが大半のように見える。
しかしそれは無理もない、あんな強そうというか異常と言うか、肩にミサイルが乗っていたり、腕が魔導キャノンになっていたりするマッチョな連中が、モヒカンの雑魚ばかりのクソ野朗共に敗北してしまったのだから、普通に強敵に壊滅させられたパターンよりもそのショックの度合いが大きいのであったということだ……
「っと、あったぞ、ここがターゲットに選定したアジト17号だ、中は……雑魚ばかりがゴミのように蠢いている感じだな」
「実に警戒していますね、それと、入口の前にある焚火の跡はもしかして……」
「もしかしなくてもアレだろうよ、昨日まで活き活きとしていた武装役人達だった何かだろうよ、もう骨も残さず灰になってしまったようだがな」
「本当に残念な連中だったわね、最後の最後で馬鹿みたいに負けて、あれじゃあ生前にどれだけ善行を積んでいたとしても地獄行きよ、いいえ、地獄にさえ拒否られて行き場をなくしていそうね」
「そんなんだったらどれだけ良いことか、もしその辺を彷徨っているならとっ捕まえて事情を聞きたいところだぜ、それが居ないってことはきっと仲良く地獄に堕ちたんだろうよ」
「えぇ、まるで霊魂とかそういうのを見かけませんからね、間違いなくどこかへ……と、そんなことは堂でも良いのです、早くことの真相を探りに行きましょう」
死んでしまった武装役人の面々がどうなってしまったのか、それについては興味がないわけではないのだが、重要かどうでも良いかと聞かれれば実にどうでも良いことだ。
今の俺達の主たる興味の対象はそこではなく、雑魚ばかりのアジトでどうやってあの屈強な連中をブチ殺したのかというところにある。
昨日の今日でなかなか警戒してはいるようだが、それでも俺達の隠密ぶりには敵も付いて来られないらしい。
特に騒がれることなくアジトの目の前まで接近し、そして見張りをしていた雑魚キャラを静かに殺す。
どうやら気付かれずには済んだようだが、さてこれからどうしようかという感じだな、ずっと発見されないまま雑魚だけを殺していても意味がないわけだし、どこかで一撃派手にかましていかなくてはならない。
と、そのようなことを考えたところで、どうやら面倒臭くなってしまったらしい精霊様がアジトの扉の前に接近し、そして普通に蹴破ってしまったではないか……
「うぉぉぉぃっ!? なっ、何だっ?」
「馬鹿かっ、敵襲に決まってんだろ、武装役人の奴等が来たぞーっ!」
「いや、何か知らんが女が1人だけだぞ、しかも下女の下女とかいう身分の……後ろに別のが居やがるっ!」
「やっぱ敵襲だーっ! 変な奴等が来たぞーっ!」
「変な奴等はお前等だ、死ねっ」
『ギョェェェッ!』
「さてと、精霊様め焦りやがって……で、特に何事もなく雑魚ばかりなような気がしなくもないんだが……なぁお前等、昨日武装役人をブチ殺したのはどこのどいつだ? 挙手しろ挙手」
「テメェ! やっぱり奴等の仲間かっ、野郎共! 殺っちまえぇぇぇっ!」
「……野朗共って、どうしてホントに雑魚しか居ないのよ?」
こうやって突撃をかませば何かが出て来る……そのように考えていた俺達の予測はハズレであったということなのであろうか。
殺しても殺しても雑魚雑魚雑魚雑魚、本当に確変でも引いたかのような雑魚のジャックポットに対し、俺達はもうそれをひたすら殺していく以外の『成す術』がない。
結局続々と出現した雑魚を全部殺して、最後に出て来た強雑魚のような敵を痛め付けた状態でギリギリ生かしておいたのだが、この期に及んでまだ何か強力なものが出現するようには思えないのである。
目の前でヒーヒーとやかましいこのアジトの支配者なのであろう強雑魚に蹴りを入れつつ、しばらく待機してみるものの一向に変化などはなかった。
これは一体どういうことなのだ、ひとまずこの強雑魚から何か情報をゲットしなくてはならないようだな……
「おい雑魚、お前死ぬ前に俺達に対してひとつ情報を提供しろ」
「ひぃぃぃっ! 殺さないでくれっ、お願いだから、まだ死にたくないんだ、何でも白状するから助けてくれっ!」
「そうかそうか、じゃあ『助けて』やるから情報を寄越せ、きのう武装役人団が攻め込んで来ただろう? それを全て殺害した下手人はどこに居るんだ? 早く行って呼んで来い」
「そんなこと言っても無理ってもんだぜ、あの魔法生物は借り物なんだ、どこかの世界から来たんじゃないかと噂される変な男からのなっ」
「変な男ってもしかして……伝説の鎧とか装備している馬鹿のことか?」
「馬鹿かどうかは知らねぇ、知っていても話したらやべぇだろ……だがとにかくそいつのはずだ、俺が言っているのとお前が言っているの、どう考えても同一人物で……人物……あっ……ギャァァァッ!」
「何でしょうこの者は? 発火してしまいましたね、最近の雑魚は良く燃えるとのことなのでしょうか?」
「しょうがない奴だな、おい、雑魚の分際で燃えてんじゃねぇぞ、火事になるからとっとと焼け死んで大人しくなりやがれ……と、どうしたんだ精霊様? もしかしてその馬鹿、燃えないゴミの範疇だったってのか?」
「そうじゃないわよ、燃えているんだから間違いなく燃えるゴミでしょ、でもコイツ、やっぱ今の燃え方は変なのよね、周りに火種もなかったわけだし……魔法よねコレは、しかも最初からコイツに埋め込まれていたような、そんな感じの魔法なのよコレ」
「埋め込まれていた? どういうことなんだ……」
もう少しお話のお相手をして頂きたいと存じていたこのアジトのボスである強雑魚、それが何かのキッカケで発火し、今は悶え苦しみながら生きたまま焼かれているのであった。
何がキッカケとなってこのようなことになったのか、それについては考えるまでもなく、間違いなくあの異世界勇者が、俺とは別の世界から来て、そしてこの世界での悪事に加担しているアイツが関与していることなのであろう。
変な男というのがその異世界勇者のことであって、この連中はそれから『戦力』を借りて用いていたに違いない。
そしてこの雑魚が焼かれる前に口にしたことが、本来は秘密にすべき何かであって……とまぁ、そのような感じであることはもう明らかだ。
あとはその『魔法生物』とやらが何であるのかということと、それをどうやってあの異世界勇者が用意したのかということを考えていくべきところなのだが……それはまぁ、もう本人と直接対話して知った方が良いような気がしなくもないな。
ひとまずここからはアジトを襲撃してどうのこうのではなく、もうダイレクトに、何も考えずにあの異世界勇者を襲撃して情報を……と、その程度の考えではまた敵の罠に嵌まるのが関の山といったところか。
もう少ししっかりと考えて、今取るべき最善の策を用意することとしよう……




