表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
1126/1360

1125 壊滅作戦で壊滅

「……ってことなんすよ、あのマッチョ、まぁグレートゴリラ君というらしいっすけど、ウ○コブリブリ出しながら大好きな寿司を喰らって、それで仲間とも話して2時間とちょっと、そんなもんでしたね」


「本当に汚らしい奴ですね、しかしその程度の時間、毎日あの店に居るというのであればやはり好都合というしか……他に何か発見はありましたか?」


「いえ、ちょっと気になるというか何というか……組織のブレインだと思われる輩の声も聞いたんすよ、でもそっちはちょっとアレというか何というか……」


「なるほど、しかしそのブレインとかいうのについては、組織自体を壊滅させればどうということはないように思えます、とにかく敵のアジトを虱潰しに、もちろんマッチョから逃げるような順番で潰していく感じがベストなのでしょうな」


「まぁ、そんなところだと思うっすけど……まぁ……」



 俺が何か含みを持たせたような言い方をしていることに、武装役人達は少し首をかしげているようだが、そもそも俺以外のどこかの異世界勇者がこの世界に来ていて、それが敵として、詐欺グループの参与的な立場で動いているというのは少し説明が難しい。


 ということは結局、それについては俺と女神と精霊様の方、こちらでどうにかしていくべきところなのであるが、奴が何を考え、どのような策を講じてくるのかわからないのがネックだ。


 声だけしか聞いていないのだが、少なくとも俺よりは賢さのステータスが高そうな感じの奴であったことからも、今回の武装役人によるアジト襲撃に際して、何か防御方法を用意しているのではないかと、そんな予感がしているのは俺だけか、いや女神も精霊様もそう感じていることであろう。


 だがそれにつき、実際に突撃をかます武装役人達に伝えることが出来ないのだからどうしようもない。

 ここはどうにかなってくれることを祈りつつ、作戦をバックアップする立場に回る他ないか……



「え~っと、では明日ですね、本当にあのお寿司大好きウ○コマッチョがまたアジトを出るのを確認してから、順次作戦を開始していくかたちで進めましょう」


「武装役人は全戦力を一挙に投入して、近い方のアジトから可能な限り速攻で潰していくという作戦を取る、君達はその間どうするね?」


「そうっすね……やっぱりあの寿司屋を見張っておきます、もしかすると今日よりも素早く奴が出て来るかもですから、そうなったらどうするかについてはちょっとアレっすけど……」


「そのような事態となればかなりの修正を余儀なくされるな、タイミング次第でそのままギリギリ、つまりマッチョが作戦中の場所に到達するまでの間だけ頑張って、それで敵を半壊まで追い込むか、或いは……諦めて撤退するかだな」


「撤退となるとその先がかなり厳しいことになりそうですね、敵はそれを受けて固くなるでしょうし、そもそもこの詰所をマッチョが襲撃してくる可能性もある」


「そうなったらお終いだな、俺達は瞬殺されてあの世行きだから良いようなものの、その先遺されたこの町の住民は、常にマッチョと健在である詐欺グループ……いや、敵が居なくなって過激化するかも知れないな、とにかく犯罪組織の恐怖に怯えながら過ごすこととなる」



 武装役人達の中では今回の作戦が成功するのか失敗するのか、ほぼ五分五分といった感じの評価らしい。

 もちろん今の俺達が出張れば、マッチョも組織もあっという間に壊滅に追い込むことが出来るのだが、それは奥の手ということにしておこう。


 で、その日はそのまま会議によって作戦を詰めていき、夜も遅くなったということで解散となった。

 明日も朝早くからここへ集合して、可能な限り作戦が上手くいくよう、更なる準備をしていく次第だ。


 外に出た俺は女神と精霊様と合流し、そのまま与えられている家へと向かう……役人達にとっては夜も遅いのだが、俺達にとってはまだまだ早い。


 戻ったらこのまま俺達だけの秘密作戦会議をして、『もう1人の異世界人』に対抗するための作戦を考えようということになった。


 女神は馬鹿だから特にアレなのだが、こういうケースにおいては世界の制約を受けていない、精霊様の賢さが光ってくるはず。


 確実にムチャクチャをしようとする辺りが玉に瑕なのだが、それでも俺や女神が考えるよりは少しまともになるはずだ。


 ということで徒歩にて帰還しつつ、そのような話をしていくのだが……やはり精霊様は武力行使一辺倒、それ以外に状況を打開する方法はないなどと主張してくる……



「あのね、やっぱりそういうのは戦って倒さないとダメなのよ、罠に嵌めて破滅させたとしても、最終的に殺してしまわないとならないわ、私なら生きている限り復讐を試みるもの」


「確かにそうですね……しかもその者、『勇者』ではなく『勇者パーティー』としてこの世界に来ている可能性もあります、そうなると確実にその全員を仕留めるようにしないとなりません」


「あそっか、奴は奴だが奴だけじゃないって可能性もあったんだよな……じゃあどうするよ? 今回の作戦でその全部が姿を現すとは思えないんだが?」


「そこなのよね、でもさ、武装役人達の作戦が成功して、奴または奴等が関与している詐欺グループが壊滅したとしたら、それで焦って色々と動くはずなのよ、そこで目立ったところ、全部を見つけ出して殺してしまうってのはどうかしら?」


「なるほど……だがそうなるとやはり明日の武装役人達による作戦の成否がキーになってくるな……ちょっと頑張ってもらうしかないか」


「或いは、『謎の助っ人X』みたいな感じで私達も助けに入るかよね、顔は仮面で隠してわからないようにして、圧倒的な力を振るってしまうのよ」


「実にベタでどうしてバレないのかが不思議だがやっぱりバレない、みたいな感じのやつだな……わかった、じゃあバックアップはそれで」



 結局帰還するための道中で話はまとまってしまったため、そのまま屋敷で食事をして、今日はもう終わりにすることとした。


 お土産として持ち帰った5,000ポンズ分の寿司を、3人で分け合って食べるという食卓なのだが、この世界に来た初日からまだあまり時間が経っていないというのに、なかなかにことが上手く運んでいるような気がするな。


 というか上手くいきすぎな面も少しあるような気もするが、しょせんは『ゲーム』としてこの世界に来ているだけの俺達だ。


 少しばかり都合が良すぎる展開になったとしても、それはそれでもう仕方ないし、短時間で元の世界に戻るべきことを考えれば、そうであって頂かなくては困るというもの。


 もっとも、それについては敵であるどこかの世界の異世界勇者も同じで、奴もまた非常に都合の良い展開の中でこの世界でのゲームを進めていることであろう。


 それなのにあのような悪事を働くとは至極不届きで……というような話をしたら、鏡があるので自分の顔を見てみろなどと女神が言うのだが、それが何を意図してそう言ったのかはわからない。


 とりあえず何となくムカつくという理由で尻に100叩きの刑を加えていると、ダメージが伝播した精霊様が無駄に怒り出したため、それも圧倒的な上位者パワーで制圧して事なきを得る……



「いてててっ、ちょっと! いつまで土下座させられていれば良いのよ? そろそろ解除させなさいっ!」


「まだまだだ、そのままほら、もっと尻を上げてみろ、今から鞭でビシバシとシバいてやるからなっ」


「ちょっ、やめなさいっ、やめっ……あうぅぅぅっ! 痛いっ! 超絶ホントにごめんなさいっ!」


「フンッ、立場というものを弁えない奴にはこんなんじゃまだまだ不足だっ、それっ!」


「ひぎぃぃぃっ! ど、どうして私がこんな目に……女神! 場所を代わりなさい! それから身分も私の方を上にしなさいよっ、だいいち何なの下女のまた下女って? この大精霊様に対してどういう仕打ちをしているのかわかっているのかしらこのゲームを支配している神はっ、どこのどいつなのっ?」


「だから数ある酒の神様のひと柱だってば、どいつなのかは知らないけど、そのうちにご対面することになるだろうな」


「もっとも、彼は私達が今現在このゲームに参加させられているということを知らないし、それゆえ様子を見ていないと思いますよ、ずっと前に用意したものが今になって使われているというだけなはずですから」


「でも会ったら文句のひとつも言ってあげるわ、あぁぁぁっ! 痛いっ、もう許して……下さいませ……」


「よろしい、じゃあしばらく正座して反省しておけ、そういえば前の世界ではユリナとサリナに反省させると、『反省ポイント』なるものが溜まって2人共レベルアップしていたからな」


「あら、じゃあ今回もそういう感じのがあるかも知れませんね、精霊よ、そういうことなので本当に正座しておきなさい、あなたのためですから」


「ぐぬぬぬっ……」



 忘れてはいけないのがこの『調子に乗りがちな精霊様の矯正』という重大なミッションである。

 いや、別にそうしろと指示されているわけではないのだが、話の流れ的にそこをどうにかしなくてはならないのは事実だ。


 もしかしたらこの行為がゲームクリアの条件になっていないとも限らないし、圧倒的上位者の立場で精霊様にアレコレするのは実に気分が良いため、この世界に居る限りはこんな感じで甚振っていくこととしよう。


 で、夜も更けたためそろそろ寝ようということになり、沸かしてあった風呂にゆっくり漬かって1日の疲れを癒しておく。


 布団に入るとすぐに朝となり、俺達はまた武装役人の詰所へと向かい、作戦開始となる夕方に備えたのであった……



 ※※※



「急報! 動き出したっす! マッチョがアジトを出て、昨日と同じ寿司屋に向かったっすっ!」


「ほう、総員突撃の準備をしろ! すぐに詰所を出るっ……して、今日のマッチョの様子は?」


「既に漏らしていたみたいでケツに何か茶色いの付着してたっすね、マジで臭そうっした」


「そうか、総員傾注! マッチョはウ○コを漏らしている可能性が高い! それゆえ奴が居たアジトはかなりの激クサであること! そして奴が戻る際にはウ○コみたいな臭いがすること! それを追加情報として押さえておけっ!」


『うぇ~いっ!』


「では出陣する! 総員! 各部隊長の指示に従って自らの持ち場へと向かえっ!」


『うぇ~いっ!』



 動き出した作戦、武装役人の詰所には、非番の者も関係なく集合しており、およそ100名以上の大集団が、この組織の本当の総員であるということが窺える。


 そしてその物々しい雰囲気に、道行く人々は興味を示すとともに、これからどこかで正義が成され、町が平和になっていくことを期待しているようだ。


 立ち止まってちょっとした壮行会のようなものを始めたそんな民衆に見送られ、武装役人達はそれぞれの部隊ごと、まずは10のチームに分かれて持ち場となる敵のアジトを目指した。


 俺達異世界チームはその中に組み込まれてはおらず、戦闘力についてはバレていないため非戦闘員扱いとなる。


 もちろんあのマッチョが入った寿司屋のすぐ近くで、またマッチョがいつも滞在しているアジトも見えるような場所で待機してはいるのだが……



「いよいよ始まりますね、この作戦が成功すれば、私達が元の世界へと戻るための足掛かりになります、しかしもし逆に失敗したら……」


「まぁ、そのまま流れに身を任せればアレだな、また大貧民生活に逆戻りってとこだな……もっとも、そんなことにはさせないがな」


「あら、それは作戦は必ず成功する、成功させるって意味なのかしら?」


「そうであって欲しいところだが、やっぱりだ、失敗したら多少不正を働いてでも成り上がったこの地位を守備しようぜ、あとムカつくもう1匹異世界勇者も卑劣な方法で嵌め殺そうぜ」


「やっぱり、正義というものをもう少し学んだ方が良いですねこの異世界人は」


「黙れカスが、というかほら、もう行かないと流れを見失うぞ、作戦の趨勢をずっと見ていなくちゃならないからな今日は」



 寿司屋と第一のアジト、そのどちらをも監視することが可能な場所に陣取り、横を通過して行く武装役人の集団に手を振って見送る。


 今のところアジトの方にも、そして寿司屋の方にも動きはなく、作戦チームは単に夜警をしているだけの武装役人団のようにしか見えない。


 だがその向かった先にある敵のアジト、さり気なく接近したチームはそこを取り囲むようにして散開し、突入の準備はこれで整った。


 すぐに開始なのかとも思ったのだが、他とタイミングを合わせなくてはならないらしい。

 夜空を見上げる部隊長の目に、場所的に詰所から上がったのであろう、暗くなり始めた空でもハッキリと見える狼煙が映った。


 その直後、突入の合図が周囲に響き渡り、敵アジトのドアが蹴破られる……特に何の抵抗も受けることなく中へ入ることに成功したようだ。


 敵はいきなりの突入に、場所がバレていないと思い込んでいたアジトへ、突如として武装役人達がやって来たことに驚いているに違いない。


 今居る場所からでも聞こえる怒号、マッチョが居る寿司屋にそれが届きやしないかと不安にもなるが、奴は馬鹿なのでその程度の音を気にすることはないであろう。


 そして奴が居ない、雑魚キャラであって卑劣な詐欺グループのメンバーだけが滞在しているアジトなど、肩にミサイルを搭載したり、そもそも腕から刃物が生えているような武装役人達の敵にはならない。


 そのようなアジトなど、5分もあれば制圧してしまうことに……そろそろ5分経過か、まだまだ激しい戦闘の音が鳴り響いていることから、少し苦戦しているようにも思えるな。


 まぁ、ここは第一のアジトであるはずだし、最初に見回った際にもそこそこに強い敵の反応があった場所だ。

 もしかするとそれに手古摺っているのではないかとも思うが……もう10分以上経過している気がする……



「変ねぇ、感じ取る力の数が減っているということは、敵の数は減っていると思うんだけど……なかなか戦闘終了にならないじゃないの?」


「あぁ、だがさっきより静かになりつつあって……と、終わったんじゃないのか? 今最後の断末魔みたいなのが聞こえて……ほら、誰か這い出して来るぞ」


「敵もなかなかしぶとかったようですね、それでも最後の1人があんな状態になって……腕が魔導キャノンになっている人でしたか……あら?」


「……なぁ、あの這い出して来たのって……あ、何かモヒカンの雑魚に刺殺されて火を付けられたみたいだが……もしかして、というかもしかしなくても武装役人の人じゃね?」


「そんな気がしてきたわね、てか次々に投げ出されている死体もどう考えても制服よね? あとヘラヘラしながらその作業をしているのがモヒカンとかスキンヘッドの雑魚ばかりだわ」


「そうだな、インナーを着ないでトゲトゲが付いた革ジャンだけ着ているみたいだ、寒くないのかあの格好で……」


『・・・・・・・・・・』



 まるで状況が掴めない、武装役人のチームが突入してからおよそ10分と少し、突入した人数分の、武装役人の格好をした惨殺死体がアジトの横に積み上げられ、火を放たれて轟々と燃えているのだ。


 ちなみに似たような感じの火の手が、町のあらゆる場所……というか最初に武装役人のチームが突入すべき、詐欺グループのアジトが存在しているのであろう場所から上がっている。


 これは一体どういうことだ? もしかして俺達が送り出した、立派な正義の味方である武装役人の面々は、既にモヒカンの雑魚に敗北して死亡してしまったということなのか。


 唖然としているところに、俺達の監視対象の中で唯一火の手が上がっていない寿司屋の戸が開き、中から出て来たのはマッチョ……ではなく、最初にヒントをくれたあの出前のおっさんであった。


 そのまま武装役人の死体が燃やされている敵のアジトに接近するおっさん、もしかしたらこの作戦が失敗したことを察して、もうダメだと悟って最後の攻撃を仕掛けるつもりなのかも知れない。


 そんなことをしても無駄死ににしかならない、そう思って止めに入ろうとするのだが、もうおっさんは敵のアジト、モヒカン共から見える位置まで接近してしまっていて……そのまま笑顔で迎え入れられたではないか……



「ちょっ、あのおっさんってさ……味方じゃなかったのかよ?」


「どう見ても味方キャラだったはずよね、でもほら、中で楽しそうに話をして……また誰か来るわよっ!」


「おいちょっと待てもうややこしすぎるぞっ! また新しい奴……いや、アレどう考えても異世界勇者じゃねぇのか?」


「どこかの世界の伝説の件と伝説の鎧、伝説の兜に伝説の盾、伝説のブレスレッドも装備していますね……もう紛うことなき勇者ですよアレは」


「しかも武装役人の死体の前で大笑いしやがって、何? もしかして今回の作戦、全部奴の術中だったってことか? あの寿司屋の出前のおっさんも完全にグルで、武装役人とか俺達を嵌めようとして……」


「もう間違いないわね、乗り込んで惨殺……いえ、でも現況がどうなっているか確認しないとだわ、ひとまず武装役人の詰所まで戻りましょ」


「そうですね、もしかしたら命からがら帰還している人が居るかも知れませんから、すぐに戻って体勢を立て直すための算段を」



 何が何だかわからないまま、俺達はその場を離れて武装役人の詰所、彼等がつい先程、道行く人々によってささやかに送り出された場所へと戻る。


 そこにあったのは作戦開始の狼煙の燃えカスと、何も知らないままに座っている、作戦には参加しなかった雑用係兼見習いらしい若い奴。


 俺達の姿を見て、作戦がどうなったのかとしきりに聞いてくる若い奴だが、それに対して返答をすることは遂に出来なかった。


 そして黙りこくったまま武装役人の帰還を、誰か1人でも戻って来ないかと待っている間に、夜が明けて朝日が差し込んで来たのであった、当然のことながら誰も戻らないままである……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ