1122 デリバリー協力者
「オラァァァッ! とっとと吐けやこのクソボケがぁぁぁっ! ブチ殺すぞボケェェェッ!」
「ギャァァァッ! なっ、何を吐けって言うんだっ? もう何も知らないし、俺は犯罪をしていたつもりはねぇんだ、だから勘弁してくれぇぇぇっ!」
「馬鹿言ってんじゃねぇよハゲが、じゃなくて俺達が毟ったらハゲになったのか、そりゃ悪いことをしたな……で、お前そんなこと言って誰が信じると思う? 誰も信じねぇよな? わかるこの気持ち? わかったら仲間の居場所とかゲロしようか、なぁ?」
「だから知らないって、知らないって言えと命令され……あっ、知らないっ、知らないんだ本当にっ!」
「ウソは良くねぇなぁ、じゃあ、ちょっとこのアッツアツの鉄の棒でも喰ってみるか? カツ丼の代わりだがなかなか美味だと思うぜっ、オラァァァッ!」
「ひょげぇぇぇっ!」
地下の拷問部屋から漏れ聞こえてくる悲鳴となかなかのやり手だという、単に暴力的なだけにしか思えない拷問官の声。
先程の馬鹿はなかなか強情らしく、未だに仲間連中の居場所を吐こうとしないらしいが、それも時間の問題であろうといったところだ。
このまま俺が協力し続けていれば、きっと囮などとして使われるのであろうが、そのときに備えてもっと良い服などを支給して頂きたい。
こんなみずぼらしい格好をした、しかも大貧民ともあれば、利益のみを追求している詐欺グループの目に留まるようなことはないであろうから、せめて見た目だけでもそれなりにして欲しいのである。
だがこんなところで余計なことを言って、大貧民の分際でどうのこうのという話になると面倒であるため、こちらからは何も言わず、ただただ気付いて修正してくれるのを待つしかないというのが現状の辛いところだ。
ひとまず馬鹿の犯罪者が色々と自白するのを待って、その後どうなるか次第でどうアピールしていくのかを考えていくこととしよう……
「じゃあ、俺外で待ってまずんで、何かわかったら行って下さい」
「あぁ、その前に今回の分の報酬として2万ポンズと、それからレベルアップだね、おめでとう、君は『大貧民LV7』になったよ」
「これでもまだそんなもんなのか……ランクアップへの道程は遠いぜ……」
今は大貧民だし、ランクアップしたとしても貧民程度にしかならないというのが現状であって、この世界で『成り上がる』というのが並大抵の努力では成し得ないことであるということが窺える。
というかどこまで成り上がることが出来ればゲームクリアなのであろうか、時間的に王侯貴族を目指せなどというのは不可能であろうし、世界一の大金持ちというのも難しい。
この点について缶詰野郎に聞いてみようと思い、外で待たせている女神と精霊様の所へ行って、早速地面に置いてあったそれに質問を投げ掛ける。
少し悩んだ後、缶詰野郎はその気持ちの悪い、汚物をさらに汚したような顔面でふと気付いたような表情を作り、そして答えたのであった……
『先輩、上級国民って知っているっすか? 先輩みたいなド底辺クズ野郎の対極に位置する、最も豪華で煌びやかな国民のことなんすけど』
「あぁ、そんなのも居たな……確か転移してくる前の、本当に元々の世界の中に、一部そういった連中の存在があったのは確かだぞ、アレだろ? 中抜きとかを生業としていたり、政治を私物化して利益誘導したりみたいな奴等だろう?」
『そうっす、おそらくそのぐらいになればこの世界でも成り上がったとみなされるんじゃないかと思うんすよ、まぁ、先輩のような甲斐性なしがどこまでそれに迫ることが出来るか、という疑念はあるっすけどね』
「てかさ、それってそもそも出自とか、あと子どものころから留学とかして英才教育を受けて……みたいな身分の奴じゃないと決してなれないんじゃないか? そこのところどうなんだよ?」
『う~ん、まぁ、経歴詐称とか、あと特に根拠もなく儲かっているアピールとかして馬鹿な信者を集めるとか、そういう系だったらギリいけるんじゃないすかね?』
「正体がバレたときにとんでもねぇことになりそうだなそれは……だがまぁ、ド底辺畜生が成り上がるのにはそういう作戦を取るしかない部分もあるか、賢さとかも足りねぇしな」
「勇者よ、そもそもですよ、あなたの賢さでそのようなことが出来るのですか? どうせ穴だらけのボロボロな仮面を被って、中が透けて見えているから皆に嘲笑されて……あいてっ」
「いでっ、ちょっと! 女神の奴を叩くと私も痛いんだから勘弁しなさいっ!」
缶詰野郎のアドバイスは受けたが、結局具体的に何をしていけば良いのか見当もつかないような状態。
とにかく今は今回関与している事件を解決に導き、それで少しでも身分を上げる他ないということであろう。
まぁ、このゲームにおいては、普段威張り腐っている女神や精霊様に対して、最下層の体験をさせて反省を促すという意味があることは間違いないのだし、そちらの目的も徐々に達成していかなくてはならないところ。
俺は成り上がり、その中で女神と精霊様には厳しく辛い体験をさせるという、なかなかにして両立の難しそうな二本柱で物事を進めなくてはならないのが少し大変であろうな……
と、ここで建物の中から出て来た武装役人が俺を呼ぶ、どうやら馬鹿が全てを自白したらしく、その情報に基づいて犯罪グループの摘発を進めるための作戦会議をするのだという。
俺にも一応参加してくれということらしいが、攻撃力が極端に制限されている状態につき、ここで妙案を出すなど、有能さをアピールして活躍しておかないとならない。
いつもとは違い、現地での戦いに際して活躍することが出来ないためだ、いつもと違う活躍場所、そしてそんな場所で活躍などしたことがない俺にとっては、そこそこ気合を入れて臨まなくてはならない場所である……
「え~、それでは詐欺グループ撲滅のための特別対策会議を始めたいと思います」
『うぇ~いっ』
「まずですね、先程捕えた受け子でしょうか、奴の供述によって、グループがアジトとして使用しているのであろう場所がひとつ特定されました」
『うぇ~いっ』
「ですがここだけとは限りません、いやここだけである可能性は極めて低いと言わざるを得ません……どうも雑魚ばかりが集まっているような場所で、そこに元締め連中は居なかったと、そのような状況らしいのです」
「しかし、それでもその場所を野放しにすることは出来ませんぞ、やはり今からすぐに突撃して制圧しては?」
「あ、ちょっと待って、それだと上の方の奴等はその攻撃に気付いて、すぐに高飛びするなどして姿を消しますよ、俺が思うに……ちょっと張り込みとかして、そこからの人間の移動を監視してみるべき……だと思うんすけどどうすか?」
「うむ、雑魚ばかりの出張所だったとしても、そこと上を繋ぐ中間の強雑魚は居たはずだからな、それがどう動くのかを見張って、そこから敵の本拠地を見つけ出すと……ならば尾行だな」
「備考となるとアレだね、先程も言った通り、風呂とウ○コのときぐらいしかこの征服を脱ぐことが出来ない我々にとって不利だ、やはり君達にお願いするしかないが……お仲間の葉っぱ星人とやらは少し目立ちすぎだな……」
「あぁ、あの馬鹿には良く言っておきますよ、しかしだからといってアイツ、葉っぱ以外の装備とか持っていないんすよね、だからどこかから支給して貰わないと……ありますそういうの?」
「ちょっと待ちたまえ、そういうかわいそうな人にくれてやっても良いようなボロなら、囚人に着せるモノを始めとしていくらでもあるからね」
上手くいきそうだとは思っていなかったのだが、どうやら流れ的に上手くいきそうな感じである。
俺の意見は採用される流れだし、葉っぱ1枚の変質者である精霊様の衣服さえもゲット出来そうだ。
で、手渡されたボロを受け取り、少し待ってくれということで外の精霊様にそのまま渡す。
ようやく衣服を着用することが出来たわけだが、どうしてもパンツはないため、まだまだ葉っぱを装備から外すことは出来ないらしい。
そんな精霊様の逆にエッチすぎる格好にな手tしまった情けない姿をひと通り笑ってやった後、もう一度作戦会議に戻ると、既に具体的な作戦についての話が進んでいた。
慌ててそこへ戻り、いくつか意見を具申して少しばかり採用されたり、それはさすがにと固辞されたりしたが、概ね意見が通っているようでほっと一安心である。
また、作戦上不可欠な張り込みと尾行を俺と女神と精霊様の3人でやることから、戦闘においては全く役立たずな状態であっても、『現場での実績』を積むことが出来そうなのは非常に大きい。
大貧民の分際で会議室の中だけでしかハッスルしないなど、分不相応というか何というか、とにかく認められないのではないかという感じであったため、その懸念も払しょくされたかたちなのだ……
「よしっ、では早速最初のアジトについて張り込み作戦を始めることとしよう、どうせ犯罪者が動くのは夜だし、食事をしてから……違うのか?」
「えぇ、俺からしたら食後の張り込みは違うと思うんすよ、だってほら、その間に敵が動いてしまうかも知れないし、すぐに行った方が良い」
「じゃあ、食事はどうするんだね……なんと、あんパンが必要なのか……」
「張り込みの必須アイテムです、もしそれがなければもう張り込みでも何でもない、単なる覗きにすぎないと、そう考えているっすね、マジで」
「なるほど、すぐに用意させよう、だがポン酢漬けの酸っぱいあんパンなどあまり需要がないゆえ、少し頼んでから焼き上がるまでに時間が掛かるぞ、それでも良いか?」
「そうだった酸っぱいんだった……やっぱ寿司にします」
「うむ、少し妥協してでもその方が良いと思うぞ」
そういえば忘れていた、この世界は貨幣さえも『ポン酢本位制』を敷くやたらと酸っぱい世界であったのだ。
いくら張り込みとはいえポン酢漬けのあんパンなど食えたものではない、ここは諦めて寿司にすべきであろう。
ということで出前の寿司を注文して貰い、なぜか存在している醤油とワサビもキッチリと付属して頂くようお願いし、そこからも作戦を聞いた。
どうやら敵のアジトのひとつはここから程近い場所らしく、建物群の中にあるため張り込みも容易であるとのこと。
俺と女神と精霊様で、それぞれ連絡が取り易い場所に分かれて、複数の角度からそこを見張ることとしよう。
「うむ、寿司(下)を3人分、およそ30分後に指定の場所へ届けてくれるらしい、心して待つが良い」
「わかりました、じゃあもう俺達は移動するんで、ついでに何かあったら連絡するんでよろしくっす」
「気を付けて、あと決して見つかることのないように、我々は離れた場所、というか敵が逃げた際にそれだけでもどうにか出来る場所で待機しているからそのつもりで」
これで準備は整った、寿司に付属するドリンクが茶ではなくポン酢だというので、少し塩分の方が心配だなとは思ったのだが、そこを指摘している暇ではない。
先に外へ出た俺は女神と精霊様と合流し、受け取ったマップを元に指定の場所へと移動した……
※※※
「……あった、あの場所みたいね、あの建物の……2階が全部敵のアジトになっているみたい、1階は無関係の店舗だから無視して良いって」
「なるほど、1階はポン酢専門店なのか、2階へ上がるには横に付いている外階段しかないって感じだな」
「一応裏側も見ておきましょう、もしかしたら隠し扉があるかも知れません」
「だな、地下だったらもうアウトだが、地上ってことならまだ何とかなりそうだ……」
一般人のフリをして建物の周りをグルっと見て回る……コンビニの上にアパートがあるような、どこかの世界で言えばそのような感じの建物だ。
見たところ怪しいところはないのだが、確かに2階には複数の人間の気配を感じる。
攻撃力は制限されているものの、そういったセンスなどは元のままなのでわかってしまうのだ。
で、そういった状況であるため、そこまで真剣になってガン見張りしていなくとも、敵が激しく動くことがあったり、外出するようなことがあればすぐに気付くことが可能である。
よってあまり気を張らずに眺めているぐらいの感じで……と、強いオーラを持つ者がこちらに近付いて来る……寿司屋の出前のおっさんだ……
「へいお待ちっ、役人の連中からあんたらにコレを渡すように言われたんだ、金は貰ってあるから安心してくれ」
「おうよっ、ほう、〆鯖が多いようだがまぁ良い、おい下女共、先にちょっと腹拵えしようぜ」
「あらお寿司ですね、この世界のお寿司は……何か紙切れのようなものが挟まっていますが……異物混入ということでしょうか?」
「はぁっ? 洒落臭せぇ寿司屋だな、どうせペーパータオルか何かが……違う、何かのメモだぞこれは、しかも俺達にも読める字で書いていやがる」
「あえて入れてあるってことね、じゃあ何のメッセージなのかしら?」
「わからんが……『俺は知ってる、犯罪者のアジトの場所と、それを〆る方法を』だってさ、何言ってんだ結局?」
「〆る方法……場所……このお寿司、どういうわけか並び順がバラバラよね、しかもここほら、バランに『現在地』って書いてあるじゃないの」
「てことは……もしかして〆鯖の位置が敵のアジトの位置なのかっ⁉」
確かに凄まじいオーラを放っていた寿司屋の出前の人、その正体が何なのかについては考えてもわからないであろうが、とにかくこれは重要な情報であるということがわかる。
すぐに寿司桶の中の〆鯖の位置を、この同心円状に広がる町のマップと縮尺を合わせた状態であると仮定してメモしていく。
もちろん『現在地』とされているバランのすぐ横にも、〆鯖の寿司が1貫だけ入っていることから、今の予想がおそらく真であると考えてしまって良さそうな状況だ。
これについては後に報告をするということと、これから尾行をしてみて、本当に『〆鯖ポイント』が『詐欺グループのアジト』と合致するのか、それをひとつだけでも確かめてみようといったところか……
「それにしても何だったわけあの寿司屋は? 強者であるのはわかったけど、どうしてこんなヒントなんてくれたのかしら? 普通にあの武装役人の詰所へタレコミすれば良いじゃないの」
「だよな、そう考えるとちょっと怪しいよな……だがまぁ、ヒントとして受け取ったものがマジなのかどうか、最初にそれを確認してから、ヤバい罠とかじゃないかどうかを確認する流れでも良いんじゃないか?」
「そうですねぇ……と、とにかくお寿司を食べてしまいましょう」
「罠だったらその行為すらアウトなんだがな……うわっ、超酸っぺぇじゃねぇかっ!」
やたらとドギツい酢飯の寿司を、それでも腹が減っていたためガツガツと喰らう俺達。
もう食事のことしか考えられず、先程の寿司屋のことは完全に、というほどでもないが忘れてしまった。
そのまま寿司を平らげ、地面が冷たいため精霊様を四つん這いにさせて椅子の代わりにして休憩する。
何やら下で文句を言っているのだが、その都度目の前に居る女神の尻を引っ叩くと、そのまま精霊様にもダメージが入るため問題ない。
で、しばらくそんな感じで建物の2階を眺めていると……どうやら立ち上がった奴が複数人、これから動き出すようだな。
集中して確認すると、そこまで大きくないアジトだというその部屋には十数人の気配がある。
そのうち動き出すのは……そこそこの強さを誇っている数人、どうやら上位者らしい……
「動くわね、ここからは尾行になるから早く退きなさい……いてっ」
「退きなさいじゃない、もうお許し下さいだろぉが、はいやり直し」
「お……お許し下さい……ひぎぃぃぃっ、抓らないでっ……下さいませ……」
「よろしい、おっ、階段から降りて来るようだぞ、自然な感じで見送るんだ」
「自然な感じとは? どうやってやり過ごしましょうか?」
「そうだな、ひとまず下女とそのまた下女にお仕置きしているだけの一般人的な感じを出そう、女神も精霊様もそこに正座しろ」
「クッ……地面が冷たくて硬いわね……」
どうあっても俺の言うことを聞かざるを得ない女神と精霊様、そのまま大人しく正座して、建物の中から出て来た数人の……明らかな犯罪者キャラを自然な感じで見送ることに成功した。
それを見失わぬよう、ギリギリ見えるラインを保って追跡を始めると、明らかに気付いていない感じでそのまま歩く犯罪者共。
どこへ行くのかと思いきや、まずはコンビニ的な店へ立ち寄り、店員を攻撃魔法で脅して商品のポン酢を強奪、それをラッパ飲みしながらまた歩いて行く。
そしてその犯罪者連中が向かった先は……やはり〆鯖によって示された場所にある建物であった。
これはつまりヒントとして受け取った情報が真であったということであり、あの謎の寿司屋が味方であった可能性がグッと高まるものだ。
で、その建物にもまた敵らしき人の気配がいくつも……と、ここからもまた何人か移動するようだな。
しかも先程ここへ来た連中など雑魚としか思えない、本当に強い連中が動く。
それを追ってさらに次のアジトへ、また〆鯖の位置だ、その次も、そしてその次も、俺達は敵を追尾しつつ、〆鯖に示された場所を回っているような感じである。
もちろん出て来る敵は次第に強力なものとなっていき、最後の場所から出て来たのはたったの1人……もう人間ではない次元の、筋肉団員のようなゴリマッチョだ。
それがどこへ行くのか、もう〆鯖が示すばしょはないのだがと思えば……なんと、俺達に出前を届けたおっさんの働く寿司屋、そこへ入ったではないか。
一体詐欺グループと寿司屋に何の関係があるのか、そしてそれとあの出前のおっさん、今は外に居てゴミの片付けなどしているようだが、それについても何の関係があるのか、実に謎である……




