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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1117 画像集め

「……っと、見えてきたぞ、アレがラストの前の前ぐらいの町か……かなりの大都市みたいだな、王都より少し小さいぐらいかもだぞ」


「そもそも町へ入るのにも大行列ですわね、あそこに並ばなくちゃならないと考えると、中へ入ることが出来るのはもう夕方とか夜ですわよ」


「もしそうなったら時間キッチリで城門を閉じられて、整列したまま明日に持ち越しみたいなことになりそうだな……どこかに裏口がないのか? 俺達みたいな存在専用の場所が……おい缶詰野郎、お前に聞いてんだよこのボケが、いちいち言われねぇとそんなこともわかんねぇのか? だからハゲなんだよお前は」


『やかましいっすね、えっと、確かこの町にも異世界から連れ込まれた勇者パーティーの修業部隊専用の出入り口が……あ、長らく使われてないんで閉じてるっすね、兵士は居るみたいっすから、それに話し掛けたらどうっすか?』


「あ、あれのことですね、関係者専用みたいな小さな扉が付いています、行ってみましょう」



 さすがは終盤の町というだけあって、ルールとマナーに対する厳しさは相当なものであるらしく、整列している入城希望者もキッチリ、一糸乱れぬといった具合の動きで少しずつ前に進み、その隊列を維持している。


 おそらくではあるが、少しでもズレた動きをした場合には列から除外され、また並び直しに……なることはないようだ。


 体力の限界を迎えたと思しきジジィがフラつき、その直後には地面から紐状物質が伸びる。

 あっという間に絡め取られ、ジジィは腕だの足だの頭だの、バラバラの八つ裂き状態にされてこの世を去った。


 自分ではもうどうしようもない理由で、故意にそうしたのではないにも拘らずこの仕打ちとは、もし元の世界の王都がこの世界のこの町と入れ替わりでもしたら、内部はあっという間に阿鼻叫喚の地獄へと変貌してしまうことであろう。


 で、そんな一般的なこの世界の人々の様子を見ながら、俺達はその人々が並んでいる城門の隣に設置された小さな扉、というかドアへと向かう。


 目の前まで行くと兵士が槍を構え、『何奴?』と定型文で迎えてくれるのだが、その際には台詞だけでなく、構える槍の角度までキッチリ決められているのであろうと、そのようなことを考える。


 で、事情を説明してやると、これは珍しいことだという反応が得られ、兵士はそのまま戸を開けて中へと迎え入れてくれた。


 どうやらあの生贄にしたダメダメ連中の元仲間が、およそ1年前に訪れて以来この町まで到達した異世界系の連中は居ないのだという。


 これはそんなに難易度が高いゲームであったのかと、そうも思ってしまったのだが、実はそうではないらしい。


 一般的でそこまで強くない、まだ魔王討伐も成しえていないような世界の勇者パーティーには、初心者なりの短縮コースが用意されているらしいということを、缶詰野郎による補足説明で知ることが出来た。



「……ということでですね、最後の最後までこの世界を踏破する異世界の方は少ないといえば少ないのですよ、しかしここであなた方が来たということは……隊長、やはりアレですかね?」


「うむ、そうだとは思うが……実はですね、この町ではここ最近問題が発生しておりまして、とても口に出しては言えないようなことなのですが……」


「俺達がそれを解決しなくちゃならないと、そういうことを言いたいんだよな?」


「はぁ、おそらくそのためにあなた方のような異世界の方が、ゲームなどと称する冒険上のプチイベントでこの世界へ招かれたのではないかと、そのように考えております」


「それで、その問題の具体的なことについては……口に出しては言えないようなことでしたわね」


「そうなのです、しかし町へ出ればすぐにその問題に直面するかと思いますので、そこから付近の人間に話を聞くなどして、解決に導いて頂ければと存じます」



 詳細についてこの説明ではイマイチわからないのだが、とにかくこの町では何かミッションのようなものをこなさなくてはならないらしいということだけはわかった。


 明らかに異世界から来たと確認出来る雰囲気であるため、特にチェックを通されるようなことはなくすぐに町へと解放された俺達。


 町の様子は凄まじく規律の取れた、まるで丸ごと軍隊の基地ではないのかと思えるほどのもので……ちょこちょこと不規則に歩き出したユリナとサリナが、いきなり捕まって罰を受ける程度には人々が整然と動いているのであった。


 ひとまず右側通行を厳守し、人の波に逆らわないよう、もちろん歩行者エリアからは出ないし、特に車両が走っているわけでなくても道路は横断しないなど、細心の注意を払いつつ、まずは案内看板にある最寄りの懺悔堂を目指してみる。


 その道中、ふと先頭を歩いていたユリナが立ち止まり、地面から何かを拾い上げた……



「これは……ご主人様、こんな所に『成人向け画像』が落ちていましたの」


「はぁっ? こんな規律正しい町の道端にどうしてそんなもんが……あ、ユリナ後ろ……」


「ひぃっ、ただ拾っただけなのに罰を受けるのは納得いきませんのっ、しかも痛いっ!」


「これまでにも増してハードなお尻ペンペンですね、さすがは終盤の町です」


「それよりもこの成人向け画像だぞ、もしかしてこの町に生じている問題って……」


「間違いなくコレですのっ、あうっ、ちょっと懺悔堂で、きゃんっ、聞いてみますの、ひゃぁぁぁっ!」



 ユリナが解放されるのを待って再び歩き出し、規則正しく、それこそ勇者パーティーらしく整列した状態で懺悔堂へと到着する。


 もちろんここにも行列が出来ているのだが、俺達のような特別な存在は裏から入ることが可能であった。

 恨めしそうな顔でこちらを見ているのはもう数時間も並んでいると思しき連中、それに中指を立てて笑顔を贈りつつ、懺悔堂の中へと案内された俺達。


 早速ユリナが道端で拾った成人向け画像をカウンターの上へ置くと、係員はまるで爆弾でも突き付けられたかのような反応を示した。


 無理もない、これほどまでに規律正しい世界の、しかもゲームクリア間近の最も厳しい部類の町で、いきなりこんなモノを見せられたらそういう反応をするはずだ。


 しかしこの係員も、周りで動揺している他の懺悔堂スタッフ連中も、この成人向け画像に全く心当たりがないというわけではないらしい。


 むしろそれが何なのかを知っていて、そのせいで逆に忌避しているかのような態度なのだが……と、ここでかなりの上位者に話が通ったようで、そいつの部屋へ来てくれと要請された。


 失礼にならないよう、薄汚い缶詰野郎だけはカウンターに預け、ルール上可能な範囲で罵倒しておいてくれと頼んで係員を困らせつつ、奥の部屋へと通された俺達。


 そこでは知らないジジィが偉そうな格好で偉そうな椅子に腰かけ、問題の成人向け画像を前にして俺達を待っていたようだ……



「やぁ、君達が今日ここへやって来た異世界の人間、勇者パーティーかね」


「その通りだが、そんなわかり切ったことよりも本題に入ってくれ、何なんだよこの成人向け画像は? こんなもんが道端に落ちているほど腐敗してんのかこの町は?」


「いや、本当にお恥ずかしいところである、だがこの成人向けの有害とも受け取れる画像を道端に落としているのは、どういうわけかこの世界の理に反しても処刑されない、謎の犯罪者なのだということがわかっている」


「謎の犯罪者? 正体さえわかってないってのかそいつの……」


「うむ、犯罪の事実はこうしてあるというのに、その姿さえも目撃されず、気が付いたときにはもう道端に成人向け画像が落ちていて、しかもそれを拾った方が罰せられるという、とんでもなく理不尽なことが起こっていてな、そいつの尻尾を掴むどころか存在しているのかどうかさえわからない、影のような存在なのだ」


「で、そいつを俺達が捕まえろと、そういうことだな?」


「その通りである、さすればゲームクリアへの道は拓かれんと、そう言いたいところだが、我々は神ではないのであまりハッキリしたことは言えぬゆえ、今はただただその影のような犯罪者、通称『どっポルノゲンガー』をどうにかしてくれとしか……」


「ネーミングがまた適当でネタとしてもかなり寒いな、だがまぁ良い、それの捜索と討伐が俺達に与えられた使命だとしたら、必ず完遂してやろうじゃないか、何といっても俺様は勇者様だからな、期待しておくが良い」



 などと適当に自信あり気なことを言ってしまったのであるが、正直そんなわけのわからない猥褻系犯罪者など、手掛かりがなければ捜し当てることなど出来ない。


 もちろん、よほど怪しい動きをしている変質者風の奴がすぐに見つかれば良いし、それがもし犯人でなかったとしても、拷問して犯人であると自白させてしまえば全く問題はない。


 その後に起こる同一の犯罪は、全て模倣犯がどうのこうのということにしてしまい、そのでっち上げた犯人を処分してしまえばこちらのものなのだが……まぁ、そういうわけにもいかないであろう。


 この世界のこの町の連中も、今まで血眼になってそのゲンガーを捜していたはずなのに、まだ捕縛どころか発見にも至っていないということは、怪しい奴が居なかったか、居ても違ったかのどちらかだ。


 そもそもそんな動きをしていれば、すぐにあの紐状物質に見咎められ、その場で即決処刑されてしまうはずである。


 それがないまま犯罪が繰り返されているということは、少なくとも紐状物質が反応しない程度の自然な、流れるような動きで地面に成人向け画像を設置しているということなのであろう……



「とにかく町へ出て捜してみましょう、それをしてみないことには始まりませんから」


「だな、その代わり色々と面倒なことになるから、もう成人向け画像を発見しても拾うんじゃないぞ、そもそも紐状物質とかじゃなくて、爆発したり何だりってことがないとも限らないんだからなああいうのは」


「そこまでじゃないと思いますけど……とにかくあんなモノを拾ってお尻を叩かれるのは恥ずかしすぎますから、さすがにもう拾わないかと……」



 実際のところどうなのかはわからないが、ミッションを帯びている以上、あの成人向け画像に対して反応していても罪ではないような気がする。


 だがその判定が地面から伸びてオートで罪人を罰してしまう紐状物質と、それを管理している懺悔堂やその上に君臨する神々に対してどの程度まで通用するのか、それは全くわからないことだ。


 それゆえ道端で成人向け画像を発見したとしても拾い上げたりはせず、しばらく様子を見るなどして犯人の手懸かりを掴むべきであろう。


 そういう話にまとめつつ、懺悔堂から少し歩いた所で、道行く人々が微妙に気掛かりな様子で地面に目をやる、だがそのまま何もせず通り過ぎる、そんな場所が見受けられた。


 まるで行き倒れの人でもそこに居て、それが気になりつつも自分に出来ることはなく、申し訳ない気持ちを抱えつつ通り過ぎるかのような人々。


 しかしその視線の先にあるのは行き倒れたかわいそうな人でも、誰かに捨てられたかわいそうな小動物でもなく、かなり主張の激しい成人向け画像なのである。


 確かに気まずいのは同じであろうが、さすがに対象が違いすぎる、そしてそれの様子を物陰から監視する俺達も、普通に考えれば直ちに通報されてしかるべき怪しさであるということ……この光景は極めて異常なものだ……



「……これ、いつまで見張るんですの?」


「わからん、そのどっポルノゲンガーとやらが、誰かこの成人向け画像を拾っていないか確認しに来る、そのときまでだ」


「それ、ずっと確認しに来ることなくそのまま……みたいな可能性もありませんか?」


「まぁ、一理あるんだが、そうなるともう手懸かりはゼロだぞ、それこそ成人向け画像を1枚1枚拾って、その中から何か探していくしかない」


「それはさすがに……あ、もしかしたらですけど、ご主人様が拾ったらセーフとか、そういうことってありませんこと? ほら、これまでご主人様、この世界に来てから何か罰を受けたとかいうこともありませんし」


「その可能性がないといえばウソになるな……よし、じゃあちょっと俺が行って拾って来る……」



 ユリナの指摘したように、もしかしたら俺が、俺であれば成人向け画像を拾ってもセーフなのかも知れない。


 というか俺にしろユリナにしろ、サリナはまぁ見た目的にアレなのだが、元々普通に成人のはずなので、そういう画像を拾って見たとしてもセーフなのではないかとも思うのだが……そういうのとは別に、何か厳しいルールがあるということか。


 で、地面に落ちているそれの上まで辿り着いた俺は、徐に屈んでそのブツに手を伸ばして……周囲の視線が痛い、コイツ、紐状物質に締め殺されるぞと、そう言いたげな目がやたらとこちらを向いているのだ。


 だがそのブツに手を触れた俺にも、そしてしっかり掴んで拾い上げたそのすぐ後の俺にも、特に何か攻撃が向けられることはなく、無事に成人向け画像を1枚ゲットしてしまったのである……



「やりましたのご主人様、早速その裏とか、表面でも何かヒントになるようなことがないかとか……っと、私は触っただけでコレですの……ひぃぃぃっ! 痛いっ! ごめんなさいですわっ!」


「となるとやはり俺だけが良くわからんルールの適用除外ってことか……で、裏に何か書いてあるぞ、えっと『NO53』って何なんだこれは?」


「わかりませんが、固有番号とかじゃないんですかね?」


「そうか、じゃあ他のも拾って確かめてみよう、ほら、そこにも落ちているみたいだし」



 拾い上げた成人向け画像の裏面に書かれていた謎の番号、次に拾った1枚にも、『NO32』の記載があったことから、やはりこれがこの成人向け画像の通し番号であるということは間違いない。


 そこからしばらく道なり、というか人の流れに逆らわないよう、マナーを守って正しく歩くと、1時間程度で30枚以上の成人向け画像を獲得することが出来た。


 その全ての裏面には通し番号らしきものが付され、最大で『NO85』、最小で『NO3』と、現在のところ100を越える数字のものは見受けられない。


 町はかなり広く、その中で大量に撒き散らされているはずのこの成人向け画像だから、どう考えても全部で100枚を超えていないということはあり得ないのだが、実際にはどうなのであろうか。


 もしかすると違う地域では『NO101』から始まり、そこからキリの良い数字までの物が撒き散らされているのかも知れないゆえ、それを確認しに行かなくてはならないのだ。


 ということでしばらく歩きながら、見つけ次第画像を回収しながら、どんどん先程の懺悔堂から離れる方向へと進んで行く。


 だがその道中に手に入った画像はたったの数枚で、やはりどれも100を越える数字のものではない。

 というか、拾えば拾うほどにそのエンカウント率が下がっているような気がしなくもないのだが……これは気のせいなどとは思えない現象だ……



「ふぅっ、もう見つかりそうにありませんわね、本当に落ちているのを全部拾い尽くした感じですの」


「だな、あと抜けている番号のがどこか目立たない場所にあるんだとは思うが、それを見つけ出すのを頑張るよりは、一度これらを持ち帰って鑑定した方が良さそうだ」


「じゃあ、さっきの懺悔堂に戻りましょう、そこで話をして、この後どうするべきなのかを色々と考えるんです」



 その日はそこで捜索を諦め、そのまま懺悔堂へと戻った俺達、大量の成人向け画像をカウンターに提示すると、どうやら奥の方でちょっとした騒ぎになったようだ。


 しばらくすると担当者が決まったらしく、以降は自分がこの件について話をするという女性が1人、先程の偉いさんの横で立って話をしてくれた。


 その女性を伴って、最初の分も含めた成人向け画像をテーブルの上に並べていく……と、どう考えても俺がセクハラをしている感じになってしまうではないか。


 これがミッションだと割り切っているユリナとサリナはともかく、俺だけが野郎の状態で大量の成人向け画像を精査していくというのは、担当者に抜擢されたばかりの女性にとって最悪の行為。


 ちなみに、俺の目線などから『どの成人向け画像が好みなのか』ということも確認しているらしいユリナとサリナには、後でその画像と同じ状況を作り出してやろうと思っている……



「……えっと、№1から№100で全部だとして、あと抜け落ちているのは7枚ですかね、それを全部集めると何か変化があるかも知れません」


「何か変化といってもな、どうなるかはわからないし、そもそも見つけても拾うことが出来るのは俺だけなんだよ、そういう系の罰則の適用除外を受けているらしくてな」


「それは凄いっ! さすがは異世界の……きっと神々からも完全に諦められたような存在なんですね、おかわいそうに」


「いやディスってんじゃねぇよ、ユリナも笑うなっ! で、そんな俺の力だけで残りの部分を全部搔き集めるための作戦は如何に?」


「そうですね……では今から市民による通報システムを構築しましょう、もちろんそれをドロップしている張本人、どっポルノゲンガーを発見したら当然のことですが、町の中でこういう有害な画像を発見した場合にはすぐに懺悔堂へと報せるようにと、そうしない場合には罰則があるということを広く伝えるのです」


「なるほど、で、発見されたと同時に俺達が取りに行くと……わかった、じゃあその作戦でいこう、しかし何だって一体こんなミッションが……このゲームのクリアには関係してくるのか本当に……」



 どうにか町中にばら撒かれた成人向け画像を全て回収するための作戦が構築され、その話が知れ渡るとすぐに最初の通報があった。


 そしてその次もすぐに……この分であればあっという間に残りの部分が集まってくれそうだな……

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