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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1115 弱くない

「さて、そろそろ行こうか、今日中に次の町……どころかその次の町ぐらいまで到達してしまいたいところだ」


「そうですわね、昨日は色々と試したりしていて時間を喰ってしまいましたし、今日は一気に進むことを考えるべきですわ、ほらサリナ、行きますわよ」


「でも、この気色悪い缶詰の人が何か凄くカサカサになってしまっていて……あ、自然に崩れた、灰のように」


「しまった、差し水をして生かしておくのを忘れたぞ、新しい缶詰を開けなくちゃだが、どこへしまったか……あれ? まだあったはずなのにな」


「まぁ、とにかく出発して、移動しながら探したらどうですの? こんな所でバタバタしていても時間が無駄になるだけですわ」


「だな、とっとと出発してしまおう、目指すは次の町だ、もし万が一このまま缶詰野朗が見つからなかったら、道行く人にでも聞いて場所を知れば良いしな、はい出発」


『うぇ~いっ』



 最初の町の宿を出た俺達は、案の定道に迷ってその辺の人に道を尋ねると、どうやらここからまっすぐ北へ向かった先の町の出口から、街道沿いに進めば次の町へ到着することが出来るらしいということがわかった。


 すぐにそちらへ向かうのだが、やはりマップも缶詰野朗もなしで進む場合、本当に今居る場所が正解なのか、どこかで道を間違えてはいないかなど地味に心配である。


 やはり最低でもマップを購入しておくべきか、いや、それは次の町へ移動した後の方が得策であろうな。

 もうクリアしたと考えても良いこの町まで記載されたマップなど不要だし、可能な限り遠くを見渡したいのだから。


 それと、先程からバッグの中を漁りながら歩いてはいるのだが、本当に缶詰野朗の『予備』が見当たらないではないか。


 もしかするとひとつの世界でひとつしか使えないなどの制約が発生しているというのか? だとしたら少しヤバいような気がしなくもないな……



「ご主人様、やっぱり見つかりませんか缶詰の生物は?」


「ダメだ、適当にいじめ殺しても良いようにいくつか持って来たはずなんだがな、こんなときに見つからないとは」


「持って来なかったはずのアイテムがあるみたいなことも見受けられますから、もしかしたら持って来たのに入っていないということもあるかも知れないですね」


「あぁ、だがその場合にはナビゲーターをどうしようかってことになるんだよな、これまでの『ゲーム』ではずっと奴を使っている感じのものもあったぐらいだからな」


「そうなると……途中で買えたりしませんの? 何かとんでもないものの缶詰であるのは全異世界共通みたいですし、どこかで売っているかも知れませんわよ」


「う~む、まぁ、その可能性に期待してみる他ないか……」



 居るとムカつくが居ないとこまる缶詰野郎、本当に居ても居なくても迷惑な奴で、次に殺すときにはこれまでにない残虐な方法で苦しめてやろうと思うのだが、まぁ、それがいつになるのかはわからない。


 とにかく町を出ようということで、3人で歩いて北側の出口に向かったのだが、思っていたよりも広いマップを移動しているうちに、悪事を働いたユリナとサリナのHPがかなり削られてしまった。


 このまま町の外へ出るのは危険かも知れない、HPがゼロになって、また昨日の懺悔堂からやり直しになってしまうかも知れないということで、少しばかり回復を試みることとしたのだが……なんと、昨日とは別に、町の北側にももうひとつの懺悔堂が存在しているではないか……



「おい、懺悔堂で何かすれば色々と回復するんじゃないのか? また俺達が異世界から来たということを伝えて色々とサポートして貰おうぜ」


「そこでついでに缶詰の話も聞くことが出来そうですわね、この世界には異世界人が結構頻繁に送られているみたいですし、そういう知識も持っている可能性がありますわ」


「それに、もしかしたら昨日見たみたいなアレだ、他の異世界の異世界勇者とも話す機会があるかもだからな、もちろん俺の方が上位者で、初心者マークの雑魚に魔王軍を壊滅させた大勇者様の冒険譚を聞かせてやるような関係になるだろうがな」


「ご主人様、異世界勇者というのはもっとこう、転移していきなり謎の大成功を収めて……とにかくご主人様みたいに各方面からディスられているのは稀だと、そう魔王様が仰っていましたわよ」


「何だとあのクソ女、今度屋敷に帰ったら逆さ吊りにして棒でシバき倒してやる」


「そんなことをしたら死んでしまうのでやめてあげて下さい……」



 と、そのようにくだらない話をしている間に北の懺悔堂に到着した俺達3人、そこではなんと、懺悔センターと称して異世界人のHPを元に戻す機能まで備えられていた。


 見る限りで俺達のようなパーティーがふたつ、その懺悔センターのお世話になっている様子なのだが、どちらも顔が疲れ切っている奴等ばかり。


 この世界での冒険は相当に苦しいということなのか、それともそもそもの実力がなさすぎて、そして勇者としての素質もなさすぎて、どのような冒険をしてもあのような感じになってしまうのであろうか……



『は~い、次の方々どうぞ~っ』


「おっ、ユリナ、サリナ、順番みたいだぞ、バシッと回復して貰って来い」


「わかりましたの、ご主人様は……あのくたびれた勇者パーティー風の方々とでも話していて下さいですわ、何か情報を持っていないとも限りませんし」


「うわぁ~っ、あの陰気臭そうな連中とかよ、しかも全員野郎のパーティーじゃねぇか……まぁしょうがないか……」



 もうひとつのくたびれたチームには女性が居る、というか俺達のように勇者らしき男以外は全員が女性であるようだが、それはまだセンターで回復をしている最中らしい。


 ということで今しがた回復を終えて出て来た、くたびれた勇者パーティーに話し掛けてみることとしたのだが……声を掛けてみたところで、こちらをチラリと見てそのまま虚ろな表情で行ってしまったではないか。


 もはや誰かと会話することさえ出来ないほどに追い詰められているのであろうか、その理由は何なのかと疑問に思ったところで、懺悔堂の係員のようなおっさんが俺を呼び止める。


 どうやら触れてはいけない連中であるようで、確かに異世界からやって来た俺達のようなゲーム参加者ではあるが、なんと5年以上もこの町から脱出することが出来ず、まるで地縛霊のように付近を彷徨っている連中らしい……



「彼等はね、やって来たときにはまだ女性の方が多いパーティーだったんですよ、それがあの使えなさそうな男達ばかりになってしまって」


「ほう、その女性キャラ達はどうしたんだ?」


「もうとっくにクリアして元の世界に戻っている頃だと思いますよ……まぁ、つまりあの連中はここへ捨てられたってことです、ゴミとして、そろそろ死んでリアルなクズ肉になりますがね」


「え? そんなんアリなのかよ、どう考えてもあの先頭の野郎が勇者パーティーの勇者なのに……」


「それはその世界の神がお見捨てになったということです、あの男達はこの世界に来た際、かなり傍若無人な振る舞いをしておりましてな、悪事と認定されそうなことは全て女性キャラにやらせて、自分達は何にも手を付けない反省もしないクズ野郎共で……もっとも、あなたと同じように頭の上にHPバーがありませんでしたがね、その女性キャラ達に見捨てられるまでは……」


「……やべぇなそれ、じゃあ仲間だった女性キャラ達は自分達で勝手にレベルアップして出て行ったのか」


「そうです、ある夜、というかここに滞在し始めて2週間目の夜ですね、突然逃げ出して次の町へ行ってしまったようです、で、朝になって気付いたときには、頭の上に『レベル1』のバーが出ていて、しかも何かやらかせば即死刑にされるような存在意義のない馬鹿ゆえ、まともに町中で何かすることも出来ずに、ひたすら外に出てはモンスターに殺され、ここへ戻るということを繰り返しているのですあの連中は」


「うむ、万が一ということもないと信じてはいるが、一応俺も気を付けよう……」



 そのまま少しだけ町へ出て、昨日の宿代の余りで2人分の甘い飲み物と茶菓子を買っておき、ユリナとサリナのご機嫌を取る準備が整った、これで見捨てられる心配はないはずだ。


 で、それでもまだ2人の回復は終了していない様子であったため、ここでひとつ、缶詰野郎について何か知っていることがないものかと、懺悔堂の中に居るスタッフらしき人々に色々と聞いて回ることとした。


 そういう系の人は見た目でわかるため、片っ端から捕まえて、缶詰野郎を知っているのかなどのド直球質問を投げ掛けていく。


 すると5人目に当たってみた少し偉いと思しき神官……ではなく懺悔官らしいが、とにかくそのじいさんの口から缶詰野郎についての詳しい話が出たのであった……



「アレはのう、どこの世界にもある『人間の神に捧げられたもの』なのじゃ」


「神に? 神界の連中は馬鹿だからあんな気持ちの悪りぃもん喰らうのかやっぱり、きめぇなマジで」


「いやいや、さすがにアレを喰ったりなどせん、喰ったりなどはせんが、神の遣いとしてどこかの世界に送り、その世界で活躍する異世界勇者の助けとする、またはいつかその助けとなるべくその地に保管されるなど、形態は様々じゃが、とにかく勇者のお供として用意されていることには変わらんの」


「そうなのか、あんなのをお供にしようと……今度そういう系の神にあったら言っておいてくれ、気持ち悪りぃもん寄越しやがって殺すぞってな……で、今回さ、俺達はアレ持って来たんだけどさ、昨日の夜水をやるのを忘れてゴミになってしまったんだ、新しいのはどこで手に入る?」


「新しナビゲーターとな? それであれば異世界人限定のショップ、フィールドにランダムで出現するものじゃが、それを探すと良いのじゃ、きっとそこで売って貰える」


「いかにもゲームって感じになってきたな……まぁ、異世界人限定ってことはゲーム参加者以外関係がないから別に良いんだと思うが、それで、他に入手方法は?」


「他となると……もう少し待つのじゃ、本当にもう少し、あのくたびれた、もはやどうやってもここから脱却することが出来ない哀れな者共が、全てを諦めて神の下へとその肉を捧げるのを……」


「哀れな者共って……あぁ、奴等のことか、それならさっき出て行って……もう戻って来ているのか……」



 つい先程、俺の問い掛けに対して虚ろな目で無回答の意思表示をし、そのままどこかへ去って行った知らない世界の勇者パーティー、の残りカスのような連中。


 それがいつの間にかこの懺悔堂へと舞い戻り、ボロボロの状態でセンターでの回復の順番を待っているのであった。


 と、そこで回復を終えた女性を含む別のパーティーが出て来たため、再び中へ入っていく覇気のない連中。

 もはやフラフラであって、HPを回復したところでどうなるとかは思えないような雰囲気だ。


 そしてその分、疲れた顔はしているのだが、女性を含む知らない世界の勇者パーティーは、それなりにやる気を取り戻して懺悔堂を出て行った。


 去り際、『もうすぐここへ放り込まれて1か月になるから、それまでには次の町へ移動したい』という旨の決意表明を、円陣を組んでしていたのが印象的であったのだが……どれだけ苦労しているというのだこのゲームに……



『はい終了になります、お疲れさまでしたーっ』


「ありがとうございますですわ、あ、ご主人様、ずっとそこで待っていたんですの?」


「いやそんなことはない、大事なお前等が疲れていると申し訳ないと思ってな、ほら、甘い飲み物を買って来たからこれでも飲め」


「無駄に気が利きますね、何か裏がありそうで恐ろしいんですが……でも喉が渇いているのは事実なので頂いておきます、それで、何か情報は仕入れられましたか?」


「あぁ、とびきりの情報がひとつな、えっと、さっきすれ違ったか何かしただろうが、疲れ切った顔の野郎だけの異世界パーティーが居ただろう?」


「あぁ、そんなのが居ましたわね、さっき出て行って、また血塗れで戻って来たような気がしますが、それがどうかしましたの?」


「奴等、もうダメダメのダメで諦めた方が良い次元でな、そろそろ朽ち果てて死んでしまうらしいんだよ、それで……それでそのまま缶詰野郎になるらしい」


「……意味が分かりませんね」


「あぁ、俺も意味不明なんだがな、缶詰野郎ってのはどうもああいう『終わった人間』の末路みたいなんだよ、一度リアルタイムで出来上がったときも、道中でブチ殺したおっさんとおばさんの肉を使っていたからな」


「益々意味不明ですわよ……でもそれであれば、とにかくあのダメダメな方々が『終わる』のをここで待つしか……」


「いや、奴等はここを発ったらすぐ町から出るんだ、それを追って死ぬ瞬間を捉えよう、それにその方が外のフィールドの様子見にもなるからな」


「なるほど、それならちょっとありな気もしますね……」



 そのまましばらく待つと出て来たダメダメ異世界パーティー、全員足取りが重く、治っているのは外相だけである様子。

 精神的ダメージの方はザックリと深いままで、その場にいるほぼ全ての人々に嘲笑されながら出口へと向かっている。


 それを追跡した俺達は、連中がそのまま町の北側へ向かっていることを確認して作戦を続行した。

 いよいよ俺達も最初の町の外へ出るわけだが、果たしてどのような感じで次の町へ移動するのであろうか。


 ゲートを潜って野外フィールドに出ると、間もなく出現した敵に襲われるダメダメ達であったが……もうやる気なくその場にへたり込んで、ただただ殺されるのを待っているような雰囲気だ。


 敵の数は3体だけ、俺達の世界で言うとゴブリン的な雑魚キャラであって、その色違いで濃い青色の気持ち悪い奴。

 当然武器として石のナイフのような粗末なものを所持しているのだが、良く考えればダメダメ達は丸腰だ。


 取り囲まれた状態で泣き始めるダメダメ連中に対して、石のナイフでザクッと……異様に切れ味が悪いため、ダメダメのうち1人、いや1匹が悲鳴を上げ、肩口から出血したのみである。



「……さてと、俺達はどうする? 一旦このまま隠れてやり過ごすか? そうすれば最終的にどうなるのかってところまで見ることが出来そうだが」


「それよりも戦ってみた方が良いかも知れませんの、あの敵は間違いなく最低限の雑魚なわけですし、初めのお試しとしてそういうのを相手にするチャンスですわ」


「まぁ、そう考えてみればそうだよな、よし、じゃあちょっと介入してみよう、ユリナが攻撃してくれ」



 ということで殺されそうなダメダメ連中を助けに行くわけではなく、こちらの都合で戦闘に介入することとした俺達。


 まずはユリナの魔法攻撃で1匹の敵を焼き殺してみようと、狙いを絞って炎を放つのだが……本当に小さな火の玉が出て、それがゴブリン風の敵の顔に直撃して……死なないではないか。


 これにはユリナも首を傾げているのだが、良く考えれば俺達の力はこの世界において相当に制限され、現在の『レベル』相応しか解放されていないのである。


 となるとサリナの攻撃も……やはり、敵の1匹が頭痛を訴えて転げ回る程度の効果しか発揮していない。

 通常であれば頭どころかショックで全身が弾け飛ぶ次元の精神攻撃なのだが、今はこの程度ということか。


 そして敵は残り1匹、まぁ他の2匹も生きてはいるのだが、それでもダメージを負っているため大きな脅威とはならない。


 しかしその残った1匹は、ダメダメ連中への攻撃を中止して俺達の方に向かって来るのだ。

 となると、ここは最後に俺が出張って一撃を喰らわせなくてはならない流れである。


 特に武器がなかったため、その辺に落ちている木の棒を拾い上げてそれを振り回し、威嚇しようと試みると……それによって発生した衝撃波で、向かって来ていた敵と、その後ろに居たダメダメ連中の一部がミンチになってしまったではないか……



「……あれ? 俺だけ何の制限もないようなんだが……気のせいとかじゃないよなこれは?」


「間違いなくいつものご主人様の力ですよ、微妙にイマイチなところとかも」


「はい余計なことは言わない、反省!」


「はいぃぃぃっ! あ、反省ポイントが溜まりましたねちょっとだけ……」



 どういうわけか俺だけいつもの力が出る、これはゲームに転送された際に何かのエラーが生じていたということか、それともまた別の理由があってこうなっているのか。


 だがとにかく俺の力は今後あまり振るわない方が良いであろうと、そう予想するにつき確信が持てる何かがあるわけではないのだが、とにかくこれでゲームを進めていくのはヤバそうだ。


 後々になってズルをした分を取り戻さなくてはならないイベントが生じかねないし、やはりいざというときのみのものとして温存しておくべきであろう。


 で、残り2匹の雑魚敵はユリナとサリナにキッチリ1匹ずつ殺害させ、それによって経験値などは全く得られないということも確認した後、ドロップした僅かばかりの金銭を回収しておく。


 その場に残ったのは俺達とゴブリン風雑魚敵が使っていた石のナイフなど、それから先程の俺の攻撃に巻き込まれなかった、ダメダメ連中のうちの2匹である。


 そしてそのダメダメ共が、仲間にして欲しそうな顔でこちらを……見ているわけではないが、とにかく目が合っていることだけは確かだ。


 ここは何か会話をしておくべきところなのかとも思うが、あまりにも力を感じない、ただ視覚情報を得ているだけにしか思えないその虚ろな目を見ている限り、まともに会話が成り立つようには思えない。


 やはりこいつ等はこの場に放置して、一度あの懺悔堂に戻ってみるべきか、そうすれば先程死んだ連中が戻されていて、そこで『肉』というか缶詰にされているのではないかと……と、そう思ったところで、2匹のうち1匹に動きが、どうやら話し掛けてくるらしい……

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