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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1113 清く正しく

「ということで早く行きますの、今日、これからでも良いですわよ」


「待ってくれユリナ、まだ俺は前のゲームから戻ったばかりでだな、普通に疲れているし、そもそも夕飯を先にだな、わかる?」


「まぁ、そのぐらいなら待ってあげても良いですわよ、夕飯の後お風呂にも入って、それから出発ということで良いですわね?」


「何か凄く上からな態度なんだが……どうしてそんなにゲームに行きたいんだ? マーサじゃあるまいし、舞い上がってんのかお前等?」


「そうじゃないんですよ、この施設だとなかなか悪事とかも働けないですし、ほら、女神とかの目もありますし、そもそも迷惑を掛けて嘲笑うための相手が居ないんですよ、だからゲームの方でそのストレスを発散しようと」


「悪魔かお前等はっ!? てか悪魔か、悪魔だもんな、しょうがないよな悪魔なんだから……まぁ、じゃあそういうことで今日の夜だな、もちろん悪戯が出来る世界に飛ばされるとは限らないがな」


「そこは大丈夫だと思いますの、人の居ない世界なんてきっとありませんことよ」



 ということで食事を取り、そのまま適当に時間を潰した後にユリナとサリナの部屋へと向かう。

 2人が風呂上りであったため、俺も今のうちにということで風呂を済ませておき、上がって壁を見ると……カウントダウンが始まった。


 そのデジタル壁掛け時計のようなカウントダウン装置を見て、どういう仕組みなのかと首を傾げる2人を差し置き、俺はゲームの世界への旅立ちに備えて黙々と準備を進める。


 まずは軽い食料、万が一のためのものであり、1日分程度は確保しておきたいところだ。

 そしてナビゲーター代わりの缶詰野朗も適当に3つ、これは途中でムカついて殺してしまった場合の予備も含んでいる。


 あとは……どうせユリナとサリナが悪い事をする、というかそうするのだと宣言してしまっていることから、お仕置きとして尻尾に挟む強力クリップも持って行くこととしよう。


 他には何かないかと考えたところでカウントダウンが満了し、真っ暗になった部屋から別の世界へと転移した……



「……明るくなってきましたの、ここは……どこかの町のようですわね」


「ご主人様、上の方に何やら指令のようなものが書かれたプレートが……『ルールとマナーを守って気持ち良く、爽やかにクリアしましょう』だそうです」


「ホントだ……と、消えちまったな、また相変わらず抽象的でわかりにくい指令なんだよなこれが」


「それでどうしますの? この向きで立たされているということはそのまま前に進むのではないかと思いますが……冒険のヒントとかはないんですわね」


「わからんが、とにかくアレだぞ、ユリナとサリナの頭の上にだけバーみたいなのが浮かんでいるってのだけは確かだぞ」


「……あっ、ホントですね、上の満タンと思しきバーはHPか何かでしょうか? 下のは空っぽみたいですね、意味不明ですけど」



 俺にも、そして道行くこの世界の一般人にも見当たらない頭の上のHPMPバーのようなものだが、なぜかそれがユリナとサリナには存在している。


 これがゲームの根幹を構成する何かであるということは容易にわかるのだが、果たして一体どんな使い方をするものなのか、現時点ではサッパリわからない。


 また、持って来た荷物以外にもこの世界のものと思しき通貨が少しだけ、銅のものと銀のものばかりではあるが、なぜか持っている袋の中に入っていた。


 それ以外には特におかしな点がないということで、まずは道行く人々にこの世界のことについて尋ねてみようと考えたところ、その前にユリナが何かを発見したようだ……



「ここにゴミ箱が設置されていますの、この蓋を燃えるゴミと燃えないゴミで入れ替えて……そうすればここからは間違えて捨てられまくりますわ……っと、何ですのこれ? 何か黒いのが巻き付いて」


「地面から紐みたいなのが生えてユリナにっ!? しかも手の形のまでっ!」


「うわっ、宙ぶらりんにされてしまいましたね姉様、しかも手の形をした方が姉様のパンツを……悪い事をしたのでお仕置き、ということでしょうか?」


「ひぃぃぃっ! お尻を出されてしまいましたのっ、もうこうなったらされるのは……いてっ、いてっ、ごめんなさいですのっ、あいてっ」



 実にくだらない悪戯をした途端、地面から生えた謎の紐状物質に拘束され、さらにそれが変化して掌の形状となったものでお尻ペンペンの刑に処されるユリナ。


 道行く人はその光景を見ても驚いたりしないし、特に気にしていない様子だが、1人だけ気持ち悪い顔のおっさんが接近してきて、ユリナの丸出しにされた尻を見ようとしている。


 仕方ないので俺が出てその気持ち悪い顔のおっさんを処刑しようと思ったのだが……次の瞬間にはもう、ユリナを拘束しているのとは別の紐状物質が地面から生え、なんとおっさんを絞首刑にしてしまったではないか。


 泡を吹いて苦しみ、最後は無駄に首がブチッといって死亡したおっさんは、そのまま気持ちの悪い頭部を地面に転がし、そして地面の中へと吸い込まれていった。


 で、その後ユリナが解放され、ドサッと地面に投げ捨てられたその頭上を見ると、やはりそこにあるHPバーのようなものが変動している。


 これはつまり、罰を受けたことによってHPが減少したと、そのように捉えて良いのであろうが……結局のところこれが何を意味しているのかはわからない……



「ふぅっ、なかなかハードなお尻叩きでしたの、これではあまり悪事を働くことが出来ませんわね」


「まぁ、ちょっとは反省しただろうが、どうせまた捕まって叩かれるんだろうけどな、ところで……と、そこの警備員みたいな格好のお姉さんに話を聞いてみよう、この世界のPOLICEかもだからな、すみませ~ん、俺達異世界から来たんですけど~っ」


「……異世界人の方ですか? それは珍しい、ところで先程そちらの……悪魔の方ですかね? 悪事を働いて罰を受けていたような」


「そうなんですの、ちょっと悪戯しただけでお尻を叩かれましたわ、酷いですわよここの世界は」


「そう仰いましても、この世界は何かやらかすとその罪に応じて自動的に制裁を受けるシステムが確立されていまして、ルール違反はおろかマナー違反でさえも厳しく罰せられるのです、先程覗きをした男が処刑されたようですが、それは見ましたよね?」


「なるほど……となるとお仕置きされるのを覚悟していれば、それなりに自由な行動が出来るということですね、じゃあ早速ポイッと」


「あっ、あなたポイ捨てをっ!? そんなことをしたら子どものような見た目でも容赦は……」


「う~ん、やはりお尻ペンペンですか、いてっ、いやんっ、結構キツいっ、ひゃぁぁぁっ!」


「何やってんだサリナお前……やっぱりHPみたいなの減ってるし……」


「もしかしてこの悪魔……Mなのでしょうか?」



 ユリナに続いてお仕置きされてしまったサリナ、100叩きの後に解放され、そのまま地面に捨てられたうえ、警備員風のお姉さんに命じられてポイ捨てしたゴミも回収させられる。


 そして今回はこうなってしまうことがわかっていてわざとやったことであるため、追加的に俺からのお仕置きが科せられる。


 ゴミの片付けを終えたサリナをヒョイッと担ぎ上げ、尻叩きを加えると……HPバーの方は全く変動しないようだ。


 どうやらあの紐状物質に何かされない限り、この異世界から来た悪魔2人がゲーム上有しているHPは減らず、そこかゲームクリアのカギになりそうなところである。


 なお、HPバーが変動しないその代わりに、叩けば叩くほど下のもうひとつのバー、最初はカラッポであったそれが伸びているのだが、コレは一体何なのであろうか……



「いてっ、いてっ、ごめんなさいっ」


「よし、そろそろ許してやる……と思ったがアレだ、HPじゃない方のバーがもう少しで満タンみたいだからな、しばらく我慢しろ」


「はい、もっとぶって下さいご主人様……あうっ、痛いっ、ごめんなさいっ……」


「っと、これで満タンになったんだが、またカラッポに戻ったじゃないか」


「その代わり上のHPらしき方が回復していますの、しかも一瞬『LVUP!』と表示されましたわね」


「あ、そういえばあなた方は異世界から来られたんでしたね、異世界の方は頭上に何かバーのようなものが浮かんでいると、そのような伝説があります、詳しい話をお望みでしたら、この先にある懺悔堂で、それっぽい宗教的な人の話を聞いたらいかがですか?」


「懺悔堂……それっぽい宗教的な人……まぁ、とにかく行ってみるか、その懺悔堂ってのは……明らかにアレだな」


「めちゃくちゃ土下座している人達が居ますね、どれだけ悪いことをしたんでしょうか……」



 警備員風のお姉さんが指し示した先にあったのは、いかにもそれらしい建物に『悔』の文字だけが書かれた巨大看板を掲げた建造物。


 その前では多くの人が土下座して、何やら自分の行いを悔い改めているようだが……一体何をしたらあのような屈辱的なことをさせられなくてはならないのであろうか。


 そう思いつつ接近していくと、大声で自分の罪を告白する人々の言葉が耳に入るようになってきた。

 まずはそれを聞いてみようということで、遠巻きに土下座軍団の様子を眺めておくこととする。


 と、どうやら建物の前に変なおっさんが立っていて、それが土下座している人々に個別指導を与えているようだ……



「あぁっ! 超申し訳ありませんっ! 俺は昨日うっかり醤油とウスターソースを間違えてっ! 禁忌とされる『目玉焼きにソース』をやってしまいましたっ!」


「ふざけんなどこの蛮族だ、死ね」


「へへーっ!」


「私はさっきそこで助けを求める方のお力になれませんでしたっ、道端で突然『おっぱいを揉ませてくれないと死んでしまう』と言われたのに、恐くなって逃げてしまいましたっ!」


「まぁそれはしょうがないんじゃねぇの? よってセーフ!」


「あり難き幸せっ!」


「僕は今日とんでもない悪事を働いてしまいましたっ、道行く女の人がちょっとアレだったんで、失礼ながら『おっぱいを揉ませて欲しい、そうしてくれないと死んでしまう』とウソをっ」


「いや隣な、こっちじゃなくて隣見て謝罪しろ、あと普通に死ねや」


「承りましたーっ!」



 などなど、並んで土下座し、変なおっさんの指導を受けている連中の悔い改めている内容がクソほどどうでも良いものばかりであって、もはや懺悔するに値しない内容であるということが良くわかった。


 まぁ、最初の『目玉焼きにソース』の人は個人的に死刑を求刑したいところだが、それは世界ごと、思想信条ごとの違いもあるところなので何とも言えない、まぁ、この世界においては異端らしいが。


 で、そんなくだらない土下座軍団は無視して、その間を縫うようにして通過し、ついでに偉そうな態度で始動しているおっさんもスルーして懺悔堂とやらの中へ。


 建物内は普通に椅子が並ぶ、結婚式のチャペルを少し大きくしたような感じのものであったが、その奥には何やら偉そうな、もちろん先程の指導者よりも高級そうなおっさんが1人。


 どうやら奴がここのボスキャラであるようだな、敵ではなさそうだが、俺達が異世界人だということを知ってどのような協力をしてくれるのか、それは未知数である……



「……やぁ、君達は異世界から来た人間と悪魔だね、ようこそ懺悔堂へ、私はここのラスボス的な人だよ」


「一応確認しておくが、敵ではないんだよな?」


「敵、という存在ではないよ、だが君達も既に見ているだろう、あの地面から生える紐状物質を」


「見ましたの、というかお尻を叩かれてお仕置きされましたの」


「そうかね、まぁ、君は悪魔だからそういうこともあると思うよ……で、あの紐状物質を管理しているのが私達、懺悔堂管理庁ということだ」


「その懺悔堂管理庁さんは、私達異世界から来た者に対して何をしろと言って、何をしたら元の世界に戻らせてくれるんでしょうか?」


「元の世界に戻すのは残念ながら私達の判断ではなく、神界の神々が設定したクリア条件を満たした際となります、ですがその判断基準には、おそらく頭上に浮かんでいるであろうバーの変動、それが深く関与してくるとのこと」


「そうか、で、さっきその紐状物質とは別に、追加でお仕置きしてやったら下のバーが溜まったりとか……どうしてそうなったのかわかるか?」


「それは神々が設定した『反省ポイント』ですね、詳しくは……話が長くなるので奥へどうぞ、どうやら次の方々が待っているようでして、ここは中ボス的キャラの人に任せて、あなた方は奥の部屋で説明を」



 いきなり頭上のHPMPバーのようなものに言及されたことから、これはかなり濃い情報が獲得出来るものだと考えてどんどん質問を重ねていく俺達。


 気が付いたら俺達の後ろに、全く同じ、いや女性2人は悪まではないようだが、とにかくそういうメンバー構成の3人組が立って順番待ちをしていた。


 その全員の頭上に浮かんだユリナとサリナのものと同じHPMPバーらしきものは、その3人が俺達とはまた別の異世界からやって来た人々であるということを物語っている。


 きっと3人はどこか知らない世界の勇者パーティーで、何らかの理由でその世界からこのゲームに参加しているのであろう。


 強さ的には全員俺達の足元にも及ばないのであるが、まだ冒険の序盤である可能性も高く、一概には雑魚世界の者とは言えないし、とにかく俺達がここを占拠していると普通に邪魔だ。


 ということで先に来ていた俺達はこのラスボス的な人の説明を受けるために奥のVIPルームへ……と思ったらどう考えても拷問部屋である。


 部屋は移動したものの、特に高待遇と言うわけではなく、普通に空いている場所へ引っ込んだというだけのことであったようだ……



「……それでですね、この世界のオート処罰システムについてはもう体験済みということで、話を先へ進めましょう」


「お願いしますの、出来ればこの先も悪事を働きつつ、なるべく痛い目に遭わない方法を伝授して欲しいですわね」


「それはさすがに……とまぁ、それでも罰を受ければ良いわけですからね、たとえ悪事を働いたとしても、目玉焼きにソースを掛けてしまわない限りは、それだけは許されませんからこの世界では」


「どんだけソース嫌いなんだよこの世界は……で、罰を受けて減ったHPみたいなのはどうやって回復するんだ? やっぱりこの反省ポイントだか何だかってのが関係しているのか?」


「えぇ、まぁそれもそうですね、まずHPの方ですが、宿屋で1泊したり、あとは自然に少しずつ回復していきます、また、レベルが上がった際には満タンに戻るなどの特徴もありますね、その場合には数値もレベルに応じて伸びていきます」


「というと、私は今レベル2に上がっていると、そういうことですね」


「えっと、1段階上がったのでしたらそうなります、反省したり、自主的に罰を受けてこれまでの行いを悔い改めるようなことをすれば、反省ポイントが溜まりますので、それでレベルアップしたのですね」



 ちなみにその『反省』ではHPが減ってしまったりしないというのも事実ということで確定した。

 となると、この世界において俺達は、普段悪事ばかり働くユリナとサリナを反省させるべきということであり、それでレベルを上げていくのがまず第一の目的だ。


 で、レベルを上げ、ついでにこれまでの悪行を反省してまともになった2人を連れて、おそらくはRPG的にゲームを進めていくのだが、そのために必要なものは何で、最終的にはどこへ辿り着けば良いのかということをその懺悔堂のおっさんに質問する。


 目的地は遥か彼方にある『エクストリーム懺悔堂(本館)』であるということだけはわかったが、その道中のナビゲートなどはさすがに出来ないとのこと。


 なぜならば懺悔堂の人々がこのゲームに関与しているわけではなく、あくまで神界の神々がこの世界を利用しているだけで、その詳しい内容を知らされているということはないためだ。


 懺悔堂のおっさん達が異世界人やゲームについて知っていることは、全てこれまでやって来た異世界人のムーブを見たり、クリアするまでに幾度もコンタクトしてきた、その蓄積があるためであって、特に最初から情報があるわけではないのである。


 よって俺達がこの世界の歩き方をナビゲートして貰う相手というのは……懺悔堂のおっさん曰く、『小さな神の遣い』とのことだが、もうそれらしきものはバッグの中に存在しているアレぐらいしか思い付かない……



「では、ここからはその神の遣いの話を良く聞き、目的地を目指して清く正しく進んで下さい」


「わかった、というかこいつ等にわからせなくちゃなんだが、とにかくこの懺悔堂と同じようなのを道中で見つけたら、また情報収集のために寄らせて貰うかもだからな」


「えぇ、その際にはぜひ罪を悔い改めて、新たなスタートを切って頂きたいと存じます、それではいってらっしゃいませ」


『うぇ~いっ』



 ということで懺悔堂とやらを後にした俺達、外へ出ると、先程目玉焼きにソースを掛けてしまったらしいおっさんが、異端審問として醤油を5ℓ飲まされて死亡していた、もちろん人間の手で。


 なかなかハードなこの世界だが、どうやら故意で悪事を働いたのと、うっかりでやってしまった、つまり過失犯とは対応が違ってくるようだな。


 その辺りも踏まえて、ユリナとサリナがよりレベルを上げることが出来、さらに目的地に向かって最短ルートで進むような方法を考えなくてはならない。


 懺悔堂を離れたところで、まずはバッグの中から不快なオーラを放つあの缶詰を取り出して、中の気色悪い半魚人風生物を召喚しておく。


 大変遺憾ではあるが、今回もコイツのナビゲート通りに、ゲームをクリアするまでという期間限定の異世界を踏破することとしよう……

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