1101 第二の
「……みたいな感じだったんだよ、90分間『宝』を守り抜いてさ、それでゲームクリアの報酬をゲットしたんだ、少し強くなったかも知れないぞ俺達3人は」
「なるほど、そういう夢を見たんですのね、夢とはいえ面倒臭そうなゲームですこと」
「じゃなくてガチなんですよ、夢であったとしても時間は経っていましたし、そもそも3人全員が共通して同じ夢を見ていたことになります」
「現実……ということになるわね、でも他は誰もそんなことになっていないのよ、どうしてその部屋だけそうなったのかしらね?」
「わからんが、ランダムなんじゃないのか? 一応報酬は貰えるが面倒だし、当選してゲーム会場に招待されるのが良いのか悪いのかは微妙だがな」
謎のゲームに参加させられ、どうにかクリアすることによって報酬をゲットした俺とセラ、ミラの3人は、翌朝になって一番にそのことを仲間達に報告する。
だが誰も同じ、或いは同じようなゲームを体験したということはなかったらしく、終了後に確認した『全員寝静まっている』というのは、普通に何事もなく寝てしまっただけであったようだ。
精霊様はどうして俺達3人の部屋だけが選ばれたのかということを気に掛けているようだが、そのまま女神に視線を向けても、本当に何も知らなさそうな顔をしていることでそれ以上の追求を諦めた。
念のためということで、俺達が受け取った報酬である潜在能力ウェイクアップ系のドリンク(light)の空き瓶も確認してくれるらしいが、今はもう、飲み干してあるため特に力は感じない。
それから、こういうモノが貰えるということがわかったし、もし上手くやればもっと良いアイテムをゲットすることが可能なゲームなのかも知れないということで、もし会場に案内された際には可能な限り頑張って欲しいと、その場で全員に伝えておいた。
ほとんどのメンバーは俺達3人の体験が夢ではないかと、そんなことが現実に起こり得るのかと疑っている様子だが、これまでのこの世界において生じた異常現象の中ではかなりマシな部類だと思う。
とにかくその日も地下施設内に滞在し、朝からパワーアップのための修練を、女神の力を借りてやっていたのだが……やはりあの体験をした3人は少しばかり強さの上昇度合いが大きいように思える。
ほんの僅かではあるが、やはりあの潜在能力ウェイクアップ系のアイテムが、『light』と表示されている分ぐらい効いているのであろう。
そういうことであれば、他の仲間達にもあの謎のゲームを体験して貰って、少しでも大きい強化と、それから実際に戦ったり何だりすることによって今の強さに慣れること、そのふたつをして欲しいと思うところだ……
「ふぅっ、今日はこんなもんね、じゃあお昼の支度をして、その後でちょっと休憩しましょ」
『うぇ~いっ!』
「よっしゃ、じゃあちょっと部屋で休憩するわけだが……今日はカレンとリリィの部屋に行こうかな、昨日は例のイベントのせいで寝不足だし、広々寝られる場所が一番だからな」
「わう、そしたら夜はおやつを持ち込んでパーリィーを……」
「いやだから早めに寝たいんだが?」
「まぁまぁそう言わずに、今のうちから準備しておきましょう」
「ひゃっほーっ、おやつパーリィーだーっ」
「・・・・・・・・・・」
部屋のチョイスを間違えてしまったかとも思ったのだが、どうせこの2人のことだから酒を飲んだりするわけでもなし、そのうちに飽きて寝てくれることであろう。
そう考えて変更するのをやめ、昼食を取った後にそのおやつパーリィーとやらの準備を手伝わされた、というか俺が1人で全てやらされた感じだ。
といっても適当に肉々しい肉の食材をミラに渡し、それを保存食にするようお願いすると同時に、今ある保存食の肉を少し分けて貰うというだけの簡単な作業であった。
ついでに蠢く神界缶詰も貰っておくこととしよう、予めノックして中から返答を得ておいて、新鮮そうなものをチョイスして部屋に持ち込む。
改めて見た室内には所狭しと並ぶ今夜のパーリィーのための食材、なかなかの量を運び込んでしまったのだが、もし余るようなら後で片付けよう。
そしてその様々な食材をチェックするリリィの頭の向こうに……昨日と同じデジタル式の壁掛け時計があるではないか、しかも残り1分弱でタイムアップとなるらしい……
「おい見てくれ2人共! アレだ、昨日の夜セラとミラの部屋では、アレがゼロになった瞬間に変な空間に送られてしまったんだよ」
「……あっ、変なの……そうすると、今日はこのお部屋が選ばれて、そのゲーム? ってのに行くんですか?」
「そういうことだと思う……勘弁してくれよ疲れてんのに……」
「良いじゃないですか楽しそうで、ほらっ、ゼロになりましたよ……真っ暗にもなりましたけど……」
「今日もあのゲームかな、それとも……って外じゃねぇかぁぁぁっ!」
「お部屋から追い出されちゃいましたね、でも見て下さい、持って来てあったおやつは全部無事ですよ」
「……マジだな、てことは今回はこの缶詰とか干し肉とか、その辺りが『持ち込み可』になるゲームってことか……何なんだろうな一体?」
「そもそもどこですかここ? 森の中で一本道が続いていて……何だか知らないけど変な板みたいなのが降りて来ましたよっ」
「ゲームのルールでも書いてあるんじゃないのか? えっと……『道を進んでゴールしろ』とかアバウトだなおいっ!」
ゲーム会場に飛ばされたということは、昨夜の件で経験済みの俺には容易に想像することが出来た。
だが昨夜とはまるで違う、何かのゲームをするというよりは、ハイキングコースにでも誘導されたかのような景色。
しかも道を進めだとかゴールしろだとか、本当にこのまま森林ハイキングを、マイナスイオンを感じながらしておけば良いということではないのか。
いや、どうせろくでもない仕掛けがあるに違いないと、一瞬このゲームらしきものがボーナスステージであると錯覚仕掛けた俺に、これまでの経験が語り掛けてくる。
そしてすぐ横では、何やらベーコンの匂いに釣られたらしいカレンがフラフラと、俺達の立っている街道の脇に移動して……そのまま見知らぬ食人植物にバックリいかれてしまった……
『うぅぅぅっ、何でこんなのから抜け出せないんですかぁぁぁっ』
「落ち着けカレン、このゲームの中では俺達、かなり力が制限されている感じなんだよ、だからこんな雑魚食人植物からも抜け出せないんだ、ほれっ」
「あうっ……ふぅっ、このっ、このっ! やっつけてやりますっ!」
完全に自業自得であるというのに、自らを喰い殺そうとしただけの食人植物さんに当り散らすカレン。
通常であれば軽く喰われたところでどうということはないのだが、やはり昨日同様、このゲーム内では俺達の力が制限されているらしい。
というよりもむしろ、力を発揮してもその効果が限定的になっているかのような、そんな感じが昨日のゲーム会場と同じなのだ。
おそらくここからも同じように制限された能力で……と、今は『このゲームをゴールまで進んでクリアする』ということを考えなくてはならないときだな。
しかし一体どこがゴールなのか、そこまで徒歩で何時間掛かるというのか、通常、どこかの怪しい不動産屋に聞いても答えてくれるような当たり前の情報が、今俺達にはまるでない。
どこかの格闘家がバナナの木を破壊するかの如く、自分を喰らおうとした食人植物に報復しているカレンをスッと抱き上げ、別の場所でまた危なっかしい行動を取っているリリィにも声を掛ける。
ひとまず先に進まなくてはならない、そうしないとこのゲームの空間から逃れることは出来ないのだから……
「すっごい、周りの木とか草とか、全部人を食べる系のやつですよこれ」
「みたいだな、どうなってんだこの世界は、ちなみにリリィ、もっと真ん中を歩かないとまた戦闘になるぞ」
「あ、はーいっ……というかこっちに向かうので合っているんですか? 実は逆とか」
「わからんが、最初に来たときにこっちを向いていたからこっちである気がする、元々全員バラバラの方向を見ていて、それが揃ってこっち向きだったんだからな」
「なるほど、で……どうしたんですかカレンちゃん?」
「向こうから誰か来ますよ、2人、おじさんとおばさんだと思います、動いている音とか感じからして普通の人族の人じゃないかと思いますけど」
「おっさんとおばさん……このゲーム内の奴なのか、それともホンモノの人間の類なのかってとこだな……」
そのまましばらく待ってみると、進行方向から現れたのはたしかにおっさんとおばさん、しかも普通にウォーキングをしているような格好で、食人植物に殺られないよう、道の真ん中を歩いて来た。
手に持っている水筒と首に掛かったタオルからして、明らかに何か目的があって移動しているのではなく、近所の人が健康のためなどと言ってわざわざ歩いているものだ。
しかもこちらに気付いて駆け寄って来るではないか、俺達のことを認識しているし、敵かも知れないなどとは考えていないらしいな……
「やぁ君達、その格好を見るに異世界から来た人間だね?」
「この辺りは多いのよ、神の力で召喚されてくる異世界人が」
「そうなんだな、せ、召喚された異世界人はどうしたら良いんだ?」
「このずっとずっとむこう、山を越えた先に祠があるのよ、そこで神に祈りを捧げると、元居た世界に帰ることが出来るわよ、ゲームクリアとして」
「なるほどそいつが元々居た世界か……まぁ、俺の場合はふたつになってしまうんだがな、今更『元の世界』に戻ることはないだろうし……」
「何をブツブツ言っているのかな? ちなみにこの先は野獣や盗賊、シャブ中に変質者に自暴自棄になったやべぇ奴なんかが目白押しだ」
「街道沿いにはずっと食人植物が生えているし、気を付けて行くことだよ」
「うむ、まぁそういう感じだろうとは……ところであんたら、どうしてそんなルートを歩いて来て平気なんだ?」
『・・・・・・・・・・』
このおっさんとおばさん、かなり怪しいと思うのは俺だけであろうか、いやそうではない、そうではないのだが……カレンもリリィもあまり気にしていない様子。
見ている限りでは普通の人族なのだが、どうしてもそうとは思えない部分があって、もちろんここは異世界だから純粋な人族ではないのであろうが、それでも異様だ。
これから俺達が向かう先、とんでもなく危険な道程であろうそのルートを、当たり前のようにウォーキングで通過して来たなど考えられない。
きっと何か秘密を有しているはずだ、もしかしたらこういうのが敵であるかも知れないし、ここで別れても道中でまた出現し、その際には攻撃を仕掛けてくるかも知れないのだ。
それに、そもそもこの道案内自体がガセで、実は逆方向に誘導されていて……などということも考えられる。
ここはひとつ、この場で処分しておくべきだと、そう考えることにつき正当な理由があると言えそうだ……
「おいおっさん、ちょっと良いか?」
「何だね? 君達は早くゲームクリアを目指して……え?」
「ちょっと食人植物の餌食になって貰う、死ね」
「あっ、ギャァァァッ! ギョェェェッ! おげろぺっ……ぷっ……ぽっ……」
「めっちゃ溶かされましたね、あ、全部飲み込まれちゃった」
「……イヤァァァッ! あんたぁぁぁっ! どうしてっ、どうしてこんんなことするんだいっ! イヤァァァッ!」
「うっせぇババァだな、お前も実験台になれや、オラッ!」
「はっ……あぁぁぁっ! 両手足がぁぁぁっ!」
おっさんの方は直接食人植物で構成されたブッシュの中に放り込み、それが確かに危険な植物の群生体であるということを認識した。
そしておばさんの方は別の実験、その場で傷付いたりして、或いは眠ってしまったりして動けなくなった場合にはどうなるのかというものに使用する。
叫び続けるうっとうしいおばさんをそのまま放置して離れると……植物の蔦が伸びてきたではないか。
やはり街道の真ん中に居ても、その場で抵抗が出来なかったり逃げられなかったりという状況にあっては危険ということだな。
おばさんは植物の蔦に絡み取られ、さらに絶叫のボルテージを上げていたのだが、しばらくすると断末魔の叫びを上げ、そこからは静かになった。
その場に残ったのは……なんとドロップアイテムが出ているではないか、早速確認してみよう……
「見て下さいご主人様、『おじさんの肉』と『おばさんの肉』ですっ」
「いや要らねぇよそんなもん……と、何か用途があるかもだからキープしておこう、他には?」
「伝説の棒と伝説の短剣ふたつ、それから伝説の投石器ですね」
「……それ、物語終盤で手に入るやつじゃね?」
どういうわけか伝説の武器をドロップした魔物……ではなくおっさんとおばさんであったが、やはり後々になって敵として出現する、そしてラスボスに立ち向かうためのアイテムをドロップする、そんな存在であったに違いない。
おそらくあの2人は元々この世界の住人であったわけではなく、神々が用意したイベント用の何かであったということだな……
で、それをこんな序盤で倒してしまい、最終の装備もいきなりゲットしてしまった俺達3人。
ひとまず受け取った伝説の棒を振り回してみると、周囲の敵、食人植物が吹っ飛んだではないか。
かなりの攻撃力を有しているのは、カレンが受け取った短剣とリリィが受け取った投石器も同じ。
この装備があれば、山の向こうにあるとあの2人が言っていたゴールまで、戦闘面ではかなり楽になるであろう……
※※※
「ギョェェェッ! 何でそんな武器持ってんだぁぁぁっ!」
「知らねぇよそんなもん、で、コイツがこの近辺のボスだったみたいだな、とっとと先へ進もう」
「でもご主人様、お腹が空いたと思いませんか?」
「……確かに、さっき食べたばかりだってのに何だか空腹だな」
「ちょっとだけ休憩しましょ、ここで座って」
「よくもまぁ敵の死体がある所で食事する気になるよな……しかしこの食事休憩、もう何度目だ?」
最初のおっさんとおばさんから伝説武器を手に入れていた俺達は、その後の用意されていた冒険をサクサクと進めることが出来ている。
今殺したのは5体目のボスらしきキャラで、もちろん一撃で始末することに成功したのだが……ここまでおよそ3時間、ボスを倒す毎に休憩して食事を採っているような気がしなくもない。
しかも食いしん坊のカレンとリリィだけでなく、なぜか俺まで持参した食糧をガッついているような状態だ。
もちろんその食糧には限りがあって、このままだとゴールに辿り着く前に確実に枯渇してしまう。
現時点でもう干し肉の類は少なくなり、あとは缶詰と頼るしかないような状態なのだが、喋ったり中で動いたりしているものについては食糧にカウントすべきでないような気もするな。
しかしいざとなったらそれも開けて……いや、このままだとそうせざるを得ないタイミングはすぐに訪れてしまいそうだ……
「なぁ2人共、ちょっと食料を節約しないか? 今のペースだとおそらくあの山の中腹ぐらいで全てが尽きるぞ」
『イヤですっ』
「……しょうがない、俺が食うのを我慢するしかないか」
食べる量を減らすことにつき断固拒否を表明した2人と、仕方なく自分が諦めるという決断をした俺。
そのまま行軍を再開し、やはり区切りが良い場所に辿り着く度に休憩を取り、食料を浪費していった……
※※※
「あ~っ、とりあえず死ね~」
「ギャァァァッ! こんなやる気ない奴に殺されたぁぁぁっ!」
「……ご主人様、何だかさっきよりもガリガリになっていませんか?」
「お~、何かもうフラフラして~」
「ちゃんと食べないからだと思いますよ、ほら、この缶詰めとか栄養がありそうです」
『入ってまーす!』
「・・・・・・・・・・」
リリィから手渡された缶詰、中身は確実に活きている何かであって、しかも人語を解する知能を有した生物だ。
だがとんでもない空腹状態の俺にとって、もうそんなことはどうでも良いこととなっていた。
すぐに缶詰を開けるとそこには……グロテスクな顔をした魚と人間のハーフのような人型生物が、真っ黒い出汁のようなものに浸かった状態で存在していたのだ。
その生物と目が合う、まさか缶を開けられるとは思わなかったのか、生物は『だから入っていると言っただろうに』とでも言いたげな表情でこちらを見ている。
コレは食べてしまっても大丈夫なものなのであろうか、通常であればその場で捻り潰して燃えるゴミに出してしまうようなモノなのだが、現在の思考では少し考えてしまう……
『お前さぁ、入っていますって言ったよね俺? 言葉わかんないの? どんだけ頭悪いのお前?』
「……変なパワハラ上司みたいな奴だったのか……なぁリリィ、コレとかホントに食べ物だと思うか?」
「思わないですね、でもちゃんと殺しておいた方が良いと思います」
『何言っちゃってんのお前等? てかどーすんのこれ? なぁ、蓋開けちゃってどーすんのって聞いてんだよ俺は、あーあ、これもう出汁腐っちまうよ、俺もうここに住めないよこの先、ねーっ、どーやって賠償してくれんのお前等?』
「ムカつくゴミだな、死ねっ!」
『え? あ、ちょっと待ってマジで? あ、ホントすみませんでした、いや久しぶりに外へ出たもんですからちょっと粋がってしまって、ここは……あれ、何でこの世界に別世界の人間が居るんだ? 神は何をしておられるのか?』
「おい、お前なかなか事情通のようだな、助けて欲しければ俺達の欲している情報を出せ、さもないと殺す」
『へ、へいっ!』
缶詰の中から現れた気持ちの悪い生物、何やらこの世界、俺とカレンとリリィの3人が放り込まれ、クリアしないと出られないのであろうゲーム世界の事情に詳しいらしい。
ひとまずコイツから情報を集めて、主にどうしてこんなに腹が減るのかなどを解明していこう……




