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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1099 地下居住区から

「うほほっ、まだ1回も使っていないみたいなお風呂までありますよっ、ホントにあの気持ち悪い人、ここに住んでいたんですかね?」


「違うだろうな、きっと神々が俺達のために用意した拠点だろう、ほら、今のパワーでもドアノブが捻じ切れたりしないし、トイレットペーパーの端も随分前に三角折されたままみたいだ」


「う~ん、この建築様式は500年ぐらい前の人族のもので……きっとその頃からここにあったんだと思うわ」


「どうしてそんなに前から準備していたんでしょうね? しかも女神様も気付かないうちに」


「全くです、ひと言ぐらい私にあっても良かったのではないかと思いますよ」


「それさ、お前以外の神なら普通に察するべきところなんじゃね? お前がそのここを準備した神の予想を遥かに下回る低能なだけなんじゃね? 違う?」


「……勇者よ、何かちょっとそんな気がしてきてしまうのでこういう話はやめなさい」


「そんな気がしてくるんじゃなくてそうなんだよ、もう現実を見ろ、お前は馬鹿なんだ、この世界を統治するとか何とか威勢の良いことだけ言っている単なる馬鹿だ、わかったかこの馬鹿!」


「うぅっ、これは酷い、まさか自分で召喚した異世界勇者にこのようなことを言われる日がくるとは、こんなこと、長らくこの世界の神を続けてきた私にとって初めての事態です」


「じゃあ最初で最後になるわね、もうすぐ神の座は私、この大精霊様のものになるんだから」


「いや俺だぞっ、俺様が勇者神様として君臨するんだっ、人々から敬愛されるなっ」


「・・・・・・・・・・」



 呆れたような表情で別の部屋の様子を見に行ってしまった女神であったが、アホなので余計なことをしないかだけが心配だ。


 いや、迷子になってしまわないかもそこそこ心配だな、疲れているのにあんな馬鹿を捜すのは面倒だし、むしろ自分達も迷ってミイラになりそうな予感。


 そう思うほどに地下空間は広く、俺達が認識していた店舗のカウンター席の奥には、そこそこ生活できそうな空間と、それなりの物資が存在していたのである。


 神がいつどこでこのようなものを用意したのかについては調べようがないが、先程指摘された内装の様式と、それから棚にストックしてあった缶詰の製造時期から、およそ500年前に新築されたものであるということは推定することが可能だ。


 500年前といえば……そうか、始祖勇者が初めて魔王に勝利し、一時的にではあるがこの世界をもたらした時期とほぼ合致しているではないか。


 もしかするとその時点で、この世界を統治していることを主張しまくっているどこかの馬鹿以外の神々は、今日のような事態を想定し、それについてどうにかなるようにと考えていたのかも知れない。


 そうであるとしたら、ここを使用し、そしていつかこのときのために用意されていた潜在能力ウェイクアップカレーも食べてしまった今となっては、その期待に応える以外の選択肢は消えたのである。


 必ずや3倍体、どころかそれに続く邪悪なる神々を滅し、最後にはホネ野朗も倒し、ついでに魔界を制圧してしまうところまで、一気に駆け抜けなくてはならないのだ。


 もちろんそれまでにはかなりの時間を要することであろうし、途中で立ち止まったり、むしろ作戦の失敗によって被害を被り、後退しなくてはならないこともないとは言えない。


 しかし今はまだ前に進むことだけを意識して、ひとまず目下の課題として挙げられている『力がコントロール出来なくてヤバい』という点についてどうにかしていくのだ。


 このまま普通どおり、この頑丈すぎる地下空間で生活を続ければ大丈夫なのか、しばらくしたら潜在能力ウェイクアップカレーによって伸びすぎとなった力が落ち着き、日常に戻ることが出来るのであろうか。


 まぁ、しばらくしたら少し外に出て実験してみることとして、とりあえず中の探索とマッピングが終わったこの地下空間での生活を開始することとしよう……



「見て下さいご主人様、このベッドはフッカフカですよ、ほら、こんなに跳ねて」


「うむ、ルビアが跳ねるとおっぴもボインボインつって、もうちょっとそこで跳ねておけ……と、部屋はそれぞれ2人部屋なのか、分散するのも面倒だし、普段は適当に一番大きい部屋に居ることとしよう」


「それなら会議室のような食堂のような、そんな場所がありましたから、普段はそこで生活して、寝るときだけここに引っ込むという方法を取りましょう、会議室に布団を敷いて寝るのは現実的ではないですし、どういうわけか疲れが増しそうですので」


「だな、じゃあ部屋割りについては……適当に決めようと思ったんだが、6つしか部屋がないんだよなこれが……」


「あの、もしかして私の部屋が用意されていないとかそういうことで……ですよね?」


「えぇ、あんたは普通に神界へ帰って寝れば良いんじゃないかしら? わざわざここで生活しないと、何か不都合でも生じるわけ?」


「え~っと、神の力で勇者を強化しているのは世話係の天使達も知っていまして、その力が突如数倍になって帰ってきたとしたらどうでしょう? 色々とツッコミが入りそうな気がするのですが」


「だからここにしばらく滞在して、普通に何か修行してパワーアップして帰りました、みたいな感じを出したいんだな?」


「えぇ、まぁ、そんなところですが……ダメなら諦めます」


「しょうがないわね、じゃあこの馬鹿は何かやらかさないかの監視のために私と同室で、どこかひとつだけ3人の部屋を作って貰うしかないわね」


「どうして神である私が監視されて……いえ、何でもございません、ここに居させて下さいませ」


「とはいえひとつだけ3人部屋でスペースとベッドが広く使えないのはなぁ……そうだ、じゃあ今日から日替わりで俺がどこかのペアの部屋に泊まろう、それで平等だ」


「つまりは主殿が日替わりお邪魔虫として、どこかの部屋の安眠を妨害しに来るといてててててっ! 冗談だっ」


「全く、ジェシカを廊下で寝させるって方法もあるんだから気を付けろよな、このっ、頬っぺたを千切るぞ」


「ふぁ~い……いへへへっ!」



 ということでセラとミラの部屋、カレンとリリィの部屋、ルビアとジェシカの部屋、マーサとマリエルの部屋、ユリナとサリナの部屋、そして精霊様と女神の部屋を順番に回ることとなった俺。


 一番のびのびと寝られそうなのはカレンとリリィの部屋に行ったときだな、リリィはどうせその辺の棚の上などで寝るし、カレンは小さいため実質ベッドを使い放題なのだ。


 で、最も厄介なのはルビアとジェシカ、或いはマーサとマリエルのどちらかの部屋であろうな。

 ルビアもジェシカもかなり大サイズだし、マリエルはそこまででもないがマーサは俺と同等の身長を有している。


 もちろんそれ以外も狭くはあろうが、今日はひとまず一番安定感がありそうなセラとミラの部屋にお邪魔することとしよう。


 ただ、普通に最初から居るのはあまり面白いとは言い難いし、寝静まった頃に突撃したり、部屋に備え付けの風呂に入っている際に乱入したりという方法を取っておきたいところ。


 まぁ、その前にまだ色々とやるべきことあるのだ、王都に俺達の現状を報告して、帰還しないことについては特に問題ないと認識させることもそうだし、今日の夕食の心配もある。


 報告についてはまたどうにかなるであろうが、食事の方は少し困ってしまいそうだな。

 ずっとミラにやらせるわけにもいかないし、それ以外のメンバーがやると、毒だけ盛ったものを皿ごと食べさせられることになるかも知れない。


 ひとまずは缶詰などを開ければどうにかなるとは思うが……いや待て、製造されたのが500年以上前の缶詰など、開けて食べても大丈夫なものなのであろうか。


 既に食料庫へ向かったと見られるミラとカレン、リリィに続くかたちで俺もそちらに移動し、まずは保存されている食糧が本当に大丈夫なものなのかを確認するべきだ。


 それと同時に、ここの食糧がおよそ何日分用意されているのかということを調べれば、ここを作った神が想定していた滞在期間をおおよそで把握することが出来る。


 すぐに移動し、棚を開けて缶詰を取り出し、わちゃわちゃしている3人に合流するのだが……うむ、極めて古いものばかりにしか見えない缶詰の山だな。


 というか、500年前にどうして缶詰の製造技術があったというのだこの世界には? ほとんどの人間が魔法を使うことが出来るのはわかるが、それにしても進歩しすぎである。


 まぁ、世界によって何が進んでいて何が遅れているのかはまちまちであろうし、輸送があまり優れていないこの世界においては、食品の保存のためのスキルが発展したというような考えで良いのであろうが……しかし本当に古ぼけているなここの缶詰は……



「あ、見て下さいご主人様、この缶詰、真っ黒だけど食べられますか?」


「さぁな? 膨らんだりしていなきゃ大丈夫だとは言うが……一度女神にでも食わせてみようぜ、それで便所に駆け込むようなら諦めよう」


「はーいっ、じゃあこの辺のこれとかは女神様に……こっちは大丈夫ですかね?」


「ん? どうしてミラはその缶詰が大丈夫だって判断したんだ? 薄汚れてんのは同じじゃねぇか」


「いえ、この辺りのは確実に大丈夫なものだと確認したんです、ほら、商品名が『踊り食い』とか『活き○○』みたいな感じになっていて、ちょっとノックしてみたらわかりますよ、コンコンッと」


『……入ってまーす』


「ほら、何か知らないですけどまだ活きているんですねこの中の食材は」


「とんでもねぇ缶詰があったもんだな神界には……」



 中で食材なのか、それとも料理として完成したものなのかはわからないが、とにかく何かが生存していて、しかもノックに対して反応するような知能まで有しているという不気味な缶詰。


 これをオープンして、中の人語を解すると思しき何かを捌いて食らうというのには少し抵抗があるのだが、背に腹は変えられないので、状況によってはそうするしかないであろう。


 また、明らかにダメになった、というか何かが羽化して逃げ出したような痕跡がある缶詰についてはひとまとめにしておき、後で精霊様にお払いして貰ってから捨てようということに決まった。


 缶詰以外の食材としては、キモ顔大将が遺していった大量の食材、もちろん何やら生きて動いているモノもあるようだが、とにかくそれだけでしばらくはどうにかなりそうな分量である。


 それらを合計した結果、どうやらここを作った際に神が想定していた滞在期間は、12人のうちおよそ半数が食いしん坊だと仮定して、だいたい2週間程度であると推定された。


 これは正確な数字ではないのだが、それでも大きく外れることはないであろうという感じの予測なので、大事を取っても3週間程度ここに滞在すれば良いのではないかと考える……



「さてと、今日はこの辺りの活きの良い新鮮素材を使って何か……とも思ったんですが、こっちにカレーが残っていますね、キモ顔大将が今日の営業で出すつもりだったものでしょうけど」


「あ、そういえばここの営業はどうなるんだ? こんな隠れ家的な、というか隠された店ではあるが、リピーターだとかもう常連だとか、そういう連中が来ないとも限らないからな」


「噂になっても厄介ですし、殺してしまいますか? それが一番手っ取り早いんじゃないかと」


「てかアレだろ、もう人間大量破壊兵器と化した俺達に接近した時点でもうアウトだろう、殺すまでもないと思うぞ」


「あ、そう考えてみたらそうですね、じゃあ今夜はこの遺作のカレーでも貰ってしまいましょう、ちゃんと肉カレーと野菜カレーに分けて作ってありますし」


「おう、じゃあそうしよう、温め直したらすぐに食えるしな」



 ということで食糧の問題がおおよそ解決すると共に、ここに滞在しておくべき時間についてもわかった。

 あとは少しづつ様子を見て、たまに外へ出てみたりしながら調整していくしかない。


 さらに、地下空間には生活のためのスペースだけでなく、そこよりもさらに頑丈な素材で造られたと思しき闘技場のような場所も見つかったため、そこで修練を積むことも出来る。


 少しずつ動きを慣らしていくことで色々と良いことがあるかも知れないし、こういう状況だからといって、毎日継続すべきやべぇクスリを用いた高速レベリングも欠かすことは出来ないのだ。


 幸いにも女神がここに滞在したままとなるため、いつも戦っている模擬戦用の敵も供給されなくなるようなことはないし、ここも特に問題はない。


 どうやらこの空間でも日常通り、とまではいかないが、そこそこ人間らしい、勇者パーティーらしい生活を送ることが出来るようだ。


 もちろん陽の光に当たることが出来ないなどはあるが、その辺りの非日常だけ我慢してしまえば、まるで長い船旅にでも出ているような、そんな感覚ですごしていくことが可能となることであろう……



「はいはいっ、カレーが温まりましたよ~っ、ちょっと面倒なので自分でよそって食べて下さいね~っ」


『うぇ~いっ』


「え~っと、肉カレーを6と野菜カレーを4ぐらいがちょうど良いかな? これをミックスして良い感じに混ざった頃合で……これは美味いっ!」


「本当ですね、潜在能力ウェイクアップカレーより全然美味しいです」


「あの気持ち悪い顔の料理人が作ったとは思えないわね、こんなことだったらもう少し何か作らせてから成仏? させれば良かったわ」


「ホントだな、しかしこの感じだと他の食材もそこそこのものだ、明日以降もしばらくは期待して良いだろうよ、神々が備蓄したいた缶詰とか以外はな」


「そういえばさっきも食料庫から変な声がしていましたが……少し警戒しておいた方が良いかも知れませんね……」



 食事を終え、しばらく休憩しつつ、全員で翌日以降のスケジュールなどを確認していく。

 朝一発目からもう修練の時間を過ごし、その後にはそれぞれに分かれて模擬戦などをしていくつもりだ。


 女神は午後の時間に、一度神界へ戻ってそこの資料などを漁り、この次の敵であって未発見である3倍体について、何か手掛かりとなる情報がないかを探しに行って貰う。


 そこから何かを得られるとは限らないが、少しでも行動しておいた方が良いし、黙っておくと女神の奴はサボり倒すはずなのでそうはさせないということだ。


 予定の確認も終わり、それぞれが寝るための部屋に引っ込む時間となったが、俺はひとまずこの場で待機しておいて、セラとミラ、両方或いはどちらかが風呂に入っているタイミングを狙って襲撃することとした。


 2人が寝た後でも良かったのだが、今日はさすがにもう疲れているのでそのようなことはしたくない。

 ということで良い頃合まで待機し、自分の荷物の中から着替えなどを取り出して2人の部屋へと向かう……



「うぃ~っ、入りまぁぁぁっす!」


「キャッ、ちょっと勇者様、どうしていきなり入って来るんですか?」

「そうよ、このお風呂は2人が限界なの、狭くなるから後にしてちょうだい」


「まぁそう固いことを言うもんじゃねぇぞ、ほれほれほれほれっ!」


「ひぃぃぃっ! くすぐったいですっ」

「ミラばっかりに悪戯するのはやめなさいっ、私だって……いえ、何も言えないわね」



 ナイスなミラに対して『ちーん』という効果音が良く似合うセラ、どうして姉妹でここまで変わるのかは不明だが、格差社会というのはこういうことを言うのであろう。


 狭苦しい風呂に3人で無理矢理入り、主に、というかほぼほぼミラにだけセクハラをし続け、のぼせてしまう前に上がる。


 部屋に戻って改めて内部を見渡すと……なんと、この世界には珍しく時計のようなものが壁に掛かっているではないか。


 普段から時間などアバウトで、砂時計があればハイテクな方であるこの世界において、いくら神界の神々が創りしものとはいえ壁掛け時計……しかもデジタルだ。


 とはいえ少し通常のものと異なるところが、というか明らかに通常ではない感じだな。

 そもそも時間の数え方として『時分秒』ではなく『あと○○』でカウントダウンしているのがまずおかしい。


 これでは現在が何時なのか、全く把握出来ないどころか、この『あと○○』がゼロになった際にどのようなことが起こってしまうのか、それが不安に思えてくるだけである。


 現在表示されている数字は『あと0時間05分32秒』、31秒、30秒……つまりあと5分と少しでこれが完全なゼロになるわけだが……



「何なのかしらねこれ? 消灯までの時間とかそういうのかしら?」


「あり得るな、燃料は決まった分しか備蓄されていなくて、あまり使いすぎると食糧はあるのに真っ暗、みたいなことになってしまいかねないとか、そういう感じのアレなのかも知れないぞ」


「じゃあこれがゼロになる前に明かりを消して、少しでも燃料を節約しましょう、その方がお得です」


「その発想になるのがイマイチわからんのだが……まぁ、じゃあ先に消してしまおうか……っと、消えやしないぞこの明かりは」


「あら、きっとそういう仕様なのね、仕方ないからこのまま待ちましょ、良く考えたらまだパンツも穿いていないし、このまま真っ暗になられると困るわ」


「あ、私なんかまだバスタオルのままで……急いで着替えなくちゃ」



 結局無理矢理に消灯することを諦め、残り僅かな時間を着替えなどに当てて過ごすこととした俺達3人。

 そのタイマーのようなものはすぐに数字を消費し、2人の着替えが終わる頃にはもうあと数秒となっていた。


 そしてそのまま時間が経過し、やはりゼロになった瞬間に真っ暗闇が訪れる……予想していたとはいえ本当に真っ暗だな、もうどこにベッドがあるのかも見えないではないか。


 手探りで何がどこにあるのかを探そうと、もし明るければかなり不審に思われるような、シャカシャカとした動きをしていると……どういうわけかもう一度明るくなった……しかもここは元々居た部屋ではない……

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