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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1097 謎の店

「そんで、まずはどの辺りから探していく感じなんだ? 魔界から漏れ出した邪悪な力なんぞどこからも感じないような気がするんだが?」


「そうですね、もしかするとこの町からかなり離れた場所に顕現して、拠点も作って、そこからこの近辺まで徒歩で通っているとかそういうことも考えられますね」


「どんだけ暇なんだよその行動取る奴は、だがまぁ、魔界の神なら徒歩でも凄まじい高速移動が可能なのか、力を外からわからない程度に抑えたままで……」


「それはどうだかわかりませんが、とにかくこちらの想像を超越した行動を取ることによって、絶対に監視がバレないようにしているようには思えますね」


「まぁ、とにかくそこら中に行ってみようぜ、それで見つからなきゃガチで居なかった、俺達の考え過ぎだったってことだよ」



 女神を伴って王都から出つつ、まずはどうするのかということを話し始める俺達であったが、具体的にどこへ向かえば良いのかといった方針は定めようがない。


 現時点でわかっていることはふたつ、ひとつは女神の捜索によっても、王都内に邪悪な魔の力を放つ明らかに異常と認められる存在がなかったことである。


 そしてもうひとつは、この広い王都の周囲からも、そのような者が居るとか、そのような者が通って魔界からこちらに来たゲートの存在だとか、そういったものを感じ取ることができないということ。


 つまり3倍体の奴はまだ近くに居ないか、居たとしても相当に巧妙な手段を用いることによってこちらを欺いているのであろうということが、その事実から推測出来るにすぎない。


 となるとこの捜索、どちらに転んでもかなり無駄なことをした感が残ってしまうであろうな。

 もし居ないなら居ないで無駄な動きであったということになるし、居ても見つからない、見つけられないのであればそれはもう無駄ということ。


 しかし始めてしまったものは仕方ないし、そもそも『見られているかも知れない』の不安を取り除くのが今回の捜索を開始した理由でもあるのだ。


 つまり取り越し苦労でしたという結果に終われば、それは無駄ではなく不安要素の除去という目的を達成したということに……まぁ、それを確認する手立てはないと思うのだが……



「結構人が歩いていますね、物体が居なくなって安全になったからでしょうけど、これでも物資が足りないんですね今の王都には」


「だな、この中にはその状況を良いことに、トンデモな価格で足元しか見ていない商売をしている奴も多いだろうからな、全体的に良い感じの値段でモノが行き渡るのはまだまだ先だろうよ、その前に3倍体とやらのせいでどうなるのかわからないがな」


「この中に敵が隠れていたらわからないわよね、ほら、あそこのチンピラなんて絶対に門で止められると思うけど、それがもし最強の敵キャラだったらと思うと……」


「まぁ、そこで暴れたりはしないだろうよ、わざわざ隠れたり人族に紛れ込んでいるとしたら、絶対にもっと目立たない格好をしているはずだからな」


「皆さん、そんなにジロジロと人族の方を見ないで下さい、逆にこちらが見られて、私がこの世界の女神であるということを露見させてしまうおそれがありますから」


「バレたりしねぇよそんなもん、お前のオーラのなさだったらな……とまぁ、敵も神なのにそんな感じだから苦労しているんだが……とりあえずもっと別の所へ行ってみないか? 例えば森の中とか」


「そうですね、敵の本体ではなく拠点を探しているのですから、人の中を見るよりはもっとこう、そういう系の場所を探っていった方が良いでしょう」



 ということでそのまま移動、最初に向かったのは魔王城を越えた先の王都北の森であった。

 ついこの間、デカいおっさんイベントのため立ち寄った洞窟や、その他ランドマークになり得る場所を重点的に探っていく。


 だが邪悪な気配はおろか、普通に通過している旅人や商人の声が響き渡り、そこかしこで魔物と商人の護衛などが戦闘を繰り広げるなど、活気に満ち溢れた様子の森。


 もし自分が闇の存在で、禍々しい瘴気が渦巻いているのかどうかは知らないが、薄暗くて陰気な魔界からやって来たらどうか。


 まさかこのような場所に拠点を構えようなどとは思わないはずだ、もっとジメジメした、いかにもナメクジ野郎が好みそうな場所を探してみるべきだ。



「どうする、街道沿いを外れてもっと奥の方へ入ってみるか? それとも完全に別の場所へ行くかだが……」


「そうねぇ、奥の方といっても、あまり街道から外れると利便性がアレだし、その3倍体も人族の形をして人族に紛れ込んでいるなら、もっと王都に、私達の居る場所に移動し易い場所を選ぶと思うのよね」


「私もそう思いますの、魔界の負のオーラを察知されない程度に距離を保ちつつも王都に近くて、交通の便が良くて、夏は涼しく冬は暖かい、そんな場所をアジトにしているんじゃないかと、そうではありませんの普通は?」


「うむ、普通はコソコソ隠れて勇者パーティーを監視しようなんて思わないからな、この場合の普通の行動がわからない……だがそうだな、おい女神、もしかするともっと王都の近くで、上手い感じにゲートとそこから漏れる邪悪な空気を隠してんじゃねぇのか?」


「そうかも知れませんね、ではちょっと地下やその他の場所も探っていく感じで、もう一度町の近くへ行きましょう」


「人気がない門の方が良いわね、北は人が多すぎるから……やっぱり南門辺りかしら行ってみるべきは」


「南門か……よし、北門で馬車を借りてワープしよう」


『うぇ~いっ』



 現状、王都の門の中で最も入城待ちをする人が少ないのは南門であって、もし人ごみに入りたくないというのであれば、間違いなくそこをチョイスするはずのところ。


 人が多くて忙しそうな北門で、サボって暇そうにしていた兵士を使って馬車を数台調達し、それに分乗して一気に王都を駆け抜ける。


 途中、本当にそれらしき奴が居ないか、こちらを見ている屋しい奴は居ないかなど、窓の外に流れる風景を堪能する感じを醸し出しつつ目視での捜索を行ったものの、そういう奴の姿は目に入らず、また感じ取ることも出来なかった。


 南門に着いた俺達は、やはり人がまばらなその場所から、ひとまず街道沿いに徒歩で進みつつ、何か怪しい場所がないかを探していくこととして行動を開始する。


 もしかしたら掘っ立て小屋のようなものをアジトにしているかも知れない、穴を掘って野生動物のように隠れているかも知れない。


 はたまたその姿が見えないよう、特殊な術式を施して空中にでも浮かんでいるのかも知れないが、とにかく今は見える範囲で、邪悪なオーラを放っているような場所がないかということを確認するのだ。


 南門からそのまま南へと、街道を進むにしたがって人通りがまばらになってくる。

 付近には建物など見当たらないが、それでも念のため見渡しながら進んで行くと……



「ご主人様、向こうに何かあります、地面に穴が空いて……食べ物の匂いがしますよ」


「しかもこれ、ちゃんと調理してあるじゃないの、えっと……選び抜いたハーブとスパイスが絶妙なハーモニーを奏でてどうのこうの……みたいな感じね」


「マジか、じゃあ人間的な何かが隠れているってことじゃないか、まさか魔物だの野生動物だのが厳選したハーブだか何だかをブレンドしてどうのこうのはないだろうからな、すぐそっちへ案内してくれ」


「わうっ、こっちです、こっちこっち……あれ? ここのはずなのに見つからないです……あっ、蓋がしてあって上に土が被さって……」


「その上にちゃんと草が生えているのね、これはなかなか巧妙な隠れ方よ、でも……」


「邪悪な気配などは一切感じませんね、というよりも凄まじく良いスメルです、まるで神界の高級店のような」


「どういうことだろうな、まぁ、何だかわからんがちょっと開けてみようぜ、ごめんくださ~いっ、めっちゃ良い匂いの源はここですか~っ?」


『・・・・・・・・・・』


「誰か居るんでしょ~っ? 出て来ないと爆発物を投げ込むわよ~っ!」


『・・・・・・・・・・』


「反応がないですわね、でも開けた瞬間から立ち上るこの高級感のある香りと、それから人の気配らしきもの、これは入ってみた方が良いですわよ」


「待って、その前に予告通り爆発物を」


「いやお前が待てや精霊様、さすがにアレだぞ、一般人が隠れ家的にやっている普通の店とかかも知れないからな、それはヤバい」


「こんな所で? まぁ、可能性はゼロじゃないわけだから、とりあえず戦う準備をして入ってみましょ」


『うぇ~いっ』



 地面の中に掘り進められた地下空間へと続く階段、その入口が巧妙に偽装され、相当程度には丹念に『調べる』をしないと見つからないような隠し階段の状態であったが、感覚の鋭い者には造作もなく発見することが出来ただ。


 そしてひとたびその入口を解放してしまえば、外からも感じ取ることが容易となった料理の匂いと人の気配。


 邪悪な存在や、それを感じさせる何かを探してこんな所まで来たのに、まさか最初に発見した何かがこんな『良い感じのモノ』であるとは。


 いやしかし、もしかしたらこれは魔界の連中が張った罠で、その良い匂いに釣られて入り込んだら最後、おかしな空間に閉じ込められ、そこで徹底的に叩きのめされるのだとしたら……


 とはいえ、もう入る気満々の仲間達と、その中の一部はそこで食事の提供があることを期待している状態であるため、ここでやはり突入はナシにしようなどとは主張することが叶わない。


 むしろすでに入り始めている仲間達を追わないと、何かあった際に俺だけ分断されてしまって手が付けられないなどの状況に陥りかねない状況。


 ゆえに、仕方なしといった感じで最後にその階段を降り、本当に高級そうな料理の匂いが漂う地下の空間に足を踏み入れたのであった……



 ※※※



「もっしも~っし、お客さんですよ~っ、誰か~っ」


『……へいいらっしゃい……お客さんら初顔だね、誰かの紹介でここを知ったのかい?』


「いいえ、凄く良い匂いがしたんで来てみて、地面に埋まっている蓋をパカッと、そしたらここに居ます」


『ほう、知能が低そうな喋り方だが……姉ちゃんは肉食系だね、まぁ、全員でこっちのカウンターに来なよ、ちょっと高いが……んっ? 何だか見たことのあるような顔があるが』


「おっと、もしかしてこの大勇者様をご存じなのかな?」


『いやお前じゃなくてそっちの高級そうなお嬢さんだ、えっと……あっ、思い出したぞ、その顔はこの国の王女さんだな』


「……どこかでお会いしたことがあるのでしょうか? というか、どこから話し掛けているのですか?」


「そうだぞ、この勇者様さえも知らない非常識野郎が、隠れてないで出て来やがれってんだ」


『……先程爆発物をどうのこうのという声が聞こえたからね、念のため警戒していただけのつもりなんだが……まっ、この国の王女が居るってなら大丈夫か、とにかくカウンターに座りなよ、すぐに行くからさ』


「イマイチ信用ならないわね……」



 座れと言われたカウンター席、その奥から響いてくる声の主は、放っている存在感的に普通の人族であろうということだけはわかる。


 だがカウンターを隔てた先、おそらく厨房なのであろうが、そこの様子は降りている簾のようなものに阻まれて確認することができない状態。


 このまま罠でないと信じて座ることなど到底出来ない感じなのだが、既にメンバーのうち何人かが勝手に指示に従ってしまっている。


 しかも女神までもがカウンター席に座り、顔の見えないシェフだか大将だか、その辺りの何かが蠢く簾の手前でメニュー表らしきものを見ているではないか。


 コイツは皆を止めなくてはならない立場だというのに……とまぁ、これで何もないということは何もないということなのであろう。


 自分以外の全員が席に着いたのを確認し、俺も唯一空いている席に腰掛けてみる。

 次の瞬間には大爆発……しなかった、非常に座り心地の良い、かなり高めのタイプの椅子だ……



「えぇ~っと、では大将、そろそろお顔の方を見せて頂ければと思います」


『おっと王女さん、それはこの『お任せ握りコース』を堪能して貰ってからだ』


「まぁ立派なお寿司、しかも異世界の調味料がこんなにもっ……いえ、先程までのスパイスの香りはどうしたというのでしょうか……」


『そりゃこっちだ、はい、狼獣人のお嬢ちゃんと、それからそっちのドラゴン少女だね、2人には王国産牛シャトーブリアンの上にフォアグラとか乗っちゃってるすげぇのだ、スパイスで香り付けしているが、塩を少し振っても構わん』


「すげぇな、1人ずつ料理を分けて提供してくれんのかこの店は……シェフ、なのか大将なのか知らんが、俺にもお任せのコースを」


『へいお待ちっ、兄ちゃんにはコレが良いと思うぞ、かっぱ巻き2貫だ』


「何で俺だけかっぱ巻きなんだよっ⁉ しかも硬ってぇしどうなってんだっ?」


『あぁ、ホンモノじゃなくて食品サンプルだよ、良く噛んで食ってくれよなっ』


「ざっけんじゃねぇぇぇっ! どうしてこうなったんだっ? 理由を説明しやがれっ!」


『いや、ほらウチはさ、女子ウケする店ってのがコンセプトだからさ、野郎の客からは全力で回収しにいかないと赤字でやべぇんだ、だからちょっと我慢してくれよなっ』


「出来るかボケェェェィッ!」



 ちなみに俺以外の全員はそれぞれのコースで振る舞いを受け、最終的にデザートまで提供されている。

 これは全員無料サービスらしい、もちろんその全員の中に俺は含まれず、金貨10億枚の請求書をキレながら破り捨てることとなった。


 しかし妙なことがひとつ、どうやって俺達がここを見つけたのかさえ知らない様子であった顔の見えない大将が、どうしてこんなにも素早く、それぞれの好みに合わせたコース料理を提供することが出来たのかということだ。


 しかもカウンターの席もピッタリ人数分であって、コース料理に使われた食材の方も、まぁ俺が食わされた食品サンプルは除いてどれも日持ちしないものばかり。


 予めこのことを見越して準備しておかないと、このようなサービスを提供することは叶わないはずだ。

 やはりここの大将は俺達を待ち伏せしていて、何らかの方法でおびき寄せたに違いない。


 となるとこの顔が見えないようにしている理由は……コイツが俺達の知っている、見たら攻撃を仕掛けずにはいられないような顔をしているからであろう……



「……おいお前、もう良いだろうよ、そろそろ簾を上げて顔を見せろ」


『……わかった、さすがにこれ以上はもう注文がないだろうからな、良いぜ、ただし食ったもんを吐くんじゃねぇぞっ』


「あっ、簾が上がって……きんもぉぉぉっ! 顔が極めて気持ち悪いっ! 何なんですかあなたはっ? そのんな顔を晒して失礼だと思わないのですかっ?」


「いや、だから言ったんだって、コースを堪能してからじゃねぇと、この顔を見たら食欲が失せるからな」


「ちょっと待てお前、というかさっきまでの大将なのか、どうしてここまでして……と、こっち向くんじゃねぇ、鼻から食品サンプルが出る」


「それはだな、話すと長くなるんだが……」



 話すと長くなると言われても、その直視するに堪えない顔を目の前にしていたら、そんな長ったらしい説明に対応することなど出来ない。


 表現はし難いが、これ以上のキモ顔がかつてあったかなかったかというレベルには食欲が失せる、そして吐き気を催す顔面なのだが、さすが料理人だけあって他のキモい系キャラとは違って清潔感のあるキモさだ。


 で、極限までキモいその生物……であることは確かなのだが、人間、というか人族であるということについての確認はまだ取れておらず、勝手に始めた話の中で自称しているだけである。


 その自称人族の大将、こんな所で目立たない料理店を始めた理由から、どうやってこんな場所で物体事変を乗り切ったのか、そして常連客の数など、どうでも良いことをダラダラと話しているのだが、その話は必要ないと、誰でも良いから指摘して欲しい。


 で、結局精霊様が話を遮り、必要な説明をしない限りこの場で殺すと脅迫して、どうにか話の内容を元に戻させる、というよりも最初からやり直しか……



「で、こちとらこんな顔だからね、どこへ行ってもバケモノ扱いで、そんなんが料理人として包丁持って歩いてんだろ? もうね、石とか矢とかだけじゃなくて、頻繁に爆発物を投げ付けられたもんだね、『死ねっ、悪性新生物!』ってな具合で」


「ガン扱いかよ、しかしそれでさっきは爆発物にビビッていたんだな、なるほど……」


「まぁ、普通は爆破予告なんかされたら警戒するもんだとは思うがな、それで、こんな状態なのにこの場所で商売を続けていたのには理由があるんだ、どこかの知らない神から承ったこの『顔が見えなくてもそんなに不審がられない簾』、その恩に報いるため、この世界の勇者パーティーを料理で強化してくれってな……まぁ、あんた等がそうなのはもうわりと早い段階でわかっていたことさ」


「……いやちょっと待て、急に話が飛躍しすぎなんだが?」


「それでそんな簾の向こうに居ても、ちょっとお食事してから確認しよ、ぐらいの気持ちになったってわけね」


「でも美味しかったからそれで良いです、今はちょっと要らないかなって感じですけど……」


「いやいや皆、その話ではないぞ、御仁……いやちょっとキモいからこっち向かないでくれ、その『勇者パーティーを料理で強化』とはどういうことなのだ? そっぽを向いたまま詳しく説明して欲しい」


「それはだな、話すとちょっと長くなるんだが……」



 また長い話が始まるようだが、今度は先程までの自分が足りと違い、誰もが興味津々の話である。

 果たして『料理で強化』とはどういうことなのか、そもそも今日は別の目的があってここへ来ていたような気がするのだが。


 などと様々なことを考えている間にも、キモ顔大将の話は続く、貴重な情報ゆえ、もう少ししっかり聞いておくべきか……

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