1089 本当の力
「うぅっ、まだ頭がガンガンするぜ、やっぱりおかしなことをするもんじゃないな、賢さのステータスが10は下がったんじゃないか?」
「勇者様、それでも勇者様はマイナス1,000からマイナス1,010に変わったぐらいで、そんなに影響はないんじゃないかと思うわよ」
「そうか、俺がマイナス1,000だとするとセラはマイナス2,000ぐらいか、それに今回の件で1,000ぐらい下がっているだろうから、きっと賢さマイナス3,000ぐらいの馬鹿なんだな」
「ぐぬぬぬっ、まさかここで負けるとは思わなかったわ」
「そこで返せなくなる時点でリアルに賢さが……と、そうだそうだ、ひとまず魔界の神を呼び出そうぜ、もうこのパワーも定着したわけだし、今なら調子に乗って奴を小馬鹿にすることも出来るだろうよ」
寝込んでしまった俺達勇者パーティー、ただでさえ凄まじい勢いでパワーアップするあのおかしなクスリを二重にしようしたことによってより短期間で強くなったのは良いが、それは悪いことでもあったらしい。
通常では考えられない程度、その程度を遥かに超える意味不明なスピードで駆け上がってしまったことから、いくら普段から鍛えて、人知を超えた力を有している俺達とて、その反動に耐えられなかったのである。
結局その反動による高熱が収まり、ユリナが空に浮かんだ一番星を軽いノリで消し去ったような、その神をも凌駕する力が安定したのが今現在ということだ。
もちろんついこの間までの俺達ではない、この世界にある全ての存在はもう雑魚だし、たとえ物体事変で苦戦したあの物体の巨塔とて、今なら変型合体ロボなどナシで討伐することが出来てしまうことであろう。
そのような究極……には程遠いのだが、とにかく力を得てしまった俺達は、きっとそれに劣る存在となった魔界の神を呼び出し、これまでデカい態度を取ってくれた分の礼をしてやろうということで、復帰後最初の行動を決めた。
すぐに奴と連絡を取り、サッサと顕現するようにと命令口調で指示を出す……
「……何なのだ急に我を呼び出して? しかもその態度は?」
「おうおうっ、まずはちょっとそこへ座れや……正座だろ普通オラァァァッ!」
「凄まじく調子に乗っているようだが……ふむなるほど、かなり強化されて……どうやったらそんなに短期間でここまでの力を得ることが可能なのだっ?」
「フンッ、土下座して懇願すれば教えてやらねぇこともってとこだな、どうする雑魚神? 今やお前など俺様の足元にも及ばない矮小で脆弱な存在なんだ、それを認めて、俺様に頭を下げて知識の伝授を乞うか?」
「うむ……う~む……もしかして貴様等さ、本気で我を越えたとでも思っているのか?」
「どういうことですの神様?」
「いやな、表面的に見えている我が力、まぁ、他の魔界の神々も多くがそうだとは思うが、そんなものは本来の力のごく一部に過ぎない、もちろん、これから敵対するであろうホネスケルトン神もだ」
『なっ、何だってぇぇぇっ!』
「ちなみに、我がこの場で本来の力を発揮するとだな、空間とか時間とか色々と歪んでヤバいことになるぞ……というか貴様等、どうして我等がこの世界限定で付属する規模の小さな魔界で、全異世界規模である神界に押し潰されないのか、それがわかっていないのか? 単体でも強いんだよほとんどの魔界の神は」
『なっ、何だってぇぇぇっ!』
魔界の神はまだ本気を出していない、現在は力をセーブし、俺達に合わせているに過ぎないのであって、この段階で『コイツを上回った』などと思うのはとんでもない勘違いであったようだ。
その単体での力はこの世界の女神をも上回るのだが、どうにもこの世界の中においては実力を発揮することが出来ない、本気を出せば色々と世界の法則を捻じ曲げてしまうこととなるため、それを原因として『直接対決』を避けていた部分もあるのだという。
俺達が勝手に思い込んでいた、『神界と魔界の全面戦争に発展するおそれ』というのが当然無駄にこの世界に来たり、色々と干渉したりするのを避けていたメインの理由なのだが、実は隠れてそのような要因があったとは……
と、ではこの魔界の神、実際にどのぐらい強いのかを試してみたくはないか、その強さをどれだけ拡大したものがホネ野朗の実力になるのかはわからないが、未知の力というものを見てみたい気持ちはある。
ここはどうにかしてそれを見せて貰いたいところだな……ならばこの俺様が本気を出すしかなさそうだ……
「……話はわかった、おいお前、ちょっと立て」
「……本当にわかってそのような口ぶりなのか? まぁ、ここに立てば良いのだな、よいしょっ」
「……ヘヘーッ! 失礼しましたーっ! 超すんませんっしたーっ! マジで師匠って呼ばせて下さいっす1時間程度に限ってーっ……と、こんなもんでどうだ? 俺達にその実力を見せる場を設ける気になったろう」
「普通にムカつくのだが……だが、これからどういった者を相手にしていくのかということを知って貰うためにも、我が全力を一度見せておいた方が良いやも知れぬな」
「神様、ちなみにその実力についてなんですが、もしそのホネスケルトン神様と戦うと考えて、その部下とかお付きの堕天使さんとか、そういった方々と比較すると……どうですか?」
「そうよな、悪魔の質問には答えてやる義務がある……うむ、我の力を100億としよう、もちろん全力のときの力だ」
「その単位の『億』はきっと要らない」
「黙れカスが、で、堕天使共の力となると……まぁ、5億ぐらいか、その次に強いのは無数に存在しているであろうホネスケルトン神の取り巻きのモブ、これは全て我と同じぐらいだ、つまり100億パワーということだな、それ以上は……すまぬが想像しただけでその力が伝わり、頭が破裂してしまいそうだ……」
「つまり、神様は神様の中では……雑魚キャラなんですの?」
「我が雑魚というわけでは断じてないっ、ホネスケルトン神が、そしてその取巻きが強すぎるのだっ、あいつ等ぜってぇ何かやべぇクスリやってんぞリアルにっ」
「それは俺達も言えた義理じゃねぇがな……とにかくさ、お前の力を発揮しても良いような場所に案内してくれよ、まずはそのパワーを見てみないとな」
「よかろう、ではここから亜空間をチョイチョイッと、広さはこの世界の500倍程度にするし、特に目立ったランドマークとかは置かないから、その辺で迷子になったらもう戻って来られないと思えよ」
『うぇ~いっ』
実験用の亜空間を違法に創り出す魔界の神、そうか、俺達はコレを越えたのではないかと思っていたのだが、実際にそうなったのであれば、このような不思議極まりないことをやってのける能力も備わっているはずだ。
それがないということは、やはり神々に追い付き追い越すことなど、たとえチートを用いたからといってそう易々と成し遂げられるわけではないということなのであろう。
いや、神界の雑魚神であれば話は別か、現に俺達はもう、ニート神などを討伐することが出来ているではない蚊。
この世界の女神にしても、そこまでの実力を隠しているようには見えないし、不思議な力の方もこの魔界の神に比べたらイマイチだ。
ということはやはりコイツが異常であって、その異常な連中がワラワラと集まって神界に反旗を翻したのが、火山の噴火によってどうのこうので分離していったのが魔界であると。
しかしなるほど、そう考えると神界の神を信仰する人族と、魔界の神を信仰……しているようには見えないのだが、その魔界に依存しがちな魔族とを比較して、たとえ下級魔族であったとしても人族よりも遥かに高い力を持っているということにも頷けるな。
人族と魔族、それぞれのベースが同じであったとしても、何だかこう、色々と事情が違うのだ、そしてその最大の違いがそれが根差している神々の単体での力の強さということなのであろう、知らんけど。
で、そんな超強いのではないかと思えるものの魔界全体を見渡せばイマイチな魔界の神が創り出した亜空間に入った俺達は、カレンやリリィ辺りがどこかへ行ってしまわないように監視しつつ、そのお披露目を拝見するためにその場に座った……
「では始めるが、ここに居る連中はそこそこの力を有しているからな、我が力をゴリゴリに発揮したとしてもとんでもねぇことになるとは思えない、だからこの場で力を見せてくれるっ、ハァァァッ!」
「やべぇ、気合入れるとパワーアップするとかそういう系のアレなのか」
「凄い力の波動ですっ、ビリビリするような……飛ばされるっ」
「魔界の神もやっぱり真っ黒な瘴気を出してくるのね……凄い、まだまだ力が上昇して……こんなのって……」
すぐに実演を始めた魔界の神、その力は表現出来ないほどに凄まじく、きっとこれを外の世界でやれば、そこだけ色々と歪んで見えたり、様々なものが吸い寄せられてどうのこうのとなったり、とにかく大惨事となることであろう。
いやその前にだ、最初の力を解放する際に見せた『気合タメ』、そもそもこの段階で生じる『力の波』によって世界が消滅してしまうことが確実。
つまり、俺達はこの姿を、おかしいぐらいに強い何かとなった魔界の神の姿を見る前に、世界ごとどうにかなってしまうのであって、それでもう全てが終わりである。
「……さて戻ろうか、本来はこの状態で居るのが一番楽で、世界に対応した状態に持っていった方が少し疲れるのだがな」
「そうなのか、じゃあどんな敵でも俺達の世界の方に引き込んで戦えば……」
「最終的には本領発揮するだろうな、負けるよりかは世界を消した方がマシだ、我ならきっとそうする」
「ですよね、となるとやはりその力、どころじゃないとんでもねぇのと戦わなくちゃならないってことか、無理だろう普通に」
「あぁ、現時点ではきっと無理だ、だが今の我の力、まずはそれを目指して強化を進めることだな……ちなみに、我が力を解放したことについては絶対いにナイショだからなっ、こういうの良くないんだよホントは」
「ふむふむ、魔界の神は力を解放したことがバレると怒られると、場合によってはこれで脅そう」
「こらこらっ、貴様この亜空間に置き去りにすんぞっ!」
ということで帰還、良いモノを見せてもらったと言えばそうだが、絶望的な状況を見せ付けられたと言えばまたそうでもある。
幸いなことに、あのような『本気』はこの世界においては発揮することが出来ないため、少なくともいきなりそういう感じの奴からの襲撃を受けるということはあり得ない。
だが最終的にはこちらから魔界に攻め込んで、ホネ野朗だのその取巻きだのを打ち滅ぼす必要があるのだから、俺達もその域に到達しないわけにはいかないのだ。
……いや、しかしこの世界で発揮することが禁忌である程度の力を身に着けるために、この世界の中で修行を続けるというのはどうなのか。
この世界で発揮してはならないちからなのであれば、その力を着けたとしても確かめることが出来ず、いざ魔界に攻め込んで本気を出すとなった際には……また色々と噛み合わなくなり、高熱を出して寝込むのが関の山だ。
敵地に乗り込んで、早速体調不良に陥って、そのまま布団を並べて寝込んでいる勇者パーティー。
それを敵が快復するまで待ってくれたり、治してくれたりなどということは期待しない方が良い。
少なくともその場で消し去ろうという行動に出るはずだし、最悪の場合その隙にこちらの世界を攻められて、神界も対応出来ないうちに制圧されてしまうかも知れないのだ。
であればどうするべきか……まず、俺達は『この世界』という狭い範囲から出なくてはならないのであろうか。
最強の勇者パーティーである俺達にとってここは狭すぎる、壮大な計画のためには、もっと壮大なスケールの『場所』が必要なのだ……
「なぁおい、今の亜空間さ、ちょっとそのまま置いておいてくれないか?」
「ん? 別に構わないが、そんなモノを何に使うというのか? まさかここまでやっておいて逃げ出して、あの中にスウィートルームでも作って隠れようってんじゃ……」
「いやマジメに修行するんだよ、この世界がブッ壊れるほどの力を着けるためにな」
「そうねぇ、ちなみにスウィートルームを作成するのには賛成よ、すぐに用意しなさい」
「そういうことならまぁ……良いんじゃねぇかな、責任は取らないがな」
「あ、ちなみにもうちょっと狭く改造しておいてくれ、さすがに迷子になるとヤバそうだからな、今日中に頼んだぞ、遅れることは断じて許さん」
「それが他者にものを頼む態度なのか、しかも自分より圧倒的に位が上の……」
位がどうのとか実力がどうのとかは関係がない、実力であればそのうち俺達の方が上回るはずだし、そして最終的にはこの俺様が、全宇宙全異世界大勇者様として全ての頂点に君臨するのだ。
それゆえ今は魔界の神として調子に乗っているコイツにも、いざそのときに備えてこの俺様に平伏す蓮t集をしておいた方が良いと忠告しておく。
なにやら凄く不機嫌そうな顔をしていたのだが、もしかすると早く帰って便所にでも行きたかったのかも知れないな。
だとしたら悪いことをしてしまった、魔界の者とはいえ神に対して失礼なことと言えよう。
だがそれを加味しても、やはり俺様の方が偉くて上位で敬うべき存在なのは変わりないから、ここで謝罪するような真似は断じてしない。
で、その下位者である魔界の神は必死になって……というほどでもなく、あっという間に亜空間の改装を終えてしまったようで、10分後には再び俺の所へやって来た。
いい加減なノリで作業が終了したことを告げ、そのまま不機嫌そうに魔界へと帰って行く神。
まぁ、今のところは特に用がないので帰還させてやることとしよう、何かあったらまた呼び出してこき使えば良いのだ。
「それで勇者様、こんな亜空間だけ用意して何をするつもりなの? なにかの修行をするにしても、それなりの相手とか必要になるわけじゃない」
「あ、やべぇそこを考えていなかったぜ、てっきりこういう系の亜空間にしばらく入っていたら、外では余り時間が経過していなくて自分だけすげぇ強くなって云々、みたいなことになるんじゃないかと考えていたぜ、そうだよな、敵が居ないと色々と始まらないよなこれ……どうやって調達しようか?」
「もう一度アイツ、呼んだ方が良いんじゃないかしら……たぶんキレて暴れると思うけど……」
「ん? どうしてアイツがキレるんだよ……まぁ良いや、何だか理由もなく不機嫌そうだったのは確かだし、もっと別の方法を考えよう」
「別のって、もうあまり思い付かないような気がするんだけど……」
そこから意見を出し合うものの、現時点でその亜空間を使ってどうにかレベルアップしていく方法などは全く出なかった。
まぁ、まだしばらくはここを使わずとも、1日1回1時間の、闘技場におけるデカいおっさんとの戦いでそこそこレベルアップすることが可能だ。
問題はそれが上手くいかなくなった、つまり俺達の強さと敵から入る経験知的なものが乖離しすぎてしまい、成長が鈍化した際にどうするかということ。
おそらくその頃にはこの世界において発揮出来る力も最大のそれではなくなっていることであろう。
あまり本気を出しすぎると、そこかしこに被害が生じて戦闘力だけでなく支払うべき賠償金も巨大なものとなってしまうのだ。
どうにかそれまでにこの亜空間に移動して修行する方法を考えなくてはならないのだが……そうか、魔界の神の奴がキレ気味で使えないのであれば、本来この世界を守る俺達に強く協力するはずの馬鹿、この世界の女神を呼び出してどうにかさせれば良い。
幸いにして魔界の神には今回の剣に女神も関与し、俺達があったことについて具体的な内容を報せているということを知らないが、その逆は違うのだ。
女神の奴は一応魔界の神もこの件に関与し、敵対ではなく俺達が利用しているような関係であるということ、そして万が一の際にはお前のせいで神界と魔界の全面戦争になるかもだぞと脅してその魔界上層部への告げ口を封じていることも知っている。
ということでここまでの報告も兼ねて、女神の奴をボタンひとつで呼び出すと……いつも通りなぜか素っ裸ではあるが、今回は事前に察知して準備していたのか、バスタオルを1本手に持った状態で出現したではないか……
「ふぅっ、今回は何とか裸を見られずに済みました、それで、何かありましたか勇者よ?」
「その前にそのバスタオルを取れ、お前、自分が呼ばれた理由のうちにそのおっぱいを俺が見たいからというのが含まれない、そう思うのか?」
「思いたいところですが思えませんね……では……はっ! 乗せられて恥ずかしい姿を晒すところでした……」
「チッ、ほんの少しだけ賢くなりやがったな、で、俺達がお前を呼んだおっぱいでない、オマケの方の理由なんだが、わかるか?」
「えぇ、先程から邪悪なオーラを放っているそのゲートのようなものの先、間違いなく違法に作成された亜空間の類ですね、すぐに片付けます、ご協力ありがとうございました」
「待て待て待て待てっ! コレはな、ちょっと必要なものなんだよ俺達にとって、実はかくかくしかじかブリブリでな……ということなんだ」
「えぇーっ!? 魔界の神からこんなものを……少し、いえ大幅にアウトラインを割っているような気がしますが……わかりました、では勇者よ、あなたがこの世界において振るうことが到底出来ない力を有することとなった暁には、私の協力でこの亜空間を用いることが出来るようにしましょう、もちろんナイショで」
話が早くて非常に助かった、あとは女神がどうにかするとして、俺達は引き続きレベルアップを志すことだけしておけば良い。
明日からも気合を入れて、あのデカいおっさんを殺害することで、より高い力を身に着けていくのだ……




