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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1088 めっちゃ

「で、結局あの器械はどこに設置したんだ? 王宮前広場か? それとももっと別に特殊な場所を用意したのか?」


「うむ、せっかくじゃから片付いた闘技場のど真ん中に置いておいたのじゃが、今はまだ新しい興行が始まっておらんでの、歳入アップのためにおぬしやその仲間で工夫して、どうにかそのレベルアップ? じゃか何じゃかをショーに仕立て上げるのじゃ、良いな勇者よ」


「なかなか面倒臭せぇ要求をしてくれるなこのクソババァは……だがまぁ、そういうことなら俺、じゃなくて精霊様に任せろ、きっと良い感じに上手くやってくれるはずだと期待しておく」


「うむ、いつもの如く他人任せじゃがそうするが良い、おぬしの腐り切ったセンスと脳みそで物事を考えても、まず持って上手くいく方向に転がるとは思えぬのでな」


「失礼なババァだな、もう帰って死装束にでも着替えておけよ……で、その器械を動かすための『肉』についてはどうなんだ? ストック分はそこそこあるが、以降の供給も考えなくちゃならないんだ」


「そこはまぁ、使って良いような者もおるやも知れぬが……自分で調達するべきじゃと思うし、その方が断然早いじゃろうに、一応罪人であれば無限に使って構わぬぞ」


「面倒臭せぇなぁ……」



 ほぼほぼ場所の提供以外のことをしないつもりでいるらしい国側であるが、まぁ、もしかしたらこの件に魔界の神が、あのホネ野朗だとかそういうことではなく、いつも俺達がつるんでいる奴が絡んでいることを悟ったのかも知れない。


 そうなると、俺達に対して手取り足取りという感じで協力することが、直接魔界の神に協力することに繋がりかねないため、それが信仰すべき女神に対する冒涜であると感じた、そういう可能性は十分にある。


 もちろん全く関与しないわけにはいかないため、適当にサポートしつつ、後でどうとでも言い訳が出来るようにしたのではないかと考えるのだが……おそらくあの魔界の神の存在については最後まで触れなくて良いであろう。


 で、王宮を出て一旦屋敷へと戻った俺は、仲間達に事情を伝えたうえで、予め国の方に連絡してから闘技場へと向かうこととなった。


 昼食を取り、そろそろ準備をしようとなったところでようやく放たれるマリエルの伝書鳩。

 風を切り空を駆け、流れ星の如く王宮を目指すその小さな何かはもう鳩の範疇にはない。


 しばらく、いやあっという間に『了解した』の返事が戻ったため、俺達は戦闘の準備をして屋敷を出る。

 向かった先の闘技場には……なんと、パラパラと観客が集まり始めているではないか。


 入口付近の巨大な看板に掲げられたのは、『勇者パーティーVS謎の戦士集団』であり、その下には『残虐公開処刑付き!』との記載もある。


 よくもまぁこんなにも早く準備をしたものだなと思うが、今は物体事変からの復興の最中、こういった娯楽にはかなり乏しいこともあり、国としては是が非でも何かしておきたかったのであろう。


 ついでにこれがヒットしさえすれば、後々の歳入面でかなりのメリットをもたらすこととなるのは明白。

 その前に俺達の強化が完了し、魔界に巣食う強者との戦いに突入してしまえば話は別だが……



「あっ、勇者パーティーですね、控え室はこちらです」


「控え室とか要らないわよ、そのまま流れ作業的にあのデカブツを出来るだけ多く倒して、今日はそれでお終いなのよ」


「困りますよ、ちゃんとショー的にやって頂かないと、とにかく内容についてはそちらにお任せしますから、どうか面白くて残虐で、悪事を働いた者の末路がこんなモノだと指し示すようなかたちでお願いします」


「面倒ねぇ、まっ、適当にやるから早く準備をしてちょうだい、あと控え室とやらにはそれなりの待遇セットを」


「ハハッ! ではこちらへどうぞ」



 精霊様の要求は通り、俺達が通された控え室はなかなかに豪華なものであった、通常は奴隷のような、というか奴隷の闘士が押し込まれるような汚ったねぇ場所のことを『控え室』と呼称するのだが今回はそうではない。


 汚ったねぇ壁も床も布や絨毯で隠され、芳香剤のようなものが撒かれ、綺麗なテーブルクロスを敷かれたテーブルの上には茶と茶菓子が……それを取ろうとしたミラの椅子の足が折れ、視界から消えた。


 結局取り繕っただけで中身はそのままであったか、どういうわけか案内される段階でいなくなってしまったマリエルは、おそらく1人だけ王女様待遇を受けているのであろうと思うと腹が立つ。


 しばらくしてお声が掛かり、係員には次からこういう待遇であったらその辺の役人を無差別に殺害すると脅して、はいはいと呆れるそいつの指示に従いつつ闘技場の中を目指す。


 中央には運び込まれたあの器械、そして昨日とっ捕まえたその器械の元々の所有者らである盗賊団の連中のうちから3匹。


 なお、首から提げた看板にはこれまでの罪状が列記されているのだが、明らかにそうではない罪まで押し付けられているようでいたたまれない……



『さぁ~っ、いよいよ始まりますようですっ! 勇者パーティーが登場したということはっ、もしかしてこの弱そうな犯罪者連中が対戦相手なのでしょうかっ? 解説で盗賊団犯罪に詳しい朕=コカインさん、いかが思われますか?』


『チ○コカユイデス……』


『はい、おそらくはいんきんたむし辺りでしょうね、近寄らないで下さい……というか中央にあるあの挽肉機みたいなのはなんなんでしょうかっ?』


『チ○コカユイデス……』



 いつもの如くやかましいだけの実況と、何のために呼ばれて何の意味を成しているのか全く不明な解説者とでイベントの開始を告げる。


 俺達が闘技場内に出た後に、キッチリシッカリ美しいカーペットの上を歩いてマリエルが出て来たため、そのセットされた髪の毛をぐしゃぐしゃにしてやるなどの嫌がらせをしておく。


 で、俺達から必死に逃げようと頑張る『肉』の3匹なのだが、魔法の壁に閉じ込められているようで、挽肉機のようなそれから一定以上離れることが出来ず、何も見えない場所に向かってパントマイムのような動きをしている。


 もちろん、そんな魔法の壁など俺達の前には無も同然、それは破壊することが容易ということではなく、なかったものとしてスルーしてしまうことさえ可能であるということだ。


 そのまま近付いて行くのは俺と精霊様、その後ろからは前衛メンバーが付いて来る。

 魔法の壁はどこにあったのか、それさえもわからないまま通過し、逃げ惑う馬鹿共のうちの1匹に、その辺に落ちていた鳶口のようなものを突き立てた。



「ひぃぃぃっ! はっ、離してくれっ! 俺をどうするつもりなんだっ?」


「どうするもこうするも、ほら、サッサと中へ入れ、お前のような雑魚キャラを丸ごとやったらどのぐらいの数のデカブツが出るのかを知ろうと思ってな」


「やめろぉぉぉっ! やめてくれっあっ、そんなっ……」


「良いぞ精霊様、ハンドルを回してみてくれ、きっとあの魔界の神の奴が誰でも使用可能なように調整してくれたはずだ」


「合点! それそれそれそれっ!」


「あっ、いでっ、あぁぁっ……アギャァァァッ!」



 肉投入口付近の機能としてはそのまま挽肉機らしいその器械、放り込まれた盗賊団の構成員は必死になって這い出そうとしていたのだが、そのうちに足が巻き込まれ、そして引き込まれる。


 悲鳴と共にメキメキと大きな音を立てつつ、ジワジワとその器械のなかに消えていく犯罪者を、比較的上に位置する観客席から眺めることが出来た民衆は大満足。


 これで俺達勇者パーティーの支持率も爆上がりだ、などと良い予想をしているところに、その挽肉になった犯罪者が変換された、というよりも代替物として払い出されたのだが、デカいおっさんが次々にその排出口から現れる。


 昨日まで戦っていた洞窟ともまた違う光景に驚き呆れるデカいおっさんの集団、大勢の観客に見守られながら、そのデカブツが同じ顔で同じ動きで、かなり挙動不審な状態であるのがまた面白い。


 声を掛けるとこちらにも気付き、残りの『肉』と同様に逃げ惑うデカいおっさんの群れ。

 だが『肉』とは違って戦闘力が高いため、魔法の壁はいとも簡単に通過してしまうのだ……



「ひぃぃぃっ! 助けてくれぇぇぇっ! もう殺さないでくれぇぇぇっ!」

「おいっ、俺は殺されるのはイヤだっ! そっちの俺が行けっ! 立ち向かうんだ勇者に!」

「俺こそ行けよっ、悪いが俺は逃げさせて貰うっ!」

「何だか知らんがそっちが出入口みたいだっ、頑張れ俺! 走るんだ俺!」


「そうはさせませんっ! えいやっ!」


「ブッチュゥゥゥッ! し……死亡……した……」


「あぁぁぁっ!? もう俺が殺られたぁぁぁっ!」

「狼獣人のアレはヤバいっ! 向こうへ逃げて……あっ」


「苦しんで死になさいっ!」


「ひょげろぽぉぉぉぅっ! あぁぁぁっ! いでぇよぉぉぉっ!」



 逃げ惑うデカいおっさんとそれを取り囲むようにして展開する俺達勇者パーティー。

 今日は順番を決めてではなく、そちらへやって来たらその近くの者がブチ殺すという方式だ。


 どういうわけか俺の方にやたらと集まっているような気がするのだが、それはたまたまということで良いにしておこう。


 俺が一番弱そうだから、逃げられる確率が最も高いと感じるからなどということは、この状況においてはないモノだと信じて……もしそうであったとしたらこのデカブツは絶対に許さない。


 で、最後までそちらに行ったデカいおっさんを全てキープし、幻術で恐怖の光景を見せ付けて遊んでいたサリナが、最後にまとめてとんでもない恐怖をその頭の中へ送り込み、ショック死させたところで全てのおっさんが死亡した。


 全部で50体程度は居たであろうか、おっさんのオリジナルを器械に入れると100体出現するのだと言っていたから、やはり肉の量が少ない通常の雑魚だとこのぐらいということか。


 とまぁ、その計算は後程として、今は例のやべぇクスリの効果が切れる前に、可能な限り多くのおっさんを処分しておくこととしよう……



 ※※※



『さぁ~っ、勇者パーティー、なにやらおっさんを生み出す装置をまた使って……おっと、今度犠牲者は抵抗しているっ! なかなか挽肉になろうとしないぞっ、どうするっ?』


『うむ、あの感じは粗挽きですな、きっと良いバーグになるでしょう』


『なお、さっきの解説の人は軟膏が切れたとのことで帰宅し、代わりに毎日どこかのレストランでハンバーグばかり食べているのだという、巷ではちょっと有名らしいおじさんを連れて来ましたっ! 如何でしょうあの餌食になる犯罪者?』


『そうですね、もっとこう、挽肉機のあの凶悪な部分が上手く噛むよう、小さく切ってから入れるのが良いでしょうな、せめて足の部分だけでも』


「だってよ勇者様、そいつの手と足、ひとまず使い物にならないようにしておいたらどう?」


「だな、じゃあ覚悟しやがれこのダボがっ!」


「やめてっ、やめっ、ひぃぃぃっ! あっ……あぎょぎょぎょぎょぎょっ!」


「……よし、何だかそこそこ時間が掛かってしまったな、これじゃあ……あ、そういえばあのやべぇクスリの効果が……どうなるんだ?」


「そう思ってもう1本分用意しておきました、一応全員分あるんですが……まずは勇者様からどうぞ」


「やっぱ俺なのか……なぁミラ、『1日1本厳守』とか『規定量を超えて使用した場合、命の保証はありません』みたいな感じで、ついでにその他諸々の記載が……」


「いえ勇者様、良く見て下さいその文章を、『1日1本だけなんだからねっ!』と『規定量を越えて服用しても良いけど、どうなっても知らないんだからねっ!』、あと『別にあんたのために忠告しているわけじゃないんだからっ!』です、つまりツンデレですね」


「……だから?」


「だから大丈夫だということです、ほら、グイッと一献」


「……おいミラ……お前が飲めやボケェェェッ!」


「ひぃぃぃっ! あぐっ、うっ……んぐっ……やっぱり大丈夫でしたっ!」


「そうか、そりゃ良かったな、おい皆、ミラが体を張って実験してくれたから、おそらく追加で飲んでも大丈夫だぞ」


『うぇ~いっ!』



 いつもいつも俺ばかり犠牲になってしまうため、そしてだいたいその犠牲を強いている犯人がミラであるため、ここは仕方なく多少厳しい手段を取らざるを得なかったのである。


 しかしそのツンデレ注意書きにも拘らず、二重に作用したやべぇクスリはその危険性を顕在化させることもなく、単純にふたつ分の効果を得たというだけのことであった。


 と、そこで思い出して器械の投入口、必死でその挽肉にするための穴から逃れようとしていた馬鹿が吸い込まれて行った先で変化し、デカいおっさんがまたかなりの数出現する。


 もう完全に戦意を喪失しているおっさんの群れ、どいつもこいつもその場にへたり込み、願わくばライトな方法で殺してくれと、目線で黙示の懇願をしているのだが、これはショーであるためそのようなことをするわけにはいかない。


 全員が武器をそれなりのものから、闘技場内に隠しアイテムとして転がっているバールのようなものや鉄パイプ、チェーンなどに持ち替え、おっさんの群れを極めて残虐な方法でブチ殺していく。


 この光景はもう『お伝え出来ません』および『絶対に真似しないで下さい』以外の表現では伝えることが出来ないのだが、とにかく凄まじい惨劇がその場で起こったのである。


 モザイクが必要な光景が目一杯に広がるその闘技場内では、満足した観客の大歓声と、それからおっさんの群れをあっという間に倒し切った、もはや追加でアレを服用する必要などなかった俺達が……いや、何かがおかしい……



「えっと、さっきから凄く力が湧いてくるような気がしてならないんですが……ちょっとこれ、一時的なものとは思えなくて……」


「ムッキムキになった気分です、実際にはなっていませんが……どういうことでしょうか?」


「わからんが、俺も先程から凄い力の波が自分の中で渦巻いているような、そんな抽象的な表現しか出来ないのが残念なんだが、とにかく凄いパワーだ」


「う~ん……あ、ちょっと良いことを思い付きましたの、夕方だからそろそろ一番星が……アレですわね、あの星をこうっ!」


「え? ちょっとユリナちゃん何やって……星が消えたじゃないの……」


「やっぱり、凄く遠くから軽く魔法攻撃を放って、それでも一瞬で星ひとつを破壊出来るぐらいの力にはなっていますのよ」


「おいやべぇだろそれ……あ、まさかとは思うが……」



 地面に転がっていたのは先程追加投入したやべぇクスリ、それの全員分の空き瓶である。

 もしかするとこの『2回掛け』の効果が『プラス』ではなく『掛け算』になっていたのではないか、そんな気がしてならない。


 いや、もうそれ以外には考えられない状況だな、あの雑魚キャラであるデカブツを大量に始末したぐらいで、いきなりここまでの、というか今までを遥かに超えるパワーアップを成し遂げることは決してないはずなのだから。


 試しに、俺もルビアと2人で模擬戦のようなことをしてみようと、向かい合って軽く拳をぶつけ合ったところで、今有している実力の恐ろしさを知ってしまった。


 なんと、そのちょっとしたモーションだけで凄まじい衝撃波が発生し、観客席から何人かの酔っ払いが吹っ飛んで行ってしまったのだ。


 たちまちパニックになる闘技場だが、そのうちに『これも演出のうち』などと都合の良い解釈が広がって……まぁ、紛れ込んでいた係員などがそう仕向けたのであろうが、とにかく観客は落ち着いたようである。


 これはもしかすると凄いことが起こっているのかも知れないな、1回目の例のブツの使用効果が切れてしまっているため、もう一度それを服用して2回目と重ね、新たに『肉』を器械へと投入し、戦闘の準備を……今度もおっさんはただデカいだけで、全くやる気はないようだな。


 その半泣きどころか普通に泣いているのをいくつも、まるで処刑するようにして討伐していくと……やはり、またしても凄まじい勢いでパワーアップしたではないか。


 もうデカブツのおっさんなど、最初のように速いと感じたり、またパワーがあると感じたりも絶対にしない。

 単にサイズ感があるだけのミジンコとして、最後の1匹などは離れた場所から、軽く睨みを利かせるだけで弾け飛んでしまったぐらいだ。


 これは本当に強い、強いどころの騒ぎではないのだが、今の時点でもう、いつも偉そうにしていて鬱陶しい魔界の神と十分に渡り合える程度の力を持っているに違いない。


 それも全員VSあの1柱というわけではなく、個別にタイマンを張って全員が十分に戦うことが出来るという状態。

 もうあんな奴が調子に乗る時代は終わったのだ、これからはこの世界ならず神界も魔界も、俺達勇者パーティーが支配していくのだと言っても過言ではない……


 と、さすがにそれは言いすぎか、おそらく現時点ではまだ、これから敵対していくこととなる魔界のホネ野郎の足元にも及ばないはず。


 それが具体的にどのような強さなのかということについてはまだわかっていないのだが、おそらくは先程目線だけで弾け飛んでしまったデカブツが、ホネ野郎にとっての俺達であるとか、その程度の感じであると考えておこう……



「さてと、今日はこれで終わりにして、また明日同じようにやってやろうぜ、そうすればまぁ、そのうちに成長は鈍化していくだろうが、想定していたよりもかなり速いペースで強化することが出来そうだぞ」


「そうねぇ、もしかしたら3倍掛けとか4倍掛けとか、そういうことをしたら凄いことになるんじゃないかと思うの、明日から色々と試していくってのもアリだと思うわよ」


「あぁ、じゃあサッサと帰って美味いモノ食って酒でも飲もうぜ、ついでにあの魔界の神を呼び出してめっちゃディスッてやろうっ」


『うぇ~いっ!』



 翌日、俺達勇者パーティーは全員が原因不明の、どんな魔法薬を用いても治癒することのない高熱を発し、そのまま3日間も寝込んでしまったのであった。


 やはりズルはするものではないと、真面目にキチキチ強くなっていくべきだと痛感した出来事として、今回の件が記憶されたのである……

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