1080 女神相談会
「……みたいな感じ? 何だか知らねぇけどさ、とにかくそういうことがこの玉の中に書かれているんだよ、お前何だかわかるか?」
「玉の中に文字が書かれて……それは間違いなく魔界からの指令であって、その内容こそがその物体の目的であると考えて差し支えないぞ、それで、その物体はどうなったんだ?」
「何かさ、玉を取り出したところでグズグズになってさ、バラバラの小さい、通常の物体に戻りやがったんだ、それでチーンBOWの人が対応して消し去った」
「そうか、それはきっと命令を失ったことが、そのまま知恵を失ったことになったから……そういう理由なのであろうな、知らんけど」
「てことはアレか、自らの力で『知恵を得た』と思い込んでいた物体は……」
「その何者か、間違いなく魔界の神の誰かであるのだが、それが『知恵を与えた』ということになるだろうな、生物として新たに創造したんだ、何もない単なる魔力の集合体であった物体からな」
「ふむ、なるほど……いや何のために?」
「それは知らん」
「・・・・・・・・・・」
研究所に保管してあった『知恵のある物体』から採取した、魔王城にあったのと同じではあるが、中に命令のようなものが書き込まれている玉。
それを帰った後に呼び出した魔界の神に見せて、確かにホンモノの『魔界の玉』であることや、それに命令がインプット済みであることなどを確認する。
で、人族を支配してどうのこうのという、これまで俺達が思っていた物体の行動原理とは少し異なる命令の内容はともかく、そもそも魔界の何者かがこの玉を物体に埋め込んだこと自体が意味不明だ。
単に人族を服従させるだけであれば、一撃喰らわせてどちらの方が優位なのかわからせてやれば良いし、圧倒的な力の前には人族も頭を垂れる以外に選択肢はない。
まぁ、それを魔王軍を用いて行おうとして、結果が失敗であったということならば話は別だが、魔王のこの世界への派遣については、どちらかといえば定期的な戦争による人口調整の意味合いが強かったのではないかと思っている。
つまりその魔王を派遣する事業とはまた別の、何か魔界を支配するような偉い連中の思惑が働いたことによってこのような事態になっているのではないか。
そう考えることについての妥当性を目の前に居る魔界の神……魔界の三下神に問うと、またしても『知らんけど』を含むあいまいな答えしか返ってこなかった。
おそらくコイツもあまり首を突っ込みたくない事案なのであろう、確かに魔界に所属している神である以上、その上層部がやっていることについて、どう考えても邪魔をするような連中に関与するというのはどうかといったところ。
だが、俺達は最終的にその魔界の上層部を屈服させる、或いは叩きのめしてしまうことが目的なのだ。
それゆえこの神についても、今のうちにこちら側に付いておいた方が良いと思わせるべき状況なのだが……
現時点においてそれはなかなか難しいか、おそらく俺達勇者パーティーが束になって掛かっても、この魔界の神1柱を撃破することは難しい。
それがさらに上位の、最強クラスの悪神を相手にして、現状でどこまで頑張ることが出来るか……まぁ、ほぼほぼ無力であり、立ち向かったところで瞬殺されて土下座謝罪するのがオチであろう。
つまりこのままの状態でこの件についてまっすぐに調査を進めるのは無謀であるということ。
こちらの行動がバレないようにするのは大変難しいことだし、どれだけ隠密行動をしたところでこの魔界の神が『上への報告』というかたちでその秘密を漏らしてしまうに違いない。
この件を最終的な解決に導くためには、かなり遠回りをしつつ、その間に俺達が容易に神を撃破することが可能なほどに強くなっていないとならないのである……
「……てことでまぁ、最低でもお前よりもかなり上に位置している邪悪でやべぇ神がこの件には関与していると、そしてその目的もイマイチ見えてこないし、あまり突っ込みすぎると非常に危険であると、そういうことだな?」
「うむ、魔界における最終的な目標は『神界の撃破と吸収』であるから、おそらく今回の件はその足掛かりに過ぎないのであろうが、もしかしたらこの作戦が上層部の神界撃破を目的とした行動のメインストリームにあるかも知れない……それを邪魔したとなればどうなるかは、チンパンジーにも劣るその頭脳でもわかるな?」
「さすがに良くわかるが、だからといってこのまま見過ごすわけにもいかねぇんだよ、ちょっと何とかしないと、だから協力しろ」
「拒否する、相当にやべぇからなこんなもん、もし何かあった際に我の関与がバレてみろ、たちまちにブチ殺されて灰にされてしまうぞ、秒でな」
「そんなにやべぇのかよこの事案に係る連中ってのは……」
俺達に対しては存在な態度で臨んでいる癖に、強者に立ち向かうようなことは断固しない構えである魔界の神、本当に情けない奴だ。
だが以降この案件を進めるにあたっては、どう考えてもこのヘタレ馬鹿の協力が必要不可欠である。
かといって脅しが効かないのは確実だし、どうにかインセンティブを提示することによって協力させたいところ。
何かそれなりの対価というか何というか……いや、そもそも物体の回収に協力した俺達に対して、コイツはその恩返しをする必要があると思う……のは俺だけか、きっと『やって貰って当たり前』ぐらいに思っているのであろうな。
一旦仲間と相談して、この件についてどう対応していくのかを決めていくこととしよう、無理に計画を進めると、その魔界のやべぇ奴等に目を付けられることは必至だから、慎重に進める必要があるのだ……
「……てことなんだ、今度の敵、というか敵対するであろう連中はもう物体とか単なる黒ずんだウ○コなんじゃねぇかと思うぐらいにアレな感じだ、どう思う?」
「勇者様、やはりここは女神様に相談すべきだと思うのですが……もう手に負えるような相手ではなくなっていると、そんな感じがしてならないというか何というか……」
「私もマリエル殿と同意見だな、今はあの魔界の神とだけ関与しているのだが、おそらくはそれでどうにかなるようなことなどない、女神さまの協力が必須だ」
「なるほど……でもさ、もし女神にこの件を伝えて、それであの魔界の神の話をしたらさ、両者の間で確実にアレなことになるだろう? そこの折り合いをどう付けるのかがかなり難しい気が……しない?」
「しますわね、神界の女神と魔界の神様とで、間違いなく諍いが起こると思いますわよ、最悪この世界を挟んで、神界VS魔界の全面戦争に発展するんじゃないかと」
「そうなったらもうお終いね、まぁ、共倒れになってくれれば私が神に、しかも新しい体制の魔界における主神になるチャンスが訪れるわけだけど」
「うむ、ひとまずこの世界における水の精霊がごくヤバい思想の持ち主だと、そう神界に伝えておく必要はありそうだな」
「言ったら消し去るわよあんた……で、冗談はさておきどうするの? やっぱ女神と話す? それとも限界までこっちで進めて、もうどうにもならなくなったところでパスする?」
「後者はかなり酷いような気がするんですが、それでもこのような事態、あのちょっとまぁ何というか、女神様だけで対応出来るのかどうかといったところですね、不安要素が凄いです」
「確かに、女神様だけじゃなくて、もっとホントに上の神様が出て来て動く可能性があるわね、そしたら歯止めが効かなくなるかも」
「そうなると結局全面戦争か……しかしどうあってもこのまま魔界の連中の好きにさせておくわけにはいかないからな、やっぱり女神に相談してみるべきか……ここはちょっとアレだ、多数決にしよう、女神への相談に賛成の人は挙手!」
いくつか手が挙がった、というかカレンやマーサがまるで話を聞いていなくて、リリィが適当に両手を挙げたため無効であると考えると、間違いなく女神への相談に賛成である者が多数派となった。
反対していた精霊様、それからわかってもいないくせに悩んでしまって中途半端な動きをしていたルビアなどからは特に反論などなかったため、これで女神にこの件を通報するということが確定したこととなる。
もちろんそのことについて魔界の神には絶対にナイショであって、少なくとも神界の助けを受けることが可能な状態になってからでないと、そのことがバレるのはリスクが高い。
余計なことをしてくれたとキレ出されても困るし、その際にはもちろん俺達が攻撃を受け、かなりのダメージを受けることが予想される。
もっとも、悪魔フェチであるというやつの弱点を利用すれば、代わりにエリナを2日か3日程度貸してやって、隣に座って酌をするなどのサービスを提供させればそれで済むことなのかもわからないが……
「ということでまぁ、早速女神の奴を呼び出すこととしよう、お~いっ……あそうか、今はどっかに出掛けているから、神界コールセンター勇者専用ダイヤル経由じゃねぇと繋がらないのか……」
『……あ、はい、こちら神界コールセンター……あっ、いつもの勇者さんですね、ゴミクズクソ野郎だと有名な、そちらの世界の女神様は……今日はお休みです、というか明日からもずっと休みになっていますね、何かご用件があれば、おそらく1万年後には戻ると思われますのでその際にお伝えしておきますが?』
「何だ1万年って、休みでも良いから今呼び出してくれ、緊急の要件なんだ、この世界どころか神界まで終わるかも知れないんだぞ、わかってんのかそこんとこ?」
『いえわかりませんが……ではそちらの世界の勇者より、すぐに顕現して欲しいという要請があったと言伝を……これなら2,000年程度でいけますが、いかがしましょう?』
「もう良い、お前に頼ったのが馬鹿だったぜ、じゃあな……さてどうしようか」
「呼び出しボタンを押せば良いじゃないの、ほらアイリスちゃんに持たせている護身用のやつ」
「あ、そうだったわ、お~い、ちょっとボタン貸してくれ」
「は~い、どうぞ~」
「……これさ、押すとあの馬鹿素っ裸で顕現しやがんだよな、今回はどうなるのか……ポチッと」
白いボタンと黒いボタンがある、アイリスの護身用に渡した魔導デバイス、都合の良いことに、白を押せば女神が、黒を押せばエリナがその場に召喚されるというものだ。
最近はあまり使う機会がないので忘れていたのだが、こんな便利なものがあるというのであれば使わない手はない。
どうせその辺をほっつき歩いている馬鹿な女神を、その白のボタンを押下することによってその場に呼び出したのだが……光の中から現れたシルエットはどう見ても全裸である。
次第に女神の形が形成され、乳揺れまでもが再現されつつあり、そしてその動きから、急な呼び出しに焦り倒している様子もまた窺えるような状態。
色が付き、輪郭がハッキリしたときには、既に両手で胸を隠す女神から、今現在何が起こっているのかを悟ったような表情が見て取れたのであった……
「うっす、何で素っ裸なんだ? 風呂にでも入っていたのか?」
「えぇ、ちょっと……それよりも何なのですか勇者よ、いきなり呼び出して、先に連絡を入れるなどしてアポを取ってからそうするのが普通で……」
「1万年ぐらいかかるってさ、だからもう連絡は諦めて呼び出したんだ、ちなみにお前に着せるような服などないからそのつもりで」
「何を言っているのですかあなたは……ところで呼び出した以上、何か用事があると考えて良いのですね?」
「おう、ちょっとかくかくしかじかでおっぱいぼよぉ~んってな、わかったか?」
「おっぱいぼよぉ~んではわかりません、先ず私にバスタオルを提供して、それから詳しく話すことです、良いですね?」
いつにも増して手厳しい女神、きっとバカンスでもエンジョイしているところを急にこんな暑苦しい所へ呼び出されたのが原因であろう。
仕方ないので短めのバスタオルを有料で貸与してやり、これまでのこと、そしてこれからのことを詳しく伝えてやる。
話を理解してそのまま崩れ落ちる女神、せっかく貸してやったバスタオルはずり落ち、再びおっぱい丸出しの状態で、しかも半ば意識を失っているような感じだ。
そして口を開くと、どうしてすぐに自分に報告をしなかったのだと、そうこちらに対して問い詰めてくる。
しかしそれは地上の監視という業務を怠っていた自分が悪いのだ、自業自得だと返してやった……
「……では……ではこれまではその魔界の神とやらと行動を共にしていたと? そういうのを決して許さない、正義の存在でなくてはならない勇者がですか?」
「いやだってお前が使えねぇんだから仕方ないだろうよ、それともアレか? この間呼んだ際に、遊びに行くからあとは良い感じでヨロシク、みたいな態度を取っていたことにつきなにか弁明してみるか?」
「それはっ……えっと、勇者よ、そしてその楽しい仲間達よ、今回の件に関してはですね、これ、ちょっとその……神界の上層部にはナイスな感じで誤魔化しつつ事を進めなくてはなりません、わかりますね?」
『うぇ~い』
「もし私がサボって遊んでいる間に、このようなトンデモな事態になっていたことが知れ渡れば……私はどうなるのでしょうか?」
「きっと他の神々が見ている前でお仕置きされるわよ、お尻ペンペンの刑かしら?」
「ひぃぃぃっ! それは恥ずかしすぎて無理ですっ!」
「いや、今お前がしているその格好の方が遥かに恥ずかしいと思うんだがな……」
「おっと、これはこれは、この世界を統治する女神としてあるまじき醜態を晒してしまいました、今私が素っ裸で狼狽していたということは他言むように願います……とにかくです、その魔界の神とやらを使っても良いですから、この物体とか、それから物体に指示を出していた魔界上層部とか、その辺りをどうにかしなくてはなりませんっ!」
どうやら上には報告せず、自分の力だけで、そして俺達を使ってどうにかしてしまおうと考えている様子の女神。
これはもうダメかも知れない、いやダメに違いない、なぜならばこんな無能な馬鹿に、悪逆の徒である魔界の神々とはいえ、その中でも強力なものをどうにかしてしまうことなど出来ないからだ。
もちろん、俺達がその神に負けない程度に強くなるまで時間を稼ぎさえすればどうにかなる、いやどうにかなる可能性が出てくるといった程度か。
少なくともスムーズに解決し、誰にもバレずに良かったねなどと、そんな純粋なハッピーエンドを迎えるということはまず考えられない。
かわいそうだが、女神にはこの件に関する全責任を被って神界における強烈な罰を受けて貰う必要がありそうだ。
それから、もし勝てる気がしないような状況に陥った場合には、真っ先にコイツを生贄にして俺達は逃げることとしよう……
「それで、何をするにしてもまず作戦だぞ、ちなみに女神、こkにはちょくちょくその魔界の神が来るから、ややこしくなるのがイヤだったらその際には隠れていることだな」
「押入れの使用料は5分で金貨1枚、地下の倉庫は金貨2枚ね、ちなみに先払いだから予めお金を用意しておくように」
「いえ、そういった場合には普通に神界へ退避しますのでご安心を……で、ですが、今回の件の敵となり得る神々、おそらくはその……勇者パーティーがどれだけ鍛えたとしても、そう簡単に太刀打ち出来るような相手ではないと思いますが……どうしましょう?」
「どうしましょうって、それを考えるためにお前を呼んだんだよ、何かこう、ないのか? 食べるだけで最強になれる食材とか、ひとつにつき1レベルアップする凄い飴玉とかそういうのだ」
「……ない、ことはないかも知れませんが、きっと生身の生物が使えばあっという間に破裂して肉片の雨を降らせるようなものばかりですよ」
「マジかよ使えねぇな、じゃあもう俺達が頑張ってムッキムキになって、魔界のどんな奴にでも脅しを掛けられるような存在にならないといけないってことじゃないか」
「えぇ、ですからそれまでの間、私の華麗なるやり繰りで事態の引き延ばしを図るのが得策かと思います」
「大丈夫なのかよお前なんかで……」
とはいえまぁ、この女神とは完全に別個に、あの魔界の神とも連絡を密にして色々と対応したり、工作をしたりしていく予定なのだ。
あちらはそこそこ話が出来るというか、馬鹿で使えないゴミなのは確かだが、女神のようにもう放っておいたら何をやらかすかわからないようなウ○コではないということだけは確か。
また、今回物体から回収したり、そもそも魔王城で未使用のものを獲得してしまった『魔界の玉』に関しては、こちらがその用途に気付いていないと思わせておく必要があるのだが……そこはやはり研究所に頼むしかない。
そしてこの物体を用いた魔界上層部の作戦が、今回は失敗に終わってしまったことを連中が知り、そして軌道修正したり、計画を抜本的に変えてきたりした場合に備える必要も同時にある。
これに関してはもう、俺達がやれるだけやる、戦うだけ戦うということをするしかない。
それに対して魔界上層部がどのような反応をするのかはわからないが、そこまで目立った動きは見せないであろうとの予測だ。
なぜならば、そもそも今回の物体事変においても、神が現れて物体を回収するという『魔界の意図』と、それを利用して何やらしようとしている『魔界上層部の意図』がぶつかってしまっているのだから。
つまりこの時点ではまだ、魔界も一枚岩ではないということ、そしてこれから敵対するであろうそのやべぇ連中が、まだ表に立って行動しているわけではないということが窺える。
その分、これから何をしてくるのかは全く予想が付かないような状態なのだが、とにかくこちらで精一杯やって、必ずやこちらの勝利によって全てを終わらせるようにしなくてはならない……




