1077 詳細不明
『しゃぁぁぁっ! ナイススパイクだぞ我! 見たか貴様等、貴様等がどうにも出来なかった浮遊物体を、神であるこの我が一撃で仕留めてくれたのだっ、フハハハハハッ!』
「いや調子のってんじゃねぇよ、しかもまだ仕留め切ってねぇだろうに、ほら、中から人型物体が脱出してんぞ……ホントに人間みたいな逃げっぷりと焦り方だなしかし……ん? マーサも見たいのか? ほれここから見えるぞ」
「……あ~、ホントね、何だか畑の切り株を退かしたときのアリさんみたいな? 頑張って逃げてるけど……捕まえてやっつけようと思えばもう簡単よね?」
「だな、これで完全に俺達の勝利が確定したということだ、皆マジでおつかれ」
『おいちょっと待てやゴラァァァッ! 最後、めっちゃ苦戦してた空のやつ倒したの我だよね? 感謝の言葉とかラストアタックボーナスとか、そういうの一切ナシなのかよこのクソ共がっ! てかとりあえず降りて来いやっ!』
「チッ、うるせぇ奴が残ってんな、物体と一緒に吸い取って魔界に送り返そうか、ビィィィッと」
『あっ、何してやがんだおまっ……なぁぁぁっ!』
魔界の神はその自らが作成し、俺達に使用させた掃除機様の武器に吸い込まれ、そのままこの世界を後にしたのであった。
もちろん送られた先は魔界であるため、未だ上空に開いたままとなっていた真っ黒なゲートから、ごく当たり前のように戻って来てしまうのだが。
で、戻って来た魔界の神は何やらご立腹の様子で、俺達が降りて来なければこの世界の人族、魔族問わず、全ての人間が消滅する程度の攻撃を行うなどと脅迫してきたため、仕方なく応じて変型合体ロボからコクピットを射出する。
ゴゴゴゴッと地面に降り立つプレハブ城、それが完全に着地したのを確認すると同時に、魔界の神は勝手に戸を開けて中へ入って来た。
不法侵入も良いところであり、帰れと言って帰らないようであれば不退去罪ということで憲兵に連絡してやろうとも思ったのだが、そんな者を呼んでもどうせ瞬殺されるだけなので意味はない。
仕方ない、とりあえず『神のご高説』を聞いてやることとしよう、そういえば誤って魔界に送ってしまった駄王も、あんなモノを外に出して無関係の者に見せるわけにはいかないという理由で返還して貰う必要があるし……
「ふぅっ……おい、椅子もないのかこの空間には? 金の玉座を持って来い」
「そんなもんここに入れたら床板がどうにかなってしまうわ、プレハブだぞプレハブ、とりあえずパイプ椅子と長机があるからそれで我慢してくれ」
「神様、こちらへどうぞですの、今お茶をお持ちしますことよ」
「うむ、そういうことであれば仕方ないか……ひとまず我が下僕とその仲間よ、このたびの戦いご苦労であった」
「誰がお前の下僕なんだよ? ふざけてっと直ちに神界の神を呼び出して、お前を排除するための戦争を起こさせるぞ?」
「……だからそういう系の問題を起こすのはヤバいと何度も……と、何か変な連中がここへ向かっているようだが? 何だ、あのやる気のなさそうな女研究者と筋肉の割合が正常でないおっさんか、前にも見たなああいうのは」
「あっと、俺達は奴等と話をしなくてはならんからな、ちょっとお引取り願うぞ『部外者』はな」
「貴様! 神である我を侮辱……」
「その神であることが、あの女の方、新室長にバレると微妙に厄介なんだよ、一応国の人間だからな、ということで帰るか変装するか、どっちかにしやがれ」
「はい神様、こちらが前にも使った変装セットになります、どうぞ」
「ふざけやがっ……まぁ良かろう、しばらくはここで静かにしておくこととする」
「なるほど、悪魔に対しては微妙に甘いんだなこの神……」
そういえば通信の相手先にもわざわざエリナを選択し、ここにきてユリナとサリナに対してはあまり強い態度で臨まない魔界の神。
やはり悪魔、もちろん女性キャラに対してのみなのだとは思うが、可愛らしいとかそういう感情を抱いているゆえ、そのような対応となるのであろう。
つまりここがこの魔界の神の弱点であって、今後敵対した際には、エリナを始めとする『悪魔美女』を人間の盾として利用するなどの方法が有効なのではないかと思料する。
で、遅れてやってきた新室長と、それからすっかり通常のサイズとなったゴンザレス……さらに後ろに見える馬車には、きっとババァ総務大臣が乗っていることであろう、とにかく戦いに参加したメインの人々が集合するらしい。
ちなみに、最後に逃げ惑っていた『知恵のある物体』と思しき物体のうち、魔界の神を一時的に強制送還した際に一緒に吸われなかったものについては、大量のチーンBOWの人々に包囲されている状態であるから、特にここから問題が生じる可能性はないはず。
魔界の神もそれについて特に対処しろとか、そういうことを言わないため、大丈夫なのであろうと考えて良いところであろう。
そしてこちらも勝手に戸を開けて入ってきた2人と、さらに追加で不法侵入を試みるババァ……プレハブ城内がかなり狭くなってしまったではないか、とりあえず床の上のムシロでゴロゴロしていたカレンを、どこか棚の上にでも移動するべきだな……
「勇者よ、このたびはご苦労であった、もう危険がない蚊確認後、取り急ぎ王都の復旧をするゆえそちらも手伝え」
「もう仕事の話かよ……で、危険がないかどうかなんてどうやって確認するつもりなんだ?」
「それはあの残った物体だよ、今のところ殲滅させずに残してあるんだが、どうやら意思の疎通がギリギリ可能な程度……もちろん定型文で返してくるんじゃなくて、まともに会話することが可能な程度の能力を有しているのではないかと思われているアレから聞き出すのさ」
「つまり物体を拷問してみるということか? そんなん、痛みなんか感じない奴等に有効とは思えないんだが?」
「おう勇者殿、実はそうでもないようだぞ、俺もあの球体が何者かによって撃墜された際、逃げ出したうちの1体について撃破したんだが、最初に命乞いのような言葉を発してな、無視して攻撃を始めたら凄まじい悲鳴を上げていたんだ……あの反応は痛みを感じているとしか思えないぞ」
「なるほど……それについて精霊様はどう思う? この中で一番の知恵者の見解は?」
「……う~ん、まぁ、なんとも言えないわね、会話は出来るけどそこまで高度とも思えないし、それにあの南の物体城で話をした人型物体、それと同程度か、それにちょっと人間味をプラスしたものだとしたらあまり意味はないかも……でもやらないよりはやってみた方が、可能性がある分良いと思うわね」
「私も精霊様を同じ意見ですのよ、きっと期待しているほどではないと思いますが、何か可能性があるのは事実だと、そう感じていますわ」
精霊様が喋っているところまでは、プレハブ城の隅でパイプ椅子に座ったまま憮然としていた魔界の神だが、ユリナの言葉には無言で大きく頷いている様子。
どうやらそうするのが正解だと言いたいようであるが、果たして本当に効果を得ることが可能なのであろうか。
相手はまだそれが何なのかわかっていないような存在だし、前回のように適当な情報を吹き込まれる可能性さえある。
まぁ、一応痛め付けて苦痛を味わわせ、こちらの鬱憤を晴らすことが出来るかも知れないと思うと、それはそれでアリではないかとも思う。
そこで得られた情報については、適当に話半分で捉えて、そうである可能性がないことはない程度で今後の対策を決めていけば良いのだ。
「主殿、ひとまずあの変質者軍団が取り囲んでいる人型物体の所へ移動しないか? その際にどういう反応を示すのかについても確認して、どう処理すべきなのかを総合的に判断することとしよう」
「だな、じゃあとりあえず一緒に行くメンバーと、ここに残って万が一の事態に備えるメンバーに分かれよう、一緒に行くのはえ~っと……」
イマイチ興味がない仲間達も多い中、俺とミラ、ユリナにサリナにジェシカ、それから精霊様の6人が勇者パーティーから出ることとした。
ゴンザレスだのババァだの新室長だのは当然そちらへ行くこととして……魔界の神も存在感が薄いままスッと立ち上がったようだ。
それから、臭いゆえ離れた場所で待機させていた、もう用済みだから殺してしまおうとも思っていたブラウン師も合流するらしい。
変型合体ロボの方はとりあえずセラに任せて、あとの仲間達は適当に休憩していてくれということで、プレハブ城を出てその現場へと向かう。
行った先では大量のチーンBOWの人々に囲まれた状態で、あっちへ行っては牽制され、こっちへ行っては牽制されと、もうどうにもならない詰みの状態で右往左往している真っ黒な人型物体が5体、もはや完全に確保された状態で存在していた……
※※※
「……マジで敗北した敵の雑魚キャラみたいな動きだな……おっと、こちらに気付いた際の反応もそこそこ人間っぽいぜ」
「向こうに走って行くみたいですね……もちろん逃げられなどしませんが、というかこの変質者軍団、相当に改良されていて強そうです」
「ひとまず話し掛けてみましょ、あんた達! こっちの言っていることがわかるのっ?」
『ひぃぃぃっ! 死にたくないっ! せっかく知恵を得たのに死にたくないっ!』
『助けてくれぇぇぇっ! 消さないでくれぇぇぇっ!』
「……なかなか出来が良いわね、もしこれが機械的な反応であったと仮定したらの話だけど」
「そうには思えませんね、やはり何か生物になっているような気がして……どうしたんですか神様? 体に触れるのはセクハラですよ」
「うむ失礼した、この物体、文献にあった『勝利してその世界の生物に置き換わったもの』の状態とかなり似ていると思ってな」
「……勇者よ、そのセクハラが趣味としか思えない謎の男は何なのじゃ? 前に来た有識者とやらと同じ人物のようじゃが?」
「気にすんな、単なる悪魔好きの馬鹿だ、知識はあるが存在として終わっているから、顔出しもNGで性格がゴミで、本来であればとっくに死んでいて差し支えないモブキャラだからな、たまに喋ったり動いたりするがもう気にしなくて良い」
「おぬしがそういうのを生かしておくとは、かねてより思っておったが、やはり珍しいことじゃの」
「まぁ、そういうこともあるんだよたまには……」
まさかこれが神、しかも魔界のそれであって、現在の実力では撃破するのが難しい、極めて強大な存在であるなどということを、神界の女神を信仰する連中に伝えてしまうわけにはいかない。
もちろんゴンザレスなどはこの神の存在について、一度遭遇したことによって知っているはずなのだが……基本的に興味がないことなのでもう忘れてしまっているのであろう。
とにかく現時点ではこの魔界の神の知識や力が必要であるし、物体を回収して魔界に戻すというミッションを帯びた神の側からしても、俺達と一時的な協力関係になることが必要であるため、お互い特に相手を陥れるようなことはしない。
で、そんな魔界の神を挟んだやり取りよりも、今目の前でビビり倒している、これまでに出現した中で最も人間らしく、そして最も敵の雑魚キャラらしい物体について考えていかなくてはならないところだ。
腰を抜かして後退りしつつも、後ろで構えを取るチーンBOWの人にも警戒している、そして必死で人間の言葉を操って命乞いを繰り返すその5体。
反撃をしてくる危険はなさそうであるため、精霊様がチーンBOWの壁を乗り越えるかたちで前に出て、当該人型物体共に対して圧を掛ける……
「さてと、まさかあんた達、このまま見逃して貰えるとは思っていないわよね?」
『・・・・・・・・・・』
「……誰か、時空を歪めるコーティングを施したバールのようなものを出してちょうだい……ん、ありがと……それっ!」
『ギョェェェッ! いでぇっ、いでぇよぉぉぉっ! 何でこんな感覚が生物には……ひょげぇぇぇっ!』
「あらあら、ホントに痛みを感じるような機能を搭載することに成功したようね、これで一歩、目標としている人族に近付いたじゃないの、このっ!」
『ギャァァァッ! やめてくれぇぇぇっ!』
「どうかしら、コレ、やっぱり生物として危険を感じたり、痛いと思ったりするような状態にまで変化……進化していると思わない?」
「そのようだな、殴られた際の反応は、まさしくその後に痛みが来ること、そしてその攻撃によって致命傷を負わないようにするための防御行動そのものだったぞ」
「てことはアレか、こいつ等には拷問も効果を有しているってことで良いんだよな?」
「えぇ、きっとそうなるわね、あんた達、これから消滅するまでの間、人間が受ける痛みとか恐怖とか、存分に与えてあげるから楽しみにしておきなさい」
『ひぃぃぃっ! 助けてくれぇぇぇっ! 勘弁してくれぇぇぇっ!』
「語彙力はイマイチのようですの、決まった『命乞いワード』しか知らないようですわ」
精霊様の脅しも、それから消滅してしまうことがないような軽い攻撃も、確かにこの物体共に対しては有効であったように見える。
それが本当の意味でそういう反応をしているのか、それともそう反応すべきだという情報に基づいて、特にそう感じるわけでもなく出たものなのかはわからない。
だが少なくともこういった反応が楽しめるという点において、この5体の人型物体を痛め付けることにメリットがあるということだけはわかった実験であった。
ということで俺もチーンBOWの人々を掻き分け、当然のことながら時空を歪めるコーティング済みのバールのようなものを装備した状態でその人型物体に接近する。
生理的にヤバいと感じたかのような行動、それが物体に見られたことで、益々こいつ等が人間の中身を有していると、そして痛め付けることに意義があるとの考えが強まった。
必死で地面を這い蹲って逃げようとするそのうちの1体に、ごく軽く、首が吹き飛ばない程度の強さでその手に持ったバールのようなものを振り下ろしてみると……
『ギョェェェッ! 何でこんなことをするんだっ? おかしいだろう? こちらはもう攻撃出来ないというのに、人族という生物はそういうのに対してもっとまともな対応をするはずで……』
「それは捕虜に対してどうこうって意味なのか? だとしたら残念だったな、お前等のような無生物にその規定は適用されない……もっとも、この世界において、俺が鬱陶しいと感じたゴミ共にもなっ!」
『ギャァァァッ! じゃ、じゃあ何が目的で……』
「色々と聞きたいことがあってな、まずお前等、あの俺達が勝利したことによって消え去ったデカかったので全部なのか? 他の場所にまだ物体を隠していたりとかしないか?」
『しないっ! していたらまだ戦っているはずだっ!』
「そうか……で、そしたらお前等、そもそも何なんだよ一体? 他の物体は単に集積した情報を用いてそれっぽい動きをしていただけのように思えるんだが、あの空洞というか球体というか、その中に居たのは、もちろん攻撃で潰れたのも含めてちょっと違う感じじゃないか? その理由と、どうしてそうなのかを簡潔に説明しろっ!」
『それはわからない、あるとき物体は知恵を獲得した……だがその知恵は共有出来ず、知恵を得たブッチの数は増えなかった、だから知恵を得た物体は知恵を得ることが出来ない物体を動かし、その知恵を得た物体が潰れて消滅すれば、また別の物体を使って知恵を得た物体となった……』
「いや意味がわからんのだが、とにかくお前は死ねっ」
『ギャァァァッ!』
「……さて、これで残り4体ってことか? それとも今の知恵を得た物体は、もしかするとどこかで別の物体になったのかな?」
「それはないでしょうね、この世界の物体はもうここにあるだけで、もし入れ替わって復活するとしても、もうあの兵器に吸い取られて送られた先ってことになると思います」
「なるほど、じゃあこの4体の物体はそこそこ希少ってことか、いやはや、仲間を殺して……ひや潰してしまって悪かったな、お前等はもっともっと痛め付けてから消し去ってやるから安心してくれ」
『・・・・・・・・・・』
知恵を得た物体だと主張するそれから話を聞いても、元々人間であって知恵を有していた俺達が、途中からいきなりそれを獲得したような存在の説明を聞いても理解出来るわけがない。
そのようなことが判明したのだが、物体についての解析を進めるうえでは、この残った4体を徹底的に調べていく必要があるということもまた確かである。
ひとまず確保だけしてしまって、絶対に逃げ出したり、それからうっかり消滅させてしまったりということがないような場所で保管し、研究所による調査を進めていくのが得策であろう。
まぁ、最も知りたいことはひとつ、本当にもうこの世界が平和になったのか、物体の脅威が完全に取り払われたのかということ。
そうであるならばあとは研究して、物体の悲劇が二度と起こらないようにすると同時に、有効活用の道を探っていくことになるのだが、そうでなければ引き続き警戒が必要だということになる……
「……ということだ新室長、この4体の物体を、なるべく苦しめて、もう消滅させてくれと懇願する程度にまで徹底的に痛め付けつつ調べてくれ」
「あぁ、それならちょうど良い、召喚してしまった物体を保管するためのBOXが完成しているからね、そこに入れておこう、チーンBOW軍団、作業開始!」
新室長によって完全に支配されているらしいそのチーンBOW軍団によって、残った4体の人型物体は良くわからない箱に収納され、どこかに運ばれて行く。
これで完全にこの世界の物体をどうにかすることが出来たと思うのだが、本当に残りカスなどが存在していないか心配だ。
それゆえ、ここからは魔界の神の協賛の下、この世界の安全性を確かめる作業を行う。
俺達が王都の街並みの復興作業に従事しなくて良くなるのも、それをしていさえすればのことであるし……




