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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1076 解体

「奴等! 本気で逃げるつもりなんじゃないかしらっ? じゃないとあんなおかしな動きはしないわよっ!」


『或いは遠隔操作に移行するつもりなのかも知れないね、それが内部にあると集中的に攻撃されるということを根拠として、離れた場所、絶対届かないような場所からこの巨体を操るつもりなのかも、といったところかな?』


「どちらにせよ向こうを狙った方が……いや、マジでこっちが動き出したぞ、本体なのかそれとも分離した部分なのか、どっち対処すべきなのか判断に迷うところだな」


「とにかく向こうの玉に攻撃してみますのっ……って、避けますわよ俊敏に……」


「こっちも全然当たらないわ、精霊様、やっぱりこの大きい方と戦い続けるしか道はないかも、それにこっち、ちゃんとどうにかしておかないと王都が普通にやられまくって……」


「そうみたいね、引き続きこっちの巨大なのを相手にするわよっ!」



 分離した球体の部分と巨大な物体変型ロボの本体、どちらを相手にすべきなのかということ派、状況から自ずとわかってくることであった。


 間違いなくその球体の中から、何らかの方法によってコントロールされ始めた巨体は、もはや弱点などなくなり、再び王都を蹂躙すべく立ち上がった……とはいえ脚の長さがペンギン並みゆえ、そこまで高さは変わらないが。


 で、そんな感じで戦闘が再開されたわけだが、ここまでの俺達による一方的な攻撃によって、物体はかなりの消耗をしてしまっているはず。


 それなのにサイズが、先程から吸っても吸っても、そして再生しても再生しても余り変化していないのである。

 これはどういうことか、まさかどこかからまだ物体の素となる何かを供給しているわけではあるまいし、何か別の理由があるに違いない。


 そしてその理由として最も可能性が高いと考えられるのが、物体はそのサイズ感を保つために、全体の密度を薄くしてしまっているのではないかということ。


 つまりは全身が骨粗しょう症のような、そんなスカスカの状態にある可能性が高いのだ。

 そうであるならば、これまで以上に俺達の攻撃が作用することはもう言うまでもない……



「オラオラオラオラッ! ガンガンいくぞオラァァァッ!」


「かなり削り易くなりましたわね、これならサイズを落としてでも元々の強度にした方が良かったんでないですの?」


「槍もまっすぐ入ります! この調子で削り尽くしましょう!」



 空にフワフワと浮かぶ球体の中の物体共は、この小さな俺達が巨大な物体変型ロボを圧倒する姿を見て、どのような感情を抱いているのであろうか。


 このままではヤバいとか敗北は間近ゆえ逃げなくてはならないようだとか、戦闘の前に俺達が人として感じていたのと同じようなことを思っているのであれば、それはもう物体ではなく生物であると言えよう。


 攻撃によってボロボロと崩れ、消滅していく物体、そして残ったものも俺が掃除機で吸い込んだり、地上ではチーンBOW軍団が、そこまで到達して単体での行動を始めた人型物体を始末して回っている。


 もちろん物体も黙ってやられているわけではない、腕の部分を振り回し、また変型合体ロボを叩き潰そうとするのだが……遅すぎて攻撃を喰らう気がしないな。


 遠くから操作している分、その精度もなかなかに悪いようだし、攻撃を受けて破壊されるのは自分のボディー。

 接近している俺達は、まるで叩かれる様子のない蚊の如く、スルスルと攻撃範囲から離脱し続けることが可能なのだ。


 もっとも、物体の攻撃が地面に入った場合には、先程までの大質量の攻撃ほどではないが、それなりに王都の街並みや、それから地上部隊であるチーンBOWの人々への被害が生じてしまっている様子。


 チーンBOW軍団が壊滅していくのは構わないのだが、王都の街並みの方は後で直すのが面倒なので勘弁して欲しいところ。


 やるなら自分のボディーを、攻撃に失敗して無様に自壊していくような感じで叩きのめすのみにして頂きたいのだが……その方面に物体の行動を誘導してしまうことは出来るであろうか……



「精霊様、もっとこう、懐に入り込むような感じで、物体が攻撃を繰り出したら、間違いなく自分を叩くような場所に潜ることは出来ないか? もちろん安全な場所でな」


「そうねぇ……やっぱり蚊みたいに飛び回るのが、そしてピトッと止まるのが一番かも知れないわね、ちょっとやってみようと思うから、全員衝撃に備えてちょうだい……それっ!」


「のわぁぁぁっ! 結構揺れるじゃねぇかっ!」



 ドドドドッと、ちょうど垂れ下がって地面に付いた状態にあった物体の腕を登り始める精霊様、そこから肩の部分まで移動し、本当に蚊が吸血するような感じでチクチクと攻撃を始める。


 だがその威力からすると、蚊というよりはスズメバチ、いやもっと巨大な何かによる攻撃だ。

 このままだと腕が捥げてしまうこととなる物体は、反対側の腕を大きく振って俺達を潰そうと試みる。


 だがプーンッと逃げた俺達を捉えることは出来ず、物体は自らの壊れかけの肩をもう片方の腕で殴打する格好となってしまった。


 当然どちらも脆くなっているため、その衝撃で手と、それから肩の部分がボロッと崩れ、地面に降り注ぐ……



「おうおうっ、派手にいったじゃねぇか、一気にお掃除するから、また地面をスライドさせて移動してくれ、スィ~ッとな」


「はいはいっ、どんどん吸っちゃってちょうだいっ!」


「ユリナちゃん、ついでにもう捥げかけの腕を集中攻撃しましょ! アレなら遠距離攻撃だけでも破壊出来るかもっ!」


「はいですのっ! 集中攻撃して、どうにかあの腕を落とすんですわっ、そしたらかなり削ることが出来ますわよっ!」


「えぇ、じゃあ機動力分の魔力をそっちに回して、ルビアちゃんとサリナちゃんも攻撃に協力しなさいっ」


『うぇ~いっ!』



 さらに続くこちらのターン、残念ながら俺がやっている地面の掃除機掛けはスローダウンしてしまったのだが、その分だけ上の、先程ダメージを与えることに成功した敵の肩部分に対する攻撃の威力が増していく。


 もし腕を丸ごと落とすことが出来れば、それこそ俺が処理するべき物体が増える、つまりかなりの現実的な活躍が可能となるわけだ。


 それは『やった感』を出すには十分な成果となるであろうな、巨大な敵の腕を丸ごと1本、全て消し去った勇者様は最強だということにしてしまっても差し支えないものであると考えて良さそうな感じでもある。


 もちろんそれが落ちてくればの話だが……攻撃を受けた場所は凄い勢いで崩壊していき、そして狙い通り、最後はまるで何かを吊るしていたロープを銃で打ち抜かれたかの如く、ボロンッ落下する。


 ビターンッという音、そう表現するのが最も近いとは思うが、それと似たような、しかしかなり重厚な音が付近一帯に響き渡った。


 落下した物体の腕に群がっていくアリのようなチーンBOWの人々、それを掻き分け、一部は踏み潰してしまいながらそこへ向かった変型合体ロボ。


 俺はそのまま地面に向かって銃口……ではなく掃除機様の兵器の吸入口を向け、一気に吸い取ってしまう態勢に入ったのであった……



「ウォォォッ! 吸い込めぇぇぇっ!」


「うるさい異世界人ねぇ……でもこのままどんどん物体をバラしていって、それを徐々に潰していって、最終的には全部消し去るってのもいい作戦かも知れないわね」


「ウォォォッ! 俺様こそが最強だぁぁぁっ!」


「叫んでないで早く吸いなさい、次は反対側の腕を狙って動くわよ、こっちの腕の再生はもう始まっているみたいだけど、それが完了する前にどうにか致命的なダメージを与えておきたいところだもの」


「ウォォォッ! 今急いでるからちょっと待ってくれぇぇぇっ!」



 そもそもだが、俺は家事スキルが皆無であるため、この床を掃除機掛けするような動きには適していないようにも思える。


 だがここで誰かに交代すれば、その手柄は全部その誰かに持っていかれてしまうような気がしなくもないため、そのようなことは言わずに作業を続けた。


 で、どうにかこうにかその場の物体をほとんど吸い尽くし、あとはワラワラと集まって来たチーンBOWの人々に任せても良い状態となったため、改めて次の攻撃に移るべく動き出す。


 変型合体ロボは走り、そして飛び上がり、今度は敵のボディー部分を垂直に、虫が這うかの如くシャカシャカと登って行く。


 あまりにもダサい動き、もう少しどうにかならないのかという次元の残念ムーブではあるのだが、今は物体に効率良くダメージを与えることを優先すべきときであるため諦めよう。


 登った先、頭の横まで登頂した変型合体ロボは、ひとまずその巨大すぎる頭に向かって中指を立てるポーズをキメた後、早速物体肩部分の破壊に取り掛かった……



「こうっ、こんな感じで抉るようにしてダメージを与えていくの、ただ地団駄を踏んでもダメなのよ、わかるカレンちゃん?」


「う~ん……わかんないけどやってみます」


「なるほど、リリィちゃんは?」


「あっ、聞いてませんでした」


「よろしい、じゃあ右足はカレンちゃんで、左足はリリィちゃんに任せるわね」


『うぇ~いっ!』


「……ホントによろしいのか今の反応で?」



 何やら不安要素が増えてしまったのだが、それでも可能な限り分担して、精一杯の力を攻撃に振り向けた方が良い状況。

 馬鹿であったり話を聞いていなかったり、なかなかトンデモな連中に変型合体ロボの一部のコントロールを任せてしまったのだが、贅沢は言っていられないのである。


 ズシンズシンッと地響きを立てるような感じで変型合体ロボの両足が物体変型ロボの肩を抉り出す。

 同時に槍などを使った攻撃も、魔法攻撃もその部分を集中的に狙い、もちろん崩れた部分については吸い取っていく。


 物体はそんなことをする俺達に対して非常に無力であり、未だ再生が終わっていない、短いままの反対側の手では、肩に止まった超強力な虫けらを排除することさえも出来ないのだ。


 そして振動と突き刺されるダメージと、さらには魔法による攻撃、そのどれもが時空を歪めるコーティングを施されたグレート超合金によってなされているため、物体へのダメージは大きい。


 次第にボロボロな感じとなってきたこちら側の腕も……そろそろ崩壊するようだな、物体が最後の抵抗として変型合体ロボを振り落とそうとしてはいるが、そんな行動はもう無駄でしかない状況。


 最後にガンッと強く踏まれたところで、崖崩れでも起こすかのようにして落下を始めた物体の腕。

 そこに飛び乗った変型合体ロボは、物体の頭部に向かってもう一度中指を立てつつ、その落下していく腕部分に同伴した。


 地表で群がり始めるチーンBOWの人々、巨大な物体を、アリのような俺達が解体して、食べるわけではないのだが消し去ってしまう、傍から見ればそんな光景なのであろうな。


 もちろん、まだまだ両腕を落としただけであり、その部分についても物体の密度を薄くする感じで再生してしまうのだから、この先も同様の戦いは続いていく。


 と、ここで先に落とした方の腕が完全に再生したようで、そこからパンチを繰り出して俺達を潰してしまうつもりらしい。


 だがそんなウスノロの攻撃では、素早く動く小さな俺達を叩くことなど出来ない……のだが、どういうわけか精霊様が回避運動を取ろうとしないのだ……



「おいどうしたんだ精霊様? このままじゃやべぇぞっ!」


「そうですよ、プチッといかれてしまいます、あんなのに潰されてENDはイヤなので早く回避して下さいっ」


「……止めるわ、きっと大丈夫」


「何言ってんだよ? あの質量でぶん殴られたらどうなるのか……ってもうそこまできてんじゃねぇかっ!」


『ぶっ、ぶつかるっ……』


「ハッ! とぉっ……ほら大丈夫だったじゃないの、敵の拳の方が先に粉砕したわよ、変型合体ロボの損害率は……0.00000001%程度みたい」


「……マジだ、どういうことなんだよ一体?」


「奴等、もう骨粗しょう症どころかボロボロの失敗クッキーみたいなものなの、だってあれだけのサイズの腕を回復したんですもの、しかも最初のモッコリ部分も、かなり薄くなっているのよ」


「そういうことか……ならばこのまま戦っても大丈夫ってことだな、ゴンザレス……はもう元のサイズにも戻ってしまったのか、だが良い、俺達だけで真っ向勝負をしても大丈夫そうだな」


「えぇ、バラバラに解体して、一気に消し去ってしまうわよっ!」


『うぇ~いっ!』



 もはや五分五分かそれ以上、当初はとてつもなく強大な敵で、彼我の戦力には天と地ほどの差があった。

 そんな戦いがどこまで続くのかとも思われたのだが、所詮敵は考えることの出来ない、いやもう出来ているのではあろうが、圧倒的にその能力が不足している物体であったということ。


 次第にこちらが有利になり、結局『1発でも貰えばそれで終わり』という状況ではなくなったのである。

 そしてその状況であっても十分に戦えていたのを、これから先がどうなるかということはもう火を見るよりも明らか。


 物体は敗北するのだ、そして俺達は勝利し、この世界も『物体を退けた凄い勇者様が居る世界』として、いつかどこかの世界で語られる伝説の中に名を連ねるのだ。


 構えを取り、再び物体に向かう、そして今度は真正面のモッコリした部分を狙う変型合体ロボ。

 途中で飛んできた、もうボロボロな状態のパンチ攻撃は、マリエルが槍を使って軽く弾いてしまう。


 そしてその槍はそのまま物体のモッコリ部分にザックリと突き刺さり、元々空洞があったはずの、重要だと位置付けられていたはずの場所を、まるで何の抵抗も受けない状態で攻め立てる……



「いけっ! もっとグリグリしてやるんだっ! あと魔法の方は念のため敵の腕部分をどんどん崩して再生させるなっ!」


「もう再生どころか一撃で腕が吹き飛ぶレベルね、しかもどんどん弱くなっているみたいだし、このまま薄くなったら向こうが透けて見えるようになるんじゃないかしら?」


「そうなったら楽しいじゃねぇか、ほら股間部分もケツの穴まで貫通しやがったぞ、零れた分は汚ったねぇから掃除しないとだ、ビィィィッと」


『ここにきて物体のウエイトがかなりのペースで減少し始めたよ、引き続き頑張ってくれ』


「おうよっ、てかあそこ見ろ、もう物体同士の接続が怪しくなってきてんぞ、まるで組体操みたいだ」


「ホントね、人型物体が必死になって手を繋ぎ合って……あ、千切れちゃったわね、右側3分の1ぐらいが崩れるわよ」


「遂に本体も維持することが出来なくなってきたか……っと、掃除しなくちゃだな……」



 どんどん薄くなっていく巨大な物体、そこまでしてそのサイズを維持しなくてはならないのかと疑問に思うのだが、そういう決まりがどこかにあって、それゆえそうしているのであろう。


 だがその巨体をキープすることなど、現状の質量では完全に無理が生じてしまっている。

 ボロッと崩れた右側の一部は、下に落下したところであっという間にチーンBOWの人々の餌食となった。


 そして攻撃を受け続ける他の本体部分も、だんだんとその形を維持することが難しくなって……遂に崩壊した、物体が散り散りになって崩れ去り、通常の人間と同等のサイズの人型物体が、バラバラと王都の地表に降り注いだのだ。



「……勝ったな」


「いえまだですわよっ、あの浮かんでいる球体、アレをどうにかしないとこちらの勝利は確定しませんの」


「おっとそれを忘れていたぜ……おいっ! もう諦めて降りて来て死にやがれっ! 虎の子の巨大物体変型ロボはもう瓦解したんだ、俺達が勝利したんだっ! わかってんのかオラッ!」


『・・・・・・・・・・』


「物体に何を問いかけても無駄みたいね、とりあえず魔法で撃ってみましょ、当たらないかも知れないけど」


「厄介なのが残りやがったな……スイスイ回避しやがんぞ……」



 物体変型ロボは完全に崩壊し、その構成要素たる人型物体はもう、大半が地表でチーンBOWの餌食となった。

 残りも時間の問題であり、そちらについてはもう、俺達が介入する必要はないであろう。


 だが元々はその巨大な物体を、遠隔操作によって動かすことを目的としていたはずの球体、それが未だに諦めることなく、こちらの攻撃を回避し続けているという問題が残ってしまった。


 フワフワと移動を繰り返しながら、こちらを馬鹿にするかのような動きで攻撃をなかったこととする浮遊物体。


 逃げ出そうと思えば簡単に逃げられる状況だというのに、それをしないのはわざとか、それとも脳が入っていないゆえなのか。


 しばらく攻撃を続けてみるものの、浮遊物体は完全にこちらの攻撃パターンを読んで動いているらしい。

 このままでは倒すことなど到底出来ないであろうな、しかしそうなると取り逃がすことが確定してしまうこととなる……



「クッ、やっぱりダメみたい、どうあっても喰らってくれないつもりだわ」


「やべぇな……よしっ、もうアレだ、ここから魔界の神に連絡して顕現させようぜ、奴ならどうにかしてくれるだろうよ」


「そうだな、早速私が連絡を……と、魔界に繋いだはずなんだが、また王の情けない姿が映ってしまって……いや、確かに魔界のようだ」


「駄王の奴、やっぱり王宮と一緒に吸い込まれて……まぁ良いか、おいっ! そこに居るなら返事しやがれっ!」


『おぉ勇者よ、ここは一体どこだというのじゃ?』


「いやお前じゃねぇよっ! そこに何か変な神が居ただろう? そいつはどこへ行った?」


『さっきまでそういうのがいたような気がするが……消えてしまったようで……』


「はぁっ? あの馬鹿、こんな状況だってのにどこほっつき歩いて……」



 呆れてそんな台詞を口にした瞬間、上空に真っ黒なゲートが出現したことを認めた。

 そしてそこから出現したのは魔界の神、こちらが呼ぶ前に予め転移していたということか。


 その神の出現と同時に、宙に浮かんでいた球体が、まるでバレーボールのように弾かれ、地面に叩き付けられる……魔界の神の奴、最後の最後で美味しいところをゲットすべく狙っていたようだな……

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