1074 じゃなかった
「……勇者様、どう見ても向こうの方が正義系である気がしてならないんですが……そう思ったりしませんか?」
「思っても口に出したらダメだぞマリエル、それといくらこっちの変型合体ロボが急拵えの酷いモノだからって、あんな流動性の高い物体が造り出したものと比較するもんじゃない」
「そうですよね、向こうは粘度細工みたいなものであって、こちらはちゃんと最初から設計して組み上げたものですからね、制作難易度が異なりますもんね」
「でもやっぱ向こうの方がカッコイイですよ……」
『・・・・・・・・・・』
明らかに敵の物体変型ロボの方が、こちらの変型合体ロボよりも正義系であるという残念な事実。
この問題に終止符を打つべく、マリエルと2人で無理矢理にこちらのロボを肯定していたところ、リリィが直球のひと言を発してしまう。
いや、その事実はもう事実として認めなくてはならないのだが、だからといってあんなウネウネと動いて形状を変化させただけのものに、見かけ上で負けていることを認めるわけにはいかない。
なぜならばサイズや機動力、持続性やその他諸々、こちらの変型合体ロボが敵の物体変型ロボに勝っている部分など見当たらない、探しようがないのだ。
もちろんまともに戦えば、あっという間にプチッといかれてしまうような戦闘力の差も考えなくてはならないこの状況で、このショボくていい加減なロボが、敵の正義系ロボに立ち向かい、そして困難な戦いを制して勝利をその手に掴むというビジョン、それがまるきり浮かんでこない。
さて、その見上げるほどの高さを有している変型合体ロボが見上げるほどの高さを有している物体変型ロボなのだが、まずは肘と膝など、関節となる部分を動かしてその稼動領域をチェックしているような感じである。
おそらくこれまでは『人間と同様の関節』というものの動かし方を、イマイチ知らないままその形状だけ真似ていたのであろう。
もちろん人型物体にも関節のような節目は存在していたように思えるが、そもそもの動きが異常であったため、それが逆方向に曲がっていたりしたとしても、特に着目するようなことはなかったはずだし、実際そうであったに違いない。
しかしここから先はその一挙手一投足が目立ってしまうものとなった、そしてそうである以上、不自然な動きをしてしまわないようなテストは非常に肝心であって……上手くいっているようには思えないのだが……
「……敵の変形合体ロボは関節がグルグル回るのね、どうせ後ろも見えているんでしょうし、背後を取るのは意味がないかも知れないわ」
「だな、となればもう正面突破して、やれるところまでやるしかないってことだな、このまま攻撃に移ろう、どうせ関節の可動部分が弱点なのも、一般的な変形合体ロボをコピーしているんだろうからな」
「膝です、膝を狙ってカックンしましょうっ!」
「えぇ、じゃあ魔法攻撃はそのまま続けつつ、本体ごと突っ込んでダメージを与えるわよ」
「うむ、じゃあ……あの魔界兵器はまだちょっと魔力の充填が足りていないようだから、今は持たずに攻撃していくこととしよう、新室長、何か他の武器をくれ」
『近接戦闘武器が敵のすぐ近くにあるよ、今出すから装備したまえ』
「出すって……あ、地面から出てくるタイプのロボ装備なんだな……」
これから向かう先、物体変形ロボの足元付近の空き地に魔法陣が形成され、そこから巨大な剣のようなものが浮かび上がってくる。
どういう原理でそうなっているのか、何の根拠があってそんなモノを召喚することが可能になったのかなど、色々と謎ではあるのだが、とにかく使えるものは使っておこう。
精霊様は変形合体ロボを走らせ、ここにきてかなり慣れた操作で物体変形ロボの足元へとその機体を滑り込ませる。
剣の方も左手でしっかりキャッチすることが出来た、右腕にも剣、そして肩の砲台のようなものからは常に魔法攻撃が発せられている状態。
そのまま変形合体ロボの動作は続き、流れるようなスムーズさで飛び上がり、物体変形ロボの左の膝部分にふたつの斬撃を加えていく。
ザクッと一部が割れ、そこを構成していた物体は消滅、さらに周囲のものも人型物体の姿を取り戻しつつ地面に落下していった。
このまま何度も攻撃を仕掛けていけば、いつかはこの膝間接部分が上を支えられるだけの強度を失い、物体変形ロボ全体が倒壊するはず。
それを目指してさらなる攻撃を仕掛けるべく、もう一度飛び上がるのだが……なんと回避されてしまったではないか。
しかも巨大な機体が足を後ろに置いたことにより、かなり広い範囲で街並みが消滅、さらに形成されたその足跡を見るに、おそらく地下に避難していたとしても当該場所においては無事では済まなかったであろう。
足の踏み場を変えるだけでその破壊力、そんな巨体が遂に動き出して……背中から巨大な、真っ黒の剣を取り出し、いきなり斬り掛かってくる……
「ひゃぁっ! 危ないわね、あんなの貰っていたらどうなっていたかわからないわよっ!」
「どうなっていたかって、そりゃ俺達が避けたお陰で斬撃を喰らったあの区画みたいになるんじゃねぇのか? ほら、建物がスッパリ斬れて開いて遊べるドールハウスみたいになってんぞ」
「あらあのお宅、邪悪な神を信じるカルト教団の祭壇が置いてありますね、後で報告しなくちゃ」
「というか呑気ねあんた達、こっちの攻撃は何十回、何百回とやってやっと効果を発揮するのに、逆に一撃でも喰らったらお終いとかいう意味不明な状況なのよ」
「だってもうどうしようもねぇじゃんか、頑張るしかないんだよ実際、ほら、次の攻撃がくるぞっ!」
「っと、なかなか鋭い一撃だったわね、このままだと王都が穴と地面の裂け目だらけになって使えなくなるし、何とかしなくちゃ」
「おう、頑張ってくれたまえ」
「あんたも攻撃に参加するのよっ!」
変形合体ロボを操り、再び物体のロボに接近する精霊様、腕は2本しか用意していなかったため、近接戦闘武器を操作することが出来るのは2人だけ。
魔界の神のひと言で股間の煙突を取り外してしまったのが悔やまれるな、いや、それについては俺も賛成であったのだが、もし半分でも残しておけば、そこから有効な攻撃を発射することも出来たかも知れないのに……
で、何度か攻撃を繰り返していくうちに、物体のロボは膝部分がかなりボロボロに、そして連撃に次ぐ連撃によって再生が間に合わないような感じになりつつある。
このままいけば本当に点灯させることが出来る、その際にどんな被害が出てどれだけの死傷者が生じるのかということについては考えないこととして、まずは倒してしまうべきだ。
精霊様も、そして魔法で攻撃を続けている仲間達もそう考えているようで、変形合体ロボ経由の強力な攻撃は、そこからしばらくの間物体のロボにヒットし続けたのであった……
「もうちょっと、もうちょっとで倒せますよっ! ご主人様頑張って!」
「ウォォォッ! どりゃぁぁぁっ!」
「でも静かに頑張って欲しいです……あっ、ちょっと動きが出て……何だか縮んでいきますよっ!」
「マジかっ! 精霊様、こりゃ膝を狙われ続けている意味に気付いたかもしれないぞっ、足が縮んで……すげぇ短足になりやがったな……」
「ダッサ! 短足ロボダッサ! ねぇ、あんなのチャチャッとやっつけちゃいなよ、絶対弱いでしょあのビジュアルなら」
「そうは言っても物体は物体だからな、ダメージを与えるにはそれなりの攻撃を仕掛けないとならないんだが……と、また新室長か」
『聞いてくれ、君達が今目の前にしている物体変形ロボの胴体下部の正面部分、そこに大きな空洞があるのが確認されている』
「というと、さっき球体だったときにあったコクピット的なのが、その部分に移動している可能性が高いということか?」
『そういうことなんだ、中で動いている物体らしき存在もそのまま確認されているからね、そうであると考えて差し支えない状況だよ』
「で、その場所はどこなんだ? デカすぎて正面とか言われてもな、見渡す限りが物体変形ロボの正面だぞ……」
『あぁ、今変形合体ロボの頭部に設置した魔導ナビでライトを当てる……そこだっ、その何だかモッコリした部分が奴の急所に違いない』
「……ってチ○コじゃねぇかぁぁぁっ!」
「この期に及んでそういう系でくるとは……でも情報として、人族はその部分を守り抜いている、そこが重要な部分であるというものを持っていたんでしょうねおそらく」
「いやな精霊様、それは人族、というか人間という生物の弱点であってだな、変形合体ロボであれば……まぁ俺達もその部分の徹底的な防御を考えたりもしたが……いや待てよ、となるとこの物体変形ロボ、ロボを模したものじゃなくて……」
「巨大な人族、もちろんフルアーマーのものだと誤解してこのような形になったと……もしかしてそういうことでしょうか?」
「かも知れない、いやそうだと考えてしまっても良さそうな気がするぞ、だってほら、ロボなのに遠距離攻撃武器がなくて、逆に忍者みたいに背中に剣を背負って……しかも最重要部分をチ○コにしているからな」
「最重要部分って、普通は頭じゃないのかしら?」
「それは物体の勘違いだろうよ、奴等、生物が頭で物事を考えているということを知らないんだ、むしろその重要な部分が全身の要であるって考えなのかもな」
突如浮上した『物体変形ロボはロボじゃなかった説』であるが、これはかなり説得力がある仮説であると俺は感じている。
魔導モニターの向こうで新室長も頷いているようだし、以降は特に仲間からの反論などもなかったし、ここから先は敵が『巨大なフルアーマーの人族』という認識を持ってしまっても構わないのではないか。
もちろん、実はそうではなく普通にロボのつもりであった可能性も消し去ることは出来ない、特に最初の可動範囲の確認など、これまで人族を模してきた物体がしなかった行動を取ったことなどがその理由として挙げられる。
だがそれを確認する術もなく、今はもう、こちらがそうであると信じた方向性で戦っていくしかないというのが原則だ。
それに、そもそも物体がヒトとロボ、どちらを模しているのかに関係なく、弱点は言われてみれば少しばかりモッコリしたあの部分であると、そう推定されているのだから、そこを攻撃するのがベストな選択肢であろう。
膝部分を集中狙いされていることに気付いた物体が、それをボディーから削除するような変化を遂げたことから、しばらく攻撃を続ければ隠されてしまうのは明らか。
それまでにどうにかその空洞部分まで貫通して、中にある司令官タイプの物体を消滅、或いは魔界に転送してしまうことが出来ればこちらの勝ちとなる、その可能性が見えてきただけでもかなりの進歩か……
「よしっ、ここからは敵のチ○コを徹底的に狙うぞ、ちょっとキモい攻撃になるとは思うが、斬るよりも突くような感じでいくんだ」
『そのための武器を今出すから、長物が得意な者が操作してくれたまえ、王女殿下、出番ですよ』
「……少し気乗りしませんが……それでも私がやるしかないでしょう、それと勇者様、左はそのまま任せますよ」
「あぁ、奴の大事な部分を一気に貫いてやろうぜっ!」
相当程度に短足となり、もはや軽くジャンプするだけでその部分に攻撃を仕掛けることが可能になってしまった物体。
マリエルが操作する右のメイン武器と、俺が操作する左のサブ武器については、先程と同様に魔法陣の下から出現し、そこに移動してゲットする。
かなり長く、そして時空を歪めるコーティングが分厚い、そして細い槍のようなもの、この長さであれば、場合によっては物体のその部分を貫き通してしまうことも出来るであろうといったところ。
まぁ、さすがにそこまではいけないとは思うが、中心にあるという空洞まで到達することは可能な設計になっているに違いない、新室長が自信をもってオススメしている武器なのだから。
両手にその長い槍を構えた変形合体ロボは、精霊様の操作で再び宙を舞い、物体の急所であり、人間の急所を模したらしいモッコリの部分に攻撃を加える。
同時に遠距離攻撃用の魔法も、ゼロ距離で一斉射撃する感じの運用をして、また残ったメンバーはその多かったり少なかったり様々の魔力を、全て変形合体ロボの機動に回す措置を取った。
そんな渾身の一撃、いや二撃も三撃もであるのだが、それは物体のモッコリ部分に直撃して……ガリッと表面を剥いだに過ぎない、膝に攻撃していたときと明らかに違う手応えだ……
「かなり硬化させる措置を取っているみたいね、最初に私達がグレート超合金を分厚く貼って……みたいなの、もしかしたら真似したのかしら?」
「かもな、あの時点でこっちの情報がダダ漏れだったとしたらそういうことだ、しかし参ったな、俺の方の武器は一撃でひしゃげてしまったぞ」
『大丈夫だ、その武器はもう捨ててしまって構わないよ、新しいものをそちらに出したから……あ、攻撃を避けつつ取りに行ってくれたまえ』
「揺れるわよっ!」
物体の反撃、それは右腕を用いて行われたのだが……なんともう1本の腕、つまり左腕がその前をガードするように差し出されるかたちとなったではないか。
これは偶然か、それとも意図的に急所をガードする姿勢なのか、どちらなのかはわからないが、まだ隙間がある以上、そこから抜けて行って攻撃を加えることが可能である。
すぐに新しい武器を手にし、走った変形合体ロボは物体の左腕部分を華麗に回避し、その懐、というか股間の目の前まで移動、もう一度同じ攻撃を加えた。
更にガリッと、その表面が削れて武器が破損する、そしてもちろん被ダメージ部分は他の場所の物体によって補填され、元通りのモッコリに戻ってしまう。
このままでは埒が明かない、貫通してしまうよりも先にこちらの魔力エネルギーがエンプティになってしまうはずだ。
もう少し有効な攻撃を考えなくては……だがそれが見つかるまでの間、この方法を続けていくしかなさそうだな……
「さて反撃がくるぞっ、精霊様、気を付けてくれ……いやこないのか? どうしたんだ物体め」
「……ガードしているわね、両腕……というか両手で覆うような感じでひたすらにあの部分を守るつもりみたいなの」
「フリーキックのときの壁役かよ……」
「でも勇者様、ああやって攻撃もしないで守るってことは、攻撃がそこそこ脅威だったってことじゃないですか? 効いているってことですよ」
「そうなのかな? とてもじゃないがこれで倒せるようには思えないんだが……どうなんだ実際?」
「いや主殿、先程から敵のサイズが少し、いやかなりダウンしているように思えないか? 相変わらず巨大ではあるが、この攻撃を始めてからダメージに対して質量が減る割合が大きくなったように感じるぞ」
「私にもそう見えますの、もしかしたらあの急所の部分、硬くしている分だけ物体の密度が濃くて、使用量がかなり多くなっているのかも知れませんわよ、他の部分と比べて」
「う~む、となると……ガンガン削っていくという作戦も可能ってことなのか、とはいえこの武器じゃな、どれだけ時間が必要かって話になってきて……新室長、もっとすげぇのはないのかこれ以外に?」
『残念ながら現状の研究成果ではその槍が精一杯だね、とにかく使用毎に交換したりして、継続ダメージを与えていくしかないと今は思うよ』
「そういうことか……まぁ、やるしかないな、セラ、ユリナ、一旦あのチ○コを覆い隠している手を攻撃するんだ、それで動いたところをまた飛び込んで、一撃加えたら反撃される前に離脱する、そんな感じかな、他の皆も頑張るぞっ」
『うぇ~いっ!』
そこからはもう、物体を削り尽くすことまでも目標に掲げて攻撃を繰り返す。
あの部分をガードしていた物体の手の部分も、別の個所に攻撃を受けて防御のために動いたため、間に入ることが出来た。
2本の真っ黒な槍でまたしてもガキンッと一撃、その攻撃を受けたことに気付いた物体は、別の場所にあった手の部分をかなりのスピードで戻さんとする。
それは防御であって、そしてあの部分を突き刺そうとしている小さな変形合体ロボを潰す攻撃のための動きでもあるに違いない。
だが物体の巨大さと比較してかなり小さい分、動きも素早い変形合体ロボは、その攻撃を受けることなくスルリと抜けて衝撃波等の被害が想定される範囲から離脱した。
で、勢い余った、そしてターゲットを失った物体の手の部分は……なんとそのまま振り下ろされ、人間で言うあの部分を自らハードヒットしたではないか……
「やったぞっ! 自分のチ○コをデストロイしやがった!」
「破壊されてはいないようですが、かなりダメージが入って……割れていますっ! 装甲が割れてちょっとだけ、一瞬だけ中の空洞が見えましたっ!」
「社会の窓がチラッと空いてしまった感じだな、俺は見えなかったがどうだった?」
「そうですね、丸い真っ黒な空洞の中で、真っ黒な人型の物体が何かしているのが見えたような気がします、ハッキリとではありませんが」
「やっぱりコクピットだったってことね、人型物体が操縦する巨大な人族の模造品、それがこの物体変形ロボだと思っていたものの正体よ」
「だがもう完全に塞がってしまったようだぞ、一度やらかした失敗は二度としないはずだし、ここからはそういうラッキーに期待せず地道に攻めていくしかなさそうだな」
『そんなことはないと思うよ、あの何やらどこかから送られて来た謎の兵器、アレの魔力充填が完了したみたいだからね』
「あっ、そういえばそんなモノがあって……精霊様、あの装備を取りに行こうっ!」
本格化した物体変形ロボ、ならぬ巨大人族型物体との戦いであるが、どうにかこうにか勝機が見えてきた。
あとは魔界の神から渡されたあの掃除機のような装備が、果たしてどれほどの効果を発揮してくれるのかに懸かっている……
1075話、投稿がいつもの時間に間に合っていませんが、8月27日中にはどうにかする予定です




