1068 装備拡充
「え~っと、ここをこうして最終安全装置を解除して……前進! っておっとっと、ちょっとバランスが悪いわね、どうしちゃったのかしら?」
「それは精霊様がヘタクソなだけだと……いや、何でもないぞ、主殿がそんなことを言いたそうな顔をしていたので代弁しておいただけだ」
「ちょっ、俺のせいにすんなって、精霊様がヘタクソなのは誰もがわかっていることであってだな、別に俺だけが……」
「ゴミ勇者、パージ!」
「あっ、ギョェェェェッ!」
「凄く遠くまで飛んで行きましたね、でもほぼ直上だからそのうちに帰ってくるでしょうけど……あ、落ちて来た……」
ジェシカのせいで変形合体ロボからパージされてしまった俺は、せっかくなので打ち上げられた上空、ほぼ宇宙空間に近いような場所から地上の様子を見てみる。
先程リリィが勝手に発射した魔導ミサイルの着弾場所か、王都が見えているののちょうど北側に煙のような土埃のような、とにかく攻撃を受けた痕跡が見えており、それは確実に魔王城の中の、ついこの間初めて確認した物体城のあった場所だ。
同時にその反対側、南の物体城があった場所はというと、既に何やら黒いモノが集まり始めているような、そんな感じがしなくもない。
おそらくは別の場所の物体が、南のそれが攻撃を受け、城を含む全ての物体につき消滅してしまったことを感知し、再建に走っているのであろう。
そして東西についてはまだ健在な様子で、東に関してはあまりよく見えなかったのだが、これはもう確認済みなので良い。
西の方には確実に、北や南と同様のそれがあることも確認出来たし、あとはどうやってソフトに着地するべきなのかということを考えるべきなのだが……まぁ、普通に降り立てば大丈夫であろう……
「……っと、ナイス着地だぜ、ジェシカめこのっ! おっぱいを捥ぎ取ってやるっ!」
「ひぃぃぃっ! ちょっと、本当に取れてしまうぞっ、ぐぎぎぎっ……」
「そんなことより勇者様、せっかく吹っ飛ばされたんだから、空からの様子をキッチリ見てきたのよね? どうだったのかしら?」
「あぁ、こんなチャンスまたとないからな、誰かのせいでこうなったんだが、オラァァァッ! 尻も捥ぎ取ってやるっ!」
「ひょえぇぇぇっ!」
「でだ、見た感じだとさっきの攻撃、ちゃんと北の物体城にピンポイント着弾していたみたいだぜ、被害の程度についてはちょっとわからなかったが、とにかく攻撃がキッチリ入っているらしいということだけは確認した」
「なるほど、それでそれで、破壊した南のアレはどうなっていたわけ? さすがにまだ気付かれていないわよね?」
「いや、もう既に再生が始めっているような感じだったぞ、元々多方面との連携は密なんだろうからな、あの後すぐに崩壊したことに気付いて、特に考えることもないから速攻で再建を始めたんだろうよ」
「物体の癖にフットワークが軽いわね、もっと『想定外のエラー発生』的なことになって、モタついてくれるんじゃないかと期待していたのに、というかそうなるはずだったのよ、あそこで私が滅多打ちにしてやったんだから」
「まぁ、こうやって俺達のように積極的に攻めて、変形合体ロボ以外で物体城を破壊することに成功した世界もあったんだろうよ、だから全く想定外じゃなくて、『まぁそういうこともある系エラーの発生』であると認識したに違いない」
「そんなもんなのかしらね……でも良いわ、この変形合体ロボを自由自在に操るこの私が、残りの物体も全部消し去ってあげるんだからっ、前進! 右! 左! 右! 左!」
「のわぁぁぁっ! もっと丁寧に動かせぇぇぇっ!」
一層やる気を出した精霊様の活躍によって、まるでバーテンの手に渡ってしまったかのようにシェイクされるコクピット機能付きプレハブ城。
中に居る俺達はたまったものではない、とりあえず吹っ飛んでしまったカレンをキャッチしてガードし、それ以外の仲間も無事であることを確認したうえで精霊様を引っ叩いて止める。
こんなにもヘタクソだと何が起こるかわからないな、王都を踏み荒らすことになりそうだし、そもそも現時点で作業現場から少しはみ出し、周囲への被害が出ているようだ。
今はほんの少し歩かせているだけだから良いとしても、これが実際の戦闘となったときにはどうなるか。
本当に予定している元々この変形合体ロボを構成する建物があった場所の敷地内に、上手く足を置くことが出来るのかどうか、非常に不安である。
そしてもちろん王都の外から攻め寄せる物体城に対し、あの魔導ミサイルのように間接的にではなく、直接的な攻撃も仕掛けなくてはならないのだ。
それを失敗した場合には大惨事どころの騒ぎではなく、むしろこちら側が率先して人族を敗北に導く事態となってしまいかねない。
精霊様にはもっと練習して頂いて、物体城が侵攻を始めるであろう10日後プラス数日後に向けて、どうにかこうにか仕上げておかなくてはならないのだが……ここでマリエルが何やら怪訝な顔をしている、頭でも打ったのであろうか……
「どうしたマリエル? 怪我をしたならルビアを使って良いぞ、早めに治療しておかないと痕になると困るからな」
「いえそうではなくて、勇者様、南の物体城はもう直しているというか、すぐに復旧に取り掛かっている感じであったということですよね?」
「そうだったな、確実にそうであるとまでは言えないが、少なくとも当該場所に物体が集結していたのは間違いない、俺がこの目で、必殺の大勇者様アイ(視力0.2)で確認したんだからな」
「となると……早すぎるような気がします、やっぱりあの時に情報を漏らした物体は、ちょっとサバを読んでいた、というかウソの情報を伝えていたんじゃないでしょうか……」
「何だマリエル、お前もアレか、異端論者なのか、お尻ペンペンの刑に処すからそこで前屈みになれ」
「あ、はい、申し訳ありませんでした……ひぎっ、痛いっ、ごめんなさいっ! もっとお願いしますっ!」
マリエルまでもがおかしなことを言い出してしまったのは、おそらく最初に魔王の奴が突拍子もないことを言ってしまったせいだ。
あそこで奴なんぞに意見をさせなければ、こんな異端な考え方が仲間内に広がってしまうようなこともなかったというのに。
今日帰ったら魔王の奴は縛り上げて、木に吊るしたうえで鞭で打ち据えてやろう、そして二度とおかしなことを言わないよう、そして正統な考え以外が浮かばないよう、徹底的に『再教育』してやるのだ。
そして先程余計なことを考えたセラも、また今お仕置きしている最中のマリエルも、その異端論に影響されてしまった被害者であるとはいえ、もう一度考えを改めさせるための教育プログラムを受けさせる必要がありそうだな。
ということで、再び浮上してきたその異端は抑え込み、そのまま精霊様の操縦練習を続ける。
相変わらずヘタクソではあるが、徐々にマシになってきたような気がしなくもないな。
その間、地上では研究所の連中が中心となって、雇っている作業員に何やら武器のようなものを製造させているようだが、これは変形合体ロボに搭載するためのものなのであろう。
そういえば魔界の神にも依頼して、奴が変形合体ロボに搭載しろと要求している物体回収装置についても受け渡しを経ておかなくてはならない。
どうせろくでもないモノが持ち込まれるのであろうが、ここでその見た目などを批判して搭載を拒否すれば、後々かなり面倒なこととなってしまうのは明らか。
ゆえに、どのような形状のものであっても、コンプライアンス的にアレな見た目のものでない以上、その補正を求めたり、完全に却下してしまうようなことはしない方が良いであろうな……
「左! 右! 左! 右! うんっ、なかなかスムーズに動くようになってきたわね、そろそろ攻撃を仕掛ける練習に……と、下の新室長から通信よ、オペレーターは席に着きなさい」
「オペレーターって誰ですか?」
「そうね、じゃあカレンちゃんがやって良いわよ、ほら、そこに座ってヘッドセットを……犬耳用のがなかったわね、仕方ない、じゃあリリィちゃんがやりなさい」
「はーいっ!」
「おいおい、もっと賢い奴がやるもんじゃないのかそういう役回りは……」
「ちなみに犬耳じゃなくてオオカミミです……」
オペレーターを勝手に決定してしまった精霊様、意気揚々と、いつの間にか用意されていたモニター付きの席に座ったリリィが、これまた勝手にその辺の装置を弄りまくり、地上の新室長と通信を始めようと試みる。
最初に画面に映ったのは王宮にある金の便所でウ○コをしているだけの駄王、魔力の周波数を間違えてとんでもないモノを映してしまったようだ。
次に見えたのは筋トレをしているだけのゴンザレス、夏なので、腕立て伏せを1回するごとに3ℓの汗が出てしまうらしい、本当に不気味な男だな。
そして3度目の正直にして、ようやく地上で手を振る新室長の姿が画面に……だが音声はウ○コをしている駄王のものであった、臭いまで伝わってきそうな不快な音であった。
仕方ないので一旦コクピットごと射出し、そのまま地上へ降りて直接新室長と話をすることに。
魔導通信装置についてはもう少しブラッシュアップした方が良い、戦闘中にウ○コしている馬鹿が映ってしまえばもうそれだけで敗北したようなものだ。
で、新室長の方は何の用事であったのかというところだが……どうやら最初に搭載すべき戦闘用装備が完成したらしいな、とにかく話を聞いてみよう……
「お~い、せっかく魔導通信を送ったのに、わざわざ降りて来たのかい?」
「いやな、そこそこやべぇもんが映り込んでしまってな、まぁ心霊現象みたいなアレだと思っておけば良い」
「そうか、少し魔導通信装置の方を調整しないといけないね、変な霊が紛れ込んでしまっているのであれば、シャーマンとかを呼んでお祓いをして利するのも有効かも知れないよ」
「うむ、シャーマンは要らんから馬鹿を撲殺するための棍棒を用意してくれ、そっちはそれで解決するはずだ……で、その後ろのが色々……近接戦闘用の兵器もあうのか……」
「そうなんだ、まずはコレ、普通に攻撃魔法を込めれば、それを毎秒5,000発発射される小さな魔法に分割したうえに、発射時に時空を歪めるコーティングを施してくれるスグレモノなんだよ」
「ほうほう、ちなみにどれだけ使ってもそのコーティングはなくならないのか?」
「そんな摩訶不思議なことはないね、ここにカートリッジが付いていて、そこからコーティング剤が供給されるんだが……このカートリッジ、ちゃんと研究所純正の品を使って貰わないと困るからね、もし他メーカーのバッタもんを使った場合には、故障の際の修理などが無料サポート対象外になるから注意してくれたまえ」
「性質の悪いインクジェットプリンターみたいな……いや何でもない、そもそも時空を歪めるコーティング剤なんぞ、研究所以外のどこも作れやしないだろうに……」
「それがね、最近は民間でコレを真似して、すぐダメになってしまうゆえ常に需要があるコーティング武器をどうにかコピー出来ないかと、そんな危険な実験がそこかしこで行われているんだよ」
「やべぇ奴等だな、そんなもん爆発して死ぬのがオチだぞ」
時空を歪めるコーティングのヤバい裏事情に触れつつ、とにかくそのマシンガンのような装置を、複数個の予備カートリッジと共に搭載する作業に移る。
攻撃魔法と言ったが、セラかユリナの魔力を流し込んで使えば良いのか、精霊様の水の力を流し込んだり、ルビアの回復魔法を使った場合にはどうなるのか。
などと色々なことを考えても見たのだが、故障の原因になってしまうのは確実であって、それが実際の戦闘中に生じてしまったら危険であるため、規定通りの使い方以外については一切しないこととした。
もっとも、負けが込んできて極端に追い詰められたような、もう変形合体ロボを放棄して全員脱出しなくてはならないような状況となった場合には別であるが。
そうなってしまえばもう、どこかの機関の故障などを気にしている暇ではないゆえ、もしこのマシンガンのような装置が活きていさえすれば、一発逆転を狙ってムチャクチャをしてみるのもアリといえばアリということだ……
「それで、そっちの剣みたいなのは何なんだ? 近接戦闘用の武器だということはわかるが、詳細を知らないまま使うのは危険だから教えて欲しい」
「これかい? これはサブの武器でね、物体と接近しすぎたときにメイン装備から切り替えて、こう、ザクッと突き刺す感じの普通の武器だよ」
「……見たところ普通の金属のようですね、高級そうな素材ではありますが……時空を歪めるコーティングはどうしたんですか?」
「変形合体ロボがその柄の部分を握るとだね、この刃の隙間の部分からジワジワ滲み出して来てコーティンGぬが施される、一発喰らわせたらもう一度出てくるから、それで数回は攻撃することが出来るね……もっとも、一度使用し終わったら危ないから収納しないで、どこかに投げ捨てる必要があるけどね」
「なるほど、民家に直撃して凄い被害が出る未来しか見えませんね」
「そこはご愛敬というやつだよ、投げ捨てる方向を考えて、国や研究所のスポンサーになっている金持ちの邸宅に当たらないようにしてくれ、私が謝罪しに行くのは面倒だし、叱られると耳にタコが出来かねないからね」
「そうですか、じゃあちょっとだけ気を付けますね……金持ちはムカつきますが……」
どう考えてもその金持ちの邸宅を狙って使用済み武器を投げ捨てようと考えているミラだが、面白そうなので射程の短いこの短剣のようなもの……もちろん見かけ上は長いが、変形合体ロボにとっては短剣だ、とにかくこれはミラに任せることとしよう。
その他、メインで使う直接武器や投げ付けて攻撃するための砲丸のようなもの、それから時空を歪めるコーティングは表面の最小限に範囲に絞りどちらかといえば質量で攻撃するような武器なども搭載して、これで一応の戦闘準備は整ったかたちだ。
あとはその操作が上手くいくのかということと、魔界の神から提供される物体の回収装置を装備する隙間があるのかということなのだが、そちらの方が優先といえば優先であるから、先にどのような形になるのかだけ確認しておきたいところ。
ということでその後は武器を搭載した状態での訓練や、それぞれの武器自体の操作方法などを把握したりと、一般的な練習をしただけでその日は終了とした。
帰ったら魔界の神を呼び出して、早く必要なものをこの世界に顕現させるように促そう……まぁ、ワンチャンそのことについて忘れていて、もう別に良いやとなればそれに越したことはないのだが……
※※※
「……ということはあの変形合体ロボが動いたというのか、あそこまでしてダメであったというのに、一体何が問題だったんだって話なんだ?」
「普通に『最終安全装置の解除』とかをしていなかっただけだ、一般的な変形合体ロボの起動に関する行為のひとつだが、もう一般的すぎてマニュアルになかったのが原因ってとこだな」
「そうかそうか、じゃあ責任者を処刑してしまおう、そいつは……あの臭っせぇのか、触りたくないからパスだ」
「あぁ、ブラウン師については後でブチ殺しておく……が、考えてみればもし今後何かあった際の責任も押し付けたい、しばらく生かしておくことにするよ」
「そうかそうか、で、今回我を呼び出したのは何用だ? くだらねぇ話だったらお前も殺すぞ」
「……いや、もう変形合体ロボは完成したんだからさ、そっちが求めていたほら……馬鹿でアホでクソだから覚えてないとかか?」
「……あっ、物体を回収するための装置を提供するのを忘れていたではないか、なぜもっと早く言わなかったのだ、マジで殺すぞ」
「明らかにそっちが失念していたことに原因があるのに殺されたら浮かばれねぇよ……てかマジで忘れていたのか、言わなきゃ良かったな……」
「神様、そういうことですので装置の方を送って欲しいですの、場所は……変形合体ロボが置いてある敷地の中が良いですわよ、お願い出来ますの?」
「あぁ任せておけ、我の渾身の作であるカッコイイビジュアルのものをだな、今ちょっと頭の中で構築して……クソッ、3Dだと難しいな……しかし何とか……」
「何やってんだコイツは?」
勝手にブツブツと独り言を始めた魔界の神、キモいので頭を引っ叩いてやりたいのだが、おっさんの頭の脂が手に付くと気持ち悪いのでやめておいた。
で、そんな様子をしばらく見守っていると、どうやら何かが完了したようで、非常に不快な『満足を得た顔』を見せ付けてくる。
サッサとお帰り頂きたいので結果だけ聞いたのだが、どうやら物体回収装置につき、完成したものを作業現場に送っておいたとのことである。
今頃突如としてその場に出現した謎の装置に、その場を見張っていた兵士がビックリ仰天……はしていないであろうな、もうこの世界において俺達と関与するということはそういうことなのだ。
少しぐらい不思議なことが起こったり、あり得ない現象が目撃されたような話を聞いたりということぐらいでは、特に誰も気にせず自分の仕事を続けることであろう。
「うむ、では我は帰還するゆえ、明日の朝その完成品を見て驚くが良い、神のセンスとはここまでのものであったのかと、こんなもの、地上で慎ましく暮らすゴミのような存在である自分には出来ないとな、フハハハハハッ!」
「はいはいじゃあな、もう当分来なくて良いから……帰ったか」
自信満々の台詞を残して魔界に帰還した神、どうせ逆の意味で驚愕するような装置が届いているのであろうが、それについては本当に明日の朝、現地で確認して文句を垂れることとしよう、そして使い方がわからないためまた奴を呼ぶことになりそうだな……




