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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1067 失われた手順

「……てなことがあったんだよ、やべぇだろ物体アレもう、本気で人間目指して頑張ってますって感じだったんだぜ……ところでお前、いつ魔界から戻されていたんだ?」


「今朝早くに蹴飛ばされて落とされて、気が付いたらこの部屋で寝かされていたわ、エリナが見つけて回収してくれたみたいなのよ」


「そうかそうか、だからって茶なんぞ飲んでくつろいでんじゃねぇよ、こっちはお前がやらかしたことの後始末のために奔走してんだぞ」


「後始末って、あそこで物体をアンコントロールな状態にしたのはあんた達でしょ、それを弁えなさい」


「んだとゴラァァァッ! 表出ろボケェェェッ!」


「はいはいそこ喧嘩しないの、それで勇者様、王宮の話し合いには行かなくて良いの? もう始まっている時間だと思うけど」


「フンッ、どうせ奴等、俗物共の考えるようなことだ、俺達は俺達で、ここでもっと程度の高い会議をしようぜ、あの葉っぱ1枚物体野朗のことだけじゃなくて、変形合体ロボがどうして動かないのかについてもだ」



 南の物体城撃滅作戦を成功させた後、ひとまずということで屋敷へと戻って来た俺達勇者パーティー。

 魔界に連れ去られた魔王が戻されていて、他人様の屋敷で勝手に茶を啜っていたのだが、そのことは今そんなに大きな問題ではない。


 王都の南で対峙した、あの勘違いして葉っぱ1枚の超原始人スタイル、どころかそんな格好の奴が人類史上本当に存在したのかさえ疑問な服装を取った哀れな物体から仕入れた情報。


 奴等は既に俺達が変形合体ロボについての情報を仕入れ、そしてどういうわけかその起動に失敗し続けているということも認識していた。


 もちろんあの作業現場は南の物体城(壊滅)から程近く、南の物体群だけがそのことを知っていた、まだ情報が共有される前であったという可能性がないとは言い切れないのだが、まぁないと考えておいて差し支えないであろう。


 ということでこちらの情報は最初からダダ漏れであったということだが、これは仕方ないこと。

 なにせ物体共が当たり前のように城壁を越えて、フルカラーの人族モドキとなってこの王都に紛れ込んでいるのだから。


 しかし今回の作戦において、副次的にそんな物体共からの情報を引き出すことも出来たのである。

 そして王都の四方を囲む物体城のひとつが崩壊し、物体側で予測していた『およそ10日後』よりも、本格的な侵攻が始まるのは遅くなるであろうということがわかったのだ。



「……そうなのね、で、それって物体の詐術じゃないわけ?」


「……そこまでは考えていなかったが、まぁ物体だし、嘘をつくとは思えんな、なぁ精霊様?」


「うん、そこは大丈夫だと思うわよ、あの感じじゃまだ相手を騙してどうのこうのってのはちょっと無理何じゃないかと思う、たとえセラちゃんが言うように、作戦会議みたいなことをするぐらいの能力があったとしてもよ」


「だそうだ、思い知ったか魔王め、貴様の予想など当たり前のようにハズレとなるのだ、よって俺様の方が上だ、平伏すが良い、フハハハハッ!」


「こんなことで粋がられても困ってしまうわね……」



 精霊様以外も、賢いメンバー達としてはおそらく物体が嘘を付いているということはないであろう徒の予想。

 というか、ここに居る以外にもあの場には頭の良いキャラが何人も居たはずだ、その誰もが、物体が詐術を使っているということを指摘していないではないか。


 よって魔王が、現場さえ見ていない大馬鹿者がそんな予想を立てたとしても、一蹴されたうえにリアルケツを蹴っ飛ばされて罰せられる程度のことだ。


 まったりと座っていた魔王の背後に回り、キツめにケツを蹴飛ばしてやると、かなり油断していたせいかは知らないが、飛んで行って壁に突き刺さってしまった、後で修理代を請求しよう。



「さてと、じゃあその10日後プラス数日ぐらいか? それまでの間に何をしてどう対処すべきか、また無理そうだから切上げてトンズラする判断はどのタイミングで……どうしたセラ? お前もしかして『物体嘘付き派』なのか?」


「う~ん、私はその何というか物体の変な行動も見ちゃったわけだし、魔王の言うこともちょっとだけ……」


「そういう異端者はケツを蹴飛ばされるんだぞ、わかってんのか?」


「わかったわ、1発じゃなくて100発ぐらい蹴飛ばしてちょうだい」


「……勇者連続キィィィック!」


「あばばばばっ! きっくぅぅぅっ! キックだけに……」



 つまらないダジャレを言い残して気絶してしまったセラ、吹っ飛んで壁に刺さらなかったのだけは評価してやろう。

 そしてこれで異端者は処分し尽くしたわけで、以降、余計な考えを持つ奴がどうなるのかは、前の2人を参考にすべしと全員に伝えておく。


 ということで、ここからは物体が『搭乗者がどうこう』によって変形合体ロボの起動に失敗したようなことを言っていたという情報をベースに、それがどういうことなのかを考える。


 もちろんその際の『どうこう』である精霊様、調子に乗って真っ先にメイン操縦席をキープし、結果として最後まで動かせなかった精霊様には配慮して、話の内容はオブラートに包んで進めていく所存だ。


 とはいってもそれは難しいので、結局のところ精霊様にはあのときどのような感じで操作をしたのか、その際にどのような感じがしたのか(魔力の流れ的に)などを聞いていかざるを得ない……



「だから、最後のはギリギリだったのよ、もう全部直っていて動くはずなのに、最後の最後でストップみたいな、そんな感じだったわ」


「あぁ、『合体後の建物の表題部の登記及び合体前の建物の表題部の登記の抹消並びに所有権の保存の登記』をした直後のことだな、最後に精霊様があの操縦席に座ったのは」


「ジェシカちゃん、あんたどうしてその長いのを覚えているわけ……とにかくそんな感じで、もうホントは動くはずだったのよ私の力で、それがダメだったのはもう私のせいじゃないから、そこんとこわかっておきなさい、良いわね?」


『へ~い』


「それで、その解決策の方は……あの場に残って色々と試していた皆はどうだった? 何か新しい発見とかあったか?」


「いいえ、そもそもあのコクピット、防犯機能が凄かったんですのよ、ひとまずあの場所から取り外して無関係のおっさん兵士を座らせてみたら、その場で保護プログラムが作動してミンチにされましたの」


「やべぇなそれ、てかそれさ、もう精霊様以外が座ったら同じことになるんじゃないのか? 登録されていたりとか何とかで」


「可能性はありますわね、新たに権限を設定することが可能かどうかはわかりませんが、もしかすると本当にもう精霊様以外はNGで、メインパイロットの交代は出来ないような専属機になっているということも十分にあり得ますわ」


「……となるとだな、もし精霊様の何らかの波長が変形合体ロボと根本的に合わないとかそういうことになったら……もしかして最初から組み直しとかになるのか?」


「そうですね、もう一度バラバラにして、変形合体が出来ないような状態に戻してから、さらにもう一度工事を施して変形合体ロボにする感じだと思いますよ、もっとも、あの形がもう一度再現出来るかどうかはわかりませんけど」


「それに主殿、そうなったらまたそこかしこに不具合が出て、あの邪悪で使えない魔界の神の厄介になることが確定するぞ」


「だな、あの馬鹿野郎にこれ以上付け入る隙を与えないためにも、組み直しとかそういうことだけは避けたいところだな」


「ちなみに、どうなったとしても私はメインを降りるつもりはないわよ、もし私が降りなくちゃならないなら、そんな世界は滅びた方が良いと思うのよ」


「すげぇ自分勝手な精霊だな……まぁ、それはそれでしょうがないか、じゃあ引き続き精霊様がメインということでいこうか……」



 当初は俺がメインパイロットとして活躍したかったところであるが、そのポジションは『原因不明で起動しない』というだけで無能扱いされる、そんなリスクを孕んだポジションでもあったのだ。


 それゆえ、もうその場所は精霊様に固定してしまうこととして、俺は特に責任を負わない副官的ポジションとして、しかし影の支配者のような感じを出して君臨しよう。


 精霊様は今回貧乏くじを引いてしまったな、しかもそのくじの貧乏性に気付かず、未だにメインパイロットの座席を死守しようとしている姿は滑稽だ。


 で、そんな精霊様が、その座席には座っていなかった仲間に対し、具体的な起動方法などを説明し始めたらしい……



「まずは座って、足元のペダルをこう、こんな感じでグッと押すのよ」


「精霊様、ちょっとわかりにくいからこの椅子を使え、足元のペダルは……」


「そこに転がっているお姉ちゃんを使いましょう、ほら、どうぞ精霊様」


「ミラお前鬼畜の所業か、足元のペダルってそんな……まぁ良いや、続けてくれ」


「ここをこういう感じでグーっと押し込むのよ、わかる?」


「ぐぇぇぇっ……」



 転がっていたセラを足元のペダルに見立て、それをグイグイと踏み付ける精霊様は少し楽しそうだ。

 見ている方としてもなかなかざまぁな展開だし、これでますます異端な考えを持つ者は居なくなるであろう。


 で、そんな感じでひと通りの操作方法を確認し、それが最初に受け取ったパンフレットに書かれているものと相違ないことも確認し、どこにも問題はないと判断する根拠となった。


 では操作以外にどこがよろしくなかったのか、やはり精霊様がメインパイロットであること自体に問題があるのか、その辺りを中心に話を進めていく。


 しかしやはりそんな隠された問題が、話し合い程度のことで浮かび上がってくるようなものでないことは明らか。

 ここはもう一度現地へ赴いて、そこで改めて手順を確認した後に、どうすれば良いのかを考えていくこととしよう……



 ※※※



「おっす、こっちに来ているとは思わなかたぜ、王宮での不毛極まりない会議は終わったのか?」


「うむ、そちらは収拾が付かなくなっての、現地に居なかった役人のトップ共やその他の権力者を集めたんじゃが、王都崩壊後の利権を取り合うような、もう何の対策にもならないゴミ会議となってしまったのじゃ」


「だろうな、で、しょうがねぇからこっちへ来たと……駄王も一緒に居るのか、お前、ちょっとその操縦席に座ってみろ」


「おぉ勇者よ、それは完全に拒否されてミンチになるやつではないか」


「だからミンチになれって話なんだよ、イヤならどっか行け」


「・・・・・・・・・・」



 ひとまずのストレス発散として駄王をゴミ扱いし、少し気が晴れたところで変形合体ロボのコクピットたるプレハブ城へと入る。


 中央の座席は俺が持って来たゲーミングチェア的なもので、それに様々な装置が、もちろんセラではなくホンモノの足元ペダルもセットされて、完全な操縦席の様相を呈しているのだが……この見てくれで動かないとは一体どういうつもりなのだ。


 もはや変形合体ロボナシにしても、このビジュアルだけで何か巨大なものを動かすことが出来そうなぐらいの完全なコクピット。


 それが沈黙し、さらに精霊様以外の者を完全に拒絶して、新たな適合者を発見するようなことさえしないとは……いや、本当に『完全なる拒絶』なのか?


 もしかするとこの操縦席にはかなり厳格な『適合判定』があり、その水準に達していないと判断された者、または操縦に耐え得る力をもっていない者などは、その力に耐え切ることが出来ずにミンチとなる、そんな感じなのではなかろうか。


 となると誰かが試しに座ってみて、実際に操縦をしてみるのが最も良いように思えるのだが……その覚悟があって、しかも操縦に耐える能力を持った者が居るのかどうかといったところだ……



「とりあえずさ、もう一度変形合体ロボにコレをセットしてみようぜ、発射ボタンはえっと……」


「ここですよっ、ということで発射!」


「おいリリィ! 何の前触れもなくいきなり発射はっ、ギャァァァッ!」



 コクピット内に立った状態でいきなり発射され、宙に舞った俺達、そのままシャッフルされながら飛んで行き、変形合体ロボの内部に収納される。


 ここまでは本当に問題がない、そして変形合体ロボもこのコクピット搭載モーションによって何か不具合が生じているようには思えない。


 この先に問題があることは確かなのだ、それを見つけなくてはならないのだが、批判されたことによって植え付けられたトラウマなのか、精霊様はなかなか座席に向かおうとはしない様子。


 そんな精霊様に対し、早くしろと促そうとしたところで、先程勝手にコクピットを発射したリリィが……当たり前のようにそこへ向かったではないか……



「とぉっ、やぁっ! 搭乗完了! 変形合体ロボの操縦を開始しますっ!」


「ちょまっ、リリィ、お前平気なのか? ミンチにされるんだぞ普通の人間は」


「う~ん、何かちょっとピリピリするけど大丈夫です」


「座席の拒絶反応に打ち勝っているってことね……ちょっとリリィちゃん、私の代わりにやってみてよ、もしかしたらそれで、どこかの手順でダメになっているところがあることがわかるかも知れないわ」


「わかりました、じゃあこのまま、えっと、何からすれば良いんでしたっけ? 確か足元のペダルを……何か違うくないですかこれ?」


「……どういうことなの?」


「だってこれ、変形合体ロボを動かすにしては簡単すぎないですか? もっとこう……あ、わかった、他にもボタンがこんなにあるんですよ、これを……これかな?」


「いやリリィ、説明だとわからんからちょっとやってみてくれ」


「わかりました、じゃあえっと……起動シーケンス開始!」


「何その手順?」


「起動シーケンス開始確認、前後左右安全確認!」


「何その手順?」


「安全確認完了、最終安全装置解除!」


「・・・・・・・・・・」


「変形合体ロボ、起動します! ここで初めてペダルを踏み込んで……動いたっ!」


『・・・・・・・・・・』



 ズッという地響きと共に、変形合体ロボはその巨大な右足を一歩前に出したのであった。

 つまり動いたのである、これまでウンともスンとも言わなかった沈黙の兵器が、その起動を完了した瞬間である。


 ……つまりパンフレットにはなかった手順、その巨大ロボを動かすうえで重要であり、基本的すぎて説明の必要もないとしてカットされていた事項こそが、これを動かすカギとなっていたのだ。


 確かに『変形合体ロボ慣れ』している精霊様であれば、もうそのまま動かすことが可能だと判断してしまってもおかしくはない。


 だが子どもであり夢のある、そして様々なボタンを見るとひと通りポチッとしてみたくなる性格のリリィの頭には、それ以外の手順がまるで透けて見えるかのようなかたちで浮かび上がって来たのである……



「……おいっ、起動したぞマジで、リリィ、その手順をもう一度確認してくれ」


「その必要はないわ、起動シーケンスの開始と安全確認、最終安全装置の解除でしょ……さすがに気が回らなかったわねそこまでは……」


「てかパンフレットに書いておけよなそのぐらい……やっぱりブラウン師を残虐な方法で殺すしかないな……」



 一瞬間があった後、全てを理解した俺達は冷静な状態へと還帰し、コクピットの窓から外の様子を眺める。


 勝手に盛り上がる地上の連中、こんなことのためにどうしてここまで苦労したのか、その理由を問題点として意識した方が良いのではないかと、俺はその場で思った。


 そしてそんな状況下でまた別のことを考えていたのは、今回の起動成功に係る唯一無二の、この作戦全体においても最大最高の活躍を見せたリリィである。


 メイン操縦席に座ったままのリリィは、右足を動かすことに成功しただけでは飽き足らず、また別の部分を動かしてみようと考えたのだ……



「え~っと……あった、右腕角度を水平から45度にして……方位北、目標、魔王城内物体拠点……時空を歪めるコーティング仕様ミサイル発射!」


「え? ちょっとリリィちゃん何やって……あ、ミサイルが飛んで行きましたの……」


「やべぇな、ぜってぇ怒られるやつだぞこれ……でも王都内に落ちなかったからセーフだろ」


「しかも何か魔王城の方に飛んで行って着弾しました、もしかしたら誘導が効いていて……みたいなことってあり得ますかね?」


「わからんが、とにかくもう自由自在だぞこの変形合体ロボは、起動は成功だし、攻撃するための機能もバッチリみたいな、そんな感じだと考えて良いよな?」



 リリィが勝手に発射したことにより、王都の上空を突き抜けて行った時空を歪めるコーティングの施された魔導ミサイル。


 それは北の、魔王城内に建造された物体城へと向かい、そして正確に着弾したらしいのだが、地上の連中はやはり唖然としている感じだ。


 そしてミサイルは1発しかない究極の最終兵器であった可能性が極めて高いということは、あの新室長が下で頭を抱えてしゃがみ込んでいることからも容易に想像することが出来る。


 まぁ、ミサイルは造り直せば良いし、その他の機能、つまりあの魔界の神と約束したような、物体を回収する機能の搭載もしなくてはならないのだから、ここで色々と状態が変化してしまったことについては特に問題などない……はずだ。


 とにかく前に出した右足を元の位置へと戻し、コクピットを排出して地上に戻った俺達。

 これで変形合体ロボはそのベースとなる部分が完成し、完全な状態までもう一歩であるということが、誰の目からも明らかな状態で確認されたわけだ。


 あとはもうオプションパーツの組み込みと、それから操作の練習等を繰り返し、物体の襲来時にその実力を十二分に発揮して戦うことが出来るように努めるだけ。


 また、南の物体城の崩壊によって、むしろこちらから攻めてはどうかという考えも浮かんできた。

 それをどうするかについては考えなくてはならないが、とにかく準備の方を急ぐこととしよう……

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