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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1066 コンタクト

「戦闘が苦手な雑魚は後ろへ下がりなさいっ! デキる強者はもっと前へっ! あっ、そこっ、あんた自分は強いと思っているみたいだけど雑魚だから下がりなさい、迷惑なのよあんたみたいなのは」


「え? 自分ですか……自分、部隊の中では最強と名高く、どんな敵に対しても怯まない姿勢が評価されておりまして、こういう場面においても確実に前に出ることをモットーとして……」


「死ぬわよ、あんたは雑魚なの、そもそも後ろの予備作戦部隊としてしか呼ばれていなかったのがその証拠よ、もし下がらないのなら邪魔になるから、この場で私が殺すけど、どうかしら?」


「へ、へい……チッ、どうしてそんな見た目だけで、おかしいだろ普通に……」


「口答えしたわね、死になさいっ!」


「ギョェェェェッ!」


「こら精霊様、最初に味方を殺すんじゃねぇよ」


「だってウザかったんだもん、仕方ないわよね」


「・・・・・・・・・・」



 真っ黒な人型物体の一団と対峙している状況において、わざわざこちら側の士気が下がるようなことをするのはどうかと……いや、逆に良い感じとなったようだな。


 その場で精霊様に下がれと言われなかった、落ち物体狩りのメインとして呼ばれていたような連中においては、その実力を認められたものと勝手に思い込み、やる気を出しているような状況である。


 だがその手にしている武器は物体に対応したもの、即ち時空を歪めるコーティングが施されたようなものではなく、至って通常の、参加者の多くが占めている兵士に支給されている剣や槍なのだ。


 そんなモノを振り回したところで、今俺達が取り囲んでいる物体にダメージを与えることはおろか、普通に吸収されて敵の有利を作出してしまうようなもの。


 精霊様はそれでもその連中を下げないということは……物体に対して何か錯覚させるような、強敵が自分達を取り囲んでいると誤認させるような、そんな状況に期待しているのであろう。


 だが敵の魔力や素早さなどから機械的に判断するのが常であろう物体に対して、果たしてそのような作戦がどこまで通用するのかという点については甚だ疑問だ。


 もっとも、結局は『栄養価がそこまで高くない』と判断されるような雑魚であるため、この場において率先して狙われるとは思えないが……



「……で、こいつ等何となく普通の人型物体とは違うよな? 棒っていうか剣っていうか、とにかく武器のようなものをちゃんと構えて持っているし、こちらの僅かな動きにも反応するからな、まるで人間の戦士か何かだぞ」


「そうなのよ、今見てわかったことだけど、もうこいつ等単なる物体じゃないの、変化しているというよりも進化しているわね、このまま王都を侵略して、人族の地位を完全に、コピーするようなかたちで奪うつもりなのかも知れないわ」


「なるほど、もうすっかり人族に成り代わろうって魂胆なのか……おい物体共! 言葉はわかるのかお前等?」


「……この姿……喋ること……難しい……形を変える」

「変える、人族という生物の姿に変える……すぐに変える」


「ウネウネ動き出しました、色も付いてきていますよ」


「あぁ、フルカラー人型物体になって、ちゃんと口がある形状を取るつもりだろうよ、ほら、だんだん形がそうなってきて……って何で葉っぱ1枚の超原始人スタイルなんだよっ?」


「なかなかに気持ちが悪いわね、武器の部分も何か知らないけど原始的な棍棒みたいに変わってきたし、何を参考にしたらこういう『人間』になるのかしら?」


「わからんが、とにかく意志を持って動いているようにしか思えないぞこれは、少なくとも俺の問い掛けに定型文ではなく普通に反応したこと、それからどのようになればこちらと対話することが出来るのか、明らかにわかっていること、その辺りでそう判断して良いはずだろ?」


「そうなのかも知れないですわね、でもまずは様子を見るべきだと思いますの、コレ、どうやらすぐに攻撃してくるわけじゃなくて、少しこちらと話をしようという感じですの」


「そこまで考えることが出来るようになったということだな、わかった、ちょっと様子を見つつ、引き続き話し掛けてみようか……おい物体! お前等一体何のつもりなんだ? というかその格好は何だ?」


「……しばし……待て」



 どうやらすぐには言語機能を獲得することが出来ない様子の物体、もはや姿だけは完全フルカラーの人型であって、生物のオーラを感じないこと以外はどこからどう見ても人間だというのにだ。


 おそらくはこれまでのように定型文を並べたり、一般的な受け答えをすることが出来たりといった次元ではなく、非常に高度で知的な会話をするために、準備段階で少し時間を要しているのであろう。


 もちろん人間としての意識を持っているわけではなく、物体という存在として、まるでAIのように物事を考える、というよりも保有している知識の中から言葉を選ぶのだ。


 またこちらが発した言葉からも、何らかのかたちでその知識をもって検討することによって、更なる受け答えをするということに違いないのだが、その物体なりのやり方を、生物として意識を持っている俺が理解することはおそらく出来ない。


 で、しばらくそのまま、全員で武器を構えたまま待機していると、人型物体の喉の部分がコキコキと不快な音を立て、同時に大きく呼吸するような動きも見せる。


 人族、というよりも人間の言語機能をそのまま真似たようだが、果たしてこの物体はどんな風に会話をするのであろうか……



「……あ、あっあ~っ……テステス……先程そちらが発した『質問事項その1』について返答をする」


「いやテステスのノリで普通に話せやっ!」


「テステスのノリで普通に話す機能は有していない……我々、この世界の人族という生物が『物体』と呼ぶ存在であるが、これはこの世界を我々のものとし、いずれはこれを魔界に取り込まんとする也」


「魔界に……つまりそれが物体の行動規範……というか基本的にそれを目的とするようにプログラムされている目的なのかしら?」


「質問事項を『その3:我々、物体と呼ばれるものの目的等』として受け付けた、『その2:この格好は何なのか?』の返答に移る」


「いや話の流れをどうにか掴めや、どう考えても『その3』の方が重要な事項だろうに、それがわからんのか?」


「質問事項を『その4:物体は話の流れを掴むことが出来ないのか?』および『その5:それがわからんのか?』として受け付けた、引き続き『その2』の返答を行う」


「主殿、おそらくもう余計なことは言わない方が良い、話が複雑になるだけだぞ」


「そのようだな……てかやっぱりうまともに思考して、人間らしく生きることなんかは出来ていなさそうな感じだな……」



 知識としてはかなりの量を蓄え、それを『使用』して人間との高度な会話をすることが可能になったらしい物体であるが、どうやらそれが限界であるらしい。


 つまり知識を『活用』することは出来ておらず、本当にしょうもないAIのような、単に学習するだけのメモリになっているような感じだというのが現在の物体に対する感想である。


 これであればこの世界で創られた存在、例えばΩシリーズのような連中や、その他魔法生物の方がよほど高度な気がしなくもないのだが、その辺りはどうなのであろうか。


 もちろん敵としての強さや世界に及ぼす危険の大きさに関しては、それらよりも物体の方が遥かに上を行っているのだが、生物としてはまだ半人前、どころか足元にも及ばないといったところであろう。


 だがこの物体の凄いところは、誰か、例えば頭の良い魔族やそれこそ神などによってその知識や能力を与えられたわけではなく、何もない状態から、つまり全くの無の状態からそれを獲得したという点にある。


 この短期間でこれでは、もし今後人族が敗北し、魔王軍の崩壊によってまとまりがなくなった魔族が、ドラゴンが、その他の『ヒトよりも高度な生物』が、そして精霊が敗北する頃にはどうなっているであろうか。


 きっと人族など遥かに凌駕する思考能力とコミュニケーション能力を兼ね備えた、非生物にして最強生物のような、わけのわからない存在が確立されている違いない。


 そんな危険性を孕んだ、しかしまだ道半ばであるその葉っぱ1枚の原始人型物体が、これから俺達の質問に順に答えてくれるというのだから聞いておくこととしよう……



「……我々、物体と呼ばれるものが、人族として現在最も進んでいるとしているのはこの姿である。その理由として、この姿はこことは別の世界で、どこの世界と比較してもより高度な文明を持ったこの世界の人族に類似する生物の、我々とは無関係に核戦争という現象によってその文明が崩壊した先に、生き残り、最初に『王であり最強の戦士であり、そして賢者である』とされた個体の情報に基づいて作成されたものであるからだ。つまり、この姿が人族およびそれに類似する生物の最新版ということである」


「リセットされて古代に戻ってんだよそれはっ! 時間的に先へ進んだから存在としても進んでいるってわけじゃねぇんだ、わかるか……と質問をするとまた面倒なことになるからな、まぁお前等の認識は間違いだということだけ伝えておこう」


「その情報を『人族に関する有益な報告1』として受け付けた、今後比較検討し、この世界の人族を滅ぼすために役立てる」


「やべぇ、質問ではなかったが余計なことを言ってしまったようだな……」


「ツッコミも厳禁みたいね、とにかくこちらからは何も与えることなしに、順序立てて効率良く向こうの情報を吐かせましょ」


「あぁ、どこまでベラベラと喋ってくれるのかはわからないがな」



 何を勘違いしたのであろうか、いやそこまで深く思考していないというか、物体は時間の流れと、一般的にはその経過に伴って生物が繫栄していく可能性が高いという点だけを考慮してこのような姿になったのであろう。


 良く言われることだが、破滅的な何かによって高度な文明が崩壊した後は、また槍を持った原始人のおっさんが暴れ回る時代からやり直しだと、その時点における最新兵器は棍棒や石槍なのだと、そういうものを反映したような姿が今の物体ということ。


 うっかりその間違いを指摘してしまったため、また再考されてしまうことであろうが、とにかくこのようなミス、普通に考えれば防ぐことが出来るような誤りを、気付かずにそのまま放置してしまうというのが、新たに見えてきた物体の弱点でもあろう。


 で、そのまま何の脈略もなく話を元に戻し、物体の目的についてを語り始めるそれ……どうやらそうプログラムされたとかそういうことではなく、使用されているうちにそういった行動を取るようになったというのが事実らしい。


 質問の4と5についてはどうでも良いので端折るが、ここでどうしても聞いておきたいことが浮かんできたため、他の仲間に先んじて、俺が最初にまともな代表質問をさせて頂くこととした……



「それで、お前等物体はどこから来たんだ? 魔界で創られたのだとしたら他の、この世界とは全然関係ががない世界を滅ぼしたりしているのはおかしいし、俺が元々住んでいた世界にもあったらしいというのはなおおかしい、魔法圏じゃないような遅れまくった世界だしな、そこんとこどうなんだ?」


「……受け付けた……物体はどこかの世界で発生し、神界の一部が分離してこの世界に付属することとなった魔界においては、単に召喚の方法が確立され、悪神によって利用されているのみ、なおその詳細なルーツについてはは情報がない」


「そうか、じゃあ自分達がどこで創られたのかも知らねぇってことだな、かわいそうな奴等め、で、この世界を、というかこの世界の生物を滅ぼして、自分達がそこの住人として魔界に帰属しようと……これで最初の話とかなり近くなったな」


「理解を受けられた、この会話の方法は極めて正しいものに近いと認識する」


「いや、それは俺様が天才的なだけだから、調子に乗るなよ」


「……この場面では……調子に乗っているのは貴様だ、このサル以下のゴミ野郎が……という言葉を発するのがグローバルスタンダードであると認識している」


「ブチ殺すぞテメェオラァァァッ!」



 物体にまでもムカつく言葉を吐かれ、勇者としての俺のプライドはズタズタに……隣で笑い転げているルビアには後で食事抜きの刑でも科しておくこととしよう。


 とにかく物体の目的等、かなり有益な情報をここで得ることが出来て……まだのようだ、今度は精霊様とジェシカが示し合わせたようにして2人で前に出て、俺とは別の質問事項を投げ掛ける……



「あんた達、ここで何をしていたのか答えられるかしら? 城を造って王都を侵略……その辺りはわかっているんだけど、もしかして物体同士で、人間と同じようなコミュニケーションを取るための実験でもしていた?」


「……我々はこの世界の人族という生物、およびそれに類するその他の世界の同等の生物と同じく、軍を形成して敵を殲滅する、軍には指揮官というものがあり、その下には数多の兵が、それぞれ指揮官の命令によって体系的に動くことで機能している。この軍というものを我々は完成させ、そしてこの世界の人族という生物を駆逐するのが目下の行動となっている」


「それ、いつ頃になったら完成するわけ?」


「太陽という恒星があと10程度入れ替わる頃……だが計画は修正された、何者かの攻撃によって、軍の拠点がひとつ破壊されてしまったのである。数多の世界で物体が成し遂げたその世界の制圧を、調査研究のうえで模倣したこの方法が破綻しかけているのだ。もっとも、この世界の人族という生物は馬鹿でアホなので、唯一それに対抗すべきグレート変形合体ロボを起動することが出来ない、本当に頭が悪い奴が操縦を試みていたとしか思えない減少であげろぱっ!」


「あ、潰しちゃダメじゃないか精霊様! ほら、もうこんなに飛び散って……馬鹿とか言われてちょっとムカついた?」


「死ね死ね死ね死ね死ね死ねっ! 死になさいこのゴミクズがっ!」


「ご主人様、精霊様は超怒っているので離れた方が良いと思います」


「だな、全員1歩……いや30歩ぐらい後退!」



 俺達人族サイドが変形合体ロボの起動に失敗したということも、物体共は情報として蓄えていたらしい。

 だがその起動に失敗した操縦士が、怒らせると何をするかわからないタイプの馬鹿であることは、まだその中には含まれていなかったらしい。


 結局暴れ回った精霊様によって物体軍団は完全に崩壊して消失、調べるまでもなく明らかな状態で、確実にこの世から全て消え去ったのである。


 現場の地面に空いた巨大なクレーターがその攻撃のすさまじさを物語るのだが、これではもうこの場所に物体城を再建するのは難しいであろうな。


 いくつも持って来ていた時空を歪めるコーティングの武器をほとんど使い果たし、そのまだ機能を有している残骸や破片がそこかしこに飛び散り、小さな物体など触れただけで消滅してしまいそうな勢いなのだ……



「……ふっっ、冷静に対処して全ての物体を消し去ったわ、今回は私の活躍で作戦が成功したわね、極めて有能な私の活躍でっ!」


「はいはい有能有能、これで変形合体ロボを起動させることが出来たら超有能なんだが……いや頼むから殴るなよその攻撃力8万と5,000のハンマーで……マジで……ギョェェェェッ!」



 結局俺は始末されてしまったのだが、馬鹿で有能な精霊様の活躍によってどうにか今回の作戦は成功に終わった。

 なお俺は葬儀屋が呼ばれる前に蘇生し、元の状態に戻ったため、火葬場などは直ちにキャンセルされて事なきを得たところまでがセットだ。


 で、今回の件で物体から得た情報は、かなり有力なものであるとして王都へ持ち帰られ、その内容の更なる分析、というか比較的不毛な意見の出し合いが行われることとなった。


 通常の敵キャラやその集合体などであれば、こう易々と重要な秘密に繋がりかねない、また自分体が有利になることがないトークを演じることはなかったであろう。


 それが物体においては、特にそういう感覚を有していないため簡単に話をしてしまい、その弱点のヒントをさらけ出してしまうこともあるということがわかる作戦であったな。


 もちろん、その秘匿すべき事項を簡単に喋ってしまうということ自体が、ここまで高度に変化、いや進化した物体の弱点そのものともなてちるということに、奴等はまだ気が付いていない。


 しかし元々の予定がおよそ10日後であって、そして今回の作戦が成功したことによってそれがさらに遅れるということか。


 であれば、まだ変形合体ロボを本格的に起動したり、歩くことは出来ないまでも魔法の力で回転させて、全方位を射程に収める固定砲台にしたりと、やれることはかなり多いのではないかと思う。


 結局そこは話し合いになるのだが、とにかくまだ可能であると考えることにつき疑問がなくなった勝利に向かって、少しでも早く体裁を整えるようにするのだ……



「……ということなんだが、結局何だったんだろうなあの物体共は?」


「さぁね、でも私見たような気がするのよ、最初に攻撃したときに、穴が出来た物体城の中で何かこう……作戦会議? みたいなことをしているの」


「作戦会議って、物体がか?」


「そう、物体がよ」


「なるほどな、だがあの状態まで発展した物体であればその程度のこと……いや、でもおかしいよな、物体同士のコミュニケーションなら、別にそこで人間の真似なんぞする必要がないのに」


「あ、そこが引っ掛かっていたのかも、何だか不気味ねぇ……」



 セラだけが上空から見た『物体の作戦会議』、本当にそうなのかどうかはわからないが、物体が物体らしくない動きを、もしかしたら俺達が見ていないような、その正体を隠す必要がないような場所でもしているのではないかと、そんな疑問も生じた物体城攻略作戦の日であった……

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