1062 絡み合う原因
「お~いっ、有識者を連れて来たぞ~っ、変形合体ロボが動かない原因を調べてくれるってさ~っ」
「おぉっ、勇者がもう戻って来よった……って何なんじゃその真冬のような格好をした変質者はっ?」
「コイツ? 有識者の方だよ、寒がりであと顔出しもNGらしいんだ、まぁ凄く知識が深い奴だからな、基本的にどっかおかしいんだよ、普通の奴とは違ってな」
「それなら構わぬが、有識者よ、おぬしはどこから来たどこの賢者だというのじゃ?」
「・・・・・・・・・・」
「答えぬというのか、まぁ、それもまた良かろう……ところでこの変形合体ロボの調子を早く見るのじゃよ、始めからウンともスンとも言わんでな」
「・・・・・・・・・・」
「気味の悪い奴じゃのう……」
まさかコレが魔界のものとはいえ神であると、この場に集っている矮小な人族の皆さんには察しようがないであろう。
もちろん『不気味なのはちょっとやべぇ感じの知識人だから』という理由は信じられ易く、ここで見る限りでは研究所の新室長もそこそこアレだし、ブラウン師に至ってはもう変どころか人間でないレベルなのだ。
その中にこの真夏に厚着をして、顔を隠した状態で現れた有識者に対しては、特に何も追求などなされることなく、普通に原因の調査が依頼されたのである。
で、魔界の神は黙ってその依頼を受け入れ、まずは本当に俺達の変形合体ロボに不具合がないのか、確認したとはいえ、それが不足していたのではないかということを再確認している様子。
だが見た目にも、そして内部の機構にも、特に問題などないということはすぐに見てわかったらしく、もっとディープな、人族如きにはわかりようもない部分について調べているらしい……
「……どうだ? 何かわかったのなら早く教えろ」
「……ふむ、これは動かないわけだな、造りがどうのこうのとか、配線がどうのこうのの話ではない、根本的な制約をいくつも受けてしまっているようだ」
「根本的な制約って、もしかしてこの世界では変形合体ロボを造ることが出来ないとか、そんな夢のない話なのか?」
「だとしたら終わりよね、物体城と戦うためにはこのロボが起動するしかないというのに、サッサとお金持って避難しましょ、はい解散」
「いやちょっと待て精霊様、いきなり逃げようとしてんじゃねぇよ、金銭だけじゃなくてもうちょっと必要なものを掻き集めてからだな」
「ご主人様も精霊様も、この世界がなくなったらお金なんて無意味ですわよ、それよりも今は神……有識者様の意見を聞かなくてはなりませんわ」
「っとそうだな、役には立ちそうもないが、そのいくつもの制約? だか何だかってのを具体的に聞かせて欲しい、何がどうなっているのかわかり易くな」
「うむ、この件について説明するのはかなり難しくてな、というかこの場所に集まっている知能の低い、そして程度の低い存在は、我が話を全て聞いた際、情報量が多すぎるうえに理解に至らない内容が多すぎて、きっと頭がボンッみたいになって死ぬであろう、では話していくとするか」
「ちょっとまっ! 頭ボンッてなる話を『本当に話しますか?』みたいな同意事項もなしに始めるんじゃないっ!」
「というか、少し噛み砕いて普通の人間にもわかるように話しなさい、頭がボンッてなった仲間を片付けるのは面倒だし、蘇生してもちょっとどうにかなっている可能性があるもの」
「そうか、では……サルでもわかるレベルに落として説明することとしよう、依然としてそこの異世界人は頭がボンッする程度の内容だと思うがな」
「何で俺だけそうなるんだよ……まぁ良いや、時間もないしとっとと始めろ」
頭がボンッするのは恐怖であるが、そうなりそうな予感がしたら耳を塞ぐなり、大声を上げて聞こえないようにすればどうにかなる、きっと助かるはずだ。
ということで魔界の神による、俺達の変形合体ロボが受けている『制約』についての説明が始まった……のだが、サルにもわかるということにつきサル語で話し始めたため、一度中断させてそうではない旨を伝えた。
で、改めて始まった魔界の神によるこの世界の、いや他の世界でもそうであることがあるのかも知れないが、とにかく変形合体ロボを縛り付ける話は……難しい話であって良くわからないものだ。
だが表現の内容が一般的ではないというだけであって、その内容に関しては普通のものだと悟った俺は、普段使われるような言葉で、もう一度説明して欲しいと願い出る……
「……あのな、最低限までレベルを落として言ってやるがな、まずそのコレだっ、股間に装着されているコレは何なんだっ? 煙突なのはわかるぞ、だが何をモチーフにしたモノだというんだ一体?」
「いや、俺に聞かれても知らんし……というかそもそもだ、俺はこの形状につき当初から反対の意思を表明していてだな……」
「ウソばっかこいてんじゃねぇぇぇっ! ぜってぇお前だろぉがっ! お前みたいな低能で低俗な奴が喜びそうなフォルムなんだよ実際! お前、どう考えてもふざけて設計しただろアレ? あぁんっ?」
「だから俺じゃねぇって、コイツとかコイツだよ、ほら、いかにもやりそうな顔してんだろこの女とか、ちなみにこの精霊様も犯人だぞ」
「えっ? お前みたいなのが他にも……ってこの人族臭っせぇぞ!? おいこのゴミ! 風呂とか入ってる普段?」
「もう前世から入っていない気がするぞい」
「死ねやボケェェェッ! 来世でも死ねっ! 生まれ変わったら直ちに死んで償えこのゴミがっ……で、こっちの女は……立ったまま寝ているのか、器用な奴だな」
「というわけでだ、このあり得ないモノが変形合体ロボに付いているのは俺のせいじゃない、わかったか?」
「わかるかってんだよそんなもんっ! だったらお前アレだ、もう踏み絵だよお前、あのブツを破壊して来い……と、秒で行きやがったか、確かに自身がプライドを持って設計したわけではないようだな」
「当たり前だっつぅの、誰がこんなもん装備するかよ夢の変形合体ロボにさ……」
ということで、極めて不快であった股間のあの部分に装備された、どこかから持って来た銭湯の煙突はポッキリと折れ、その部分の風通しは大変に良くなった。
グレート超合金がまだ余っているため、やはり当初の計画通り重点的に補強することとしよう、ただしモッコリしない程度にだ。
しかしコレによって、こんな薄汚い形状であったことによって制約を受けていて、そのせいで全体が動かなかったというのか。
だとしたら制約としてはキツすぎであり、そのルールを定めた変形合体ロボの神……魔界には居らず、きっと神界に居るのであろうが、見つけ出して胸ぐらを掴んで恫喝してやりたいところだな。
それでだ、この状態が解消されたことによって、いよいよ変形合体ロボが実際に起動するときが訪れ……るわけではないのか、他の部分にもまだ問題があるらしい、そしてそれを全て解消しなくてはならないということらしい……
「それで、他にはどこがNGなんだ? 具体的かつわかり易いように説明しろ」
「うむ、まずそのコクピット、お前どうなってんだよそれ、普通に考えておかしいだろうが」
「どうなっているかって、そりゃ中を見ろよ、ちゃんとそれっぽい座席がセットされてんだろ? そのぐらい見てわからんのか、馬鹿だろう普通に」
「そうじゃねぇよ、中はどうでも良いしシートベルトがないぐらいしかおかしい所はないがな、その外観をどうにかしろってんだ、プレハブじゃねぇかその、何というか全体的に見て……」
「これしかなかったんだよ、プレハブだって良いだろう? 基本的に建物なんだからさ」
「そんな土地に定着していないようなものが建物だと? おかしいだろそこんとこ、もっとしっかり基礎とか造ってだな……と、そっちの人族も頷いてんぞ」
「……登記官もそう思うってのか?」
「まぁ、この変形合体ロボは全て建物を利用したものですから、それとは異質な、建物とは認められないものが混入していたのはあまり良くなかったのでしょう、その有識者の方が仰る通りだと思います」
「ちっ、じゃあプレハブ城の方もグレート超合金の基礎で固めないとだな……」
仕方ないのでその作業を、一般的な作業員として集まっていたモブキャラに命じておく。
謎の鉱石で出来たナイフがあるため、作業の方は簡単に、あっという間に終わった。
あとはそのグレート超合金のプレートによって重くなった分、コクピットであるプレハブ城が飛行するための力を増して、これでようやく完成である。
念のため実験しておこう、もしかしたら調整をミスっていて、グレート超合金プレートで補強されたプレハブ城が、変形合体ロボのあらぬ部分とぶつかって大変なことになるかも知れないからな……
「よしっ、じゃあ空っぽだけどコクピット搭載! いっけぇぇぇっ!」
「……飛んで行ったが・・・…高さが足りな……どっから入ってんだこのボケェェェッ!」
「いやそれも俺じゃねぇし、最初からそういう仕様だったんだってば」
「どこをどう誤ったら変形合体ロボのケツ穴にコクピットが挿入される仕様になるんだっ? ちょっと考えておかしいとか思わなかったのか? それともお前の頭がそもそもおかしいのか? あんっ?」
「いやだから俺に言われても……」
キレる魔界の神、やかましくて仕方ないのだが、どう考えてもこれが普通の反応であると考えて良い。
むしろ俺がこういう状況に寛容すぎたのであろう、確かにコクピットがケツ穴から挿入されるのは、変形合体ロボとして極めて稀……どころかあってはならない事態だ。
ということでそこについても直ちに修正をしておく、コクピットはそんな場所ではなく、屋上部分に設置された頭のような場所から入り、そのまま下へ移動して胸付近を……
今度は魔界の神が頭を抱えて黙り込んでしまった、遠巻きからコクピット収納部分の様子を見て、そこに『発砲ポリスチレン造平家建』のおっぱいがふたつ、当たり前のように配置されていることに気付いてしまったようである。
これも俺が当初から良くないと主張していたことなのだが……やはり俺のせいにされてしまったではないか。
やったのは俺ではなく、それ以外の馬鹿共であるというのに、どうして日頃の行いも悪くない俺がそういう目に遭わなくてはならないのだと、実に不満な顔をしつつ、それの取り外し作業に従事させられた。
そして様々な『よろしくないモノ』が取り外された変形合体ロボは、多少建物感が凄くはあるものの、それでも比較的真っ当な、変形合体して悪を打ち滅ぼしそうな見た目にはなった……ようには思えるが、それはセンスの問題なので俺は知らない。
とにかくこれであれば特に制約を受けることなく稼動し、ようやく物体との戦いに臨むための準備が整ったということか。
魔界の神も有識者として『これで大丈夫なはずだ』と主張したため、早速全員でコクピットに乗り込み、ついでに一度バラバラの建物群の状態に戻した後に、改めてトランスフォームからやってみることとした。
その分裂する動きには魔界の神もご満悦の様子で、ぶつからないような正確な動きに関しては、低俗な存在の癖になかなかやるではないかと感心していたぐらいだ。
もちろんコイツは何も知らない、俺達がこれをやってのけたと思い込んで、それでそんな反応をしているのだが、実際にはそうでないことはナイショである。
新室長が死刑に処すべきであった汚職役人共を改造人族として利用し、全身に測定機械および器械を兼ね備えた『測る君』が、全ての計算をやってのけたのだから……
とまぁ、その話はどうでも良いとして、ここでもう一度変形合体ロボを組み上げるための準備が整った。
コクピット内に居た俺達は、周囲の安全を適当に確認した後、セラが代表してデバイスのボタンを押下する。
飛び上がる家々、最後に発射され、今度は最上部まで飛んだ後に、屋上から内部へ取り込まれていく俺達のプレハブ城。
完璧すぎる動きを経て、胸部の窓から外がキッチリと見えるのも確認し、いよいよメイン操縦席の精霊様が操作のためのレバーを握る。
コレで要約記念すべき第一歩なのだ、最初のときと同様皆でその周辺に集まって注目し、今度も全く反応しない、ウンともスンとも言わないのを見て押し黙った……一度地上に戻ろう、そして魔界の神をグーで殴ろう……
※※※
「おいテメェどうなってんだオラァァァッ! ちっとも動きやしねぇじゃねぇかぁぁぁっ!」
「詐欺よ詐欺! お金返しなさいよっ!」
「いやそもそも金銭を受領した覚えはないのだが、というか何だ? 我にわかる部分についてはもう見尽くした、これ以上は……」
「これ以上は神の領域……ということなのじゃな?」
「え? あ、まぁそう……なんじゃねぇの? 知らんけど」
「なんと情けない奴なんだ……」
これ以上が『神の領域』であるとして、もう諦めたような口調でそう言葉を発したババァ総務大臣に対し、『リアル神』である魔界の神は困ってしまった様子だ。
神の領域であればその神がどうにかするのが通常であるが、口先ばかりで何の役にも立たないこの腐り切った魔界の神には、それをどうすることも出来ないというのが現状なのである。
しかしここまでくると何が問題なのかと……精霊様が何かに気付いたような顔をしているな、もしかしたらこれは神にもわからないような要因を発見したのかも知れない……
「どうした精霊様、何か引っ掛かっているところがあるようだが?」
「う~ん、さっき動かなかったじゃないこの変形合体ロボ? でもね、もうちょっとでどうにかなりそうな感じのところ、最後の最後でストップが入ったような、そんな感じだったのよね」
「それはつまり改善はされているということだ、我が施した修正によって、我が関与することが可能な部分についてはもうどうにかなった、つまりは……」
「この世界特有の要因があるってことなのか? だとしたら魔法の何かとか、あとは何だ? 法律とか王都の条令とか、そういうものに引っ掛かっているんじゃないのか?」
魔界の神にとって一切関係ない、この世界のこの地上においてのみ効果を発するものはそのぐらいのもの、つまり人族が勝手に決めたようなルールである。
だが既に法や条例の改正はスピード可決され、王都においては『建物を利用した変形合体ロボについては、これを法律上認められた決戦兵器とする』などの条文が組み込まれているのだ。
となるとおかしなところは何ひとつない、これは間課員神の思い過ごしであって、原因は何か別の所にあるのではなかろうか。
例えばブラウン師が臭すぎて変形合体ロボの魔力の流れに影響を与えているとか、勇者様たるこの俺様のオーラが強すぎて、変形合体ロボがビビッてしまっているとかだ。
そのようなことにつき、調査を進めていけばどうにかなるかも知れないのだが、それには時間が掛かりそうだな。
その前に物体が先手を打ってきたらもうそれでアウトなわけだし、この世界は物体侵攻における『失敗例』として、消えてなくなった後も語り継がれることであろう。
とはいえ、ここで何も足掻こうとしないというのはNG……まぁ俺にとってはでなく、元々この世界にしか生きられない連中にとってはなのだが、とにかくこのまま諦めるわけにはいかない。
もう一度必死になって変形合体ロボを調べ、どこかに不具合がないかなどを見ているのだが、もう何度も繰り返し調べてこれなのだ、そのもの自体にどこかおかしい所が見つかるはずがないのである。
ゆえに俺達は別のアプローチでいかなくてはならないのだが……ここで先程少し話に入っただけの登記官が、何やらいつも精霊様が『引っ掛かる』ときのような表情をしているではないか……
「……うむ、この変形合体ロボは元々別個の建物で……それが合体してこの姿になっているということか……つまりそれぞれ状況が違って……なるほど、大臣、私は少し仕事場に戻りますゆえ、しばらくお待ち下さい」
「何じゃ? 原因が見つかったというのか?」
「おいお前、1人だけこの世界から脱出しようとしてやがんな? 逃げたらブチ殺すぞマジで」
「そうではありませんが、少し可能性の話で……あ、これはどうも」
「おうっ、やっぱり俺達のスピードが必要であったようだな、法務局にあった全ての書類を書き写して持ち出して来たぞ」
『・・・・・・・・・・』
頼んだわけでもないし、そもそもどこにその書類が保管してあるのかも伝えていないのに、そして膨大な資料を手書きで書き写して来たというのに、ゴンザレスが仕事を終えたのは登記官の発言からおよそ10秒後であった。
まぁ、話が早くて非常に助かるのだが、その状況を当たり前のものとして受け入れ、手渡された資料の確認を始める登記官はそこそこバグッていると思う。
で、そんな資料の束に目を通しつつ、そこそこバグッた登記官は……なぜか頷き始めた、そして確実に原因がわかったかのような顔をして、紙の束をバサッと隣のテーブルに置く……
「……やはりそうでした、この建物はどれもこれもその状況がバラバラの状態で掻き集められて、そしてここで合体をしたものだったのです、このために建てられたわけではないと思うので当然ですが」
「つまり……どういうことなんだ?」
「つまり建物の現況と登記記録がマッチしていない、それでは動くものも動きませんよ、いくら変形合体ロボとはいえ、建物は建物ですから……なおこの場合ですが、すぐに『合体後の建物の表題登記及び合体前の建物の表題部の登記の抹消並びに所有権の保存の登記』をしなくてはならないのですっ!」
『登記の目的が長いんだよっ!』
法律上おかしなところはもうそれ以外に存在しないのではないかと述べる登記官、わけがわからないのだが、これを修正しない限りはまだまだ変形合体ロボは動かないであろう……そして他にもまだありそうな気がするのだが……




