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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1059 暫定的な完成

「え~っと、この建物は32番地3だから……この向きで飛んで、ここで分棟して両サイドの……肘になるのか、結構難しいな」


「まるでパズルのようです、これではどこかひとつぐらい間違えて、そのせいでぶつかり合いの連鎖が起こったりとかしても不思議ではありませんよ」


「それをやってしまったら大惨事よ、1ヵ所アレになれば連鎖的にいろんな所が逝くから、きっと変形合体は完全な失敗に終わってしまうわね、建物もほとんどが全損するわ」


「やべぇなそれ、保険とか効くのか?」


「そもそも入っていないわよ、そんなものに期待するよりは、ここで真面目にやって事故が起こらないようにした方が良いわ、ほら、そこちょっとズレているわよ」


「精霊様、いつになくやる気が凄いわね、こういうの相当に好きなんでしょうけど」


「空回りして余計な悲劇を招かないと良いんだがな……あ、いや何でもないぞ、ここをこうするんだったな……やべっ、何かぶっ壊れた」



 やる気満々の精霊様に付き合わされるかたちで、俺達は飛行する邸宅の、その角度や発射タイミングの調整に入っていた。


 なかなか難しいが、全て指定されている通りにやれば良いだけであるので、ものを間違えたり調整すべき数字を見誤ったりと、そのようなことさえしなければ完璧になるはずのところ。


 弾き出された数字の制度については疑義がない、前進が計測装置になっている改造人族の『測る君』を大量に投入して、様々な角度から測量等したものであるからだ。


 それはもう、どんな生物がどのような能力で把握するよりも精度の高いものとなっているであろう。

 つまりこれ以上の完璧はないのであって、俺達はこの数値に従ってやっていくべきところなのである。


 建物を間違えることのないよう、必ず所在を確認したうえで作業に入り、それが完了した後にはもう一度、改めてその建物で間違いないかを確認するなど、かなり慎重な作業だ。


 何となくだが、体育館などで巨大なドミノを完成させるべく、皆で協力してその作成作業をしているような感じに囚われるな。


 通常、こういう作業においてはそろそろ、ルビアのような極めて鈍臭い奴が……まぁ、ドミノと違ってモノが大きいわけだし、そうそう何かやらかすようなこともないであろう……



「ご主人様……」


「どうしたルビア?」


「ちょっとうっかりしていて、こことここが逆でこことここは全然違うパーツで、あとそことそこがもう何も関係ない作業をしていました」


「……これまでにやった中で正解だった作業は?」


「う~ん、ひとつもありませんね、残念」


「・・・・・・・・・・」



 予想以上の無能さであったルビアだが、そもそもコイツにこんな慎重さを要する作業をさせたのが間違いであった。

 精霊様にバレる前に離脱させよう、直ちにその手を牽いてその場から離れようとしたのだが……ダメだ、もうバレてしまっているらしい。


 大量の間違いを発見した精霊様によって、すぐに犯人であると見破られて囚われたルビアは、メインの作業からは外され、鞭でシバき倒されながら資材を運ぶ係に回されてしまったようだ。


 炎天下の中、どういうわけか足に鉄球を装備させられ、無駄に重そうな資材の入ったリヤカーを牽かされるルビア。

 すぐにへばってダメになってしまいそうだが、そのときには『介抱する』という名目で俺もサボることとしよう。


 とにかく、集中力の続く限り作業を進め、それにつき絶対に間違えるようなことをしてはならない。

 ルビアと同じような目に遭わないためにも、この巨大ドミノ……ではなく巨大変形合体ロボを台無しにしないためにも。



「……あの、精霊様、もうちょっとそろそろ疲れたんですが……休憩にしませんか?」


「何を言っているのかしらマリエルちゃんは? 休憩ならちょうど良い場所があるわよ、ほら、ルビアちゃんの隣、なかなかハードな休憩になると思うけど、いかがかしら?」


「それを休憩とは言わないような……でもホントにこれ以上続けたら……倒れて」


「あ、マリエルちゃんが倒れたわよ、ちょっと大丈夫? 救護所とか行く?」


「そんなもん作ってねぇよ、てか普通に暑すぎだ、こんなんじゃ致命的なミスが出るのも時間の問題だぞ、精霊様、さすがに休憩しないとやべぇと思うんだが……そのつもりはないと」


「当然のことよ、ほら、そこもサボってないで頑張りなさいっ!」


「あづい~っ……」



 完全に周りが見えなくなり、ひたすらに作業への没頭を指示する精霊様、カレンなどはもう半分溶けて液体になってしまっているような、そんな感じで作業場に転がっている。


 そもそもどうして精霊様はここまで頑張ろうとするのか、それは楽しくなってしまったからであって、決して急がなくてはならないという使命感からなどではない。


 このままだとミスを誘い、物体との戦いの前に変形合体ロボを失ってしまう、というか獲得する前にダメにしてしまうのは確実。


 どうにかして精霊様の暴走を止めなくては……隣でセラが倒れた、熱中症で意識を……いや、倒れたフリだけのようだな。

 このようにして全員が『ダメになってしまった』状態を演出すれば、精霊様もストップするということか。


 と、同時にその意味を察したらしいユリナとサリナが、その場でバタバタッと倒れる。

 それを見てジェシカも……日向の、アッツアツの砂利の上にバタンッとして、直後には熱さで飛び起きた、馬鹿なのではなかろうか。


 で、もちろん俺も、気を失ったような雰囲気でその場に崩れ去り、ギリギリのラインを攻めて全身が日陰に入るように倒れ込む、これで精霊様も……黙々と作業を続けているではないか、これはどういうことだ……



「全くしょうがないわね、皆倒れちゃったじゃないの、リリィちゃん、申し訳ないけど資材を運んでちょうだい」


「はーいっ、あ、ご主人様、そんな所に寝ているとそろそろ日向になりますよ」


「・・・・・・・・・・」



 迂闊であった、精霊様がすぐに反応すると見越して、時間帯的にすぐ日が当たってくるような、それでも今現在は日陰であって、自分が倒れるのに自然な場所を選んで倒れ伏したというのに、このままだとガチで日向になる。


 というかリリィの奴、その状況を把握しているのであればその場で、俺を引っ張るなりして完全な日陰に移動してくれれば良かったではないか。


 いや、リリィ如きに何を期待しても無駄だ、俺も先程から似たような場所に倒れているミラのように、精霊様が見ていないタイミングを見計らってジリジリと、わからないぐらいのペースで日陰を目指し続けるしかない。


 上手くすればこのまま、ずっと日陰を移動しつつ、つまり体力を温存したまま日焼けというダメージも回避して、ついでに労働による疲労も受けることなく倒れたフリを続けられるということだ。


 まずはほんの少し、すぐにでも日が当たりそうな腕の部分から動かして……次は全身を移動させて……



「ちょっとあんたっ! そんな所で寝っ転がって、日陰をキープしようとしている暇があるんだったら、普通に起き上がって作業しなさいよねっ!」


「……返事がない、ただの勇者(使用不能)のようだ」


「あっそう、じゃあこの場で屍にしてあげるわ、それと仕事をするのと、どっちが良いか考えて行動しなさい」


「・・・・・・・・・・」



 どうやら俺だけがターゲットに選定されてしまったようだ、このままだとリアルに物言わぬ屍にされかねないため、方針を変更して、起きて苦情を入れていくスタイルに切り替える。


 精霊様はちょっと飛ばしすぎだと、皆付いて行けていないと主張し、とにかく現状の『やりすぎ感』から『ちょうど良い感』に修正していくべきであると主張してみるのだが……やはり折れないか。


 もちろん精霊様自身も少し先を急ぎ過ぎていることについては勘付いているはずなのだが、皆の反発を受けて折れたと思われるのがイヤであるため、頑なに今のペースでの作業を強要していくつもりのようだ。


 こういう奴が最も性質が悪いのは言うまでもなく、もはや皆の限界度合いは極限に達しているというのに、さらに態度を硬化させる精霊様に対しては……もう反乱しかないなこれは……



「ウォォォッ! こうなったら革命じゃぁぁぁっ!」


「頑張って下さい勇者様! 陰ながら応援していますっ!」


「え? 誰も続かないと……あ、スミマセンデシタ、イコウキヲツケマス……ギョエェェェッ!」


「良いから働きなさいっ! あんたがこれまでの10倍働けば、他の子達はちょっとだけ休憩させてあげるわ」


「スミマセンデシターッ! ごげろぽっ……」



 革命には失敗し、ボコボコにされたうえで10倍の労働量を科せられてしまった俺。

 もちろん僅かにでも失敗すればまたボコられるため、慎重に作業を進め、寸分の狂いもない、設計図通りのものを、次から次へと完成させていったのであった……



 ※※※



「……うむ、これで最後ね、結局完成したじゃないの、やれば出来るのよこのぐらいは」


「何だかすべてを犠牲にした感じだけどな……てか俺以外全員、あれからずっと休憩してんじゃねぇかっ!」


「文句を言わないの勇者様は、革命に失敗したのは自分でしょ? そのダメージは本人のみが喰らうものなのよ」


「イマイチどころかガチで解せんな、後に復讐してやる……で、完成したそれぞれの建物についてなんだが……実験とかしてみるのか?」


「そうねぇ、その前にもう一度、本当にミスがないかどうかのチェックもしておきたいところだけど」



 後半はほぼほぼ俺が1人で働かされ、せっせと元気良く物資を運んで来るリリィから受け取ったそれで建物の飛行機能をセットしていた。


 それが完成したわけであるが、最後に精霊様がチェックを掛け、確実に事故が起こらないようなかたちになっているのかということを念入りに確認している。


 同時に別の場所でブラウン師の手伝いをしていたゴンザレスも合流し、万が一のことが起こった場合には被害を最小限にとどめる行動を取るという取り決めをしたうえで、いよいよ変形合体ロボの暫定的な姿を具現化してみることとなった。


 ビルドアップには数分を要することがわかっている今回の変形合体ロボだが、まずはそれが上手くいくかどうか、そしてそこにグレート超合金のプレートを上手く貼り付けることが出来るのかが、この先注視すべき事柄である。


 ここで変形合体に必要となる装置も用意され、そのデバイス様のものにひとつだけ付いた赤いボタンを押すことによって、魔法が時間差で発動しそれによって飛行した建物が空中で合体するだけのシステムが整った……はずだ。



「うん、大丈夫みたいね、これで一旦やってみて、上手くいくかどうかだけ見極めましょ」


「おう勇者殿、これは歴史的な瞬間だぞ、数分間であるが、絶対に瞬きなどしないように注視しておくのだ」


「眼球がカッサカサになって崩れ落ちるわそんなもん、とにかくやってみよう、リリィ、装置のボタンを押して発動させろっ!」


「はいはいっ! ポチッっと……あ、動いた……」



 ゴゴゴゴッと、まずは上部に位置する建物から順番に、地響きを立てながら浮かび上がっていく。

 次いで中間部分のものが、腰部分のものが、腕が脚がと続き、頭の部分が最初に合体を始める。


 幅広い、人間で言えば両肩までに位置する建物に対し、四角い倉庫のような建物がその上部に接続され、まるで屋上に設置された階段室のような見た目に……いや、それよりは少し大きいか、これはやはり頭であると認識して良いであろう。


 そして両肩には、これまた横長の建物が上空で分棟を成し遂げ、それぞれ対照的な形状のまま接続。

 この下にはさらに長屋のような建物が、肘を挟んで4つ、横倒しにはなってしまうが、そのまま合体していく。


 その光景に着目している間に、下部分、つまりかなり低空で動き回っていた変形合体ロボの足部分も完成していた。


 それと、もうひとつ完成していた上半身の部分が、元々この地にあった工場の建物を介して合体し、遂に人間らしい形状を取る。


 人間というよりは、まるで建物だけを無理矢理に組み合わせたわけのわからない非効率的なゴーレムのようなのだが……何か様子がおかしいような気がしなくもない……



「……なぁ精霊様、まだいくつか飛行している建物があるんだが……何だアレは?」


「あの細長いチューブ状のはオリジナル……ってわけじゃないんだけど、銭湯を建て替えて要らなくなったらしい煙突よ」


「なるほど煙突が……股間の部分に装着されやがったっ! 見た目的にアウトだろあんなもん……それと、残りはふたつか、何だあの白くて丸いのは、かまくらか?」


「発泡ポリスチレン造平家建の物置が手に入ったから使ったの、変改合体ロボのおっぱいになるわ」


「もうやめろよなそういうのは、大人なんだからさ……あ、合体した、最低のビジュアルだぜマジで……」



 結局実にくだらないパーツも兼ね備えていた俺達の巨大変形合体ロボ、股間部分にわけのわからない煙突を有し、さらに白いおっぱいまでセットされているという、なんともまぁ残念な……だがサイズ感はあり、同時に強そうでもある。


 しかもバランスに関しては一切の問題がなく、このまま歩かせようと思えばそのように出来るであろうということは、変形合体ロボを造ったことがある者であればだれにでもわかる状態だ。


 だが問題となるのは……どうやって乗り込めば良いのだ? 高さは300m程度であって、俺達であれば軽くジャンプしてその肩に乗るのは容易だが、そんな搭乗方法が本当に許されるのであろうか。


 もっとこう、コクピットの部分が開いてそこに入り込むかたちで何とやらというのを目指したいところであるが……そのためのドッグなどを、これからまた素材を集めて造るのはまず無理なこと。


 足の先にでも梯子を付けて、それを登ってコクピットまで行くか、いやそれはダサすぎるし時間も掛かってしまう、というかそもそもコクピットはどこに存在しているのだこの変形合体ロボは……



「……どこにどうやって乗り込んで操縦するのか、そのことをまるで考えていなかったわね、どうする?」


「さぁな? ブラウン師にでも聞いてみよう……おいっ、ちょっと考えるのを止めずに俺達の質問に答えろ、あのロボ、どうやって乗り込むのが通常の方法なんだ?」


「それは世界によって様々であるぞ、例えば人間大砲で飛んだ搭乗員が上手く肩の部分に着地したりとか、あとは……うむ、プレハブをコクピットに改造して、それを飛ばして内部にインするという方法を取っていた世界が最も多いと、文献にはそう書いてあったぞい」


「プレハブか……何だよ、実にちょうど良いそれがあるじゃねぇか、すぐに取って来ようぜ、俺達のプレハブ城をな」


『うぇ~いっ』



 俺達はプレハブを持っている、それは王都の外にあって、実は領地の天守閣でもあった最強の城なのだが……今は魔王城によってその領地の一部を占有され、どちらがメインかと言われれば、どちらだと答えるべきかはもう目に見えている状況。


 そんな中、この作戦にその役立たずのプレハブ城が役立つことになると言われれば、早速それを回収しに、王都の外まで巨大な荷馬車を飛ばすしかない。


 すぐに北門から出て、跋扈している物体を適当に討伐したりもしつつ……かなりその数を増やしているようだが、いよいよその本格的な侵攻が間近であるということか、最初から人間の形を取り、フルカラーで蠢いているものもあったぐらいだ。


 で、それはともかくとしてプレハブ城の方を回収し、そのままの勢いでUターンして元の場所へ。

 ロープを解いて荷台からそれを降ろし、ササッと『空飛ぶ機構』を組み込んでおく……



「おいブラウン師、このプレハブをコクピットに改造すれば良いのか? これを飛ばして良い感じにインするようになれば、それでフレームの方は完成ってことで良いのか?」


「そうなるぞい、中のインテリア等にも気を遣って、可能な限りそれっぽくするのだぞ、それから……」


「お前如きに言われなくてもそのぐらいわかっている、もうその話は済んだから、サッサとグレート超合金プレートの方に戻れ、今日中に仕上げないとリアルにブチ殺すからな」


「・・・・・・・・・・」



 ブラウン師の方はそこそこ難航しているようだが、俺は殺すと言ったら殺す、たとえそれが有用なションベン仙人であったとしてもだ。


 そのことを踏まえて、もうすぐやってくる日没までに外壁の強化、つまりグレート超合金プレート防御板の完成を目指して欲しいところだが、はてさてどうなることやらといったところである。


 で、もうひとつやるべきことが増えたのだが、それは俺達のプレハブ城を、今は営業出来ていない、王都北のドライブスルー専門店の従業員が、勝手に休憩所に仕立て上げていたこの城を、いかに変形合体ロボのコクピットらしくするのかということを考え、実現させる作業だ。


 イメージとしてはそこそこ簡単なのだが、俺の考えているものと、それからこの世界におけるそれぞれの種族が考えている『変形合体ロボのコクピット』は、微妙にその内容が違う可能性もある。


 どこの世界でも一般的に空想されているであろうその巨大な夢の決戦兵器について、それぞれがそれぞれで納得するような、ぶつかり合った意見の折衷案を採用するようなかたちで組んでいかなくてはならない。


 なお、早速ゴンザレスが主張している『操縦席が便器なので効率的』というのは却下した、確かにそうではあるが、あまりにもダサくて臭いのはアウトであると、ここで皆に知っておいて貰わなくては。


 で、そんな感じで色々と意見を出し合い、それが煮詰まってきたところで、そろそろ組み始めてみようと……その前にこだわりの素材を調達するところか。


 まぁ、夕方までに戻ることとして、プレートの件と同時にこちらが仕上がるように動いていくこととしよう……

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